特許第6784633号(P6784633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784633
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20201102BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20201102BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20201102BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D137:00
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-70769(P2017-70769)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-171986(P2018-171986A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】財前 元希
(72)【発明者】
【氏名】桑原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】寺山 悟
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−097234(JP,A)
【文献】 特開2013−060084(JP,A)
【文献】 特開平09−183383(JP,A)
【文献】 特開2014−113905(JP,A)
【文献】 特開2006−001420(JP,A)
【文献】 特開2010−023669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 10/00,30/00−60/00
B62D 5/04, 6/00,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する目標経路を生成し、前記目標経路への追従走行を制御する車両の走行制御装置であって、
前記自車両が走行中の地点における風向および風速を算出する風向風速算出部と、
前記目標経路に沿って前記自車両を走行させるために現在から所定の時間後に必要となる舵角の変更量である目標操舵角量を、フィードフォワード制御により算出する目標舵角量算出部と、
前記目標経路に対する前記自車両の車幅方向の距離偏差およびヨー方向の角度偏差を解消するための舵角の変更量であるフィードバック目標舵角量をフィードバック制御により算出するフィードバック舵角量算出部と、
前記目標操舵角量および前記フィードバック目標舵角量を加算した値に基づいて前記自車両の操舵制御を行う操舵制御部と、
を備え、
前記目標舵角量算出部は、
前記目標経路に沿って前記自車両を走行させるために現在から所定の時間後に必要となる前記自車両の舵角量である基本舵角量を算出し、
現在から前記所定の時間後における前記自車両が進行する方位と、前記風向風速算出部により算出された風向および風速の情報と、に基づいて、当該風向および風速の風の影響により前記所定の時間後の方位に進行中の前記自車両に対して加えられる外乱を打ち消すための修正舵角量を算出し、
前記基本舵角量と前記修正舵角量とを加算した値を前記目標操舵角量として算出する
ことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記風向風速算出部は、現在から過去の所定の期間中において、前記自車両および他車両に加えられた外乱を検出し、当該外乱の検出結果に基づいて前記自車両が走行中の地点における風向および風速を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記目標舵角量算出部は、前記自車両の現在から前記所定の時間後までの方位の変化量を比較し、当該方位の変化量が所定の値以上である場合に、前記修正舵角量を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行する目標経路への追従走行を制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、自車両の走行車線をカメラやレーダ等により検知し、自車両が車線中央位置を軌跡とする目標経路に沿って走行するように制御する追従走行制御の技術が実用化されている。追従走行制御を行う車両の走行制御装置は、例えば特開2006−1420号公報や特開2010−23669号公報に開示されている。
【0003】
特開2006−1420号公報および特開2010−23669号公報に開示されているように、追従走行制御では、風による自車両の進路を乱す外乱が加えられた場合であっても、自車両の進路が目標経路と一致するように、自車両の位置と目標経路との間のずれ量に基づくフィードバック制御により操舵角を制御し、進路のずれを解消する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1420号公報
【特許文献2】特開2010−23669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車両の走行制御装置による追従走行制御では、風による外乱の影響が自車両の進路の乱れとして現れてから操舵角の修正を行うため、強風下での走行では操舵角の修正時に進路のぶれが生じてしまう場合がある。特に、車両の進行する方位が変わり、自車両に対する相対的な風向が変化する場合においては、外乱の影響を打ち消すために必要な操舵角の量が大きく変化するため、自車両の進路にぶれが生じやすい。
【0006】
本発明は前述した問題を解決するものであり、強風下での追従走行制御時において外乱に対する操舵角の修正量を小さくし、滑らかな走行を実現することが可能な車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の車両の走行制御装置は、自車両が走行する目標経路を生成し、前記目標経路への追従走行を制御する車両の走行制御装置であって、前記自車両が走行中の地点における風向および風速を算出する風向風速算出部と、前記目標経路に沿って前記自車両を走行させるために現在から所定の時間後に必要となる舵角の変更量である目標操舵角量を、フィードフォワード制御により算出する目標舵角量算出部と、前記目標経路に対する前記自車両の車幅方向の距離偏差およびヨー方向の角度偏差を解消するための舵角の変更量であるフィードバック目標舵角量をフィードバック制御により算出するフィードバック舵角量算出部と、前記目標操舵角量および前記フィードバック目標舵角量を加算した値に基づいて前記自車両の操舵制御を行う操舵制御部と、を備え、前記目標舵角量算出部は、前記目標経路に沿って前記自車両を走行させるために現在から所定の時間後に必要となる前記自車両の舵角量である基本舵角量を算出し、現在から前記所定の時間後における前記自車両が進行する方位と、前記風向風速算出部により算出された風向および風速の情報と、に基づいて、当該風向および風速の風の影響により前記所定の時間後の方位に進行中の前記自車両に対して加えられる外乱を打ち消すための修正舵角量を算出し、前記基本舵角量と前記修正舵角量とを加算した値を前記目標操舵角量として算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強風下での追従走行制御時において外乱に対する操舵角の修正量を小さくし、滑らかな走行を実現することが可能な車両の走行制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走行制御システムの構成図である。
図2】自車両が走行する地点において横風が吹いている状態を示す模式図である。
図3】風が吹いている状態において、自車両が進行する方位が変化する様子を示す模式図である。
図4】目標舵角量算出部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、構成要素毎に縮尺を異ならせてあるものであり、本発明は、これらの図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、及び各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
【0011】
図1において、符号1は、自動車等の車両の走行制御システムであり、車両の自律的な自動運転を含む走行制御を実施する。この走行制御システム1は、走行制御装置100を中心として、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、操舵制御装置70、警報制御装置80等が車内ネットワークを形成する通信バス150を介して互いに接続されて構成されている。
【0012】
図示しないが、車両は、状態量を検出する状態量検出装置を備える。状態量検出装置は、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサおよび舵角センサを少なくとも含む。これらのセンサは公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0013】
外部環境認識装置10は、車載のカメラユニット11、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置12等の各種デバイスによる自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、測位装置20で測位した自車両の位置情報、地図情報処理装置30からの地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0014】
以下では、外部環境認識装置10における外部環境の認識処理として、カメラユニット11で撮像した画像を処理して外部環境を認識する処理を主として説明する。カメラユニット11は、例えば、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラであり、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期のカメラで構成されている。このカメラユニット11は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に2台のカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0015】
ステレオカメラとしてのカメラユニット11で撮像された左右一対の画像は、例えば、ステレオマッチング処理により、左右画像の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められ、画素ずれ量を輝度データ等に変換した距離画像が生成される。この距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の白線(車線)、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0016】
車線としての道路白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域を白線候補点として抽出する。
【0017】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0018】
測位装置20は、複数の衛星からの信号に基づいて自車位置を測位する衛星航法を主として測位を行い、衛星からの信号(電波)の捕捉状態化や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、自車両の方位と移動距離に基づいて自己位置を測位する自律航法によって測位を行う。尚、測位装置20は、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって交通情報を取得する通信ユニットを一体的に備えるようにしても良い。
【0019】
衛星航法による測位では、例えば、GPS衛星等の複数の航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を3次元の絶対位置として測位する。また、自律航法による測位は、方位センサによって検出した自車両の進行方位と車速センサから出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、算出位置(自車位置)の相対的な変化分としての自車位置を測位する。
【0020】
地図情報処理装置30は、地図データベースDBを備え、測位装置20で測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定して出力する。地図データベースDBには、例えば、主として車両走行の経路案内や車両の現在位置を表示する際に参照されるナビゲーション用の地図データと、この地図データよりも詳細な、自動運転を含む運転支援制御を行う際に参照される走行制御用の地図データとが保持されている。
【0021】
ナビゲーション用の地図データは、現在のノードに対して前のノードと次のノードとがそれぞれリンクを介して結びつけられており、各リンクには、信号機、道路標識、建築物等に関する情報が保存されている。一方、走行制御用の高精細の地図データは、ノードと次のノードとの間に、複数のデータ点を有している。このデータ点には、自車両が走行する道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路白線種別、レーン数等の走行制御用データが、データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0022】
地図情報処理装置30は、自車両位置の測位結果と地図データとの照合を行い、その照合結果に基づく走行経路案内や交通情報を図示しない表示装置を介してドライバに提示する。また、地図情報処理装置30は、自車両が走行する道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路白線種別、レーン数等の走行制御用の地図情報を通信バス150を介して送信する。尚、走行制御用の地図情報は、主として走行制御装置100に送信されるが、必要に応じて他の制御装置にも送信される。
【0023】
更に、地図情報処理装置30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位装置20によって測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって行われる。
【0024】
エンジン制御装置40は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、エンジン(図示せず)の運転状態を制御する。エンジン制御装置40は、例えば、吸入空気量、スロットル開度、エンジン水温、吸気温度、空燃比、クランク角、アクセル開度、その他の車両情報に基づき、燃料噴射制御、点火時期制御、電子制御スロットル弁の開度制御等を主要とするエンジン制御を実行する。
【0025】
変速機制御装置50は、変速位置や車速等を検出するセンサ類からの信号や通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、自動変速機(図示せず)に供給する油圧を制御し、予め設定された変速特性に従って自動変速機を制御する。
【0026】
ブレーキ制御装置60は、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御する。また、ブレーキ制御装置60は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ・システムや横すべり防止制御等を行う。
【0027】
操舵制御装置70は、電動アクチュエータの出力により車両の舵角を変化させる電動パワーステアリング装置を制御する。操舵制御装置70は、後述する操舵制御部105から出力される舵角変更指示値に基づいて、車両の舵角を変更する。
【0028】
例えば、車速、ドライバの操舵トルク、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリングモータ(図示せず)による操舵トルクを制御する。
【0029】
警報制御装置80は、車両の各種装置に異常が生じた場合、警報を発生する装置であり、例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告・報知を行う。また、ドライバの操作により自動運転を含む運転支援制御の休止時には、現在の運転状態をドライバに報知する。
【0030】
次に、走行制御システム1の中心となる走行制御装置100について説明する。走行制御装置100は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等がバスに接続されたコンピュータを備えて構成されている。
【0031】
走行制御装置100は、外部環境認識装置10による外部環境の認識結果、測位装置20及び地図情報処理装置30からの自車位置情報や交通情報に基づいて、自車両が走行する目標経路を生成し、この目標経路に沿って追従走行するよう、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、及び操舵制御装置70を介した走行制御を実行する。
【0032】
走行制御装置100は、目標経路への追従走行制御に係る機能部として、進路形状算出部101、風向風速算出部102、目標舵角量算出部103、フィードバック舵角量算出部104、および操舵制御部105を備える。走行制御装置100が備えるこれらの構成は、個々の機能を実行する別個のハードウェアとして実装されていてもよいし、所定のプログラムをCPUが実行することによって個々の機能が達成されるようにソフトウェア的に実装されていてもよい。
【0033】
進路形状算出部101は、測位装置20および地図情報処理装置30から出力される情報に基づき、自車両が走行中の道路の進行方向前方の形状の情報である道路形状情報を算出する。進路形状算出部101が算出する道路形状情報は、自車両が現在から所定の時間Δt秒後までに走行すると予測される道路の形状の情報である。進路形状算出部101が算出する道路形状情報には、少なくとも道路の車線中心線の座標、曲率、および方位角が含まれる。道路形状情報には道路の縦断勾配および横断勾配が含まれていてもよい。
【0034】
風向風速算出部102は、自車両が走行中の地点における風向および風速の情報である風向風速情報を算出する。ここで、風向および風速は、道路面に対する絶対値で表される。風向風速算出部102が風向および風速を算出する方法は特に限定されるものではない。
【0035】
例えば、風向風速算出部102は、自車両に設けられたセンサにより測定される対気速度ベクトルと、自車両の進行方位および車速から求められる対地速度ベクトルと、の比較から、自車両が走行中の地点における風向および風速を算出してもよい。
【0036】
また例えば、風向風速算出部102は、道路近辺に設けられた吹き流しの状態をカメラユニット11により認識することにより、自車両が走行中の地点における風向および風速を算出してもよい。また、風向風速算出部102は、路車間通信により受信したデータに基づいて自車両が走行中の地点における風向および風速を算出してもよい。
【0037】
本実施形態では一例として、風向風速算出部102は、現在から過去の所定の期間中において、自車両および他車両に加えられた外乱を検出し、この外乱の検出結果に基づいて自車両が走行中の地点における風向および風速を算出する。
【0038】
ここで、自車両に加えられた外乱とは、自車両を目標経路に沿って目標速度で追従走行させるための操舵制御および速度制御に加えられた外乱のことである。例えば、図2に示すように、追従走行時に自車両が北に向かって走行中に西から風W1が吹いている場合には、風W1が自車両を東側に押す外乱が加えられる。このような場合において、走行制御装置100は、従来技術と同様に、目標経路に沿った追従走行を行うために、外乱を打ち消すための修正舵角を発生させる。風向風速算出部102は、この修正舵角の向きと量から、風によって自車両に加えられる力の車両の幅方向の成分を算出する。
【0039】
また、風向風速算出部102は、速度制御に加えられた外乱からも、自車両が走行中の地点における風向および風速を算出することができる。例えば、図3に示すように、西から風W1が吹いている場合において、自車両の進行する方位が北西である地点P0においては、向かい風となるため自車両の走行抵抗を増大させる外乱が加えられる。また、図3に示す場合において、自車両の進行する方位が北東である地点P2においては、追い風となるため自車両の走行抵抗を減少させる外乱が加えられる。また、図3に示す場合において、風W1に対して自車両の進行する方位が直交する地点P1においては、風W1による自車両の走行抵抗への影響がほぼ消失する。自車両の走行抵抗は道路の縦断勾配によっても変化するが、縦断勾配の情報が道路形状情報に含まれていれば、走行抵抗の変化に対する道路の縦断勾配の変化の影響を排除することができる。走行制御装置100は、従来技術と同様に、目標速度で走行を行うために、走行抵抗を増減させる外乱の影響を打ち消すためのエンジン出力の増減を行う。したがって、風向風速算出部102は、このエンジン出力の増減量に基づいて、風によって自車両に加えられる力の車両の進行向の成分を算出することができる。
【0040】
また、現在から過去の所定の期間中において、カーブ通過等により自車両の方位が変化すれば、風向風速算出部102は、風によって自車両に加えられる力の車両の幅方向の成分の変化の様子に基づいて、風向をより正確に算出することができる。
【0041】
例えば、図3に示すように、西から風W1が吹いている場合において、自車両の進行する方位が北西から北東に変化するように変化した場合には、風によって自車両に加えられる力の車両の幅方向の成分は、自車両の進行する方位が北向きとなり風W1の向きと直交する地点P1において最大となるため、風向風速算出部102は、風W1が西から吹いていることを検出することができる。同様に、風向風速算出部102は、車両の方位が変化する際における、風によって自車両に加えられる力の車両の進行向の成分の変化の様子に基づいて、風向を正確に算出することができる。
【0042】
また、他車両に加えられた外乱とは、外部環境認識装置10により認識される自車両の周囲を走行中の他車両の挙動の乱れから検出することができる。他車両の挙動の乱れとは、他車両が走行中の車線の中央から車幅方向に所定量以上逸脱した場合等である。
【0043】
例えば、先行車両や対向車両が車線の中央から同一の方向に逸脱するように走行していることが外部環境認識装置10により認識された場合、風向風速算出部102は、他車両の前記逸脱の方向に押す方向の風が発生していると認識することができる。
【0044】
目標経路生成部102は、進路形状算出部101が算出する道路形状情報と、外部環境認識装置10により認識される外部環境の情報と、に基づき、少なくとも自車両を現在から所定の時間Δt秒後まで走行させる目標経路を算出する。
【0045】
目標操舵角設定部103は、現在から所定の時間Δt秒後に操舵制御部104に出力する情報である目標操舵角量を算出する。図4は、目標経路に沿って自車両を追従走行させる場合における目標操舵角量算出部103の動作のフローチャートである。
【0046】
目標舵角量算出部103は、まずステップS100において、目標経路に沿って自車両を走行させるために現在から所定の時間Δt秒後に必要となる自車両の舵角の変更量である基本舵角量を算出する。具体的には、目標舵角量算出部103は、Δt秒後に自車両が走行している地点における目標経路の曲率と、同地点における自車両の車速と、予め定められた車両の運動特性と、に基づいて基本舵角量を算出する。すなわち、基本舵角量は、従来技術における目標経路への追従走行制御の、フォードフォワード制御による舵角の変更量である。
【0047】
次に、ステップS110において、目標舵角量算出部103は、現在からΔt秒後において自車両の進行する方位を算出する。目標舵角量算出部103は、Δt秒後において自車両の進行する方位B(Δt)を、Δt秒後に自車両が走行している地点における目標経路の方位の情報に基づき算出する。
【0048】
次に、ステップS120において、目標舵角量算出部103は、現在の自車両の進行する方位B(0)と、ステップS120で算出したΔt秒後において自車両の進行する方位B(Δt)と、を比較し、両者の差の絶対値が所定の角度以上であるか否かを判定する。すなわち、ステップS120では、目標舵角量算出部103は、現在からΔt秒後までの間に自車両の進行する方位が変化するか否かを判定する。ステップS120の判定において用いられる所定の角度は、例えば15度程度である。
【0049】
ステップS120の判定において、現在からΔt秒後までの間に自車両の進行する方位が変化しないと判定した場合には、目標舵角量算出部103は、ステップS160にスキップし、ステップS100で算出した基本舵角量を目標操舵角量として決定する。
【0050】
一方、ステップS120の判定において、現在からΔt秒後までの間に自車両の進行する方位が変化すると判定した場合には、目標舵角量算出部103はステップS130に移行する。
【0051】
ステップS130において、目標舵角量算出部103は、現在からΔt秒後において自車両の進行する方位B(Δt)と、風向風速算出部102により算出された風向および風速の情報と、に基づいて、当該風向および風速の風の影響によりΔt秒後の方位B(Δt)に進行中の自車両に対して加えられる操舵制御への外乱を打ち消すための修正舵角量を算出する。
【0052】
そして、ステップS140において、目標舵角量算出部103は、ステップS100で算出した基本舵角量に、ステップS130で算出した修正舵角量を加算する。この場合、ステップS150において、目標舵角量算出部103は、基本舵角量と修正舵角量とを加算した値を目標操舵角量として決定する。
【0053】
フィードバック舵角量算出部104は、従来技術における目標経路への追従走行制御の、フィードバック制御による舵角の変更量であるフィードバック目標舵角量を算出する。フィードバック目標舵角量は、目標経路に対する自車両の車幅方向の距離偏差およびヨー方向の角度偏差を解消するため舵角の変更量である。
【0054】
操舵制御部105は、目標舵角量算出部103により算出された目標操舵角量と、フィードバック舵角量算出部104により算出されたフィードバック目標舵角量と、を加算した値を舵角変更指示値とし、当該舵角変更指示値に従って自車両の舵角が変更されるように、操舵制御装置70を制御する。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態の車両の走行制御装置100は、自車両が走行する目標経路を生成し、前記目標経路への追従走行を制御する装置であって、自車両が走行中の地点における風向および風速を算出する風向風速算出部102と、目標経路に沿って自車両を走行させるために現在から所定の時間Δt秒後に必要となる舵角の変更量である目標操舵角量を、フィードフォワード制御により算出する目標舵角量算出部103と、目標経路に対する自車両の車幅方向の距離偏差およびヨー方向の角度偏差を解消するための舵角の変更量であるフィードバック目標舵角量をフィードバック制御により算出するフィードバック舵角量算出部104と、目標操舵角量およびフィードバック目標舵角量を加算した値に基づいて自車両の操舵制御を行う操舵制御部105と、を備える。
【0056】
そして、本実施形態の車両の走行制御装置100の目標舵角量算出部103は、目標経路に沿って自車両を走行させるために現在から所定の時間Δt秒後に必要となる自車両の舵角量である基本舵角量を算出するステップS100と、現在から所定の時間Δt後における自車両が進行する方位B(Δt)と、風向風速算出部102により算出された風向および風速の情報と、に基づいて、当該風向および風速の風の影響により所定の時間Δt秒後の方位B(Δt)に進行中の自車両に対して加えられる外乱を打ち消すための修正舵角量を算出するステップS130と、基本舵角量と修正舵角量とを加算した値を目標操舵角量として算出するステップS160と、を実行する。
【0057】
以上に説明した構成を有する本実施形態の本実施形態の車両の走行制御装置100による目標経路への追従走行制御では、所定の時間Δt秒後における風による外乱の影響を打ち消す修正舵角量を予め算出し、Δt秒後の時点においてこの修正舵角量をフィードフォワード制御により自車両の操舵に加える。したがって、本実施形態の車両の走行制御装置100による目標経路への追従走行制御では、強風下における走行時において、自車両の位置と目標経路との間のずれ量に基づくフィードバック制御による進路を修正する舵角量を小さく抑えることができ、滑らかな走行を実現することが可能である。
【0058】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の走行制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 走行制御システム、
10 外部環境認識装置、
20 測位装置、
30 地図情報処理装置、
40 エンジン制御装置、
50 変速機制御装置、
60 ブレーキ制御装置、
70 操舵制御装置、
80 警報制御装置、
100 車両の走行制御装置、
101 進路形状算出部、
102 風向風速算出部、
103 目標舵角量算出部、
104 フィードバック舵角量算出部、
105 操舵制御部。
図1
図2
図3
図4