特許第6784709号(P6784709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6784709-セルロースナノファイバーの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784709
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20201102BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20201102BHJP
   D21H 11/04 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H15/02
   D21H11/04
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-3215(P2018-3215)
(22)【出願日】2018年1月12日
(62)【分割の表示】特願2017-548794(P2017-548794)の分割
【原出願日】2016年11月2日
(65)【公開番号】特開2018-90949(P2018-90949A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-215788(P2015-215788)
(32)【優先日】2015年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】田村 直之
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118748(WO,A1)
【文献】 特開2012−207133(JP,A)
【文献】 特開2012−046846(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/068818(WO,A1)
【文献】 特開2011−236398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
C08B1/00−37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均繊維長が500μm以下かつ数平均繊維径が100nm以下のセルロースナノファイバーの製造に用いるパルプ原料であって、
前記パルプ原料は、以下の木材に由来し、
当該木材は、活性アルカリ添加量15%、硫化度25%、液比2.5L/kg、H―ファクター830のクラフトパルプ製造条件においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した1.00mm以上の繊維長成分の割合が20%以下である繊維長分布を有するパルプを与える木材である、
パルプ原料
【請求項2】
請求項1に記載のパルプ原料を化学変性してなる、化学変性パルプ原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直径が1〜100nm程度の天然繊維または合成繊維は一般に、ナノファイバーと呼ばれる。ナノファイバーの一つであるセルロースナノファイバーは、コンポジット材料の補強材料などの様々な用途への展開が期待されている。
【0003】
セルロースナノファイバーを得る方法としては、セルロース繊維を水中でN−オキシル化合物等の存在下で酸化し、不純物を除去し、分散力を加える方法(特許文献1)や機械的に解繊する方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
セルロースナノファイバーの様々な用途への展開に伴い、多様な特性を有するセルロースナノファイバーの開発が望まれている。例えば、短い繊維長を有するセルロースナノファイバーもその1つである。短い繊維長を有するセルロースナノファイバーの用途の例として、セルロースナノファイバー分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成させることや、セルロースナノファイバー分散液を顔料やバインダーなどを含む塗料に混ぜることが挙げられる。セルロースナノファイバー分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成する場合、分散液の粘度が高すぎると均質に塗布することができない。一方、均質に塗布するために、セルロースナノファイバー分散液を希釈して用いると、所望のフィルム厚みが達成されるまで何度も塗布と乾燥とを繰り返し実施しなくてはならず効率が悪いという問題がある。また、セルロースナノファイバー分散液を顔料およびバインダーを含む塗料と混ぜる場合、分散液の粘度が高すぎると塗料中に均一に混合させることができないという問題がある。このような場合、繊維長の短いセルロースナノファイバーから低粘度のセルロースナノファイバー分散液を調製して用いることが考えられる。
【0005】
低粘度のセルロースナノファイバー分散液の製造方法として、酸化したセルロースを解繊する前に、酵素処理する方法、過酸化水素およびオゾンを添加して酸化分解処理する方法、紫外線照射する方法、酸を添加して加水分解処理する方法、原料としてクラフト法による溶解パルプを用いる方法、樹齢1〜10年までの植林木を原料とした木粉を用いる方法(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−001728号
【特許文献2】特開2010−216021号
【特許文献3】特開2011−236398号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法によれば、低粘度のセルロースナノファイバー分散液を製造することができるが、解繊前のパルプに化学的または生物的処理を施しているため、繊維へのダメージが大きく、乾燥時に着色を起こしやすいという問題があった。また、原料として木粉を用いると、透明度が低下する等の問題があった。これに加えて、原料として木粉を用いると木粉中のパルプ繊維が短すぎて化学変性後に残留薬品を洗浄するのが非常に困難であるという作業上の問題や、木材を木粉にする過程で非常に強い機械処理を行うため繊維のダメージが大きく加熱乾燥時に着色を起こしやすいという問題もあった。
【0008】
本発明は、低粘度のセルロースナノファイバー分散液を与え、かつ加熱しても着色が少なく、安定した品質を有するセルロースナノファイバーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は以下の本発明により解決される。
[1]木材由来のパルプを準備する工程(1)、および当該パルプを解繊する工程(2)を含む、数平均繊維長が500μm以下かつ数平均繊維径が100nm以下のセルロースナノファイバーの製造方法であって、
前記木材が、活性アルカリ添加量15%、硫化度25%、液比2.5L/kg、H―ファクター830のクラフトパルプ製造条件においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した1.00mm以上の繊維長成分の割合が20%以下である繊維長分布を有するパルプが得られる木材である、セルロースナノファイバーの製造方法。
[2]前記木材が、前記条件においてパルプ化した際に、1.00mm以上の繊維長成分の割合が20%以下であり、かつ0.20mm以下の繊維長成分の割合が20%以下である繊維長分布を有するパルプが得られる木材である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記木材が、前記条件においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した数平均繊維長が0.65mm以下であるパルプが得られる木材である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記原料パルプをアニオン変性する工程を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低粘度のセルロースナノファイバー分散液を与え、かつ加熱しても着色が少なく、安定した品質を有するセルロースナノファイバーの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1および比較例1で用いた原料パルプの繊維長分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」はその両端の値を含む。すなわち「X〜Y」はXおよびYを含む。
【0013】
1.製造方法
セルロースナノファイバーとは、数平均繊維長が500μm以下であり、かつ数平均繊維径が100nm以下である繊維である。当該繊維径は20nm以下であることが好ましく、2〜10nmであることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの数平均繊維長および数平均繊維径は、セルロースナノファイバーを電子顕微鏡や原子間力顕微鏡等の顕微鏡で観察して測定できる。本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、特定の木材チップから調製した原料パルプを準備する工程(1)、および当該パルプを解繊する工程(2)を含む。
【0014】
1−1.工程(1)
本工程では、木材由来のパルプを準備する。具体的に当該木材は、特定のパルプ化条件(以下「特定パルプ条件」ともいう)においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した1.00mm以上の繊維長成分の割合(以下「長繊維割合」ともいう)が20%以下である繊維長分布を有するパルプを与える木材である。繊維長分布はMetso Automation社製パルプ分析装置「FiberLab」などを用いて測定することができる。当該繊維長分布において、0.20mm以下の繊維長成分の割合は20%以下であることが好ましい。また当該パルプの数平均繊維長は0.65mm以下であることが好ましい。
【0015】
特定パルプ化条件とは、木材チップを用いて活性アルカリ添加量15%、硫化度25%、液比2.5L/kg、Hファクター830で実施するクラフトパルプの製造条件である。
活性アルカリとはJIS P0001に規定される用語で、クラフト法およびソーダ法蒸解液のアルカリ度を示す。活性アルカリの量はNaOH+NaSで表される。
硫化度とはJIS P0001に規定される用語で、クラフト法蒸解液中の硫化物の量である。硫化度(%)はNaS/(NaOH+NaS)×100で表される。
H−ファクターはJIS P0001に規定される用語で、化学パルプ化法において蒸解温度と蒸解時間の効果を総合的に表す蒸解度である。100℃で1時間蒸解した時のパルプ化効果をH−ファクター1とする。
【0016】
1)木材
このような繊維長分布が得られる木材であれば樹種は限定されないが、樹種としては広葉樹材が好ましい。広葉樹材の樹種としては特に限定されないが、例えばEucalyptus(ユーカリ類)、Fagus(ブナ類)、Quercus(ナラ、カシ等)、Beluta(カバ類)、Acacia(アカシア類)等が挙げられる。これらの中でも、フトモモ科ユーカリ属に属する樹種が好ましい。これらは一般に成長性が良好であり、かつ非常に多くの樹種が属するため植林地に対して適した樹種を探すことが比較的容易である。フトモモ科ユーカリ属の樹種としては、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ナイテンス、ユーカリ・ユーロフィラ、ユーカリ・ペリータおよびユーカリ・カマルドレンシスからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、これらの雑種等であってもよい。
【0017】
2)パルプ化
広葉樹材のパルプ化法としては、クラフトパルプ法、ソーダパルプ法、サルファイトパルプ法、リファイナーなどによる機械パルプ法が挙げられる。また、これらの方法で得られたパルプ以外に、これらのパルプを高圧ホモジナイザーやカッティングミル等で粉砕したパルプ、あるいは酸加水分解などの化学処理により精製したパルプ等も使用することができる。しかしながら、パルプ原料中にリグニンが多く残留してしまうと次の工程の化学変性を阻害する恐れがあるので、クラフトパルプ法、ソーダパルプ法、サルファイトパルプ法などで製造された化学パルプを用いることが好ましい。
【0018】
工程(1)で準備する原料パルプを得るためのパルプ化条件(「工程(1)のパルプ化条件」ともいう)は、前述の「特定パルプ化条件」と同じである必要はない。すなわち、工程(1)のパルプ化条件は、特定パルプ化条件よりも温和な条件または過酷な条件であってよい。しかしながら、工程(1)で準備する原料パルプの前記「長繊維割合」は20%以下であることが好ましい。また原料パルプの0.20mm以下の繊維長成分の割合は20%以下であることが好ましい。さらに原料パルプの数平均繊維長は0.65mm以下であることが好ましい。
【0019】
3)漂白処理
リグニンをさらに除去するために、原料パルプには公知の漂白処理を施すことが好ましい。漂白処理方法は特に限定されないが、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、酸素処理(O)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)などを組合せて行うことができる。例えば、C/D−E/O−H−D、Z−E/O−D、C/D−E−H−D、Z−E−D−P、Z/D−Ep−D、Z/D−Ep−D−P、D−Ep−D、D−Ep−D−P、D−Ep−P−D、ZEop−D−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Eop−D−E−Dなどのシーケンスで漂白処理を実施できる。シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する。パルプ中のリグニン量は少ないことが好ましく、パルプ化処理および漂白処理を用いて得られたパルプ(漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ)は、白色度(ISO 2470)が80%以上であることがより好ましい。
【0020】
4)化学変性
次工程での解繊を効率よく行うために、原料パルプにはアニオン変性やカチオン変性等の化学変性を施すことが好ましい。
4−1)アニオン変性
i)カルボキシメチル化
原料パルプを発底原料とし、溶媒として3〜20重量倍の低級アルコールと水の混合媒体を使用する。低級アルコールは具体的にはメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合物である。低級アルコールの混合割合は、混合媒体中60〜95重量%である。マーセル化剤として、発底原料のグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化反応を行う。
【0021】
アニオン変性されたセルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.02〜0.50であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。
【0022】
ii)酸化
原料パルプを、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で、酸化剤を用いて水中で酸化することでカルボキシル基をセルロースに導入した酸化セルロースを得ることができる。
【0023】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物である。本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば限定されない。
【0024】
N−オキシル化合物の量は、得られる酸化パルプをナノファイバー化できる程度に十分にパルプを酸化できる触媒量であれば特に限定されない。例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.02〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度である。
【0025】
パルプの酸化の際に用いられる臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度である。
【0026】
パルプの酸化の際に用いられる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等、公知の酸化剤が使用できる。安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。その量は、例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度である。
【0027】
酸化反応時の温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0028】
上記の酸化反応によってパルプのセルロースのピラノース環における6位の一級水酸基がカルボキシル基またはその塩に酸化される。ピラノース環とは、5つの炭素と1つの酸素からなる六員環炭水化物である。6位の一級水酸基とは、6員環にメチレン基を介して結合しているOH基である。N−オキシル化合物を用いたセルロースの酸化反応の際には、この一級水酸基が選択的に酸化される。このように酸化されたセルロースは次の解繊工程で容易にナノ解繊される。この機構は以下のように説明される。天然セルロースは生合成された時点ではナノファイバーであるが、これらは水素結合により多数収束して、繊維の束を形成する。N−オキシル化合物を用いてセルロース繊維を酸化すると、ピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、かつこの酸化反応はミクロフィブリルの表面にとどまるので、ミクロフィブリルの表面のみに高濃度にカルボキシル基が導入される。カルボキシル基は負の電荷を帯びているので互いに反発しあい、水中に分散させると、ミクロフィブリル同士の凝集が妨げられ、この結果、繊維の束はミクロフィブリル単位で解れて、セルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーとなる。
【0029】
前記セルロースのC6位に導入されたカルボキシル基は、アルカリ金属等と塩を形成することもある。カルボキシル基およびその塩(以下これらをまとめて「カルボキシル基等」という)の量は、セルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.10mmol/g以上が好ましい。カルボキシル基等は極性基であるので、この量が多いと膜や積層体としたときにセルロースナノファイバー同士がより強固に密着しやすく酸素バリア性が向上する。さらに、セルロースナノファイバー同士が強固に密着して平滑な膜となるので、シートとしたときの光沢性も向上する。よって、この量の下限は1.20mmol/g以上がより好ましく、1.40mmol/g以上がさらに好ましい。しかしながら、カルボキシル基量を多く得る条件では、酸化反応時に副反応としてセルロースの切断が起こりやすくなり、収率が低下するため不経済となる。このため、カルボキシル基等の量の上限は、3.00mmol/g以下が好ましく、2.00mmol/g以下がより好ましい。
【0030】
カルボキシル基等の量は、酸化パルプの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕=a〔ml〕×0.05/酸化パルプ質量〔g〕
【0031】
酸化方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50〜250g/mであることが好ましく、50〜220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1〜30質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0032】
4−2)カチオン変性
上記のセルロース原料を発底原料にし、上記のセルロース原料にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライトまたはそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を水または炭素数1〜4のアルコールの存在下で反応させることによって、カチオン変性されたセルロースを得ることができる。得られるカチオン変性されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水または炭素数1〜4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、調整することができる。
【0033】
本発明において、カチオン変性されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は0.02〜0.50であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。次の解繊を効率よく行なうために、上記で得た酸化されたセルロース系原料は洗浄されることが好ましい。
【0034】
1−2.工程(2)
本工程では原料パルプを解繊してセルロースナノファイバーを得る。解繊は、例えば、高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなどの混合または撹拌、乳化または分散装置を必要に応じて単独もしくは2種類以上組合せて行うことができる。この際、繊維がほぐれると同時にパルプの大きさ(繊維径)が小さくなる。特に、100MPa以上、好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の圧力を可能とする超高圧ホモジナイザーを用いると、セルロースナノファイバーの解繊と分散が効率よく進行し、水分散液としたときに低い粘度を有するセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるので好ましい。
【0035】
前述の化学変性を行った原料パルプは容易に解繊されるので、本発明においてはさらにセルロース鎖を切断(セルロース鎖を短繊維化)する処理(「低粘度化処理」ともいう)は実施しないことが好ましい。しかしながら、着色などが起こらない程度に軽度な低粘度化処理を前記原料パルプに施してもよい。このような低粘度化処理としては、例えば、パルプに紫外線を照射する処理、過酸化水素およびオゾンで酸化分解する処理、酸で加水分解する処理、アルカリで加水分解する処理、セルラーゼなどの酵素による処理、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0036】
例えば、アルカリで加水分解する処理は、酸化パルプの分散液(水分散液が好ましい)を用意し、分散液のpHを8〜14、好ましくは9〜13、さらに好ましくは10〜12に調整して、温度20〜120℃、好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜90℃で、0.5〜24時間、好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは2〜6時間、反応させることにより行うことができる。分散液のpHの調整には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性の水溶液を用いることができる。また、酸化剤または還元剤を助剤として添加することが好ましい。酸化剤または還元剤としては、pH8〜14のアルカリ性領域で活性を有するものを使用することができる。酸化剤の例としては、酸素、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩などを挙げることができ、このうち、ラジカルを発生しにくい酸素、過酸化水素、次亜塩素酸塩などが好ましく、また、過酸化水素が最も好ましい。また、還元剤の例としては、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜硫酸塩などを挙げることができる。
【0037】
2.セルロースナノファイバー
本発明のセルロースナノファイバーは分散液として使用できる。分散液とは、分散媒に本発明のセルロースナノファイバーが分散した液である。分散媒とは媒質であり、取扱い性等の観点から水が好ましい。分散液は、セルロースナノファイバーを工業的に利用する観点から有用である。
【0038】
本発明のセルロースナノファイバーを用いたセルロースナノファイバー分散液のB型粘度は、1%(w/v)の濃度において、2000mPa・s以下である。粘度は、B型粘度計により、20℃、60rpm、ロータNo.4により測定される。B型粘度の下限は特に設定されないが、実際のところ、1%(w/v)の濃度において10mPa・s程度が下限となるであろう。
【0039】
本発明のセルロースナノファイバーを用いて調製したセルロースナノファイバーの水分散液は、セルロースナノファイバーが水中に均一に分散しており、目視にて透明な液である。セルロースナノファイバー分散液の透明度は、波長660nmの光の透過率を分光光度計で測定することにより求めることができる。本発明のセルロースナノファイバーを用いたセルロースナノファイバー水分散液の濃度0.1%(w/v)における光透過率(波長660nm)は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
【0040】
分散液は任意の方法により調製することができる。例えば、酸化パルプを調製した後、水等の分散媒を添加して超高圧ホモジナイザー等を用いて解繊しながら分散させることにより、分散液を調製することができる。
【0041】
従来の方法で得たセルロースナノファイバーの分散液(1%(w/v))のB型粘度(60rpm、20℃)は2000〜10000mPa・s程度であるのに対し、本発明の方法で製造されたセルロースナノファイバーの分散液(1%(w/v))の粘度は2000mPa・s以下と低い。このためセルロースナノファイバーの分散液を高濃度化することが可能となる。例えば、本発明で得たセルロースナノファイバー分散液の濃度は1.1〜10%(w/v)が好ましく、2〜8%(w/v)がより好ましい。また、本発明のセルロースナノファイバーは加熱乾燥時の着色度合いが小さいという特徴を有する。このため、例えば、基材上に塗布してフィルムを形成させる場合に、透明でなめらかで均質な表面を有するフィルムが形成できるなどの利点がある。
【0042】
特定の原料パルプを用いることでこのような性能を有するセルロースナノファイバーが製造できる理由は限定されないが次のように考えられる。
例えば、パルプに対して従来のようなアルカリ処理を行うと、一部の繊維を過度に切断してしまい極端に短繊維化された着色物質が生成する。この物質がセルロースナノファイバーとしたときの加熱時の着色を引き起こす。さらに繊維長分布が広くなり極端に短い繊維から長い繊維までが存在するので、セルロースナノファイバー分散液としたときに高粘度化を引き起こす。また、木粉を原料とすると繊維が機械的に過度に破壊されているため着色物質が多く、セルロースナノファイバーとしたときの加熱時の着色の程度が大きい。これに対して、本発明で使用する前記木材からは、木粉にすることや従来のようなアルカリ処理等をすることなく、比較的狭い繊維長分布かつ一定量以下の長繊維成分を有する原料パルプを調製できるので、低粘度であって加熱時の着色の程度が低い分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<B型粘度>
TV−10型粘度計(東機産業社)を用いてB型粘度(60rpm、20℃)を測定した。
【0044】
<パルプ粘度>
パルプ粘度の測定は、J.TAPPI 44に準じて行った。
【0045】
<セルロースナノファイバーの数平均繊維長>
マイカ切片上に固定したセルロースナノファイバーの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、繊維長を測定し、数平均繊維長を算出した。繊維長測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事)を用い、長さ100nm〜2000nmの範囲で行った。
【0046】
<セルロースナノファイバーの数平均繊維径>
セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈したセルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測し、数平均繊維径を算出した。
【0047】
<パルプの数平均繊維長および繊維長分布>
ISO 16065−2に従って測定した。
【0048】
<木材>
以下の木材を準備した。各木材を特定パルプ化条件にてパルプ化したときのISO 16065−2に従って測定した1.00mm以上の繊維長成分の割合(長繊維割合)は以下のとおりであった。
特定パルプ化条件:
木材チップを用いて活性アルカリ添加量15%、硫化度25%、液比2.5L/kg、Hファクター830(最高温度は160℃で、最高温度到達後に90分保持)で実施するクラフトパルプ製造条件
木材A:樹齢2年のユーカリカマルドレンシス、長繊維割合8.8%
木材B:樹齢3年のユーカリカマルドレンシス、長繊維割合17.6%
木材C:樹齢3年のアカシア、長繊維割合10.1%
木材D:樹齢8年の広葉樹混合材、長繊維割合28.6%
木材E:樹齢8年のユーカリグロビュラス、長繊維割合36.2%
【0049】
[実施例1]
<工程(1):原料パルプの準備>
木材A(樹齢2年のユーカリカマルドレンシス)を用いた。木材Aのチップを原料として前記特定パルプ化条件と同一の条件でパルプ化して得た漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)(日本製紙製)を準備した。図1にこのパルプの繊維長分布を示す。長繊維割合は8.8%であった。
【0050】
当該パルプ5g(絶乾)、およびTEMPO(東京化成)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム(和光純薬)756mg(7.35mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。ここに次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬、水溶液)2.3mmolを水溶液の形態で加え、次いで、次亜塩素酸ナトリウムをパルプ1g当たり0.23mmol/分の添加速度となるように送液ポンプを用いて徐々に添加し、パルプの酸化を行った。次亜塩素酸ナトリウムの全添加量が22.5mmolとなるまで添加を継続した。反応中は系内のpHが低下するので3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。pHの低下が止まり、水酸化ナトリウム水溶液の添加が終了した時点を反応終点とし、水酸化ナトリウム水溶液の添加開始から(すなわち、酸化反応が開始されてpHの低下が見られた時点から)、添加終了まで(すなわち、酸化反応が終了してpHの低下が見られなくなった時点まで)の時間を反応時間とした。反応後のパルプ水分散液をガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。
【0051】
<工程(2):酸化パルプの解繊>
濃度1%(w/v)の酸化パルプのスラリー500mLを超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で5回処理したところ、数平均繊維長290μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度99.4%、B型粘度940mPa・sの透明かつ低粘度なセルロースナノファイバー分散液が得られた。
【0052】
<加熱処理後の着色評価>
上記で調製したセルロースナノファイバー水分散液(固形分1%(W/V))を105℃で一昼夜、水分が無い状態になるまで乾燥させて、厚さ20μmのフィルムを得た。その時のフィルムサンプルの着色の状態を目視で評価した。僅かに着色があるものを良、着色があるものを可、着色の程度が大きいものを不良とした。
【0053】
[実施例2]
木材B(樹齢3年のユーカリカマルドレンシス)を用いた。当該木材のチップを前記特定パルプ化条件と同一の条件でパルプ化して得たパルプ(長繊維割合が17.6%、パルプ粘度8.8mPa・s、日本製紙製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長350μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度99.1%、B型粘度1250mPa・sの透明かつ低粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0054】
[実施例3]
木材C(樹齢3年のアカシア)を用いた。当該木材のチップを前記特定パルプ化条件と同一の条件でパルプ化して得たパルプ(長繊維割合が10.1%、パルプ粘度5.0mPa・s、日本製紙製)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長400μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度98.7%、B型粘度1300mPa・sの透明かつ低粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0055】
[比較例1]
木材D(樹齢8年の広葉樹混合材)を用いた。当該木材のチップを前記特定パルプ化条件と同一の条件でパルプ化して得たパルプ(長繊維割合が28.6%、パルプ粘度14.5mPa・s、日本製紙製)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長560μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度78.2%、B型粘度8000mPa・sの透明度が低く、高粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0056】
[比較例2]
比較例1で用いた酸化されたパルプの5%(w/v)水分散液を調製し、当該分散液に、酸化されたセルロース系原料に対して1%(w/v)の過酸化水素を添加し、1M水酸化ナトリウムでpHを12に調整した。この水分散液を80℃で2時間加熱して酸化されたセルロース系原料を加水分解して解繊前処理を行った。当該解繊前処理を行ったパルプ(長繊維割合が18.7%、パルプ粘度18.0mPa・s)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長280μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度98.8%、B型粘度330mPa・sの透明度が高く、低粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0057】
[比較例3]
木材D(樹齢8年の広葉樹混合材)を用いた。当該木材のチップを用いて、前加水分解処理を行った後にパルプ化を行って得たDKP(長繊維割合が22.3%、パルプ粘度4.0mPa・s)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長190μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度98.3%、B型粘度130mPa・sの透明度が高く、低粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱処乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0058】
[比較例4]
木材E(樹齢8年の、ユーカリグロビュラス)を用いた。当該木材のチップを前記特定パルプ化条件と同一の条件でパルプ化して得たパルプ(長繊維割合が36.2%、パルプ粘度21.3mPa・s、日本製紙製)を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。その結果、数平均繊維長650μmのセルロースナノファイバーが分散した、透明度88.2%、B型粘度10200mPa・sの透明度が低く、高粘度のセルロースナノファイバー分散液が得られた。このサンプルを加熱処乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価した。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1〜3のセルロースナノファイバーは、比較例1〜4のセルロースナノファイバーに比べて、分散液の状態では高透明かつ低粘度であり、加熱乾燥してフィルムを作製し、着色の状態を評価したところ、着色の程度が小さかった。このように高透明かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーは、工業的利用において有利である。例えば、基材上に塗布してフィルムを形成させる場合に、透明度が高く、なめらかで均質な表面を有するフィルムが形成できるなどの利点がある。さらに加熱による乾燥後に着色が小さいことにより用途範囲を拡大できる。
以下に本発明の一態様を示す。
態様1
活性アルカリ添加量15%、硫化度25%、液比2.5L/kg、H―ファクター830のクラフトパルプ製造条件においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した1.00mm以上の繊維長成分の割合が20%以下である繊維長分布を有するパルプが得られる木材を選定する工程、
当該木材由来のパルプを準備する工程(1)、および
当該パルプを解繊する工程(2)を含む、
数平均繊維長が500μm以下かつ数平均繊維径が100nm以下のセルロースナノファイバーの製造方法。
態様2
前記選定工程において、前記パルプ製造条件においてパルプ化した際に、1.00mm以上の繊維長成分の割合が20%以下であり、かつ0.20mm以下の繊維長成分の割合が20%以下である繊維長分布を有するパルプが得られる木材を選定する、態様1に記載の製造方法。
態様3
前記選定工程において、前記条件においてパルプ化した際に、ISO 16065−2に従って測定した数平均繊維長が0.65mm以下であるパルプが得られる木材を選定する、態様1または2に記載の製造方法。
態様4
前記工程(1)で得た原料パルプをアニオン変性する工程を含む、態様1〜3のいずれかに記載の製造方法。
図1