特許第6784579号(P6784579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社トランストロンの特許一覧

<>
  • 特許6784579-故障診断装置および故障診断方法 図000005
  • 特許6784579-故障診断装置および故障診断方法 図000006
  • 特許6784579-故障診断装置および故障診断方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784579
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】故障診断装置および故障診断方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/49 20160101AFI20201102BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20201102BHJP
   F02M 26/47 20160101ALI20201102BHJP
【FI】
   F02M26/49 321
   F02D21/08 Z
   F02M26/47 C
   F02M26/49 301
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-233231(P2016-233231)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-91179(P2018-91179A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】塙 哲史
(72)【発明者】
【氏名】藤江 英和
(72)【発明者】
【氏名】伊海 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】出川 拓真
【審査官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−203969(JP,A)
【文献】 特開平10−077911(JP,A)
【文献】 特開2013−204454(JP,A)
【文献】 特開2016−037932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02M 26/47
F02M 26/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管から吸気管へEGRガスを導入するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断装置であって、
実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出する計算部と、
前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断する診断部と、を備え、
前記第2流量は、
前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、
前記有効開口面積は、
前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積であ
前記診断部は、
前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とが、予め定められた診断不実行条件に該当する場合、前記EGRバルブが故障しているか否かの診断を行わず、
前記診断不実行条件は、
前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とに応じて予め計測された前記EGRガスの流量を正規化して得られた標準偏差が所定値以上となる、前記EGRバルブの開度および前記差圧または前記圧力比である、
故障診断装置。
【請求項2】
前記計算部は、下記計算式(1)に基づいて、前記第2流量を算出する、
請求項1に記載の故障診断装置。
【数1】
m:前記第2流量
A:前記有効開口面積
:前記EGRバルブの下流の圧力
:前記EGRバルブの上流の圧力
:前記EGRバルブの上流の温度
κ:前記比熱比
t:時間
【請求項3】
吸気管と排気管とを接続するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断方法であって、
実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出し、
前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断し、
前記第2流量は、
前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、
前記有効開口面積は、
前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積であ
前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とが、予め定められた診断不実行条件に該当する場合、前記EGRバルブが故障しているか否かの診断を行わず、
前記診断不実行条件は、
前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とに応じて予め計測された前記EGRガスの流量を正規化して得られた標準偏差が所定値以上となる、前記EGRバルブの開度および前記差圧または前記圧力比である、
故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRバルブの故障を診断する故障診断装置および故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンには、排気ガスに含まれるNOxを低減させるために、排気ガスの一部を排気管から吸気管へ導入するEGR(Exhaust Gas Recirculation)管が搭載されている。EGR管にはEGRバルブが設けられており、このEGRバルブの開度が制御されることにより、吸気管へ導入されるEGRガスの流量が調整される。
【0003】
例えば、特許文献1には、EGRバルブの故障を診断する装置が開示されている。この装置は、実際にEGR管を流れるEGRガスの流量と、ベルヌーイの定理に基づく計算式により算出されたEGRガスの推定流量との乖離に基づいて、EGRバルブの故障を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−37932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の計算式では流量の推定精度が不十分であるため、高精度の故障診断を行えないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、EGRバルブの故障の診断を精度良く行うことができる故障診断装置および故障診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の故障診断装置は、排気管から吸気管へEGRガスを導入するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断装置であって、実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出する計算部と、前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断する診断部と、を備え、前記第2流量は、前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、前記有効開口面積は、前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積であ前記診断部は、前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とが、予め定められた診断不実行条件に該当する場合、前記EGRバルブが故障しているか否かの診断を行わず、前記診断不実行条件は、前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とに応じて予め計測された前記EGRガスの流量を正規化して得られた標準偏差が所定値以上となる、前記EGRバルブの開度および前記差圧または前記圧力比である
【0008】
本発明の故障診断方法は、吸気管と排気管とを接続するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断方法であって、実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出し、前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断し、前記第2流量は、前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、前記有効開口面積は、前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積であ前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とが、予め定められた診断不実行条件に該当する場合、前記EGRバルブが故障しているか否かの診断を行わず、前記診断不実行条件は、前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とに応じて予め計測された前記EGRガスの流量を正規化して得られた標準偏差が所定値以上となる、前記EGRバルブの開度および前記差圧または前記圧力比である
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、EGRバルブの故障の診断を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1、2に係る故障診断装置およびエンジンの構成例を示す図
図2】本発明の実施の形態1に係る故障診断装置の動作例を示す図
図3】本発明の実施の形態2に係る診断不実行条件の一例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<実施の形態1>
本発明の実施の形態に係る故障診断装置およびエンジンの構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る故障診断装置1およびエンジン2の構成例を示す図である。
【0013】
まず、エンジン2について説明する。
【0014】
エンジン2は、4つの気筒3を有するディーゼルエンジンである。なお、エンジン2は、4気筒以外の多気筒エンジンでもよいし、単気筒エンジンでもよい。
【0015】
インジェクタ(燃料噴射弁ともいう)4は、各気筒3に対応して設けられており、コモンレール5から供給される燃料を各気筒3の燃焼室内に噴射する。
【0016】
エアフィルタ6には、吸気管7の上流端が接続されている。吸気管7の下流端は、ターボチャージャ8のコンプレッサ9の入口に接続されている。コンプレッサ9の出口には、高圧側吸気管11が接続されている。高圧側吸気管11は、EGR管15の下流端と接続されている。また、高圧側吸気管11は、吸気マニホールド12に接続されている。
【0017】
このような構成により、エアフィルタ6から取り込まれた大気からの空気(以下、吸入空気という)は、吸気管7を経て、コンプレッサ9より圧縮され、高圧の吸入空気となる。そして、コンプレッサ9から高圧側吸気管11へ流入した吸入空気は、EGR管15からのEGRガスと混合する。この混合気を以下「作動ガス」という。作動ガスは、吸気マニホールド12を経て各気筒3の燃焼室へ流入する。
【0018】
排気マニホールド13には、高圧側排気管14が接続されている。高圧側吸気管14には、EGR管15が接続されている。EGR管15には、EGRガスを冷却するEGRクーラ16と、高圧側吸気管11へ流入するEGRガスの流量を調節するEGRバルブ17とが設けられている。なお、本実施の形態において、「流量」は、質量流量を意味するものとする。
【0019】
また、高圧側排気管14には、ターボチャージャ8のタービン10の入口が接続されている。タービン10の出口には、排気管18が接続されている。排気管18には、排気ガス浄化装置19が設置されている。
【0020】
このような構成により、各気筒3の燃焼室からの排気ガスは、排気マニホールド13から高圧側排気管14へ流入する。この排気ガスの一部(EGRガス)は、EGR管15を介して高圧側吸気管11へ流入する。一方、タービン10へ流入した排気ガスは、排気管18を経て、排気ガス浄化装置19へ流入する。排気ガス浄化装置19にて浄化された排気ガスは、車両外へ排出される。
【0021】
吸気管7には、吸入空気の流量を検知するエアフローセンサ20が設けられている。また、高圧側吸気管11には、作動ガスの圧力を検知する圧力センサ21と、作動ガスの温度を検知する温度センサ22とが設けられている。圧力センサ21により検知される圧力は、「EGRバルブ17の下流の圧力」に相当する。
【0022】
なお、エアフローセンサ20、圧力センサ21、および温度センサ22の設置場所は図1に示す設置場所に限定されない。例えば、エアフローセンサ20、圧力センサ21、および温度センサ22は、吸気マニホールド12に設けられてもよい。
【0023】
EGR管15には、EGRバルブ17の上流を流れるEGRガスの圧力を検知する圧力センサ23と、EGRバルブ17の上流を流れるEGRガスの温度を検知する温度センサ24とが設けられている。圧力センサ23により検知される圧力は、「EGRバルブ17の上流の圧力」に相当する。温度センサ24により検知される温度は、「EGRバルブ17の上流の温度」に相当する。
【0024】
エアフローセンサ20、圧力センサ21、23、および、温度センサ22、24の各検知結果は、故障診断装置1へ出力される。
【0025】
以上、エンジン2について説明した。
【0026】
次に、故障診断装置1について説明する。
【0027】
故障診断装置1は、計算部100および診断部101を有する。故障診断装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、RAM(Random Access Memory)等の作業用メモリ、および、入出力ポートを有する。計算部100および診断部101の各機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。
【0028】
計算部100は、エアフローセンサ20、圧力センサ21、および温度センサ22の各検知結果等に基づいて、実際にEGR管15を流れるEGRガスの流量(以下、第1流量という)を算出する。この算出処理の具体例については後述する。
【0029】
また、計算部100は、圧力センサ21、圧力センサ23、および温度センサ24の各検知結果等に基づいて、EGR管15を流れると推定されるEGRガスの流量(以下、第2流量という)を算出する。この算出処理の具体例については後述する。
【0030】
また、計算部100は、第1流量と第2流量との差を算出する。
【0031】
診断部101は、第1流量と第2流量との差(以下、流量差という)が予め設定された閾値以上であるか否かを判定する。この閾値は、例えば、所定の法規に定められた規定値でもよいし、その規定値に基づいて製造メーカ等が設定した値でもよい。
【0032】
診断部101は、流量差が閾値以上である場合、EGRバルブ17が故障していると診断する。一方、診断部101は、流量差が閾値未満である場合、EGRバルブ17が故障していないと診断する。
【0033】
なお、診断部101は、EGRバルブ17が故障していると診断した場合、その旨をユーザ(例えば、車両の乗員)に知らせるように所定装置(例えば、ランプ、ディスプレイ、スピーカ等)を制御してもよい。
【0034】
以上、故障診断装置1およびエンジン2の構成について説明した。
【0035】
次に、本発明の実施の形態に係る故障診断装置1の動作について、図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態に係る故障診断装置1の動作例を示す図である。
【0036】
まず、計算部100は、第1流量を算出する(ステップS101)。
【0037】
例えば、まず、計算部100は、状態方程式P×V=Gwg×R×Tを用いて、作動ガスの流量Gwgを算出する。この状態方程式において、Pは作動ガスの圧力(圧力センサ21の検知結果)、Vはエンジン回転数とエンジン2の排気量との乗算値に基づく値、Rは気体定数、Tは作動ガスの温度(温度センサ22の検知結果)である。
【0038】
次に、計算部100は、作動ガスの流量Gwgから、エアフローセンサ20により検知された吸入空気の流量を減算する。この結果、第1流量が算出される。
【0039】
次に、計算部100は、第2流量を算出する(ステップS102)。
【0040】
例えば、計算部100は、下記計算式(1)に基づいて、第2流量mを算出する。計算式(1)において、Aは有効開口面積であり、pはEGRバルブ17の下流の圧力(圧力センサ21の検知結果)であり、pはEGRバルブ17の上流の圧力(圧力センサ23の検知結果)であり、TはEGRバルブ17の上流の温度(温度センサ24の検知結果)であり、κは予め設定された比熱比であり、tは時間である。有効開口面積は、EGRバルブ17に対する開度指令値(換言すれば、EGRバルブ17の開度)と、EGRバルブ17の上流の圧力とEGRバルブ17の下流の圧力との差圧または圧力比とに対応するEGRバルブ17の開口面積である。
【0041】
【数1】
【0042】
次に、計算部100は、第1流量と第2流量に基づいて、流量差を算出する(ステップS103)。
【0043】
次に、診断部101は、算出された流量差が予め設定された閾値以上であるか否かを判定する(ステップS104)。
【0044】
流量差が閾値以上である場合(ステップS104:YES)、診断部101は、EGRバルブ17が故障していると判定する(ステップS105)。
【0045】
一方、流量差が閾値以上ではない場合(ステップS104:NO)、診断部101は、EGRバルブ17が故障していないと判定する(ステップS106)。
【0046】
以上、故障診断装置1の動作について説明した。
【0047】
本実施の形態の故障診断装置1は、EGRバルブ17に対する開度指令値(EGRバルブ17の開度)と、EGRバルブ17の上流の圧力とEGRバルブ17の下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する有効開口面積を用いて、第2流量を算出する。これに対して、例えば特許文献1では、開度指令位置のみに対応する開口面積(以下、幾何学的な開口面積という)を用いて第2流量を算出している。しかしながら、EGRバルブの上流側の圧力と下流側の圧力との差圧または圧力比に応じて、実際にEGRガスが流れる面積(有効開口面積)は変化することが知られている。そのため、幾何学的な開口面積を用いて算出される第2流量は、精度を欠くおそれがある。本実施の形態の故障診断装置1は、有効開口面積を用いて第2流量を算出するため、第2流量を高精度に算出できる。従って、故障診断装置1は、EGRバルブの故障の診断を精度良く行うことができる。
【0048】
<実施の形態2>
上記計算式(1)により算出される第2流量は、EGRバルブ17の開度(以下、バルブ開度という)、および、EGRバルブ17の上流の圧力とEGRバルブ17の下流の圧力との差圧または圧力比(以下、単に、差圧または圧力比という)に応じて、推定精度にばらつきが生じることがある。
【0049】
そこで、本実施の形態では、第2流量の推定精度にばらつきが生じうる、バルブ開度と、差圧または圧力比とを、診断不実行条件として予め設定しておき、診断実行前のバルブ開度と、差圧または圧力比とが診断不実行条件に該当する場合には、故障の診断を行わないようにする。
【0050】
以下、具体例について説明する。なお、本実施の形態の故障診断装置1およびエンジン2の構成は、実施の形態1と同様であるので、ここでの説明は省略し、以下では、故障診断装置1の動作について説明する。また、以下では、差圧を例に挙げて説明するが、圧力比であってもよい。
【0051】
例えば、製造メーカ等は、故障診断装置1に定常運転試験データを入力する。この定常運転試験データには、予め計測されたバルブ開度および差圧毎のEGRガスの流量を示すデータが含まれる。
【0052】
次に、故障診断装置1の計算部100は、定常運転試験データに含まれるEGRガスの流量を正規化し、標準偏差を算出する。
【0053】
ここで、算出された標準偏差がバルブ開度および差圧毎にプロットされた例を図3(a)および図3(b)に示す。
【0054】
次に、計算部100は、複数の標準偏差のうち、予め設定された所定値(例えば、0.5)以上の標準偏差を特定する。所定値以上の標準偏差は、例えば、図3(a)の楕円Xに囲まれた標準偏差である。
【0055】
次に、計算部100は、所定値以上の標準偏差に対応するバルブ開度および差圧を、診断不実行条件に決定する。診断不実行条件に決定されたバルブ開度および差圧は、例えば、図3(a)および図3(b)の領域Yに該当するバルブ開度および差圧である。このバルブ開度および差圧は、それらに基づいて第2流量が算出された場合にその第2流量の推定精度にばらつきが生じうるバルブ開度および差圧ということができる。
【0056】
例えば、診断不実行条件は、バルブ開度が10%未満である場合、または、バルブ開度が10%以上30%未満かつ差圧が20%以上40%未満である場合のいずれかに該当する、という内容となる。
【0057】
次に、計算部100は、診断不実行条件を示す情報(以下、条件情報という)を所定の記憶装置に記憶させる。この記憶装置は、故障診断装置1の診断部101がアクセス可能な装置であり、故障診断装置1の内部に設けられてもよいし、故障診断装置1の外部に設けられてもよい。
【0058】
そして、診断部101は、例えば、図2に示したステップS104の判定処理を行う前に、記憶装置から条件情報を読み出し、現在のバルブ開度および差圧が、条件情報に示される診断不実行条件に該当するか否かを判定する。
【0059】
現在のバルブ開度および差圧が診断不実行条件に該当しない場合、診断部101は、ステップS104以降の処理を行う。一方、現在のバルブ開度および差圧が診断不実行条件に該当する場合、診断部101は、ステップS104以降の処理を行わない。
【0060】
なお、診断部101は、図2に示したステップS101の処理の実行前に、記憶装置から条件情報を読み出し、現在のバルブ開度および差圧が、条件情報に示される診断不実行条件に該当するか否かを判定してもよい。そして、現在のバルブ開度および差圧が診断不実行条件に該当しない場合、ステップS101以降の処理が行われるようにし、現在のバルブ開度および差圧が診断不実行条件に該当する場合、ステップS101以降の処理が行われないようにしてもよい。
【0061】
また、上記説明では、故障診断装置1が診断不実行条件を決定する場合を例に挙げて説明したが、診断不実行条件は、故障診断装置1以外のコンピュータにより決定されてもよい。
【0062】
詳述したように、本実施の形態の故障診断装置1は、診断実行前のバルブ開度と差圧とが診断不実行条件(第2流量の推定精度にばらつきが生じうるバルブ開度および差圧)に該当する場合には、EGRバルブ17の故障の診断を行わないようにするため、故障の診断の精度をさらに向上させることができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態1、2について説明したが、本発明は、実施の形態1、2に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0064】
例えば、実施の形態1、2では、エンジン2がターボチャージャ8を備える場合を例に挙げて説明したが、エンジン2は、ターボチャージャ8を備えなくてもよい。
【0065】
<本開示のまとめ>
本発明の故障診断装置は、排気管から吸気管へEGRガスを導入するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断装置であって、実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出する計算部と、前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断する診断部と、を備え、前記第2流量は、前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、前記有効開口面積は、前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積である。
【0066】
なお、上記故障診断装置において、前記計算部は、下記計算式(1)に基づいて、前記第2流量を算出してもよい。
【数2】
m:前記第2流量
A:前記有効開口面積
:前記EGRバルブの下流の圧力
:前記EGRバルブの上流の圧力
:前記EGRバルブの上流の温度
κ:前記比熱比
t:時間
【0067】
また、上記故障診断装置において、前記診断部は、前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とが、予め定められた診断不実行条件に該当する場合、前記EGRバルブが故障しているか否かの診断を行わず、前記診断不実行条件は、前記EGRバルブの開度と、前記差圧または前記圧力比とに応じて予め計測された前記EGRガスの流量を正規化して得られた標準偏差が所定値以上となる、前記EGRバルブの開度および前記差圧または前記圧力比であってもよい。
【0068】
本発明の故障診断方法は、吸気管と排気管とを接続するEGR管に設けられたEGRバルブの故障を診断する故障診断方法であって、実際に前記EGR管を流れるEGRガスの流量である第1流量と、前記EGR管を流れると推定されるEGRガスの流量である第2流量とを算出し、前記第1流量と前記第2流量との差に基づいて、前記EGRバルブが故障しているか否かを診断し、前記第2流量は、前記EGRバルブの上流の圧力と、前記EGRバルブの下流の圧力と、前記EGRバルブの上流の温度と、予め設定された比熱比と、前記EGRバルブの有効開口面積とに基づいて算出され、前記有効開口面積は、前記EGRバルブに対する開度指令値と、前記EGRバルブの上流の圧力と前記EGRバルブの下流の圧力との差圧または圧力比とに対応する前記EGRバルブの開口面積である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、EGRバルブの故障を診断する故障診断装置および故障診断方法に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 故障診断装置
2 エンジン
3 気筒
4 インジェクタ
5 コモンレール
6 エアフィルタ
7 吸気管
8 ターボチャージャ
9 コンプレッサ
10 タービン
11 高圧側吸気管
12 吸気マニホールド
13 排気マニホールド
14 高圧側排気管
15 EGR管
16 EGRクーラ
17 EGRバルブ
18 排気管
19 排気ガス浄化装置
20 エアフローセンサ
21、23 圧力センサ
22、24 温度センサ
100 計算部
101 診断部
図1
図2
図3