(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の操舵支援装置では、自車両に搭載されているカーナビゲーションシステムが、測位衛星(GPS衛星を含むGNSS(Global Navigation Satellite System )衛星)から受信した位置情報に基づき、自車両の位置(自車位置)、及び進行方位角を求め、予め記憶されている道路地図データとのマップマッチングにより、当該自車位置に最も近い走行車線中央の位置情報と道路方位角とを取得し、自車両を車線中央に沿って走行するように自動操舵を行う技術が知られている。
【0003】
又、自車両にカメラ等の前方認識手段が搭載されている場合、当該前方認識手段にて、自車両の走行している車線(走行車線)の左右を区画する車線区画線(白線)を認識し、自車両の走行車線内での位置、及び走行車線に対する自車両進行方向のヨー角(対車線ヨー角)を検出することで、自車両を走行車線中央に沿って走行するように自動操舵を行う技術も知られている。
【0004】
しかし、カーナビゲーションシステムでは、測位衛星からの受信精度が、走行車線周辺の建物や気象条件等の影響を受けて低下した場合、得られる自車両の位置誤差、及び進行方位角データの精度誤差が大きくなってしまい、自動操舵を継続することが困難となる。同様に、車線区画線(白線)が劣化し、或いは路面からの太陽光の反射状態等の影響で、前方認識手段による車線区画線の認識精度が低下した場合にも、自動操舵を継続することが困難になる場合がある。
【0005】
この対策として、本出願人は、特許文献1(特開2017−13586号公報)において、車線維持(レーンキープ)や自動運転における自動操舵等の走行制御中において、運転者が操舵オーバライドを行った場合、自車両が車線区画線側へ偏倚しているために車線中央へ戻すハンドル操作を行っていると推定し、操舵オーバライドが終了したときの横位置を自車形状点(横位置起点)として設定して、その位置から操舵制御を継続させるようにした技術を提案した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1において、車両(自車両)1は、左右前輪FL,FRと左右後輪RL,RRとを有し、この左右前輪FL,FRが操舵輪であり、ラック&ピニオン機構等のステアリング機構2にタイロッド3を介して連設されている。又、このステアリング機構2に、先端にハンドル4を固設するステアリング軸5が連設されている。運転者がハンドル4を操作すると、ステアリング機構2を介して前輪FL,FRが転舵される。
【0014】
又、ステアリング軸5に電動パワーステアリング(EPS)装置6のEPSモータ7が、図示しない伝達機構を介して連設されている。EPS装置6はEPSモータ7とEPS制御ユニット(EPS_ECU)8とを有しており、このEPS_ECU8にて、EPSモータ7がステアリング軸5に付加するアシストトルクを制御する。
【0015】
このEPS_ECU8は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信等を用いた車内ネットワークを介して、後述する運転支援制御ユニット(DSS(Driving Support System)_ECU)11、及びナビゲーション制御装置(ナビ_ECU)17と双方向通信自在に接続されている。
【0016】
このEPS_ECU8は、DSS_ECU11がアクティブ状態のときは、このDSS_ECU11にて設定した目標操舵トルクに対応するEPSトルクを設定し、EPSモータ7を駆動させて、自車両1が、後述する目標進行路(例えば、車線中央)をトレースして走行するように操舵制御を行う。又、DSS_ECU11が非アクティブ状態のとき、すなわち、後述する測位衛星からの受信精度が自車両1の自動操舵制御を継続させることが困難な状態まで低下している等の場合は、自動操舵制御が停止されるため、運転者がハンドル4に加える操舵トルクをアシストするアシストトルクを設定する。
【0017】
DSS_ECU11には、自動操舵制御を行う際に必要とする各種パラメータとして、ステアリング軸5に取り付けられてハンドル4の操舵角を検出する操舵角センサ12、自車両1に作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ13、自車両1の車速(自車速)を検出する車速検出手段としての車速センサ14、及び傾斜角検出手段としての3軸加速度センサ(ジャイロセンサ)15等、自車両1に作用する挙動を検出するセンサ類からの信号が入力される。
【0018】
ここで、3軸加速度センサ15は自車両1の前後方向、横(車幅)方向、及び上下方向の、互いに直交する3つの軸方向に作用する加速度を検出するものであり、自車両1が直線路を定速で走行している場合、前後方向、及び横方向の加速度が自車両1の前後方向、及び車幅方向の傾斜角として検出される。
【0019】
又、ナビ_ECU17は、測位電波受信部を有し、受信アンテナ17aで受信した、GPS(Global Positioning System)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)等の外部情報源としてのGNSS測位衛星からの外部情報である位置情報に基づき自車位置を逐次取得する。従って、このナビ_ECU17が本発明の自車位置情報取得手段としての機能を備えている。
【0020】
又、このナビ_ECU17に高精度道路地図(ダイナミックマップ)データを備える道路地図記憶手段としての道路地図データベース18が接続されている。この道路地図データベース18はハードディスク等の大容量記憶媒体に設けられており、記憶されている高精度道路地図データは、道路や構造物の形状や車線情報等の静的な地図データに、各道路における交通規制,事故,渋滞,車両,歩行者,信号等の動的に変化する情報が重ね合わされて構成されており、動的情報は周辺環境の変化に応じて更新される。
【0021】
又、静的地図データとしては、車線幅の中央に沿って所定間隔毎に設定したノードi(
図4、
図6参照)に記憶されている道路地図データがある。この道路地図データには、道路の位置情報(緯度、経度、標高)、道路形状情報(カーブ/直線の種別、カーブの曲率半径、道路幅方向の勾配角である道路横勾配角(カント角)データ、道路方位角データ等)が含まれている。
【0022】
尚、図示しないが、上述した車内ネットワークには、EPS_ECU8、DSS_ECU11、ナビ_ECU17以外に、エンジン制御ユニット、変速機制御ユニット、ブレーキ制御を含む車両操安制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)装置等、自車両1の自動運転等における走行状態を制御するユニット類が相互通信自在に接続されており、これら各制御ユニットはマイクロコンピュータを主体に構成されている。
【0023】
一方、符号21は外部情報源である前方認識手段としての前方認識装置であり、自車両1前方の外部情報である走行環境情報を取得して、自車両1の走行車線を認識(取得)する。この前方認識装置21はマイクロコンピュータを主体に構成されていると共に、メインカメラ22aとサブカメラ22bとからなるステレオカメラで構成された車載カメラ22を有している。
【0024】
前方認識装置21は、車載カメラ22で撮像した前方の走行環境情報画像を画像処理して、例えば、自動運転における車線維持制御においては、走行車線の左右を区画する区画線を認識し、自車両1を車線中央に沿って走行させるために必要な画像情報を生成する。尚、区画線等の前方の走行環境情報を取得できるものであれば、前方認識装置21はステレオカメラに代えて、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ等を採用してもよく、或いは、これらと単眼カメラとを組み合わせて採用するようにしても良い。
【0025】
ところで、DSS_ECU11では、測位衛星からの位置情報に基づき自車両1の位置を逐次検出し、自車両1を、道路地図上に設定した目的地までの誘導路に沿って走行するように操舵制御を行う。同時に、前方認識装置21からの走行環境情報に基づいて走行車線を区画する左右区画線Ll,Lr(
図4、
図6参照)を認識し、その中央を走行するように車線維持制御を行う。従って、このDSS_ECU11が、本発明の自動操舵制御手段としての機能を備えている。
【0026】
この場合、前方認識装置21による左右区画線の認識精度と測位衛星の受信精度との双方、或いは一方が低下しても、直線路は勿論のこと、曲率半径が一定の曲線路(カーブ)であれば、それが継続している限り、操舵角が一定であるため自動操舵制御を継続させることは可能である。しかし、走行車線が横方向の道路勾配(カント)を有している場合、傾斜方向に発生する横力の影響を受けて操舵制御に誤差が生じ、傾斜方向へ自車両1が少しずつ移動してしまう。
【0027】
そのため、DSS_ECU11は、前方認識装置21による画像認識精度と測位衛星の受信精度との一方、或いは双方が悪化した場合、自車両1の位置と進行している方位角とを推定し、カント路の走行中であっても、自車両1が目標進行路(車線中央)に沿って走行するようにEPS_ECU8に送信する操舵角を演算する。
【0028】
DSS_ECU11による自動操舵制御は、具体的には、
図2に示す自動操舵制御ルーチンに従って実行される。このルーチンは、自車両1に搭載されている各システムが起動された後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS1で前方認識装置21からの走行環境情報を読込み、自車位置情報としての走行車線の左右を区画する左右区画線Ll,Lrを取得し、ステップS2へ進む。
【0029】
ステップS2では、左右区画線Ll,Lrの認識(取得)レベルを調べる。左右区画線Ll,Lrが認識されている場合は、認識レベルが良好と判定し、ステップS3へ進む。又、左右区画線Ll,Lrの少なくとも一方が、劣化或いは路面からの太陽光の反射等の影響を受けて認識できない場合は、認識(取得)レベルが低下していると判定して、ステップS5へジャンプする。
【0030】
ステップS3へ進むと、ナビ_ECU17で受信した測位衛星からの位置情報を読込む。尚、ステップS1,S3での処理が、本発明の自車位置情報取得手段に対応している。
【0031】
ステップS4では、この位置情報に基づき測位衛星から受信精度を調べて取得レベルが良好か否かを調べる。取得レベルが良好か否かは、例えば、測位衛星の捕捉数、受信強度の平均、及び位置誤差情報に基づき判定する。
【0032】
そして、測位衛星の捕捉数が所定値(例えば4個)以上で、受信強度の平均が予め設定した閾値以上で、且つ、前回測位した位置情報に対し、今回測位した位置情報が予め設定した許容範囲内の場合は、測位衛星からの電波受信状態は良好と判定し、ステップS5へ進む。一方、測位衛星の捕捉数が所定値未満の場合、受信強度の平均が予め設定した閾値未満の場合、或いは前回測位した位置情報に対し、今回測位した位置情報が予め設定した許容範囲からずれていると判定した場合は、測位衛星からの電波受信の取得状体が低下していると判定し、ステップS6へ分岐する。尚、上述したステップS2,S4での処理が、本発明の取得レベル判定手段に対応している。
【0033】
受信状態が良好と判定されてステップS5へ進むと、自車両1の位置情報に基づき道路地図データベース18に備えられている高精度道路地図データを参照して、自車位置に最も近い進行方向のノードis(
図4、
図6参照)に記憶されている道路方位角データを読込む。尚、
図4、
図6には各ノードiに格納されている道路方位角を便宜的に矢印で表している。又、この道路方位角データは、例えば真北Nを基準方位角0°としている。
【0034】
次いで、ステップS7へ進み、前方認識装置21からの走行環境情報に基づいて認識した左右区画線Ll,Lrと、測位衛星からの位置情報に基づき算出した自車位置とノードisに記憶されている道路方位角データとに基づき、自車両1を車線中央に沿って走行させるためのヨーレート補正値を求め、ステップS11へ進む。
【0035】
一方、ステップS2,或いはステップS4からステップS6へ分岐すると、自車位置を推定する。この推定自車位置は周知の自律航法を用いて設定する。すなわち、3軸加速度センサ15で検出した横角加速度と車速センサ14で検出した自車速とに基づき推定自車位置を設定し、これを高精度道路地図データにマップマッチングさせる。尚、このステップでの処理が、本発明の自車位置推定手段に対応している。
【0036】
次いで、ステップS8へ進み、走行車線の道路方位角方向に対する自車両1のヨー角(対車線ヨー角)算出処理を実行する。この対車線ヨー角は、
図3に示す対車線ヨー角算出処理サブルーチンに従って行われる。尚、このサブルーチンでの処理が、本発明の対車線ヨー角算出手段に対応している。
【0037】
上述したように、自車両1の走行車線が横方向に傾きがなく水平であれば、前方認識装置21による左右区間線の認識精度と測位衛星の受信精度との少なくとも一方が低下しても操舵角を一定に保つことで、自動操舵制御を継続させることは可能である。しかし、
図5に示すように、走行車線が道路横勾配角(カント角)σで傾斜している場合、操舵角が一定であっても自車両1は傾斜下方向に生じる横力の影響を受けて傾斜下方向へ移動し易くなる。そのため、本サブルーチンではカント角σの影響によって自車両1に発生するヨー角(対車線ヨー角)ψを算出する。
【0038】
先ず、ステップS21において、3軸加速度センサ15で検出した自車両1の車幅方向の傾斜角(ロール角)θを読込む。次いで、ステップS22へ進み、ノードisに格納されているカント角σを読込む。
【0039】
その後、ステップS23で、自車両1の車線進行方向(道路方位角が示す方向)に対するヨー角(対車線ヨー角)ψを算出する。自車両1が走行車線に沿って走行している場合、
図5に示すロール角θとカント角σとは同じ値を示す。しかし、
図6に示すように、自車両1が傾斜下方向へ回頭している場合、このロール角θとカント角σとに差が生じる。この差が対車線ヨー角ψによって生じるため、
tanθ=tanσ・cosψ
の関係式が成り立つ。
【0040】
従って、この関係式から対車線ヨー角ψの推定値を求め、
図2に示す操舵制御ルーチンのステップS9へ進む。尚、カント角が0°の平坦路ではロール角θとカント角σとに差が生じないため、対車線ヨー角ψはほぼ0°となる。
【0041】
ところで、3軸加速度センサ15によってロール角θを検出しようとした場合、カーブを走行中は重力加速度に遠心力が外乱因子として加わるためロール角θの検出値に誤差が生じ易くなる。この場合、遠心力による外乱因子をノードiに格納されているカーブの曲率半径及びカント角σと車速センサ14で検出した自車速とに基づき算出し、これを3軸加速度センサ15の検出値から除去することで、正確なロール角θを求めることができる。
【0042】
尚、連続する走行路においてカーブ曲率半径、及びカント角は大きく変化することはなく、今回読込んだノードiが自車位置から多少ずれていても、自車両1の走行車線の形状に対して、読込んだカーブの曲率半径及びカント角σが大きく乖離することはない。
【0043】
又、ステップS9へ進むと、上述したステップS6で設定した推定自車位置情報に基づき、自車両1前方のノードi(
図6参照)に格納されている道路方位角データを読込む。次いで、ステップS10へ進み、対車線ヨー角ψを時間微分して、自車両1の進行方向の方位角(自車方位角)を、ステップS9で読込んだノードiに格納されている道路方位角方向へ戻すためのヨーレート補正値を算出して、ステップS11へ進む。
【0044】
ステップS7、或いはステップS10からステップS11へ進むと、自車両1を目標進行路をトレースして走行させるための目標操舵トルクを演算する。具体的には、自車両1直近のノードis、及び、その前方のノードiに格納されている道路方位角データに基づいて、自車両1が進行すべき目標進行路(自車方位角)を設定し、この目標進行路に沿って走行させるための目標操舵角を設定する。
【0045】
そして、この目標操舵角を、上述したステップS7,或いはステップS10で算出したヨーレート補正値で補正して、新たな目標操舵角を算出した後、操舵角センサ12で検出した操舵角を新たな目標操舵角に収束させるための目標操舵トルクを演算して、ルーチンを抜ける。尚、このステップS11での処理が、本発明の目標操舵トルク演算手段に対応している。
【0046】
この目標操舵トルクは、EPS_ECU8で読込まれる。EPS_ECU8は目標操舵トルクに対応するEPSトルクを設定し、EPSモータ7を駆動させて、自車両1の操舵制御を行う。
【0047】
このように、本実施形態では、高精度道路地図データに格納されている自車両1直近の道路方位角を基準とした対車線ヨー角ψを求め、この対車線ヨー角ψに基づいて設定したヨーレート補正値で、自車両1を目標進行路に沿って走行させるための目標操舵角を補正するようにしたので、前方認識装置21で走行車線の左右を区画する区画線を認識することが困難となり、或いはナビ_ECU17による測位衛星からの受信精度が低下した状態で、カント角を有する走行車線を走行している場合であっても、走行車線に沿った自動操舵を継続させることが可能となり運転者の負担をより軽減させることができる。
【0048】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば上述した操舵制御は自動運転に限らず車線維持制御においても適用することができる。