特許第6784694号(P6784694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784694電極カートリッジ及びそれを用いた亜鉛二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784694
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】電極カートリッジ及びそれを用いた亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20201102BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20201102BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20201102BHJP
   H01M 4/32 20060101ALI20201102BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01M10/28 Z
   H01M10/30 Z
   H01M4/24 H
   H01M4/32
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
【請求項の数】24
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2017-551864(P2017-551864)
(86)(22)【出願日】2016年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2016083734
(87)【国際公開番号】WO2017086278
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-223800(P2015-223800)
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】権田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】山田 直仁
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−067842(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118561(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/039349(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/073292(WO,A1)
【文献】 特表2001−500661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/24−30、34
H01M 2/16
H01M 4/24
H01M 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型亜鉛二次電池に用いられる電極カートリッジであって、
水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータを含むセパレータ構造体と、
前記セパレータ構造体に内部空間を形成可能に液密に封止接合され、前記セパレータ構造体とともに上部開放された水不透過性ケースを構成する対向部材と、
前記水不透過性ケースの前記内部空間に収容され、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極、又は正極である電極と、
を備えた、電極カートリッジ。
【請求項2】
前記セパレータ構造体が前記セパレータの外周縁に沿って枠を備えてなり、前記対向部材の外周縁と前記セパレータ構造体とが、上端部を除き、前記枠を介して液密に接着されてなる、請求項1に記載の電極カートリッジ。
【請求項3】
前記対向部材が可撓性フィルムである、請求項1又は2に記載の電極カートリッジ。
【請求項4】
前記可撓性フィルムが樹脂フィルムを含む、請求項3に記載の電極カートリッジ。
【請求項5】
前記対向部材が剛性板である、請求項1又は2に記載の電極カートリッジ。
【請求項6】
前記剛性板が樹脂製の板を含む、請求項5に記載の電極カートリッジ。
【請求項7】
前記対向部材も、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータを含むセパレータ構造体を含む、請求項1又は2に記載の電極カートリッジ。
【請求項8】
前記対向部材を構成しない前記セパレータ構造体と前記対向部材を構成する前記セパレータ構造体の両方が、前記セパレータの外周縁に沿って枠をそれぞれ備えてなり、前記対向部材を構成する前記枠と前記対向部材を構成しない前記枠とが液密に封止接合されてなる、請求項7に記載の電極カートリッジ。
【請求項9】
前記枠が樹脂製の枠である、請求項8に記載の電極カートリッジ。
【請求項10】
前記電極と前記セパレータとの間に多孔質シートをさらに備えた、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項11】
前記セパレータが無機固体電解質体からなるセラミックスセパレータである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項12】
前記無機固体電解質体が、一般式:
2+1−x3+(OH)n−x/n・mH
(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する層状複水酸化物からなる、請求項11に記載の電極カートリッジ。
【請求項13】
前記セパレータ構造体が前記セパレータの片面又は両面に多孔質基材をさらに備え、かつ、前記無機固体電解質体が膜状又は層状の形態であり、該膜状又は層状の無機固体電解質体が前記多孔質基材上又はその中に形成されたものである、請求項12に記載の電極カートリッジ。
【請求項14】
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項13に記載の電極カートリッジ。
【請求項15】
前記セパレータは、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項16】
前記セパレータは、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m−2・h−1以下である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項17】
前記電極カートリッジが、前記電極に接触して設けられ、前記水不透過性ケースの上端を超えて延出する集電体をさらに備える、請求項1〜16のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項18】
前記電極が前記正極であり、該正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の電極カートリッジ。
【請求項19】
密閉容器と、
前記密閉容器内に上部開放されたまま収容される、1つ又はそれ以上の請求項1〜17のいずれか一項に記載の電極カートリッジと、
前記電極カートリッジに収容されて前記電極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む第一電解液と、
前記電極カートリッジの前記セパレータ構造体と対向して配置される、正極又は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極である、1つ又はそれ以上の対向電極と、
前記密閉容器内に収容されて前記対向電極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む第二電解液と、
を備え、前記第一電解液と前記第二電解液とが前記電極カートリッジを介して互いに液絡しないように隔離されてなる亜鉛二次電池。
【請求項20】
前記電極カートリッジを複数個備え、かつ、前記対向電極を複数個備え、前記電極カートリッジと前記対向電極が交互に配置されてなる、請求項19に記載の亜鉛二次電池。
【請求項21】
前記対向電極と前記セパレータとの間に多孔質シートをさらに備えた、請求項19又は20に記載の亜鉛二次電池。
【請求項22】
前記亜鉛二次電池が、前記対向電極に接触して設けられ、前記電極カートリッジの前記水不透過性ケースの上端を超えて延出する対向集電体をさらに備える、請求項19〜21のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項23】
前記正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛電池をなす、請求項19〜22のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項24】
前記電極カートリッジ内の電極が前記負極であり、前記対向電極が前記正極である、請求項19〜23のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極カートリッジ及びそれを用いた亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池は古くから開発及び検討がなされてきたものの、未だ実用化に至っていない。これは、充電時に負極を構成する亜鉛がデンドライトという樹枝状結晶を生成し、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と短絡を引き起こすという問題があるためである。したがって、ニッケル亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池において、亜鉛デンドライトによる短絡を防止する技術が強く望まれている。
【0003】
そのような問題ないし要望に対処すべく、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを用いた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池において、亜鉛デンドライトによる短絡の防止を目的として、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されており、無機固体電解質体として一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M3+は少なくとも1種以上の3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)を用いることが提案されている。また、特許文献2(国際公開第2015/098610号)には、多孔質基材と、層状複水酸化物を含んでなる機能層とを備えた、層状複水酸化物含有複合材料が開示されており、機能層は透水性を有しないことが記載されている。
【0004】
一方、高電圧や大電流を得るために、複数の単電池を組み合わせて作られた積層電池が広く採用されている。積層電池は、単電池を複数直列または並列に接続してなる積層体が一つの電池容器内に収納された構成を有してなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2015/098610号
【発明の概要】
【0006】
本出願人は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない程に高度に緻密化されたセラミックスセパレータ(無機固体電解質セパレータ)の開発に先だって成功している。また、そのようなセラミックスセパレータを多孔質基材上に形成することにも成功している。このようなセパレータ(あるいは多孔質基材付きセパレータ)を用いてニッケル亜鉛電池等の二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等を防止できる。そして、この効果を最大限に発揮させるためには、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータで電池容器内を正極側と負極側を確実に仕切ることが望まれる。特に、かかる構成を確保しながら、高電圧や大電流を得るために、複数の単電池を組み合わせて積層電池を容易に組み立てることができれば極めて好都合である。その一方で、密閉型のニッケル亜鉛電池を構成するためには、正極側と負極側を確実に仕切りながら所望の密閉性を確保することが望まれる。そのためには、接着部位の封止を確実に行わなければならず、電池構成や製造工程が複雑化しやすい。このような電池構成や製造工程の複雑化は積層電池を構成する場合にはとりわけ顕著なものとなりうる。これは積層電池を構成する複数の単電池の各々に対して密閉性確保のための封止を施す必要があるためである。
【0007】
上記課題に対処すべく、本出願人は、ニッケル亜鉛電池の単電池(セル)の積層体を可撓性フィルム製の上部開放された可撓性袋体に収容し、かつ、水酸化物イオン伝導性セパレータを含むセパレータ構造体で正極室及び負極室を区画することで、正負極間が水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離された単電池(セル)の積層体の作製にも成功している。こうすることで、単電池の積層体を、取扱い性に優れ、簡便に作製でき、しかも積層電池の組み立てにも極めて有利な可撓性カートリッジ(セルパック)の形態で提供できる。また、所望の個数のカートリッジを密閉容器に収容することで、所望の層数の積層電池として密閉型ニッケル亜鉛電池を極めて簡単に組み立てることができる。しかしながら、この構成の積層電池は、複数枚の可撓性フィルムを熱融着等による封止接合する工程を経るためフィルム破れが発生することがあり、また、フィルム積層枚数が多いと熱融着等による封止接合時に未シール部分が発生することがあり、その結果、製品歩留まりの低下を招きうる。このため、封止接合箇所のできるだけ少ない構成の電極内蔵部品が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、水酸化物イオン伝導性セパレータを含むセパレータ構造体と対向部材とを用いて上部開放された水不透過性ケースを構成し、そのケース内に亜鉛二次電池用の正極又は負極を収容することにより、正負極間を水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離可能な電極内蔵部品を、封止接合箇所を少なくしながら、より取扱い性に優れ、より簡便に作製でき、しかも積層電池の組み立てにもより有利な電極カートリッジの形態で提供できるとの知見を得た。また、所望の個数の電極カートリッジを対向電極と交互に密閉容器内に配置することで、所望の層数の積層電池として密閉型亜鉛二次電池を極めて簡単に組み立てることができるとの知見も得た。特に、積層電池とする場合、複数枚の可撓性フィルムの積層を不要とし、かつ、対向電極(例えば正極)の収容区画(例えば正極室)を互いに隔離することのない共通化された収容区画とすることができる点で、極めて作製しやすい大幅に簡素化された構成で積層電池を提供することができる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、正負極間を水酸化物イオン伝導性セパレータで確実に隔離可能な電極内蔵部品を、封止接合箇所を少なくしながら、より取扱い性に優れ、より簡便に作製でき、しかも積層電池の組み立てにもより有利な電極カートリッジの形態で提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、所望の層数の積層電池として極めて簡単に組み立てることが可能な密閉型亜鉛二次電池を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、密閉型亜鉛二次電池に用いられる電極カートリッジであって、
水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータを含むセパレータ構造体と、
前記セパレータ構造体に内部空間を形成可能に液密に封止接合され、前記セパレータ構造体とともに上部開放された水不透過性ケースを構成する対向部材と、
前記水不透過性ケースの前記内部空間に収容され、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極、又は正極である電極と、
を備えた、電極カートリッジが提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、密閉容器と、
前記密閉容器内に上部開放されたまま収容される、1つ又はそれ以上の上記電極カートリッジと、
前記電極カートリッジに収容されて前記電極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む第一電解液と、
前記電極カートリッジの前記セパレータ構造体と対向して配置される、正極又は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極である、1つ又はそれ以上の対向電極と、
前記密閉容器内に収容されて前記対向電極が浸漬される、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む第二電解液と、
を備え、前記第一電解液と前記第二電解液とが前記電極カートリッジを介して互いに液絡しないように隔離されてなる亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の一態様による電極カートリッジの模式断面図である。
図1B図1Aに示される電極カートリッジを備えたニッケル亜鉛電池の模式断面図である。
図2A】本発明の別の態様による電極カートリッジの模式断面図である。
図2B図2Aに示される電極カートリッジを備えたニッケル亜鉛電池の模式断面図である。
図3A】本発明の更に別の態様による電極カートリッジの模式断面図である。
図3B図2Aに示される電極カートリッジを備えたニッケル亜鉛電池の模式断面図である。
図4】多孔質基材付きセパレータの一態様を示す模式断面図である。
図5】多孔質基材付きセパレータの他の一態様を示す模式断面図である。
図6】層状複水酸化物(LDH)板状粒子を示す模式図である。
図7】例1で作製したアルミナ製多孔質基材の表面のSEM画像である。
図8】例1において試料の結晶相に対して得られたXRDプロファイルである。
図9】例1において観察された膜試料の表面微構造を示すSEM画像である。
図10】例1において観察された複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像である。
図11A】例1で使用された緻密性判別測定系の分解斜視図である。
図11B】例1で使用された緻密性判別測定系の模式断面図である。
図12A】例1の緻密性判定試験IIで使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。
図12B】例1の緻密性判定試験IIで使用された測定系の模式断面図である。
図13A】例2において作製したセパレータ構造体の各構成部材の位置関係を模式的に示す上面図である。
図13B】例2において作製したセパレータ構造体の作製手順を示す工程図である。
図14】例2において作製したセパレータ構造体の写真である。
図15】例2において作製された、熱融着接合前の積層物を撮影した写真である。
図16】例2において作製された、熱融着接合後の積層物を撮影した写真である。
図17】例2において作製されたラミネート型ニッケル亜鉛電池カートリッジを撮影した写真である。
図18A】He透過度測定系の一例を示す概念図である。
図18B図18Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図19A】Zn透過割合測定装置の一例を示す概念図である。
図19B図19Aに示される測定装置に用いられる試料ホルダの模式断面図である。
図20】例3で測定されたHe透過度とZn透過割合の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
電極カートリッジ及び亜鉛二次電池
本発明は、密閉型亜鉛二次電池に用いられる電極カートリッジ及びそれを用いた亜鉛二次電池に関する。本明細書において、亜鉛二次電池は、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、及びその他各種のアルカリ亜鉛二次電池等、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを適用可能な各種亜鉛二次電池であることができる。特に、ニッケル亜鉛二次電池が好ましい。したがって、以下の一般的説明において、典型例であるニッケル亜鉛二次電池に基づいて説明を行うことがあるが、本発明のセパレータ構造体の適用可能な二次電池はニッケル亜鉛二次電池に限定されるべきではなく、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを採用可能な上述の各種二次電池に適用可能なものである。セパレータ構造体を適用可能な電池は正極及び負極の対が1つの単位電池であってもよいし、正極及び負極の対を2つ以上、すなわち2つ以上の単位電池を備えた積層電池であってもよい。また、積層電池は直列型積層電池としてもよいが、並列型積層電池とするのが好ましい。
【0014】
本明細書において、電極カートリッジとは、上部開放された水不透過性ケース内に亜鉛二次電池用の電極(すなわち正極又は負極)を収容した、独立して取り扱うことが可能な電池内蔵部品である。電極カートリッジ内には予め電解液を仕込んでおいてもよい。電極カートリッジは全体として硬い部材(典型的には剛性部材)で構成されていてもよいし、少なくとも一部又は大半が可撓性フィルム等の可撓性部材で構成されていてもよい。いずれにしても、電極カートリッジは、その中に電解液をも入れた状態で密閉容器内に対向電極とともに収容されることにより、密閉型亜鉛二次電池の主要構成部品として機能しうる。このため、密閉性は最終的に収容されることになる密閉容器において確保すれば足りるので、電極カートリッジ自体は上部開放型の簡素な構成であることができる。この上部開放型の構成はニッケル亜鉛電池等における過充電時の問題への対処も可能とするものである。すなわち、ニッケル亜鉛電池等において過充電されると正極で酸素(O)が発生しうるが、透水性を有しないセパレータは水酸化物イオンしか実質的に通さないといった高度な緻密性を有するが故に、Oを通さない。この点、上部開放型の構成によれば、Oを正極上方に逃がして電極カートリッジの上部開放部を介して負極側へと送り込むことができ、それによってOで負極のZnを酸化してZnOへと戻すことができる。このような酸素反応サイクルを経ることで、上部開放型の電極カートリッジを密閉型亜鉛二次電池に用いることで過充電耐性を向上させることができる。
【0015】
図1Aに本発明による電極カートリッジの一態様が示される。図1Aに示されるように、電極カートリッジ10は、セパレータ構造体12と、セパレータ構造体12とともに上部開放された水不透過性ケースを構成する対向部材14と、水不透過性ケースの内部空間に収容される電極16とを備える。セパレータ構造体12は、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含む。対向部材14は、セパレータ構造体12に内部空間を形成可能に液密に封止接合され、セパレータ構造体12とともに上部開放された水不透過性ケースを構成する。電極16は、負極及び正極のいずれであってもよいが、負極の場合、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む。電極16がニッケル亜鉛二次電池用の正極である場合、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。このような構成とすることで、正負極間を水酸化物イオン伝導性セパレータ28で確実に隔離可能な電極内蔵部品を、封止接合箇所を少なくしながら、より取扱い性に優れ、より簡便に作製でき、しかも積層電池の組み立てにもより有利な電極カートリッジ10の形態で提供することができる。
【0016】
また、このような電極カートリッジ10を用いた亜鉛二次電池100の一態様が図1Bに示される。図1Bに示されるように、亜鉛二次電池100は、密閉容器102と、密閉容器102内に上部開放されたまま収容される1つ又はそれ以上の電極カートリッジ10と、電極カートリッジ10に収容されて電極16が浸漬される第一電解液(図示せず)と、電極カートリッジ10のセパレータ構造体12と対向して配置される1つ又はそれ以上の対向電極104と、密閉容器102内に収容されて対向電極104が浸漬される第二電解液(図示せず)とを備える。第一電解液及び第二電解液は正極電解液又は負極電解液であり、それぞれアルカリ金属水酸化物水溶液を含む。対向電極104は電極16と反対の極であり、正極又は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極である。正極は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含むことができ、それにより亜鉛二次電池100がニッケル亜鉛電池をなす。そして、第一電解液と第二電解液とが電極カートリッジ10(特に水不透過性ケース)を介して互いに液絡しないように隔離されてなる。なお、電極16及び対向電極104にはそれぞれ集電体、配線及び/又は端子が接続されて、亜鉛二次電池100の外部に電気を取り出せるように構成されることはいうまでもない。このような亜鉛二次電池100内では電極16と対向電極104が水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含むセパレータ構造体12で確実に隔離されているため、充放電に伴い負極から正極に向かって成長する亜鉛デンドライトをセパレータ28で阻止し、それにより亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。特に、亜鉛二次電池100は、電極カートリッジ10を複数個備え、かつ、対向電極104を複数個備えるのが好ましく、電極カートリッジ10と対向電極104が交互に配置されてなるのが好ましい。このように、所望の個数の電極カートリッジ10を対向電極104と交互に密閉容器102内に配置することで、所望の層数の積層電池として密閉型亜鉛二次電池100を極めて簡単に組み立てることができる。特に、積層電池とする場合、複数枚の可撓性フィルムの積層を不要とし、かつ、対向電極104(例えば正極)の収容区画(例えば正極室)を互いに隔離することのない共通化された収容区画とすることができる点で、極めて作製しやすい大幅に簡素化された構成で積層電池を提供することができる。
【0017】
特に、本発明の電極カートリッジ10は積層電池を極めて作製しやすくなるとの利点がある。通常、亜鉛二次電池を積層電池として構成する場合には単電池ごとに密閉容器に収容して、電解液の漏れを防止すべく液密に封止を行われることが想定されるが、そのような作業は非常に手間のかかる煩雑なものであり、積層電池の層数が多ければ多いほどその煩雑さはより顕著なものとなる。この点、本発明の電極カートリッジ10にあっては、上部開放された水不透過性ケース内に電極16を配置し、かつ、水不透過性ケースの少なくとも一方の側にセパレータ28を有するので、密閉容器102内に対向電極104を配置し、密閉容器102と電極カートリッジ10内に電解液(図示せず)を注入しさえすれば基本構成が出来上がるので、手間のかかる上端部の封止構造や封止作業は一切不要となる。しかも、セパレータ構造体12と対向部材14とを熱融着等により封止接合するだけで電極カートリッジ10を十分な液密性を付与しながら形成できるので、密閉型電池容器において必要とされるような手間のかかる封止作業が大幅に軽減される(或いは一切不要にできる)。したがって、積層電池の層数をたやすく増大させることができる。もっとも、実用に供するためには密閉型電池であることが望ましいことはいうまでもないが、その密閉性は、密閉容器102に本発明の電極カートリッジ10を収容し、蓋をして液密に封止するだけで簡単に実現することができる(その際、必要な端子接続を行うべきことはいうまでもない)。また、電池容器としての硬さはあくまで別途用意される密閉容器102により確保すれば足りるので、電極カートリッジ10自体は必ずしも硬い必要はなく、電極カートリッジ10の材料選択の自由度が高いといえる。
【0018】
セパレータ構造体12は、水酸化物イオン伝導性セパレータ28を含むを備えた構造体であって、正極と負極を隔離し、透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない。したがって、電極16と対向電極104がセパレータ28を含むセパレータ構造体12で確実に隔離されているため、充放電に伴い負極から正極に向かって成長する亜鉛デンドライトをセパレータ28で阻止し、それにより亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。好ましくは、セパレータ構造体12がセパレータ28の外周縁に沿って枠32を備えてなり、対向部材14の外周縁とセパレータ構造体12とが、上端部を除き、枠32を介して液密に接着されてなる。こうすることで、水酸化物イオン伝導性セパレータ28を組み込んだ水不透過性ケースを、異種部材間の接合部における液密性を十分に確保しながら簡便に作製することができる。図1A及び1Bに示されるように、セパレータ構造体12はセパレータ28の外縁に沿って枠32を備えてなるのが好ましく、対向部材14とセパレータ構造体12とが枠32を介して液密に接着されてなるのが好ましい。枠32は樹脂製の枠であるのが好ましく、対向部材14と樹脂製の枠32とが接着剤及び/又は熱融着により接着されてなるのがより好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましく、ホットメルト接着剤を用いてもよい。熱融着は、レーザー溶着、熱圧着、熱板溶着、超音波溶着、高周波溶着、その他加熱を用いた溶着(例えば加熱した型(例えば金型)内でプレスすることによる溶着、はんだごてで加熱することによる溶着等)であってよく、特に限定されない。いずれにしても、対向部材14と枠32の接合部分では液密性が確保されることが望まれる。枠32を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。図1A及び1Bに示されるように、セパレータ構造体12は枠32の外縁の少なくとも一部に沿って可撓性フィルム34をさらに有していてもよい。可撓性フィルムは後述する対向部材14を構成する可撓性フィルム14aと同様のものが使用可能である。また、枠32を介することなく、セパレータ28の外縁に沿って可撓性フィルム34を直接接着されてもよい。可撓性フィルム34と樹脂製の枠32、或いは可撓性フィルム34とセパレータ28とは、上記同様に接着剤及び/又は熱融着により接着されてなるのがより好ましい。例えば、熱融着による接合ないし封止は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。
【0019】
対向部材14は、セパレータ構造体12に内部空間を形成可能に液密に封止接合され、セパレータ構造体12とともに上部開放された水不透過性ケースを構成するもの(すなわち水不透過性材料)であれば、いかなる剛性及び可撓性を問わずあらゆる材質でありうる。対向部材14の例としては、図1Aに示されるような可撓性フィルム14aのみならず、図2Aに示されるような剛性板14b、さらには図3Aに示されるようなセパレータ構造体12と同様の構成のセパレータ構造体14c、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、図1A及び1Bに示される電極カートリッジ10及び亜鉛二次電池100のように、対向部材14は可撓性フィルム14aであることができる。この場合、水不透過性ケースはセパレータ構造体12と可撓性フィルム14aからなる袋状のフレキシブルなパッケージであり、その上端部以外の外縁が封止接合されて上部開放された空間を与える構成となっている。この態様においては亜鉛二次電池100用の密閉容器102に複数個の電極カートリッジ10を収容する際、寸法公差等の設計上の要件をそれ程気にすることなく、複数の(望ましくはできるだけ多くの)電極カートリッジ10を密閉容器102に容易に詰め込むことができるとの利点がある。すなわち、比較的ラフに詰め込んだとしても、電極カートリッジ10のフレキシブル性(及びその中の電解液の流動性)により応力が容易に分散され、構造安定性及び性能安定性が確保される。可撓性フィルム14aが樹脂フィルムを含むのが好ましい。樹脂フィルムは水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有し、かつ、熱融着による接合が可能なものであるのが好ましく、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムを含む可撓性フィルムとして、市販のラミネートフィルムが使用可能であり、好ましいラミネートフィルムとしては、ベースフィルム(例えばPETフィルムやPPフィルム)及び熱可塑性樹脂層を備えた2層以上の構成の熱ラミネートフィルムが挙げられる。可撓性フィルム(例えばラミネートフィルム)の好ましい厚さは、20〜500μmであり、より好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜150μmである。上端部以外の外縁がセパレータ構造体12と封止接合されることで正極電解液又は負極電解液を液漏れ無く確実に水不透過性ケース内に保持することができる。封止接合は接着剤又は熱融着により行われるのが好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。熱融着による封止接合は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。水不透過性ケースの上端部は熱融着により封止される必要はなく、それ故、簡素な構成で電池部材を収容できる。
【0021】
本発明の別の好ましい態様によれば、図2A及び2Bに示される電極カートリッジ10’ 及び亜鉛二次電池100’のように、対向部材14が剛性板14bであってもよい。この態様においては剛性な電極カートリッジ10’となるため、取扱い性、構造安定性及び性能安定性が向上するとともに、フィルム破れ等の破損を生じにくく耐久性が高いとの利点がある。剛性板14bは樹脂製の板を含むのが好ましい。剛性板14bを構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。
【0022】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、図3A及び3Bに示される電極カートリッジ10’’ 及び亜鉛二次電池100’’のように、対向部材14も、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセパレータ28を含むセパレータ構造体14c(すなあちセパレータ構造体12と同じ)を含むものであってもよい。この態様においては取扱い性、構造安定性及び性能安定性が向上するとともに、フィルム破れ等の破損を生じにくく耐久性が高く、その上、対向部材14のスペースをセパレータとして有効利用できるため省スペース性に優れるとの利点がある。この場合、対向部材14を構成しないセパレータ構造体12と対向部材14を構成するセパレータ構造体14cの両方が、セパレータ28の外周縁に沿って枠32をそれぞれ備えてなるのが好ましく、対向部材14を構成する枠32と対向部材14を構成しない枠32とが液密に封止接合されてなるのが好ましい。枠32は樹脂製の枠であるのが好ましい。枠32を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。
【0023】
多孔質シート
図1A〜3Bに示されるように、電極16とセパレータ28との間には多孔質シート20が設けられるのが好ましい。また、対向電極104とセパレータ28との間にも多孔質シート20が設けられるのが好ましい。多孔質シート20は保液性を有することが望ましく、好ましい例としては、不織布、織布、吸水性樹脂、保液性樹脂等が挙げられ、特に好ましくは不織布である。吸水性樹脂や保液性樹脂の場合には粒状に構成され、粒状の樹脂がシート状に配設されるのが好ましい。多孔質シート20は、緩衝材、保液材、脱落防止材、気泡逃がし材等の様々な機能を呈することができるため、電極16や対向電極104からの構成粒子の脱落を防止し、且つ/又は発生しうる気泡を逃がしながら、電解液を十分にセパレータ28と接触させて保持することができ、それにより、セパレータ28の水酸化物イオン伝導性を最大限に発揮させることができる。
【0024】
セパレータ
セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない部材であり、典型的には板状、膜状又は層状の形態である。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する例1で採用される「緻密性判定試験I」又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(例えばLDH膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、セパレータ28が透水性を有しないということは、セパレータ28が水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、図1A〜3Bに示されるようにセパレータ28に多孔質基材30が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ28は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極電解液と負極電解液との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極室及び負極室における充放電反応を実現することができる。ニッケル亜鉛二次電池の場合、正極室及び負極室における充電時における反応は以下に示されるとおりであり、放電反応はその逆となる。
‐ 正極: Ni(OH)+OH→NiOOH+HO+e
‐ 負極: ZnO+HO+2e→Zn+2OH
【0025】
ただし、上記負極反応は以下の2つの反応で構成されるものである。
‐ ZnOの溶解反応: ZnO+HO+2OH→Zn(OH)2−
‐ Znの析出反応: Zn(OH)2−+2e→Zn+4OH
【0026】
セパレータ28は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。例えば、後述する図20に示されるように、He透過度が10cm/min・atm以下であると、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が著しく低下する。その意味で、10cm/min・atmというHe透過度の上限値は、水酸化物イオン伝導セパレータにおけるZnの透過抑制効果に関して臨界的意義を有するといえる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、ニッケル亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する例3に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0027】
セパレータ28は、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m−2・h−1以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0m−2・h−1以下より好ましくは4.0m−2・h−1以下より好ましくは3.0m−2・h−1以下、より好ましくは1.0m−2・h−1以下である。このように低いZn透過割合は、電解液中においてZnの透過を極めて効果的に抑制できることを意味する。このため、ニッケル亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。Zn透過割合は、セパレータにZnを所定時間透過させる工程と、Zn透過割合を算出する工程とを経て決定される。セパレータへのZnの透過は、水酸化物イオン伝導セパレータの一方の面にZnを含有する第一の水溶液を接触させ、かつ、セパレータの他方の面にZnを含有しない第二の水溶液又は水を接触させることにより行われる。また、Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水のZn濃度C、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水の液量V、Znの透過時間t、及びZnが透過する膜面積Sを用いて、(C×V)/(C×V×t×S)の式により算出する。C、C、V、V、t及びSの各パラメータの単位は濃度C及びCの単位が揃っており且つ液量V及びVの単位が揃っているかぎり特に限定されないが、Znの透過時間tの単位をhとし、膜面積Sの単位をmとするのが好ましい。Zn透過前の第一の水溶液のZn濃度Cは0.001〜1mol/Lの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜1mol/L、さらに好ましくは0.05〜0.8mol/L、特に好ましくは0.2〜0.5mol/L、最も好ましくは0.35〜0.45mol/Lである。また、Znの透過時間は1〜720時間とするのが好ましく、より好ましくは1〜168時間、さらに好ましくは6〜72時間、特に好ましくは12〜24時間である。このようにZn含有水溶液とZn非含有液を用いてZn透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnを極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を確実かつ高精度に評価することができる。そして、上述した式により定義されるZn透過割合という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。このZn透過割合は亜鉛デンドライト析出のしにくさを判断するための有効な指標となりうる。というのも、水酸化物イオン伝導セパレータを亜鉛二次電池にセパレータとして用いた場合、セパレータの一方の側(亜鉛負極側)の負極電解液にZnが含有されていても、他方の側の(本来Zn非含有の)正極電解液にZnが透過しなければ、正極電解液中での亜鉛デンドライトの成長は効果的に抑制されるものと原理的に考えられるためである。こうして、本態様によれば、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを確実かつ高精度に評価することができる。Zn透過割合の測定は、後述する例3に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0028】
セパレータ28は無機固体電解質体からなるセラミックスセパレータであるのが好ましい。セパレータ28として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。そして、セパレータ28を構成する無機固体電解質は典型的には緻密で硬い無機固体であるため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止することが可能となる。その結果、ニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池の信頼性を大幅に向上することができる。無機固体電解質体は透水性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
【0029】
セパレータ28ないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ28は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0030】
無機固体電解質体は、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)を含んでなるのが好ましく、より好ましくはそのようなLDHからなる。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO2−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。また、上記一般式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn−の係数x/nは適宜変更されてよい。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0031】
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたものであるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120〜250℃、好ましくは180〜250℃の温度、2〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
【0032】
セパレータ28の片面又は両面に多孔質基材30を設けてもよい。セパレータ28の片面に多孔質基材30が設けられる場合、多孔質基材30はセパレータ28の負極側の面に設けてもよいし、セパレータ28の正極側の面に設けてもよい。多孔質基材30は透水性を有し、それ故正極電解液及び負極電解液がセパレータ28に到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材30があることでセパレータ28上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材30により強度を付与できるため、セパレータ28を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータ28の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。一方、セパレータ28の両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。なお、図1A〜3Bにおいて多孔質基材30はセパレータ28の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材30上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータ28の片面の全面にわたって多孔質基材30が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータ28の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材30を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材30を後付けしてもよい。
【0033】
無機固体電解質体は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の形態であると十分な堅さを確保して亜鉛デンドライトの貫通をより効果的に阻止することができる。一方、板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10−4〜10−1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータ28の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0034】
正極
電極16及び対向電極104のいずれか一方が正極である。ニッケル亜鉛二次電池の場合、正極(典型的には正極板)は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含んでなる。例えば、ニッケル亜鉛電池を放電末状態で構成する場合には正極として水酸化ニッケルを用いればよく、満充電状態で構成する場合には正極としてオキシ水酸化ニッケルを用いればよい。水酸化ニッケル及びオキシ水酸化ニッケル(以下、水酸化ニッケル等という)は、ニッケル亜鉛電池に一般的に用いられている正極活物質であり、典型的には粒子形態である。水酸化ニッケル等には、その結晶格子中にニッケル以外の異種元素が固溶されていてもよく、それにより高温下での充電効率の向上が図れる。このような異種元素の例としては、亜鉛及びコバルトが挙げられる。また、水酸化ニッケル等はコバルト系成分と混合されたものであってもよく、そのようなコバルト系成分の例としては、金属コバルトやコバルト酸化物(例えば一酸化コバルト)の粒状物が挙げられる。さらに、水酸化ニッケル等の粒子(異種元素が固溶されていてよい)の表面をコバルト化合物で被覆してもよく、そのようなコバルト化合物の例としては、一酸化コバルト、2価のα型水酸化コバルト、2価のβ型水酸化コバルト、2価を超える高次コバルトの化合物、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0035】
正極は、水酸化ニッケル系化合物及びそれに固溶されうる異種元素以外にも、追加元素をさらに含んでいてもよい。そのような追加元素の例としては、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルピウム(Er)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)および水銀(Hg)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。追加元素の含有形態は特に限定されず、金属単体又は金属化合物(例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物)の形態で含まれていてよい。追加元素を含む金属単体又は金属化合物を添加する場合、その添加量は、水酸化ニッケル系化合物100重量部に対し、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは2〜5重量部である。
【0036】
正極は電解液等をさらに含むことにより正極合材として構成されてもよい。正極合剤は、水酸化ニッケル系化合物粒子、電解液、並びに所望により炭素粒子等の導電材やバインダー等を含んでなることができる。
【0037】
負極
負極は電極16及び対向電極104のいずれか一方であるが、電極16であるのが好ましい。すなわち、電極カートリッジ10内の電極16が負極であり、対向電極104が正極であるのが好ましい。この場合、充放電に伴い負極の形状一体性が損なわれやすい状態になったとしても、電極カートリッジ10の水不透過性ケースによって負極の形状を望ましく保持して充放電に関与させ続けることができ、その結果、安定した電池性能を発揮させることができる。負極(典型的には負極板)は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含んでなる。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0038】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01〜0.06質量%、ビスマスを0.005〜0.02質量%、アルミニウムを0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0039】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、90〜210μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0040】
集電体
電極カートリッジ10は、電極16に接触して設けられる集電体18をさらに備えるのが好ましい。また、亜鉛二次電池100は、対向電極104に接触して設けられる対向集電体106をさらに備えるのが好ましい。集電体18及び対向集電体106は、それぞれ負極集電体及び正極集電体、又は正極集電体及び負極集電体である。いずれにせよ、集電体18及び対向集電体106はいずれも水不透過性ケースの上端を超えて延出するをさらに備えるのが好ましい。また、亜鉛二次電池100は、対向電極104に接触して設けられ、電極カートリッジ10の水不透過性ケースの上端を超えて延出するのが好ましい。この場合、集電体18の延出部と対向集電体106の延出部が互いに異なる位置(例えば左右対称の位置)で延出するのが好ましく、複数個の集電体18の延出部が互いに連結され、且つ/又は複数個の対向集電体106の延出部が互いに連結されるのが特に好ましい。あるいは、正極及び負極が、別途設けられた正極端子及び負極端子に電極カートリッジ10又は密閉容器102の内又は外でそれぞれ接続される構成としてもよい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。負極集電体の好ましい例としては、銅パンチングメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0041】
電解液
ニッケル亜鉛二次電池等の典型的な亜鉛二次電池の場合、正極電解液及び負極電解液はアルカリ金属水酸化物を含んでなる。すなわち、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液が正極電解液及び負極電解液として用いられる。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛合金の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、正極電解液及び負極電解液は正極及び/又は負極と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド,ポリビニルアルコール,ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0042】
密閉容器
密閉容器102の材質は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有するものであれば特に限定されず、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等の樹脂製であるのが好ましく、より好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。密閉容器102内において、複数の電極カートリッジ10,10’,10’’及び複数の対向電極104は互いに直列接続されてもよいが、互いに並列接続されるのが好ましい。なお、電極カートリッジ10,10’,10’’は上部開放されているので、密閉容器102内において電極カートリッジ10,10’,10’’と対向電極104は縦向きに収容されるべきことはいうまでもない。密閉容器102は典型的には本体と蓋とを備えており、電極カートリッジ10,10’,10’’と対向電極104が電解液とともに収容され、かつ、必要に応じて端子接続が行われた後、蓋が閉じられ、その蓋と筐体との間が接着剤、熱融着等の封止手法により封止されるのが好ましい。
【0043】
多孔質基材付きLDHセパレータ
前述のとおり、本発明の電極カートリッジに好ましく用いられる多孔質基材付きセパレータは、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセパレータと、セパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材とを備えたものである。無機固体電解質体は透水性を有しない程に緻密化された膜状又は層状の形態である。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えてなり、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、図4に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材30の性質上、図4に示されるように多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、図5に示されるように、多孔質基材30中(例えば多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成するものであってもよい。この点、図5に示される態様は図4に示される態様のセパレータ層28における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材30の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0044】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0045】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0046】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0047】
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0048】
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、図4に示されるようにセパレータ層28が多孔質基材30上に形成される場合には、セパレータ層28はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、図5に示されるようにセパレータ層28’が多孔質基材30中に形成される場合には、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層28’は典型的には多孔質基材30の少なくとも一部及びLDHからなる。図5に示されるセパレータ層28’は、図4に示されるセパレータ層28における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0049】
セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0050】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、図4に示されるように、多孔質基材30上にセパレータ層28がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、図5に示されるように、多孔質基材30中(典型的には多孔質基材30の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材30の少なくとも一部がセパレータ層28’を構成する場合においても実現可能である。
【0051】
すなわち、LDH結晶は図6に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有セパレータ層における上記垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
【0052】
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることを示す。ここで、本明細書において「垂直方向」とは厳密な垂直方向のみならずそれに類する略垂直方向を含む概念であることはいうまでもない。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して垂直方向に配向しているとLDH層状構造も垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0053】
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0054】
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(a)多孔質基材を用意し、(b)所望により、この多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、(c)多孔質基材に水熱処理を施してLDH膜を形成させることにより、好ましく製造することができる。
【0055】
(a)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH膜の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0056】
上述のとおり、多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。セラミックス材料製の多孔質基材は、市販品であってもよいし、公知の手法に従って作製したものであってもよく、特に限定されない。例えば、セラミックス粉末(例えばジルコニア粉末、ベーマイト粉末、チタニア粉末等)、メチルセルロース、及びイオン交換水を所望の配合比で混練し、得られた混練物を押出成形に付し、得られた成形体を70〜200℃で10〜40時間乾燥した後、900〜1300℃で1〜5時間焼成することによりセラミックス材料製の多孔質基材を作製することができる。メチルセルロースの配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、1〜20重量部とするのが好ましい。また、イオン交換水の配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、10〜100重量部とするのが好ましい。
【0057】
(b)起点物質の付着
所望により、多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させてもよい。このように起点物質を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。このような起点の好ましい例としては、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種、LDHの構成要素となりうる陽イオンを与える化学種、又はLDHが挙げられる。
【0058】
(i)陰イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種であることができる。このような陰イオンの例としては、CO2−、OH、SO、SO2−、SO2−、NO、Cl、Br、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。したがって、このような起点を与えうる起点物質を、起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質基材の表面に付着させればよい。表面に陰イオンを与える化学種が付与されることで、Mg2+、Al3+等の金属陽イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0059】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にポリマーを付着させた後、このポリマーに陰イオンを与える化学種を導入することにより行うことができる。この態様においては、陰イオンはSO、SO2−及び/又はSO2−であるのが好ましく、このような陰イオンを与える化学種のポリマーへの導入がスルホン化処理により行われるのが好ましい。使用可能なポリマーはアニオン化(特にスルホン化)可能なポリマーであり、そのようなポリマーの例として、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。特に、芳香族系ポリマーがアニオン化(特にスルホン化)しやすい点で好ましく、そのような芳香族系ポリマーの例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。最も好ましいポリマーはポリスチレンである。多孔質基材へのポリマーの付着は、ポリマーを溶解させた溶液(以下、ポリマー溶液という)を多孔質基材の表面(好ましくは多孔質基材の板状概形の最表面を構成する粒子)に塗布することにより行われるのが好ましい。ポリマー溶液は、例えば、ポリマー固形物(例えばポリスチレン基板)を有機溶媒(例えばキシレン溶液)に溶解することにより容易に作製することができる。ポリマー溶液は多孔質基材の内部にまで浸透させないようにするのが、均一な塗布を実現しやすい点で好ましい。この点、ポリマー溶液の付着ないし塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。一方、スルホン化処理は、ポリマーを付着させた多孔質基材を、硫酸(例えば濃硫酸)、発煙硫酸、クロロスルホン酸、無水硫酸等のスルホン化可能な酸に浸漬すればよく、他のスルホン化技術を用いてもよい。スルホン化可能な酸への浸漬は室温又は高温(例えば50〜150℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜14日間である。
【0060】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、陰イオンを与える化学種を親水基として含む界面活性剤で多孔質基材の表面を処理することにより行うことができる。この場合、陰イオンがSO、SO2−及び/又はSO2−であるのが好ましい。そのような界面活性剤の典型的な例として、陰イオン界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤の好ましい例としては、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。スルホン酸型陰イオン界面活性剤の例としては、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンスルホコハク酸アルキル2Na、ポリスチレンスルホン酸Na、ジオクチルスルホコハク酸Na、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。硫酸エステル型陰イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルNaが挙げられる。多孔質基材の界面活性剤での処理は、多孔質基材の表面に界面活性剤を付着させることができる手法であれば特に限定されず、界面活性剤を含む溶液を多孔質基材に塗布する、又は界面活性剤を含む溶液に多孔質基材を浸漬することにより行えばよい。界面活性剤を含む溶液への多孔質基材の浸漬は、溶液を撹拌しながら室温又は高温(例えば40〜80℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜7日間である。
【0061】
(ii)陽イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、層状複水酸化物の構成要素となりうる陽イオンを与える化学種であることができる。このような陽イオンの好ましい例としては、Al3+が挙げられる。この場合、起点物質が、アルミニウムの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及びヒドロキシ錯体からなる群から選択される少なくとも1種のアルミニウム化合物であるのが好ましい。したがって、このような起点を与えうる起点物質を起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質部材の表面に付着させればよい。表面に陽イオンを与える化学種が付与されることで、LDHの層間に入りうる陰イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質部材にアルミニウム化合物を含むゾルを塗布することにより行うことができる。この場合、好ましいアルミニウム化合物の例として、ベーマイト(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、及び非晶質アルミナが挙げられるが、ベーマイトが最も好ましい。アルミニウム化合物を含むゾルの塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0063】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、少なくともアルミニウムを含む水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して多孔質基材の表面にアルミニウム化合物を形成させることにより行うことができる。多孔質基材の表面に形成させるアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)である。特に、多孔質基材(特にセラミックス製多孔質基材)上のLDH膜は成長初期段階で結晶質及び/又は非晶質Al(OH)が生成する傾向があり、これを核としてLDHが成長しうる。そこで、このAl(OH)を予め水熱処理により多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。本態様においては、工程(b)及び後続の工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行ってもよいし、工程(b)及び後続の工程(c)をこの順で別々に行ってもよい。
【0064】
工程(b)及び工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行う場合には、後述する工程(c)で用いる原料水溶液(すなわちLDHの構成元素を含む水溶液)をそのまま工程(b)に用いることができる。この場合であっても、工程(b)における水熱処理を密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、酸性ないし中性のpH域(好ましくはpH5.5〜7.0)にて50〜70℃という比較的低温域で行うことにより、LDHではなく、Al(OH)の核形成を促すことができる。また、Al(OH)の核形成後、核形成温度での保持又は昇温により、尿素の加水分解が進むことで原料水溶液のpHが上昇していくため、LDHの成長に適したpH域(好ましくはpH7.0超)で工程(c)にスムーズに移行することができる。
【0065】
一方、工程(b)及び工程(c)をこの順で別々に行う場合には、工程(b)と工程(c)とで異なる原料水溶液を用いるのが好ましい。例えば、工程(b)では、Al源を主として含む(好ましくは他の金属元素を含まない)原料水溶液を用いてAl(OH)の核形成を行うのが好ましい。この場合、工程(b)における水熱処理を工程(c)とは別の密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、50〜120℃で行えばよい。Al源を主として含む原料水溶液の好ましい例としては、硝酸アルミニウムと尿素を含み、マグネシウム化合物(例えば硝酸マグネシウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mgを含まない原料水溶液を用いることでLDHの析出を回避してAl(OH)の核形成を促すことができる。
【0066】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、水溶液中で、該アルミニウムを水熱処理によりアルミニウム化合物に変換することにより行うことができる。このアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)である。特に、Al(OH)に変換することで、これを核としてLDHの成長を促進させることができる。そこで、このAl(OH)を水熱処理により多孔質基材の表面に均一に形成させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる水溶液は、既に蒸着により与えられているAlと反応してAl(OH)を生成可能な組成であればよく、特に限定されない。
【0067】
(iii)起点としてのLDH
結晶成長の起点は、LDHであることができる。この場合、LDHの核を起点としてLDHの成長を促すことができる。そこで、このLDHの核を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0068】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、LDHを含むゾルを多孔質部材の表面に塗布することにより行うことができる。LDHを含むゾルは、LDHを水等の溶媒に分散させて作製したものであってよく、特に限定されない。この場合、塗布はスピンコートにより行われるのが好ましい。スピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0069】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、アルミニウム以外のLDHの構成元素を含む水溶液中で、(蒸着された)アルミニウムを水熱処理によりLDHに変換することにより行うことができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる原料水溶液は、既に蒸着により与えられているAl以外の成分を含む水溶液を用いて行えばよい。そのような原料水溶液の好ましい例として、Mg源を主として含む原料水溶液が挙げられ、より好ましくは、硝酸マグネシウムと尿素を含み、アルミニウム化合物(硝酸アルミニウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mg源を含むことで、既に蒸着により与えられているAlとともにLDHの核を形成することができる。
【0070】
(c)水熱処理
LDHの構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材(所望により起点物質が付着されうる)に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。好ましい原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し(例えばpH7.0超、好ましくは7.0を超え8.5以下)、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg2++Al3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH膜を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0071】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO)に対するモル比(尿素/NO)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0072】
多孔質基材は原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させればよい。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。
【0073】
原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。この水熱処理は密閉容器(好ましくはオートクレーブ)の中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH膜の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0074】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0075】
上記のようにして製造されたLDH膜は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な垂直方向に配向したものである。すなわち、LDH膜は、典型的には、高度な緻密性に起因して透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。また、LDH膜を構成するLDHが複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが典型的である。したがって、十分なガスタイト性を有する緻密性を有するLDH膜を亜鉛空気電池等の電池に用いた場合、発電性能の向上が見込めると共に、従来適用できなかった電解液を用いる亜鉛空気電池の二次電池化の大きな障壁となっている亜鉛デンドライト進展阻止及び二酸化炭素侵入防止用セパレータ等への新たな適用が期待される。また、同様に亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛電池にも適用が期待される。
【0076】
ところで、上記製造方法により得られるLDH膜は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH膜をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH膜が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0077】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0078】
例1:多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0079】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、図7に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0080】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0081】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0082】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0083】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0084】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、図8に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、図8に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0085】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を図9に示す。
【0086】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を図10に示す。
【0087】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0088】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0089】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図11Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料220(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部222aを備えたシリコンゴム222を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器224,226で挟んで接着した。シリコンゴム222側に配置されるアクリル製容器224は底が抜けており、それによりシリコンゴム222はその開口部222aが開放された状態でアクリル製容器224と接着される。一方、複合材料試料220の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器226は底を有しており、その容器226内にはイオン交換水228が入っている。この時、イオン交換水にAl及び/又はMgを溶解させておいてもよい。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料220の多孔質基材側にイオン交換水228が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器226には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。図11Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器224の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0090】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図12A及び12Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器230と、このアクリル容器230の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具232とを用意した。アクリル容器230にはその中にガスを供給するためのガス供給口230aが形成されている。また、アルミナ治具232には直径5mmの開口部232aが形成されており、この開口部232aの外周に沿って膜試料載置用の窪み232bが形成されてなる。アルミナ治具232の窪み232bにエポキシ接着剤234を塗布し、この窪み232bに複合材料試料236の膜試料236b側を載置してアルミナ治具232に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料236が接合されたアルミナ治具232を、アクリル容器230の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤238を用いて気密かつ液密にアクリル容器230の上端に接着させて、測定用密閉容器240を得た。この測定用密閉容器240を水槽242に入れ、アクリル容器230のガス供給口230aを圧力計244及び流量計246に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器230内に供給可能に構成した。水槽242に水243を入れて測定用密閉容器240を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器240の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料236の膜試料236b側が測定用密閉容器240の内部空間に露出する一方、複合材料試料236の多孔質基材236a側が水槽242内の水に接触している。この状態で、アクリル容器230内にガス供給口230aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器240内に導入した。圧力計244及び流量計246を制御して膜試料236b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料236から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料236bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0091】
例2(参考):ラミネート型ニッケル亜鉛電池カートリッジの作製
本例は正極及び負極をセパレータ構造体で隔てて備えた積層電池型ニッケル亜鉛カートリッジ(セルパック)の作製例であり、本発明の電極カートリッジの作製例ではない点で参考例に相当する。本例において正極を含む区画(正極室)又は負極を含む区画(負極室)の1つを独立した形態にしたものが本発明の電極カートリッジに相当する。したがって、本例を参考にすることで本発明の電極カートリッジを適宜作製できるのはいうまでもない。
【0092】
(1)セパレータ構造体の作製
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜を用意した。図13A及び13Bに示されるように、多孔質基材30付きセパレータ28のセパレータ28側(すなわちLDH膜側)の外縁に沿って変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の枠32を載置した。このとき、枠32は正方形の枠であり、その内周縁には段差が設けられており、この段差に多孔質基材30及びセパレータ28の外縁を嵌合させた。この枠32上に可撓性フィルム34としてラミネートフィルム(厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を載置した。この可撓性フィルム34は予め中央に開口部34aが形成されており、この開口部34aが枠32内の開放領域に対応するように可撓性フィルム34を配置した。可撓性フィルム34、枠32、及び多孔質基材30付きセパレータ28の接合部分を、ヒートシール機を用いて約200℃で熱融着封止した。こうして作製されたセパレータ構造体の写真が図14に示される。図14において点線で示される領域Hが熱融着封止が行われた領域であり、この領域における液密性が確保される。このようなセパレータ構造体12を5枚作製した。
【0093】
(2)正極板の作製
亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意する。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得た。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製する。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された正極板を得る。
【0094】
(3)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された負極板を得る。
【0095】
(4)ラミネート型ニッケル亜鉛電池カートリッジの作製
上記得られた5枚のセパレータ構造体12、3枚の正極板、3枚の負極板等を用いてニッケル亜鉛電池カートリッジを以下の手順で組み立てた。まず、1対の可撓性フィルム(図示せず)としてラミネートフィルム(厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を用意した。可撓性フィルム上に3枚の負極板、5枚のセパレータ構造体12及び3枚の正極板を、セパレータ構造体12を介在させながら負極板と正極板とが交互に位置するように積層し、最後に可撓性フィルムを積層した。このとき、セパレータ構造体12は多孔質基材30及び枠32が正極板側に位置するように配置した。こうして得られた積層物の写真が図15に示される。図15に点線で囲まれる可撓性フィルムの重なり部分(すなわち外縁3辺とすべき部分)をヒートシール機を用いて約200℃で熱融着接合した。こうして熱融着接合により封止された水不透過性ケースを撮影した写真を図16に示す。図16において熱融着された領域における点線で記される線に沿って切断して、図17に示されるように外縁3辺が熱融着接合により封止された水不透過性ケースを得た。図17から分かるように、水不透過性ケースの上端部は熱融着封止されずに開放されており、正極集電体と負極集電体が互いに異なる位置で可撓性袋体の外縁から互いに異なる位置で延出してなる(図中に視認される2本の金属片に相当)。こうして5枚のセパレータ構造体12、正極板及び負極板を収容した水不透過性ケースを真空デシケータ中に入れ、真空雰囲気下で、水不透過性ケース内の正極室及び負極室の各々に電解液として6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。この電解液の注入は、水不透過性ケースの上端部の開放部分から行った。こうして得られたラミネート型ニッケル亜鉛電池カートリッジを撮影した写真を図17に示す。
【0096】
例3
本例では、多孔質基材上に層状複水酸化物(LDH)緻密膜を形成したLDH含有複合材料試料(多孔質基材付きセパレータ試料)として試料1〜10を以下のようにして作製した。
【0097】
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。
【0098】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。
【0099】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0100】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0101】
(3)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
試料1〜6についてのみ、以下の手順により多孔質基材に対してポリスチレンスピンコート及びスルホン化を行った。すなわち、ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlを多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0102】
(4)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0103】
(5)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(4)で作製した原料水溶液と上記(3)でスルホン化した多孔質基材(試料1〜6)又は上記(2)で洗浄した多孔質基材(試料7〜10)を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70〜75℃で168〜504時間水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。このとき、水熱処理の条件を適宜変更することにより、様々な緻密性を有する10種類の配向膜を作製した。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.0〜2.0μmであった。こうして、LDH含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)として試料1〜10を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0104】
(6a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定してXRDプロファイルを得る。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、膜試料1〜10のいずれも層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
【0105】
(6b)He透過測定
He透過性の観点から膜試料1〜10の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図18A及び図18Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された緻密膜318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0106】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、緻密膜318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、緻密膜318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、緻密膜318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0107】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された緻密膜318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。得られた結果は表1及び図20に示されるとおりであった。
【0108】
(6c)Zn透過試験
Zn透過性の観点から膜試料1〜10の緻密性を評価すべく、Zn透過試験を以下のとおり行った。まず、図19A及び図19Bに示されるZn透過測定装置340を構築した。Zn透過測定装置340は、L字状の開口管で構成される第一槽344にフランジ362aが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)と、L字状の管で構成される第二槽346にフランジ362bが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)とをフランジ362a,362bが対向するように配置し、その間に試料ホルダ342を配置し、試料ホルダ342に保持された緻密膜の一方の面から他方の面にZnが透過可能な構成とした。
【0109】
試料ホルダ342の組み立て及びその装置340への取り付けは、次のようにして行った。まず、緻密膜352の外周に沿って接着剤356を塗布して、中央に開口部を有する治具358(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具358の両側に図19Aに示されるように密封部材360a,360bとしてシリコーンゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材360a,360bの外側から、1対のフランジ付き開口管のフランジ362a,362bで挟持した。なお、緻密膜352は多孔質基材354上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜352側が(Znを含有する第一の水溶液348が注入されることになる)第一槽344に向くように配置した。フランジ362a,362bをその間で液漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段364で互いに堅く締め付けた。
【0110】
一方、第一槽344に入れるための第一の水溶液348として、Al(OH)を2.5mol/L、ZnOを0.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。第一の水溶液のZn濃度C(mol/L)をICP発光分光分析法により測定したところ、表1に示される値であった。また、第二槽346に入れるための第二の水溶液350として、ZnOを溶解させることなく、Al(OH)を2.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。先に作製した試料ホルダ342が組み込まれた測定装置340において、第一槽344及び第二槽346にそれぞれ第一の水溶液348及び第二の水溶液350を注入し、試料ホルダ342に保持された緻密膜352にZnを透過させた。この状態でZn透過を表1に示される時間tで行った後、第二の水溶液の液量V(ml)を測定し、第二の水溶液350のZn濃度C(mol/L)をICP発光分光分析法により測定した。得られた値を用いてZn透過割合を算出した。Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液のZn濃度C(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液の液量V(ml)、Znの透過時間t(min)、及びZnが透過する膜面積S(cm)を用いて、(C×V)/(C×V×t×S)の式により算出した。得られた結果は表1及び図20に示されるとおりであった。
【0111】
【表1】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19A
図19B
図20