特許第6784552号(P6784552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784552
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】塗布方法及び塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/26 20060101AFI20201102BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20201102BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20201102BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20201102BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B05D1/26 Z
   B05D3/00 D
   B05D7/00 N
   B05C5/02
   B05C11/10
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-182804(P2016-182804)
(22)【出願日】2016年9月20日
(65)【公開番号】特開2018-47400(P2018-47400A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】圓崎 諭
(72)【発明者】
【氏名】岡本 俊一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 暁雄
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−98012(JP,A)
【文献】 特開2004−258252(JP,A)
【文献】 特開2015−192984(JP,A)
【文献】 特開2013−98371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
B05C 1/00−21/00
H01L 21/00−21/46
G02B 5/00− 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定領域及び非特定領域を有する基材と、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器とを、当該一方向に交差する方向に相対移動させ、前記特定領域に塗膜を形成するための塗布方法であって、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて前記塗布器の前記先端に近い位置にある領域であり、
前記スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整することにより当該スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりを形成し、
当該液だまりが前記特定領域に接触可能でありかつ前記非特定領域に対して前記先端の前記液だまりが非接触となる位置関係で前記基材と前記塗布器とが離れて前記基材と前記塗布器とを相対移動させる塗布動作を行い、
前記塗布動作の際、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する、塗布方法。
【請求項2】
特定領域及び非特定領域を有する基材と、一方向に長いスリットが先端で下向きに開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器とを、当該一方向に交差する方向に相対移動させ、前記特定領域に塗膜を形成するための塗布方法であって、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、前記非特定領域は撥液性を有していて、
前記スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整することにより当該スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりを、前記基材に当該液だまりが接触しない位置関係で、形成する事前処理を行い、
前記事前処理の後に実塗布処理として、前記液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記基材と前記塗布器とを相対移動させる塗布動作を行い、
前記塗布動作の際、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせるために、前記事前処理の状態を保つように前記圧力調整する、塗布方法。
【請求項3】
特定領域及び非特定領域を有する基材と、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器とを、当該一方向に交差する方向に相対移動させ、前記特定領域に塗膜を形成するための塗布方法であって、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、前記非特定領域は撥液性を有していて、
前記スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整することにより当該スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりを形成するために、当該塗布器内の塗布液を負圧にすることで、前記スリットの塗布液を前記塗布器内に引く力を生じさせ、当該引く力が、当該スリットの塗布液を前記開口において表面張力により保持させる力と、バランスすることで、前記先端に前記液だまりが維持されるように、前記負圧を調整し、
当該液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記基材と前記塗布器とを相対移動させる塗布動作を行い、
前記塗布動作の際、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する、塗布方法。
【請求項4】
前記スリットが下向きに開口する状態として行う塗布方法であって、
前記スリットの塗布液と前記先端に付着する塗布液とが連続した状態で当該先端に前記液だまりが形成されるように、当該スリットの塗布液と連なる前記塗布器内の塗布液の圧力を調整する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗布方法。
【請求項5】
前記塗布動作の際、前記塗布器内の塗布液の圧力を前記相対移動の途中で変更する、請求項1〜のいずれか一項に記載の塗布方法。
【請求項6】
一つの前記特定領域は他の前記特定領域に対して独立して同じ前記基材に設けられている請求項1〜のいずれか一項に記載の塗布方法。
【請求項7】
一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、
特定領域及び非特定領域を有する基材と前記塗布器とを前記一方向に交差する方向に相対移動させる移動手段と、
前記スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりが形成されるように当該スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段と、
を備え、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて前記塗布器の前記先端に近い位置にある領域であり、
前記移動手段によって、前記先端の前記液だまりが前記特定領域に接触可能でありかつ前記非特定領域に対して前記先端の前記液だまりが非接触となる位置関係で前記基材と前記塗布器とが離れて前記相対移動させる際、前記圧力付与手段は、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する、塗布装置。
【請求項8】
一方向に長いスリットが先端で下向きに開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、
特定領域及び非特定領域を有する基材と前記塗布器とを前記一方向に交差する方向に相対移動させる移動手段と、
前記スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりが形成されるように当該スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段と、
を備え、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、前記非特定領域は撥液性を有していて、
前記圧力付与手段によって、前記スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整することにより当該スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりを、前記基材に当該液だまりが接触しない位置関係で、形成する事前処理を行い、
前記事前処理の後に実塗布処理として、前記移動手段によって、前記液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記相対移動させる際、前記圧力付与手段は、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせるために、前記事前処理の状態を保つように前記圧力調整する、塗布装置。
【請求項9】
一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、
特定領域及び非特定領域を有する基材と前記塗布器とを前記一方向に交差する方向に相対移動させる移動手段と、
前記スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりが形成されるように当該スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段と、
を備え、
前記特定領域は前記非特定領域と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、前記非特定領域は撥液性を有していて、
前記圧力付与手段によって、前記塗布器内の塗布液を負圧にすることで、前記スリットの塗布液を前記塗布器内に引く力を生じさせ、当該引く力が、当該スリットの塗布液を前記開口において表面張力により保持させる力と、バランスすることで、前記先端に前記液だまりが維持されるように、前記負圧を調整し、
前記移動手段によって、前記液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記相対移動させる際、前記圧力付与手段は、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する、塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の特定領域に塗膜を形成するための塗布方法及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハのような基材に塗膜を形成するための塗布装置として、スピンコータが知られている。しかし、スピンコータでは、通常、基材の表面全体にわたって塗膜が形成されるので、基材の特定領域には塗膜を形成するがそれ以外の領域(非特定領域)には塗膜を形成しない場合、スピンコータを採用できない。そこで、基材の特定領域にのみ塗膜を形成することを可能とする塗布装置として、スリットを有する塗布器を備えたスリットコータが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、塗布の対象となる基材は、その表面に親液性の領域と撥液性の領域とを有しており、スリットコータはこの基材上の全体に対して塗布液を吐出する。この吐出を終えた状態では、撥液性の領域にも塗布液は載っている。その後、この基材に対して、表面が親液性であるバー部材を接触させながら移動させる。これにより、バー部材の移動後、撥液性の領域の塗布液はバー部材によって基材外に除去され、親液性の領域にのみ塗布液が残り、基材の特定領域に塗膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−167696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、基材の特定領域に塗膜を形成するが、それ以外の非特定領域には塗膜を形成しないことが可能となる。しかし、この技術では、最終的に塗膜が不要である非特定領域にも塗布液を吐出しており、つまり、特定領域と非特定領域とを区別することなく基材の全域にわたって塗布液を吐出しており、その後、非特定領域の塗布液をバー部材によって除去するという方法であることから、塗布液の無駄使いが生じている。特に、非特定領域の占める割合が高い基材の場合、基材外に除去する塗布液は多くなり、塗布液の使用効率(歩留まり)が極端に低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、基材の特定領域に塗膜を形成する場合において、塗布液の使用効率が低下するのを防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定領域及び非特定領域を有する基材と、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器とを、当該一方向に交差する方向に相対移動させ、前記特定領域に塗膜を形成するための塗布方法であって、前記スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整することにより当該スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりを形成し、当該液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記基材と前記塗布器とを相対移動させる塗布動作を行い、前記塗布動作の際、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する。
【0008】
この塗布方法の前記塗布動作によれば、基材の特定領域に対しては塗布液を塗布することができ、非特定領域に対しては塗布液を塗布しないようにすることが可能となるので、不要箇所(非特定領域)に塗布液を与えず、塗布液の使用効率(歩留まり)の低下を防ぐことができる。
【0009】
また、前記塗布方法は、前記スリットが下向きに開口する状態として行う塗布方法であって、前記スリットの塗布液と前記先端に付着する塗布液とが連続した状態で当該先端に前記液だまりが形成されるように、当該スリットの塗布液と連なる前記塗布器内の塗布液の圧力を調整するのが好ましい。
これにより、塗布器の先端に液だまりが前記の状態で形成され、そして、塗布動作の際、特定領域上の液だまりの塗布液は特定領域に残留させ、かつ、非特定領域上の液だまりの塗布液は先端に留まらせることが可能となる。なお、前記「下向き」には、鉛直方向下向きの場合以外に、鉛直方向に対して傾斜する下向きの場合も含まれる。
また、前記スリットの塗布液を更に前記塗布器内に引く力が、当該スリットの塗布液を前記開口において表面張力により保持させる力と、バランスする前記圧力に調整するのが好ましい。
これにより、塗布器の先端において、スリットの塗布液とこの先端に付着する塗布液とが連続した状態で、液だまりが形成される。
【0010】
このように、スリットの塗布液と塗布器の先端に付着する塗布液とが連続した状態で液だまりが先端に形成された態様として、基材と塗布器とを相対移動させ、この液だまりの塗布液が、非特定領域から特定領域に移行すると、この特定領域に接触し、この接触の後、前記相対移動に伴って、塗布器から特定領域に対して塗布液が供給され、特定領域に対する塗布液の塗布が行われる。
なお、仮に、前記引く力が前記保持させる力よりも強くなりすぎると、スリットの塗布液は塗布器内に引きこまれ、非特定領域から特定領域に移行した際に、特定領域への塗布液の供給が停止されるおそれがある。また、これとは反対に、前記引く力が前記保持させる力よりも弱くなりすぎると、基材への塗布液の供給が過多となってしまう。
【0011】
また、前記基材として、前記特定領域は前記非特定領域と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、前記非特定領域は撥液性を有しているものが用いられる。この場合、塗布器の先端の液だまりの一部が親液度の高い特定領域に接することで、この特定領域に対して塗布される。これに対して、塗布器の先端の液だまりの一部が撥液性を有する非特定領域に接しても、この非特定領域に対して塗布されない。
また、前記特定領域は前記非特定領域と比べて前記塗布器の前記先端に近い位置にある領域であり、前記非特定領域に対して前記先端の前記液だまりが非接触となる位置関係で前記塗布器と前記基材とは離れて相対移動するようにしてもよい。この場合、塗布器の先端の液だまりの一部が特定領域に接することで、この特定領域に対して塗布されるが、非特定領域に対しては塗布されない。
【0012】
また、前記塗布動作の際、前記塗布器内の塗布液の圧力を一定に保つように調整する場合の他に、前記塗布動作の際、前記塗布器内の塗布液の圧力を前記相対移動の途中で変更してもよい。これにより、例えば、塗布動作の途中で、特定領域における塗布液の膜厚の変更が可能となる。
【0013】
また、一つの前記特定領域は他の前記特定領域に対して独立して同じ前記基材に設けられていてもよい。この場合であっても、独立した複数の特定領域それぞれに対して塗布が可能である。
【0014】
また、本発明の塗布装置は、一方向に長いスリットが先端で開口し当該開口から塗布液を吐出可能とする塗布器と、特定領域及び非特定領域を有する基材と前記塗布器とを前記一方向に交差する方向に相対移動させる移動手段と、前記スリットが開口する前記先端に塗布液の液だまりが形成されるように当該スリットを有する前記塗布器内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段と、を備え、前記移動手段によって、前記液だまりが前記特定領域に接触可能となる位置関係で前記相対移動させる際、前記圧力付与手段は、前記特定領域上の前記液だまりの塗布液は当該特定領域に残留させ、かつ、前記非特定領域上の前記液だまりの塗布液は前記先端に留まらせる前記圧力に調整する。
【0015】
この塗布装置によれば、前記相対移動の際、基材の特定領域に対しては塗布液を塗布することができ、非特定領域に対しては塗布液を塗布しないようにすることが可能となるので、不要箇所(非特定領域)に塗布液を与えず、塗布液の使用効率(歩留まり)の低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材の不要箇所に塗布液を与えないことから、塗布液の使用効率(歩留まり)の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】塗布装置の全体構成を説明する概略図である。
図2】基材の平面図である。
図3】基材の断面図である。
図4】(A)は、塗布器及び基材を示す斜視図であり、(B)は、塗布器のうち、基材が直下に存在する部分における断面図であり、(C)は、塗布器のうち、基材が直下に存在していない部分における断面図である。
図5】塗布器の先端及び液だまりの説明図である。
図6】塗布方法を説明する説明図である。
図7】他の基材に対して行う塗布方法を説明する説明図である。
図8】他の基材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔塗布装置の構成について〕
図1は、塗布装置(スリットコータ)5の全体構成を説明する概略図である。この塗布装置5は、基材7に対して塗布液を供給して基材7の表面に対して部分的にかつ一括して塗膜を形成するための装置である。基材7は、ロールトゥロールで送られる帯状の薄い部材であってもよいが、本実施形態では、枚葉状の薄い部材(基板)としている。なお、基材7を枚葉状とする場合、その輪郭形状は、矩形であってもよく、円形であってもよく、又は、その他の形状であってもよい。
【0019】
図2は、基材7の平面図である。図3は、図2に示す基材7の断面図(A−A矢視の断面図)である。基材7は、特定領域K1及び非特定領域K2を有する。図2及び図3に示す基材7の場合、特定領域K1は、非特定領域K2と比べて塗布液との親液度が高い領域であり、親液性を有している。これに対して、非特定領域K2は、塗布液に対して撥液性を有している。つまり、基材7は、塗布特性(塗布液に対する特性)が異なる特定領域K1及び非特定領域K2を有しており、特定領域K1は親液領域であり、非特定領域は撥液領域である。特定領域K1と非特定領域K2とは基材7の同じ平面上に設けられている。そして、図1に示す塗布装置5によって行われる塗布方法では、基材7の特定領域K1には塗布液による塗膜が形成されるが、この特定領域K1以外の非特定領域K2には塗膜が形成されない。この塗布方法の具体例については後に説明する。
【0020】
図1に示す塗布装置5は、基材7よりも上側に位置する塗布器10(ノズル、スリットダイともいう)を備えており、この塗布器10から基材7に塗布液が供給(吐出)される。基材7の上面が、塗布液が塗布される被塗布面8となり、この被塗布面8が上向きとなる姿勢で基材7はステージ9上に支持され、その状態で塗布が行われる。
塗布装置5は、塗布器10の他に、基材7と塗布器10とを相対的に移動させる移動手段20と、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する圧力付与手段40とを備えている。更に、塗布装置5は、各種制御を行うコンピュータからなる制御装置50と、塗布器10内の塗布液の圧力を計測するための圧力センサ60とを備えている。
【0021】
塗布器10について説明する。図4(A)は、塗布器10及び基材7を示す斜視図であり、図4(B)は、この塗布器10のうち、基材7が直下に存在する部分における断面図であり、図4(C)は、塗布器10のうち、基材7が直下に存在していない部分における断面図である。塗布器10は、図4(A)に示すように、一方向に長い直線状のノズルからなり、先端17が先細りとなった形状を有している。図4(B)(C)に示すように、塗布器10は、塗布液が溜められる溜め部13と、この溜め部13と繋がっているスリット(スリット状流路)12とを有している。スリット12は、先端17に有する面18(以下、先端面18ともいう)で開口しており、溜め部13の塗布液がスリット12を通じて開口11から基材7に供給される。溜め部13は、開口11から供給する塗布液を一旦溜めるために拡大させた領域である。溜め部13、スリット12、先端面18及び開口11は、一方向(図4(B)(C)の紙面に直交する方向)に沿って長く形成されている。
【0022】
図4(A)に示すように、本実施形態の基材7(被塗布面8)の輪郭形状は円形であり、開口11は基材7(被塗布面8)の直径D(基材7の前記一方向の最大寸法)よりも大きな幅寸法Wを有している(W>D)。このため、塗布器10(開口11)には、基材7が直下に存在する部分と、基材7が直下に存在しない部分とが生じ、また、これらの部分それぞれの範囲(長さ)は、基材7と塗布器10(開口11)との相対的な位置に応じて変化する。
また、本実施形態では、基材7に対して開口11から塗布液が下向きに吐出される。後述する塗布動作の際、溜め部13、スリット12は、塗布液で満たされた状態(つまり、充満状態)となる。
【0023】
図1において、圧力センサ60は、塗布器10に設けられており、塗布器10内の塗布液の圧力を測定するセンサである。本実施形態では、圧力センサ60の検出部(センサ部)は溜め部13において露出しており、溜め部13の塗布液の圧力(内圧)が測定される。圧力センサ60の測定結果は制御装置50に入力される。なお、以下の説明における「塗布器10内の塗布液の圧力」は、溜め部13に溜められている塗布液の圧力(内圧)を意味する。
【0024】
塗布装置5は、装置基台6、及び、この装置基台6に搭載され基材7を上に載せるステージ9を更に備えている。ステージ9上の基材7の被塗布面8は水平となる。そして、本実施形態では、ステージ9に対して塗布器10が移動手段20によって移動可能となる。
移動手段20は、装置基台6に設けられているレール21、このレール21に沿って水平方向に移動する可動ブロック22、及び、可動ブロック22を移動させるリニアアクチュエータ23を備えている。そして、塗布器10は可動ブロック22に搭載されている。この移動手段20により、固定状態にあるステージ9上の基材7に対して、塗布器10が水平方向に移動可能となる。なお、移動手段20は、塗布器10と基材7とを、前記一方向(スリット12の長手方向)に交差(直交)する方向に相対移動させる構成であればよく、図示しないが、固定状態にある塗布器10に対してステージ9(基材7)を移動させる構成であってもよい。また、移動手段20は、塗布器10を上下方向に移動させる昇降アクチュエータ24を備えている。これにより、基材7に対する塗布器10(開口11)の高さを変更することが可能である。移動手段20は、制御装置50によって制御され、所定の速度(具体的には一定速度)で塗布器10を水平方向に移動させることができる。
【0025】
圧力付与手段40は、タンク41及び圧力調整器42を含む。タンク41は、塗布液を溜めていると共に、配管82を通じて塗布器10と接続されている。タンク41は、塗布器10よりも高い位置に設けられている。配管82には開閉切り換えバルブ72が設けられており、バルブ72が開状態で、タンク41と塗布器10(溜め部13)との間で塗布液が流通可能となっている。バルブ72は、塗布器10とタンク41とを連通及び遮断可能とする。タンク41に溜めることができる塗布液の容量は、塗布器10の溜め部13の容量(容積)よりも大きい。
圧力調整器42は、レギュレータからなり、タンク41の塗布液に作用させる圧力を変化させる。圧力調整器42は、制御装置50によって制御され、タンク41の塗布液の圧力(内圧)を調整する。タンク41と塗布器10とは配管82を通じて接続されていることから、タンク41の塗布液の圧力を調整することで、塗布器10(溜め部13)の塗布液の圧力を所定の値に調整する(つまり制御する)ことができる。例えば、タンク41の塗布液の圧力(ゲージ圧)を負圧に調整することで、塗布器10(溜め部13)の塗布液の圧力(ゲージ圧)を負圧にする。
【0026】
本実施形態では、圧力調整器42は、塗布器10内の塗布液の圧力を所定の値(負圧)に保つようにタンク41に溜めている塗布液の圧力を調整する機能を有しており、これら圧力調整器42及びタンク41によって、塗布器10内の塗布液に圧力(負圧)を作用させると共にその圧力(負圧)を調整する圧力付与手段40が構成されている。
そして、後の塗布方法でも説明するが、前記移動手段20によって基材7と塗布器10とを、両者の隙間を一定に保ちつつ、相対移動させる際に、圧力付与手段40は、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する構成となっている。なお、本実施形態では、塗布動作の際、塗布器10内の塗布液の圧力は一定値に保たれるように調整される。この調整は、圧力センサ60の検出結果に基づいて行われる。
【0027】
〔塗布動作について〕
以上の構成を備えている塗布装置5によって行われる塗布方法について説明する。
ステージ9上に載せた基材7に対して塗布器10の先端面18を接近させ、移動手段20によって塗布器10を移動させながら、この基材7に対して塗布液の塗布を行うが、この移動開始の前に、圧力付与手段40は事前処理を行う。つまり、塗布装置5が行う塗布動作には、事前処理と、この事前処理の後に続けて行われる実塗布処理とが含まれる。
【0028】
圧力付与手段40は事前処理として、図5に示すように、先端面18に塗布液の液だまり2を形成する。しかも、この液だまり2は、スリット12の塗布液2aと、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bとが連続した状態とする。これを実現するために、本実施形態の塗布方法は、スリット12が下向きに開口する状態として行う方法であることから、図1に示すバルブ72が開の状態で、圧力付与手段40は、先ず、タンク41の塗布液の圧力を大気圧よりも高く設定し、塗布器10内の塗布液の圧力を大気圧よりも一時的に高くして開口11から塗布液を少量吐出する。その後、圧力付与手段40は、タンク41の塗布液の圧力を大気圧よりも低く設定し、塗布器10内の塗布液の圧力を大気圧よりも低くする。このように、圧力付与手段40が、塗布器10内の塗布液の圧力を調整することによって、前記塗布液2aと前記塗布液2bとが連続した状態となって液だまり2は形成され、この液だまり2は先端面18から下に垂れた状態となり、この状態が維持される。
【0029】
前記のとおり、スリット12の塗布液2aと先端面18に表面張力で付着する塗布液2bとが連続した状態にある液だまり2を、先端面18に形成するために、圧力付与手段40が行う具体的な圧力調整について説明する。
圧力付与手段40は、塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)を正圧にした後、塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)を負圧にすることで、スリット12の塗布液2aを更に塗布器10内の溜め部13に引く力F1を生じさせるが、この引く力F1が、スリット12の塗布液2aを開口11(のエッジ)において表面張力により保持させる力(合力)F2と、バランスするように、塗布器10内の塗布液の圧力を調整する(事前処理)。
【0030】
そして、図6により説明するように、塗布器10の先端面18に形成した液だまり2が特定領域K1に接触可能となる位置関係で、移動手段20は、基材7と塗布器10とを、両者の隙間を一定に保ちつつ、相対移動させる(実塗布処理)。この移動の際、圧力付与手段40が、塗布器10内の塗布液の圧力をそのまま保つように調整(事前処理の状態を保つように調整)することによって、特定領域K1上の液だまり2の塗布液はこの特定領域K1に残留させるが、非特定領域K2上の液だまり2の塗布液は先端17(先端面18)にそのまま留まらせるようにする。
【0031】
図6により、実塗布処理の様子を説明する。
図6(A)に示すように、基材7の特定領域K1上を塗布器10の先端面18が通過する際、この先端面18に形成されている液だまり2の塗布液は、特定領域K1に接触する。すると、特定領域K1は親液性を有することから、特定領域K1に接触している塗布器10外の塗布液の表面張力が、塗布器10内での前記引く力F1よりも大きくなる。これはスリット12が開口する先端面18と基材7との間における塗布液の毛細管現象による。このため、前記バランスが崩れ、スリット12から特定領域K1へ塗布液が引き出され、特定領域K1に対して塗布される。
【0032】
前記相対移動が続けて行われ、図6(B)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、撥液性を有する非特定領域K2上に位置しても、更には、図6(C)に示すように、先端面18の液だまり2の全部が、撥液性を有する非特定領域K2上に位置しても、前記引く力F1は維持されていることから、非特定領域K2に対して塗布されない。なお、本実施形態では、特定領域K1と非特定領域K2とが同一面上に形成されていることから、先端面18の液だまり2(の一部)は、撥液性を有する非特定領域K2に接することがあるが、このように接しても、前記引く力F1は維持されており、非特定領域K2に対して塗布されない。
これは、塗布器10の先端面18で液だまり2の塗布液を保持する力(保持力)が、非特定領域K2に塗布液が付着しようとする力(付着力)よりも大きいことに依る。本実施形態では、非特定領域K2は撥液性を有していることから、前記付着力は負の値(斥力)となる。また、前記保持力には、先端面18における塗布液の表面張力の他に、前記引く力F1が含まれる。
【0033】
本実施形態では、前記のとおり、先端面18における液だまり2は下に垂れた状態として形成されていることから、図6(D)に示すように、前記相対移動が続けて行われ、先端面18の液だまり2の一部が、次の特定領域K1に到達すると、この液だまり2の一部は特定領域K1に接触し、特定領域K1に対して塗布される。更に、図6(A)と同様の状態となって、スリット12から特定領域K1へ塗布液が自動的に引き出され、特定領域K1に対して塗布される。
【0034】
ここで、前記引く力F1が前記保持させる力F2(図5参照)とバランスしておらず、前記引く力F1が前記保持させる力F2に勝っている場合(つまり、塗布器10内の負圧が強い場合)、図6(B)に示す状態から図6(C)に示す状態に移行すると、スリット12の塗布液2aが、溜め部13側に大きく引きこまれてしまい、スリット12の塗布液2aが、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bと連続しない状態となってしまう場合がある。この場合、図6(D)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、次の特定領域K1に到達し接触しても、先端面18に表面張力で付着する塗布液2bは、特定領域K1に残留することは可能であるが、スリット12に大きく引きこまれた塗布液2aが、開口11から塗布器10外へ引き出されず(自動的に供給されず)、特定領域K1で塗布不良が生じてしまう。
しかし、本実施形態では、塗布器10内の塗布液の圧力が所定の値(前記バランスをとる値)に調整されていることから、このような塗布不良を防ぐことが可能となる。
また、これとは反対に、前記引く力F1が前記保持させる力F2よりも弱くなりすぎると、特定領域K1への塗布液の供給が過多となってしまう。
【0035】
以上のように、基材7と塗布器10(開口11)とを上下方向に対向させた状態で、移動手段20によってこれらを相対的に移動させると、特定領域K1に対して塗布液が供給されて塗布が可能となる。
一方向に細長い開口11に対向して、図4(B)に示すように基材7が存在する部分であってかつその基材7の特定領域K1に対しては、塗布液が塗布器10から供給される。これに対して、開口11に対向して、基材7が存在する部分であっても非特定領域K2に対しては、塗布液が供給されず、また、図4(C)に示すように基材7の無い部分では塗布液の吐出がされない。なお、このように、非特定領域K2に対して塗布液が供給されない場合であっても、また、図4(C)に示すように基材7の無い部分に対して塗布液の吐出がされない場合であっても、先端面18には液だまり2が形成された状態にある。
本実施形態の塗布動作は、下向きに開口するスリット12が形成されている塗布器10内の塗布液の圧力を、前記のように負圧に調整することで行われるため、図2に示す基材7を塗布の対象とした場合、特定領域K1に対して塗布がされ、非特定領域K2に対しては塗布がされず、また、余剰となる塗布液を塗布器10内に引き込むことができ、塗布液を無駄にすることがない。つまり、基材7の不要箇所(非特定領域K2)に塗布液を与えず、塗布液の使用効率(歩留まり)の低下を防ぐことができる。
【0036】
以上のように、本実施形態の塗布装置5によって実行される塗布方法は、基材7と塗布器10とを相対移動させ、特定領域K1のみに塗膜を形成し、この特定領域K1以外の非特定領域K2に塗膜を形成しないための塗布方法である。そして、この塗布方法では、塗布動作として、スリット12を有する塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を調整することにより、このスリット12が開口する先端17に塗布液の液だまり2を形成し、この液だまり2が特定領域K1に接触可能となる位置関係で基材7と塗布器10とを相対移動させる。この塗布動作の際、圧力付与手段40が塗布器10内の塗布液を調整し、下記に定義する調整圧力とする。
〔調整圧力〕:特定領域K1上の液だまり2の塗布液はこの特定領域K1に残留させ、かつ、非特定領域K2上の液だまり2の塗布液は先端17にそのまま留まらせる圧力
【0037】
また、本実施形態の塗布方法は(図5参照)、塗布器10内のスリット12の塗布液2aと、先端面18に表面張力で付着する塗布器10外の塗布液2bとが連続した状態で、先端面18に液だまり2が形成されるように、このスリット12の塗布液と連なる塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を、圧力付与手段40が調整している。これにより、塗布器10の先端17に液だまりが図5に示す状態で形成され、そして、塗布動作の際、特定領域K1上の液だまり2の塗布液は特定領域K1に残留させ、かつ、非特定領域K2上の液だまり2の塗布液は先端17にそのまま留まらせることが可能となる。
そして、前記塗布動作の際、溜め部13の負圧によりスリット12の塗布液2aを更に塗布器10内に引く力F1が、スリット12の塗布液2aを開口11において表面張力により保持させる力F2と、バランスする圧力に、圧力付与手段40が塗布器10内の塗布液(溜め部13の塗布液)の圧力を調整する。これにより、塗布器10の先端17において、スリット12の塗布液2aとこの先端17に付着する塗布液2bとが連続した状態で、液だまり2が形成される。
【0038】
このように、スリット12の塗布液2aとこの先端17に付着する塗布液2bとが連続した状態で液だまり2が先端17に形成された態様として、基材7と塗布器10とを相対移動させ、図6(C)から(D)に示すように、この液だまり2の塗布液が、非特定領域K2から特定領域K1に移行すると、この特定領域K1に接触し、この接触の後、塗布器10の移動に伴って、塗布器10から特定領域K1に対して塗布液が表面張力(毛細管現象)によって引き出され、特定領域K1に対する塗布液の塗布が行われる。塗布器10から基材7の特定領域K1に供給されることで不足する塗布液は、タンク41(図1参照)から自動的に補充される。
【0039】
〔基材7が他の形態である場合の説明〕
前記実施形態では、基材7において、特定領域K1が親液性を有し、非特定領域K2が撥液性を有する場合について説明したが、図7(A)に示すように、特定領域K1は非特定領域K2と比べて塗布器10の先端17に近い位置にある領域であってもよい。そして、塗布動作の際、特定領域K1は、塗布器10の先端面18に形成される液だまり2の一部と接触可能となる位置にあるが、非特定領域K2は、前記液だまり2と非接触となる位置にある(図7(C)参照)。つまり、特定領域K1は、基材7のうちの凸となる部分(凸部)の表面であり、非特定領域K2は、凹となる部分(凹部)の表面である。これら表面の高さ寸法の差は、例えば500マイクロメートルである。なお、この基材7の場合、非特定領域K2は撥液性を有していなくて良く、特定領域K1と同等の親液性とすることができる。そして、非特定領域K2に対して塗布器10の先端17の液だまり2が非接触となる位置関係で、塗布器10と基材7とを離して相対移動させる。
【0040】
このような凹凸形状を有する基材7を塗布の対象とした場合の塗布動作を図7により説明する。
図7(A)に示すように、基材7の特定領域K1上を先端面18が通過する際、この先端面18に形成されている液だまり2の塗布液は、特定領域K1に接触する。すると、特定領域K1は親液性を有することから、特定領域K1に接触している塗布器10外の塗布液の表面張力が、塗布器10内での前記引く力F1よりも大きくなる。これはスリット12が開口する先端面18と基材7との間における塗布液の毛細管現象による。このため、前記バランスが崩れ、スリット12から特定領域K1へ塗布液が引き出され、特定領域K1に対して塗布される。
【0041】
前記相対移動が続けて行われ、図7(B)に示すように、先端面18の液だまり2の一部が、特定領域K1よりも凹んでいる非特定領域K2上に位置しても、更には、図7(C)に示すように、先端面18の液だまり2の全部が、非特定領域K2上に位置しても、液だまり2は非特定領域K2に接触しないことから、非特定領域K2に対して塗布されない。
【0042】
本実施形態では、前記のとおり、先端面18における液だまり2は下に垂れた状態として形成されていることから、図7(D)に示すように、前記相対移動が続いて行われ、先端面18の液だまり2の一部が、次の特定領域K1に到達すると、この液だまり2の一部は特定領域K1に接触し、特定領域K1に対して塗布される。更に、図7(A)と同様の状態となって、スリット12から特定領域K1へ塗布液が自動的に引き出され、特定領域K1に対して塗布される。
【0043】
このような表面に凹凸を有する基材7を塗布の対象とする場合であっても、塗布器10の先端17の液だまり2の一部が特定領域K1に接することで、この特定領域K1に対して塗布されるが、非特定領域K2に対して塗布されない。この場合の塗布動作も、下向きに開口するスリット12が形成されている塗布器10内の塗布液の圧力を、前記のように負圧に調整することで行われる方法による。
【0044】
〔塗布動作について〕
また、前記各実施形態では、塗布動作の際、塗布器10の先端17が特定領域K1上を通過する場合であっても非特定領域K2上を通過する場合であっても、塗布器10内の塗布液の圧力を一定に保つように調整している。しかし、これ以外として、塗布動作の際、塗布器10内の塗布液の圧力を前記相対移動の途中で変更してもよい。これにより、例えば、塗布動作の途中で、特定領域K1における塗布液の膜厚の変更が可能となる。つまり、前記相対移動の移動方向の途中から特定領域K1に形成する塗膜の厚さを、当該途中までの特定領域K1に形成する塗膜の厚さと相違させることが可能となる。なお、このように途中で圧力を変更する手段は、基材7が親液の領域及び撥液の領域を有する場合(図6に示す形態)及び基材7が凹凸を有する場合(図7に示す形態)の双方に適用可能である。
【0045】
〔基材7について〕
図2に示すように、前記各実施形態では、基材7には複数の特定領域K1が形成されており、各特定領域K1は島状に形成されている。つまり、一つの特定領域K1は他の特定領域K1に対して独立して(離れて)同じ基材7に設けられている。そして、非特定領域K2が網目状となっている。このような基材7を塗布の対象として前記塗布装置5及び塗布方法によって塗布液の塗布を行えば、独立した複数の特定領域K1それぞれに対してのみ塗布液の塗布が可能となる。
図2では、特定領域K1を島状としており、その周囲を非特定領域K2としているが、これら領域が反対に分布されたものであってもよい。つまり、図8は、他の基材7の平面図である。この図8に示すように、非特定領域K2を島状としており、その周囲を特定領域K1としている。この場合、特定領域K1が網目状となる。そして、このような基材7を対象として前記塗布装置5によって塗布動作を行うことができ、この場合、網目状である特定領域K1にのみ塗布液が塗布される。例えば塗布液が導電性を有する場合、網目状の電極を有する基材7が得られる。
図2及び図8それぞれに示す基材7の場合、基材7と塗布器10との相対移動の方向に沿って、特定領域K1と非特定領域K2とが交互に配置されるが、本実施形態の塗布装置5及び塗布方法によれば、特定領域K1のみに対して塗布(パターン塗布)が可能である。
【0046】
〔付記〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
本発明が適用される基材7として、例えば半導体ウエハ(シリコンウエハ)や電極基板等が挙げられるが、その他様々な用途に用いることが可能である。
また、前記実施形態では、塗布器10の開口11から塗布液が吐出される方向は、下向きであるが、これに限らず、斜め下向きであってもよく、また、横向き(水平方向向き)、上向き、斜め上向きとする場合もある。
【符号の説明】
【0047】
2:液だまり 5:塗布装置 7:基材
10:塗布器 11:開口 12:スリット
17:先端 18:面(先端面) 20:移動手段
40:圧力付与手段 K1:特定領域 K2:非特定領域
F1:引く力 F2:保持させる力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8