特許第6784673号(P6784673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アコビオムの特許一覧

特許6784673膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法
<>
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000018
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000019
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000020
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000021
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000022
  • 特許6784673-膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法 図000023
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784673
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】膵臓がんに冒された患者の生存予後を判断する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20201102BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20201102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   C12Q1/6886 ZZNA
   G01N33/574 A
   A61P35/00
   A61K31/7068
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-529151(P2017-529151)
(86)(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公表番号】特表2017-527827(P2017-527827A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】FR2015052207
(87)【国際公開番号】WO2016027029
(87)【国際公開日】20160225
【審査請求日】2018年6月22日
(31)【優先権主張番号】1457934
(32)【優先日】2014年8月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515163645
【氏名又は名称】アコビオム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ダビド ピケマル
【審査官】 小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−523011(JP,A)
【文献】 特表2013−540995(JP,A)
【文献】 FUJITA, H. et al.,Gene expression levels as predictive markers of outcome in pancreatic cancer after gemcitabine-based adjuvant chemotherapy,Neoplasia,2010年,Vol. 12, No. 10,pp. 807-817
【文献】 TSIAOUSIDOU, A. et al.,B7H4, HSP27 and DJ-1 molecular markers as prognostic factors in pancreatic cancer,Pancreatology,2013年,Vol.13, No. 6,pp. 564-569
【文献】 KRACMAROVA, A. et al,High expression of ERCC1, FLT1,NME4 and PCNA associated with poor prognosis and advanced stages in myelodysplastic syndrome,Leuk. Lymphoma,2008年,Vol. 49, No. 7,pp. 1297-1305
【文献】 MITRA, A. K. et al.,Gemcitabine pathway SNPs are associated with its PK parameters in patients with solid tumors,Cancer Research,2012年,Vol. 72, No. 8,Suppl. Abstract #1882
【文献】 中田岳成 ほか,膵癌の治療:外科治療の現況と最近の化学療法,信州医誌,2010年,Vol. 58, No. 3,pp. 95-102
【文献】 TAKEDATE, T. et al.,Nm23/nucleoside diphosphate kinase-A as a potent prognostic marker in invasive pancreatic ductal carcinoma identified by proteomic analysis of laser micro-dissected formalin-fixed paraffin-embedded tissue,Clin. Proteomics,2012年,Vol. 9,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓がんに冒された患者の生存予後を明確にするためのインビトロの方法であって、
a)前記患者のあらかじめ採取した血液サンプルで遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した少なくとも1個のマーカー遺伝子の発現レベル(Ct遺伝子)及び少なくとも1のユビキタス遺伝子の発現レベルを測定するステップ、ここで前記発現レベルが、リアルタイム定量的PCR(qPCR)によりサイクル数(Ct、「サイクル閾値」)として計測され、前記マーカー遺伝子の発現レベルが、以下の:
ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-[Ct(ユビキタス遺伝子)(の平均値)]
に従って少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルに関して規格化されて、発現レベルが計測された各マーカー遺伝子についての規格化された発現レベルΔCt遺伝子を取得し;
b)前記患者についてステップa)で選択した1個または複数個のマーカー遺伝子で測定した発現レベルを参照閾値と比較するステップと;
c)前記患者の生存期間を評価するステップを含み、
ここでステップa)において、単一のマーカー遺伝子の発現レベルが計測され、そしてステップb)及びc)において、所定の遺伝子の参照閾値(Sref)が以下のとおりであり:
【表1】
3.1864よりも高いNME4の規格された発現レベルΔCt、及び/又は
それぞれ6.401、3.6262、2.6286、及び6.3748よりも低いITPR3、SESN3、ARL4C、及びRPLP1の規格化された発現レベルΔCtが、長期間の生存の予後を示す一方で、
3.1864よりも低いNME4の規格化された発現レベルΔCt、及び/又は
それぞれ6.401、3.6262、2.6286、及び6.3748よりも高いITPR3、SESN3、ARL4C、及びRPLP1の規格化された発現レベルΔCtが、短期間の生存の予後を示すか、或いは
ステップa)において、少なくとも2のマーカー遺伝子の組み合わせの発現レベルが計測され、ステップb)において、各遺伝子について発現が計測され;
i) INDEX遺伝子値が決定され、これは遺伝子の規格化された発現レベルに依存しており、以下の:
INDEX遺伝子=+1×遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>遺伝子の参照閾値である場合)及び
INDEX遺伝子=−1×遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<遺伝子の参照閾値である場合)
により定義され、ここで所定の遺伝子の係数β及び参照閾値(Sref)は以下に定義されるとおりであり;

【表2】
ii)組み合わせの遺伝子のINDEX遺伝子値合計に等しい値である、INDEX患者値を所定の患者について決定し、
iii) INDEX患者値を遺伝子の組み合わせについて予め決定された最終参照閾値に対して比較し、そしてステップc)において、
被験患者について計算されたINDEX患者値が最終参照閾値よりも低い場合、予後は長期間の生存であり、そして
被験患者について計算されたINDEX患者値が最終参照閾値よりも高い場合、予後は短期間の生存である、
方法。
【請求項2】
膵臓がんに冒された患者でその病気の治療法の有効性および/または利点を予測または評価するインビトロの方法であって、
a)前記患者のあらかじめ採取した血液サンプルで遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、及びRPLP1からなる群から選択した少なくとも1個のマーカー遺伝子(Ct遺伝子)の発現レベル及び前記患者から前もって取得された血液サンプル中において少なくとも1のユビキタス遺伝子の発現レベルを測定するステップ、ここで前記発現レベルが、リアルタイム定量的PCR(qPCR)によりサイクル数(Ct、「サイクル閾値」)として計測され、前記マーカー遺伝子の発現レベルが、以下の:
ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-[Ct(ユビキタス遺伝子)(の平均値)]
に従って少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルに関して規格化されて、発現レベルが計測された各マーカー遺伝子についての規格化された発現レベルΔCt遺伝子を取得し;
b)前記患者についてステップa)で選択した1個または複数個のマーカー遺伝子で測定した発現レベルを参照閾値と比較するステップと;
c)前記患者の生存期間を評価するステップ
を含み、ここで
ここでステップa)において、単一のマーカー遺伝子の発現レベルが計測され、そしてステップb)及びc)において、所定の遺伝子の参照閾値(Sref)が以下のとおりであり:
【表3】
3.1864よりも高いNME4の規格化された発現レベルΔCt、及び/又は
それぞれ6.401、3.6262、2.6286、及び6.3748よりも低いITPR3、SESN3、ARL4C、及びRPLP1の規格化された発現レベルΔCtが、長期間の生存の予後を示す一方で、
3.1864よりも低いNME4の規格化された発現レベルΔCt、及び/又は
それぞれ6.401、3.6262、2.6286、及び6.3748よりも高いITPR3、SESN3、ARL4C、及びRPLP1の規格化された発現レベルΔCtが、短期間の生存の予後を示すか、或いは
ステップa)において、少なくとも2のマーカー遺伝子の組み合わせの発現レベルが計測され、ステップb)において、各遺伝子について発現が計測され:
i) INDEX遺伝子値が決定され、これは遺伝子の規格化された発現レベルに依存しており、以下の:
INDEX遺伝子=+1×遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>遺伝子の参照閾値である場合)及び
INDEX遺伝子=−1×遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<遺伝子の参照閾値である場合)
により定義され、ここで所定の遺伝子のβ係数及び参照閾値(Sref)は以下に定義されるとおりであり;
【表4】
ii)組み合わせの遺伝子のINDEX遺伝子値の合計に等しい値である、INDEX患者値を所定の患者について決定し、
iii)INDEX患者値を遺伝子の組み合わせについて予め決定された最終参照閾値に対して比較し、そしてステップc)において、
被験患者について計算されたINDEX患者値が最終参照閾値よりも低い場合、予後は長期間の生存であり、そして
被験患者について計算されたINDEX患者値が最終参照閾値よりも高い場合、予後は短期間の生存である、方法。
【請求項3】
前記治療法がゲムシタビンを用いた治療法であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)において、少なくとも2個の遺伝子の発現レベルを測定することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記血液サンプルが全末梢血サンプルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)において、3つの遺伝子の発現レベルが計測される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)において、4つの遺伝子の発現レベルが計測される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)において、5つの遺伝子の発現レベルが計測される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1個または複数個の遺伝子の発現レベルを、当該遺伝子のRNAまたはcDNAの転写レベルによって測定する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
1個のマーカー遺伝子または少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの各遺伝子の規格化された発現レベルΔCtを2個のユビキタス遺伝子B2MとGAPDHに対して規格化する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記5個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定し、最終参照閾値は1.102であって、INDEX患者が1.102未満であることが長期の生存予後を示している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法を実行することにより、膵臓がんの治療有効性をモニタリングする方法
【請求項13】
前記膵臓がんの治療が、ゲムシタビンでの治療である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記モニタリングが、治療中に間隔を空けて行われる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法によって長期の生存予後と判断される患者において、膵臓がんの治療のために利用するゲムシタビンを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膵臓がんに関するものであり、より具体的には、膵臓がんに冒された患者の生存予後に関する。
【0002】
本発明は、その患者が膵臓がんの治療、より具体的にはゲムシタビンによる治療を受けるのに適しているかどうかを判断することも目的としている。
【背景技術】
【0003】
アメリカ合衆国では毎年43920人の新たな患者が出て37390人が死亡しているため、膵臓がんの死亡率は85%を超える。そのため膵臓がんは、男女ともアメリカ合衆国のがん死の第4位に位置する。
【0004】
膵臓がんの発見件数は過去数十年の間に明らかに増加した。毎年、欧州では約60,000人、世界全体では230,000人超が、この病気であると診断される。
【0005】
膵臓がんに冒された患者は、早期検出が難しいことが一因で、他の悪性腫瘍や他のタイプのがんよりも予後が悪いことがしばしばある。
【0006】
膵管腺癌に冒された大半の患者は、診断がついたときには病気が局所的に進行しているか転移しているため、10〜20%だけが、外科手術による治療の候補となる。
【0007】
診断がついてからの生存期間の中央値は3〜6ヶ月ほどである。5年生存率は5%をはるかに下回っており、完治することは極めて稀である。
【0008】
膵臓がんに冒された患者で臨床的に認められている、または利用されている現在の治療法は、ゲムシタビン、フォルフィリノックス、エルロチニブのいずれかに基づく治療法である。
【0009】
ゲムシタビンは、静脈内経路により約1000 mg/m2の用量で投与されるヌクレオシド類似体である。ゲムシタビンを用いた治療は、通常は、切除可能な膵臓がん(I〜II期)、切除不能な局所的に進行した膵臓がん(III期)、進行して転移した膵臓がん(IV期)で第一に推奨される治療法の一部となっている。
ゲムシタビンを用いると、全生存期間の中央値は4.9ヶ月〜8.3ヶ月である。
【発明の概要】
【0010】
一部の患者では治療の成功が限定的で死亡率が高いままであるため、ゲムシタビンによく反応すると判明する可能性のある患者や、この病気でゲムシタビンによく耐えられると考えられる患者において設定する治療ターゲットを改善する手段が大いに必要とされている。
【0011】
膵臓がんを治療する化合物が異なると、患者によって効果の程度が異なる可能性がある。しかし現在まで、所与の一人の患者に適用可能なさまざまな治療法の臨床的利点を予測する手段はまったく存在していない。
【0012】
それゆえ、各患者が延命する可能性が最大になるよう、彼らにとってよい治療法の選択を可能にする試験が相変わらず必要とされている。
【0013】
その試験は、定期的に実施できる試験であることが望ましかろう。その試験は、非侵襲性であるとさらに有利であろう。
【0014】
本発明の発明者たちの仕事により、一群の遺伝子を同定することができた。それら遺伝子の発現レベルを研究することで、膵臓がんに冒された患者の生存期間を評価することができる。
【0015】
好ましいことに、この予測により、ゲムシタビンを用いた治療が成功する可能性を予測し、ゲムシタビンを用いた治療に好ましい反応を示しやすい患者を選択することもできる。
【0016】
そのため、それら遺伝子の発現レベルを研究することで、膵臓がんに冒された患者がゲムシタビンを用いた治療を提供するのに適しているかどうかの知見を得ることができる。
【0017】
本発明の利点の1つは、それら遺伝子の発現レベルを、あらかじめ採取した患者の血液サンプルから、好ましくは全血から直接評価できることにある。
【0018】
これは、膵臓がんの場合には特に有利である。というのも、腫瘍細胞にアクセスすることが非常に難しいからである。
【0019】
さらに、血液のサンプリング(回収、安定化、輸送)は標準化することができる。
【0020】
最後に、全血の利用は、血液の一部、例えば末梢血単核細胞(PBMC)の利用よりも確実性がある。なぜなら全血を利用することで、調製に伴う操作の間違いを回避できるからである。「全血」とは、全構成成分(血漿、赤血球、白血球、血小板など)を含む血液を意味するのに対し、「血液分画」は、血液の特定の成分を分離して得られる産物に対応する。末梢血単核細胞は、血液分画の一例である。
【0021】
したがって本発明が目的とするのは、膵臓がんに冒された患者の生存予後を明確にするためのインビトロの方法であって、 a)前記患者のあらかじめ採取した血液サンプルで遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1または相同遺伝子からなる群から選択した少なくとも1個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定するステップと; b)前記患者についてステップa)で選択した1個または複数個のマーカー遺伝子で測定した発現レベルを参照閾値と比較するステップと; c)前記患者の生存期間を評価するステップを含む方法である。
【0022】
「相同」という用語は、本明細書では、野生遺伝子(全長)の配列との一致度が少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%、さらに好ましくは99%であるポリヌクレオチド配列と定義する。一致度は、2つの配列間の配列の一致に関係する。一致は、各配列中で比較のためにアラインメントさせることのできる位置を比較することで判断できる。比較した配列中の同等な位置が同じ塩基で占められている場合には、それらの分子はその位置が同一である。2つの配列の相同性を判断するのにアラインメントのためのさまざまなアルゴリズムおよび/またはプログラムを利用することができ、例としてFASTAやBLASTがある。
【0023】
本発明の方法により、膵臓がんに冒された患者の生存予後を明確にすることができる。
【0024】
本発明によれば、ある治療、特にゲムシタビンを用いた治療を受けた膵臓がんの患者で上記方法のステップa)〜c)を実施し、特に余命について、膵臓がんの1つの治療法の有効性および/または利点を予測または評価することができる。
【0025】
そこで本発明がやはり目的とするのは、膵臓がんに冒された患者でその病気の治療法の有効性および/または利点を予測または評価するインビトロの方法であって、 a)前記患者のあらかじめ採取した血液サンプルで遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1または相同遺伝子からなる群から選択した少なくとも1個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定するステップと; b)前記患者についてステップa)で選択した1個または複数個のマーカー遺伝子で測定した発現レベルを参照閾値と比較するステップと; c)前記患者の生存期間を評価するステップを含む方法である。
【0026】
本発明の方法は、ゲムシタビンを用いた膵臓がんの治療の有効性および/または利点を予測または評価するのに特に適している。
【0027】
本発明の方法では、ステップb)で比較のために用いる参照閾値は、各遺伝子または遺伝子群の各組み合わせについてあらかじめ決めておくことが好ましい。
【0028】
本発明の原理は、5個の遺伝子(NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1)のうちの少なくとも1個の発現レベル、好ましくはこれら遺伝子のうちの2〜5個の組み合わせの発現レベルを研究することで、患者の生存予後を明確にできることを出願人が確立できたことに基づいている。より具体的には、出願人は、検査した患者の血液サンプルから取得した5個の遺伝子(NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1)のうちの少なくとも1個の発現レベル、またはこれら遺伝子の組み合わせの発現レベルに関するデータを、膵臓がんに冒された患者の参照集団でそれら5個の遺伝子またはその組み合わせについて出願人自身が確立したデータと比較することにより、その患者を治療したときの生存予後を明らかにすることと、その患者のモニタリングが可能になった。
【0029】
本発明の方法は、患者の血液サンプルで、好ましくはその患者の末梢血サンプルで実施することができる。なおその血液サンプルは、本発明の方法を実施する前に採取する。末梢血は、心臓、動脈、毛細血管、静脈を循環する血液である。
【0030】
本発明によれば、この方法のステップa)は、上に定義した群のうちの1〜5個の遺伝子(または相同遺伝子)、好ましくは上に定義した群のうちの2〜5個の遺伝子、より好ましくは3〜5個の遺伝子、さらに好ましくは4〜5個の遺伝子、最も好ましくは5個の遺伝子(または相同遺伝子)の発現レベルを測定することによって実現できる。
【0031】
そこで本発明では、この方法のステップa)は、遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1から選択した少なくとも1個の遺伝子(または相同遺伝子)、好ましくは以下の組み合わせ、すなわちNME4とITPR3、NME4とSESN3、NME4とARL4C、NME4とRPLP1、ITPR3とSESN3、ITPR3とARL4C、ITPR3とRPLP1、SESN3とARL4C、SESN3とRPLP1、ARL4CとRPLP1のうちの少なくとも1つの発現レベル、より好ましくは以下の組み合わせの遺伝子群、すなわちNME4とITPR3とSESN3、NME4とITPR3とARL4C、NME4とITPR3とRPLP1、NME4とSESN3とARL4C、NME4とSESN3とRPLP1、NME4とARL4CとRPLP1、ITPR3とARL4CとRPLP1、ITPR3とSESN3とRPLP1、ITPR3とSESN3とARL4C、SESN3とARL4CとRPLP1のうちの少なくとも1つの発現レベル、さらに好ましくは以下の組み合わせの遺伝子群、すなわちNME4とITPR3とSESN3とARL4C、NME4とITPR3とARL4CとRPLP1、NME4とITPR3とSESN3とRPLP1、ITPR3とSESN3とARL4CとRPLP1のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは以下の組み合わせ、すなわちNME4とITPR3とSESN3とARL4CとRPLP1の発現レベルを測定することによって実現できる。
【0032】
本発明によれば、この方法のステップa)は、遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1から選択した少なくとも1個の遺伝子(または相同遺伝子)の発現レベル、または以下の組み合わせ、すなわちNME4とITPR3とSESN3とARL4CとRPLP1の発現レベルを測定することによって実現できることが最も好ましい。
【0033】
本発明の方法の第1の実施態様では、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した1個または複数個の遺伝子の発現レベルは、当該遺伝子によってコードされていて検査する患者の血液サンプル中にあるタンパク質の量を測定することによって測定される。その場合、タンパク質の割合は、免疫化学法やウエスタンブロット法といった抗体に基づく検出法を利用して測定することが好ましい。
【0034】
本発明の方法の別の実施態様では、その1個または複数個の遺伝子の発現レベルは、当該遺伝子の転写の割合を測定することによって測定される。この割合は、当該遺伝子のRNAまたはcDNAの量を測定することによって測定できる。その場合、RNA転写産物またはcDNAのレベルは、定量PCR、DNAチップ、標識したプローブを用いたハイブリダイゼーションといった核酸検出法や、ラテラルフローイムノアッセイ、特にラテラルフローストリップを利用したイムノアッセイを利用して測定することができる。
【0035】
本発明の方法では、1個の遺伝子または遺伝子の組み合わせの発現レベルは、当該遺伝子のRNA転写産物または相補DNA(cDNA)に関するリアルタイム定量PCR(リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応、すなわちqPCR)によって測定されることが好ましい。qPCRは、重合反応の進行中に増幅されたDNAがリアルタイムに検出されるPCRである。この検出は、蛍光信号が蓄積されることによってなされる。
【0036】
この技術では、プライマー(センスとアンチセンス)とマーカーを用いるが、さらにPCRサイクルの間に形成されるDNAの蛍光性インターカレーターを用いることが好ましい。そのプライマーは、対象とする遺伝子のフランキング領域に特異的であることが好ましい。
【0037】
遺伝子NME4の場合には、フランキング領域は、第16染色体上のヌクレオチド399665と399728の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38提供元UCSC)。
【0038】
遺伝子ITPR3の場合には、フランキング領域は、第6染色体上のヌクレオチド33696404と33696485の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38 2013年12月、提供元UCSC)。
【0039】
遺伝子SESN3の場合には、フランキング領域は、第11染色体上のヌクレオチド95166241と95166313の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38、提供元UCSC)。
【0040】
遺伝子ARL4Cの場合には、フランキング領域は、第4染色体上のヌクレオチド234 493 401と234 493 502の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38、提供元UCSC)。
【0041】
遺伝子RPLP1の場合には、フランキング領域は、第15染色体上のヌクレオチド69455485と69455598の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38、提供元UCSC)。
【0042】
好ましい一実施態様では、qPCRを実施するのに以下のプライマーを用いることができる。- 遺伝子NME4からのRNA ・センスプライマー:CATGATTGGACACACCGACTC(配列番号1) ・アンチセンスプライマー:GACGCTGAAGTCACCCCTTAT(配列番号2)- 遺伝子ITPR3からのRNA ・センスプライマー:TCCTGGGGAAGAGTTGTACG(配列番号3) ・アンチセンスプライマー:AGGAGAAAAACAAGCGGTCA(配列番号4)- 遺伝子SESN3からのRNA ・センスプライマー:TTGCCTTTGTAGTCCTGTGC(配列番号5) ・アンチセンスプライマー:CATTAGTCCAGTCACGTGCTTC(配列番号6)- 遺伝子ARL4CからのRNA ・センスプライマー:AAAGCCCTGTGGTGTATCAA(配列番号7) ・アンチセンスプライマー:GCTTCCTCTGTTGGGTCAGA(配列番号8)- 遺伝子RPLP1からのRNA ・センスプライマー:TGGGCTTTGGTCTTTTTGAC(配列番号9) ・アンチセンスプライマー:CAGACCATTTTTGCAGAGCA(配列番号10)
【0043】
qPCRにより、検査する患者の遺伝子のサイクル数(Ct)の値を求めることができる。Ct(サイクル閾値)は、蛍光信号が背景ノイズよりも大きくなるために必要なPCRのサイクル数として定義される。
【0044】
得られたCtの値は次に、同じ患者の同じ血液サンプル中の少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルをサイクル数として表わした値に対して規格化することができる。それらユビキタス遺伝子は、正常状態と生理病理学的状態において生体の全細胞中で発現している遺伝子である。これら遺伝子は一般に比較的一定したレベルで発現している。
【0045】
本発明の方法では、ステップa)において、1個のマーカー遺伝子の発現レベル(Ct遺伝子)、または少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの各遺伝子の発現レベル以外に、少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルを、リアルタイム定量PCR(qPCR)によってサイクル数(Ct、「サイクル閾値」)として測定し、次いでその1個または複数個のマーカー遺伝子の発現レベルを ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-[Ct(ユビキタス遺伝子)(の平均値)]に従って少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルに対して規格化することで、発現レベルを測定した各マーカー遺伝子について規格化された発現レベルΔCt遺伝子を得ることが好ましい。
【0046】
本発明の方法では、規格化は、2個のユビキタス遺伝子の発現レベルに対して、特に遺伝子GAPDHとB2Mの発現レベルに対して実施することが好ましい。その場合、ある1個のマーカー遺伝子の規格化された発現レベルΔCt遺伝子は、 ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-(CtB2M+CtGAPDH)/2によって計算することが好ましい。
【0047】
遺伝子B2Mの場合には、フランキング領域は、第15染色体上のヌクレオチド44718721と44718792の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38、提供元UCSC)。
【0048】
遺伝子GAPDHの場合には、フランキング領域は、第12染色体上のヌクレオチド6534833と6536572の間に位置する(アセンブリ2013年12月、GRch38/hg38、提供元UCSC)。
【0049】
遺伝子B2MとGAPDHに特に適したプライマーとして、- 遺伝子B2MからのRNA ・センスプライマー:GCTCAGTAAAGACACAACCATCC(配列番号11) ・アンチセンスプライマー:CATCTGTGGATTCAGCAAACC(配列番号12)- 遺伝子GAPDHからのRNA ・センスプライマー:ATGGGGAAGGTGAAGGTCG(配列番号13) ・アンチセンスプライマー:GGGGTCATTGATGGCAACAATA(配列番号14)が可能である。
【0050】
qPCRを実施するため、プライマー、そのプライマーのサイズ(ヌクレオチド80〜150個が好ましい)、そのプライマーの融解温度(Tm、60℃±1℃が好ましい)、そのプライマー中のヌクレオチドGとCの割合(GC%、3'で約60%が好ましい)、そのプライマーの3'と5'の自己相補性、そのプライマーの安定性(ヌクレオチド4個未満が好ましい)、産物の大きさの範囲、熱力学的パラメータ(プライマーのTmとナトリウム塩の濃度に応じた二次構造の発達)を選択して同時検出が可能になるようにすると有利である。
【0051】
第1の実施態様では、ステップa)において、単一のマーカー遺伝子の発現レベルを測定する。この実施態様では、ステップb)とc)の際に、所与の1個の遺伝子の参照閾値(Sref)が以下の表1のように規定されており:
【表1】
- NME4の規格化された発現レベルΔCtが3.1864よりも大きいこと、および/または- ITPR3および/またはSESN3および/またはARL4Cおよび/またはRPLP1の規格化された発現レベルΔCtがそれぞれ6.4014、3.6262、2.6286、6.3748よりも小さいことは、長期の生存予後であることを意味するのに対し、- NME4の規格化された発現レベルΔCtが3.1864よりも小さいこと、および/または- ITPR3および/またはSESN3および/またはARL4Cおよび/またはRPLP1の規格化された発現レベルΔCtがそれぞれ6.4014、3.6262、2.6286、6.3748よりも大きいことは、短期の生存予後であることを意味する。
【0052】
「長期の生存」とは、10ヶ月を超える生存、好ましくは12ヶ月を超える生存、さらに好ましくは15ヶ月を超える生存を意味する。
【0053】
「短期の生存」とは、6ヶ月未満、または5ヶ月未満、または3ヶ月未満の生存を意味する。
【0054】
さらに、患者が長期の生存になると考えられるとき、このことは、ゲムシタビンに基づく治療の対象者として選択できると見なせることを意味する。逆に、患者の短期の生存というのは、ゲムシタビンに基づく治療がその患者に利益をもたらさないか、その患者にとって利益がほとんどないことを意味する。その場合には別の治療法を考えるべきであろう。
【0055】
参照集団に関する出願人の仕事(実施例1参照)を通じ、膵臓がんに冒された患者の生存予後を求めるためのマーカーとして使用可能な5個の遺伝子を実際に同定するだけでなく、これら5個の遺伝子について、比較を可能にする参照閾値(Sref)の値も求めるに至った。
【0056】
しかしより正確な予後は、少なくとも2個の遺伝子の組み合わせを測定することによって取得できる。したがって第2の実施態様では、ステップa)において、少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの発現レベルを測定し、ステップb)において、発現を測定した各マーカー遺伝子について、 i)その遺伝子の規格化された発現レベルに依存したINDEX遺伝子という値を求め(ただし、- INDEX遺伝子=+1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>当該遺伝子の参照閾値である場合)、- INDEX遺伝子=-1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<当該遺伝子の参照閾値である場合)と定義され、その中の係数βと所与の遺伝子の参照閾値は、以下の表2のように規定されている):
【表2】
ii)所与の患者について、組み合わせの遺伝子のINDEX遺伝子の和に等しいINDEX患者の値を求め、 iii)INDEX患者を、遺伝子の組み合わせであらかじめ求めておいた参照最終閾値と比較する。
【0057】
このようにして出願人は、複数個の遺伝子の発現レベルを簡単に比較できるシステムを構築した。この比較システムでは、このシステム内で異なる遺伝子の重要度に重みを付けられるようにする1つの係数、すなわち係数β(上記の表2参照)を見いだす必要があった。
【0058】
上記の事情により、INDEX遺伝子は、以下の値しか取ることができない(以下の表3参照)。
【0059】
【表3】
【0060】
ここでINDEX患者を計算する。その値は、本発明の方法のステップa)で発現レベルを測定したマーカー遺伝子の組み合わせに含まれる遺伝子のINDEX遺伝子の和、すなわち INDEX患者=ΣINDEX遺伝子に対応する。
【0061】
次にこのINDEX患者を、出願人がマーカー遺伝子の各組み合わせについてあらかじめ求めておいた最終参照閾値と比較する。
【0062】
一例として、上記の5個の遺伝子の組み合わせでは、最終参照閾値は1.102に等しい。
【0063】
したがって、マーカー遺伝子の各組み合わせについて規定した最終参照閾値に基づき、検査する患者の生存予後を明確にすることができる。
【0064】
本発明の方法の好ましい一実施態様によれば、ステップa)において、qPCRにより、検査する患者からあらかじめ採取した血液サンプルで5個の遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1および2個のユビキタス遺伝子B2M、GAPDHの発現レベルをサイクル数(Ct遺伝子)として測定する。次に、これら5個の遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1それぞれの規格化された発現レベルΔCt遺伝子を ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-(CtB2M+CtGAPDH)/2によって計算する。
【0065】
次に、各遺伝子について、INDEX遺伝子を- INDEX遺伝子=+1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>当該遺伝子の参照閾値である場合)、- INDEX遺伝子=-1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<当該遺伝子の参照閾値である場合)に従って計算する。ただし、係数βと所与の遺伝子の参照閾値は、以下の表2に規定されている:
【表4】
【0066】
するとINDEX患者は、 INDEX患者=INDEXNME4+INDEXITPR3+INDEXSESN3+INDEXARL4C+INDEXRPLP1として計算される。
【0067】
次に、INDEX患者のこの値を、5個のマーカー遺伝子の組み合わせの最終参照閾値、すなわち1.102と比較する。
【0068】
患者のINDEX患者が1.102よりも小さい場合には、長期の生存という予後になると見なされ、ゲムシタビンに基づく治療の対象として選択できると見なすことができる。逆に患者のINDEX患者が1.102よりも大きい場合には、短期の生存という予後であることを示しており、ゲムシタビンに基づく治療が有益でないか、ほとんど有益でなかろう。その場合には別の治療法を考えるべきであろう。
【0069】
本発明は、上述の本発明の方法を好ましくは治療中に間隔を空けて実施することにより膵臓がんを治療することの効果をモニタリングする方法にも関する。
【0070】
当業者であれば、本発明の方法を実施したい間隔を困難なく決定できよう。例えば十分な間隔は、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月のいずれかである。
【0071】
本発明は、生存予後が上述の方法の1つに従って判断されて、例えば10ヶ月を超える、好ましくは12ヶ月を超える、さらに好ましくは15ヶ月を超える長期の生存となる患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0072】
本発明は、上述の好ましい実施態様に従って計算されるINDEX患者が1.102未満の患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0073】
本発明は、長期の生存予後となることが、インビトロの方法であって、 a)前記患者のあらかじめ採取した血液サンプルで遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1または相同遺伝子からなる群から選択した少なくとも1個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定するステップと; b)前記患者についてステップa)で選択した1個または複数個のマーカー遺伝子で測定した発現レベルを参照閾値と比較するステップと; c)前記患者の生存期間を評価するステップを含む方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0074】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、ステップa)において少なくとも2個の遺伝子、好ましくは3個、より好ましくは4個、最も好ましくは5個の遺伝子の発現レベルを測定する方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0075】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、血液サンプルが全末梢血サンプルである方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0076】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、1個または複数個の遺伝子の発現レベルが、当該遺伝子によってコードされていて検査する患者の血液サンプル中に存在するタンパク質の量を測定することによって測定される方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0077】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、1個または複数個の遺伝子の発現レベルが、当該遺伝子のRNAまたはcDNAの転写レベルによって測定される方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0078】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、ステップa)において、1個のマーカー遺伝子の発現レベル(Ct遺伝子)、または少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの各遺伝子の発現レベル以外に、少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルを、リアルタイム定量PCR(qPCR)によってサイクル数(Ct、「サイクル閾値」)として測定し、次いでその1個または複数個の当該マーカー遺伝子の発現レベルを ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-[Ct(ユビキタス遺伝子)(の平均値)]に従って少なくとも1個のユビキタス遺伝子の発現レベルに対して規格化することで、発現レベルを測定した各マーカー遺伝子について規格化された発現レベルΔCt遺伝子を得る方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0079】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、1個のマーカー遺伝子または少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの各遺伝子の規格化された発現レベルΔCtが、2個のユビキタス遺伝子B2MとGAPDHに対して規格化される方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0080】
本発明は、長期生存の予測が、上述のようなインビトロの方法、すなわち、ステップa)において単一のマーカー遺伝子の発現レベルを測定し、ステップb)とc)の際に、所与の1個の遺伝子の参照閾値(Sref)が
【表5】
であり、- NME4の規格化された発現レベルΔCtが3.1864よりも大きいこと、および/または- ITPR3および/またはSESN3および/またはARL4Cおよび/またはRPLP1の規格化された発現レベルΔCtがそれぞれ6.4014、3.6262、2.6286、6.3748よりも小さいことは、長期の生存予後を示している方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0081】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、ステップa)において、少なくとも2個のマーカー遺伝子の組み合わせの発現レベルを測定し、ステップb)において、発現を測定した各マーカー遺伝子について、 i)その遺伝子の規格化された発現レベルに依存したINDEX遺伝子という値を求め(ただし、- INDEX遺伝子=+1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>当該遺伝子の参照閾値である場合)、- INDEX遺伝子=-1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<当該遺伝子の参照閾値である場合)と定義され、その中の係数βと所与の遺伝子の参照閾値は、以下のように規定されている):
【表6】
ii)所与の患者について、組み合わせの遺伝子のINDEX遺伝子の和に等しいINDEX患者の値を求め、 iii)INDEX患者を、遺伝子の組み合わせであらかじめ求めておいた参照最終閾値と比較する方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0082】
本発明は、長期の生存予後となることが、上述のようなインビトロの方法、すなわち、5個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定し、最終参照閾値は1.102であって、INDEX患者が1.102未満であることは長期の生存予後を示している方法によって判断された患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0083】
本発明は、INDEX患者を、本発明の方法、すなわち、5個のマーカー遺伝子の発現レベルを測定し、最終参照閾値は1.102であって、INDEX患者が1.102未満であることは長期の生存予後を示している方法によって求め、そのINDEX患者が1.102未満である患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0084】
本発明は、INDEX患者を、インビトロの方法、すなわち、a)リアルタイム定量PCR(qPCR)により、検査する患者からあらかじめ採取した血液サンプルで、5個の遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1および2個のユビキタス遺伝子B2M、GAPDHのRNAまたはcDNAの転写レベルに対応するそれら遺伝子の発現レベルをサイクル数(Ct、「サイクル閾値」)として測定し、次いで前記5個のマーカー遺伝子の発現レベルを ΔCt遺伝子=Ct遺伝子-[Ctユビキタス遺伝子の平均値]に従ってユビキタス遺伝子の発現レベルに対して規格化することで、前記5個のマーカー遺伝子のそれぞれについて規格化された発現レベルΔCt遺伝子を得るステップと、b)ステップa)において選択したマーカー遺伝子で測定した発現レベルを比較し、発現を測定した各遺伝子について、 i)その遺伝子の規格化された発現レベルに依存したINDEX遺伝子という値を求め(ただし、- INDEX遺伝子=+1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子>当該遺伝子の参照閾値である場合)、- INDEX遺伝子=-1×当該遺伝子の係数β(ΔCt遺伝子<当該遺伝子の参照閾値である場合)と定義され、その中の係数βと所与の遺伝子の参照閾値は、以下のように規定されている):
【表7】
ii)所与の患者について、組み合わせの遺伝子のINDEX遺伝子の和に等しいINDEX患者の値を求め、 iii)INDEX患者を参照最終閾値1.102と比較し、c)前記患者の生存期間を評価し、INDEX患者が1.102未満であれば長期の生存予後を示しているステップを含む方法によって求め、そのINDEX患者が1.102未満である患者で膵臓がんを治療するために利用するゲムシタビンにも関する。
【0085】
本発明はさらに、発現レベルを検出するため、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した少なくとも1個の遺伝子、好ましくは少なくとも2個、または3個、または4個の遺伝子、より好ましくはそれら5個の遺伝子とハイブリダイズできる核酸と、場合によっては、少なくとも1個のユビキタス遺伝子、好ましくは2個のユビキタス遺伝子に対して特異的な核酸、さらに好ましくはユビキタス遺伝子B2MとGAPDHに特異的な核酸とハイブリダイズできる核酸を表面に有するDNAチップにも関する。
【0086】
本発明は、患者の膵臓がんの予後を判断するため、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した少なくとも1個の遺伝子、好ましくは少なくとも2個、または3個、または4個の遺伝子の発現レベル、より好ましくはそれら5個の遺伝子の発現レベルを検出するための手段を備えるキットにも関する。
【0087】
発現レベルを検出する手段として、例えば本発明のDNAチップ、一組のプライマーとレポータ(例えば蛍光剤)、標識した加水分解プローブ、分子タグ、ハイブリダイゼーションプローブ、抗体が可能である。
【0088】
本発明のキットは、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した遺伝子の組み合わせの発現レベルを検出するための手段を含みうることが好ましい。
【0089】
本発明のキットは、上記遺伝子のあらゆる組み合わせ、好ましくは少なくとも2個、または3個、または4個の遺伝子の組み合わせを検出するための手段、より好ましくはそれら5個の遺伝子の組み合わせを検出するための手段を含みうることがさらに好ましい。
【0090】
このキットはさらに、本発明によるインビトロの方法で使用するための指示を含むことができる。
【0091】
最後に、本発明は、ゲムシタビンに基づく治療の際に、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した少なくとも1個の遺伝子を利用して膵臓がんの予後を判断することにも関する。
【0092】
本発明は、ゲムシタビンに基づく治療の際に、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1からなる群から選択した2〜5個の遺伝子の組み合わせの少なくとも1つ、好ましくは3個の遺伝子の組み合わせ、より好ましくは4個の遺伝子の組み合わせ、さらに好ましくは5個の遺伝子の組み合わせを利用して膵臓がんの予後を判断することにも関することが好ましい。
【0093】
本発明は、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1、または相同遺伝子からなる群から選択した少なくとも1個の遺伝子、好ましくは少なくとも2個、または3個、または4個の遺伝子、より好ましくはそれら5個の遺伝子を利用して膵臓がんの予後を判断することと、NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1、または相同遺伝子からなる群から選択した少なくとも1個の遺伝子、好ましくは少なくとも2個、または3個、または4個の遺伝子、より好ましくはそれら5個の遺伝子を利用して、膵臓がんの患者で、ある治療法、好ましくはゲムシタビンを用いた治療法の有効性をモニタリングすることにも関する。
【0094】
本発明は、以下の実施例と添付の図面を読むとさらによく理解できるであろうし、他の利点と特徴がそれらの実施例と添付の図面に見られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0095】
図1図1は、遺伝子NME4で参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。 図1Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を決めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むと、参照閾値(Sref)を3.1864に決めることができる。図1Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は黒色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=9.59×10-5である。
【0096】
図2図2は、遺伝子ITPR3で参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。図2Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を求めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むことで、参照閾値(Sref)を6.4015に決めることができる。図2Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は灰色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=0.000219である。
【0097】
図3図3は、遺伝子SESN3で参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。図3Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を求めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むことで、参照閾値(Sref)を3.6262に決めることができる。図3Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は灰色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=0.000331である。
【0098】
図4図4は、遺伝子ARL4Cで参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。図4Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を求めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むことで、参照閾値(Sref)を2.6286に決めることができる。図4Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は灰色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=0.000472である。
【0099】
図5図5は、遺伝子RPLP1で参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。図5Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を求めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むことで、参照閾値(Sref)を6.3728に決めることができる。図5Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は灰色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=0.00053である。
【0100】
図6図6は、5個の遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1の組み合わせについて最終参照閾値を求めるときに発明者らが得た結果を示す。図6Aは、マンテル-コックス検定のいくつかの統計値の分布をΔCt値の関数として示したものである。2つの群の間の境界値(切断点)を求めるため、マンテル-コックス検定の統計のため個別の人で得られる最大値を求め、グラフを読むことで、参照閾値(Sref)を1.102と求めることができる。図6Bは、閾値の計算から得られた2つの生存群についてカプラン-マイヤー法によって計算した生存曲線を示す。黒色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも大きい集団であり、灰色で示した群は、ΔCtが閾値(Sref)よりも小さい集団である。ここでは長期の生存となる群は灰色の群である。ログ-ランク検定のp値をグラフの上方に示してあり、p=1.01×10-8である。
【実施例】
【0101】
実施例1:膵臓がんの予後を判断するための遺伝子群の同定
1.1 RNAの調製
治療前に採取した61人の患者の全血サンプルを入れたPAXgene採血管をドライアイスで包んだもの(発送者:LabConnect社、アメリカ合衆国)を受け取り、-80℃で保管した。これら全血サンプルを「0週」と名づけた。
【0102】
「0週」と名づけた61個の全血サンプルから全RNAを抽出した。トランスクリプトームの分析(バイオマーカーの探索)は、これらの「0週」サンプルだけで実施した。
【0103】
これら61個のRNAサンプルを分析し、その品質を調べた。RNAが完全な状態であることの検査は、「RNA eucaryote total 6000」ナノチップ(Agilent Technologies社)を用いてBioanalyser 2100(Agilent Technologies社、パロ・アルト、アメリカ合衆国)で実施した。RNAの量は、分光測光器NanoDrop ND-1000(THERMO Scientific社)で調べた。精製したRNAを-80℃で保管した。
【0104】
RNAの品質がよくないという理由で1個のサンプルを研究から除外した(「RNA完全性数」<8)。
【0105】
PAXgene Blood RNA Kit V.2(PreAnalitix社)を製造者が推奨するようにして用い、あらかじめ回収した血液(PAXgene採血管、BD社)から、参照血液サンプルに対応する60個の全血RNAサンプルを抽出した。
【0106】
ディジタル遺伝子発現(DGE)の実験を行なって一群の仮バイオマーカーを選択した。
【0107】
それらバイオマーカーが本物であることをCOBASプラットフォーム(LC480、Roche Diagnostics社)で確認した後、適切な生物統計学的方法を利用して最良のバイオマーカーを選択した。
【表8】
【0108】
1.2 DGEライブラリとタグ遺伝子地図の構築 RNAサンプルを2つの群に分けた。すなわち、- M4:参照用の血液サンプルを採取した後にゲムシタビンによる治療を受けたが4ヶ月目を迎える前に死亡した患者に対応する群と、- M15:参照用の血液サンプルを採取した後にゲムシタビンによる治療を受け、15ヶ月後も生存していた患者に対応する群である。
【0109】
各群について各患者の全RNAサンプルから同じモル数を採取して混合し、全RNAプールを構成した。
【0110】
それらのプールから6つのタイプのDGEライブラリが構築された(各群で実験を3回繰り返した)。
【0111】
これらライブラリは、Illumina社(DGE Tagプロファイリング・キット)による専用キットを製造者のプロトコル(バージョン2.1B)に従って用いて構築した。そのとき全RNAを2μg用いた。
【0112】
配列決定とその後の分析は、Illumina社のパイプライン装置を用いて実施した。
【0113】
MGXプラットフォーム(モンペリエ、フランス国)を使用した。
【0114】
各DGEライブラリのデータをBIOTAG(Acobiom社、モンペリエ、フランス国)というソフトウェアで分析し、タグの検出およびカウントと、DGEライブラリの品質の評価を行なった(Piquemal他、2002年)。
【0115】
1.3 タグのマーキングと選択 UniGeneデータベース(Built#232、2012年3月、NCBI)の配列を元にして、ヒト配列と付属情報をまとめたデータベースを作成した。
【0116】
このデータベースの各配列について、配列の3'末端に最も近い制限部位NIaIII(CATG)の上流に位置すると予想されるDGEタグ(基準タグ)(R1)と、内部位置に位置する複数の仮想タグ(転写産物の3'末端から順番にR2、R3、R4と呼ぶ)を抽出した(Piquemal他、2002年)。
【0117】
この仮想タグのコレクションの助けを借りて、DGEライブラリから得た実験的タグをペアにし、マーキングした(17 pbにわたって正確に対応)。各実験的タグについて、仮想基準タグ(R1)との対応を最初に探した。次に、実験的タグで、タグR2とペアにならないもの、次いでR3とペアにならないもの、R4とペアにならないものにマーキングした。
【0118】
DGE実験の分析は、edgeR法(バージョン2.6.9、Bioconductor社)を利用して行なった。分析する遺伝子は、(1)変化比が最も大きい(>1.5)数学的フィルタと、(2)特定のプロセスと既知の代謝経路において標的とする遺伝子が用いられる生物学的フィルタによって選択した。
【0119】
偽陽性率(FDR)は、調整済みp値である(ここではFDR<10%に設定した)。この値は、一般的な考察(J.R. Statist. Soc. B、2010年、「偽発見率を発見する」、Y. Benjamini)で報告されている第一種過誤(α=5%)に基づいて計算される。
【0120】
1.4 qPCRのためのcDNAの合成 同じ日に、同じピペットを用い、同じ操作者が、300 ngの全RNAを含む20μlの最終反応体積中で、200単位のSuperScript II酵素(M-MLVタイプTA、Invitrogen社)と250 ngのランダムプライマーを製造者の指示(25℃、10分間、42℃、50分間、70℃、15分間)に従って用い、60個のRNAサンプルのそれぞれについて逆転写を行なった。
【0121】
1.5 qPCR 標的とする遺伝子をRoche Diagnostics社のプラットフォーム上でqPCRによって確認した。
【0122】
Roche Diagnostics社のLightCycler480(登録商標)装置を製造者の指示に従って使用し、混合物LightCycler(登録商標)480 DNA SYBRグリーン・マスター・ミックス(Roche Diagnostics社)を用いてqPCRの実験を行なった。
【0123】
SYBRグリーンの分量を決めるため、最終反応体積10μlの中で以下の反応混合物を調製した:5μlのLightCycler(登録商標)480 DNA SYBRグリーン・マスター2×(Roche社)、50μMにした4μlのプライマーのペア(Eurogentec社)、1μlのcDNAマトリックス(最終的に1/15に希釈)。
【0124】
PCRのプログラムは、第1段階の95℃で10分間の予備インキュベーションの後に、45サイクルのPCR(95℃を10秒間、63℃を15秒間、72℃を15秒間)からなる。
【0125】
特異的産物と非特異的産物とプライマーの二量体を区別するため、温度を65℃から97℃まで徐々に上げることによって融解物を得た。
【0126】
【表9】
【0127】
デルタCt(ΔCt)法(LivakとSchmittgen、2001年)を用いてqPCRのデータを分析した。標的とする全遺伝子について、以下の式 ΔCt=Ct(遺伝子)-[Ct(B2M)+Ct(GAPDH)]/2を適用してΔCtの値を求めた。
【0128】
2個のユビキタス遺伝子は、- B2M(NM_009735、マウスのβ-2ミクログロブリン、mRNA)と- GAPDH(NM_002046、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、転写変異体1、mRNAと、NM_001256799、ヒトのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、転写変異体2、mRNA)である。
【0129】
1.6 結果遺伝子指紋の同定 DGE法を利用して患者の全血のトランスクリプトームのプロファイルを取得し、1.3項に記載したようにedgeR法を用いて169個の遺伝子を選択した。
【0130】
1回のqPCRで、蛍光信号が蓄積することによって陽性反応が検出される。
【0131】
Ctは、蛍光信号が背景ノイズよりも大きくなるのに必要なPCRのサイクル数として定義されるため、Ctの値はサンプル中の標的核酸の量に逆比例する。そのためCtの値が小さいほど、サンプル中の標的核酸の量は多い。
【0132】
補助的な薬理ゲノム学的研究をさらに実施した。何らかの治療を開始する前に61人の患者の血液からRNAサンプルを採取し、RT-PCRによって分析した。
【0133】
65%の患者に存在していて、全生存をよく予測することに加え、治療の種類と関係する転移促進性の遺伝子指紋が明らかになった。転移促進性の遺伝子指紋のある患者をゲムシタビンで治療すると全生存(OS)率が低い(5ヶ月)。
【0134】
発明者らは、169種類の遺伝子から、この病気の多因子性に合致する遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1を選択した。
【0135】
【表10】
【0136】
ここに記載した遺伝子指紋が同定されたことで、この病気の個別化医療に新たな道が開かれる。
【0137】
転移促進性の遺伝子指紋はΔCtが特定の値であることに基づいており、通常は、血液サンプルのRNAからRT-PCRによって明らかにできる。所与の患者で所与の遺伝子の発現レベルを示すΔCt値は、その所与の遺伝子をRT-PCRで増幅し、参照遺伝子(B2M、GAPDH)に対して規格化した後に得られる。ΔCt値が小さいほど、その遺伝子の発現レベルは大きい。
【0138】
予後が長期の生存である患者、および/またはゲムシタビンで治療するために選ばれる患者は、特定のINDEX値を持つ。
【0139】
INDEXの決定
【0140】
より正確には、膵臓がん患者の典型的な集団(参照集団)での全生存の予後の数値を、治療を受ける前に、同定された各遺伝子(NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1)について評価した(1.1項参照)。
【0141】
その参照集団で同定された5個の遺伝子(NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1)についてΔCTの閾値をqPCRによって明確にした。
【0142】
次に、同定されたその5個の遺伝子(NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1)について、マンテル-コックスのモデル(またはログ-ランク検定)で長期生存と短期生存の間の生存期間の差を検定し、同定された各遺伝子について「参照閾値」(Sref)と「係数β」を求めた。このログ-ランク検定により、カプラン-マイヤー法で生存曲線を計算した2つの群を比較することができる。対象とする2つの群での生存関数が等しいという帰無仮説H0を検定する。H0のもとで、2つの群の間で死亡のリスクが所与の時期Tiに同じであれば、それら2つの群で死亡の割合は同じであると考えられる(BlandとAltman、2004年)。
【0143】
以下の表2に、5個の遺伝子NME4、ITPR3、SESN3、ARL4C、RPLP1について得られた参照閾値(Sref)と係数βを示す。
【0144】
【表11】
【0145】
- NME4の規格化された発現レベルΔCtが3.1864よりも大きいこと、および/または- ITPR3および/またはSESN3および/またはARL4Cおよび/またはRPLP1の規格化された発現レベルΔCtがそれぞれ6.4014、3.6262、2.6286、6.3748よりも小さいことは、長期の生存予後であることを意味するのに対し、- NME4の規格化された発現レベルΔCtが3.1864よりも小さいこと、および/または- ITPR3および/またはSESN3および/またはARL4Cおよび/またはRPLP1の規格化された発現レベルΔCtがそれぞれ6.4014、3.6262、2.6286、6.3748よりも大きいことは、短期の生存予後であることを意味する。
【0146】
予後の予測は、表2の5個の遺伝子を組み合わせることで改善できる。
【0147】
次に、得られたΔCTの値を補正し、2つの値、すなわち- 対象とする遺伝子でサンプルのΔCT値が規定されたSrefの値よりも明確に大きい場合には+1;- 対象とする遺伝子でサンプルのΔCT値が規定されたSrefの値よりも明確に小さい場合には-1を取ることのできる変数にする。
【0148】
こうすることで、対象とする各遺伝子について、 INDEX=(+1または-1)×(係数β)によって計算されるINDEXの値を定義することができる。
【0149】
そのため、考慮する遺伝子について、膵臓がん患者の参照集団で計算したINDEXは、以下の表3に与えた値を取ることができる。
【0150】
【表12】
【0151】
患者の生存予後を評価するために選択した遺伝子の組み合わせのINDEXから、予後を判断することが可能になる。
【0152】
計算したINDEXを考慮したマンテル-コックスのモデル(またはログ-ランク検定)により、組み合わせのそれぞれについての「最終参照閾値」を決めることが可能になった。その「最終参照閾値」により、検査した患者の生存予後を明らかにすることが可能になる。
【0153】
5個の遺伝子の組み合わせに関する最終参照閾値の値は1.102である。
【0154】
各遺伝子または各組み合わせについて規定した最終参照閾値の値に基づき、検査した患者の生存予後を以下のように明確にすることができる。- 検査した患者で計算したINDEX患者が最終参照閾値よりも小さい場合には、予後は長期の生存であり、- 検査した患者で計算したINDEX患者が最終参照閾値よりも大きい場合には、予後は短期の生存である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]