特許第6784665号(P6784665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784665光学フィルムの製造方法及び光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784665
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法及び光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/12 20060101AFI20201102BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20201102BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20201102BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20201102BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
   B29C55/12
   G02B5/30
   C08J5/18CER
   C08J5/18CEZ
   B29L7:00
   B29L11:00
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-510034(P2017-510034)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060164
(87)【国際公開番号】WO2016158968
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-70350(P2015-70350)
(32)【優先日】2015年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上仮屋 直也
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/136346(WO,A1)
【文献】 特開2006−316153(JP,A)
【文献】 特開2014−088582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00〜55/30
C08J 5/18
G02B 5/30
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなる延伸フィルムに対して前記延伸フィルムの延伸方向に張力を加えながら、前記延伸フィルムの寸法を前記延伸方向に縮小する緩和工程を有し、
前記延伸は二軸延伸であり、
前記延伸の延伸温度は、Tg以上、Tg+20℃以下であり、但し、Tgは前記延伸フィルムのガラス転移温度であり、
前記緩和工程において、前記延伸フィルムの寸法の縮小は、前記延伸フィルムの縦方向及び幅方向の寸法を同時に縮小することにより、行われ、
前記緩和工程は、前記延伸フィルムに対し熱処理を施すことにより行われ、前記熱処理の熱処理温度はTg+10℃以上、Tg+23℃以下であることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記延伸の延伸倍率が1.5〜3.0倍である請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記緩和工程前における前記延伸フィルムの前記延伸方向への寸法をD0とし、前記緩和工程後における前記延伸フィルムの前記延伸方向への寸法をD1としたとき、式:(D0−D1)/D0×100で表される寸法縮小率が0.1〜25%である請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
少なくとも、前記延伸フィルムの延伸時から前記緩和工程の終了時までの間、前記延伸フィルムの温度をTg以上に維持することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理において輻射加熱装置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル系樹脂を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有重合体又はその芳香族環を部分的に若しくは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有重合体、並びに、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
光学フィルムの配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
光学フィルムの光弾性定数が−10×10−12から4×10−12Pa−1であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、延伸された光学フィルムであって、前記光学フィルム両面の5μm視野角の平均面粗さRaが0.1nm以上、4nm以下であって、両面の平均面粗さの差異が2.0nm以下であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項12】
前記延伸が二軸延伸であることを特徴とする請求項11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
JIS K 7105に準拠して測定されるヘイズが1.0%以下である、請求項11又は12に記載の光学フィルム。
【請求項14】
前記光学フィルムの流れ方向のMITと前記光学フィルムの幅方向のMITとの比が0.7〜1.3の範囲であり、前記光学フィルムの流れ方向及び幅方向のMITがともに1100回以上であり、但し、MITは、JIS C 5016に準拠して測定される破断時の折り曲げ回数である請求項11〜13のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項16】
平均膜厚が15〜60μmである、請求項11〜15のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルムの製造方法及び光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光子を保護するための偏光子保護フィルムや、液晶表示用のフィルム基板等に代表される光学フィルムには、光学的な透明性、及び、光学的な均質性が要求される。特に、偏光子保護フィルムは輝度向上を目的として、求められるフィルム厚みが次第に薄くなってきており、このような薄膜偏光子保護フィルムの製造として、溶融押出フィルムを二軸延伸する製造方法が知られている(特許文献1:特開2010−95567号公報)。また、フィルムが薄膜になるにつれて、二軸延伸後もハンドリング時の割れ等が問題となることがあり、更にフィルムの強度付与の要求も高まっている。既存の強度付与の方法としては、例えば脆性熱可塑性樹脂にゴム粒子を添加し、耐折り曲げ性に優れた溶融押出フィルムを得ることが知られている(特許文献2:特開2004−137299号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−95567号公報
【特許文献2】特開2004−137299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
求められる薄膜高強度のフィルムを得るため、上記背景技術を組み合わせ、ゴム粒子を配合した溶融押出フィルム(この延伸処理前のフィルムを以降、原反とも呼ぶ)を二軸延伸する方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によりゴム粒子を配合した原反を二軸延伸すると強度付与を成すことができるものの、フィルムが顕著に白化してしまうことが判明した。更に詳細に検討したところ、ゴム粒子を配合したフィルムを二軸延伸した際に、フィルム表面近傍に存在するゴム粒子がフィルム表面から突き出てきて、表面粗度が落ち入射光が散乱することで白化していることを特定した。また、二軸延伸した場合に、フィルム平面方向の折り曲げ強度は増すもののフィルム厚さ方向に脆くなり、ゴム配合によってもフィルム高次加工時に必要なフィルム打ち抜きに対する強度を十分上げることは難しい。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、ゴム粒子を含む溶融押出フィルムを延伸しフィルムを製造する際の、ゴム粒子に起因した白化を抑制しつつ、薄膜高強度の光学フィルムを得ることができる製造方法及び光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するため鋭意検討したところ、延伸時に生じるゴム粒子の表面から突き出る現象に対し、延伸フィルムに張力をかけつつ、その延伸フィルムの寸法を延伸方向に縮小することで、より具体的には、延伸後に熱処理を施すことで表面上のゴム粒子を埋没させられることを見出した。また、この熱処理において熱処理条件を規定することで厚さ方向の強度も上がることを見出した。この時、延伸方向の強度が熱処理前よりも下がるものの、ゴム粒子にかかった延伸方向の歪みが緩和され球形と戻っていくためにゴム配合の効果が特徴的に発現する結果、延伸方向、厚さ方向の2次元又は3次元方向に渡り、強度を実用に十分な程度に発現させられることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、
(i)熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなる延伸フィルムに対して前記延伸フィルムの延伸方向に張力を加えながら、前記延伸フィルムの寸法を前記延伸方向に縮小する緩和工程を有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
(ii)前記延伸が二軸延伸であることを特徴とする(i)に記載の光学フィルムの製造方法。
(iii)前記延伸の延伸倍率が1.5〜3.0倍である(i)又は(ii)に記載の光学フィルムの製造方法。
(iv)前記緩和工程前における前記延伸フィルムの前記延伸方向への寸法をD0とし、前記緩和工程後における前記延伸フィルムの前記延伸方向への寸法をD1としたとき、式:(D0−D1)/D0×100で表される寸法縮小率が0.1〜25%である(i)〜(iii)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(v)前記緩和工程は、前記延伸フィルムに対し熱処理を施すことにより行われ、前記熱処理の熱処理温度はTg以上、Tg+40℃以下であり、但し、Tgは前記延伸フィルムのガラス転移温度であることを特徴とする(i)〜(iv)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(vi)少なくとも、前記延伸フィルムの延伸時から前記緩和工程の終了時までの間、前記延伸フィルムの温度をTg以上に維持することを特徴とする(i)〜(v)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(vii)前記熱処理において輻射加熱装置を用いることを特徴とする(v)又は(vi)に記載の光学フィルムの製造方法。
(viii)前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂を含有することを特徴とする(i)〜(vii)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(ix)前記熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル系樹脂を含有する、(i)〜(viii)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(x)前記熱可塑性樹脂が、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有重合体又はその芳香族環を部分的に若しくは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有重合体、並びに、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(i)〜(ix)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(xi)光学フィルムの配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4であることを特徴とする(i)〜(x)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(xii)光学フィルムの光弾性定数が−10×10−12から4×10−12Pa−1であることを特徴とする(i)〜(xi)のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
(xiii)熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、延伸された光学フィルムであって、前記光学フィルムの流れ方向のMITと前記光学フィルムの幅方向のMITとの比が0.7〜1.3の範囲であり、前記光学フィルムの流れ方向及び幅方向のMITがともに1000回以上であり、但し、MITは、JIS C 5016に準拠して測定される破断時の折り曲げ回数であり、前記光学フィルムのJIS K 7105に準拠して測定されるヘイズが1.0%以下である光学フィルム。
(xiv)熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、延伸された光学フィルムであって、前記光学フィルム両面の5μm視野角の平均面粗さRaが0.1nm以上、4nm以下であって、両面の平均面粗さの差異が2.0nm以下であることを特徴とする光学フィルム。
(xv)前記延伸が二軸延伸であることを特徴とする(xiii)又は(xiv)に記載の光学フィルム。
(xvi)JIS K 7105に準拠して測定されるヘイズが1.0%以下である、(xiii)〜(xv)のいずれか一項に記載の光学フィルム。
(xvii)前記光学フィルムの流れ方向のMITと前記光学フィルムの幅方向のMITとの比が0.7〜1.3の範囲であり、前記光学フィルムの流れ方向及び幅方向のMITがともに1100回以上であり、但し、MITは、JIS C 5016に準拠して測定される破断時の折り曲げ回数である(xiii)〜(xvi)のいずれか一項に記載の光学フィルム。
(xviii)前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である、(xiii)〜(xvii)のいずれか一項に記載の光学フィルム。
(xix)平均膜厚が15〜60μmである、(xiii)〜(xviii)のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて延伸後のフィルム白化を抑制することができる光学フィルムの製造方法を提供することができる。本発明の製造方法により、ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物から透明性が高く、2次元又は3次元方向に高強度な薄膜光学フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は熱可塑性樹脂組成物を用いた光学フィルムの製造方法に関し、溶融製膜法によって得られたフィルム原反を延伸することで、具体的には、一軸延伸することで、あるいは、連続的に又は非連続的に二軸延伸することで光学フィルムを製造する。
溶融製膜方法では、押出機等の溶融手段を用いて、熱可塑性樹脂を加熱溶融後ダイへ供給し、ダイからフィルム状に吐出された溶融樹脂を、温調されたロール(以下、キャストロール)へキャスティングし、引き取りながら更に温調された他のロール(以下、冷却ロール)へ接せさせて冷却固化する。この時に、温調されたロール(以下、タッチロール)をキャストロールのフィルムが着地した地点付近に押圧させる挟み込み成形をすることを特徴とする。この場合、フィルムのロール着地位置が安定し厚み品質が向上することに加え、フィルム幅方向の冷却も均一化され、冷却固化時の配向状態も均一となる。
【0011】
また、フィルムの引き取りは各種方法で行うことが可能であり、例えば冷却ロール以降に設置されたニップロールにより引き取り、その後、巻き取りコアに巻きつけることで、フィルム原反として取得することができる。この時、フィルム両端部はTダイから樹脂が吐出する際に生じるネックインの影響で厚みが厚くなってしまうため、端部厚膜部が二軸延伸後の厚みプロファイルに影響を与える場合は、各種カッター(例えば、シェア刃やレザー刃等)で端部をトリミングしてもよい。こうして製造される原反の幅方向厚みプロファイルは、一軸又は二軸延伸方式や条件に合わせて任意に最適値を設定可能であり、幅方向において、フラット、又は、両端を中央に比べ高くする、又は、両端を中央に比べ低くする、等である。
【0012】
このようにして得られた原反を、所望の製品厚みにするとともに強度を付与するため、延伸する。具体的には、一軸延伸により一軸方向に延伸するか、二軸延伸により二軸方向に延伸する。3次元方向に強度を向上させることができることから、二軸延伸が好ましい。延伸倍率は、(二軸延伸の場合は縦方向及び横方向ともに)1.5倍以上3.0倍以下とすることが好ましい。延伸倍率が3.0倍以下であると、本発明によってヘイズを低減しやすく、フィルムが白化しにくいために好ましい。また、1.5倍以上であると、後述の緩和工程、好ましくは延伸フィルムに対し熱処理を施すことにより行われる緩和工程における配向緩和によって、平面強度を十分に持たせやすいために好ましい。延伸倍率は、更に好ましくは1.6倍以上2.8倍以下である。延伸温度は、延伸フィルムのガラス転移点(Tg)以上、Tg+20℃以下の範囲で設定することが好ましい。
【0013】
本発明において、以下に示す緩和工程を有する光学フィルムの製造方法によって、延伸時のゴム粒子の飛び出しにより生じる表面凹凸を緩和しヘイズを低減することができる。また、熱可塑性分子鎖の平面方向配向は緩和してしまうものの、ゴム粒子の変形を緩和し(球形に戻し)、ゴム配合強度が発現する度合いを支配的とすることで、平面方向、厚さ方向共に強度を十分発現させることができる。より微視的には、延伸の結果、延伸フィルムにおいては、ゴム粒子が存在する箇所では膜厚がより大きく、ゴム粒子が存在しない箇所では膜厚がより小さい傾向にあるため、ゴム粒子が存在する箇所を島とし、ゴム粒子が存在しない箇所を海とする海島構造が延伸フィルムの両面に形成される。このような延伸フィルムに対して、緩和工程を行うと、海部分の膜厚が増し、海部分の膜厚と島部分の膜厚との差が小さくなり、延伸フィルム表面の凹凸が緩やかになり、ヘイズが低減する。
【0014】
上記緩和工程においては、熱可塑性樹脂及びゴム粒子を含む熱可塑性樹脂組成物からなる延伸フィルムに対して上記延伸フィルムの延伸方向に張力を加えながら、上記延伸フィルムの寸法を上記延伸方向に縮小する。このように延伸フィルムの寸法を縮小することで厚さ方向への分子鎖配向が生じるため、厚さ方向の強度を増すことができる。延伸フィルムの寸法の縮小は、一軸延伸及び逐次二軸延伸の場合は幅方向クリップ間距離を縮小することにより、同時二軸延伸の場合は同時に縦方向クリップ間距離及び幅方向クリップ間距離を縮小することにより、行うことができる。
【0015】
厚さ方向への分子鎖配向が生じやすく、厚さ方向の強度が向上しやすいことから、式:(D0−D1)/D0×100で表される寸法縮小率は、0.1〜25%であることが好ましく、0.5〜20%であることがより好ましい。ここで、D0は、緩和工程前における延伸フィルムの延伸方向への寸法を表し、D1は、緩和工程後における延伸フィルムの延伸方向への寸法を表す。なお、D0及びD1は、緩和工程前後において、延伸フィルム上の互いに対応する領域の寸法である。
【0016】
上記の通り、延伸フィルムの両面には海島構造が形成される。ヘイズの低減、強度等の観点から、上記島部分の膜厚と上記海部分の膜厚との差は、上記緩和工程前は30nm超であるのに対し、上記緩和工程後は1〜30nmであることが好ましい。上記差は、延伸フィルムの表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察し、海部分から島頂点までの高さを測定した結果から算出することができる。
【0017】
一軸又は二軸延伸によって、延伸フィルム中のゴム粒子は、楕円体様の扁平な形状を示す。特に、延伸フィルムの断面に垂直な方向から見たとき、上記ゴム粒子は、延伸フィルムの平面方向に長軸、延伸フィルムの厚み方向に短軸を有する楕円形を示す。即ち、上記ゴム粒子は、延伸フィルムの断面上に、長径及び短径を有する。延伸フィルムの断面において、上記ゴム粒子の長径と短径との比は、上記緩和工程前は、好ましくは4.0超、より好ましくは4.2以上20.0以下、更により好ましくは4.5以上15.0以下、一層更により好ましくは4.8以上12.0以下、特に好ましくは5.0以上10.0以下であり、上記緩和工程後は好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、更により好ましくは2.0以下、一層更により好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.1以下であるのが好ましい。上記緩和工程前後における上記比がこのような範囲であると、延伸と緩和とのバランスが保たれやすく、ヘイズを低減しつつ、十分な強度を有する光学フィルムを得やすい。上記比は、延伸フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、上記ゴム粒子の長径及び短径を測定した結果から算出することができる。
【0018】
厚さ方向への分子鎖配向が生じやすく、厚さ方向の強度が向上しやすいことから、緩和工程後の延伸フィルムの平均膜厚と緩和工程前の延伸フィルムの平均膜厚との比(膜厚増加倍率)は、1.0〜1.8であることが好ましく、1.0〜1.6であることがより好ましい。
【0019】
上記緩和工程は、上記延伸フィルムに対し熱処理を施すことにより行われ、上記熱処理の熱処理温度はTg以上、Tg+40℃以下であることが好ましい。但し、Tgは前記延伸フィルムのガラス転移温度である。上記熱処理温度がTg以上であると、延伸工程で生じた表面変形が緩和しやすいため、ヘイズが下がりやすく、ゴム粒子の扁平な変形も緩和しやすい。上記熱処理温度がTg+40℃以下であると、フィルムが炉内で垂れにくいため、搬送できなくなる可能性が低く、また、配向緩和が大きくなりにくく、平面強度の大きな低下を防止しやすいために好ましい。この熱処理は、例えば、ガラス転移温度以上に温調されたオーブン内ゾーンにおいて、把持部間距離の拡大操作をすることなく、延伸後のフィルムを搬送することで可能である。
【0020】
この熱処理ゾーンにおける熱処理時間は延伸処理ゾーンにおける延伸処理時間の0.5倍以上、1.5倍以下であることが好ましい。0.5倍以上では熱処理時間を充分取りやすいためフィルムが均一に熱処理温度に到達しやすく配向ムラに伴う強度ムラが出にくいため好ましい。なお、熱処理ゾーンと延伸処理ゾーンとの間でフィルムの移送速度が同じ場合は、熱処理ゾーンの距離を延伸処理ゾーンの距離の0.5倍以上、1.5倍以下に設定することで、熱処理ゾーンにおける熱処理時間を延伸処理ゾーンにおける延伸処理時間の0.5倍以上、1.5倍以下とすることができる。また、熱処理ゾーンにおいて、一軸延伸又は逐次二軸延伸の場合は幅方向クリップ間距離を、同時二軸延伸の場合は同時に縦方向及び幅方向クリップ間距離を、0.1%以上、25%以下の範囲で縮小することが好ましく、0.5%以上、20%以下の範囲で縮小することが好ましい。このように熱処理をしながら縮小することで厚さ方向への分子鎖配向が生じるため、厚さ方向の強度を増すことができる。但し、同時二軸緩和を施した場合、その程度に応じて厚みが増してしまうが、それを補正するように延伸倍率を上げることで所望の厚みの延伸フィルムを得ることができる。
【0021】
また、熱処理ゾーンにおける加熱手段としては延伸ゾーンと同様に熱風処理等でも可能であるが、幅方向の拡大を施さないため炉内で張力が不足し、熱風にフィルムが煽られて、フィルムが熱風の炉内供給ノズルに接触し破断したり、フィルム厚さがばらつく原因となり得る。しかしながら、ブロア風量を落とすと加熱効率が落ちるために延伸温度より高く熱処理温度を上げる場合にフィルム全面が所望の熱処理温度に達しない懸念がある。したがって、熱処理ゾーンにおいては補助加熱手段を炉内に設けることが好ましく、加熱効率から赤外線ヒーター等の輻射加熱装置を用いることが好ましい。
【0022】
本発明における二軸延伸は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であっても可能であるが、強度の等方性がより良い同時二軸延伸の方が更に好ましい。また、溶融押出法によって得られた原反を連続的に処理しても、原反を巻き取り、巻き取ったロールを繰り出すことで処理してもどちらでもよいが、生産性の観点から連続的に行う方が好ましい。逐次二軸延伸としては、縦方向(フィルム流れ方向)に延伸する縦延伸、横方向(フィルム幅方向)の延伸をこの順番で実施することが好ましい。縦延伸方式としては、ニップロールを具備する2以上の加熱ロールでフィルムを可塑化し、そのロール周速差で延伸するロール延伸方式、加熱オーブン内にてフィルムを可塑化し、オーブンの前後にニップロールを具備するロールを用い、その周速差で延伸するゾーン延伸方式等各種方式を用いることができる。横延伸方式としては、フィルム両端部をクリップやピンで把持し、オーブン内で可塑化し、把持部両端間距離がオーブン内で幅方向に広がることで延伸する方式等各種方式を用いることができる。横延伸では把持部が存在し、把持部は把持跡が残り製品として不適となるため、両端をスリットすることが好ましい。スリットは各種カッター(例えば、シェア刃やレザー刃等)を用いることができるが、連続成形性の観点からシェア刃が好ましい。同時二軸延伸方式としては、上記クリップテンターにおいて、オーブン内で可塑化し、把持部間距離がオーブン内で横方向に広がることで延伸するとともに把持部の縦方向間隔が広がる機構を持たせる方式を用いることができる。ゴム粒子を配合した熱可塑性樹脂の延伸の場合、一軸又は二軸延伸によって熱可塑性樹脂分子鎖が一軸又は二軸方向に配向するとともにゴム粒子が一軸又は二軸方向に変形し扁平な状態となる。分子鎖としては一軸又は二軸方向の強度は増したものの、ゴム粒子が変形した状態で固化してしまうと強度が十分に発現せず、特に厚さ方向の強度は弱い状態である。
【0023】
そのため、このように一軸又は二軸延伸を施した後、冷却固化する前に、一軸延伸の場合は一軸延伸装置内において、逐次二軸延伸の場合は横延伸装置内において、同時二軸延伸の場合は同時二軸装置内において、延伸処理後に熱処理工程を行うことが好ましい。延伸工程後、独立して熱処理工程を持たせる場合、冷却させたフィルムを再度ガラス転移温度を超えて加熱した後に冷却することになり、エネルギー効率が悪いことと、設備長が増し製造スペースを多く取るために好ましくない。以上から、少なくとも、延伸フィルムの延伸時から緩和工程の終了時までの間、延伸フィルムの温度をTg以上に維持することが好ましい。
【0024】
本発明によれば、一軸又は二軸延伸後においてもゴム粒子の飛び出しを抑制し、透明性に優れた、強度が2次元又は3次元方向とも高いフィルムを得ることができる。透明性について、本発明により得られる光学フィルムのJIS K 7105に準拠して測定されるヘイズが1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。また強度について、本発明により得られる光学フィルムの流れ方向及び幅方向のMITがともに好ましくは1000回以上、より好ましくは1100回以上であり、上記光学フィルムの流れ方向のMITと上記光学フィルムの幅方向のMITとの比が好ましくは0.7以上1.3以下であり、より好ましくは0.8以上1.2以下である。上記MIT及び上記比が上記範囲であると、得られる光学フィルムは、等方性にも優れる。なお、MITは、JIS C 5016に準拠して測定される破断時の折り曲げ回数である。
【0025】
本発明により得られる光学フィルムの両面を走査プローブ顕微鏡で観察した際の5μm視野角の平均面粗さRaが0.1nm以上、4.0nm以下であって、両面の平均面粗さの差異が2.0nm以下であることが好ましい。より好ましくは、平均面粗さが0.1nm以上、3nm以下、両面の平均面粗さRaの差異が1nm以下である。このように極微細な範囲においての観察によれば、フィルム表面のゴム粒子の存在状態を知ることができ、その凹凸状態の指標として平均面粗さRaがこの範囲であれば、フィルムの両面とも同程度にゴム粒子の飛び出しが十分に抑制された状態であって、延伸工程におけるゴム粒子の飛び出しを抑制することができ、結果、最終形態である延伸後のフィルムにおいても白化が生じないために好ましい。両面の表面粗さの差が2.0nmよりも大きくある場合、それぞれでの延伸工程での変形挙動が異なってしまい、いずれか片面で粒子が飛び出しやすくなるため好ましくない。
【0026】
本発明により得られる光学フィルムの平均膜厚は、強度と白化の観点から、15〜60μmであることが好ましい。
【0027】
二軸延伸において、本発明のように溶融押出法において表面粒子の飛び出しを抑制しなければ、延伸時のゴム粒子の飛び出しが顕著になり、フィルム表面において光が散乱しフィルムが白化する。このようなフィルムは輝度を落とすため光学フィルムに好ましくない。しかしながら、本発明によればゴム粒子を含有させたフィルムであっても、白化を効果的に抑制することができ、光学フィルムとして好適に用いることができる。
【0028】
本発明で用いることができる熱可塑性樹脂組成物としては、光学フィルムとして使用可能な熱可塑性樹脂組成物であって、溶融押出による成形が可能なものであれば、特に制限されない。例えば、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びその水素添加物、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂とゴム粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。
【0029】
ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物を光学フィルムの材料として使用することができるが、ゴム粒子がフィルム表面に存在し、フィルムの表面平滑性を損なうことがある。このような場合、溶融押出後に挟み込み成形を実施することで、ゴム粒子をフィルム内部に押し込み、フィルムの表面平滑性を向上させることが期待される。しかし、ゴム粒子とマトリックス樹脂の相溶性が低い場合においては、ゴム粒子がフィルム中で凝集しやすく、結果、フィルム表面の凹凸が大きくなってしまうことがある。このようなケースでは、通常条件の挟み込み成形では、表面の微細な凹凸を低減することができず、結果、光学フィルムとしては好ましくない表面ムラがみられるという不都合があった。
【0030】
しかしながら、本発明によると、たとえ熱可塑性樹脂組成物がゴム粒子を含有し、そのゴム粒子がマトリックス樹脂との相溶性が低い場合であっても、表面の微細な凹凸を低減し、表面ムラを低減するという効果を達成することができる。
【0031】
以下、本発明を好適に適用することができるゴム粒子含有熱可塑樹脂組成物の一例であるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物について具体的に説明する。
【0032】
ゴム状重合体としては、例えば、ガラス転移温度が20℃未満である重合体が挙げられ、より具体的には、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体等が挙げられる。なかでも、フィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)が特に好ましい。アクリル系ゴム状重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられる。
【0033】
ゴム状重合体として、ゴム状重合体を含むグラフト共重合体も好ましい。グラフト共重合体は、好ましい形態として、多段重合体及び多層構造重合体を含む。多段重合体は、重合体粒子の存在下に、単量体混合物を重合して得られる重合体であり、多層構造重合体は、重合体粒子の存在下に、単量体混合物を重合して得られる重合体層を有する重合体である。両者は基本的に同一の重合体を指すが、前者は主に製法によって重合体を特定したもの、後者は主に層構造によって重合体を特定したものである。以下の説明は、主に前者について行うが、後者の視点においても同様に適用できる。
【0034】
透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」と称する。)を好ましく用いることができる。アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を少なくとも1段以上重合して得ることができる。
【0035】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体であり、具体的には、アクリル酸エステル50〜100重量%及び共重合可能な他のビニル系単量体50〜0重量%からなる単量体混合物(100重量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05〜10重量部(単量体混合物100重量部に対して)を重合させてなるものが好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0036】
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は2種以上併用してもよい。アクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において50重量%以上100重量%以下が好ましく、60重量%以上99重量%以下がより好ましく、70重量%以上99重量%以下が更に好ましく、80重量%以上99重量%以下が最も好ましい。50重量%以上では耐衝撃性が低下しにくく、引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時に端面のバリが発生しにくくなる傾向がある。
【0037】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、(メタ)アクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等があげられる。また、芳香族ビニル類及びその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸及びその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0038】
多官能性単量体は通常使用されるものでよく、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート及びこれらのアクリレート類等を使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上使用してもよい。
【0039】
多官能性単量体の量は、単量体混合物の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部以上では、架橋体が形成されやすい傾向があり、10重量部以下では、フィルムの耐割れ性が低下しにくい傾向がある。
【0040】
ゴム状重合体の平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm以上では耐割れ性が悪化しにくい。一方、450nm以下であると透明性が低下しにくい。なお、本明細書において、平均粒子径は、動的散乱法により測定される平均粒子径を意味し、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0041】
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5〜90重量部(より好ましくは、5〜75重量部)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25重量部を少なくとも1段階で重合させることより得られるものが好ましい。グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%以上では得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくい傾向がある。グラフト共重合体に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0042】
光学的等方性の観点からは、脂環式構造、複素環式構造又は芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体(「環構造含有(メタ)アクリル系単量体」と称する。)が好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが挙げられる。その使用量は、単量体混合物の総量(環構造含有(メタ)アクリル系単量体及びこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。ここでいう、これと共重合可能な他の単官能性単量体には、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体が同様に使用できる。
【0043】
アクリル系グラフト共重合体としては、更に、ゴム状重合体の内側に硬質重合体を含有するものであってもよい。
【0044】
具体的には、次の(I)〜(III)の重合段階を含む多段重合で得られる多段重合体が挙げられる。
(I)メタクリル酸エステル40〜100重量%、及び、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体60〜0重量%からなる混合物(a)、並びに多官能性単量体0.01〜10重量部(単量体混合物(a)の合計量100重量部に対して)を重合して硬質重合体を得る。
(II)アクリル酸エステル60〜100重量%、及び、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体混合物(b)、並びに多官能性単量体0.1〜5重量部を重合して軟質重合体を得る。
(III)の重合段階では、メタクリル酸エステル60〜100重量%、及びこれと共重合可能な二重結合を有する他の単量体40〜0重量%からなる単量体混合物(c)、並びに多官能性単量体0〜10重量部(単量体混合部(c)の合計量100重量部に対して)を重合して硬質重合体を得る。
【0045】
上記(I)〜(III)の重合段階の順番で重合して得られる多段重合体であればよく、(I)〜(III)の各重合段階の間に、その他の重合段階が含まれてもよい。
【0046】
ここで、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な二重結合を有する単量体、及び、多官能性単量体としては、上述の例示と同一であり、好ましい例示も同様に適用される。
【0047】
上記多段重合体は、更に(IV)重合段階を含む多段重合で得られるものであってもよい。
(IV)メタクリル酸エステル40〜100重量%、アクリル酸エステル0〜60重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜5重量%からなる単量体混合物(d)、並びに、多官能性単量体0〜10重量部(単量体混合物(d)100重量部に対して)を重合して硬質重合体を得る。
【0048】
(IV)で使用されるメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、及び、多官能性単量体は、上述と同様のものが例示されて、好ましい例示も同様に適用される。
【0049】
ここでいう「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質層の衝撃吸収能力を高め、耐割れ性等の耐衝撃性改良効果を高める観点から、重合体のガラス転移温度が0℃未満であることが好ましく、−20℃未満であることがより好ましい。
【0050】
また、ここでいう「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。重合体のガラス転移温度が20℃以上の場合、架橋構造含有重合体を配合した樹脂組成物、及び成形体の耐熱性が低下したり、架橋構造含有重合体を製造する際に架橋構造含有重合体の粗大化や塊状化が起こりやすくなったりする等の問題が発生にくい。
【0051】
本願において、「軟質」及び「硬質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートのガラス転移温度は105℃であり、ポリブチルアクリレートのガラス転移温度は−54℃である)。
【0052】
フィルムを延伸して使用する場合(延伸フィルムを使用する場合)、重合段階(III)の前段階及び/又は後段階に、少なくとも重合段階(IV)を含む、硬質重合体を形成する重合段階を1段以上含むことによって得られる多段重合グラフト共重合体が好ましい。中でも、重合段階(I)、重合段階(II)、重合段階(III)、及び、重合段階(IV)を含む4段重合で得られる多段重合グラフト共重合がより好ましい。重合段階(IV)は、重合段階(II)よりも後の重合段階であれば、重合段階(III)の前段階又は後段階のいずれであってもよい。
【0053】
なお、重合段階(III)と重合段階(IV)の順序については特に限定されず、どちらが先でも良い。好ましくは重合段階(III)における重合を行った後、重合段階(IV)における重合を行うことが好ましい。
【0054】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体に対するグラフト率は、10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%以上では、成形体中でアクリル系グラフト共重合体が凝集しにくく、透明性が低下したり、異物が生じたりする恐れが低い。また引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時にバリが発生しにくい傾向がある。250%以下では成形時、例えば、フィルム成形時の溶融粘度が高くなりにくく、フィルムの成形性が低下しにくい傾向がある。算出式は下記にて説明する。
【0055】
なお、上記多段重合体の場合は、前記(I)及び前記(II)重合段階を含む多段重合により前記(II)重合段階まで重合を実施し得られた軟質重合体の重量を100とした場合の、(II)重合段階による前記軟質重合体に対して、この重合段階以降に得られる重合体が結合した重量の比率を表す。
【0056】
上記グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト成分の重量比率であり、次の方法で測定される。
得られたアクリル系グラフト共重合体2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。得られた不溶分を、アクリル酸エステル系グラフト重合体として以下の式により算出する。
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)]×100
【0057】
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0058】
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
【0059】
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃以上では生産性が低下しにくい傾向があり、100℃以下の温度では、目標分子量が過剰に大きくなりにくく、品質が低下しにくい傾向がある。重合反応槽へ連続的に添加するアクリル酸エステル単量体、開始剤、乳化剤及び脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加しても良く、未反応単量体の回収や後重合を行っても良い。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
【0060】
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0061】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0062】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩はカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でも良い。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に、ポリオキシアルキレン類又はその末端水酸基のアルキル置換体又はアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用又は一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、又はリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0063】
乳化剤の使用量としては、単量体成分全体100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部が好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であることがより好ましい。0.05重量部以上では、共重合体の粒径が大きくなり過ぎず、10重量部以下では共重合体の粒径が小さくなりすぎず、また、粒度分布が悪化しにくい。
【0064】
また、必要に応じて凝固操作前の多段重合グラフト共重合体ラテックスを、フィルター、メッシュ等でろ過し、微細な重合スケールを取り除くことにより、これらの微細な重合スケールに起因するフィシュアイや異物等を低減させ、本発明の樹脂組成物及びフィルムの外観を向上させることができる。
【0065】
本発明におけるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物としては、特に限定されないが、1種類以上のアクリル系ゴム状重合体と1種類以上のアクリル系樹脂との混合組成物であることが好ましい。
【0066】
アクリル系ゴム状重合体は、アクリル系ゴム状重合体が含有するゴム状重合体が、アクリル系樹脂及びグラフト共重合体の合計100重量部において、1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部含まれるように配合されることがより好ましく、1〜25重量部含まれるように配合されることが更に好ましく、5〜20重量部含まれるように配合されることが特に好ましい。1重量部以上ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、又は、光弾性定数が大きくなって光学的等方性に劣ったりしにくい。一方、60重量部以下であるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化しにくい傾向がある。
【0067】
アクリル系ゴム状重合体とアクリル系樹脂との混合は、直接、フィルム生産時に混合しても良く、また一度、アクリル系ゴム状重合体とメタクリル系樹脂とを混合ペレット化してから、改めてフィルム生産を実施しても良い。
【0068】
アクリル系樹脂としては、特に制限が無いが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂が使用でき、メタクリル酸メチル構成単位を30〜100重量%含有するものが好ましい。また、耐熱性のアクリル系樹脂を使用でき、例えば、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、水酸基及び/又はカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、芳香族ビニル単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有重合体又はその芳香族環を部分的に又は全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有重合体(例えば、スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン系重合体)、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体等を挙げることができる。耐熱性及び光学特性の観点からグルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。グルタルイミドアクリル系樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミドアクリル系樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2)
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミドアクリル系樹脂を好適に用いることができる。
【0069】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
【化3】
(式中、Rは、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)を更に含んでいてもよい。
【0070】
上記一般式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素又はメチル基であり、Rは水素、メチル基、ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、Rはメチル基であり、Rは水素であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0071】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR、R、及びRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0072】
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
【0073】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、又は、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0074】
上記一般式(2)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素又はメチル基であり、Rは水素又はメチル基であることが好ましく、Rは水素であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0075】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、R、及びRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0076】
上記グルタルイミド樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0077】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R、及びRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0078】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、Rの構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0079】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミド樹脂の1重量%以上とすることが好ましく、1重量%〜95重量%とすることがより好ましく、2重量%〜90重量%とすることが更に好ましく、3重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。
【0080】
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性及び透明性が低下したり、成形加工性、及びフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりしにくい。
【0081】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミドアクリル系樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることが更に好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。
【0082】
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりしにくい。
【0083】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、及び芳香族ビニル単位以外のその他の単位が更に共重合されていてもよい。
【0084】
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
【0085】
これらのその他の単位は、上記グルタルイミドアクリル系樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であることが好ましい。上記範囲内であれば、
溶融押出時の粘度が高くなったり、成形加工性が低下したり、成形品の生産性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりしにくい。
【0086】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0087】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2008−273140に記載されている方法等があげられる。
【0088】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等を単独又は2種以上併用して添加してもよい。
【0089】
本発明で製造される光学フィルムは、液晶表示装置等の表示装置に用いられる部材、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等に用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムに好適である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で測定した各物性の測定方法は次の通りである。
【0091】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0092】
(配向複屈折)
フィルムから40mm×40mmの試験片を切り出した後、王子計測製自動複屈折計(KOBRA−WR)を用いて、波長590nm、入射角0°にて面内位相差を測定し、試験片厚みで除し配向複屈折を算出した。
【0093】
(光弾性定数)
フィルムからフィルム幅方向90mm×フィルム流れ方向15mmの短冊状に試験片を切り出した後、王子計測製自動複屈折計(KOBRA−WR)を用いて、波長590nm、入射角0°にて測定した。測定は、フィルムの長編の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から単位応力による複屈折の変化量を算出した。
【0094】
(ヘイズ)
フィルムのヘイズ値は、日本電色工業製濁度計(NDH−300A)を用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。
【0095】
(耐折り曲げ性)
フィルムの耐折り曲げ性は、(株)東洋精機製作所 MIT耐折疲労試験機を用い、JIS C 5016の方法に従って行った。測定条件は、R=0.38、荷重100gとした。測定結果を破断時の折り曲げ回数(以下、「MIT」という場合がある。)で示した。
【0096】
(打ち抜き試験)
打ち抜き試験では、延伸フィルムを打抜機でダンベル状に打ち抜いて、ダンベルの周囲が、バリ等なく、滑らかかどうかを光学顕微鏡にて観察した。
【0097】
(製造例1)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の製造>
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を製造した。
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。
タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、及び、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100重量部に対して2.0重量部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100重量部に対して3.2重量部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を得た。
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、グルタミルイミド単位と、(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂である。
【0098】
(製造例2)
<グラフト共重合体(B2)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 175重量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸 0.104重量部
ホウ酸 0.4725重量部
炭酸ナトリウム 0.04725重量部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、単量体混合物27重量部(メタクリル酸メチル97重量%及びアクリル酸ブチル3重量%)及びメタクリル酸アリル0.135重量部からなる混合物(I)の26重量%を重合機に一括で追加し、その後ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.0645重量部、エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム0.0056重量部、硫酸第一鉄0.0014重量部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.0207重量部を追加し、その15分後にt−ブチルハイドロパーオキサイド0.0345重量部を追加し、更に15分重合を継続させた。次に、水酸化ナトリウム0.0098重量部を2重量%水溶液の形態で、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.0852重量部をそのまま追加し、混合物(I)の残り74重量%を60分かけて連続的に添加した。添加終了30分後にt−ブチルハイドロパーオキサイド0.069重量部を追加し、更に30分重合を継続することにより、重合物を得た。重合転化率は100.0%であった。
その後、水酸化ナトリウム0.0267重量部を2重量%水溶液の形態で、過硫酸カリウム0.08重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、次いで、単量体混合物(アクリル酸ブチル82重量%、スチレン18重量%)50重量部及びメタクリル酸アリル0.75重量部からなる混合物を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、過硫酸カリウム0.015重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、120分重合を継続し、重合物を得た。重合転化率は99.0%であり、平均粒子径は225nmであった。
その後、過硫酸カリウム0.023重量部を2重量%水溶液の形態で添加し、単量体混合物15重量部(メタクリル酸メチル95重量%、アクリル酸ブチル5重量%)を45分かけて連続的に添加し、更に30分重合を継続した。
その後、単量体混合物8重量部(メタクリル酸メチル52重量%、アクリル酸ブチル48重量%)を25分かけて連続的に添加し、更に60分重合を継続することにより、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。
得られたラテックスを塩化マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B2)を得た。グラフト共重合体(B2)のグラフト率は24.2%であった。
【0099】
(製造例3)
<樹脂ペレットの製造1>
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)95重量部、及び白色粉末状のグラフト共重合体(B2)5重量部の混合物を、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。このペレットについて上述の通り溶融粘度を測定した。
【0100】
(製造例4)
<樹脂ペレットの製造2>
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)のみを、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。このペレットについて上述の通り溶融粘度を測定した。
【0102】
(実施例
ゴム含有熱可塑性樹脂組成物として、製造例3で得られたペレット(ガラス転移温度Tg122℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ65mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が270℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介し、リーフディスクフィルタ(目開き5μmカット)を通過させた後、Tダイへと溶融樹脂を押し出した。この時、Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は270℃であり、この温度での122sec−1における溶融粘度は1050Pa・secであった。吐出された溶融フィルムを、70℃に温調したキャストロールと70℃に温調したタッチロールで挟み込み冷却固化した後、引き取りロールにて引き取り、厚さ160μmの原反を取得した。その原反を、同時二軸延伸機(熱処理ゾーン長/延伸ゾーン長=1.0)にて、縦方向及び横方向同時に2倍、132℃(Tg+10℃)の条件で延伸したのち、熱処理ゾーンにおいて、135℃において熱処理を施すとともに、縦方向及び横方向同時に5%緩和させた(即ち、縦方向及び横方向同時に寸法を5%縮小させた)のちにTg以下まで冷却した。冷却後のフィルムの両端を連続的にスリットした後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコアに厚み40μmのフィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.5%、縦方向のMITは2500回、横方向のMITは2500回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは見られなかった。
【0103】
(実施例
熱処理温度を132℃とした以外は実施例と同様にし、二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.7%、縦方向のMITは2900回、横方向のMITは2900回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは見られなかった。
【0104】
(実施例
延伸温度を125℃、熱処理温度を145℃とした以外は実施例1と同様にし、二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.4%、縦方向のMITは2000回、横方向のMITは2000回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは見られなかった。
【0105】
(比較例1)
熱処理ゾーンを設けず、延伸ゾーン後にTg以下に冷却させた以外は実施例と同様にし、40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは1.8%、縦方向のMITは3000回、横方向のMITは3000回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリが数か所見られた。フィルムの5μm視野角の平均面粗さRaはそれぞれの面で11.1nm、10.0nmであった。
【0106】
(比較例2)
熱処理温度を155℃とした以外は実施例1と同様にしたところ、熱処理ゾーンでフィルムが弛み、延伸機内ノズルにフィルムが触れて破断してしまった。
【0107】
(比較例3)
延伸温度を145℃、熱処理温度を145℃とした以外は実施例と同様にして、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.4%、縦方向のMITは1000回、横方向のMITは1000回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは数か所見られた。
【0108】
(比較例4)
延伸温度を125℃、熱処理温度を122℃とした以外は実施例と同様にして、40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは2.1%、縦方向のMITは2900回、横方向のMITは2900回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは見られなかった。
【0109】
(比較例5)
ゴム含有熱可塑性樹脂組成物として、製造例3で得られたペレット(ガラス転移温度Tg122℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ65mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が270℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介し、リーフディスクフィルタ(目開き5μmカット)を通過させた後、Tダイへと溶融樹脂を押し出した。この時、Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は270℃であり、この温度での122sec−1における溶融粘度は1050Pa・secであった。吐出された溶融フィルムを、70℃に温調したキャストロールと70℃に温調したタッチロールで挟み込み冷却固化した後、引き取りロールにて引き取り、厚み140μmの原反とした。この時の原反ライン速度は15m/分であった。
この原反を連続的にロール縦延伸機にて縦方向に2倍、145℃(Tg+23℃)の条件にて延伸した後、更に連続的にクリップ式テンター横延伸機(熱処理ゾーン長/延伸ゾーン長=1.0)にて横方向に2倍、145℃(Tg+23℃)の条件にて延伸したのち、熱処理ゾーンを設けず延伸ゾーン後にTg以下に冷却させた。冷却後のフィルムの両端を連続的にスリットした後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコアに厚み40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは1.1%、縦方向のMITは1200回、横方向のMITは1200回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは見られなかった。
【0110】
(比較例6)
ペレットとして製造例4で得たゴムを配合していない熱可塑性樹脂を用いたこと以外は実施例と同様に行い、40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.2%、縦方向のMITは400回、横方向のMITは400回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは数か所見られた。
【0111】
(比較例7)
熱処理ゾーンを設けず、延伸ゾーン後にTg以下に冷却させた以外は比較例6と同様に行い、40μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムのヘイズは0.2%、縦方向のMITは500回、横方向のMITは500回であり、打ち抜き試験におけるダンベル端面のバリは数十か所見られた。
【表1】