特許第6784734号(P6784734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784734
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】自動運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20201102BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G08G1/09 P
   G08G1/01 E
   G08G1/09 V
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-162517(P2018-162517)
(22)【出願日】2018年8月31日
(65)【公開番号】特開2020-35267(P2020-35267A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】 秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−224929(JP,A)
【文献】 特開2006−053109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/09
G08G 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、
前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段と
を備える自動運転支援装置において、
前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、
前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、
前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段と
を更に備え、
前記渋滞列推定到達距離は、前記交通情報取得手段による前記道路交通情報の取得時間と該道路交通情報を検出した時間との間のずれ時間による前記自車両と前記渋滞列の最後尾までの距離の変化を、前記渋滞列の移動速度と該渋滞列の最後尾に加わる車両台数と前記自車両と前記渋滞列の最後尾との間の道路全体に存在する車両の密度とに基づいて求めた渋滞補正距離によって補正する
ことを特徴とする自動運転支援装置。
【請求項2】
自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、
前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段と
を備える自動運転支援装置において、
前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、
前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列の最後尾から予め設定した車線変更可能距離と前記車線規制区間の開始位置を基準とする車線変更許可距離とを比較し、前記車線変更可能距離が前記車線変更許可距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、
前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段と
を更に備えることを特徴とする自動運転支援装置。
【請求項3】
自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、
前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段と
を備える自動運転支援装置において、
前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、
前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、
前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段と
を更に備え、
前記車線変更制御実行手段は、車線変更を行うに際し、車線変更しようとする前記追越車線側に併走する車両を検出した場合、現在の走行車線の走向を維持させる
ことを特徴とする自動運転支援装置。
【請求項4】
前記車線変更可能距離は、前記車線規制到達距離から前記渋滞列推定到達距離を減算し、且つ必要とする車間距離を加算して求める
ことを特徴とする請求項記載の自動運転支援装置。
【請求項5】
前記車線変更開始判定手段は、前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも短いと判定した場合、前記車線規制到達距離と前記車線変更許可距離に車線変更に要する車線変更距離を加算した値と比較し、
前記車線変更制御実行手段は、前記車線変更開始判定手段で、前記車線規制到達距離が前記車線変更許可距離と前記車線変更距離とを加算した値よりも短いと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させることを特徴とする請求項或いは4に記載の自動運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路交通情報から自車両を自動走行させるために設定した目標進行路に対する車線規制情報を取得した場合、最適なタイミングで車線変更させるようにした自動運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両が自動運転で走行している場合、自車両の走行車線の前方に、道路工事や事故等により車線規制区間が設定され、追越車線のみが通行帯として設定されている場合、この車線規制区間を回避する走行制御が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014−67165号公報)には、工事区間の情報を車車間通信や路車間通信により走行車両に送信することで、走行車両は、自己の走行経路上に工事区間が存在するか否かを調べ、工事区間が存在している場合、工事区間は自己の走行車線と同一か否かを調べる。そして、工事区間が同一車線上にある場合は、走行軌跡を修正し、工事区間に近づくのを待って、修正した走行軌跡で工事区間を通過させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−67165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した文献に開示されている技術は、道路が比較的空いており、車線規制区間が設定されていても、車両が渋滞することなく通過できる状況であれば適用することができる。
【0006】
しかし、交通量の比較的多い道路において、例えば追越車線のみが通行区間として設定されている場合、この追越車線に車両が集中するため渋滞が発生する。このような状況で、上述した文献に開示されている技術によって車線変更することは、渋滞車列に自車両を割込ませることとなり、これを自動運転によって行うには、かなり難易度の高い制御が必要となる。
【0007】
従って、このような場合、自車両を自動ブレーキ制御により車線規制区間(工事区間、事故処理区画)の手前で減速或いは停車させた後、自動運転を一時キャンセルし、運転操作を運転者に引き継がせることになる。その際、運転者に対して、減速、或いは停止する旨を音声やモニタの表示によって報知したとしても、スムーズな進路変更が行われないため、運転者に違和感を覚えさせてしまう可能性がある。
【0008】
又、自動運転をキャンセルすることなく継続させようとするには、禁止通行区間による車線規制情報と渋滞情報とを早期に取得し、渋滞が発生している区間の最後尾よりも手前で余裕を持って車線変更し、その後、渋滞最後尾の車両に対して追従走行を行うようにすれば良い。
【0009】
しかし、渋滞が発生している区間の手前の比較的空いている道路において、早めに車線変更し、追越車線を継続して走行することは、道路交通法上のいわゆる「通行帯違反」となる可能性があるばかりでなく、追越車線を走行している後続車の走行を阻害することにもなる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、自車両の走行車線前方に車線規制区間が設定されており、この車線規制により追越車線に渋滞が発生していたとしても、渋滞発生手前の最適な位置で自車両を車線変更させることができて、運転者に違和感を覚えさせることのない自動運転を行うことのできる自動運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1は、自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段とを備える自動運転支援装置において、前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段とを更に備え、前記渋滞列推定到達距離は、前記交通情報取得手段による前記道路交通情報の取得時間と該道路交通情報を検出した時間との間のずれ時間による前記自車両と前記渋滞列の最後尾までの距離の変化を、前記渋滞列の移動速度と該渋滞列の最後尾に加わる車両台数と前記自車両と前記渋滞列の最後尾との間の道路全体に存在する車両の密度とに基づいて求めた渋滞補正距離によって補正する。
本発明の第2は、自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段とを備える自動運転支援装置において、前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列の最後尾から予め設定した車線変更可能距離と前記車線規制区間の開始位置を基準とする車線変更許可距離とを比較し、前記車線変更可能距離が前記車線変更許可距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段とを更に備える
本発明の第3は、自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両を自動走行させるために設定した目標進行路の道路交通情報を中央管理装置から取得する交通情報取得手段と、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づき前記目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べ、該車線規制区間が設定されている場合、該車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて判定する渋滞判定手段とを備える自動運転支援装置において、前記渋滞判定手段で前記車線規制区間に隣接する前記追越車線が渋滞していると判定した場合、前記自車両から前記車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を、前記交通情報取得手段で取得した前記道路交通情報に基づいて求め、該車線規制到達距離と該渋滞列推定到達距離とを比較する到達距離比較手段と、前記到達距離比較手段で、前記車線規制到達距離が前記渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、前記渋滞列推定到達距離が前記渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定する車線変更開始判定手段と、前記車線変更開始判定手段で前記渋滞列推定到達距離が前記車線変更開始距離に達したと判定した場合、前記自車両の車線変更を実行させる車線変更制御実行手段とを更に備え、前記車線変更制御実行手段は、車線変更を行うに際し、車線変更しようとする前記追越車線側に併走する車両を検出した場合、現在の走行車線の走向を維持させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞していると判定した場合、交通情報取得手段で取得した道路交通情報に基づいて自車両から車線規制区間の開始位置までの車線規制到達距離及び渋滞列の最後尾までの渋滞列推定到達距離を求め、車線規制到達距離が渋滞列推定到達距離よりも長いと判定した場合、渋滞列推定到達距離が渋滞列の最後尾までの予め設定された車線変更開始距離に達したかを判定し、この渋滞列推定到達距離が車線変更開始距離に達したと判定した場合、自車両の車線変更を実行させるようにしたので、車線規制により追越車線に渋滞が発生していたとしても、渋滞発生手前の最適な位置で自車両を車線変更させることができる。その結果、運転者に違和感を覚えさせることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は地図情報提供システムの概略構成図、(b)はダイナミックマップの概念を示す説明図
図2】自動運転支援装置の概略構成図
図3】車線変更開始判定処理ルーチンを示すフローチャート(その1)
図4】車線変更開始判定処理ルーチンを示すフローチャート(その2)
図5】(a)は車線規制区間に隣接する追越車線が渋滞している状態を示す俯瞰図、(b)は(a)の状態から所定時間経過後の渋滞の状態を示す俯瞰図
図6】追越車線に渋滞が発生していない状態での車線変更を示し、(a)は自車進行路に設定された車線変更位置で車線変更を行う状態を示す俯瞰図、(b)は(a)の車線変更位置において追越車線を隣接車が並走している状態を示す俯瞰図、(c)は(b)の状態のまま自車両が割込開始位置に達した状態を示す俯瞰図、(d)は(c)の状態のまま自車両が停止位置に達した状態を示す俯瞰図
図7】追越車線に渋滞が発生している状態での車線変更を示し、(a)は追越車線の渋滞最後尾が車線規制区間開始位置よりも先にある状態での車線変更を示す俯瞰図、(b)は追越車線の渋滞最後尾が車線規制区間開始位置よりも手前にある状態での車線変更を示す俯瞰図、(c)は(b)の状態よりも渋滞が手前に延びた状態での車線変更を示す俯瞰図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1(a)に示す地図情報提供システムは、中央管理装置としてのクラウドサーバ1と各交通情報センタ2と基地局4とを有し、これらがインターネット5を介して接続されて構成されている。クラウドサーバ1は地図データベース1aを有し、この地図データベース1aにグローバルダイナミックマップ(グローバルDM)6が格納されている。クラウドサーバ1は、地図データベース1aに格納されているグローバルダイナミックマップ6の情報(地図情報)を、基地局4から各車両(図においては、自車両Mを代表として示す)に配信する。
【0015】
各交通情報センタ2は、民間、及び公共期間の管轄におかれ、時々刻々と変化する交通情報、及び環境情報を収集し、クラウドサーバ1に交通情報として送信する。例えば、民間の交通情報センタでは、契約している各車両から受信したプローブ交通情報(車速から生成される渋滞及び混雑情報、ワイパー使用頻度から天候情報等)を収集し、クラウドサーバ1に送信する。又、例えば、公共機関の交通情報センタは、道路に予め設置されている各種センサ、及び都道府県警察、道路交通管理者等から得られたた交通情報を収集してクラウドサーバ1に送信する。
【0016】
クラウドサーバ1は各交通情報センタ2から時系列に受信した交通情報をリアルタイムに処理し、グローバルダイナミックマップ6に記憶されている道路交通情報を逐次更新して統合管理する。図1(b)に示すように、このグローバルダイナミックマップ6は、具体的には4階層の構造をなしており、最下層の静的情報階層6aを基盤として、その上に、自動走行をサポートするために必要な付加的地図情報が重畳されている。
【0017】
静的情報階層6aは、高精度3次元地図情報であり、路面情報、車線情報、交差点情報、3次元構造物、及び恒久的な規制情報等、変化の最も少ない静的な情報が格納された最下層の基盤情報層である。又、この静的情報階層6aに重畳される付加的地図情報は、3階層に区分されており、下位階層から順に、準静的情報階層6b、準動的情報階層6c、動的情報階層6dを有している。
【0018】
この各階層6a〜6dは時間軸での変化(変動)度合いに応じて区分され、各階層6a〜6dの情報は予め定めた期間(時間)毎に逐次更新される。すなわち、静的情報階層6aは変化が少ないため、1ヶ月以内の周期で更新される。又、準静的情報階層6bには、変化する事象の状態が事前に計画もしくは予測される情報であり、静的情報階層6aよりは情報の変化が多いが動的情報層の中では最も変化が少ない情報が格納される。例えば、工事による車線規制の予定や季節・イベント規制予定や渋滞予測や広域気象予報等である。この準静的情報は動的変化が少ないため、1時間以内の周期で更新される。
【0019】
準動的情報階層6cには、準静的情報階層6bよりも動的変化の多い、予定若しくは予測されていない突発的事象による情報が格納される。例えば、事故情報や渋滞情報、ゲリラ豪雨のような狭域気象情報である。この準動的情報は動的変化が多いため1分以内の周期で更新される。
【0020】
動的情報階層6dには、最も変化が多く、リアルタイムに更新する必要がある情報が格納され、車車間通信、路車間通信、歩車間通信により情報がリアルタイムに取得される。例えば、信号現示(点灯色)情報、踏切遮断機情報、交差点直進車情報、交差点内歩行者・自転車情報等である。この動的情報はリアルタイムに取得する必要があるため、1秒以内の周期で更新される。尚、グローバルダイナミックマップ6の各情報階層6a〜6dに格納される情報の属性は例示であり、これに限定されるものではない。
【0021】
上述したクラウドサーバ1の地図データベース1aに格納されているグローバルダイナミックマップ6の情報は各基地局4から各車両に配信される。自車両Mには自動運転を行うための自動運転支援装置10が搭載されている。この自動運転支援装置10は、ロケータユニット11と、走行環境情報取得手段としてのカメラユニット21と車両制御ユニット23とを備えている。
【0022】
図2に示すように、ロケータユニット11は、地図ロケータ演算部12と、HDD等の大容量記憶媒体からなる地図データベース17とを有している。この地図ロケータ演算部12、後述する前方走行環境認識部21d、車両制御ユニット23は、CPU,RAM,ROM等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラム等の固定データ等が予め記憶されている。又、地図データベース17にはローカルダイナミックマップ(ローカルDM)17aが格納されている。このローカルダイナミックマップ17aは、自車両Mを自動走行させるに際し必要とする一部地域のダイナミックマップであり、上述した図1(b)に示すグローバルダイナミックマップ6と同様の階層構造を有している。
【0023】
又、地図ロケータ演算部12の入力側に、GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)受信機13、DM(ダイナミックマップ)送受信機14、自律走行センサ15、目的地情報入力装置16、及び後述するカメラユニット21の前方走行環境認識部21dが接続されている。
【0024】
GNSS受信機13は複数の測位衛星から発信される測位信号を受信する。DM送受信機14は、クラウドサーバ1のグローバルダイナミックマップ6に格納されている地図情報の送信を要求し、クラウドサーバ1から送信された地図情報を受信する。
【0025】
又、自律走行センサ15は、トンネル内走行等、GNSS衛星からの受信感度が低く測位信号を有効に受信することのできない環境において、自律走行を可能にするもので、車速センサ、ジャイロセンサ、及び前後加速度センサ等で構成されている。そして、地図ロケータ演算部12は、車速センサで検出した車速とジャイロセンサで検出した角速度、及び前後加速度センサで検出した前後加速度等に基づき移動距離と方位からローカライゼーションを行う。又、目的地情報入力装置16は、操作者である運転者に対して目的地情報(住所、電話番号、施設名等)をモニタ操作や音声等によって入力させる外部入力手段である。尚、地図ロケータ演算部12は目的地情報が入力されると、現在の自車位置から目的地までの走行経路を設定する。
【0026】
地図ロケータ演算部12は、ローカルダイナミックマップ設定・更新部12a、自車位置推定演算部12b、走行経路/目標進行路設定演算部12c、及び道路地図情報取得部12dを備えている。
【0027】
ローカルダイナミックマップ設定・更新部12aは、クラウドサーバ1の地図データベース1aに格納されているグローバルダイナミックマップ6の静的情報階層6aを、所定周期(例えば、1ヶ月以内の周期)でダウンロードし、この静的情報階層6aで地図データベース17のローカルダイナミックマップ17aの静的情報階層を更新する。自動運転を行う際の自車位置から目的地までの走行経路は、基盤となる最下層の静的情報階層に基づいて設定される。従って、この静的情報階層は、静的情報階層6aで全て更新される。一方、準静的情報階層6b、準動的情報階層6c、動的情報階層6dの各動的情報は、後述する目標進行路に沿った情報のみで良いため、自車位置周辺及び目標進行路周辺に限定された一部地域の動的情報のみがダウンロードされる。
【0028】
自車位置推定演算部12bは、GNSS受信機13で受信した測位信号に基づき自車両Mの位置情報である位置座標(緯度、経度)を取得する。又、GNSS受信機13の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境では、自律走行センサ15からの信号に基づいて自車両Mの位置座標を推定する。
【0029】
走行経路/目標進行路設定演算部12cは、自車位置推定演算部12bで推定した自車両Mの位置座標(緯度、経度)と目的地情報入力装置16で入力した目的地情報とに基づき、ローカルダイナミックマップ17aの静的情報階層とマップマッチングし、自車位置と目的地とを特定する。次いで、自車位置と目的地を結ぶ走行経路を静的情報階層に基づいて作成する。その後、この走行経路上に自車両Mを走行車線に沿って自動走行させるための目標進行路を、自車位置を起点として数キロ〜数十キロ先までの予め設定された距離まで設定する。
【0030】
そして、ローカルダイナミックマップ設定・更新部12aに対し、自車位置周辺と目標進行路周辺との地図情報を要求する。すると、ローカルダイナミックマップ設定・更新部12aは、クラウドサーバ1にアクセスして、グローバルダイナミックマップ6の動的情報(準静的情報階層6b、準動的情報階層6c、動的情報階層6d)から対応する特定地域の地図情報をダウンロードし、ローカルダイナミックマップ17aの各情報階層を逐次更新する。
【0031】
道路地図情報取得部12dは、ローカルダイナミックマップ17aに格納されている自車位置周辺と目標進行路周辺との静的情報階層に準静的情報階層6b、準動的情報階層6c、動的情報階層6dを組み合わせて、自車位置周辺と目標進行路周辺とのダイナミックマップを構築する。
【0032】
一方、カメラユニット21は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21c、及び前方走行環境認識部21dとを有している。そして、両カメラ21a,21bで取得した自車両Mの前方の走行環境情報を、IPU21cで所定に画像処理する。
【0033】
前方走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された走行環境画像情報を読込み、この走行環境画像情報に基づき前方走行環境を認識する。この前方走行環境には、自車両Mが走行する進行路(自車進行路)の道路形状(左右を区画する区画線の中央の道路曲率、及び左右区画線間の幅(車線幅))、交差点、信号現示(点灯色)、道路標識、及び路側障害物(電柱、電信柱、ガードレール、塀、駐車車両等)が含まれている。
【0034】
この前方走行環境認識部21dで認識した前方走行環境は、ローカルダイナミックマップ設定・更新部12aで読込まれ、地図データベース17のローカルダイナミックマップ17aに格納されている動的情報(準静的情報階層、準動的情報階層、動的情報階層)の地図情報をリアルタイムに更新する。従って、道路地図情報取得部12dで読込まれる自車位置周辺と目標進行路周辺とのダイナミックマップには、カメラユニット21の前方走行環境認識部21dで取得した情報(車線規制が既に解除されている、車線規制に伴う渋滞が解消している、或いは渋滞最後尾が自車両M側に延びている等)によっても逐次更新されるため、常に最新の道路地図情報が取得される。
【0035】
又、車両制御ユニット23は、交通情報取得手段としての道路交通情報取得部23aと車両制御演算部23bとを備えており、入力側にカメラユニット21の前方走行環境認識部21dが接続されている。一方、この車両制御ユニット23の出力側に、自車両Mを走行車線に沿って設定した目標進行路に沿って走行させる操舵制御部31、強制ブレーキにより自車両Mを減速させるブレーキ制御部32、自車両Mの車速を制御する加減速制御部33、及び警報装置34が接続されている。更に、この車両制御ユニット23と地図ロケータ演算部12とが車内通信回線(例えばCAN:Controller Area Network)を通じて双方向通信自在に接続されている。
【0036】
道路交通情報取得部23aは、道路地図情報取得部12dで構築した目標進行路上のダイナミックマップ(ローカルダイナミックマップ)から道路交通情報(自車両M周辺の通行車両、前方交差点、信号現示(点灯色)、道路標識、路側障害物等、及び、工事、事故等による車線規制区間の位置情報、それに伴う渋滞情報等)を取得する。
【0037】
車両制御演算部23bは、操舵制御部31、ブレーキ制御部32、加減速制御部33を所定に制御して、自車両を目標進行路に沿って自動走行させる。その際、道路地図情報取得部12dで目標進行路上に構築したローカルダイナミックマップ、及び、前方走行環境認識部21dで認識した前方走行環境に基づき、周知の追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)、及び車線維持制御(ALK:Active Lane Keep)を行い、先行車が検出された場合は先行車に追従し、先行車が検出されない場合はセット車速(但し、上限は制限速度)で走行させる。
【0038】
又、この車両制御演算部23bは、道路交通情報取得部23aで取得した自車位置周辺と目標進行路周辺との道路交通情報に基づき、自車両Mを走行車線に沿って自動走行させる目標進行路に通行規制が設定されており、それに伴い通行帯に渋滞が発生している場合に、自車両Mの車線変更を行うタイミングを演算する。すなわち、道路交通法によれば、左側通行において、最も右側の通行帯は追越車線として特定されており、通常は追越車線以外の通行帯を走行するように規定されている。従って、車線規制を検知し、早めに車線変更して追越車線を走行し続けることは「通行帯違反」となる可能性がある。そのため、自動運転においては、車線規制による渋滞が発生している場合、追越車線側への車線変更を、道路交通法に準じ最適なタイミングで行うように制御する必要がある。
【0039】
車両制御演算部23bでの車線変更開始のタイミングの設定は、具体的には、図3に示す車線変更開始判定処理ルーチンに従って行われる。尚、以下においては、左側通行が規定されている道路を例示して説明する。従って、右側通行が規定されている道路では、右側を左側と、右側を左側と読み替えて適用する。
【0040】
このルーチンでは、先ず、ステップS1において道路交通情報取得部23aで取得した自車位置周辺と目標進行路周辺との道路交通情報を読込む。次いで、ステップS2へ進み、この道路交通情報に基づき自車両M前方の目標進行路に車線規制区間が設定されているか否かを調べる。そして、車線規制区間が設定されている場合はステップS3へ進む。又、車線規制区間が設定されていない場合はルーチンを抜け、目標進行路に沿った自動運転を継続させる。
【0041】
ステップS3へ進むと、自車両Mが走行している目標進行路に隣接する通行帯が追越車線か否かを、上述した道路交通情報に基づいて調べる。例えば、通行帯が三車線以上の場合であっても、追越車線は最も右側の1車線のみであり、自車両が最も左側の車線を走行しており、その車線が通行規制されている場合、車線規制区間のかなり手前で隣接する通行帯に車線変更しても道路交通法に抵触することはない。従って、隣接する通行帯が追越車線でない場合は、ステップS11へジャンプして車線変更を早期に開始させる運転制御を行う。
【0042】
一方、隣接する通行帯が追越車線の場合はステップS4へ進む。ステップS4では、上述した道路交通情報に基づき、自車両M前方の目標進行路周辺の情報から、目標進行路に隣接する追越車線が渋滞しているか否かを調べる。尚、ステップS3,S4での処理が、本発明の渋滞判定手段に対応している。
【0043】
そして、渋滞が発生していると判定した場合はステップS5へ進む。又、渋滞していないと判定した場合は、ステップS9へジャンプする。ここで、渋滞とは所定時速(例えば、高速道路の走行では40[Km/h])以下での低速走行、或いはは停止/発進を繰り返す車列が所定距離(例えば、1[Km])以上で、且つ所定時間(例えば、15[min])以上継続した状態をいう。但し、これは例示である。
【0044】
渋滞を検出して早めに車線変更し、追越車線を長時間走行することは、道路交通法上のいわゆる「通行帯違反」となる可能性があるばかりでなく、追越車線を走行している後続車の走行を阻害させることにもなる。従って、ステップS5〜S9において、渋滞を検出した際における追越車線への車線変更のタイミングを設定する。
【0045】
この場合、例えば、図5(a)に示すように、道路交通情報と自車位置とに基づいて渋滞車列の最後尾車両P1までの到達距離(渋滞到達距離)Laを算出することができる。しかし、クラウドサーバ1に記憶した渋滞情報の検出時間と自車両Mが受信(取得)した時点での交通情報とには必ずずれ時間がある。
【0046】
そのため、この渋滞到達距離Laに基づいて車線変更のタイミングを設定しても、渋滞車列の最後尾車両P1に数台の後続車(図においてはP2〜P6)が接近している場合、車線変更することができず、低速或いは停車した状態から割込むことになるが、自動運転による割込制御は難易度が高い。更に、自車両M前方を先行車P7が走行している場合、この先行車P7の割込を優先させることになり、自車両Mの割込制御はより難易度が高くなる。
【0047】
従って、図5(b)に示すように、自車両Mの前方を走行する車両を把握して、車線変更のタイミングを求めることになる。その際、渋滞車列が低速走行している状況では、上述した最後尾車両P1は時間の経過と共に所定距離Lbだけ移動する。そのため、渋滞到達距離Laは自車両Mの車速(自車速)と渋滞列の移動速度との差分に応じて変化する。更に、上述した最後尾車両P1と自車両Mとの間に複数(図においてはP2〜P7:但し、P2は省略)の車両がある場合、この車両が渋滞列に加わり、図5(a)の状態から距離(車両増加距離)Lcだけ延びるため、実際の渋滞到達距離Ldは、上述した自車速と渋滞列の移動速度との差分と、新たに加わる車両の車列との関係から求めることになる。
【0048】
先ず、ステップS5では、クラウドサーバ1に記憶されている渋滞情報の検出時間と自車両Mが受信(取得)した時間とのずれ時間による渋滞列の最後尾と自車両Mとの距離を補正する渋滞補正距離L’を算出する。
【0049】
この渋滞補正距離L’は、最後尾であった車両P1の移動距離(=渋滞列の移動距離)Lbに、ずれ時間による車両増加分の距離(車両増加距離)Lcを加算して求める。
L’=Lb+Lc
ここで、移動距離Lbは、
Lb=渋滞列の移動速度×渋滞情報取得後の経過時間 …(1)
から求める。尚、経過時間は、クラウドサーバ1に記憶されている最新情報と演算を開始するまでの間のずれ時間である。
【0050】
ところで、車両増加距離Lcは、車線変更後の自車両Mと渋滞最後尾との間の車両台数が正確に検出されていれば、
車両台数×(車両全長+車間距離) …(2)
から簡単に求めることができる。
【0051】
しかし、例えば、図5(a)の一点鎖線枠で示す車両P3,P4のように未検出の車両群が、車列中に存在することも考えられる。このような場合、(1)式では車両増加距離Lcが実際よりも短い値となり、同図に示すように、自車両Mは車線変更のタイミングを逸してしまう可能性がある。
【0052】
そのため、本実施形態では、車両増加距離Lcを、車線変更後の自車両Mと渋滞最後尾との車列中に、未検出の車両群が存在することを前提として求め、車線変更のタイミングを適正に設定できるようにしている。すなわち、車両増加距離Lcは、
Lc={α+渋滞情報取得後の渋滞列に加わる車両台数}×(車両全長+車間距離) …(3)
から算出する。尚、(3)式では車両全長を一定値としているが、道路交通情報及びカメラユニット21から取得できる場合は個別に適用するようにしても良い。
【0053】
ここで、αは未検出推定台数であり、
α=[ρt/{(車線数−工事車線数)/車線数}]×自車両と渋滞最後尾までの距離 …(4)
から算出する。ここで、ρtは渋滞手前を走行している道路全体の交通密度であり、
ρt=渋滞取得後の自車両と最後尾との間の車両台数/渋滞情報取得後の走行距離 …(5)
から算出する。ここで、走行距離は自車速と渋滞情報取得後の経過時から算出する。
【0054】
尚、車両台数は、自車両Mが渋滞列に近接するに際し、先行車を追い越し、或いは後続車が自車両Mを追い越したりするため演算周期毎に変化する。この場合、車両台数の増減は道路交通情報から取得しても良いが、カメラユニット21で認識した車両からカウントすることも可能である。
例えば、
渋滞列の移動速度=5.5m/s、
渋滞情報取得後の経過時間=60s、
自車両から渋滞最後尾までの距離=3000m、
車両台数=10台、
渋滞情報取得の自車両の走行距離=2000m、
車線数=2、
工事車線数=1、
1台あたりの車両全長=6m、
車間距離=3m(車速により変動)
とした場合、渋滞列の移動距離Lbは、
Lb=−5.5×60=−330m
となる。
【0055】
又、未検出推定台数αは、
α=[(10/2000)/{(2−1)/2}]×3000=30
となり、車両増加距離Lcは、
Lc=(30+10)×(6+3)=360m
となる。
【0056】
従って、渋滞補正距離L’は、
L’=−330+360=30m
となる。
【0057】
次いで、ステップS6へ進み、道路交通情報に基づき、車線規制区間の開始位置から自車位置までの距離(以下、車線規制到達距離)Lと、自車位置から渋滞最後尾までの距離(以下、渋滞到達距離)L2とを求め、この車線規制到達距離Lと渋滞到達距離L2に渋滞補正距離L’を加算した渋滞列推定到達距離(L2+L’)とを比較する。
【0058】
そして、L≦L2+L’の場合、図7(a)に示すように、渋滞最後尾が車線規制区間の開始位置よりも先にあると判定し、ステップS9へジャンプする。一方、L>L2+L’の場合、図7(c)に示すように、渋滞最後尾が車線規制区間の開始位置よりも手前にあると判定し、ステップS7へ進む。
【0059】
ステップS7では、車線規制区間の開始位置から手前に設定されている車線変更許可位置までの距離(車線変更許可距離)L1と車線変更可能距離L7とを比較する。この車線変更許可距離L1は、道路交通法を遵守し、車線規制区間の手前から追越車線側へ車線変更が許可される距離であり、2Km等、予め設定された固定値である。
【0060】
又、車線変更可能距離L7は、自車両Mが車線変更後、渋滞最後尾の車両に対して安全に追従走行できる距離であり、車線規制開始位置を基準に設定される。この車線変更可能距離L7は、
L7=L−(L2+L’)+L3+L4
から求める。ここで、L3は渋滞最後尾の車両に対して安全に停止できるブレーキ制御距離、L4は隣接車線から追越車線へ車線変更するに際し、ブレーキ制御距離L3の手前で車線変更を完了させるために必要な距離(以下、割込距離)である。従って、L3+L4は車線変更後に必要とする車間距離である。尚、この両距離L3,L4は固定値であっても良いが、自車速に基づいて設定する可変値であっても良い。
【0061】
そして、L7≦L1の場合、図7(b)に示すように、車線変更のタイミングに余裕があると判定し、ステップS9へ分岐する。一方、L7>L1の場合、図7(c)に示すように、車線変更許可距離L1よりも手前で車線変更させる必要があると判定し、ステップS8へ進む。尚、このステップS6,S7での処理が、本発明の到達距離比較手段に対応している。
【0062】
ステップS8では、渋滞列推定到達距離(L2+L’)とブレーキ制御距離L3、割込距離L4、車線変更距離L5を加算した車線変更開始距離(L3+L4+L5)とを比較する。この車線変更距離L5は、走行車線から追越車線へ車線変更するに際し必要とする距離であり、車速に基づいて設定される。
【0063】
そして、(L2+L’)≧(L3+L4+L5)の場合、渋滞列推定到達距離(L2+L’)が車線変更開始距離(L3+L4+L5)に達していないため、車線変更する必要がないと判定し、ルーチンを抜ける。そして、(L2+L’)<(L3+L4+L5)の車線変更開始距離に達したとき、車線変更開始タイミングであると判定し、ステップS10へ進む。
【0064】
一方、ステップS4、ステップS6、或いはステップS7からステップS9へ進むと、車線規制到達距離Lと、車線変更許可距離L1に車線変更距離L5を加算した車線変更開始距離とを比較する。車線変更許可距離L1に車線変更距離L5を加算した値は、渋滞していない状態での車線変更を開始する距離である。
【0065】
そして、L≧L1+L5の場合、未だ、車線変更を行う必要がないと判定しルーチンを抜ける。その後、車線規制到達距離Lが車線変更開始距離(L1+L5)に達したとき(L<L1+L5)、車線変更開始タイミングであると判定し、ステップS10へ進む。従って、図6(a)に示すように、追越車線前方に先行車が存在しない場合は、車線変更開始距離(L1+L5)に達したときに車線変更を開始すればよい。尚、ステップS7〜S9での処理が、本発明の車線変更開始判定手段に対応している。
【0066】
ステップS8、或いはステップS9からステップS10へ進むと、車線規制到達距離Lと制動開始距離L6とを比較する。この制動開始距離L6は、自車両Mを車線規制区間の開始位置手前で安全に停止させるためにブレーキ制御を開始させる位置であり、予め設定された固定値である。そして、L≧L6の場合、自車両Mが制動開始距離L6に達していないため、ステップS11へ進む。又、L<L6の場合、ブレーキ制御を開始させるべくステップS13へジャンプする。
【0067】
ステップS11へ進むと、追越車線に並走している車両(並走車)がいるか否かを調べる。並走車がいるか否かはステップS1で読込んだ道路交通情報やカメラユニット21からの情報に基づいて判定する。そして、並走車が検出されている場合は、ステップS10へ戻る。一方、並走車がいない場合は、ステップS12へ進む。
【0068】
例えば、図6(b),(c)に示すように、自車両Mが車線変更を開始するタイミングに到達した際に、車線変更しようとしても追越車線に並走車が走行している場合には、車線変更を行うことができず、走行車線を併走することになる。そして、図6(d)に示すように、車線変更できない状態で制動開始距離L6に達した場合は、ステップS13へ分岐する。この場合、例えば、図6(c)に示すように、自車両Mが車線変更開始位置から所定距離走向しても並走車が併走を継続している場合、自車両Mを減速させて並走車の後方に、ブレーキ制御距離L3と割込距離L4とを確保させて、ステップS12へ進むようにしても良い。
【0069】
ステップS12へ進むと、車線変更制御を実行させてルーチンを抜ける。すると、車両制御演算部23bは、各制御部31〜33へ、自車両Mを追越車線側へ車線変更させるための制御信号を送信し、車線変更を実行させる。尚、このステップS12での処理が、本発明の車線変更制御実行手段に対応している。
【0070】
又、ステップS13へ進むと、停車制御を実行させてルーチンを抜ける。すると、車両制御演算部23bは、ブレーキ制御部32を動作させ、自車両Mを車線規制区間の開始位置手前で停車させる。そして、自車両Mを停車させた後、自動運転を解除し、運転操作を運転者に引き継がせる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、自車両の走行車線前方に車線規制区間が設定されているために自車両Mを追越車線側へ車線変更するに際し、渋滞列の移動速度と渋滞列に後続する車両台数とに加え、検出できない車両を予測して、自車両Mと渋滞列の最後尾との距離を求めるようにしたので、渋滞発生手前の最適な位置で自車両を車線変更させることができる。その結果、運転者に違和感を覚えさせることなく、自動運転により車線変更させることができる。
【0072】
又、追越車線に渋滞が発生していることを検知した場合であっても、早期に車線変更させることなく、最適なタイミングで車線変更させるようにしたので、追越車線を不用意に長時間走行させることがなく、道路交通法に遵守した走行を行わせることができるばかりでなく、追越車線を走行している後続車の走行を阻害させることもない。
【0073】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、上述した図3のステップS3において、隣接する通行帯が追越車線でないと判定した場合、そのままルーチンを抜け、隣接車線への車線変更のタイミングを別途求めるようにしても良い。
【0074】
又、前方走行環境認識部21dで取得した情報は、クラウドサーバ1にプローブ交通情報として送信するようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…クラウドサーバ、
1a…地図データベース、
2…交通情報センタ、
4…基地局、
5…インターネット、
6…グローバルダイナミックマップ、
6a…静的情報階層、
6b…準静的情報階層、
6c…準動的情報階層、
6d…動的情報階層、
10…自動運転支援装置、
11…ロケータユニット、
12…地図ロケータ演算部、
12a…ローカルダイナミックマップ設定・更新部、
12b…自車位置推定演算部、
12c…目標進行路設定演算部、
12d…道路地図情報取得部、
13…GNSS受信機、
14…ダイナミックマップ送受信機、
15…自律走行センサ、
16…目的地情報入力装置、
17…地図データベース、
17a…ローカルダイナミックマップ、
21…カメラユニット、
21a…メインカメラ、
21b…サブカメラ、
21c…画像処理ユニット、
21d…前方走行環境認識部、
23…車両制御ユニット、
23a…道路交通情報取得部、
23b…車両制御演算部、
31…操舵制御部、
32…ブレーキ制御部、
33…加減速制御部、
34…警報装置、
L…車線規制到達距離、
L’…渋滞補正距離、
L1…車線変更許可距離、
L2,La,Ld…渋滞到達距離、
L3…ブレーキ制御距離、
L4…割込距離、
L5…車線変更距離、
L6…制動開始距離、
L7…車線変更可能距離、
Lb…移動距離、
Lc…車両増加距離、
M…自車両、
P1…最後尾車両、
P2〜P6…後続車、
P7…先行車、
α…未検出推定台数、
ρt…交通密度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7