特許第6784802号(P6784802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784802
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】き裂検査装置およびき裂検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/30 20060101AFI20201102BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G01B11/30 A
   G01B11/24 A
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-115803(P2019-115803)
(22)【出願日】2019年6月21日
(62)【分割の表示】特願2015-81102(P2015-81102)の分割
【原出願日】2015年4月10日
(65)【公開番号】特開2019-152681(P2019-152681A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 達哉
(72)【発明者】
【氏名】相川 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 行徳
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英彦
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−253905(JP,A)
【文献】 特開平5−256632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01N 21/84−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の形状を計測して得られた形状計測データと、前記形状計測データとの比較用の基準形状データとの位置調整を行う位置調整部と、
前記位置調整がされた前記形状計測データと前記基準形状データとを比較して、前記検査対象物においてき裂が存在する領域を特定するき裂領域特定部と、
前記き裂内の特定の点を検出するき裂検出部と、
前記特定の点の検出結果に基づいて、前記き裂の寸法を測定するき裂測定部と、
を備え、
前記位置調整部は、前記形状計測データおよび前記基準形状データの基準位置として、前記検査対象物であるガスタービンの静翼の内壁または外壁を選択し、前記形状計測データおよび前記基準形状データの前記基準位置を少なくとも3点でマッチングすることで、前記位置調整を行う、
き裂検査装置。
【請求項2】
前記き裂検出部は、前記特定の点として、前記き裂の下端点、側端点、開始点、および終了点の少なくともいずれかを検出する、請求項に記載のき裂検査装置。
【請求項3】
前記き裂検出部は、前記き裂の座標の変化率に基づいて、前記特定の点を検出する、請求項に記載のき裂検査装置。
【請求項4】
さらに、前記形状計測データおよび前記基準形状データの少なくともいずれかを用いて前記検査対象物の形状の輪郭を検出し、前記輪郭を2次元空間に投影した投影画像を作成する投影画像作成部を備える、請求項1からのいずれか1項に記載のき裂検査装置。
【請求項5】
さらに、前記き裂の形状データと前記投影画像との合成画像を作成する合成画像作成部を備える、請求項に記載のき裂検査装置。
【請求項6】
さらに、
前記検査対象物の形状を計測する計測部と、
前記検査対象物を前記計測部によりスキャンするスキャン部とを備え、
前記スキャン部は、前記計測部を移動させる移動部と、前記計測部を回転させる回転部と、前記検査対象物の位置を固定する固定部とを備える、請求項1からのいずれか1項に記載のき裂検査装置。
【請求項7】
さらに、前記計測部により計測された複数組の形状計測データを1組の形状計測データに合成する形状合成部を備え、
前記き裂領域特定部は、合成された前記形状計測データと、前記基準形状データとに基づいて、前記検査対象物において前記き裂が存在する領域を特定する、請求項に記載のき裂検査装置。
【請求項8】
位置調整部が、検査対象物の形状を計測して得られた形状計測データと、前記形状計測データとの比較用の基準形状データとの位置調整を行い、
き裂領域特定部が、前記位置調整がされた前記形状計測データと前記基準形状データとを比較して、前記検査対象物においてき裂が存在する領域を特定し、
き裂検出部が、前記き裂内の特定の点を検出し、
き裂測定部が、前記特定の点の検出結果に基づいて、前記き裂の寸法を測定する、
ことを含み、
前記位置調整部は、前記形状計測データおよび前記基準形状データの基準位置として、前記検査対象物であるガスタービンの静翼の内壁または外壁を選択し、前記形状計測データおよび前記基準形状データの前記基準位置を少なくとも3点でマッチングすることで、前記位置調整を行う、
き裂検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、き裂検査装置およびき裂検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所内の機器の検査では、目視検査、超音波探傷検査、渦流探傷検査(ECT:Eddy Current Testing)などの非破壊検査が行われることが多い。このような非破壊検査の検査対象物の例としては、ガスタービンの静翼が挙げられる。一般に、静翼の内在欠陥は、超音波探傷検査や渦流探傷検査により自動的に検出されて記録されるが、静翼の表面のき裂や減肉などの欠陥は、目視検査により手作業で検出されて記録されている。そのため、き裂や減肉の検査や補修には、多大な時間とコストがかかる。そこで、き裂や減肉の検査に関し、検査工程の歩留まりの向上と検査時間の短縮を可能とする自動検査が望まれる。
【0003】
き裂を検出する方法の例には、画像処理による方法と、形状データ比較による方法とがある。しかしながら、前者の方法では、検査対象物への照明の当たり方が悪いと、き裂の誤検出や未検出が生じる可能性がある。一方、後者の方法では、形状計測データと基準形状データとを比較する際に、検査対象物の経年的な変形が原因で、形状計測データと基準形状データの同一部分の形状が異なっている場合がある。この場合、形状計測データと基準形状データの位置調整がずれる可能性があり、き裂ではない部分やき裂からずれた部分がき裂として検出される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−309603号公報
【特許文献2】特開2014−202534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、形状データ比較によるき裂検出では、検査対象物の経年的な変形が原因で、形状計測データと基準形状データの位置調整がずれて、き裂ではない部分やき裂からずれた部分がき裂として検出される可能性がある。また、検査対象物に減肉により変形がある場合には、形状計測データと基準形状データの差異が広範囲で発生し、位置調整に悪影響が及ぶ可能性がある。また、形状計測データと基準形状データの差異が広範囲で発生すると、き裂が減肉部分に埋もれてしまい、き裂を検出できない可能性がある。さらに、き裂には通常の開口き裂の他に貫通き裂も存在しており、き裂の種類がき裂検出の精度に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、検査対象物のき裂を自動的かつ効率的に検出可能なき裂検査装置およびき裂検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一の実施形態によれば、き裂検査装置は、検査対象物の形状を計測して得られた形状計測データと、前記形状計測データとの比較用の基準形状データとに基づいて、前記検査対象物においてき裂が存在する領域を特定するき裂領域特定部を備える。さらに、前記装置は、前記き裂内の特定の点を検出するき裂検出部を備える。さらに、前記装置は、前記特定の点の検出結果に基づいて、前記き裂の寸法を測定するき裂測定部を備える。
【0008】
別の実施形態によれば、き裂検査方法は、き裂領域特定部が、検査対象物の形状を計測して得られた形状計測データと、前記形状計測データとの比較用の基準形状データとに基づいて、前記検査対象物においてき裂が存在する領域を特定することを含む。さらに、前記方法は、き裂検出部が、前記き裂内の特定の点を検出することを含む。さらに、前記方法は、き裂測定部が、前記特定の点の検出結果に基づいて、前記き裂の寸法を測定することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検査対象物のき裂を自動的かつ効率的に検出可能なき裂検査装置およびき裂検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態のき裂検査装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態のき裂検査装置の動作を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態の形状スキャン処理および形状合成処理について説明するための図である。
図4】第1実施形態の位置調整処理および形状比較処理について説明するための図である。
図5】第1実施形態のき裂検出処理およびき裂測定処理について説明するための図である。
図6】第1実施形態の投影画像および合成画像の作成処理について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のき裂検査装置の構成を示すブロック図である。図1のき裂検査装置は、検査対象物1のき裂を自動的に検査する装置である。検査対象物1の例は、ガスタービンの静翼である。
【0013】
図1のき裂検査装置は、計測部11と、スキャン部12と、制御部13と、演算部14と、表示部15と、記憶部16とを備えている。スキャン部12は、移動部21と、回転部22と、固定部23とを備えている。演算部14は、形状スキャン部31と、形状合成部32と、位置調整部33と、形状比較部34と、き裂領域特定部35と、き裂検出部36と、き裂分類部37と、き裂測定部38と、形状輪郭検出部39と、測定結果作成部40とを備えている。形状輪郭検出部39は、投影画像作成部の例である。測定結果作成部40は、合成画像作成部の例である。
【0014】
計測部11は、検査対象物1の表面形状を計測する。本実施形態の計測部11は、検査対象物1の表面形状を計測ヘッドにより光学的に計測するラインセンサである。
【0015】
スキャン部12は、検査対象物1の表面を計測部11によりスキャンする。本実施形態のスキャン部12は、検査対象物1の位置を固定部23により物理的に固定し、計測部11を移動部21および回転部22により検査対象物1に対して移動および回転させることで、検査対象物1の表面を計測部11によりスキャンすることができる。
【0016】
制御部13は、計測部11およびスキャン部12を計測計画に則って制御する。制御部13は、計測部11およびスキャン部12との間で信号を送受信することができる。
【0017】
演算部14は、種々のデータの演算を行う。演算部14は、制御部13、表示部15、および記憶部16との間で信号を送受信することができる。演算部14は例えば、計測部11およびスキャン部12を制御するための制御命令を制御部13に送信し、計測部11による計測データを制御部13から受信する。演算部14内の各ブロックの動作については、後述する。
【0018】
表示部15の例は、モニタである。表示部15は、計測部11の計測結果や演算部14の演算結果などの情報を表示するために使用される。
【0019】
記憶部16の例は、メモリやストレージである。記憶部16は、計測部11の計測結果や演算部14の演算結果などの情報を記憶するために使用される。
【0020】
図2は、第1実施形態のき裂検査装置の動作を示すフローチャートである。図2の説明の中で、図3図6も適宜参照する。
【0021】
(ステップS1〜S3)
き裂検査装置は、スキャン部12に取り付けられた計測部11により検査対象物1の形状を計測する。スキャン部12は、検査対象物1の全表面の形状を計測するために、3軸の移動部21および回転部22を備えている。また、スキャン部12は、形状計測中の検査対象物1と計測部11との位置関係を維持するために、固定部23により検査対象物1の位置を固定する。演算部14内の形状スキャン部31は、計測部11の原点からの移動量と回転量の現在値を取得および記録することが可能である。
【0022】
スキャン部12は、計測部11の移動と計測部11による計測とを繰り返し実行し、検査対象物1の全表面の形状を計測する(ステップS1〜S3)。ステップS1では、スキャン部12は、計測部11の形状計測位置を移動部21により移動し、計測部11の向きを回転部22により調整する。ステップS2では、スキャン部12は、検査対象物1を計測部11によりスキャンして、検査対象物1の形状計測データを取得する。
【0023】
図3(a)は、第1実施形態の形状スキャン処理について説明するための図である。スキャン部12は、検査対象物1の表面をラインKに沿ってスキャンして、ラインKにおける形状計測データを取得する。次に、スキャン部12は、矢印Dの方向に計測部11を移動させた後、検査対象物1の表面をラインKに沿ってスキャンして、ラインKにおける形状計測データを取得する。このようにして、ラインK〜Kにおける形状計測データが取得される。ラインK〜Kにおける形状計測データは、計測部11から制御部13を介して形状スキャン部31に送信され、検査対象物1ごとに記憶部16内に記録されて管理される。
【0024】
図3(a)は、検査対象物1に発生したき裂2を示している。ラインK〜Kにおける形状計測データは、後述するように、き裂2を検出するために使用される。き裂2の詳細については、後述する。
【0025】
ステップS1〜S3において、制御部13は次のように動作する。
【0026】
制御部13は、計測部11の設定を演算部14から取得して実行する。計測部11の設定の例は、1回の計測(スキャン)から次回の計測(スキャン)までの時間間隔、計測開始や計測終了のトリガー、形状計測データを平滑化するか否かの設定などである。また、制御部13は、移動部21や回転部22の動作設定も演算部14から取得して実行する。移動部21や回転部22の動作設定の例は、移動部21の移動速度や回転部22の回転速度である。
【0027】
制御部13は、記憶部16内に予め記録されている計測計画を読み出し、移動部21や回転部22を計測計画に則って自動的に動作させることができる。計測計画では、移動部21の形状計測位置、回転部22の回転角度、計測部11の計測タイミングなどが規定されている。
【0028】
検査対象物1の形状の計測シーケンスの例は、以下の第1シーケンスと第2シーケンスである。
【0029】
第1シーケンスでは、計測部11の移動および回転の開始、計測部11の移動および回転の終了、計測開始、計測終了を順に繰り返すことで、検査対象物1の形状を計測する。計測部11による計測はスキャン部12が停止している状態で行われるため、計測タイミングは通常は0秒に設定される。第1シーケンスでは、演算部14が計測計画を管理し、制御部13が計測部11、スキャン部12、および演算部14からの信号を送受信することで、第1シーケンスが自由に進行してしまうことを防止することができる。
【0030】
第2シーケンスでは、計測部11の移動および回転の開始、計測開始、計測終了、計測部11の移動および回転の終了を順に繰り返すことで、検査対象物1の形状を計測する。すなわち、第2シーケンスでは、計測部11を移動および回転させながら検査対象物1の形状を計測する。計測タイミングは、スキャン部12の移動速度に合わせて、計測計画に則るように設定される。
【0031】
なお、本実施形態のき裂検査装置は、1つの検査対象物1の形状を、第1シーケンスと第2シーケンスとを自動的に切り替えながら計測してもよい。例えば、計測計画が計測部11の回転を伴う箇所と計測部11の回転を伴わない箇所の計測を含んでいる場合、このような切り替えが行われる。
【0032】
(ステップS4、S5)
次に、形状合成部32は、検査対象物1の形状を計測して得られた複数組の形状計測データを記憶部16から読み出す。複数組の形状計測データの例は、複数のラインK〜Kにおける形状計測データである。形状合成部32は、読み出した複数組の形状計測データを1組の形状計測データに合成する(ステップS4)。その後、形状合成部32は、合成した1組の形状計測データのノイズをフィルタリング等により除去する(ステップS5)。
【0033】
図3(b)は、第1実施形態の形状合成処理について説明するための図である。形状合成部32は、図3(b)に示すように、複数のラインK〜Kにおける形状計測データを合成して1組の形状計測データ3を作成する。点Pは、検査対象物1の形状の計測点を示している。
【0034】
以下、ラインK〜Kにおける形状計測データを、形状計測データK〜Kと表記することにする。
【0035】
本実施形態の形状計測データK〜Kでは、計測点Pの位置が相対座標により表現される。一方、本実施形態の形状計測データ3では、計測点Pの位置が絶対座標により表現される。よって、形状計測データK〜Kを形状計測データ3に合成する際には、相対座標を絶対座標に変換する必要がある。
【0036】
本実施形態の形状合成処理は、以下の2つの方法のいずれかにより実行可能である。
【0037】
第1の方法では、形状計測データK〜Kの各々を計測する際に、検査対象物1と計測部11との距離を少なくとも3回測定する。具体的には、計測部11が、この距離を算出するためのデータを測定して形状合成部32に提供し、形状合成部32が、このデータから距離を算出する。
【0038】
形状計測データK〜Kの各々を計測する際に、検査対象物1と計測部11との3つの距離は次のように測定される。
【0039】
まず、計測部11の任意の形状計測位置を仮の原点に設定して、1つ目の距離を測定する。次に、2つ目の距離の測定前に、計測部11を移動および回転させ、式(1)の座標変換式に基づいて、移動部21の移動量と回転部22の回転角度から、計測部11の移動および回転後の形状計測位置を算出する。
【数1】
式(1)中の変換行列は、次の式(2)で表される。
【数2】
ただし、X、Y、Zは、座標変換前の形状計測データの座標値を表し、X’、Y’、Z’は、座標変換後の形状計測データの座標値を表す。X、Y、Zは、スキャン部12の基準位置を表す。X、Y、Zは、移動部21の移動量を表す。ω、φ、κは、回転部22の回転角度を表す。
【0040】
次に、計測部11の移動および回転後に、2つ目の距離を測定する。同様に、3つ目の距離の測定前に計測部11を移動および回転させ、計測部11の移動および回転後に3つ目の距離を測定する。
【0041】
次に、これら3つの距離を拘束条件として、式(1)の逆変換により、各形状計測位置の形状計測データの座標値を算出する。これにより、すべての形状計測位置における仮の原点を基準とした形状計測データの座標値を算出することが可能になる。この座標値が、上述の絶対座標に相当する。
【0042】
第2の方法では、上述の3軸のうちのいずれかを第1軸と定めたスキャン部12の基準位置を原点に設定して、基準位置に対する距離を測定する。このとき、基準位置を原点とするために、形状計測データの座標値を式(1)により変換する。この変換により、この原点を基準として形状計測データK〜Kを合成することが可能になる。
【0043】
なお、本実施形態の形状合成部32は、検査対象物1の全表面の形状計測データK〜Kを合成して1組の形状計測データ3を作成してもよいし、検査対象物1の一部の表面の形状計測データK〜Kのみを合成して1組の形状計測データ3を作成してもよい。後者の場合、1つの検査対象物1から複数組の形状計測データ3が作成され得る。
【0044】
(ステップS6、S7)
次に、位置調整部33は、形状計測データ3との比較用の基準形状データ4を記憶部16から読み出す(ステップS6)。次に、位置調整部33は、同じ検査対象物1の形状計測データ3と基準形状データ4とを比較するために、形状計測データ3と基準形状データ4との位置調整を行う(ステップS7)。
【0045】
図4は、第1実施形態の位置調整処理および形状比較処理について説明するための図である。図4(a)と図4(b)は、同じ検査対象物1の形状計測データ3と基準形状データ4の一例を示している。形状計測データ3と基準形状データ4は共に、四角形、十字形、帯形の構造物の形状データを含んでいる。しかしながら、形状計測データ3がき裂2の形状データを含んでいるの対し、基準形状データ4はき裂2の形状データを含んでいない。
【0046】
図4(c)は、形状計測データ3と基準形状データ4との差分をとって得られた差分形状データ5を示している。本実施形態の形状比較処理では例えば、この差分形状データ5を作成する処理が行われる。差分形状データ5は、き裂2の形状データは含んでいるが、四角形、十字形、帯形の構造物の形状データは含んでいないことに留意されたい。本実施形態の形状比較処理を正確に行うためには、形状計測データ3と基準形状データ4との位置調整を正確に行う必要がある。
【0047】
本実施形態の位置調整処理は、以下の3つの方法のいずれかにより実行可能である。
【0048】
第1の方法は、検査対象物1の形状が経年変化した場合にも位置調整を実行可能な方法である。例えば、一般的な方法では、形状計測データ3と基準形状データ4の基準位置または形状特徴量を少なくとも3点でマッチングすることで位置調整を行う。この場合、基準位置を手動により選択すると、形状計測データ3と基準形状データ4の基準位置が対応しない場合がある。そこで、第1の方法では、この一般的な方法を補正するために、形状計測データ3と基準形状データ4の基準位置やその周辺の形状計測データ3を形状特徴量として取り扱う。具体的には、基準位置やその周辺の形状計測データ3内の点やエッジを抽出し、抽出した点の法線ベクトルや抽出したエッジの座標値を算出し、これらの法線ベクトルや座標値を利用して基準位置の手動選択位置を補正する。
【0049】
そして、第1の方法では、形状計測データ3と基準形状データ4の補正された基準位置を少なくとも3点でマッチングすることで位置調整を行う。例えば、基準形状データ4に対する形状計測データ3の位置を、式(3)の座標変換式を用いた移動と回転により調整する。
【数3】
ただし、X、Y、Zは、座標変換前の形状計測データ3の座標値を表し、X’、Y’、Z’は、座標変換後の形状計測データ3の座標値を表す。X、Y、Zは、形状計測データ3の移動量を表す。ω、φ、κは、形状計測データ3の回転変換の角度を表す。
【0050】
第1の方法では、最小二乗法により基準位置の座標値の差分が最小となるように移動量と回転角度を決定する。
【0051】
第2の方法では、上述の一般的な方法の基準位置として、経年変化の影響を受けないまたは受けにくい位置を選択する。このような基準位置の例は、ガスタービンの静翼の内壁や外壁である。これにより、経年変化に起因する位置調整の誤差を低減することが可能となる。上述の式(3)は、第2の方法にも適用可能である。
【0052】
第3の方法では、形状計測データ3内の形状と基準形状データ4内の形状とが一致する領域を特定し、この領域内で上述の基準位置を選択する。このような領域は、形状計測データ3および基準形状データ4内の点やエッジを抽出し、抽出した点の法線ベクトルや抽出したエッジの形状を特定し、形状計測データ3と基準形状データ4との間で法線ベクトルやエッジ形状をマッチングすることで特定可能である。上述の式(3)は、第3の方法にも適用可能である。
【0053】
(ステップS8、S9)
次に、形状比較部34は、位置調整された形状計測データ3と基準形状データ4とを比較する(ステップS8)。例えば、形状比較部34は、形状計測データ3と基準形状データ4との差分形状データ5を作成する。次に、き裂領域特定部35は、形状計測データ3と基準形状データ4との比較結果に基づいて、検査対象物1においてき裂2が存在する領域を特定する(ステップS9)。以下、検査対象物1においてき裂2が存在する領域を、き裂領域と呼ぶ。
【0054】
次に、形状比較部34およびき裂領域特定部35による処理の一例を説明する。
【0055】
まず、形状比較部34は、形状計測データ3と基準形状データ4の計測点Pの座標値の差分を算出する。この座標値は、数学座標系の任意の軸に対する計測点Pの法線ベクトルの角度に置き換えてもよい。この場合、形状比較部34は、形状計測データ3と基準形状データ4の計測点Pの法線ベクトルの角度の差分を算出する。
【0056】
形状計測データ3と基準形状データ4との間で座標値の差分を算出する際、各計測点Pの水平方向の座標値(例えばX、Y座標)と奥行き方向の座標値(例えばZ座標)とが使用される。具体的には、形状比較部34は、形状計測データ3の計測点Pと基準形状データ4の計測点Pとが同じ水平座標値を有する場合、計測点Pの奥行き座標値と計測点Pの奥行き座標値との差分を算出する。また、形状比較部34は、形状計測データ3の計測点Pと同じ水平座標値を有する計測点が基準形状データ4に含まれない場合には、計測点Pと最も近い水平座標値を有する計測点を基準形状データ4から検索して差分算出に使用してもよい。また、形状比較部34は、形状計測データ3の計測点Pと同じ水平座標値を有する計測点が基準形状データ4に含まれない場合には、計測点Pと近い水平座標値を有する複数の計測点を基準形状データ4から検索して補間処理に使用してもよい。この場合、形状比較部34は、これらの計測点を用いた補間処理により計測点Pと同じ水平座標値を有する計測点の奥行き座標値を算出し、この奥行き座標値を差分算出に使用する。形状比較部34は、形状計測データ3の各計測点Pの奥行き座標値を差分値に置き換えることで、差分形状データ5を作成することができる。
【0057】
き裂領域特定部35は、差分形状データ5の各計測点Pで検査対象物1の形状が変化しているか否かを判断する。差分形状データ5のある計測点Pの奥行き座標値(差分値)が閾値未満である場合、き裂領域特定部35は、この計測点Pで検査対象物1の形状は変化していないと判断する。一方、差分形状データ5のある計測点Pの奥行き座標値が閾値以上である場合、き裂領域特定部35は、この計測点Pで検査対象物1の形状は変化していると判断する。そして、き裂領域特定部35は、検査対象物1の形状が変化している領域をき裂領域として特定する。
【0058】
また、形状計測データ3と基準形状データ4との間で法線ベクトルの角度の差分を算出する際には、各計測点Pの水平方向の座標値と法線ベクトルの角度とが使用される。具体的には、形状比較部34は、形状計測データ3の計測点Pと基準形状データ4の計測点Pとが同じ水平座標値を有する場合、計測点Pの法線ベクトルの角度と計測点Pの法線ベクトルの角度との差分を算出する。法線ベクトルを使用する場合の検索処理や補間処理は、奥行き座標を使用する場合と同様に実行可能である。き裂領域特定部35は、差分形状データ5の各計測点Pで検査対象物1の形状が変化しているか否かを、法線ベクトルの角度の差分が閾値以上であるか否かに基づいて判断する。
【0059】
ステップS8、S9によれば、き裂領域の特定に形状計測データ3そのものではなく差分形状データ5を使用することで、き裂領域を特定するための演算量を低減することが可能となる。
【0060】
(ステップS10〜S15)
図5は、第1実施形態のき裂検出処理およびき裂測定処理について説明するための図である。ステップS10〜S15については、図5を参照しながら説明する。
【0061】
図5(a)は、差分形状データ5から特定されたき裂領域の断面を示している。X方向は水平方向に平行であり、Y方向は奥行き方向に平行である。矢印Nは、X方向に平行な平面の法線方向を示しており、Y方向を向いている。
【0062】
き裂検出部36は、き裂領域特定部35により特定されたき裂領域を利用して、き裂2の下端点Paや側端点Pb、Pcを検出する(ステップS10、S11)。下端点Paは、き裂2の断面において、き裂2の底部(最深部)に相当する点である。側端点Pb、Pcは、き裂2の断面において、き裂2の縁部(最外部)に相当する点である。下端点Paや側端点Pb、Pcは、き裂2内の特定の点の例である。
【0063】
図5(b)の横軸は、き裂2のX座標を示している。図5(b)の縦軸は、き裂2のY座標の変化率を示している。すなわち、図5(b)の縦軸は、き裂2のX座標を変数とするき裂のY座標の導関数(dY/dX)を示している。
【0064】
き裂2の下端点Paや側端点Pb、Pcでは、この変化率が0になる。ただし、下端点Paの近傍では、変化率が負から正に変化する。一方、側端点Pb、Pcの近傍では、変化率が0から負または正から0に変化する。よって、き裂検出部36は、この変化率に基づいて、き裂2の下端点Paや側端点Pb、Pcを検出することができる。
【0065】
図5(c)は、き裂2の平面形状の一例を示している。き裂検出部36は、き裂2の複数の断面から複数の下端点Pa、複数の側端点Pb、複数の側端点Pcを検出することができる。図5(c)は、下端点Pa同士を線で結んだ下端線2aと、側端点Pb同士を線で結んだ側端線2bと、側端点Pc同士を線で結んだ側端線2cとを示している。符号Wは、き裂2の幅を示す。本実施形態のき裂2の幅Wは、側端線2b上の点と側端線2c上の点との間の距離に相当する。
【0066】
図5(c)はさらに、き裂2の開始点2dと、き裂2の終了点2eとを示している。開始点2dは、下端線2aの一方の端部側に位置するき裂2の端部であり、終了点2eは、下端線2aの他方の端部側に位置するき裂2の端部である。図5(c)では、き裂2の左端と右端をそれぞれを開始点2dと終了点2eと呼んでいるが、逆にき裂2の右端と左端をそれぞれを開始点2dと終了点2eと呼んでもよい。符号Lは、き裂2の長さを表す。本実施形態のき裂2の長さLは、き裂2の下端線2aに沿った開始点2dから終了点2eまでの積算距離に相当する。
【0067】
き裂分類部37は、検出対象物1から検出されたき裂2を分類する(ステップS12)。き裂検出部36は、き裂2の開始点2dや終了点2eを検出する(ステップS13)。開始点2dや終了点2eは、き裂2内の特定の点の例である。き裂測定部38は、き裂2の下端線2a(下端点Pa)、側端線2b(側端点Pb)、側端線2c(側端点Pc)、開始点2d、終了点2eなどの検出結果に基づいて、き裂2の長さLや幅Wを測定する(ステップS14)。長さLや幅Wは、き裂2の寸法の例である。
【0068】
次に、き裂検出部36、き裂分類部37、およびき裂測定部38による処理の一例を説明する。
【0069】
き裂検出部36は、差分形状データ5のき裂領域内の計測点Pの座標値や法線ベクトルを利用して、き裂2の形状を表す曲線の勾配(変化率)を算出し、この勾配に基づきき裂2の下端点Paを検出する。き裂2が検査対象物1を貫通している場合には、下端点Paは検出されない。この場合、このき裂2の下端点Paの検出結果は、エラー(検出不可)となる。
【0070】
き裂検出部36は、勾配が0となりかつ勾配が負から正に変化する計測点Pを、下端点Paとして検出する。ただし、勾配が負になる計測点Pと勾配が正になる計測点Pとが存在するものの、勾配が0になる計測点が存在しない場合には、き裂検出部36は、計測点P、Pを用いた補間処理により、計測点P、P間に下端点Paを検出する。このように、下端点Paは、計測点Pでもよいし、計測点P以外の点でもよい。
【0071】
この説明は、側端点Pb、Pcにも適用可能である。き裂検出部36は、勾配が0となりかつ勾配が0から負または正から0に変化する計測点Pを、側端点Pb、Pcとして検出する。この際、ある下端点Paからその隣の下端点Paまでの領域を側端点Pb、Pcの検索範囲として設定すれば、検索の演算量を低減することができる。側端点Pb、Pcの間の領域が、き裂2に相当する。
【0072】
なお、き裂分類部37は、側端点Pb、Pc間の距離が閾値よりも大きい場合には、このき裂2をき裂以外の欠陥(例えば減肉)と判定してもよい。また、き裂分類部37は、側端点Pb、Pc間に貫通があり、かつ側端点Pb、Pc間の距離が閾値よりも大きい場合には、このき裂2をき裂とは別の貫通と判定してもよい。これらの判定結果は、き裂情報として記憶部16内に保存される。これらの判定は、側端点Pb、Pc間の距離の代わりに幅Wを用いて行ってもよい。例えば、幅Wが所定値よりも小さいき裂2はき裂と判定され、幅Wが所定値よりも大きいき裂2は減肉と判定される。この所定値の例は、5mmである。
【0073】
また、き裂分類部37は、個々のき裂2を他のき裂2と識別するために、き裂領域内の各計測点Pの周囲を検索する。そして、き裂分類部37は、所定距離以内にある計測点P同士を1つのき裂2として識別する。例えば、き裂領域内の計測点P、P間の距離が所定距離よりも小さければ、計測点P、Pは同じき裂2に属すると判断される。一方、き裂領域内の計測点P、P間の距離が所定距離よりも大きければ、計測点P、Pは異なるき裂2に属すると判断される。
【0074】
き裂2の開始点2dと終了点2eは、様々な方法で検出可能である。例えば、ある方法では、個々のき裂2を直方体で囲い、直方体の体積を縮小していく。そして、き裂2内の2点が直方体に接する場合に、これらの2点を開始点2dと終了点2eとして検出する。また、別の方法では、単純に下端線2aの一方の端部と他方の端部を開始点2dと終了点2eとして検出する。
【0075】
開始点2dと終了点2eの区別は、例えばスキャン時の規則に従って設定することができる。例えば、上記の2点の第1点が、上記の2点の第2点よりも先にスキャンされた場合には、第1点を開始点2dとし、第2点を終了点2eとする。
【0076】
き裂測定部38は、き裂2の長さLを様々な方法で測定可能である。例えば、き裂測定部38は、開始点2dと終了点2eとの間の直線距離を長さLとして測定してもよいし、き裂2の形状に沿った開始点2dから終了点2eまでの積算距離を長さLとして測定してもよい。前者の長さLは、簡単に測定できるという利点がある。後者の長さLは、き裂2の長さをより正確に表現しているという利点がある。
【0077】
き裂測定部38は、1つのき裂2に対して1つの幅Wを計測してもよいし、1つのき裂2に対して複数の幅Wを計測してもよい。後者の場合、き裂測定部38は、下端線2a上の各下端点Paにおいて幅Wを計測してもよい。ある下端点Paにおける幅Wは、その下端点Paから下端線2aに直交する直線を引き、その直線と側端線2b、2cとの交点を求め、これらの交点間の距離を算出することで測定可能である。この場合、き裂測定部38は、き裂2の複数の幅Wの最大値、最小値、および平均値を算出してもよい。なお、き裂2の幅Wは、ステップS10、S11で下端点Paと側端線2b、2cを検出した直後に測定してもよいし、ステップS14で長さLを測定するときに測定してもよい。
【0078】
き裂測定部38は、き裂2の長さLが長さの閾値以上であるか否かと、き裂2の幅Wが幅の閾値以上であるか否かとを判定してもよい。この場合、長さLと幅Wが共に閾値以上であるき裂2のみが記憶部16に記録される。
【0079】
き裂分類部37は、個々のき裂2をラベリングし、個々のき裂2の下端線2a(下端点Pa)、側端線2b(側端点Pb)、側端線2c(側端点Pc)、開始点2d、終了点2e、長さL、幅Wなどの情報を記憶部16に記録する(ステップS15)。
【0080】
(ステップS16〜S19)
図6は、第1実施形態の投影画像および合成画像の作成処理について説明するための図である。ステップS16〜S19については、図6を参照しながら説明する。
【0081】
図6(a)は、検査対象物1の例である静翼を示す。この検査対象物1は、内壁1aと、外壁1bと、翼本体1c、1dとを備えている。図6(a)では、翼本体1c、1dが内壁1aと外壁1bとの間に設けられている。
【0082】
形状輪郭検出部39は、検査対象物1の各面を2次元画像として記録するために、基準形状データ4における検査対象物1の形状の輪郭を検出する(ステップS16)。輪郭の検出は、基準形状データ4および/または形状計測データ3の座標値を用いて行われる。これにより、内壁1a、外壁1b、翼本体1c、1dの輪郭(エッジ)が検出される。形状輪郭検出部39はさらに、検出された検査対象物1の輪郭を3次元空間上のある視点から2次元空間に投影した投影画像を作成する。
【0083】
図6(b)は、検査対象物1の投影画像の例を示している。符号6aの投影画像は、内壁1aの輪郭を2次元空間に投影した内壁画像である。符号6bの投影画像は、外壁1bの輪郭を2次元空間に投影した外壁画像である。符号6c、6dの投影画像はそれぞれ、翼本体1c、1dの輪郭を2次元空間に投影した翼本体画像である。図6(b)に示すき裂2の画像については、後述する。
【0084】
次に、形状輪郭検出部39による処理の一例を説明する。
【0085】
形状輪郭検出部39は、形状計測データ3と基準計測データ4の各々から、法線ベクトルや形状勾配を利用して形状変化点を検出する。次に、形状輪郭検出部39は、検出された形状変化点の中から、連続する形状変化点を検出する。連続しない形状変化点は、形状変化点同士の距離が閾値以内であれば、連続する形状変化点とみなされる。次に、形状輪郭検出部39は、連続する形状変化点を輪郭と判定する。
【0086】
次に、形状輪郭検出部39は、検出された検査対象物1の輪郭を3次元空間上のある視点から2次元空間に投影した投影画像を作成する。この視点は、き裂検査装置のユーザが指定可能である。例えば、検査対象物1を上面側から見た状態や側面側から見た状態の投影画像が作成される。視点の指定は、ユーザが視点の座標値を入力することで行ってもよい。また、視点の指定は、任意の視点からの検査対象物1の形状を表示部15に表示し、この視点をユーザがマウスやキーボードの操作により変更し、ユーザが所望の視点を表示部15上で決定することで行ってもよい。
【0087】
次に、測定結果作成部40は、ステップS15でラべリングされたき裂2の形状データと、ステップS16で作成された投影画像との合成画像を作成する(ステップS17)。図6(b)は、き裂2の形状データが内壁画像6a、外壁画像6b、翼本体画像6c、6dに合成された合成画像を示している。
【0088】
合成画像は例えば、表示部15に表示される。き裂検査装置のユーザは、表示部上15上の合成画像を見ることで、検査対象物1におけるき裂2の発生状況を視覚的に把握することができる。本実施形態では、個々のき裂2の長さLや幅Wなどの情報を表示部15に表示してもよい。例えば、長さLや幅Wは、き裂2のそばに表示してもよいし、き裂2をクリックすると表示されるようにしてもよい。
【0089】
次に、測定結果作成部40は、合成画像を検査対象物1ごとに記憶部16内に保存する(ステップS18)。さらに、測定結果作成部40は、き裂2の形状データや、き裂2の下端線2a(下端点Pa)、側端線2b(側端点Pb)、側端線2c(側端点Pc)、開始点2d、終了点2e、長さL、幅Wなどのき裂情報を、合成画像と共に検査対象物1ごとに記憶部16内に保存する(ステップS19)。このようにして、複数の検査対象物1の検査結果が検査対象物1ごとに一元管理される。
【0090】
以上のように、本実施形態のき裂検査装置は、形状計測データ3と基準形状データ4とに基づいてき裂2が存在する領域を特定し、き裂2の下端点Paや側端点Pb、Pcなどの特定の点を検出し、これらの点の検出結果に基づいてき裂2の長さLや幅Wなどの寸法を測定する。
【0091】
本実施形態によれば、このようなき裂検査装置により、検査対象物1のき裂2を自動的に検出することが可能となる。また、本実施形態によれば、き裂2の下端点Pa、側端点Pb、Pc、長さL、幅Wのように自動的に検出しやすい事項を利用してき裂2の位置や形状を具体的に検出することで、検査工程の歩留まりの向上や検査時間の短縮を実現することが可能となる。よって、本実施形態によれば、このようなき裂検査装置により、検査対象物1のき裂2を効率的に検出することが可能となる。
【0092】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0093】
1:検査対象物、1a:内壁、1b:外壁、1c、1d:翼本体、
2:き裂、2a:下端線、2b、2c:側端線、2d:開始点、2e:終了点、
3:形状測定データ、4:基準形状データ、5:差分形状データ、
6a:内壁画像、6b:外壁画像、6c、6d:翼本体画像、
11:計測部、12:スキャン部、13:制御部、
14:演算部、15:表示部、16:記憶部、
21:移動部、22:回転部、23:固定部、
31:形状スキャン部、32:形状合成部、33:位置調整部、34:形状比較部、
35:き裂領域特定部、36:き裂検出部、37:き裂分類部、38:き裂測定部、
39:形状輪郭検出部、40:測定結果作成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6