【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、外観と、制振材の使用環境における温度領域での優れた制振性とを両立する方法について検討し、従来の制振塗料は、一般的には、その樹脂のガラス転移温度を使用環境温度付近の温度に調整することで使用環境温度に適した制振性を発揮することから、樹脂のガラス転移温度を例えば−30〜40℃に設定していたところ、このような塗料を例えば垂直面や斜面に塗布して加熱乾燥する場合、該ガラス転移温度を大きく超える温度(例えば、100℃以上)に加熱するため、熱ダレが発生し、塗膜外観が不良になってしまうということに着目した。そこで本発明者らはこの塗料型に特有の課題を解決するために種々の検討をおこない、エマルション粒子が、最外層及び最外層よりも内側にある内層を有し、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度を60℃以上とし、塗料の加熱乾燥温度から大きくは下回らないようにすると、加熱乾燥時の熱ダレの発生が好適に抑制されるというこれまでに知られていない効果が発揮されることを見出した。また、これにより、塗膜のフクレやクラックも充分に抑制することができ、塗膜外観が良好なものとなる。本発明者らは、更なる検討をおこない、エマルション粒子100質量%中の最外層の質量割合を1〜30質量%となるように最外層を薄いものとすると、エマルション粒子が、加熱乾燥時の熱ダレや塗膜のフクレやクラックの発生を抑制して塗膜外観を良好なものとする効果を発揮しつつ、制振材の使用環境温度等の所望の温度で優れた制振性を発揮することができる形態となり、外観と制振性とを好適に両立できることを見出した。
【0008】
また本発明者らは種々の検討をおこない、エマルション粒子が、最外層及び最外層よりも内側にある内層を有し、内層を構成する樹脂のガラス転移温度を制振材の使用環境温度付近の特定の温度とし、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度を、該内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高いものとすることで、制振材の使用環境温度で優れた制振性を発揮できるとともに、熱ダレの発生が抑制されるというこれまでに知られていない効果が発揮されることを見出した。本発明者らは、更に、このような制振材用樹脂組成物がスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含むものとすると、熱ダレ抑制効果に優れるとともに塗膜のフクレやクラックを充分に抑制できるものとなり、外観と制振性とを好適に両立できることを見出した。
以上のようにして本発明者らは上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、複層構造のエマルション粒子を含む制振塗料用樹脂組成物であって、該エマルション粒子は、最外層及び最外層よりも内側にある内層を有し、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、60℃以上であり、該エマルション粒子100質量%中、該最外層の質量割合が1〜30質量%であることを特徴とする制振塗料用樹脂組成物である。以下においては、この制振塗料用樹脂組成物に係る発明を第1の本発明とも記載する。
【0010】
本発明はまた、複層構造のエマルション粒子を含む制振材用樹脂組成物であって、該エマルション粒子は、最外層及び最外層よりも内側にある内層を有し、内層を構成する樹脂のガラス転移温度は、−10〜35℃であり、該最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、該内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高く、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含むことを特徴とする制振材用樹脂組成物でもある。以下においては、この制振材用樹脂組成物に係る発明を第2の本発明とも記載する。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する第1の本発明又は第2の本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
以下では、「本発明」は、特に断りのない限り、第1の本発明を言う。なお、第1の本発明に係る制振塗料用樹脂組成物において、第2の本発明に係る制振材用樹脂組成物の特徴を好適に適用することができる。また、第2の本発明に係る制振材用樹脂組成物において、第1の本発明に係る制振塗料用樹脂組成物の特徴を好適に適用することもできる。
【0011】
<本発明の制振塗料用樹脂組成物>
(複層構造のエマルション粒子)
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、複層構造のエマルション粒子を含む。該エマルション粒子は、最外層及び最外層よりも内側にある内層を有し、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、60℃以上であり、該エマルション粒子100質量%中、該最外層の質量割合が1〜30質量%である。
【0012】
上記複層構造のエマルション粒子は、2種以上の重合体鎖が複合化してなる2層以上の構造を有するものであればよく、少なくとも最外層及び最外層よりも内側にある内層を有するものであればよいが、最外層よりも内側にある内層が複数あってもよい。中でも、上記複層構造のエマルション粒子が、最外層及び1層以上の内層からなる2〜4層構造のものであることが好ましく、最外層、及び、1層又は2層の内層からなる2層構造又は3層構造のものであることがより好ましく、上記複層構造のエマルション粒子が、最外層及び内層(最内層)のみからなる2層構造のものであることが更に好ましい。
【0013】
上記複層構造のエマルション粒子は、制振材の使用環境における温度領域内の幅広い範囲における制振性に優れる。特に高温域においても、他の形態の制振塗料用樹脂組成物と比較して優れた制振性を発揮し、その結果、制振材の使用環境における温度領域内において、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って制振性能を発揮することができる。
なお、上記複層構造のエマルション粒子は、内層の表面が最外層によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々において内層が露出している形態であってもよい。
【0014】
上記エマルション粒子は、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度が60℃以上である。これにより、特に塗料を垂直面や斜面に塗布して加熱乾燥する場合に、熱ダレの発生が充分に抑制される。熱ダレの発生が充分に抑制される理由は、該ガラス転移温度が60℃以上であれば、塗料の加熱乾燥時にエマルション粒子間の融着速度が遅くなり、その結果、塗膜の乾燥性が向上するためであると考えられる。また、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度が60℃以上であることにより、塗膜のフクレやクラックも充分に抑制でき、塗膜外観が良好なものとなる。
上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、例えば70℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが一層好ましく、100℃以上であることが特に好ましい。また、該ガラス転移温度は、制振材の使用環境温度でより優れた制振性を発揮する観点からは、例えば200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。
本明細書中、エマルションのガラス転移温度(Tg)は、エマルション粒子を形成する重合体のガラス転移温度であり、後述する実施例に記載の方法により算出することができる。なお、エマルション粒子全体のガラス転移温度は、全ての段で用いた単量体組成から算出したTg(トータルTg)を意味する。
【0015】
なお、第2の本発明において、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、例えば0〜200℃であることが好ましく、10〜180℃であることがより好ましく、30〜150℃であることが更に好ましく、制振材の使用環境における温度領域で充分な制振性を発揮しつつ塗膜形成時の熱ダレの発生をより抑制する観点からは、50℃以上であることが特に好ましい。更に、第2の本発明においても、上述した本発明における最外層を構成する樹脂の好ましいガラス転移温度を好適に適用することが可能である。
【0016】
本発明において、上記エマルション粒子100質量%中、最外層の質量割合は、1〜30質量%である。
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、エマルション粒子における最外層の質量割合がこのように特定されることにより、エマルション粒子が、加熱乾燥時の熱ダレや塗膜のフクレ、クラックの発生を抑制して塗膜外観を良好なものとする効果を充分に発揮しつつ、制振材の使用環境温度等の所望の温度で優れた制振性を発揮することができる形態となり、外観と制振性とを好適に両立できることができる。この理由は、上記質量割合を上記範囲内とした本発明に係るエマルション粒子を用いると、塗膜形成時にエマルション粒子同士が融着する結果、海島構造の塗膜が形成され、当該塗膜において、内層を構成する樹脂から形成される海部分が所望の温度での制振性能を、最外層を構成する樹脂から形成される島部分が熱ダレ抑制効果を、それぞれバランス良く発揮するためであると考えられる。
上記質量割合は、熱ダレをより充分に抑制する観点からは、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。該質量割合は、制振材の使用環境温度でより優れた制振性を発揮する観点からは、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、17質量%以下であることが一層好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0017】
なお、第2の本発明において、上記エマルション粒子100質量%中、最外層の質量割合は、0.1〜30質量%であることが好ましい。該質量割合は、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。更に、第2の本発明においても、上述した本発明における最外層の好ましい質量割合を好適に適用することが可能である。
【0018】
第2の本発明では、上記複層構造のエマルション粒子において、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高いものである。内層を構成する樹脂のガラス転移温度を上述したように制振材の使用環境温度付近の特定の温度としたうえで、このようにガラス転移温度に差を設けることにより、制振材の使用環境における温度領域で高い制振性を発現させるとともに、塗膜形成時の熱ダレを防止することが可能となる。なお、このように最外層を構成する樹脂と内層を構成する樹脂との間でガラス転移温度に差を設けることは、第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。すなわち、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高い。
【0019】
上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度と内層を構成する樹脂のガラス転移温度との差は、15℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることが更に好ましい。
中でも、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記エマルション粒子において、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも30℃以上高い。本発明の制振塗料用樹脂組成物において、このようにガラス転移温度に差を設けることにより、制振材の使用環境における温度領域で高い制振性を発現させるとともに、塗膜形成時の熱ダレを防止する効果が顕著なものとなる。
【0020】
上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度と内層を構成する樹脂のガラス転移温度との差は、50℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、100℃以上であることが特に好ましい。また、該差は、180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましく、140℃以下であることが一層好ましく、130℃以下であることがより一層好ましく、120℃以下であることが更に一層好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。
なお、内層が複数ある場合は、最外層を構成する樹脂のガラス転移温度が、複数の内層のうち樹脂のガラス転移温度が最も低い層に係るガラス転移温度よりも上述した所定の温度以上高いものであればよいが、複数の内層のうち樹脂のガラス転移温度が最も高い層に係るガラス転移温度よりも上述した所定の温度以上高いものであることが好ましい。
【0021】
上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記複層構造のエマルション粒子は、内層を構成する樹脂のガラス転移温度が−30〜40℃である。
本発明に係るエマルション粒子は、内層を構成する樹脂のガラス転移温度を調整することで所望の温度で制振性を発現することができるものであるが、内層を構成する樹脂のガラス転移温度を上記のように特定すると、制振材の使用環境における温度領域での制振性能を効果的に発現することができる。上記ガラス転移温度は、より好ましくは−25〜30℃であり、更に好ましくは−20〜20℃であり、一層好ましくは−15〜15℃であり、特に好ましくは−10〜10℃である。
【0022】
また第2の本発明において、上記複層構造のエマルションは、内層を構成する樹脂のガラス転移温度が−10〜35℃である。この特徴は、第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。例えば、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度は、−10℃以上である。また、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度は、35℃以下である。本発明に係るエマルションとして、このようなガラス転移温度を有するものを用いると、塗膜の実用温度域での制振性能を効果的に発現することができることとなる。内層を構成する樹脂のガラス転移温度は、より好ましくは−9〜30℃であり、更に好ましくは−7〜20℃であり、特に好ましくは−4〜13℃である。
なお、内層が複数ある場合は、少なくとも1つの層のガラス転移温度が上記範囲内であればよいが、それぞれの内層のガラス転移温度がいずれも上記範囲内であることが好ましい。
【0023】
上記エマルション粒子を構成する樹脂は、重量平均分子量が3万〜50万であることが好ましい。制振性を発揮するためには、重合体に加えられた振動のエネルギーを摩擦による熱エネルギーに変えることが好適であり、重合体に振動が加えられたときに運動することのできる重合体であることが必要となる。上記エマルション粒子がこのような重量平均分子量を有するものであると、振動が加えられたときに重合体が充分に運動することができ、高い制振性を発揮することができる。上記重量平均分子量は、より好ましくは3万5000以上であり、更に好ましくは5万以上であり、特に好ましくは9万以上である。また、該重量平均分子量は、より好ましくは42万以下であり、更に好ましくは40万以下であり、特に好ましくは27万以下である。本明細書中、エマルション粒子を構成する樹脂の重量平均分子量とは、言い換えれば、エマルション粒子を形成する重合体の重量平均分子量を言う。
なお、重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0024】
上記エマルション粒子は、種々のものを使用できるが、例えば、カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位を有する重合体を含むことが好ましい。上記カルボン酸(塩)基とは、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を意味する。なお、上記エマルション粒子がカルボン酸(塩)基をもつ単量体単位を有する重合体を含むとは、例えば、カルボン酸(塩)基をもつ単量体が、エマルション粒子の内層を形成する単量体成分、最外層を形成する単量体成分のいずれかに含まれていてもよく、これらの両方に含まれていてもよいが、少なくとも内層を形成する単量体成分に含まれていることが好ましい。
上記カルボン酸塩基をもつ単量体単位の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0025】
上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位は、(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位である。言い換えれば、上記エマルション粒子は、(メタ)アクリル系重合体を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸単量体由来の構成単位を有する重合体を言う。
例えば、(メタ)アクリル系重合体を得るための単量体成分が、(メタ)アクリル酸系単量体、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を含んでなるものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸系単量体を含むことにより、本発明の制振塗料用樹脂組成物を含む塗料において、無機顔料等の分散性が向上し、得られる塗膜の機能がより優れたものとなる。また、その他の共重合可能な不飽和単量体を含むことにより、重合体の酸価、ガラス転移温度や物性等を調整しやすくなる。
【0026】
上記(メタ)アクリル酸系単量体とは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基の少なくとも1つの基を有し、かつ、該基中のカルボニル基をもつカルボキシル基(−COOH基)、又は、その塩若しくは酸無水物基(−C(=O)−O−C(=O)−基)を有する単量体である。上記(メタ)アクリル酸系単量体は、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸系単量体が有するカルボキシル基の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩、有機アミン塩については、カルボン酸塩基をもつ単量体単位の塩として上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0028】
上記(メタ)アクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸系単量体0.1〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体95〜99.9質量%から構成される単量体成分を共重合して得られるものであることが好ましい。上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が0.3質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.7質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.5質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.5質量%以下であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.7質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.3質量%以下であることが特に好ましい。また、上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が4質量%以下、その他の共重合可能な不飽和単量体が96質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が3質量%以下、その他の共重合可能な不飽和単量体が97質量%以上であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、単量体成分が安定に共重合する。なお(メタ)アクリル酸を共重合することでエマルション粒子にカルボン酸基を導入した場合、これを後述する中和剤を用いて中和することによって、該エマルション粒子がカルボン酸(塩)基をもつ構成単位を有する重合体を含むことができる。したがって上記のことを言い換えると、(メタ)アクリル系重合体の全構成単位に対し(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位を0.1〜5質量%含有する共重合体が好ましく、0.3〜5質量%含有する共重合体がより好ましく、0.5〜4質量%含有する共重合体が更に好ましく、0.7〜3質量%含有する共重合体が特に好ましい。
【0029】
その他の共重合可能な不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体、芳香環を有する不飽和単量体、その他の共重合可能な不飽和単量体等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体とは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、カルボキシル基がエステルとなった形態の単量体又はそのような単量体の誘導体を言う。
【0030】
上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等;これら以外の(メタ)アクリル酸系単量体のエステル化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0031】
上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分としては、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体を、エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、40質量%以上含有することが更に好ましく、60質量%以上含有することが特に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体を、全単量体成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0032】
上記芳香環を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
すなわち、(メタ)アクリル系重合体が、スチレンを含む単量体成分から得られたスチレン(メタ)アクリル系重合体であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。このような形態によって、コストを削減しつつ本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0033】
上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を含む場合は、エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、20質量%以上含むことが一層好ましく、40質量%以上含むことがより一層好ましく、50質量%以上含むことが更に一層好ましく、55質量%以上含むことが特に好ましい。また、該単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を、全単量体成分100質量%に対して、90質量%以下含むことが好ましく、80質量%以下含むことがより好ましく、70質量%以下含むことが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分として、芳香環を有する不飽和単量体を用いなくてもよい。
【0034】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては、例えばアクリロニトリル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルや、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能性不飽和単量体が挙げられる。
【0035】
上記エマルション粒子の平均粒子径は80〜450nmであることが好ましい。
上記平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を用いることにより、制振材に要求される塗膜外観、塗工性等の基本性能を充分なものとした上で、制振性をより優れたものとすることができる。エマルション粒子の平均粒子径は、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下である。また、平均粒子径は、より好ましくは100nm以上である。
エマルション粒子の平均粒子径は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
上記エマルション粒子の固形分の含有量は、本発明の制振塗料用樹脂組成物の固形分100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、該含有量は、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましく、93質量%以下であることが特に好ましく、91質量%以下であることが最も好ましい。
なお、固形分とは、水系溶媒等の溶媒以外の成分を意味する。
【0037】
(界面活性剤成分)
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、更に、界面活性剤成分を含んでいてもよい。
本発明の制振塗料用樹脂組成物が界面活性剤成分を含むとは、(1)エマルション粒子を形成するための乳化重合時の乳化剤として該成分を用いることで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、(2)乳化重合時の乳化剤として該成分の一部を用い、得られたエマルション粒子に該成分の残部を添加することで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、(3)乳化重合以外の方法で重合された重合体に該成分が乳化剤として作用してエマルション粒子を形成することで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、(4)他の乳化剤を用いた乳化重合によって形成されたエマルション粒子に添加された該成分を該組成物が含むものであってもよい。中でも、本発明の効果をより充分に発揮する観点からは、上記(1)〜(3)のように、該成分が乳化剤であることが好ましい。該成分が乳化剤であるとは、具体的には、該成分が、エマルション粒子の表面を覆い、該成分が有する親水性基(例えば酸(塩)基)が水系溶媒等の溶媒側(エマルション粒子の反対側)を向いており、該成分が有する疎水性基(例えば酸(塩)基以外の部分)がエマルション粒子側を向いていることを言う。該成分がエマルション粒子の表面を覆うとは、完全に覆っていなくてもよく、例えば、所々においてエマルション粒子が露出していてもよい。
【0038】
また上記界面活性剤成分がエマルションを形成する重合体とは別の化合物であってもよく、該成分の一部が化合物であり、該成分の残部がエマルションを形成する重合体を構成する構成単位(例えば、化合物が乳化重合時にエマルションを形成する重合体の構成単位となったもの)であってもよく、該成分がエマルションを形成する重合体を構成する構成単位であってもよいが、中でも、該成分の少なくとも一部が化合物であることが好ましい。
【0039】
上記界面活性剤成分とは、その使用目的に関わらず、本発明の制振塗料用樹脂組成物中に含まれる、界面活性剤として機能し得る剤のすべてを意味する。すなわち、本発明の制振塗料用樹脂組成物中の界面活性剤成分は、界面活性剤として機能し得るものである限り、その他の機能を併せ持つものであってもよい。上記使用目的としては、例えば乳化剤(乳化重合用乳化剤等)、分散剤、湿潤浸透剤、発泡剤等としての使用目的が挙げられる。
【0040】
上記界面活性剤成分としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及び、高分子界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸(塩)、アルキルエーテルカルボン酸(塩)、N−アシルアミノ酸(塩)、アルカンスルホン酸(塩)、α−オレフィンスルホン酸(塩)、α−スルホアルキルエステル(塩)、アルキルスルホコハク酸(塩)、アシルイセチオン酸(塩)、N−アシル−N−アルキルタウリン(塩)、アルキル硫酸エステル(塩)、アルキルエーテル硫酸エステル(塩)、アルキルリン酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンスチレン化アリールエーテル硫酸エステル(塩)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等が好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、塗膜の乾燥性を更に優れるものとし、かつ塗膜形成時に塗膜のフクレを抑制して、塗膜外観を顕著に優れたものとする観点からは、脂肪酸(塩)、アルキルスルホコハク酸(塩)、ポリオキシアルキレンスチレン化アリールエーテル硫酸エステル(塩)が好ましく、中でも、本発明の効果をより優れたものとする観点から、アルキルスルホコハク酸(塩)がより好ましい。
なお、ポリオキシアルキレンスチレン化アリールエーテル硫酸エステル(塩)の市販品としては、ハイテノールNF−08(商品名、第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0041】
上記アニオン系界面活性剤としては、スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤、アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の反応性界面活性剤の1種又は2種以上を用いることもできる。
スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−20(商品名、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
更に、アニオン系界面活性剤として、ネオペレックスG−65(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、花王社製)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩)、ニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、日本乳化剤株式会社製)等のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル硫酸エステル(塩)、レベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王社製)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)等を使用することも可能である。
【0042】
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。例えば、市販品としては、エマルゲン1118S(花王社製)等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等の反応性を有するノニオン系界面活性剤も用いることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
上記カチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
上記両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
上記高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
上記界面活性剤成分は、更に、置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシスルホニル基、スルホアルキル基、アミノアルキル基、カルボン酸基、ポリアルキレンオキシド鎖含有基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。
【0047】
上記界面活性剤成分は、塗膜外観をより良好にする点から、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であることが好ましい。界面活性剤成分として反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物を用いた場合は、本発明の制振塗料用樹脂組成物は、エマルション粒子を形成する重合体の構成単位とは別に、界面活性剤(エマルション粒子を形成する重合体とは別の化合物)を含むこととなる。これにより、塗膜外観を良好にする本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【0048】
上記界面活性剤成分は、従来公知の方法を適宜用いて得ることができる。また、界面活性剤成分として市販品や、市販品に水系溶媒を添加して固形分濃度を適宜調整したものを用いることも可能である。
【0049】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、界面活性剤成分の含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。該含有量は、本発明の効果をより顕著に発揮する観点から、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。また、該含有量は、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが一層好ましく、6質量%以下であることがより一層好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
なお、本明細書中、エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分とは、本発明の制振塗料用樹脂組成物中、エマルション粒子を形成する重合体を構成する単量体単位、並びに、エマルション粒子の原料として用いられた単量体由来のオリゴマー及び単量体を意味するが、界面活性剤成分を意味しない。また、該界面活性剤成分の含有量は、界面活性剤(エマルション粒子を形成する重合体とは別の化合物)、及び、エマルション粒子を形成する重合体中の、該化合物由来の構成単位の合計量である。言い換えれば、該界面活性剤成分の含有量は、本発明の制振塗料用樹脂組成物を得る際に用いられたすべての界面活性剤の合計量である。
【0051】
上述した本発明の制振塗料用樹脂組成物中の界面活性剤成分の含有量は、原料として使用したすべての界面活性剤の量を合計することにより、エマルション粒子を形成する重合体の一部を構成する構成単位となるものも含めて算出することができる。該含有量は、本発明の制振塗料用樹脂組成物中の界面活性剤(エマルション粒子を形成する重合体とは別の化合物)の量と、エマルション粒子を形成する重合体中の界面活性剤由来の構成単位の量とを合計することによっても算出することができる。
また本発明の制振塗料用樹脂組成物中の界面活性剤(エマルション粒子を形成する重合体とは別の化合物)の好ましい含有量が、上述した界面活性剤成分の好ましい含有量の範囲内であることもまた、本発明の制振塗料用樹脂組成物における好ましい形態の1つである。なお、この好ましい形態において、本発明の制振塗料用樹脂組成物中に、界面活性剤とは別に、界面活性剤成分がエマルション粒子を形成する重合体の構成単位として含まれていても構わない。
本発明の制振塗料用樹脂組成物中の界面活性剤の含有量は、加熱乾燥後の塗膜から抽出した成分を高速液体クロマトグラフで分析することにより求めることができる。なお、重合時に反応性の炭素−炭素不飽和結合を有する界面活性剤を用いた場合も、エマルション粒子を形成する重合体の構成単位となっていないものについては分析することが可能である。
【0052】
第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含む。この特徴は、上述したように第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。すなわち、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、本発明の制振塗料用樹脂組成物は、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含む。
以下では、本発明において好適に用いられる界面活性剤成分であるスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分について詳しく説明する。
【0053】
〔スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分〕
第2の本発明の制振材用樹脂組成物を用いて、外観に優れ、制振材の使用環境における温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができる。
第2の本発明の制振材用樹脂組成物を用いて外観に優れる塗膜を得ることができる理由は、以下の理由が考えられる。先ず、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分が、加熱乾燥(焼き付け)による高温時に固化(ゲル化)作用を発現し、塗膜形成における熱ダレ抑制に効果があるためである。また、第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含むことでフクレが抑制された塗膜を得ることが出来る。これは、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分や脂肪酸(塩)骨格を有する成分が乳化作用とともに熱気泡性を有しており、乾燥初期より沸騰等による細かい気泡現象があり、加熱継続下でも水抜け性が維持されることから、フクレが抑制された塗膜が得られると推定される。
またスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分や脂肪酸(塩)骨格を有する成分は、入手が容易で安価であるため、第2の本発明の制振材用樹脂組成物を調製するのに有利となる。
【0054】
(スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分)
上記スルホコハク酸(塩)骨格とは、−CO−C−C−COOR(Rは、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。)で表される骨格中の−C−C−部分の炭素原子の少なくとも1つにスルホン酸(塩)基が結合した骨格を言う。
上記Rにおけるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数2〜15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5〜10のアルキル基であることが更に好ましく、例えば2−エチルヘキシル基が特に好ましい。上記Rにおける金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子等が挙げられる。また、上記Rにおける有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩等が挙げられる。
上記Rは、水素原子、アルキル基、又は、金属原子であることが好ましく、アルキル基、又は、金属原子であることがより好ましく、金属原子であることが更に好ましい。金属原子としては、上記1価の金属原子が好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0055】
上記スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を意味する。上記スルホン酸塩基としては、スルホン酸基の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、これらの混合塩等が挙げられる。
上記金属塩を形成する金属原子、上記有機アミン塩としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0056】
上記スルホン酸(塩)基は、得られる塗膜の機能をより充分に発揮できる観点から、スルホン酸基、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸マグネシウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基がより好ましく、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸マグネシウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基が更に好ましく、スルホン酸ナトリウム塩基が特に好ましい。
【0057】
上記スルホコハク酸(塩)骨格においては、更に水素原子及び/又は水素原子以外の1価の置換基が結合されている。該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有する、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物が、重合時にエマルション中の重合体の構成単位となったものであってもよい。反応性の炭素−炭素不飽和結合を有する、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物としては、上述したように、エレミノールJS−20(商品名、三洋化成工業社製)等が挙げられる。しかしながら、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、塗膜外観をより良好にする点から、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であることが好ましい。スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分として反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物を用いた場合は、第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、エマルションを形成する重合体の構成単位とは別に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含むこととなる。これにより、塗膜外観を良好にする本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【0058】
上記置換基としては、例えば、上述した界面活性剤成分が有していても良い置換基の具体例と同様のものが挙げられる。例えば、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が、炭化水素基を有することが好ましく、炭素数8以上の炭化水素基を有することがより好ましく、炭素数12以上の炭化水素基を有することが更に好ましい。
【0059】
また、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が、ポリアルキレンオキシド鎖含有基を有することも好ましい。上記ポリアルキレンオキシド鎖含有基としては、ポリアルキレンオキシド鎖のみの基であってもよく、ポリアルキレンオキシド鎖とその他の構造部位とを有する基であってもよい。その他の構造部位としては、例えば、脂肪族飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基が挙げられる。上記ポリアルキレンオキシド鎖含有基としては、ポリアルキレンオキシド鎖のみの基、又は、ポリアルキレンオキシド鎖の末端の酸素原子に水素原子又は炭化水素基が結合している基が好ましい。例えば、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が、ポリアルキレンオキシド鎖含有基を有し、該ポリアルキレンオキシド鎖含有基の末端に、炭素数8以上の炭化水素基が結合していることがより好ましく、炭素数12以上の炭化水素基が結合していることが更に好ましい。
【0060】
また上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、ポリアルキレンオキシド鎖を構成するオキシアルキレン基の平均付加モル数が3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。該平均付加モル数とは、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分における1モルのポリアルキレンオキシド鎖において付加しているオキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
【0061】
上述した反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば下記一般式(1):
【0062】
【化1】
【0063】
(式中、R
1は、水素原子又は炭素数1〜30のアルキル基を表す。−A−は、−O−又は−NH−を表す。R
2は、炭素数1〜30のアルキレン基を表す。平均付加モル数nは、0〜200である。X及びYは、同一又は異なって、水素原子又はスルホン酸(塩)基を表す。X及びYのうち少なくとも1つは、スルホン酸(塩)基を表す。R
3は、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。)で表されるものが好ましい。
【0064】
上記R
1は、炭素数1〜30のアルキル基を表すことが好ましい。該アルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、塗膜のフクレ、クラックをより抑制しつつ制振性を更に優れたものとする観点からは、12以上であることが更に好ましい。また、該アルキル基の炭素数は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
また該アルキル基は、第一級アルキル基又は第二級アルキル基であることが好ましい。
制振性及び機械安定性をバランス良く改善する観点からは、上記−A−は、−NH−を表すことが好ましい。
【0065】
上記R
2は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が主体であることが好ましく、エチレン基が主体であることがより好ましい。
【0066】
ここでいう「主体」とは、上記(R
2O)
n部位が、2種以上のオキシアルキレン基により構成されるときに、全R
2の存在数に対して、50〜100モル%を占めることが好ましい。
上記(R
2O)
n部位は、エチレン基だけから構成されることがより好ましい。
【0067】
上記平均付加モル数nは、3〜200であることが好ましい。該平均付加モル数nは、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の乳化剤としての機能をより高めて制振性を向上する観点からは、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、6以上であることが一層好ましく、7以上であることが特に好ましい。また、該平均付加モル数nは、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、20以下であることが一層好ましく、10以下であることが特に好ましい。
また上記−A−は、−NH−を表し、上記平均付加モル数nは、0であることもまた好ましい。
【0068】
上記X及びYは、同一又は異なって、水素原子、又は、スルホン酸(塩)基を表す。X及びYのうち少なくとも1つは、スルホン酸(塩)基を表す。X又はYのいずれか一方がスルホン酸(塩)基を表し、他方が水素原子を表すことが好ましい。スルホン酸(塩)基の好ましい形態は、上述した通りである。
上記R
3は、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。該R
3は、アルキル基、又は、金属塩であることが好ましく、金属塩であることがより好ましい。該金属塩を構成する金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子が挙げられ、中でもナトリウムが特に好ましい。なお、上記R
3におけるアルキル基、有機アミン塩は、上述したものと同様である。
【0069】
上述した反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば下記一般式(2):
【0070】
【化2】
【0071】
(式中、R
1、−A−、平均付加モル数nは、一般式(1)におけるものと同様である。)で表されるものであることが好ましい。
【0072】
上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば、スルホコハク酸と置換基を有する化合物とを従来公知の方法を用いて反応させることにより得ることができる。上記置換基がポリアルキレンオキシド鎖含有基である場合には、例えば、エチレンオキシド等のアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシド鎖を有する化合物とスルホコハク酸のカルボン酸基とを反応させることにより、スルホコハク酸(塩)骨格にポリアルキレンオキシド鎖含有基を導入することができる。また、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物として市販品や、市販品に水系溶媒を添加して固形分濃度を適宜調整したものを用いることも可能である。
【0073】
(脂肪酸(塩)骨格を有する成分)
上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分とは、炭化水素にカルボン酸(塩)基が結合した骨格を有する化合物を言う。脂肪酸骨格を有する成分としては、飽和脂肪酸;一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。また、脂肪酸塩骨格を有する成分としては、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、これらの混合塩等が挙げられる。該金属塩を形成する金属原子、該有機アミン塩としては、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分において上述したものと同様のものが挙げられる。なお、上記カルボン酸(塩)基は、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を意味する。
【0074】
上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分は、アルキル基、カルボン酸基、カルボン酸塩基以外のその他の1価の置換基を更に有していてもよい。なお、該脂肪酸(塩)骨格を有する成分は、反応性の炭素−炭素不飽和結合をもつ脂肪酸(塩)骨格を有する化合物が、重合時にエマルション中の重合体の構成単位となったものであってもよく、反応性の炭素−炭素不飽和結合をもたず、エマルションポリマーの構成単位とはならないものであってもよいが、反応性の炭素−炭素不飽和結合をもたず、エマルションポリマーの構成単位とはならないものであることが好ましい。
上記その他の1価の置換基としては、例えば、アミノ基、アルコキシ基、アルコキシスルホニル基、スルホアルキル基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基、ポリアルキレンオキシド鎖含有基等が挙げられる。
【0075】
上述した反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない、上記脂肪酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば、下記一般式(3):
R
4COOM (3)
(式中、R
4は、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。Mは、金属原子、アンモニウム基、又は、有機アミン基を表す。)で表されるものであることが好ましい。
【0076】
上記R
4における炭化水素基は、炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の熱気泡性をより充分に発現して得られる塗膜の外観をより優れたものとする観点からは、該炭素数は、4以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましく、12以上であることが特に好ましい。また該炭素数は、26以下であることがより好ましく、22以下であることが更に好ましく、18以下であることが特に好ましい。
上記R
4における炭化水素基は、炭素鎖に単結合のみを有するものであってもよく、炭素鎖に二重結合、三重結合等の不飽和結合を有するものであってもよい。
上記R
4における炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
上記R
4における炭化水素基は、カルボン酸基、カルボン酸塩基、上述したその他の1価の置換基等を置換基として有していてもよいが、置換基を有さないことが好ましい。
【0077】
上記Mにおける金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子等が挙げられる。また、上記Mにおける有機アミン基としては、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基が挙げられる。
上記Mは、金属原子であることがより好ましい。該金属原子としては、得られる塗膜の機能をより充分に発揮する観点から、ナトリウム、カリウムが更に好ましく、脂肪酸(塩)の熱気泡性をより充分に発現して得られる塗膜の外観をより優れたものとする観点からは、ナトリウムが特に好ましい。
【0078】
上記脂肪酸(塩)骨格を有する化合物は、従来公知の方法を用いて得ることができる。例えば、油脂を、アルカリ溶液で鹸化し、副生するグリセリンを除く鹸化法で得ることができる。また、脂肪酸(塩)骨格を有する化合物として市販品を用いることも可能である。
【0079】
上記脂肪酸(塩)骨格を有する化合物としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸アンモニウム、ステアリン酸エタノールアミン、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸アンモニウム、オレイン酸エタノールアミン等が挙げられる。
上記脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の市販品としては、例えば、NSソープ、OSソープ(いずれも花王社製)等が挙げられる。
【0080】
第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び該脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。この特徴は、上述したように第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。すなわち、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、本発明の制振塗料用樹脂組成物は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が0.1〜20質量%である。該合計含有量は、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、塗膜のフクレ、クラックをより抑制する観点からは、2質量%以上であることが特に好ましい。また、該合計含有量は、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが一層好ましく、6質量%以下であることがより一層好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。
なお、第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物がスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分のいずれか一方のみを含む場合、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び該脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量は、当該いずれかの一方の成分の含有量である。以下においても同様である。
また第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、第2の本発明の効果をより優れたものとする観点から、少なくともスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含むことが特に好ましい。この特徴は、上述したように第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。すなわち、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、本発明の制振塗料用樹脂組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含む。
【0081】
第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分、脂肪酸(塩)骨格を有する成分以外のアニオン性界面活性剤を含んでいてもよいが、該組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び該脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が25質量%以上であることが好ましい。この特徴も、第1の本発明の好ましい形態として適用することが可能である。すなわち、上述した制振塗料用樹脂組成物のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が25質量%以上である。該合計含有量は、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
上記組成物中のアニオン性界面活性剤とは、その使用目的に関わらず、該組成物中に含まれる、アニオン性界面活性剤として機能し得る剤のすべてを意味する。すなわち、該組成物中のアニオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤として機能し得るものである限り、その他の機能を併せ持つものであってもよい。上記使用目的としては、例えば乳化剤(乳化重合用乳化剤等)、分散剤、湿潤浸透剤、発泡剤等としての使用目的が挙げられる。
なお、アニオン性界面活性剤を乳化重合用乳化剤として用いる場合、該アニオン性界面活性剤は、通常の乳化剤(エマルションを形成する重合体とは別の化合物)であってもよく、エマルションを形成する重合体の一部を構成する構成単位であり、かつ乳化剤であってもよい。
【0082】
上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び該脂肪酸(塩)骨格を有する成分以外のアニオン性界面活性剤としては、特許第5030780号公報や特開2014−52024号公報に記載されているもの等が挙げられる。該剤としては、例えば、上述したように、ネオペレックスG−65(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、花王社製)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩);レベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王社製)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;ニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、日本乳化剤株式会社製)等のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩;その他の通常使用されるアニオン性乳化剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の1種又は2種以上を使用できる。
【0083】
第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物は、上述したように、更にアニオン性界面活性剤以外の乳化剤を含んでもよい。該アニオン性界面活性剤以外の乳化剤としては、例えば特開2014−52024号公報に記載の乳化剤を使用できる。
【0084】
上述した第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量は、原料として使用したすべてのスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物及び脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の量を合計することにより、エマルションを形成する重合体の構成単位となるものも含めて算出することができる。該含有量は、第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の量と、脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の量と、エマルションを形成する重合体中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物由来の構成単位の量と、エマルションを形成する重合体中の脂肪酸(塩)骨格を有する化合物由来の構成単位の量とをすべて合計することによっても算出することができる。
更に、第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物及び脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の好ましい合計含有量が、上述したスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量の範囲内であることもまた好ましい。なお、この好ましい形態において、第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物中に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物及び脂肪酸(塩)骨格を有する化合物とは別に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分や脂肪酸(塩)骨格を有する成分がエマルションを形成する重合体の構成単位として含まれていても構わない。
第1の本発明の制振塗料用樹脂組成物又は第2の本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物及び脂肪酸(塩)骨格を有する化合物の合計含有量は、加熱乾燥後の塗膜から抽出した成分を高速液体クロマトグラフで分析することにより求めることができる。なお、重合時に反応性の炭素−炭素不飽和結合をもつ、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物や脂肪酸(塩)骨格を有する化合物を用いた場合も、エマルションを形成する重合体の構成単位となっていないものについては分析することが可能である。
【0085】
(その他)
本発明の制振塗料用樹脂組成物のpHとしては特に限定されないが、2〜10であることが好ましく、3〜9.5であることがより好ましく、7〜9であることが更に好ましい。本発明の制振塗料用樹脂組成物のpHは、当該樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
本明細書中、pHは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0086】
本発明の制振塗料用樹脂組成物の粘度としては特に限定されないが、1〜10000mPa・sであることが好ましく、5〜4000mPa・sであることがより好ましく、10〜2000mPa・sであることが更に好ましく、30〜1000mPa・sであることが一層好ましく、80〜500mPa・sであることが特に好ましい。
本明細書中、粘度は、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0087】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、例えば、特開2011−231184号公報に記載の制振材用エマルションの製造方法と同様の方法により製造することができる。また、上記エマルション粒子の製造方法は、乳化重合以外の方法、例えば、懸濁重合で重合された重合体に乳化剤が作用してエマルション粒子を形成するものであってもよい。
【0088】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、本発明に係るエマルション粒子を含み、必要に応じてアニオン性界面活性剤成分等の界面活性剤成分を含む他、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分を含む場合、本発明の制振塗料用樹脂組成物全体に対して、その他の成分の割合は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。なお、ここでいうその他の成分とは、本発明の制振塗料用樹脂組成物を塗布し、加熱乾燥した後も塗膜中に残る不揮発分(固形分)のことを意味し、水系溶媒等の揮発成分は含まれない。
【0089】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、水系溶媒を含み、上記エマルション粒子は、水系溶媒中に分散していることが好ましい。本明細書中、水系溶媒中に分散しているとは、水系溶媒中に溶解することなく分散していることを意味する。
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、固形分の含有割合が10〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることが更に好ましい。本発明の制振塗料用樹脂組成物の固形分が上述した範囲内となるように、水系溶媒を使用することができる。
本明細書中、水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。
【0090】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、これ自体を塗布して制振被膜を形成するのに用いることができるが、通常、後述する本発明の塗料を得るために用いられる。
【0091】
本発明の制振塗料用樹脂組成物は、後述するように、一連の製造工程、例えば単量体成分の多段重合等で2種以上の重合体鎖が複合化したエマルションを形成して得ることができる。2種以上の重合体鎖が複合化したエマルションを得るためには、多段重合の各段の重合において単量体滴下条件等の製造条件を適宜設定すればよい。該重合は、後述するように、乳化重合であることが好ましい。例えば、2種の重合体鎖が複合化したコア・シェル構造を有する2層構造のエマルション粒子を含む制振塗料用樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、2段階の乳化重合を行い、1段目でコア部を形成した後、当該コア部上に2段目を乳化重合してシェル部を形成させる方法が好適である。
【0092】
<本発明の制振塗料用樹脂組成物の製造方法>
本発明は、複層構造のエマルション粒子を含む制振塗料用樹脂組成物を製造する方法であって、該製造方法は、単量体成分を重合して内層を形成する工程と、エマルション粒子の原料として用いる全単量体成分100質量%中、1〜30質量%の単量体成分を重合してガラス転移温度が60℃以上である樹脂から構成される最外層を形成する工程とを含む制振塗料用樹脂組成物の製造方法でもある。
【0093】
上記内層を形成する工程は、上述した(メタ)アクリル酸系単量体等の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を用いて乳化重合等の重合により行うことができる。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層は、ガラス転移温度が−30〜40℃である樹脂から構成される。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層は、ガラス転移温度が−15℃以上である樹脂から構成される。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層は、ガラス転移温度が−10℃以上である樹脂から構成される。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記内層は、ガラス転移温度が35℃以下である樹脂から構成される。
本発明の製造方法は、内層を形成する工程を複数含んでいてもよく、その場合、内層を形成する工程の少なくとも1つが上述したガラス転移温度の好ましい条件を満たす内層を形成するものであることが好ましいが、内層を形成する工程のそれぞれが上述したガラス転移温度の好ましい条件を満たす内層を形成するものであることがより好ましい。
【0094】
上記最外層を形成する工程は、上述した(メタ)アクリル酸系単量体等の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を、得られる樹脂のガラス転移温度が60℃以上となる組成で用いて乳化重合等の重合により行うことができる。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高い。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも30℃以上高い。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記最外層を構成する樹脂のガラス転移温度は、上記内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも80℃以上高い。
【0095】
なお、本発明の製造方法において、複層構造のエマルション粒子とは、上記内層を形成する工程と、上記最外層を形成する工程とを行うことにより得られるものであればよい。
【0096】
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記エマルション粒子は、(メタ)アクリル系重合体を含む。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含む。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含む。
【0097】
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が25質量%以上である。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が50質量%以上である。
上述した本発明の製造方法のいずれかの更に好ましい実施形態では、上記組成物は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び上記脂肪酸(塩)骨格を有する成分の合計含有量が0.1〜20質量%である。
【0098】
なお、第2の本発明は、複層構造のエマルション粒子を含む制振材用樹脂組成物を製造する方法であって、該製造方法は、単量体成分を重合してガラス転移温度が−10〜35℃である樹脂から構成される内層を形成する工程と、単量体成分を重合して内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高いガラス転移温度の樹脂から構成される最外層を形成する工程とを含み、該組成物がスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含む制振材用樹脂組成物の製造方法でもある。
【0099】
上記内層を形成する工程は、上述した(メタ)アクリル酸系単量体等の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を、得られる樹脂のガラス転移温度が−10〜35℃となる組成で用いて乳化重合等の重合を行うことができる。
【0100】
上記最外層を形成する工程は、上述した(メタ)アクリル酸系単量体等の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を、得られる樹脂のガラス転移温度が内層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも10℃以上高くなるような組成で用いて乳化重合等の重合を行うことができる。
【0101】
上記内層を形成する工程と、上記最外層を形成する工程は、それぞれ、(1)アニオン性界面活性剤等の界面活性剤(以下、単に「該剤」とも言う。)と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合するものであってもよく、(2)該剤の一部と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合してエマルションを得た後、得られたエマルションに対して該剤の残部を添加するものであってもよく、(3)乳化重合以外の重合をおこなって重合体を得た後、得られた重合体に対して該剤を乳化剤として添加するものであってもよく、(4)該剤を含まない単量体成分を乳化重合してエマルションを得た後、得られたエマルションに対して該剤を添加するものであってもよいが、これらの中でも、該剤が乳化剤として作用するもの、すなわち、上記(1)〜(3)のいずれかの形態であることが好ましい。
上記内層を形成する工程及び上記最外層を形成する工程における重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃とすることが好ましく、30〜80℃とすることがより好ましい。また、重合時間も特に限定されず、例えば、0.1〜15時間とすることが好ましく、1〜10時間とすることがより好ましい。
【0102】
<本発明の塗料>
本発明はまた、本発明の制振塗料用樹脂組成物及び顔料を含む塗料(制振塗料又は塗布型制振材)でもある。以下においては、この塗料に係る発明を第1の本発明とも記載する。
本発明の塗料が含む制振塗料用樹脂組成物の好ましいものは、上述した本発明の制振塗料用樹脂組成物の好ましいものと同様である。
本発明はまた、本発明の制振材用樹脂組成物及び顔料を含む塗料(制振塗料又は塗布型制振材)でもある。以下においては、この塗料に係る発明を第2の本発明とも記載する。
本発明の塗料が含む制振材用樹脂組成物の好ましいものは、上述した本発明の制振材用樹脂組成物の好ましいものと同様である。
以下では、特に明示しない限り、第1の本発明の塗料と第2の本発明の塗料との共通事項について本発明の塗料として説明する。
本発明の塗料の固形分100質量%中、組成物の固形分は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、該組成物の固形分は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0103】
上記顔料は、例えば、無機着色剤、有機着色剤、防錆顔料、充填材等の1種又は2種以上を使用することができる。該無機着色剤としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄等が挙げられる。該有機着色剤としては、染料、天然色素等が挙げられる。該防錆顔料としては、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。該充填材としては、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪藻土、クレー等の無機質充填材;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状充填材;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維、ワラストナイト等の繊維状充填材等が挙げられる。上記顔料としては、無機着色剤、防錆顔料、充填材が好ましく、無機質充填材がより好ましく、炭酸カルシウムが更に好ましい。
上記顔料は、平均粒子径が1〜50μmのものが好ましい。顔料の平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定装置により測定することができ、粒度分布からの重量50%径の値である。
上記顔料の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分(エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分)100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることが更に好ましく、300質量部以上であることが特に好ましい。また、該配合量は、900質量部以下であることが好ましく、800質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることが更に好ましい。
【0104】
本発明の塗料は、更に分散剤を含んでいてもよい。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記分散剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.1〜8質量部が好ましく、0.5〜6質量部がより好ましく、1〜3質量部が更に好ましい。
【0105】
本発明の塗料は、更に増粘剤を含んでいてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましく、0.3〜2質量部が更に好ましい。
【0106】
本発明の塗料は、更にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、発泡剤;溶媒;ゲル化剤;消泡剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記顔料、分散剤、増粘剤、及び、他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、本発明に係るエマルション粒子や架橋剤等と混合され得る。
【0107】
上記溶媒としては、例えば、水;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶媒が挙げられる。溶媒の配合量としては、本発明の塗料の固形分濃度を調整するために適宜設定すればよい。
【0108】
本発明の塗料を用いて塗膜を得ること、特に第2の本発明の塗料を加熱乾燥して塗膜を得ることにより、塗料の乾燥と同時に該塗料を発泡させることで、水等の溶媒の蒸発経路を形成することができる。その結果、第2の本発明に係る、最外層の樹脂のガラス転移温度が高く特定されたエマルション粒子において、塗膜の乾燥性に優れ、塗膜形成時の熱ダレの発生が抑制されると共に、塗膜のフクレを抑制することができ、外観が非常に良好な塗膜を得ることができる。また、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が発泡剤として機能することから、従来用いられていた高価な発泡剤(例えば、加熱膨張カプセル型発泡剤)の使用量を削減することができる。例えば、第2の本発明の塗料は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましく、0質量%が最も好ましい。
第2の本発明の塗料は、発泡剤として機能するスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分を含有するため、上記加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量を2質量%以下としたり、より少なくしたりすることにより、発泡剤が過剰となって塗膜の形状維持が困難になることを充分に防止でき、塗膜外観をより優れたものとすることができる。
【0109】
以上を纏めると、第2の本発明の塗料は、上述したような配合、例えば、炭酸カルシウム等の顔料の含有量が多く、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が低減された安価な配合においても、塗膜外観を優れたものとすることができる。また、第2の本発明の塗料は、上述したような配合においても、優れた制振性を発揮することもできる。
【0110】
本発明の塗料は、後述する実施例の方法で算出した総損失係数が0.348以上であることが好ましく、0.400以上であることがより好ましく、0.410以上であることが更に好ましく、0.440以上であることが一層好ましく、0.450以上であることがより一層好ましく、0.460以上であることが特に好ましい。
例えば、本発明の塗料の好ましい形態の1つは、エマルション粒子の原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、顔料の含有量が10質量%以上であり、総損失係数が0.348以上である塗料が挙げられる。
また例えば、第2の本発明の塗料の好ましい形態の1つは、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、顔料の含有量が10質量%以上であり、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下であり、総損失係数が0.348以上である塗料が挙げられる。
上記総損失係数は、後述する実施例の方法により求められるものである。
【0111】
本発明の塗料は、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。本発明の塗料は、例えば自動車塗料であることが好ましい。
【0112】
<本発明の塗膜及びその製造方法>
本発明は更に、第1の本発明の塗料を用いて得られる塗膜(制振塗膜)でもある。以下においては、この塗膜に係る発明を第1の本発明とも記載する。
第1の本発明の塗膜を得るために用いられる塗料の好ましいものは、上述した第1の本発明の塗料の好ましいものと同様である。
本発明はそして、第2の本発明の塗料を用いて得られる塗膜(制振塗膜)でもある。以下においては、この塗膜に係る発明を第2の本発明とも記載する。
第2の本発明の塗膜を得るために用いられる塗料の好ましいものは、上述した第2の本発明の塗料の好ましいものと同様である。
なお、第1の本発明は、上記内層を形成する工程及び上記最外層を形成する工程により単量体成分からエマルション粒子を得る工程、単量体成分及び/又はエマルション粒子と顔料とを混合して塗料を得る工程、並びに、塗料を硬化して塗膜を得る工程を含む塗膜の製造方法でもある。
また第2の本発明は、単量体成分を重合してなるエマルション、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分及び/又は脂肪酸(塩)骨格を有する成分、並びに、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて塗膜を得る工程を含む塗膜の製造方法でもある。
以下では、特に明示しない限り、第1の本発明の塗膜と第2の本発明の塗膜との共通事項である本発明の塗膜の好ましい形態について説明する。
【0113】
本発明の塗膜は、厚みが0.5〜8mmであることが好ましい。より充分な制振性を発揮することと、塗膜のはがれ、クラック等の発生をより充分に防ぎ、より良好な塗膜を形成する点を考慮すると、このような厚みが好ましい。塗膜の厚みは、より好ましくは、1〜6mmであり、更に好ましくは、2〜5mmである。
【0114】
本発明の塗膜を形成する基材は、塗膜を形成することができる限り特に制限されず、鋼板等の金属材料、プラスチック材料等いずれのものであってもよい。中でも、鋼板の表面に塗膜を形成することは、本発明の塗膜の好ましい使用形態の1つである。また、熱ダレを防止できることから、垂直面や斜面に塗膜を形成することもまた、本発明の塗膜の好ましい使用形態の1つである。
【0115】
本発明の塗膜は、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて本発明の塗料を塗布することより得ることができる。
【0116】
本発明の塗膜は、塗布した本発明の塗料を加熱乾燥することにより得られるものであることが好ましい。第2の本発明の塗膜は、塗布した第2の本発明の塗料を加熱乾燥することにより、該塗料を発泡させて得られるものであることが好ましい。なお、塗料を加熱乾燥することにより該塗料を発泡させるために、通常、加熱乾燥の前に塗料を撹拌する等して該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を機械発泡させない。加熱乾燥においては、上記塗料を基材上に塗布して形成した塗膜を40〜200℃にすることが好ましい。より好ましくは、90〜180℃であり、更に好ましくは、100〜160℃である。加熱乾燥の前により低温で予備乾燥を行っても構わない。
また、塗膜を上記温度にする時間は、1〜300分であることが好ましい。より好ましくは、2〜250分であり、特に好ましくは、10〜150分である。
【0117】
本発明の塗膜の制振性は、膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、塗膜に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。
上記損失係数は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0118】
本発明の塗膜は、外観に優れ、制振材の使用環境における温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できるものであり、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。