特許第6784782号(P6784782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784782粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法及び粒状ポリアリーレンスルフィド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784782
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法及び粒状ポリアリーレンスルフィド
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0259 20160101AFI20201102BHJP
   C08G 75/0281 20160101ALI20201102BHJP
【FI】
   C08G75/0259
   C08G75/0281
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-567421(P2018-567421)
(86)(22)【出願日】2018年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2018003845
(87)【国際公開番号】WO2018147233
(87)【国際公開日】20180816
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-20743(P2017-20743)
(32)【優先日】2017年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】昆野 明寛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/199894(WO,A1)
【文献】 特開昭60−235838(JP,A)
【文献】 特開2001−089569(JP,A)
【文献】 特開2004−051732(JP,A)
【文献】 国際公開第03/029328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 75/00−75/32
79/00−79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を仕込む仕込み工程と、
前記混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる第1の重合工程と、
前記第1の重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する相分離剤添加工程と、
前記相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する第2の重合工程と、
前記第2の重合工程後に、前記反応混合物を冷却する冷却工程と、を含み、
前記相分離剤は水を含み、
前記仕込み工程における硫黄源に対するジハロ芳香族化合物のモル比は1.09〜1.100であり、
前記相分離剤添加工程における前記有機アミド溶媒に対する水のモル比は0.70〜3.0であり、
前記第2の重合工程における重合反応を245〜290℃の範囲で行い、
前記冷却工程における冷却速度は0.3℃/分以下である、温度310℃及び剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が0Pa・sである粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記第2の重合工程後の前記反応混合物のpHを8〜11とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相分離剤は、アルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物である請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状ポリアリーレンスルフィドの製造方法及び粒状ポリアリーレンスルフィドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記する)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と略記する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であるため、電気・電子機器、自動車機器等の広範な分野において汎用されている。
【0003】
成形時の流動性の観点から、高流動性、即ち、低溶融粘度のPASが求められており、開発が進められている。例えば、特許文献1には、16Pa・sという低溶融粘度の粒状PPSを得ることができる粒状PPSの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−010997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の製造方法により得られる粒状PASは、粒子強度が低いため、回収時に微粉化して収率が低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、特別な添加剤等を使用することなく、高粒子強度かつ低溶融粘度の粒状PASを高収率で得ることができる粒状PASの製造方法、及び粒状PASを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、粒状PASの製造に際し、第1の重合工程と、相分離剤添加工程と、第2の重合工程と、冷却工程と、をこの順に行い、相分離剤添加工程における有機アミド溶媒に対する水のモル比を0.6〜3.0とし、冷却工程における冷却速度を0.5℃/分以下とすることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明に係る粒状PASの製造方法は、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合させて、温度310℃及び剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が1〜30Pa・sである粒状PASを製造する方法であって、
有機アミド溶媒、硫黄源、水、ジハロ芳香族化合物、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる第1の重合工程と、
前記第1の重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する相分離剤添加工程と、
前記相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する第2の重合工程と、
前記第2の重合工程後に、前記反応混合物を冷却する冷却工程と、を含み、
前記相分離剤は水を含み、
前記相分離剤添加工程における前記有機アミド溶媒に対する水のモル比は0.6〜3.0であり、
前記第2の重合工程における重合反応を245〜290℃の範囲で行い、
前記冷却工程における冷却速度は0.5℃/分以下である。
【0009】
本発明に係る粒状PASの製造方法において、前記第2の重合工程後の前記反応混合物のpHを8〜11とすることが好ましい。
【0010】
本発明に係る粒状PASの製造方法において、前記相分離剤は、アルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る粒状PASは、上記方法によって得られ、平均粒子径が200〜5000μmであり、粒子強度が50%以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特別な添加剤等を使用することなく、高粒子強度かつ低溶融粘度の粒状PASを高収率で得ることができる粒状PASの製造方法、及び粒状PASを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[I.粒状PASの製造方法]
本発明に係る粒状PASの製造方法の一実施形態について以下に説明する。本実施形態における粒状PASの製造方法は、主な工程として、第1の重合工程と、相分離剤添加工程と、第2の重合工程と、冷却工程を含む。また、所望により、仕込み工程、脱水工程、後処理工程等を含むことができる。
【0014】
これらの工程のうち、相分離剤添加工程は、前記有機アミド溶媒に対する水のモル比を0.6〜3.0として行われる。また、冷却工程は、0.5℃/分以下の冷却速度で行われる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機アミド溶媒及び硫黄源を含む混合物を含有する、重合反応時の反応系内から水を含む留出物を反応系外に排出する工程である。
【0016】
硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しない水分量である限りにおいて脱水工程は必須ではないが、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0017】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程は、反応槽内で行われ、水を含む留出物は、反応槽外へ排出される。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水和水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0018】
脱水工程における加熱温度は、300℃以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは100〜250℃である。加熱時間は、15分〜24時間であることが好ましく、30分〜10時間であることがより好ましい。
【0019】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、仕込み混合物(後述)における硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」又は「有効硫黄源」とも称する)1.0モルに対して、好ましくは0.5〜2.4モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0020】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機アミド溶媒、硫黄源、水、及びジハロ芳香族化合物を含む混合物を仕込む工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0021】
脱水工程を行う場合、仕込み硫黄源(有効硫黄源)の量は、脱水工程で投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって算出することができる。
【0022】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。
【0023】
仕込み工程においては硫黄源1モルあたり、好ましくは0.95〜1.2モル、より好ましくは1〜1.09モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
【0024】
なお、有機アミド溶媒、硫黄源、ジハロ芳香族化合物及びアルカリ金属水酸化物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。例えば、有機アミド溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物又はN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。
【0025】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることが出来る。
【0026】
アルカリ金属硫化物としては、硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムを挙げることができる。
アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムを挙げることが出来る。
ジハロ芳香族化合物としてはo−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられ、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
【0027】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムを用いることができる。
【0028】
これらの材料は、単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0029】
(第1の重合工程)
第1の重合工程は、有機アミド溶媒、硫黄源、水、及びジハロ芳香族化合物、アルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%のプレポリマーを含有する反応混合物を生成させる工程である。第1の重合工程では、生成するポリマーが均一に有機アミド溶媒に溶解した反応系での重合反応が行われる。なお、本明細書において、反応混合物とは、上記重合反応で生じる反応生成物を含む混合物をいい、上記重合反応の開始と同時に生成が始まる。
【0030】
重合サイクル時間を短縮する目的のために、重合反応方式としては、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
【0031】
第1の重合工程では、仕込み工程で調製した混合物、即ち、仕込み混合物を温度170〜270℃の温度に加熱して重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50〜98モル%のプレポリマーを生成させることが好ましい。第1の重合工程での重合温度は、180〜265℃の範囲から選択することが、副反応や分解反応を抑制する上で好ましい。
【0032】
ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは60〜97%、より好ましくは65〜96%、更により好ましくは70〜95%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0033】
重合反応の途中で、水及び有機アミド溶媒の少なくとも1種の量を変化させてもよい。例えば、重合途中で水を反応系に加えることができる。ただし、第1の重合工程において、通常は、仕込み工程で調製した仕込み混合物を用いて重合反応を開始し、かつ第1の重合工程における反応を終了させることが好ましい。
【0034】
第1の重合工程の開始時において、水の含有量は、硫黄源1.0モル当たり0.5〜2.4モルであることが好ましく、0.5〜2.0モルであることがより好ましく、1.0〜1.5モルであることが更により好ましい。第1の重合工程の開始時において、水の含有量を上記範囲とすることで、硫黄源を有機アミド溶媒に可溶化し、反応を好適に進めることができる。
【0035】
(相分離剤添加工程)
相分離剤添加工程は、第1の重合工程後に、前記反応混合物に相分離剤を添加する工程である。相分離剤としては、水を含む限り、特に限定されず、水以外の相分離剤としては、例えば、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、及びパラフィン系炭化水素類からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。中でも、コストが安価で、後処理が容易な水が好ましい。また、有機カルボン酸塩と水との組合せ、特に、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物も好ましい。上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
【0036】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機アミド溶媒1kgに対し、通常、1〜10モルの範囲内である。特に、第2の重合工程における反応系内の水分量が有機アミド溶媒1kg当たり4モル超過20モル以下となるように、相分離剤添加工程において相分離剤として水を添加する方法を採用することが好ましい。本発明において、相分離剤は水を含み、相分離剤添加工程における有機アミド溶媒に対する水のモル比は、0.6〜3.0であり、粒子強度の観点から、好ましくは0.7〜2.0であり、より好ましくは0.8〜1.5である。相分離剤の使用量を上記範囲とすることで、粒子強度が高いPAS粒子を高収率で製造することができる。
なお、相分離剤として、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩と水とを含む混合物とを用いる場合、この混合物の使用量は、アルカリ金属カルボン酸塩の量が硫黄源1モル当たり30モル以下となるように調整することが好ましい。本実施形態に係る相分離剤の添加方法としては、特に限定されず、例えば、一度に全量を添加する方法や、複数回に分けて添加する方法が挙げられる。
【0037】
(第2の重合工程)
第2の重合工程は、相分離剤添加工程後に、重合反応を継続する工程である。第2の重合工程では、相分離剤の存在下で反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する、相分離重合が行われる。具体的には、相分離剤を添加することにより、重合反応系(重合反応混合物)をポリマー濃厚相(溶融PASを主とする相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒を主とする相)に相分離させる。第2の重合工程の最初に相分離剤を添加してもよいし、第2の重合工程の途中で相分離剤を添加して、相分離を途中で生ずるようにしてもよい。
【0038】
第2の重合工程での重合温度については、245〜290℃、好ましくは250〜285℃、より好ましくは255〜280℃に加熱して重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持してもよいし、必要に応じて、段階的に昇温又は降温してもよい。重合反応の制御の観点から、一定の温度に維持することが好ましい。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。
【0039】
収率向上の観点から、第2の重合工程後の反応混合物のpHを8〜11とすることが好ましく、9〜10.5とすることがより好ましい。反応混合物のpHを調整する方法としては、特に限定されず、例えば、仕込み工程におけるアルカリ金属水酸化物の含有量を調整する方法や、後からアルカリ金属水酸化物や無機酸及び/又は有機酸を添加する方法が挙げられる。
【0040】
(冷却工程)
冷却工程は、第2の重合工程後に、前記反応混合物を冷却する工程である。冷却工程において、前記反応混合物は、例えば、200℃まで冷却される。
冷却工程では、生成ポリマーを含有する液相を冷却する。冷却工程では、溶剤のフラッシュ等により液相を急冷するのではなく、0.5℃/分以下の冷却速度で徐冷することで、温度310℃及び剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が1〜30Pa・sである粒状PASの粒子強度を効果的に向上させることができる。粒状PASの粒子強度が向上しやすいことから、冷却速度は、0.4℃/分以下であることが好ましく、0.35℃/分以下であることがより好ましい。
徐冷は、重合反応系を周囲環境温度(例えば、室温)に曝す方法によって行うことができる。液相の冷却速度を制御するために、重合反応槽のジャケットに冷媒を流したり、液相をリフラックスコンデンサーで還流させたりする方法を採用することもできる。このような冷却速度の制御によって、粒状PASの粒子強度向上を促進することができる。
【0041】
(後処理工程)
後処理工程は、重合工程で得られたスラリーから不要な成分を除去し、PASを得る工程である。本発明のPASの製造方法における後処理工程は、PASの製造において通常用いられる工程であれば特に限定されない。
【0042】
重合反応の終了後、例えば、反応混合物を冷却してポリマーを含むスラリー(以下、「生成物スラリー」ということがある。)を得てもよい。冷却した生成物スラリーをそのまま、又は水等によって希釈した後に、濾別し、洗浄及び濾別を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。
【0043】
各種の固液分離後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄してもよい。また、PASを高温水等で洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0044】
[II.粒状PAS]
本発明に係る粒状PASは、本発明に係る上記製造方法によって得られ、平均粒子径が200〜5000μm、好ましくは、300〜3000μm、より好ましくは400〜1000μmであり、粒子強度が50%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは80%以上である。また、本発明に係る粒状PASは、本発明に係る上記製造方法によって得られるため、温度310℃及び剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度は、1〜30Pa・s、好ましくは2〜20Pa・s、より好ましくは3〜15Pa・sである。なお、粒状PASの溶融粘度は、乾燥ポリマー約20gを用いてキャピログラフを使用して、所定の温度及び剪断速度条件で測定することができる。このように、本発明に係る粒状PASは、溶融粘度が低いにもかかわらず、高い粒子強度を有し、好ましくは、大きい平均粒子径を更に有する。
【0045】
本明細書において、粒子強度とは、粒状PAS30g(A)に対し0.1質量%のカーボンブラックを添加し、目開き150μmの篩で篩分を行った後、微粉を除去した粒状PASを1LのPPボトルに移し、500gのガラスビーズを投入し、振盪機で300rpmにて30分破砕を行い、その破砕後、粒状PASを2830μmの目開きの篩で篩分して、ガラスビーズを除去し、150μmの目開きの篩で、破砕された微粉を除去し、篩上部の粒状PAS(その質量をBとする。)を計量したときに、B/A×100から算出した質量比をいう。
【0046】
本発明のPASは、そのまま、又は酸化架橋させた後、単独で、又は所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。
【0047】
本発明において、PASは、特に限定されず、ポリフェニレンスルフィド(PPS)であることが好ましい。
【0048】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0050】
(1)溶融粘度
PASの溶融粘度は、キャピラリーとして1.0mmφ、長さ10.0mmのノズルを装着した(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1C(登録商標)により測定した。設定温度を310℃とした。ポリマー試料を装置内に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,200sec−1で溶融粘度を測定した。
【0051】
(2)粒子強度
PAS30g(A)に対し0.1質量%のカーボンブラックを添加し、目開き150μmの篩で篩分を行った(初期微粉除去)。その後、微粉を除去したサンプルを1LのPPボトルに移し、500gのガラスビーズを投入し、振盪機(アズワン万能シェイカーAS−1N)で300rpmにて30分破砕を行った。破砕後、サンプルを2830μmの目開きの篩で篩分して、ガラスビーズを除去し、150μmの目開きの篩で、破砕された微粉を除去し、篩上部の粒状PAS(B)を計量した。粒子強度はB/A×100から算出した。
【0052】
(3)平均粒子径
PASの平均粒子径は、使用篩として、篩目開き2,800μm(7メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,410μm(12メッシュ(目数/インチ))、篩目開き1,000μm(16メッシュ(目数/インチ))、篩目開き710μm(24メッシュ(目数/インチ))、篩目開き500μm(32メッシュ(目数/インチ))、篩目開き250μm(60メッシュ(目数/インチ))、篩目開き150μm(100メッシュ(目数/インチ))、篩目開き105μm(145メッシュ(目数/インチ))、篩目開き75μm(200メッシュ(目数/インチ))、篩目開き38μm(400メッシュ(目数/インチ))の篩を用いた篩分法により測定し、各篩の篩上物の質量から、累積質量が50%質量となる時の平均粒径を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例1]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP6,001g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度61.64質量%)2,003g、及び水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.04質量%)1,181gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(HO)1010g、NMP908g、及び硫化水素(HS)12gを留出させた。
【0054】
(第1の重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,502g、NMP3,028g、水酸化ナトリウム20g、及び水143gを加え、撹拌しながら、220℃の温度で5時間反応させて、前段重合を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.100、HO/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。前段重合のpDCBの転化率は、93%であった。
【0055】
(相分離剤添加工程)
前段重合終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水624gを圧入した。相分離剤添加工程におけるNMPに対する水のモル比、即ち、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)は0.82であった。
【0056】
(第2の重合工程)
イオン交換水の圧入後、255℃まで昇温し、4時間反応させて後段重合を行った。
【0057】
(冷却工程)
重合終了後、255℃から230℃まで125分かけて冷却し、即ち、255℃から230℃までの冷却速度を0.2℃/分と設定し、その後、速やかに室温まで冷却を行った。
【0058】
(後処理工程)
得られたスラリーの10%希釈pHは10.1であった。オートクレーブの内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、アセトン、及びイオン交換水で洗浄後、酢酸水溶液で洗浄し、一昼夜乾燥を行い、粒状PPSを得た。溶融粘度は10Pa・sであり、粒子強度は91%であり、平均粒子径は573μmであり、収率は88.0%であった。
【0059】
[実施例2]
255℃から230℃まで冷却する時間を75分に変更して、冷却速度を0.3℃/分に変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。溶融粘度は9Pa・sであり、粒子強度は54%であり、平均粒子径は402μmであり、収率は85.4%であった。
【0060】
[実施例3]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP6,002g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度62.01質量%)2,003g、及び水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.57質量%)1,180gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約2時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(HO)986g、NMP871g、及び硫化水素(HS)30gを留出させた。
【0061】
(第1の重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,506g、NMP3,035g、水酸化ナトリウム22g、及び水125gを加え、撹拌しながら、220℃から260℃まで1.5時間かけて連続的に昇温しながら前段重合を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.095、HO/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。前段重合のpDCBの転化率は、94%であった。
【0062】
(相分離剤添加工程)
前段重合終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水588gを圧入した。相分離剤添加工程におけるNMPに対する水のモル比、即ち、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)は0.79であった。
【0063】
(第2の重合工程)
イオン交換水の圧入後、265℃まで昇温し、2時間反応させて後段重合を行った。
【0064】
(冷却工程)
重合終了後、265℃から230℃まで102分かけて冷却し、即ち、265℃から230℃までの冷却速度を0.34℃/分と設定し、その後、速やかに室温まで冷却を行った。
【0065】
(後処理工程)
得られたスラリーの10%希釈pHは9.6であった。オートクレーブの内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、アセトン、及びイオン交換水で洗浄後、酢酸水溶液で洗浄し、一昼夜乾燥を行い、粒状PPSを得た。溶融粘度は11Pa・sであり、粒子強度は85.2%であり、平均粒子径は573μmであり、収率は80.3%であった。
【0066】
[実施例4]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP6,000g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度61.98質量%)2,001g、及び水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.24質量%)1,201gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約2時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(HO)1024g、NMP654g、及び硫化水素(HS)28gを留出させた。
【0067】
(第1の重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,487g、NMP2,815g、水酸化ナトリウム12g、及び水158gを加え、撹拌しながら、220℃から260℃まで1.5時間かけて連続的に昇温しながら前段重合を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.090、HO/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。前段重合のpDCBの転化率は、93%であった。
【0068】
(相分離剤添加工程)
前段重合終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水627gを圧入した。相分離剤添加工程におけるNMPに対する水のモル比、即ち、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)は0.82であった。
【0069】
(第2の重合工程)
イオン交換水の圧入後、260℃まで昇温し、2時間反応させて後段重合を行った。
【0070】
(冷却工程)
重合終了後、260℃から230℃まで102分かけて冷却し、即ち、260℃から230℃までの冷却速度を0.29℃/分と設定し、その後、速やかに室温まで冷却を行った。
【0071】
(後処理工程)
得られたスラリーの10%希釈pHは9.8であった。オートクレーブの内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、アセトン、及びイオン交換水で洗浄後、酢酸水溶液で洗浄し、一昼夜乾燥を行い、粒状PPSを得た。溶融粘度は12Pa・sであり、粒子強度は84.3%であり、平均粒子径は402μmであり、収率は86.9%であった。
【0072】
[実施例5]
相分離剤添加工程で添加した水の量を980gに変更して、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)を1.06に変更した以外は実施例4と同様の操作を行った。溶融粘度は5Pa・sであり、粒子強度は81.8%であり、平均粒子径は437μmであり、収率は85.5%であった。
【0073】
[実施例6]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP5,999g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度61.98質量%)2,001g、及び水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.24質量%)1,210gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約2時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(HO)1042g、NMP651g、及び硫化水素(HS)28gを留出させた。
【0074】
(第1の重合工程)
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,357g、NMP2,808g、水酸化ナトリウム17g、及び水173gを加え、撹拌しながら、220℃から260℃まで1.5時間かけて連続的に昇温しながら前段重合を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.070、HO/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。前段重合のpDCBの転化率は、93%であった。
【0075】
(相分離剤添加工程)
前段重合終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水443gを圧入した。相分離剤添加工程におけるNMPに対する水のモル比、即ち、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)は0.70であった。
【0076】
(第2の重合工程)
イオン交換水の圧入後、265℃まで昇温し、2時間反応させて後段重合を行った。
【0077】
(冷却工程)
重合終了後、265℃から230℃まで102分かけて冷却し、即ち、265℃から230℃までの冷却速度を0.34℃/分と設定し、その後、速やかに室温まで冷却を行った。
【0078】
(後処理工程)
得られたスラリーの10%希釈pHは10.3であった。オートクレーブの内容物を目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで篩分けし、アセトン、及びイオン交換水で洗浄後、酢酸水溶液で洗浄し、一昼夜乾燥を行い、粒状PPSを得た。溶融粘度は27Pa・sであり、粒子強度は93.9%であり、平均粒子径は430μmであり、収率は87.6%であった。
【0079】
[実施例7]
第1の重合工程の缶内のpDCB/仕込みS(モル/モル)を1.060に変更した以外は実施例6と同様の操作を行った。溶融粘度は22Pa・sであり、粒子強度は92.0%であり、平均粒子径は522μmであり、収率は84.9%であった。
【0080】
[実施例8]
第1の重合工程の缶内のpDCB/仕込みS(モル/モル)を1.100に変更した以外は実施例6と同様の操作を行った。溶融粘度は8Pa・sであり、粒子強度は57.4%であり、平均粒子径は371μmであり、収率は82.0%であった。
【0081】
[実施例9]
相分離剤添加工程で、相分離剤として水の他に酢酸ナトリウム90g(相分離剤添加工程における仕込みS 1モル当たりの酢酸ナトリウムの量、即ち、相分離剤添加工程におけるCHCOONa/仕込みS(モル/モル)は0.05)を添加した以外は実施例8と同様の操作を行った。溶融粘度は9Pa・sであり、粒子強度は93.8%であり、平均粒子径は532μmであり、収率は80.6%であった。
【0082】
[比較例1]
255℃から230℃まで冷却する時間を37分に変更して、冷却速度を0.7℃/分に変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。溶融粘度は11Pa・sであり、粒子強度は28%であり、平均粒子径は451μmであり、収率は84.0%であった。
【0083】
[比較例2]
相分離剤添加工程で添加した水の量を441gに変更して、相分離剤添加工程におけるHO/NMP(モル/モル)を0.69に変更した以外は比較例1と同様の操作を行った。溶融粘度は11Pa・sであり、粒子強度は2.8%であり、平均粒子径は439μmであり、収率は78.3%であった。
【0084】
【表1】
【0085】
表1から明らかな通り、本発明では、低溶融粘度でありながら、高粒子強度の粒状PASを製造することができる。