(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーが、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の焼成食品生地。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の焼成食品生地(例、パン生地)は、米粉を含む穀粉と、セルロースナノファイバーと、パン酵母とを含有する。本発明の焼成食品生地であって発酵させた生地を焼成することにより、焼成食品(例、パン)を製造することができる。
【0009】
<米粉>
本発明の焼成食品生地(例、パン生地)は、米粉を含む穀粉を含む。穀粉の少なくとも一部が米粉であればよく、穀粉のすべてが米粉であってもよい。米粉の含有量の下限は特に限定はないが、米特有のもちもちとした食感を得るには、米粉の含有量の下限は、全穀粉重量に対し10重量%以上であることが好ましい。本発明の焼成食品生地が、米粉以外の穀粉を含む場合、米粉以外の穀粉としては、例えば小麦粉(例、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉、ホワイトソルガム粉、ひえ粉、あわ粉、きび粉、オーツ粉、タピオカ粉、上新粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いてよい。本発明では、小麦アレルギーを抑制する観点から、小麦製品を使用しないことが好ましく、また近年、大麦やライ麦などに含まれている、小麦グルテンと似た構造のタンパク質からアレルギー反応が発生したとの報告があることから、麦製品全般を使用しないことがより好ましい。
【0010】
本発明の焼成食品生地に含まれる米粉は、通常、粳米の生米を精米し粉砕して、粉末としたものである。粳米としては、例えば、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米が挙げられる。粉砕するための米としては、例えば、精白米、玄米、屑米、古米が挙げられる。製粉方法は、特に限定されず、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉、ピンミル製粉など、従来公知の方法を使用してよい。粉砕後の粒度は、特に限定はなく、通常、一般に市販される上新粉の粒度程度である。
これら通常の米粉に加え、粳米あるいはもち米に対して炊飯や機械的処理を行うことにより、粳米あるいはもち米に含有されるデンプンを非晶化すると共に、粉砕して粉末状にした、いわゆるアルファ化米粉を併用することもできる。
【0011】
<セルロースナノファイバー>
本発明におけるセルロースナノファイバーは、未変性セルロースまたは化学変性セルロースの微細繊維である。セルロースナノファイバーは、通常平均繊維径が3〜500nm程度であり、好ましくは3nm以上500nm以下である。また、本発明におけるセルロースナノファイバーは、平均アスペクト比が通常50以上である。アスペクト比の上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。
【0012】
セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長の測定は、例えば、セルロースナノファイバーの0.001重量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出することができる。また、平均アスペクト比は下記の式により算出することができる:
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0013】
本発明におけるセルロースナノファイバーは、セルロース原料を解繊すること、セルロース原料を化学変性した後に解繊すること、または、セルロース原料を解繊した後に化学変性することにより得ることができる。本発明におけるセルロースナノファイバーとして、公知の方法により製造されたセルロースナノファイバーを用いることができ、また市販品を用いてもよい。
【0014】
<セルロース原料>
本発明におけるセルロースナノファイバーの原料には特に限定はなく、公知のセルロース原料からセルロースナノファイバーを製造することができる。セルロース原料としては、例えば、植物由来の原料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)由来の原料、藻類由来の原料、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))由来の原料、微生物産生物等が挙げられる。本発明のセルロースナノファイバーのセルロース原料はこれらのいずれかであってよく、これらの2種以上の組み合わせであってもよい。本発明におけるセルロースナノファイバーのセルロース原料は、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0015】
本発明に用いられるセルロース原料の数平均繊維径は特に制限されるものではなく、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30〜60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10〜30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナーやビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度にすることが好ましい。
【0016】
<分散>
セルロース原料の解繊処理または変性処理を行う際には、セルロール原料の分散処理を行って、セルロース原料の分散体を調整してもよい。セルロース原料を分散させる分散媒は、セルロース原料が親水性であること、また食品に用いられることから、水であることが好ましい。
【0017】
<変性>
本発明では、繊維を構成するセルロースの少なくとも一部が化学変性されている、化学変性セルロースナノファイバーをセルロースナノファイバーとして用いてよい。本発明の焼成食品生地に含まれるセルロースナノファイバーの全量が、化学変性セルロースナノファイバーであってもよく、一部の量のみが化学変性セルロースナノファイバーであってもよい。
本発明に用いられるセルロースナノファイバーは、変性により、繊維の微細化が十分に進み、均一な繊維長および繊維径が得られ、焼成食品生地に適度な粘弾性を与え、また焼成食品生地を焼成食品とした場合に、良好な気泡の状態、良好な食感を実現するために、好ましくは化学変性セルロースナノファイバーを含み、より好ましくは化学変性セルロースナノファイバーである。
化学変性セルロースナノファイバーを得るための変性方法は特に限定されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、カルボキシメチル化などが挙げられ、酸化、カルボキシメチル化、またはエステル化が好ましい。
【0018】
<酸化>
本発明において、酸化により変性されているセルロースナノファイバー(以下、酸化セルロースナノファイバーともいう。)を用いる場合、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基の量は、酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、下限は、好ましくは、0.5mmol/g以上であり、より好ましくは1.0mmol/g以上であり、さらに好ましくは1.2mmol/g以上である。また、上限は、好ましくは3.0mmol/g以下であり、より好ましくは2.5mmol/g以下であり、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。したがって、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基の量は、酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して0.5mmol/g〜3.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g〜2.5mmol/gがより好ましく、1.2mmol/g〜2.0mmol/gがさらに好ましい。
セルロース原料またはセルロース原料を解繊した後に得られるセルロース繊維(以下、解繊セルロース繊維ともいう。)の酸化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロース原料を酸化により変性することにより得られるセルロース繊維(以下、酸化セルロース繊維ともいう。)または酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.5mmol/g〜3.0mmol/gになるように調整することが好ましい。
【0019】
酸化の方法は特に限定されないが、その例として、N−オキシル化合物、および、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料または解繊セルロース繊維を酸化する方法が挙げられる。この酸化方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0020】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0021】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾重量1gのセルロースに対して、下限は、好ましくは0.01mmol以上であり、より好ましくは0.05mmol以上である。上限は、好ましくは10mmol以下であり、より好ましくは1mmol以下であり、さらに好ましくは0.5mmol以下である。したがって、N−オキシル化合物の使用量は、絶乾重量1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1〜4mmol/L程度が好ましい。
【0022】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属(例えば臭化ナトリウム等)が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択してよい。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾重量1gのセルロースに対して、下限は、好ましくは0.1mmol以上であり、より好ましくは0.5mmol以上である。上限は、好ましくは100mmol以下であり、より好ましくは10mmol以下であり、さらに好ましくは5mmol以下である。したがって、臭化物およびヨウ化物の合計量は、絶乾重量1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0023】
酸化剤としては、特に限定がなく、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷の少ないことから、次亜ハロゲン酸またはその塩が好ましく、次亜塩素酸またはその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがさらに好ましい。酸化剤の使用量は、例えば、絶乾重量1gのセルロースに対して、下限は、好ましくは0.5mmol以上であり、より好ましくは、1mmol以上であり、さらに好ましくは、3mmol以上である。上限は、好ましくは500mmol以下であり、より好ましくは50mmol以下であり、さらに好ましくは25mmol以下であり、最も好ましくは、10mmol以下である。したがって、酸化剤の使用量は、絶乾重量1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。また、酸化剤の使用量は、例えば、N−オキシル化合物1molに対して、下限が好ましくは1mol以上である。上限は好ましくは40mol以下である。したがって、酸化剤の使用量は、N−オキシル化合物1molに対して、好ましくは1〜40mmolである。
【0024】
セルロースの酸化反応時のpH、温度、反応時間などの条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても反応は効率よく進行する。よって、反応温度は、下限が、好ましくは4℃以上であり、より好ましくは15℃以上である。上限は、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。したがって、反応温度は、4〜40℃が好ましく、また15〜30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、下限が、好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上である。上限は、好ましくは12以下であり、より好ましくは11以下である。したがって、反応液のpHは、好ましくは8〜12であり、より好ましくは10〜11程度である。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHが低下する傾向がある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を反応液中に添加して、反応液のpHを上記範囲に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0025】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、下限が、通常は0.5時間以上である。上限は、通常は6時間以下であり、好ましくは4時間以下である。したがって、反応時間は、通常は0.5〜6時間、例えば、好ましくは0.5〜4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で塩(例、塩化ナトリウム)が副生して反応を阻害する場合であっても、効率よく酸化させることができる。
【0026】
カルボキシル化を含む、酸化方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は、通常、オゾンを含む気体とセルロース原料または解繊セルロース繊維とを接触させることにより行われる。
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、下限が、好ましくは50g/m
3以上である。上限が、好ましくは250g/m
3以下であり、より好ましくは220g/m
3以下である。したがって、オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m
3であることが好ましく、50〜220g/m
3であることがより好ましい。
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対するオゾン添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の固形分を100重量%とした際に、下限が、好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上である。上限は、好ましくは30重量%以下である。したがって、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対するオゾン添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の固形分を100重量%とした際に、0.1〜30重量%であることが好ましく、5〜30重量%であることがより好ましい。
オゾン処理温度は、下限が、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは20℃以上である。上限は、好ましくは50℃以下である。したがって、オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。
オゾン処理時間は、特に限定されないが、下限が、通常1分間以上であり、好ましくは30分間以上である。上限は、通常360分間以下である。したがって、オゾン処理時間は、通常1〜360分間程度であり、30〜360分間程度が好ましい。
オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを抑制することができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0027】
オゾン処理後に得られる結果物に対してさらに、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を調製し、溶液中にセルロース原料または解繊セルロース繊維を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0028】
酸化セルロース繊維または酸化セルロースナノファイバーに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間などの酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0029】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロース繊維または酸化セルロースナノファイバーの0.5重量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
【0030】
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース繊維または酸化セルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース繊維または酸化セルロースナノファイバー質量〔g〕。
【0031】
<カルボキシメチル化>
本発明において、カルボキシメチル化により化学変性されているセルロースナノファイバー(以下、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーともいう。)を用いる場合、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度は、下限が、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.10以上であり、さらに好ましくは0.15以上である。上限は、好ましくは0.50以下であり、より好ましくは0.40以下であり、さらに好ましくは0.35以下である。したがって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度は、0.01〜0.50が好ましく、0.10〜0.40がより好ましく、0.15〜0.35がさらに好ましい。
【0032】
セルロース原料または解繊セルロース繊維のカルボキシメチル化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロース原料をカルボキシメチル化により変性することにより得られるセルロース繊維(以下、カルボキシメチル化セルロース繊維ともいう。)またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.50となるように調整することが好ましい。
【0033】
セルロース原料または解繊セルロース繊維のカルボキシメチル化の方法として例えば、発底原料としてのセルロースをマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通常溶媒を用いる。溶媒としては、例えば、水、アルコール(例、低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常下限が60重量%以上であり、通常上限が95重量%以下であり、好ましくは60〜95重量%である。溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、通常3重量倍以上である。また、溶媒の量の上限は特に限定されないが、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、通常20重量倍以下である。したがって、溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、好ましくは3重量倍〜20重量倍である。
【0034】
マーセル化は、通常セルロース原料または解繊セルロース繊維とマーセル化剤とを混合して行う。マーセル化剤としては、例えば、水酸化アルカリ金属(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、下限が通常0.5倍モル以上である。また、上限は通常20倍モル以下である。したがって、マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、好ましくは0.5倍モル〜20倍モルである。
マーセル化の反応温度の下限は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は、通常70℃以下であり、好ましくは60℃以下である。したがって、マーセル化の反応温度は、通常0℃〜70℃であり、好ましくは、10℃〜60℃である。
マーセル化の反応時間の下限は、通常15分間以上であり、好ましくは30分間以上である。下限は、通常8時間以下であり、好ましくは7時間以下である。したがって、マーセル化の反応時間は、通常15分間〜8時間であり、好ましくは、30分間〜7時間である。
【0035】
エーテル化反応は、通常カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に添加して行う。カルボキシメチル化剤としては、例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。
カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、下限が、通常0.05倍モル以上である。上限は、通常10.0倍モル以下である。したがって、カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、通常0.05〜10.0倍モルである。
エーテル化の反応温度は、下限が、通常30℃以上であり、好ましくは40℃以上である。上限は、通常90℃以下であり、好ましくは80℃以下である。したがって、エーテル化の反応温度は、通常30〜90℃であり、好ましくは40〜80℃である。
エーテル化の反応時間は、下限が、通常30分間以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常10時間以下であり、好ましくは4時間以下である。したがって、エーテル化の反応時間は、通常30分間〜10時間であり、好ましくは1時間〜4時間である。
【0036】
カルボキシメチル化セルロース繊維またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法によって得ることができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース塩:例えばNa−CMC)をH−CM化セルロースにする(H−CMC)。3)H−CM化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLでH−CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
【0037】
A=[(100×F’−(0.1NのH
2SO
4)(mL)×F)×0.1]/(H−CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:H−CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH
2SO
4のファクター
【0038】
<エステル化>
セルロース原料または解繊セルロース繊維をエステル化して、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーを得る方法は、特に限定されないが例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法が挙げられる。化合物Aについては後述する。
【0039】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aの粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高まり、且つエステル化効率が高くなることから、セルロース原料または解繊セルロース繊維又はそのスラリーに化合物Aの水溶液を混合する方法が好ましい。
【0040】
化合物Aとしては例えば、リン酸系化合物(例、リン酸、ポリリン酸)、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステル等が挙げられる。化合物Aは、塩の形態でもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またセルロース原料(例、パルプ繊維)のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由から、リン酸系化合物が好ましい。リン酸系化合物は、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。用いられるリン酸系化合物は、1種、あるいは2種以上の組み合わせでもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸のナトリウム塩がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがさらに好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから、エステル化においてはリン酸系化合物の水溶液を用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから、7以下が好ましい。パルプ繊維の加水分解を抑える観点から、pH3〜7がより好ましい。
【0041】
エステル化の方法としては例えば、以下の方法が挙げられる。セルロース原料または解繊セルロース繊維の懸濁液(例えば、固形分濃度0.1〜10重量%)に化合物Aを撹拌しながら添加し、セルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料または解繊セルロース繊維を100重量部とした際に、化合物Aがリン酸系化合物の場合、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。これにより、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの収率をより向上させることができる。上限は、500重量部以下が好ましく、400重量部以下がより好ましい。これにより、化合物Aの使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。従って、0.2〜500重量部が好ましく、1〜400重量部がより好ましい。
【0042】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる際、さらに化合物Bを反応系に加えてもよい。化合物Bを反応系に加える方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリー、化合物Aの水溶液、又はセルロース原料もしくは解繊セルロース繊維と化合物Aのスラリーに、化合物Bを添加する方法が挙げられる。
【0043】
化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示すことが好ましく、塩基性を示す窒素含有化合物がより好ましい。「塩基性を示す」とは通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で化合物Bの水溶液が桃〜赤色を呈すること、または/および化合物Bの水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。アミノ基を有する化合物として例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、2〜1000重量部が好ましく、100〜700重量部がより好ましい。反応温度は0〜95℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1〜600分程度であり、30〜480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを抑制することができ、リン酸エステル化セルロースの収率を向上させることができる。
【0044】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aを反応させた後、通常はエステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液が得られる。エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液は必要に応じて脱水される。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料または解繊セルロース繊維の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100〜170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後100〜170℃で加熱処理することがより好ましい。
【0045】
リン酸エステル化セルロースにおいては、セルロースにリン酸基置換基が導入されており、セルロース同士が電気的に反発する。そのため、リン酸エステル化セルロース繊維は容易にセルロースナノファイバーまで解繊することができる(このようにセルロースナノファイバーとなるまで行う解繊を、ナノ解繊ともいう。)。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。これにより、十分な解繊(例えばナノ解繊)が実施できる。上限は、0.40以下が好ましい。これにより、リン酸エステル化セルロース繊維の膨潤又は溶解を抑制し、セルロースナノファイバーが得られない事態の発生を抑制することができる。従って、0.001〜0.40であることが好ましい。また、リン酸エステル化により変性されているセルロースナノファイバー(リン酸エステル化セルロースナノファイバー)のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。上限は、0.40以下が好ましい。したがって、リン酸エステル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001〜0.40であることが好ましい。
リン酸エステル化セルロース繊維に対して、煮沸後冷水で洗浄する等の洗浄処理がなされることが好ましい。これにより解繊を効率よく行うことができる。
【0046】
<解繊>
解繊は、セルロース原料に対して変性処理を施す前に行ってもよいし、セルロース原料に変性処理を施した後の、化学変性されているセルロース繊維(例、酸化セルロース繊維、カルボキシメチル化セルロース繊維、エステル化セルロース繊維(リン酸エステル化セルロース繊維))に対して行ってもよい。変性により解繊に必要なエネルギーが低減されるため、解繊は、セルロース原料に変性処理を施した後に行うことが好ましい。
【0047】
解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行う場合、それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0048】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの方式の装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の、高圧または超高圧ホモジナイザーがより好ましい。これらの装置は、セルロース原料または化学変性されているセルロース繊維(通常は水分散体)に強力なせん断力を印加することができるので好ましい。
効率よく解繊するために、セルロース原料または化学変性されているセルロース繊維(通常は水分散体)に印加する圧力は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料または化学変性されているセルロース繊維(通常は水分散体)に上記圧力を印加することができかつ強力なせん断力を印加できるので、湿式の、高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0049】
また、解繊(好ましくは高圧ホモジナイザーでの解繊)、または必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立って、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化、分散が挙げられ、公知の装置(例、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。
【0050】
解繊をセルロース原料または化学変性されているセルロース繊維の分散体(通常は水分散体)に対して行う場合、分散体中のセルロース原料または化学変性されているセルロース繊維としての固形分濃度は、下限は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、処理するセルロース原料または化学変性されているセルロース繊維の量に対して液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下であり、好ましくは6重量%以下である。これにより、流動性を保持することができる。
【0051】
<セルロースナノファイバーの含有量>
焼成食品生地におけるセルロースナノファイバーの含有量(絶乾重量の百分率)は、米粉を含む穀粉の絶乾総重量に対し、下限が好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.10重量%以上であり、さらに好ましくは0.15重量%以上である。上限は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%未満であり、さらにより好ましくは、0.5重量%以下である。0.05重量%以上であると十分な効果が得られ、10重量%以下であると、食感により優れる。したがって、焼成食品生地におけるセルロースナノファイバーの含有量(絶乾重量の百分率)は、好ましくは、0.05〜10重量%であり、より好ましくは0.10〜5重量%であり、さらに好ましくは0.15重量%以上1重量%未満であり、さらにより好ましくは、0.15重量%〜0.5重量%である。
【0052】
<形態>
本発明において、米粉を含む穀粉、パン酵母、およびセルロースナノファイバーを混合する際における、セルロースナノファイバーの形態は特に限定されるものではなく、例えば、セルロースナノファイバーの分散液、該分散液の乾燥固形物、該分散液の湿潤固形物、セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合液、該混合液の乾燥固形物、該混合液の湿潤固形物、その他公知の形態のセルロースナノファイバーが挙げられる。ここで、湿潤固形物とは、分散液または混合液と、乾燥固形物との中間の態様の固形物である。乾燥固形物として用いる場合、材料を混合する際における分散性の観点から、セルロースナノファイバーは、水溶性高分子と混合された形態であることが好ましい。
【0053】
セルロースナノファイバーと水溶性高分子とを混合して使用する場合、水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(例、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、ジェランガム、ペクチン、グァーガムおよびコロイダルシリカ並びにそれら1種以上の混合物を挙げられる。この中でも、カルボキシメチルセルロースおよびその塩から選ばれる1種以上を用いることが相溶性の点から好ましい。
【0054】
水溶性高分子の配合量は、セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、下限が好ましくは5重量%以上である。上限が好ましくは50重量%以下である。5重量%以上であると十分な再分散性の効果が得られる。一方、50重量%以下であると、セルロースナノファイバーの粘度特性、分散安定性がより向上する。したがって、水溶性高分子の配合量は、セルロースナノファイバーの絶乾固形分に対して、好ましくは5〜50重量%である。
【0055】
セルロースナノファイバーの分散液またはセルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合液の、乾燥固形物および湿潤固形物(以下、セルロースナノファイバーを含む、乾燥固形物および湿潤固形物ともいう。)は、該分散液または混合液を脱水および/または乾燥して調製すればよい。脱水方法および乾燥方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、真空乾燥、およびその他従来公知の方法が挙げられる。乾燥装置の例としては、例えば以下の装置が挙げられる:連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置等、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、撹拌乾燥装置等。これらの乾燥装置は単独で用いてもよいし、2つ以上組み合わせて用いてもよい。乾燥装置は、ドラム乾燥装置が好ましい。これにより、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給することができるので、エネルギー効率を高めることができる。また、必要以上に熱を加えずに、直ちに乾燥物を回収することができる。
【0056】
<パン酵母>
パン酵母とは、発酵時において糖類を分解してアルコールと炭酸ガスとを生成する機能を持った、少なくともパン用途に用いられ得る酵母のことである。パン業界では、この「パン酵母」を「酵母」を意味する英語名の「イースト(Yeast)」と呼ぶことが一般化しており、パン酵母を使用したパン製品の原材料表示には「イースト」と記載されることもある。パン酵母の形態には特に限定はなく、例えば、生イースト、生イーストを低温乾燥して製造したドライイーストが挙げられる。本発明におけるパン酵母としては生イーストおよびドライイーストのいずれも好適に用いることができる。また、近年天然酵母と呼ばれる、果物(例、ぶどう、苺、桃、梨、パイナップル、バナナ)や穀物(例、玄米、麹、小麦)などのまわりに付着する酵母菌を採取し、自然に発酵させた酵母が注目されている。本発明におけるパン酵母として、これらの天然酵母も好適に用いることができる。
【0057】
本発明におけるパン酵母の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは米粉を含む穀粉の総重量に対し、下限が、好ましくは0.1重量%以上である。上限が、好ましくは20重量%以下である。0.1重量%以上では発酵が十分となり焼成食品(例、パン)が十分に膨らみ、また20重量%以下であると、発酵過多となることを抑制して焼成食品が必要以上に膨らむことを抑制する。したがって、パン酵母の含有量は、米粉を含む穀粉の総重量に対し、好ましくは0.1〜20重量%である。
【0058】
本発明の焼成食品生地は、上記の材料の他に、必要に応じて他の材料を含んでいてもよい。材料の種類については特に制限はないが、例として、小麦粉で焼成食品(例、パン)を製造する際と同様に、製造する焼成食品の種類等に応じて、糖類、食塩、ガム質、乳成分、卵成分、無機塩類およびビタミン類からなる群より選ばれる1種または2種以上をさらに生地に配合することができる。
前記食塩としては、例えば、主に風味付けを目的として塩化ナトリウムが99%以上の精製塩、天日塩もしくは粗塩等の粗製塩が挙げられる。
前記ガム質としては、例えば、アルギン酸、キサンタンガム、デキストリン、セルロースが挙げられる。
前記乳成分としては、例えば、粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳が挙げられる。
前記卵成分としては、例えば、卵黄、卵白、全卵、卵に由来するその他の成分が挙げられる。特に乳成分や卵成分の主成分であるタンパク質は、パンの焼成時に変成・硬化して焼成後のパンの形状を保持する骨格となるため、グルテン等の麦類由来タンパク質を含まない焼成食品(例、米粉パン)の製造においては添加することが好ましい。
また、前記無機塩類としては、例えば、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、焼成カルシウム、アンモニウムミョウバンが挙げられる。
前記ビタミン類としては、例えば、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、カロチンが挙げられる。
【0059】
本発明の焼成食品生地は、米粉を含む穀粉、セルロースナノファイバー、パン酵母、および必要に応じて添加される他の材料を混合し、適宜混練して製造することができる。各材料を混合する順序に特に限定はないが、各材料を一度に混合してもよいし、材料の一部を先に混合した後で残りの材料を加えて混合してもよい。好ましくは、各材料を一度に混合する。
【0060】
本発明の焼成食品生地は、発酵前の生地であっても発酵後の生地であってもよい。また、本発明の焼成食品生地は、複数回発酵させた後の生地であってもよい。発酵の条件には限定がなく、発酵温度、発酵時間などの条件は、例えば、生地およびパン酵母の量に応じて適宜設定してよい。例えば、生地を約40℃で、10分間〜70分間程度放置することで、発酵が進み、生地を発泡膨張させることができる。
本発明の焼成食品生地の形状には限定がなく、例えば、通常の小麦粉を用いたパンの形状としてよい。
【0061】
発酵させた本発明の焼成食品生地を焼成することで、焼成食品を製造することができる。焼成方法は特に限定されず、例えば、通常の米粉を用いた焼成食品(例、米粉パン)または通常の小麦粉を用いた焼成食品(例、パン)の製造方法と同様の方法で焼成することで焼成食品を製造することができる。焼成食品生地に含まれる穀粉を全て米粉とすれば、小麦粉およびグルテンを含まない米粉パンを製造することができる。
焼成の前に、焼成食品生地を所望の形状に成形してもよい。成形は、前記の焼成食品生地の発酵工程(発泡膨張工程)の前または後のいずれか、または発酵工程(発泡膨張工程)の前および後の両方において行ってもよい。なお、本発明の焼成食品生地は、通常、セルロースナノファイバーを含まない米粉パン生地と比較して粘弾性が大きいため、容易に成形することができる。
焼成条件には特に限定はなく、例えば、通常の米粉を用いた焼成食品または通常の小麦粉を用いた焼成食品と同様の条件でよい。焼成温度は、例えば、150℃〜250℃、好適には、180℃〜230℃程度である。焼成温度、時間などの焼成条件は、生地の大きさ、形状等に応じて適宜設定してよい。
【0062】
本発明の焼成食品製造キットは、米粉を含む穀粉、セルロースナノファイバー、およびパン酵母を含む。
焼成食品製造キットは、米粉を含む穀粉、セルロースナノファイバー、およびパン酵母が、各々別々の容器に納められていてもよく、各々同一の容器に納められていてもよい。また、本発明の焼成食品製造キットは、米粉を含む穀粉、セルロースナノファイバー、およびパン酵母を含み、これらが予め混合されている、焼成食品製造用ミックスの形態であってもよい。
【0063】
<焼成食品生地および焼成食品製造キットの用途>
本発明の焼成食品生地および焼成食品製造キットは、例えば、パン(例:食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール、デニッシュペーストリ、クロワッサン、菓子パン、蒸しパン、あんまん、肉まん、ドーナツ)、焼成菓子(例:クッキー、ビスケット、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ)の製造に用いられ得る。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
<カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造>
パルプを混ぜることが出来る撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。これを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊しカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。平均繊維径は15nm、アスペクト比は50であった。
【0066】
<実施例1>
以下に示す方法にて食パンを製造した。
(1)米粉(結晶性米粉、平成27年山形県産 はえぬきを気流粉砕したもの)200g、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー0.4g(固形分換算、水分散液として添加)、水(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー水分散液に含まれる水と併せて200gとなるように計量する。)、上白糖20g、ドライイースト3g、塩2gを計量し、全ての材料を料理混練機(KitchenAid、FMI社製)に投入する。
(2)8速で10分間撹拌する。
(3)生地をパン型に流し込み、電子発酵機(大正電機社製)を用いて温度40℃で30分間発酵する。
(4)ガスオーブン(オザキ社製、OZ100BOEC)にて、180℃、30分の条件で焼成する。
【0067】
上記の配合比で砂糖、塩、ドライイーストを除いて作製した生地について、貯蔵弾性率を測定した。測定機器としては、Anton paar PhysicaMCR301を用い、測定条件は、温度30℃、ひずみ0.1%、角周波数10rad/sとして、動的粘弾性測定を行った。測定治具としては直径24mmの共軸二重円筒を用いた。測定開始15分後における貯蔵弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
また、焼成前の生地の、型に入れた状態での厚さと焼成後のパンの厚さとを測定して、パンの発泡率(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
製造後、気泡の形成状態を評価するために、パンをナイフで半分に切り、パネラー8人で断面を観察し、下記の5段階評価(良5〜1劣)を行い、平均を取った。結果を表1に示す。
5:非常に緻密な気泡が断面全体に均一に分布している〜1:気泡の大きさがまちまちで、大きな気泡がパンの形状を乱している、あるいは気泡が全くない
【0070】
また、時間経過後の固化を評価するために、焼成してから8時間における保水率(%)を、焼成直後を100%としてそれぞれ百分率で評価した。値が大きいほど、固化を抑制できていることになる。結果を表1に示す。
【0071】
また、食感の評価として、製造から4時間後における食感(歯切れ)について、それぞれパネラー8人で下記の5段階評価(良5〜1劣)を行い、平均を取った。結果を表1に示す。
[歯切れ]
5:極めて歯切れがよい〜1:歯切れが悪く、歯に顕著に付着する
【0072】
<実施例2>
米粉の配合量を195gとし、アルファ化米粉を5g配合した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0073】
<比較例1>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0074】
<比較例2>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを添加せず米粉の配合量を180gとし、アルファ化米粉を20g配合した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0075】
<比較例3>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをカルボキシメチルセルロース(SLD−F1。日本製紙株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0076】
【表1】
【0077】
CM化CNF:カルボキシメチル化セルロースナノファイバー
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0078】
表1の結果から明らかなように、セルロースナノファイバーを含有した実施例1、2のパン(焼成食品)では、セルロースナノファイバーを含有しない比較例1〜3のパンに対し、発泡率が高く、かつ気泡の状態が良好である。また、実施例1、2のパンは、保水性に問題がなく固化が抑制されていながら良好な食感を有し、固化の抑制と良好な食感の実現を両立していることが明らかである。また、実施例1、2のパン生地(焼成食品生地)は、粘弾性が良好である。