特許第6784772号(P6784772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784772オーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784772
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】オーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成回路
(51)【国際特許分類】
   G11C 11/16 20060101AFI20201102BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20201102BHJP
   H03G 7/00 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G11C11/16 100A
   H04R3/00 310
   H03G7/00 004
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-548892(P2018-548892)
(86)(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公表番号】特表2019-516205(P2019-516205A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】IB2017051479
(87)【国際公開番号】WO2017158517
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2019年12月9日
(31)【優先権主張番号】16290048.4
(32)【優先日】2016年3月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】コンロー・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ステネル・カンタン
【審査官】 後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/139643(WO,A1)
【文献】 特開2012−89187(JP,A)
【文献】 特表2017−511092(JP,A)
【文献】 米国特許第5724434(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 11/16
H03G 7/00
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成回路において、
当該信号生成回路は、オーディオ信号源から入力電流信号を受け取り、この入力電流信号にしたがって磁場を生成するために構成された1つの磁場放射デバイスと、1つの第2磁気抵抗要素に直列に電気接続された1つの第1磁気抵抗要素とを有し、
前記第1磁気抵抗要素は、第1電気抵抗を有する少なくとも1つの磁気抵抗セルから成り、前記第2磁気抵抗要素は、第2電気抵抗を有する少なくとも1つの磁気抵抗セルから成り、前記第1電気抵抗前記第2抵抗との双方が、前記磁場によって変化し、
入力電圧が、直列に接続されている前記第1磁気抵抗要素前記第2磁気抵抗要素とにわたって印加されるときに、前記磁気抵抗に基づく信号生成回路が、前記第2磁気抵抗要素にわたって出力信号を提供し、
前記出力信号が、前記電気抵抗の関数であり、ダイナミックレンジ圧縮効果を引き起こし、
前記磁気抵抗セルが、磁気トンネル接合を有し、
前記第1電気抵抗前記第2抵抗とが、前記磁場によって反対方向に変化する当該信号生成回路。
【請求項2】
それぞれの第1磁気抵抗要素及び第2磁気抵抗要素が、複数の磁気抵抗セルを有する請求項1に記載の信号生成回路。
【請求項3】
前記複数の磁気抵抗セルは、直列に電気接続されていて、
その電気抵抗は、前記複数の磁気抵抗セルの電気抵抗の平均値に相当する請求項2に記載の信号生成回路。
【請求項4】
前記複数の磁気抵抗セルは、複数の集合体から成り、それぞれの集合体が、直列に接続された複数の磁気抵抗セルから成り、
前記複数の集合体は、互いに並列に電気接続されている請求項2に記載の信号生成回路。
【請求項5】
前記磁場デバイスは、前記第1磁気抵抗要素の少なくとも1つの磁気抵抗セルの電気抵抗を変化させる第1方向を有する第1磁場部分を生成させ、前記第2磁気抵抗要素の前記少なくとも1つの磁気抵抗セルの電気抵抗を変化させる前記第1方向とは反対の第2方向を有する第2磁場部分を生成させるように構成されている請求項に記載の信号生成回路。
【請求項6】
前記磁場デバイスは、前記入力電流信号を通電するために構成された1つの磁場用配線から成る請求項に記載の信号生成回路。
【請求項7】
前記磁場用配線は、第1極性を有する第1入力電流部分に通電するための第1部分と、前記第1極性とは反対の第2極性を有する第2入力電流部分に通電するための第2部分とから成り、
前記第1部分は、前記第1磁気抵抗要素をアドレス付けし、前記第2部分は、前記第2磁気抵抗要素をアドレス付けする請求項6に記載の信号生成回路。
【請求項8】
記磁気トンネル接合は、自由に配向可能なセンス磁化方向を有する1つのセンス層と、ピン止めされた記憶磁化方向を有する1つの基準層と、1つの非磁性層とを含み、
前記電気抵抗が、前記基準磁化方向に対する前記センス磁化方向の相対配向にしたがって変化する請求項に記載の信号生成回路。
【請求項9】
前記磁気抵抗素子の磁気抵抗効果が、巨大磁気抵抗に基づくように、前記非磁性層は、金属から成る請求項8に記載の信号生成回路。
【請求項10】
前記磁気抵抗素子の磁気抵抗効果が、トンネル磁気抵抗に基づくように、前記非磁性層は、薄膜絶縁体から成る請求項8に記載の信号生成回路。
【請求項11】
前記第1磁気抵抗要素内に構成された少なくとも1つの前記磁気抵抗セル記憶磁化方向が、前記第2磁気抵抗要素内に構成された少なくとも1つの前記磁気抵抗セル前記記憶磁化方向とは反対の方向に指向される請求項に記載の信号生成回路。
【請求項12】
前記出力信号に直列に電気接続された線形半導体増幅器をさらに有する請求項に記載の信号生成回路。
【請求項13】
前記磁場放射デバイスに直列に電気接続された線形半導体増幅器をさらに有する請求項に記載の信号生成回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の欠点を有するにもかかわらず、真空管が、ハイエンドのオーディオアプリケーションにおける信号増幅用に非常に一般に採用されている。真空管の入力信号が、閾値を超えるときに、当該真空管がオーバードライブするので、その出力利得が、この閾値の上で徐々に減少する。その結果、「ソフトクリップ(soft clipping)」と呼ばれる出力電圧の非線形飽和が誘起される。このような飽和は、入力信号の著しい歪みが非常に望まれる用途において、例えば高利得の機器用増幅器において有益である。特に、「ソフトクリップ」は、より豊かな音を作り出すと考えられている低出力/低次の高調波スペクトルをもたらす。
【0003】
他方で、トランジスタ技術に依拠する半導体増幅器は、滑らかな「ソフトクリップ」の飽和を呈しない。代わりに、その入力閾値を超えると、当該半導体増幅器の出力が、急激にクリップされるので、「ハードクリップ」する飽和が発生する。このハードクリップの挙動が、原信号に対して高出力/高次の高調波をもたらす。当該高出力/高次の高調波は、(音響心理効果に起因して)耳にとって耳障りであり且つ不快であると考えられている。
【0004】
半導体技術を使用するこのソフトクリップのエミュレーション(対応策)が達成され得るが、多くの場合、複雑なトポロジー又は高価なデジタル信号プロセッサ(DSP)を必要とする。
【0005】
その結果、真空管は、多数の欠点及び弱点にもかかわらず広く使用されている。確かに、真空管は、適切に機能させるためには、通常は300Vよりも大きい動作電圧を必要とする。これらの電圧は、高価で且つ重い電力変圧器を必要とする。潜在的に死に至らせる放電をユーザに曝し得る大きいコンデンサも、電源装置において必要とされる。必要な機能は、一般に200〜300℃の範囲内で真空管を加熱することを必要とする。この加熱は、一定の電力消費、数分のウォームアップ及びクールダウン時間並びにヒータに供する固有の電源装置の設計を意味する。さらに、この加熱は、適切な筐体通気孔を必要とし、隣接した構成要素の早期劣化の原因になり得る。真空管の高いインピーダンスは、オーディオスピーカーのような低いインピーダンス負荷用の整合出力変圧器を必要とする。真空管は、壊れやすく、動作中に、特に高温時に簡単に損傷する。真空管は、動作させるために熱電子放出に依存し、陰極の電子放出が動作中に消耗する。その結果、真空管の寿命は、制限され予測できない。
【0006】
さらに、真空管は、寄生マイクロフォン効果を促進し得るガラス球内に入れなければならない。真空管は、重さの割にはサイズが大きく、高い電圧/高い温度を伴うので、持ち運びできる省電力の用途に適さない。当該真空管の製造は、相当な割合の手作業を必要とする結果、当該真空管の特性のばらつきが大きくなり、生産コストを高くする(一般に、1個当たり数百ドル)。さらに、真空管は、その最適な性能に達し得る前に試運転期間を必要とする。
【0007】
本発明は、オーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成回路に関する。当該信号生成回路は、オーディオ信号源から入力電流信号を受け取り、この入力電流信号にしたがって磁場を生成するために構成された1つの磁場放射デバイスと、1つの第2磁気抵抗要素に直列に電気接続された1つの第1磁気抵抗要素とを有する。当該第1磁気抵抗要素は、第1電気抵抗を有する少なくとも1つの磁気抵抗セルから成り、当該第2磁気抵抗要素は、第2電気抵抗を有する少なくとも1つの磁気抵抗セルから成り、当該第1電気抵抗と当該第2抵抗との双方が、当該磁場によって変化する。入力電圧が、直列に接続されている当該第1磁気抵抗要素と当該第2磁気抵抗要素とにわたって印加されるときに、当該磁気抵抗に基づく信号生成回路が、当該第2磁気抵抗要素にわたって出力信号を提供する。当該出力信号が、当該電気抵抗の関数であり、ダイナミックレンジ圧縮効果を引き起こす。この場合、当該磁気抵抗セルが、磁気トンネル接合を有する。この場合、当該第1電気抵抗と当該第2抵抗とが、当該磁場によって反対方向に変化する。
【0008】
本発明は、例示され図面で示された実施の形態の説明によってより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1つの実施の形態によるオーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成デバイス(回路)を示す。
図2】1つの実施の形態による自己参照型MRAMセルから成る磁気抵抗セルを示す。
図3】MRAM素子から成る磁気抵抗セルに対するヒステリシスループを示す。
図4】入力電流の関数としての出力電圧のグラフを示す。
図5】1つの実施の形態による正弦入力電流の関数としての信号生成デバイスの出力電圧のグラフを示す。
図6】半導体線形増幅器の出力電圧のグラフを示す。
図7】正弦入力電流に対して取得された信号生成デバイスの電圧出力の高調波を、オーバードライブされた半導体線形増幅器の高調波と比較したグラフを示す。
図8】1つの実施の形態による半導体線形増幅器と組み合わせた信号生成デバイスを示す。
図9】1つの実施の形態による信号生成デバイスを示す。この場合、第1磁気抵抗要素と第2磁気抵抗要素とのそれぞれの磁気抵抗要素が、複数の磁気抵抗セルから成る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、1つの実施の形態によるオーディオアプリケーション用の磁気抵抗に基づく信号生成デバイスを示す。分圧器として構成された信号生成デバイス(回路)100が、第2磁気抵抗要素11に直列に電気接続された第1磁気抵抗要素10を有する。第1磁気抵抗要素10は、磁場42と共に変化する第1電気抵抗Rb1を有する磁気抵抗セル1の集合体から成り、第2磁気抵抗要素11は、磁場42と共に変化する第2電気抵抗Rb2を有する磁気抵抗セル1の集合体から成る。バイアス電圧Vddが、直列に接続された第1磁気抵抗要素10と第2測定抵抗要素とにわたって印加されるときに、この第2磁気抵抗要素11にわたる出力電圧Voutが、当該磁場と共に変化する。
【0011】
信号生成デバイス100は、(図1に示さなかった)オーディオ信号源から入力電流41を受け取り、当該入力信号41にしたがって磁場42を生成するために構成された磁場デバイス4をさらに有する。
【0012】
図1の例では、当該磁場デバイスは、磁場42を生成する入力電流41を通電するために構成された第1抵抗RFLを有する磁場用配線4として示されている。代わりに、磁場デバイス4は、入力電流41が(図示しなかった)外部コイルに通電されるときに、信号生成デバイス100の全体にわたって磁場を包括的に発生させる当該外部コイルから構成してもよい。
【0013】
1つの実施の形態では、当該磁気抵抗セルが、自己参照型MRAMセル1から成る。MRAMセル1の例が、図2に示されている。この特定の例では、この磁気抵抗セル1は、自由に配向可能なセンス磁化方向210を呈するセンス層21と、ピン止めされた記憶磁化方向230を呈する基準層23と、このセンス層21とこの基準層23との間に形成された分離層22とを含む磁気トンネル接合2を有する。信号生成デバイス100の通常の動作温度(一般に150℃未満)では、センス磁化方向210は、磁場デバイス4によって生成された磁場42に沿って配向される一方で、基準磁化方向230の方向は変更されないままである。したがって、磁気抵抗セル1の電気抵抗Rb1,Rb2が、1つの基準磁化方向230に対するセンス磁化方向210の相対配向の変化にしたがって変化する。図3は、MRAM素子に対するヒステリシスループ又は磁化曲線を示す。この場合、MRAM素子1の抵抗Rの変化が、入力電流I、すなわち磁場42の関数としてプロットされている。
【0014】
センス層21及び記憶層23は、磁性材料、特に強磁性型の磁性材料を含んでもよく、又は磁性材料、特に強磁性型の磁性材料から成ってもよい。強磁性材料は、特別の保持力を有する磁化によって特徴付けられ得る。当該保持力は、磁化が1つの方向に飽和された後に当該磁化を反転させるための磁場の大きさを示す。一般に、センス層21及び記憶層23は、同じ強磁性材料を含んでもよく、又は異なる強磁性材料を含んでもよい。センス層21は、軟磁性材料、すなわち比較的低い保持力を有する磁性材料を含んでもよい一方で、記憶層23は、硬磁性材料、すなわち比較的高い保持力を有する磁性材料を含んでもよい。こうして、センス層21の磁化方向は、入力電流41に応じて生成される低強度の磁場42の下で容易に変更され得る一方で、記憶磁化方向230は不変のままである。適切な強磁性材料は、典型元素を伴うか又は伴わない遷移金属、希土類元素及びそれらの合金を含む。例えば、適切な強磁性材料は、鉄(「Fe」)、コバルト(「Co」)、ニッケル(「Ni」)と、パーマロイ(又はNi80Fe20)のようなそれらの合金と、Ni、Fe及びホウ素(「B」)を母材とした合金と、CoFeと、Co、Fe及びBを母材とした合金とを含む。場合によっては、Ni及びFe(及びオプションでB)を母材とした合金は、Co及びFe(及びオプションでB)を母材とした合金よりも小さい保持力を有し得る。センス層21及び記憶層23のそれぞれの厚さは、約1nm〜約20nmのようなnmの範囲内にあり得る。センス層21及び記憶層23のその他の実装が考えられる。例えば、センス層21及び記憶層23の一方又は双方が、いわゆる合成反強磁性層のような複数の副層を有してもよい。代わりに、記憶層23は、合成強磁性構造を有してもよい。この合成強磁性構造は、安定性が向上し、記憶層23とセンス層21との間の静磁気結合を減少させる。
【0015】
1つの実施の形態では、分離層22が、絶縁材料を含み得るか又は絶縁材料から成り得るトンネル障壁層である。適切な絶縁材料は、酸化アルミニウム(例えば、Al)及び酸化マグネシウム(例えば、MgO)のような酸化物を含む。トンネル障壁層22の厚さは、約1nm〜約10nmのようなnmの範囲内にあり得る。
【0016】
磁気トンネル結合2は、ピニング層24をさらに含んでもよい。このピニング層24は、記憶層23に隣接するように配置されていて、ピニング層24内又はその近くの温度が低閾値温度Tにあるときに、交換バイアスを通じて記憶磁化方向230を特定の方向に沿って固定させる。当該温度が、高閾値温度Tにあるときに、ピニング層24は、記憶磁化方向230を解放又はデカップルすることで、記憶磁化方向230が、別の方向に切り替えられ得る。
【0017】
ピニング層24は、磁性材料、特に反強磁性の種類の磁気材料を含み得るか又は当該材料から成り得る。適切な反強磁性材料は、遷移金属及びそれらの合金を含む。例えば、適切な反強磁性材料は、イリジウム(Ir)及びMnを母材とした合金(例えば、IrMn)と、Fe及びMnを母材とした合金(例えば、FeMn)と、白金(Pt)及びMnを母材とした合金(例えば、PtMn)と、Ni及びMnを母材とした合金(例えば、NiMn)のようなマンガン(Mn)を母材とした合金とを含む。好ましくは、高温閾値温度Tが、約200℃〜約400℃の範囲内にあり得るように、すなわち信号生成デバイス100の通常の動作温度よりも十分に高くあり得るように、反強磁性材料は、Pt及びMnを母材とした(又はNi及びMnを母材とした)合金のような高温反強磁性体を含む。この場合、記憶磁化方向230は、製品の寿命中に固定され得る。
【0018】
1つのバリエーションでは、分離層22が、銅のような金属を含むか又は当該金属から形成され得る。この構成では、磁気抵抗素子1の磁気抵抗効果が、巨大磁気抵抗に基づく。
【0019】
(図示しなかった)別のバリエーションでは、分離層22は、異方性磁気抵抗効果を提供するNiFe合金のような強磁性の金属又は合金を含むか当該強磁性の金属又は合金から形成され得る。
【0020】
1つの実施の形態では、第1磁気抵抗要素10の第1抵抗Rb1が、第2磁気抵抗要素11の第2抵抗Rb2とは反対に変化する。
【0021】
磁気抵抗セル1が、上記のMRAMセルから成る場合には、第1磁気抵抗要素10内に構成された磁気抵抗セル1の記憶磁化方向230が、第2磁気抵抗要素11内に構成された磁気抵抗セル1の記憶磁化方向230とは反対の方向に指向され得る。当該記憶磁化方向230の指向は、スピン分極電流を磁気トンネル接合2に通電し、この磁気トンネル接合2を高閾値温度Tに加熱し、記憶磁化方向230を、例えば磁場方向に配向することによってプログラミン動作中に実行され得る。
【0022】
第1磁気抵抗要素10と第2磁気抵抗要素11とにおける磁気抵抗セル1の記憶磁化方向230の反対の指向に起因して、第1磁気抵抗要素10の第1抵抗Rb1が、同じ磁場に応じて第2磁気抵抗要素11の第2抵抗Rb2とは反対に変化する。例えば、第1抵抗Rb1が小さくなる一方で、第2抵抗Rb2が大きくなると、出力電圧Voutが、入力電流41にしたがって変化する。
【0023】
図4は、入力電流41の関数としての出力電圧Voutのグラフを示す。入力電流41が増大するにつれて、磁気抵抗セル1のセンス磁化方向210が、発生した磁場42の方向に徐々に飽和する。記憶磁化方向230に依存して、抵抗Rb1及びRb2が、低い値又は高い値になる。MRAMセル1が、磁場42の方向に徐々に飽和するにつれて、第1磁気抵抗要素10及び第2磁気抵抗要素11の抵抗Rb1及びRb2が、低い値又は高い値に徐々に飽和する。その結果、出力電圧Voutが、低い値(Vdd/2−Vsat)又は高い値(Vdd/2+Vsat)に徐々に飽和する。ここで、Vsatは、磁気抵抗セル1の飽和電圧である。出力電圧Voutのこの挙動は、真空管増幅器に特有の「ソフトクリップ」の挙動に相当するダイナミックレンジ圧縮効果を引き起こす。
【0024】
図5は、信号生成デバイス100の出力電圧Voutのグラフを増大する異なる4つの増幅値を有する正弦入力電流41の関数として示す。信号生成デバイス100のダイナミックレンジ圧縮効果は、飽和状態に達したときでも、出力電圧Voutが入力電流41の全ての増幅値に対して滑らかである結果をもたらす。ここで、用語の滑らかは、出力電圧Voutが、不連続性又は中断を有しない滑らかな関数によって示され得ることを意味する。
【0025】
図6は、信号生成デバイス100の出力電圧と同様な飽和閾値及び利得を有する半導体線形増幅器の出力電圧のグラフを、増大する異なる4つの増幅値を有する正弦入力電流の関数として示す。当該入力電流の振幅が、1つの閾値を超えるときに、当該半導体線形増幅器の出力電圧は、急激にクリップされる。当該半導体線形増幅器の出力電圧は、滑らかな「ソフトクリップ」する飽和を呈しないで、むしろ「ハードクリップ」する飽和を呈する。
【0026】
図7は、正弦入力電流41に対して取得された信号生成デバイス100の電圧出力Voutの高調波を、当該信号生成デバイス100の出力電圧と同様な飽和閾値及び利得を有する半導体線形増幅器の高調波と比較したグラフを示す。偶数次の高調波の欠落は、当該信号生成デバイス100及び当該半導体増幅器で考えられる回路トポロジーに起因し得る。
【0027】
信号生成デバイス100は、利得増幅のために特別に設計されておらず、むしろ信号を生成するために設計されている結果、出力電圧Voutを増幅するための線形半導体増幅器とみなされ得る。図8は、1つの実施の形態による、出力電圧(信号)Voutに直列に電気接続された線形半導体増幅器60をさらに有する信号生成デバイス100を示す。この線形半導体増幅器60は、利得段に基づくMOSFET又はオペアンプを有し得る。この半導体増幅器60が、その線形状態で常に動作することを確実にするように、この半導体増幅器60の利得が適合されなければならない。その結果、出力電圧信号Voutの波形が、この増幅ステップ中にさらに歪まない。
【0028】
図9に示された実施の形態では、それぞれの第1磁気抵抗要素10及び第2磁気抵抗要素11が、複数の磁気抵抗セル1を有する。図9の特別な例では、当該それぞれの第1磁気抵抗要素10及び第2磁気抵抗要素11は、複数の導電ストラップ3を介して直列に電気接続された複数のMRAMセル1を有する。このような構成では、第1抵抗Rb1が、第1磁気抵抗要素10内の複数の磁気抵抗セル1の複数の電気抵抗の平均値に相当し、第2抵抗Rb2が、第2磁気抵抗要素11内の複数の磁気抵抗セル1の複数の電気抵抗の平均値に相当する。第1抵抗Rb1及び第2抵抗Rb2の平均化された特性に起因して、その出力電圧Voutは、これらの磁気抵抗セルの製造工程で発生するばらつきに対してあまり敏感でない。それぞれの個々のMRAMセル1のヒステリシスな挙動が、当該平均の第1抵抗Rb1及び第2抵抗Rb2において相殺されやすい。
【0029】
図9の構成では、第1デバイスは、第1磁気抵抗要素10内の複数の磁気抵抗セル1をアドレス付けする第1部分4′と、第2磁気抵抗要素11内の複数の磁気抵抗セル1をアドレス付けする第2部分4″とを有する1つの磁場用配線4である。入力電流41が、磁場用配線4に通電されるときに、第1入力電流部分41′が、第1磁気抵抗要素10内のそれぞれの磁気抵抗セル1のセンス磁化方向210を配向させる第1磁場部分42′を生成する第1部分4′に通電される。第2入力電流部分41″が、第2磁気抵抗要素11内のそれぞれの磁気抵抗セル1のセンス磁化方向210を配向させる第2磁場部分42″を生成する第2部分4″に通電される。
【0030】
磁場用配線4のU字形に起因して、第1入力電流部分41′が、第2入力電流部分41″の極性とは反対の極性で第1部分4′に通電される。したがって、第1磁気抵抗要素10内のそれぞれの磁気抵抗セル1のセンス磁化方向210が、第2磁気抵抗要素11内のそれぞれの磁気抵抗セル1のセンス磁化方向210とは反対の方向に配向される(図9参照)。記憶磁化方向230が、そのプログラミングされた方向に配向されたままなので、磁場用配線4への入力電流の通電が、第1抵抗Rb1を第2抵抗Rb2とは反対に変化させる。
【0031】
磁場用配線4のU字形の代わりに、磁場用配線4は、第2部分″から独立して第1入力電流部分41′に通電するように制御される第1部分4′と、反対の極性を有する第2入力電流部分41″とを有してもよい。
【0032】
図9には、複数の磁気抵抗セル1が、複数のMRAMセルによって示されているが、これらの磁気抵抗セルは、巨大磁気抵抗、又は異方性磁気抵抗効果を提供する磁気抵抗要素又はこれらの磁気抵抗の任意の組み合わせに基づく1つの磁気抵抗要素から構成されてもよい。
【0033】
本発明は、上記の例示に限定されず、その他の例示も本特許の特許請求の範囲内で可能であることが分かる。
【0034】
例えば、それぞれの第1磁気抵抗要素10及び第2磁気抵抗要素11は、(図9の構成のような)複数の磁気抵抗セル1から構成でき、磁場デバイス4は、(図示しなかった)外部コイル、又は単一の生成デバイス100の全体にわたって磁場42を包括的に生成するように(図1に示されたような)1本の磁場用配線から構成できる。このような場合には、異なる構成又は(図1及び9のうちの1つの構成のような)分圧器の構成が、第2磁気抵抗要素11の第2抵抗Rb2とは反対に変化する第1磁気抵抗要素10の第1抵抗Rb1を提供することによって取得され得る。磁気抵抗セル1が、1つのMRAMセルから成る場合には、差動構成が、第1磁気抵抗要素10内に構成された磁気抵抗セル1の記憶磁化方向230を、第2磁気抵抗要素11内に構成された磁気抵抗セル1の記憶磁化方向230とは反対の方向にプログラミングすることによって達成され得る。
【0035】
第1磁気抵抗要素10及び第2磁気抵抗要素11内に構成された複数の磁気抵抗セル1は、直列に及び/又は並列に配置され得る。図示しなかった構成では、直列に接続された複数の磁気抵抗セル1から成る1つ又は複数の部分集合体がそれぞれ、並列に接続され得る。このような配置は、信号生成デバイス100のロバスト性(robustness)を向上させ得る。
【0036】
磁気抵抗セル1が、複数のMRAMセルから成る場合には、これらのMRAMセルは、長方形、円形及び楕円形を含む任意の適切な形を成す磁気トンネル接合を有し得る。
【0037】
図示しなかった別の構成では、信号生成デバイス100は、ただ1つの磁気抵抗セル1から成る。この場合、出力電圧Voutは、磁場42内の磁気抵抗セル1の変化する抵抗の応答に相当する。
【符号の説明】
【0038】
1 磁気抵抗セル、MRAMセル
10 第1磁気抵抗要素
11 第2磁気抵抗要素
100 磁気抵抗に基づく信号生成デバイス(回路)
2 磁気トンネル接合
21 センス層
210 センス磁化方向
22 トンネル障壁層
23 基準層
230 基準磁化方向
24 強磁性層
3 導電ストラップ
4 磁場デバイス、磁場用配線
4′ 磁場用配線の第1部分
4″ 磁場用配線の第2部分
41 入力電流
41′ 第1入力電流部分
41″ 第2入力電流部分
42 外部磁場
42′ 第1磁場部分
42″ 第2磁場部分
60 半導体増幅器
avg 平均抵抗
b1 第1抵抗
b2 第2抵抗
FL 磁場用配線抵抗
dd 入力電圧
out 出力電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9