【文献】
Bo Baldetorp, Olle Stal, et al.,Different calculation methods for flow cytometric S-phase fraction: Prognostic Implications in Breast Cancer?,Cytometry,米国,1998年,vol. 33: 385-393
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部は、前記S期蛍光強度範囲から前記異常蛍光強度範囲を除外した範囲の曲線下面積と、前記ヒストグラムの全範囲からデブリに相当する範囲を除外した範囲の曲線下面積と、を比較して前記細胞比率を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載のがん診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞は、一定のサイクル(細胞周期)に従ってDNA複製、染色体の分配、核分散、細胞質分散などの事象を経て2つの細胞となって出発点に戻る。細胞周期はその段階に応じて、G1期(S期に入るための準備と点検の時期)、S期(DNA合成期)、G2期(M期に入るための準備と点検の時期)、M期(分裂期)の4期に分けることができる。なお細胞周期は、この4期に加え、細胞増殖が休止しているG0期(休止期)を加えた5期に分けることもできる。各細胞は、5期のうちのいずれかのステージにある。
【0007】
細胞周期に従って細胞が増殖する際、細胞内の核の染色体も増加する。そのため、細胞のDNA量を測定することにより、当該細胞が細胞周期のどの段階にあるかを推定できる。正常な生体組織についてDNA量と細胞数のヒストグラムを作成した場合、最も高いピークはDNA量が最も少ないG0/G1期に対応することが一般的である。また正常な生体組織において次に高いピークは、DNA量が最も多いG2/M2期に対応することが一般的である。
【0008】
一方、DNA Aneuploidy(DNA異数性)が生じている細胞(すなわちがん化している可能性が高い細胞)は、染色体数が多いためにDNA量も多くなる。これによりがん化細胞を含む生体組織についてヒストグラムを作成した場合、正常組織とは異なるピークが生じる。分析装置は、このDNA Aneuploidyに相当するピークを検出することにより、がん化の状態を検出する。
【0009】
しかしながら、DNA Aneuploidy(DNA異数性)の影響によってS期にある細胞数(割合)が正確に把握できず、詳細ながんの情報を把握できないケースがあった。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、DNA Aneuploidy(DNA異数性)が生じている細胞がある場合であっても詳細ながんの種別を把握できるがん診断装置、がん診断方法、及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるがん診断装置の一態様は、
対象生体組織から生成した懸濁液の蛍光強度の測定結果を用いて、蛍光強度と細胞数の関係を示すヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
前記ヒストグラムを解析して前記対象生体組織のがん種別の判定を行う判定部と、を備え、
前記判定部は、
前記ヒストグラムの細胞数のピークに対応する蛍光強度に基づいてS期細胞に対応するS期蛍光強度範囲を検出し、
前記S期蛍光強度範囲の細胞数の変化を基に、DNA異数性が生じている腫瘍細胞に対応する異常蛍光強度範囲を検出し、
前記S期蛍光強度範囲から前記異常蛍光強度範囲を除外した範囲の細胞数の指標に基づいて前記対象生体組織のがん診断を行う、ものである。
【0012】
判定部は、DNAヒストグラムからDNA Aneuploidyに相当する範囲を除外したS期細胞の範囲の細胞数の指標を検出している。判定部は、この範囲の細胞数指標を用いてがんの診断を行う。判定部は、DNA Aneuploidyの影響を除外することによって正確にがんの診断をすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、DNA Aneuploidy(DNA異数性)が生じている細胞がある場合であっても詳細ながん診断を行うことができるがん診断装置、がん診断方法、及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるがん診断装置1の外観例を示す斜視図である。なお
図1に示すがん診断装置1の外観はあくまでも一例であり、この他の形状であっても勿論構わない。がん診断装置1は、フローサイトメトリ(Flow Cytometry)に用いられる装置である。フローサイトメトリとは、微細な粒子を流体中に分散させ、その液体(懸濁液)を流して個々の粒子を光学的に分析する手法である。がん診断装置1は、がん診断の対象となる生体組織(以下、対象生体組織とも呼称する。)の細胞核染色された細胞数を計測し、その計測結果を用いて細胞数と蛍光強度(DNA量)の関係を示すDNAヒストグラムを生成する。がん診断装置1は、DNAヒストグラムを用いたがん解析を行う。
【0016】
がん診断装置1の細胞前処理部12にはノズル11が設けられている。このノズル11に細胞単離装置2を接続して懸濁液を生成する。
図2は細胞単離装置2の分解外観図である。細胞単離装置2は、ピペット部材20と容器24を備える。ピペット部材20は、本体21、フィルタ22、及び蓋体23を有する。
【0017】
界面活性剤、RNA(リボ核酸)除去剤、及び蛍光染料色素を含む試薬25が、乾燥あるいは凍結乾燥された状態で容器24に収容される。解析対象となる生体組織及び細胞処理液を容器24内に投入すると、試薬25が細胞処理液中に溶解する。
【0018】
細胞単離装置2は、後述する撹拌による細胞単離処理と並行して、界面活性剤による組織細胞の裸核化、RNA除去剤によるRNA除去、及び蛍光染料色素による裸核化されたDNA細胞核の染色を遂行できる。これによりがん診断装置1内部に回収された後に、フローサイトメトリによる測定が可能な状態となる。
【0019】
生体組織及び細胞処理液(試薬25を含む)を収容した容器24にピペット部材20が装着される。本体21の先端は、容器24の中心軸上に配置され、容器24の底と一定間隔を置いて対向する。本体21と容器24の底との間には、投入された生体組織が位置する。本体21の先端部は、投入された細胞処理液に浸かった状態となる。
【0020】
再び
図1を参照する。細胞単離装置2の上端部(蓋体23)をノズル11に差し込むようにして接続する。ノズル11の通路と蓋体23内の通路とが、適宜の係合構造を介して連通する。細胞前処理部12は、以下のような手順で細胞単離処理を実行する。
【0021】
細胞前処理部12は、ノズル11に接続されたポンプ機構(図示省略)を備えている。細胞前処理部12は、ユーザによって設定された撹拌条件(撹拌強さ、繰り返し回数、継続時間等)に基づいてポンプ機構を制御し、加圧状態と減圧状態を形成する。加圧状態においてはノズル11から空気が吹き出し、減圧状態においてはノズル11から空気が吸入される。
【0022】
加圧と減圧を繰り返すピペッティング処理により、ノズル11に接続されたピペット部材20を通じて容器24内の生体組織及び組織処理液(試薬25を含む)を撹拌する。一定時間の撹拌処理を行うことにより、生体組織は次第に細かく粉砕され、ミンスされた状態となる。これにより単離された細胞を含む懸濁液を得ることができる。この処理において、細胞の核が壊され、その中の染色体が蛍光に反応させるように色付けされる。
【0023】
その後に細胞前処理部12は、ピペット部材20の通路を介して懸濁液を吸引する。懸濁液はフィルタ22を通過することによって濾過される。これにより不純物が取り除かれた懸濁液(細胞浮遊液)ががん診断装置1の内部に取り込まれる。
【0024】
なお上述の細胞前処理部12による細胞単離処理は、ピペッティング以外の手法で細胞を単離しても構わない。また予め手技等により懸濁液を生成しておき、がん診断装置1が当該懸濁液を取り込むようにしても構わない。
【0025】
続いて
図3を参照してがん診断装置1内部での処理について説明する。
図3は、がん診断装置1の機能ブロック図である。がん診断装置1は、前述の細胞前処理部12に加え、光学処理部13、ヒストグラム生成部14、判定部15、及び出力部16を有する。
【0026】
光学処理部13は、懸濁液を流路に流し、当該流路にレーザー光を照射する。光学処理部13は、懸濁液からの光(例えば前方散乱光、後方散乱光、側方蛍光)の強度を検出する。
【0027】
ヒストグラム生成部14は、光学処理部13の蛍光強度の測定結果を取得する。染色体はDNAからできている。また染色色素は二本鎖DNAにインターカレートするため、蛍光強度を測定することによってDNA量が測定できる。すなわち蛍光強度の測定結果は、各細胞のDNA量を示すデータとなる。ヒストグラム生成部14は、各細胞のDNA量を基に、DNA量(蛍光強度)と細胞数の関係を示すDNAヒストグラムを生成する。なおヒストグラム生成部14は、ヒストグラムを作る前に任意の前処理(平坦化等)を行ってもよい。
【0028】
図4は、ヒストグラム生成部14が生成するDNAヒストグラムの一例を示す図である。
図4においてAの領域は、デブリ(Debris)、すなわち破壊された細胞(ゴミ)もしくは間質組織に染色体が付着したものが現れる領域である。この領域のDNA量は、正常なG0/G1期細胞のDNA量よりも少ない。
【0029】
またBの領域は、G0/G1期細胞群、すなわち正常DNA量の細胞が現れる領域である。
【0030】
Cの領域は、S期細胞群が現れる領域である。S期細胞群のうち、細胞のDNA合成を開始したばかりの細胞のDNA量は、正常なG0/G1期細胞のDNA量よりもわずかに多い。このDNA量は、G2期レベル(G2期は後述するE領域)になるまで増加し続ける。
【0031】
Dの領域は、DNA Aneuploidy(DNA異数性)の細胞群が現れる領域である。この領域の細胞のDNA量は、異数対(正常DNA量の整数倍ではない)に分布を示す。腫瘍の組織において検出されることが多く、その出現場所は様々である。なお腫瘍が存在しない組織においてはDNA Aneuploidyは検出されない。
【0032】
Eの領域は、G2/M期細胞群が現れる領域である。G2期細胞のDNA量は、正常なG0/G1期細胞の2倍のDNA量を含む。M期細胞は母細胞が2つの嬢細胞に細胞分裂し、そのDNA量は正常なG0/G1期細胞の2倍のDNA量を含む。
【0033】
Fの領域は、その他のDNA量を有する細胞群が現れる領域である。
【0034】
なお
図4に示すDNAヒストグラムはあくまでも一例であり、対象生体組織のがん化の進行具合やがん種別によってDNAヒストグラムの形状は変化する。ヒストグラム生成部14は、生成したDNAヒストグラムを判定部15に供給する。
【0035】
判定部15は、DNAヒストグラムを解析し、対象生体組織のがん化判定を行う。詳細には判定部15は、DNAヒストグラム内のS期細胞に対応するDNA量の範囲(以下、S期蛍光強度範囲と呼称する。)を検出し、S期蛍光強度範囲から腫瘍細胞(DNA Aneuploidy)に対応するDNA量の範囲(以下、異常蛍光強度範囲と呼称する。)を除外し、除外した後の範囲の細胞数の指標(詳細には細胞数の代表値やAUC等)を用いてがん種別の診断を行う。以下、判定部15の詳細な動作や意義等を説明する。
【0036】
がんの悪性腫瘍にはいくつかの種別があり、その種別によって治療方針が大きく異なる。例えばGBM(glioblastoma multiforme)は、大脳に発生する悪性腫瘍である。GBMの治療は、開頭手術で腫瘍を可能な限り摘出することが最も効果的と言われている。一方でPCNSL(Primary Central Nervous System Lymphoma)は、頭蓋内にリンパリンパ球が急激に増殖する悪性腫瘍である。PCNSLの治療では、外科摘出による切除ではなく放射線治療や化学療法が効果的である。
【0037】
DNA Aneuploidyの検出では、がんの陽性の検出を行うことは可能であるものの、上述のがんの詳細な診断を行うことは困難である。がんの悪性度は、一般的に全体細胞に対するS期細胞の比率により判断できることが知られている(例えば非特許文献1〜4)。しかしながら一般的な解析では、DNA Aneuploidyの影響によりS期細胞の比率を正確に把握できないことがある。当該事象を
図5を参照して説明する。
【0038】
図5は、DNA Aneuploidyが生じている場合のDNAヒストグラムの拡大模式図である。当該DNAヒストグラムは、S期に対応するDNA量(蛍光強度)の区分を拡大して表示した模式図である。なお
図5は、説明の明確化のために記載した図であり、細胞の分布等は適宜簡略化している。
【0039】
上述のようにS期細胞は、G0/G1期細胞からG2/M期細胞に移行する段階にある細胞である。ここでDNA Aneuploidyが生じている細胞がある場合、S期細胞と同様のDNA量を有する場合がある。この場合、S期細胞のDNA量の範囲(S期蛍光強度範囲)にDNA Aneuploidyが生じている細胞の細胞数が加算された状態となってDNAヒストグラム上に現れる(
図5における“腫瘍細胞”部分)。
【0040】
そこで判定部15は、このDNA Aneuploidyが生じている細胞群をキャンセルし、キャンセル後のS期細胞の細胞数の指標(細胞数の代表値やAUC)を用いてがんの診断(種別や悪性度)の判定を行う手法を提供する。詳細は以下の通りである。
【0041】
判定部15は、はじめにS期細胞のDNA量の範囲(S期蛍光強度範囲)を検出する。上述のようにG2/M期細胞は、G0/G1期細胞の約2倍のDNA量を含む。DNAヒストグラムを生成する場合、細胞数のピークはG0/G1期細胞のDNA量に対応する箇所となる。そこで判定部15は、G/G1期細胞に対応するDNA量(細胞量のピーク)付近からG2/M期細胞のDNA量の付近の範囲までをS期細胞に対応するDNA量の範囲(S期蛍光強度範囲)とする。例えばDNAヒストグラム全体の細胞数のピークがDNA量=195の箇所とする(
図5)。この場合に判定部15は、DNAヒストグラム全体の細胞数のピークの立ち下がり点(P1)をS期蛍光強度範囲の始点とする。また判定部15は、DNA量=390(195×2)付近の細胞数分布の立ち上がり点(P2)をS期蛍光強度範囲の終点とすればよい。なお判定部15は、DNAヒストグラムのピーク(G0/G1期細胞のDNA量)を基にした任意の方法でS期蛍光強度範囲の始点と終点を定めればよい。
【0042】
判定部15は、S期蛍光強度範囲内においてDNA Aneuploidyが生じている腫瘍細胞に対応する範囲(異常蛍光強度範囲)を検出する。例えば判定部15は、S期蛍光強度範囲において細胞数のピーク点(P3)を検出し、ピーク点を頂点とする立ち上がり点(P4)と立ち下がり点(P5)を検出する。そして判定部15は、当該立ち上がり点(P4)を異常蛍光強度範囲の始点とし、立ち下がり点(P5)を異常蛍光強度範囲の終点とする。なお判定部15は、細胞数のピーク点(P3)を検出して異常蛍光強度範囲を定めるのではなく、細胞数変化の傾きの傾向を基に異常蛍光強度範囲の始点と終点を定めてもよい。
【0043】
判定部15は、S期蛍光強度範囲から異常蛍光強度範囲を除外した範囲(
図5の例ではP1〜P4の範囲とP5〜P2の範囲)の細胞数の指標(S期細胞の相対的な数の多さを示すものであり、詳細には後述する代表値やAUC)を基にがん化判定を行う。
【0044】
例えば判定部15は、S期蛍光強度範囲から異常蛍光強度範囲を除外した範囲(
図5の例ではP1〜P4の範囲とP5〜P2の範囲)の細胞数の代表値を算出する。ここで代表数とは、例えば細胞数の平均値であってもよく、最頻値や中央値であってもよい。判定部15は、この代表値(
図5の例では平均値N1)とDNAヒストグラムのピーク値(G0/G1期細胞の細胞数に対応する値であり、
図5の例ではN2)を比較する。この比較により、DNA Aneuploidyの影響を除いた簡易的なS期細胞の比率(全体細胞数に対するS期細胞の比率)を算出することができる。
【0045】
判定部15は、この比率と所定の閾値を比較することによってがんの種別や悪性度の推定を行う。例えばGBMを起因とする腫瘍がある生体組織では、S期細胞の細胞数(DNA Aneuploidyの影響を除外した細胞数)が少ない。一方、PCNSLを起因とする腫瘍がある生体組織では、S期細胞の細胞数(DNA Aneuploidyの影響を除外した細胞数)がGBMの場合と比較して多い。そのため判定部15は、上記比率(DNA Aneuploidyの影響を除いた簡易的なS期細胞の比率)の大きさを閾値と比較することによってがんの種別を推定すればよい。またDNAヒストグラムのパターンはがん細胞の悪性度を反映すること、ひいてはS期の細胞(増殖細胞)の割合とがんの悪性度の間には有意な関係があること、が知られている(例えば非特許文献1〜4)。そのため判定部15は、S期細胞の割合と所定の閾値を比較すること等によってがんの悪性度(悪性レベル)を推定してもよい。
【0046】
また判定部15は、S期蛍光強度範囲から異常蛍光強度範囲を除外した範囲(
図5の例ではP1〜P4の範囲とP5〜P2の範囲)の曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)と、全範囲の曲線下面積と、を比較してもよい。DNAヒストグラムはDNA量と細胞数の分布を示すものであるため、曲線下面積はある範囲の細胞数の合計値に対応する。当該比較によりDNA Aneuploidyの影響を除外したS期細胞の比率(全細胞数に対するS期細胞の比率)を算出できる。判定部15は、この比率と予め定めた閾値を比較することによってがんの種別を推定してもよい。また判定部15は、この比率を用いてがんの悪性度の推定を行ってもよい。
【0047】
なお判定部15は、全範囲(
図4における領域A〜F)からデブリに相当する範囲(領域A)を除外した範囲(領域B〜F)を比較対象としてもよい。これによりデブリの影響を除外してS期細胞の比率を算出することができ、より正確ながん種別や悪性度の判定を行うことができる。
【0048】
このように判定部15は、S期蛍光強度範囲から異常蛍光強度範囲を除外した範囲(
図5の例ではP1〜P4の範囲とP5〜P2の範囲)を算出し、その範囲の細胞数を示す指標値(代表値やAUC)の大小を基にがん種別や悪性度の判定を行えばよい。
【0049】
再び
図3を参照する。出力部16は、がん診断の結果を任意の方法で出力する。例えば出力部16は、がん診断の結果をがん診断装置1の筐体上のディスプレイに表示してもよい。また出力部16は、対象生体組織のがんの種別等を音声により報知してもよい。
【0050】
続いて
図6を参照してがん診断装置1の動作について改めて説明する。
図6は、がん診断装置1のがん種別の判定の流れを示すフローチャートである。なお本例では、GBMとPCNSLを見分ける場合の処理の流れを示す。なお
図6では、がんの悪性度については言及していないものの同等の処理を行うことが可能である。
【0051】
細胞前処理部12は、対象生体組織に対するピペッティング処理により細胞の単離を行うと共に、細胞の蛍光を行った懸濁液を生成する(S1)。なお細胞前処理部12は、他の方法により細胞の単離を行ってもよい。また予め生成された懸濁液ががん診断装置1に供給されてもよい。
【0052】
光学処理部13は、流路に流した懸濁液にレーザー光を照射し、懸濁液からの光(側方蛍光を含む)の強度を検出する(S2)。ヒストグラム生成部14は、光学処理部13が検出した蛍光強度の測定結果を基に、DNA量(蛍光強度)と細胞数の関係を示すDNAヒストグラムを生成する(S3)。
【0053】
判定部15は、DNAヒストグラムからG0/G1期細胞に対応するDNA量(蛍光強度)を検出し、当該DNA量を基にS期細胞に対応するDNA量の範囲(S期蛍光強度範囲)を検出する(S4)。その後に判定部15は、S期蛍光強度範囲内においてDNA Aneuploidyが生じている腫瘍細胞に対応する範囲(異常蛍光強度範囲)を検出する(S5)。
【0054】
判定部15は、S期蛍光強度範囲から異常蛍光強度範囲を除外した範囲の細胞数の平均値(指標の一種)と、G0/G1期細胞の細胞数(ヒストグラムのピーク値)と、を比較した比率を算出する(S6)。なお判定部15は、前述のように当該範囲のAUC等を用いた比較を行ってもよい。
【0055】
判定部15は、算出した比率(S期細胞比率)と所定閾値を比較する(S7)。S期細胞比率が所定閾値よりも大きい場合(S7:YES)、判定部15は対象生体組織がPCNSLの疑いがあると判定する(S8)。一方でS期細胞比率が所定閾値よりも大きくない場合(S7:NO)、判定部15は対象生体組織がGBMの疑いがあると判定する(S9)。なお比較に用いる所定閾値は、病理診断の経験に基づいて決定すればよい。
【0056】
なお判定部15は、複数の種類の閾値とS期細胞比率を比較することにより、3つ以上のがん種別を弁別してもよい。また判定部15は、胃がんや大腸がんなどの様々な種別のがんを対象として、上述の比率(S期細胞比率)を用いた判定を行ってもよい。
【0057】
続いて本実施の形態にかかるがん診断装置1の効果について説明する。上述のようにDNA Aneuploidyが生じている細胞の影響によりS期細胞の細胞数について正確に把握できないという問題があった。
【0058】
本実施の形態にかかる判定部15は、DNAヒストグラムからDNA Aneuploidyに相当する範囲を除外したS期細胞の範囲(例えば
図5におけるP1〜P4の範囲及びP5〜P2の範囲)を検出している。判定部15は、この範囲の細胞数の指標を用いてがんの種別の判定を行う。DNA Aneuploidyの影響を除外することによって、判定部15は正確にがんの種別や悪性度を判定することができる。
【0059】
判定部15は、DNAヒストグラムからDNA Aneuploidyに相当する範囲を除外したS期細胞の範囲(例えば
図5におけるP1〜P4の範囲及びP5〜P2の範囲)の代表値を算出する。判定部15は、代表値(好適には平均値であり、
図5の例ではN1)とDNAヒストグラムのピーク値(G0/G1期細胞に対応する細胞数であり、
図5の例ではN2)を比較することにより全体細胞数に対するS期細胞の細胞数の指標(比率)を簡易的かつ正確に把握することができる。判定部15は、この比率を用いることにより簡易的かつ正確にがん種別や悪性度の判定を行うことができる。
【0060】
また判定部15は、DNAヒストグラムからDNA Aneuploidyに相当する範囲を除外したS期細胞の範囲(例えば
図5におけるP1〜P4の範囲及びP5〜P2の範囲)のAUCとDNAヒストグラム全体のAUCを比較してもよい。この場合であっても一般的な統計処理を行うのみで全体細胞数に対する正常なS期細胞の比率の指標を算出することができるため、簡易的かつ精度良くがん種別や悪性度の判定を行うことができる。
【0061】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0062】
例えば判定部15は、DNAヒストグラムを用いた種々のがん化検出も合わせて行ってもよい。詳細には判定部15は、一般的なDNA Aneuploidyの検出により対象生体組織のがん化検出を行ってもよい。また判定部15は、特許文献3に記載の解析を行っても構わない。
【0063】
光学処理部13の処理の一部、ヒストグラム生成部14の処理、及び判定部15の処理は、がん診断装置1内に設けられたCPU(Central Processing Unit、図示せず)がプログラムを記憶部(例えばがん診断装置1内のハードディスク)から読み出して実行することにより実現してもよい。
【0064】
ここでプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。