特許第6784550号(P6784550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784550
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】眼科装置及び被検眼表示方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/135 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   A61B3/135
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-178242(P2016-178242)
(22)【出願日】2016年9月13日
(65)【公開番号】特開2018-42644(P2018-42644A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩之
【審査官】 後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−169346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼にスリット光を照射する主照明系と、
前記主照明系による前記スリット光の照射領域に対する周囲領域を照明する背景照明系と、
前記周囲領域を含めて前記被検眼を撮像する撮像部を有する観察系と、
前記被検眼に前記主照明系によるスリット光が照射され且つ前記背景照明系が消灯状態であるときに前記撮像部により第1の画像を撮影させ、前記背景照明系が点灯状態であるときに前記撮像部により第2の画像を撮影させ、前記第1の画像から前記スリット光の照射領域を切り出したスリット像部と、前記第2の画像から前記スリット光の照射領域を切り抜いた背景部とを合成した第3の画像を生成する制御部と、
少なくとも前記第1の画像、第2の画像、及び前記第の画像を表示可能な表示部と、
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の画像と、前記第2の画像のそれぞれに対応する特徴点の位置のずれが所定範囲内である場合にのみ前記第3の画像を生成する請求項記載の眼科装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第3の画像における前記スリット像部及び背景部の少なくともいずれか一方の領域の明暗を調節可能である請求項又は記載の眼科装置。
【請求項4】
前記制御部は、1つのトリガ操作で、少なくとも前記撮像部による前記第1の画像及び第2の画像の撮影を行う請求項1からのいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
被検眼にスリット光を照射する主照明系と、前記主照明系による前記スリット光の照射領域に対する周囲領域を照明する背景照明系と、前記周囲領域を含めて前記被検眼を撮像する撮像部を有する観察系と、前記撮像部により撮影した画像を表示可能な表示部と、を有する眼科装置の被検眼表示方法であって、
前記被検眼に前記主照明系によるスリット光が照射され且つ前記背景照明系が消灯状態であるときに前記撮像部により第1の画像を撮影する第1の撮影工程と、
前記背景照明系が点灯状態であるときに前記撮像部により第2の画像を撮影させる第2の撮影工程と、
前記第1の画像から前記スリット光の照射領域を切り出したスリット像部と、前記第2の画像から前記スリット光の照射領域を切り抜いた背景部とを合成した第3の画像を生成する合成工程と、
少なくとも前記第1の画像、前記第2の画像、及び前記第の画像を前記表示部に表示する表示工程と、
を備える被検眼表示方法。
【請求項6】
前記合成工程は、前記第1の画像と、前記第2の画像のそれぞれに対応する特徴点の位置のずれが所定範囲内である場合にのみ前記第3の画像を生成する請求項記載の被検眼表示方法。
【請求項7】
前記第3の画像における前記スリット像部及び背景部の少なくともいずれか一方の領域の明暗を調節する明暗調整工程をさらに備える請求項又は記載の被検眼表示方法。
【請求項8】
少なくとも前記第1の撮影工程及び前記第2の撮影工程は、1つのトリガ操作で行われる請求項からのいずれか一項に記載の被検眼表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置及び被検眼表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼科分野で使用される眼科装置の一種として、スリットランプ顕微鏡がある。これは眼科医の日常の診察において、一般的に使用されるもので、照明方法を工夫することで被検眼のいろいろな病変部を観察することができる。
【0003】
このようなスリットランプ顕微鏡では、主照明系から被検眼に対して照射するスリット状の照明光(以下、スリット光という)、スリット光とは別に被検眼全体を照明する背景照明系を備えている(特許文献1参照)。
【0004】
眼科医等の検者が被検眼を精密に検査する場合、スリット光の照射領域とそれ以外の領域の明暗差が大きいほど観察部位が見やすくなるため、通常は暗室にて背景照明系を消灯し、スリット光のみを照射した状態で精密検査を行う。一方で、被検眼全体を観察したいときには背景照明系を点灯して、観察を行っていた。
【0005】
また、特許文献1に示すスリットランプ顕微鏡では、肉眼での観察の他に、撮像装置を通して撮像した被検眼を表示部に表示して観察することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−188339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のスリットランプ顕微鏡において、撮像した被検眼を表示部にて表示する場合、スリット光に照射された観察部位は鮮明に見ることができるが、観察部位以外の部位は暗いため、眼科医等の専門知識を有する者以外の者は被検眼のどの部位を観察しているかも把握することは困難である。一方で、背景照明系を点灯した状態で撮像した被検眼は、被検眼全体の様子は把握できても、スリット光が照射された観察部位のコントラストが低下し、微弱な散乱を伴う病変部を確認することが困難である。
【0008】
そこで、本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、より容易に客観的な被検眼の観察を行うことができる眼科装置及び被検眼表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る眼科装置では、被検眼にスリット光を照射する主照明系と、前記主照明系による前記スリット光の照射領域に対する周囲領域を照明する背景照明系と、前記周囲領域を含めて前記被検眼を撮像する撮像部を有する観察系と、前記被検眼に前記主照明系によるスリット光が照射され且つ前記背景照明系が消灯状態であるときに前記撮像部により第1の画像を撮影させ、前記背景照明系が点灯状態であるときに前記撮像部により第2の画像を撮影させ、前記第1の画像から前記スリット光の照射領域を切り出したスリット像部と、前記第2の画像から前記スリット光の照射領域を切り抜いた背景部とを合成した第3の画像を生成する制御部と、少なくとも前記第1の画像、第2の画像、及び前記第の画像を表示可能な表示部と、を備える。
【0011】
さらに、本発明に係る眼科装置において、前記制御部は、前記第1の画像と、前記第2の画像のそれぞれに対応する特徴点の位置のずれが所定範囲内である場合にのみ前記第3の画像を生成することとしてもよい。
【0012】
また、本発明に係る眼科装置において、前記制御部は、前記第3の画像における前記スリット像部及び背景部の少なくともいずれか一方の領域の明暗を調節可能としてもよい。
【0013】
また、本発明に係る眼科装置において、前記制御部は、1つのトリガ操作で、少なくとも前記撮像部による前記第1の画像及び第2の画像の撮影を行うようにしてもよい。
【0014】
上記した目的を達成するために、本発明に係る被検眼表示方法では、被検眼にスリット光を照射する主照明系と、前記主照明系による前記スリット光の照射領域に対する周囲領域を照明する背景照明系と、前記周囲領域を含めて前記被検眼を撮像する撮像部を有する観察系と、前記撮像部により撮影した画像を表示可能な表示部と、を有する眼科装置の被検眼表示方法であって、前記被検眼に前記主照明系によるスリット光が照射され且つ前記背景照明系が消灯状態であるときに前記撮像部により第1の画像を撮影する第1の撮影工程と、前記背景照明系が点灯状態であるときに前記撮像部により第2の画像を撮影させる第2の撮影工程と、前記第1の画像から前記スリット光の照射領域を切り出したスリット像部と、前記第2の画像から前記スリット光の照射領域を切り抜いた背景部とを合成した第3の画像を生成する合成工程と、少なくとも前記第1の画像、前記第2の画像、及び前記第の画像を前記表示部に表示する表示工程と、を備える。
【0016】
また、本発明に係る被検眼表示方法において、前記合成工程は、前記第1の画像と、前記第2の画像のそれぞれに対応する特徴点の位置のずれが所定範囲内である場合にのみ前記第3の画像を生成することとしてもよい。
【0017】
また、本発明に係る被検眼表示方法において、前記第3の画像における前記スリット像部及び背景部の少なくともいずれか一方の領域の明暗を調節する明暗調整工程をさらに備えてもよい。
【0018】
また、本発明に係る被検眼表示方法において、少なくとも前記第1の撮影工程及び前記第2の撮影工程は、1つのトリガ操作で行われるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記手段を用いる本発明によれば、より容易に客観的に被検眼の観察を行うこと状態を把握しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る眼科装置の構成を表す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る眼科装置の光学系構成を表す概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係る眼科装置の制御構成を表すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る眼科装置の制御部が実行する被検眼の表示ルーチンを表すフローチャートである。
図5】第1の画像例(a)及び第2の画像例(b)を示す説明図である。
図6】第1の画像及び第2の画像が合成されて生成される第3の画像を示す説明図である。
図7】第3の画像において背景部を暗くした画像例(a)及びスリット光照射領域を暗くした画像例(b)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係る眼科装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書に記載された文献の記載内容を、以下の実施形態の内容として適宜援用することが可能である。
【0022】
まず方向を定義しておく。装置光学系において最も被検者側に位置するレンズ(対物レンズ)から被検者に向かう方向を前方向とし、その逆方向を後方向とする。また、前方向に直行する水平方向を左右方向とする。更に、前後方向と左右方向の双方に直交する方向を上下方向とする。
【0023】
〔外観構成〕
この実施形態に係る眼科装置はスリットランプ顕微鏡1であり、当該スリットランプ顕微鏡1の外観構成について、図1を参照しながら説明する。スリットランプ顕微鏡1には、コンピュータ100が接続されている。コンピュータ100は各種の制御処理や演算処理を行う。なお、顕微鏡本体(光学系等を格納する筐体)とは別にコンピュータ100を設ける代わりに、顕微鏡本体に同様のコンピュータ100を搭載した構成を適用することも可能である。
【0024】
スリットランプ顕微鏡1はテーブル2上に載置される。なお、コンピュータ100は他のテーブル上又はその他の場所に設置されていてもよい。基台4は、移動機構部3を介して水平方向に移動可能に構成されている。基台4は、操作ハンドル5を傾倒操作することにより移動される。
【0025】
基台4の上面には、観察系6および主照明系8を支持する支持部15が設けられている。また、支持部15は、図2に示す背景照明系20を支持している。支持部15の前部には、観察系6を支持する支持アーム16が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16の前部には、主照明系8および背景照明系20を支持する支持アーム17が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16、17は、それぞれの前部に同軸の回動軸Aを有し、それぞれ独立に回動可能とされている。
【0026】
観察系6は、支持アーム16を手動で回動させることで移動される。主照明系8および背景照明系20は、支持アーム17を手動で回動させることで移動される。なお、各支持アーム16、17は、電気的な機構によって回動されるように構成されていてもよい。その場合、各支持アーム16、17を回動させるための駆動力を発生するアクチュエータと、 この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。アクチュエータは、例えばステッピン グモータ(パルスモータ)により構成される。伝達機構は、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオンなどによって構成される。
【0027】
主照明系8は、被検眼Eに主照明光を照射する。主照明系8は、前述のように、回動軸Aを中心に左右方向に振ることができる。それにより被検眼Eに対する主照明光の照射方向が変更される。主照明系8は上下方向にも振れるように構成されていてもよい。つまり、主照明光の仰角や俯角を変更できるように構成されていてもよい。
【0028】
主照明光の強度の変更は、基台4上に設けられた照明強度操作部18を用いて行われる。なお、背景照明系20により被検眼Eに照射される背景照明光の強度についても、照明強度操作部18を用いて行えるように構成されていてもよい。また、主照明光や背景照明光の強度の変更を、他の操作部材により行えるように構成することも可能である。他の操作部材としては、スリットランプ顕微鏡1の筐体に設けられた操作部材や、コンピュータ100に設けられた操作部材がある。
【0029】
観察系6は、主照明光(および背景照明光)の被検眼Eからの反射光を案内する左右一対の光学系を有する。この光学系は鏡筒本体9内に収納されている。鏡筒本体9の終端は接眼部9aである。検者は接眼部9aをのぞき込むことで被検眼Eを肉眼で観察する。前述のように、支持アーム16を回動させることにより鏡筒本体9を左右方向に回動させることができる。それにより被検眼Eに対する観察系6の向きを変更することができる。なお、主照明光の反射光には、例えば散乱光のように被検眼Eを経由した各種の光が含まれるが、これら各種の光を含めて「反射光」と呼ぶことにする。
【0030】
鏡筒本体9に対峙する位置には顎受け台10が配置されている。顎受け台10には、被検者の顔を安定配置させるための顎受部10aと額当て10bが設けられている。
【0031】
鏡筒本体9の側面には、観察倍率を変更するための観察倍率操作ノブ11が配置されている。更に、鏡筒本体9には、被検眼Eを撮像するための撮像装置13(撮像部)が接続されている。撮像装置13は静止画及び動画を撮影可能なカメラ、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラのような撮像素子を有するカメラである。これらの撮像素子は入力された光を電気信号(画像信号)として出力する機能を有する。主照明系8の下方位置には、主照明系8から出力される主照明光の光束を被検眼Eに向けて反射するミラー12が配置されている。また、ミラー12は、背景照明系20から出力される背景照明光を被検眼Eに向けて反射する。
【0032】
[光学系の構成]
スリットランプ顕微鏡1の光学系の構成について、図2を参照しながら説明する。スリットランプ顕微鏡1が有する光学系としては、観察系6と、主照明系8と、背景照明系20とがある。
【0033】
〔観察系〕
観察系6は左右一対の光学系を備えている。左右の光学系は、ほぼ同様の構成を有する。検者は、この左右の光学系により被検眼Eを双眼で観察することができる。なお、図2には、観察系6の左右の光学系の一方のみが示されている。符号O1は観察系6の光軸(観察光軸)である。
【0034】
観察系6の左右の各光学系は、対物レンズ31、変倍光学系32、絞り33、リレーレンズ35、プリズム36および接眼レンズ37を有する。また、変倍光学系32とリレーレンズ35との間に、ビームスプリッタ34が、左右の光学系の一方又は双方に設けられている。接眼レンズ37は接眼部9a内に設けられている。符号Pは、接眼レンズ37に導かれる光の結像位置を示している。符号Ecは被検眼Eの角膜を、符号Epは虹彩を、符号Erは眼底をそれぞれ示している。符号Eoは検者眼を示している。
【0035】
変倍光学系32は、複数(例えば2枚)の変倍レンズ32a、32bを含んで構成される。この実施形態では、観察系6の光路に対して選択的に挿入可能な複数の変倍レンズ群が設けられている。これら変倍レンズ群は、それぞれ異なる倍率を付与するように構成されている。観察系6の光路に配置された変倍レンズ群が変倍レンズ32a、32bとして用いられる。それにより、被検眼Eの肉眼観察像や撮影画像の倍率(画角)を変更できる。倍率の変更、つまり観察系6の光路に配置される変倍レンズ群の切り替えは、観察倍率操作ノブ11を操作することにより行われる。また、図示しないスイッチ等を用いて電動で倍率を変更するように構成してもよい。またはズームレンズとして倍率を連続的に変更可能としてもよい。
【0036】
ビームスプリッタ34は、観察光軸O1に沿って進む光を二分割する。ビームスプリッタ34を透過した光は、リレーレンズ35、プリズム36および接眼レンズ37を介して検者眼Eoに導かれる。プリズム36は、2つの光学素子36a、36bを含み、光の進行方向を上方に平行移動させる。
【0037】
他方、ビームスプリッタ34により反射された光は、リレーレンズ41およびミラー42を介して、撮像装置13が有するカメラの撮像素子43に導かれる。撮像素子43は、この反射光を検出して画像信号を生成しコンピュータ100に出力することで、後述する表示部に撮像画像が表示される。したがって、表示された撮像画像を通しても被検眼Eの観察が可能である。
【0038】
〔主照明系〕
主照明系8は、光源51、リレーレンズ52、照明絞り56、集光レンズ53、スリット形成部54および集光レンズ55を有する。符号O2は、主照明系8の光軸(主照明光軸)を示す。
【0039】
光源51は主照明光を出力する。なお、主照明系8に複数の光源を設けてもよい。例えば、定常光を出力する光源(ハロゲンランプ、LED等)と、フラッシュ光を出力する光源(キセノンランプ、LED等)の双方を光源51として設けることができる。また、角膜観察用の光源と眼底観察用の光源とを別々に設けてもよい。光源51は、可視光を出力する可視光源を少なくとも含む。
【0040】
スリット形成部54は、スリット光を生成するために用いられる。スリット形成部54は、一対のスリット刃を有する。これらスリット刃の間隔(スリット幅)を変更することによりスリット光の幅が変更される。
【0041】
照明絞り56は、その透光部のサイズを変更可能に構成されている。照明絞り56は、特に眼底観察において有効である。例えば、照明絞り56には、角膜Ecや水晶体による主照明光の反射を低減させたり、主照明光の明るさを調整したりといった用途がある。
【0042】
〔背景照明系〕
背景照明系20は、被検眼Eに背景照明光を照射する。背景照明光は、主照明系8による被検眼Eに対する主照明光の照射領域の周囲の領域に照射される。なお、背景照明光の照射領域は、少なくともこの周囲領域を含むものであればよい。例えば、背景照明光の照射領域は、主照明系8による照射領域の少なくとも一部と重複していてもよい。
【0043】
背景照明系20は、光源(背景光源)を含む。背景光源は、可視光を出力する可視光源を少なくとも含む。この可視光は、例えば肉眼観察や撮影に用いられる。背景光源は、赤外光を出力する赤外光源を含んでいてもよい。この赤外光は、例えばマイボーム腺の観察や撮影に用いられる。背景照明系20が可視光源と背景光源の双方を含む場合、これら光源は例えば択一的に使用される。背景照明系20は、背景光源から出力された光を集束させる1つ以上のレンズを含んでいてもよい。符号O3は、背景照明系20の光軸(背景照明光軸)を示す。
【0044】
背景光源から出力された光は、(上記レンズによって集光された後、)ミラー12により反射されて被検眼Eに照射される。この背景照明光の照射領域は、主照明系8による被検眼Eの照射領域(スリット光の照射領域)の周囲の領域を含む。
【0045】
[制御系の構成]
スリットランプ顕微鏡1の制御系について、図3を参照しながら説明する。スリットランプ顕微鏡1の制御系は、制御部101を中心に構成されている。なお、制御系の構成の少なくとも一部がコンピュータ100に含まれていてもよい。
【0046】
〔制御部〕
制御部101は、スリットランプ顕微鏡1の各部を制御する。制御部101は、観察系6の制御、主照明系8の制御、および背景照明系20の制御を行う。観察系6の制御としては、変倍光学系32の制御、絞り33の制御、撮像素子43の電荷蓄積時間、感度、フレームレート等の制御などがある。主照明系8の制御としては、光源51の制御、スリット形成部54の制御、照明絞り56の制御などがある。背景照明系20の制御としては、背景光源の制御などがある。図3に示す例では、背景光源として、可視光を出力する可視背景光源20aと、赤外光を出力する赤外背景光源20bとが設けられているが、これらのうち一方(例えば可視背景光源)のみが設けられていてもよい。
【0047】
制御部101は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含んで構成される。ROMやハードディスクドライブ等の記憶装置には、制御プログラムがあらかじめ記憶されている。制御部101の動作は、この制御プログラムとハードウェアとが協働することによって実現される。制御部101は、スリットランプ顕微鏡1の装置本体(例えば基台4内)やコンピュータ100に配置される。
【0048】
〔表示部〕
表示部102は、制御部101の制御を受けて各種の情報を表示することが可能である。表示部102は、LCD等のフラットパネルディスプレイなどの表示デバイスを含んで構成される。表示部102は、スリットランプ顕微鏡1の装置本体に設けられていてもよいし、コンピュータ100に設けられていてもよい。さらに、表示部102は、スリットランプ顕微鏡1とLANやインターネット等の通信網を介して接続されたものや、記憶媒体を経由して表示を行うものであってもよい。
【0049】
〔操作部〕
操作部103は、操作デバイスや入力デバイスを含んで構成される。操作部103には、スリットランプ顕微鏡1に設けられたボタンやスイッチ(例えば操作ハンドル5、照明強度操作部18等)や、コンピュータ100に設けられた操作デバイス(マウス、キーボード等)が含まれる。また、操作部103は、トラックボール、操作パネル、スイッチ、ボタン、ダイアルなど、任意の操作デバイスや入力デバイスを含んでいてよい。また、操作部103としては、撮像装置13が有するカメラにより撮像されている画像をキャプチャするトリガとなるシャッターが設けられている。当該シャッターは例えば操作ハンドル5に押下式のスイッチとして設けられている。
【0050】
図3では、表示部102と操作部103とを別々に表しているが、これらの少なくとも一部を一体的に構成することも可能である。その具体例として、タッチスクリーンを用いることができる。
【0051】
このようにスリットランプ顕微鏡1は構成され、制御部101は被検眼の画像データを取得して、表示部102に表示する。ここで、図4を参照すると、制御部101が実行する被検眼の表示ルーチンを示すフローチャートが示されている。また、図5には第1の画像例(a)及び第2の画像例(b)が、図6には第3の画像例がそれぞれ示されており、途中これらの図を参照しつつ、図4のフローチャートに沿って制御部101が行う被検眼の表示方法について説明する。
【0052】
図4に示すように、被検眼Eの表示ルーチンでは、まずステップS1として制御部101は撮影条件を設定する。撮影条件としては、少なくとも主照明系8を点灯状態として被検眼Eにスリット光を照射する。その他にも、撮影条件としては、例えば観察位置アライメント、観察倍率の決定、ピント調整、スリット幅調整、スリット輝度調整、スリット入射角調整、背景光源の点灯や消灯等がある。これらの撮影条件の設定は検者が被検眼Eを観察しながら手動で設定してもよいし、予め撮影条件を設定しておき制御部101による自動制御で行ってもよい。
【0053】
次にステップS2において、制御部101は、シャッターが押下されたか否かを判別する。当該判別結果が偽(No)である場合、即ちシャッターが押下されていないうちは、上記ステップS1に戻り、撮影条件の設定が継続される。一方、当該判別結果が真(Yes)である場合、即ちシャッター押下による撮影要求があった場合には、ステップS3に進む。
【0054】
ステップS3として制御部101は、背景照明系20を消灯状態にする。つまり、このときに背景照明系20が点灯状態にある場合には、制御部101は背景光源を消灯するよう切り替え、背景照明系20がすでに消灯状態である場合にはその状態を維持する。なお、上述したように背景照明系20は可視背景光源20aと赤外背景光源20bを含んでおり、ここでは少なくとも可視背景光源20aを消灯状態にする。
【0055】
次にステップS4として制御部101は、第1の画像P1のキャプチャ及び保存を行う(第1の撮影工程)。詳しくは、制御部101は、被検眼Eに主照明系8によるスリット光が照射され、且つ、背景照明系20が消灯状態で、撮像装置13より出力された撮像画像を第1の画像P1としてキャプチャし、例えば制御部101が備える記憶装置に記憶する。以下、このように撮像装置13により出力された撮像画像をキャプチャし保存することを撮影ともいう。この第1の画像P1は、図5(a)に示すように、背景照明系20が消灯しているため、スリット光照射領域S1のみが明るく、その周囲領域である背景領域B1は暗く示される。なお、図5(a)において暗い部分は斜線で示している(以下同じ)。
【0056】
続くステップS5として、制御部101は、背景照明系20を点灯状態にする。なお、ここでは少なくとも可視背景光源20aを点灯状態にする。
【0057】
次にステップS6として、制御部101は、第2の画像P2のキャプチャ及び保存(撮影)を行う(第2の撮影工程)。詳しくは、制御部101は、被検眼Eに主照明系8によるスリット光が照射され、且つ、背景照明系20が点灯状態で、撮像装置13より出力された撮像画像を第2の画像P2としてキャプチャし、例えば制御部101が備える記憶装置に記憶する。この第2の画像P2は、図5(b)に示すように、背景照明系20が点灯しているため、スリット光照射領域S2だけでなく、周囲領域である背景領域B2も明るく示される。
【0058】
次にステップS7として、制御部101は、第1の画像P1と第2の画像P2との合成を行うか否かについて判別する。これは、例えば操作部103により予め合成を行うか否かの設定が可能であり、制御部101はこの設定に基づいて当該判別を行う。当該判別結果が偽(No)である場合、即ち合成しないよう設定されていた場合は、ステップS8に進む。
【0059】
ステップS8において、制御部101は第1の画像P1と第2の画像P2の両方又はどちらか一方を表示部102に表示させ、当該ルーチンを終了する(表示工程)。ここでの第1の画像P1及び第2の画像P2の表示は、表示部102にて並べて同時に表示してもよいし、第1の画像P1と第2の画像P2とを連続的に切り替えて表示してもよい。
【0060】
一方、上記ステップS7の判別結果が真(Yes)である場合、即ち合成するよう設定されていた場合、ステップS9に進む。
【0061】
ステップS9では、制御部101は第1の画像P1のスリット光照射領域S1と第2の画像P2のスリット光照射領域S2の位置のずれが許容範囲内であるか否かについて判別する。これは、例えば第1の画像P1と第2の画像P2とを重ね合わせ、それぞれのスリット光照射領域S1、S2の特徴点を選定して、対応する特徴点同士のずれ量を算出し、当該ずれ量が予め定めた閾値以上であるか否かで判別する。当該判別結果が偽(No)である場合、即ちスリット光照射領域S1、S2の位置のずれが許容範囲外である場合は、制御部101はステップS1の撮影条件の設定に戻る。一方、当該判別結果が真(Yes)である場合、即ちスリット光照射領域S1、S2の位置のずれ許容範囲内である場合はステップS10に進む。
【0062】
これより以下ステップS10、S11、S12は、図6に示すように第1の画像P1と第2の画像P2とを合成し、第3の画像P3を生成する工程である(合成工程)。
【0063】
具体的には、ステップS10では、制御部101は第1の画像P1のうちスリット光照射領域S1を切り出したスリット像部S3を取得する。
【0064】
続くステップS11では、制御部101は第2の画像P2のうちスリット光照射領域S2を切り抜いた背景部B3を取得する。
【0065】
そして、ステップS12において、制御部101はステップS10において取得したスリット像部S3とステップS11で取得した背景部B3とを一体化させることで第3の画像P3を生成する。つまり、図6に示すように、スリット像部S3を、背景部B3において切り抜かれている部分にはめ込むことで第3の画像P3を生成している。そして、このように生成した第3の画像P3を表示部102に表示して当該ルーチンを終了する(表示工程)。
【0066】
また、制御部101は、表示部102に表示された第3の画像P3において、スリット像部S3(スリット光照射領域)及び背景部B3(周囲領域)の明暗を調節可能である(明暗調整工程)。例えば、図7(a)に示す第3の画像P3’のように、背景部B3’を暗くしていき、スリット像部S3を際立させたり、図7(b)に示す第3の画像P3''のように、スリット像部S3''を暗くしていき、背景部B3を際立たせたりすることができる。こうしてスリット像部S3と背景部B3とのコントラストを調整できることとなる。
【0067】
以上のようにして、まずスリットランプ顕微鏡1は背景照明系20が消灯状態の第1の画像P1の撮影と背景照明系20が点灯状態の第2の画像P2の撮影を一連の動作で行い、これら第1の画像P1、第2の画像P2を表示部102にて表示することができる。したがって、主たる観察部位であるスリット光照射領域S1が高コントラストに示されている第1の画像P1と、被検眼E全体が鮮明に示されている第2の画像P2とを同時に又は連続して確認することができ、表示部102を通して被検眼Eの観察部位と全体とを容易に見比べることができる。これにより専門知識を持っていなくとも、被検眼Eの観察部位が全体のどの位置にあり、その観察部位の様子も精査することができる。
【0068】
また、第1の画像P1からスリット光照射領域S1を切り出したスリット像部S3と第2の画像P2からスリット光照射領域S2を切り抜いた背景部B3とを合成して第3の画像P3生成することによって、一枚の画像で被検眼E全体と観察部位の細部とを同時に観察することができる。これにより、より容易に被検眼Eの観察を行うことができる。
【0069】
また、第1の画像P1のスリット光照射領域S1と第2の画像P2のスリット光照射領域S2の位置のずれが許容範囲内にある場合にのみ第3の画像P3を生成することによって、精度の低い合成画像が生成されることを排除することができる。これによって、より信頼性の高い観察を行うことができる
【0070】
また、第3の画像P3においてスリット像部S3及び背景部B3の明暗を必要に応じて調節することができることで、さらに被検眼Eを観察しやすくすることができる。
【0071】
また、本実施形態のスリットランプ顕微鏡1では、シャッターを一度押下するだけで第1の画像及び第2の画像の撮影が行われることから、従来と変わらない操作で第1の画像及び第2の画像の撮影や、第3の画像の生成等が行うことができる。
【0072】
このようなことから、本実施形態に係る眼科装置及び被検眼表示方法によれば、より容易に客観的な被検眼の観察を行うことができる。
【0073】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0074】
上記実施形態におけるスリットランプ顕微鏡1の観察系6は、撮像装置13により撮像した被検眼Eの画像を表示部102を通して観察できる他、接眼レンズ37を通して肉眼で被検眼の観察を行うこともできるが、本発明は撮像装置による観察のみが行えるスリットランプ顕微鏡にも適用できる。
【0075】
また、上記実施形態では被検眼の表示ルーチンとして、第1の画像P1の撮影(ステップS3、S4)の後に、第2の画像P2の撮影(ステップS5、S6)を行っているが、これらの順序はこれに限られるものではなく、例えば第2の画像の撮影を第1の画像の撮影よりも先に行ってもよい。
【0076】
また、上記実施形態では第3の画像P3の生成において、第1の画像P1からスリット像部S3を取得(ステップS10)した後に、第2の画像から背景部B3を取得(ステップS11)しているが、これらの順序もこれに限られるものではなく、例えば第2の画像からの背景部の取得を、第1の画像からのスリット像部の取得よりも先に行ってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、第3の画像P3を生成して表示部102に表示しているが(ステップS12)、このとき第3の画像P3だけでなく第1の画像P1、第2の画像P2も同時に又は連続して表示部102に表示してもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、第2の画像は、被検眼Eにスリット光が照射され、且つ、背景照明系20が被検眼に照射しつつ背景照明系を点灯状態で撮影されているが、必ずしもスリット光は照射されている必要はなく、主照明系が消灯状態で、背景照明系20のみが点灯状態であるときに撮影してもよい。その場合、第3の画像を生成する際には、第2の画像においてスリット光の照射領域を推定して、当該推定部分を切り抜いて背景部を取得すればよい。
【0079】
さらに、上記実施形態では、第1の画像P1のスリット光照射領域S1と第2の画像P2のスリット光照射領域S2の特徴点のずれ量から両画像のずれを判別しているが、特徴点の選定はスリット光照射領域に限るものではない。例えば、目の瞳孔から特徴点を選定してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、第1の画像及び第2の画像を撮影するシャッターが操作ハンドル5に設けられた押下式のスイッチであるが、第1の画像及び第2の画像を撮影するためのトリガはこれに限られるものでなく、例えばキーボードやマウスによる操作でもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 スリットランプ顕微鏡(眼科装置)
6 観察系
8 照明系
13 撮像装置(撮像部)
20 背景照明系
20a 可視背景光源
20b 赤外可視光源
37 接眼レンズ
51 光源
54 スリット形成部
100 コンピュータ
101 制御部
102 表示部
103 操作部
E 被検眼
P1 第1の画像
P2 第2の画像
P3 第3の画像
S1、S2 スリット光照射領域
S3 スリット像部
B1、B2 背景領域
B3 背景部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7