特許第6784807号(P6784807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784807
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】車両の風切音低減構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 37/02 20060101AFI20201102BHJP
   B62D 35/00 20060101ALI20201102BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B62D37/02 Z
   B62D35/00 Z
   B62D25/08 H
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-125949(P2019-125949)
(22)【出願日】2019年7月5日
(62)【分割の表示】特願2015-192619(P2015-192619)の分割
【原出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2019-189229(P2019-189229A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直人
(72)【発明者】
【氏名】堂ヶ平 雄作
【審査官】 岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−019480(JP,U)
【文献】 実開昭62−074085(JP,U)
【文献】 特開平06−312673(JP,A)
【文献】 実開昭47−034938(JP,U)
【文献】 実開昭59−009986(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
B62D 25/08
B62D 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインボディの上方に設けられたフロントガラスと、前記メインボディから後方に向かって上方に立ち上がるように設けられフロントガラスの側縁を支持するフロントピラーと、前記フロントガラスの下方に設けられ樋空間を構成するカウルと、を備えた車両であって、
略半円筒の部材であり、内面を幅方向内側に向けた姿勢で、前記樋空間の端部の幅方向外側に設けられており、幅方向両端に流通した空気を、前記フロントピラーの後方における前記メインボディの側面の上方を構成する部材の外面に案内する空気流ガイド部を備え
前記空気流ガイド部は、前記フロントピラーの後縁で空気の流れが剥離して生じた空気の縦渦に対して、縦渦の回転方向と異なる方向から空気の流れを衝突させる
ことを特徴とする車両の風切音低減構造。
【請求項2】
前記空気流ガイド部は、
前記樋空間の幅方向両端の外側に位置する前記メインボディの上面から上方に延びるように設けられ、
前記樋空間の幅方向両端に流通した後に前記メインボディの上面に沿って幅方向外側に向かって流通する空気を、縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとする
ことを特徴とする請求項に記載の車両の風切音低減構造。
【請求項3】
前記空気流ガイド部は、前記フロントピラーの下部、前記カウルの側端、フロントフェンダの後端部上面、フロントドア三角パネル側面の少なくとも一つに設けられている
ことを特徴とする請求項に記載の車両の風切音低減構造。
【請求項4】
前記カウルの側端には、前記樋空間に連続するとともに、前記メインボディの側面に開口を有する空気流排出路が設けられ、
前記空気流ガイド部は、前記空気流排出路における前記メインボディの側面側に設けられ、前記空気流排出路を流通した空気を縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとする
ことを特徴とする請求項に記載の車両の風切音低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントピラーの近傍で発生する風切音を抑制するための車両の風切音低減構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、車室の前面側の上部に設けられたフロントガラスと、フロントガラスの幅方向両側に設けられたフロントピラーと、を有している。フロントピラーは、下端側から上端側に向かってフロントガラスと共に後傾しており、後側にサイドウインドウが位置している。フロントガラスの下端にはボディの車幅方向に延びるカウルが設置されており、フロントガラスから流れ落ちた雨水の車外への排出や外気の車室への導入がこのカウルを介して行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カウルは、フロントガラスとフロントフードとの間に配置されており、近年では箱状のカウルボックスに代わり樋状のカウルパネルが主流となっている。通常、カウルパネルは、樹脂射出成形によって製造されており、フロントガラスの直下にU字断面形状やV字断面形状の樋が形成され、その両端部がフロントフェンダの幅方向内側に位置している。なお、樋は、平面視におけるフロントガラス下端の湾曲に沿うように、中央から左右に向かうにしたがって後方に向かうように湾曲している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−127365号公報
【特許文献2】特開2000−280934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車の走行時には、エンジン音やタイヤ音、各種風切音等が乗員にとって騒音となり、乗員の快適性を損なう要因となっている。特にフロントピラーの近傍における風切音(以下、単に風切音と記す)は、運転席や助手席の乗員の頭部に近い部位で発生するため、自動車の快適性が損なわれる原因となる。風切音は、フロントガラスの前面に沿って流通してフロントピラーから後方に流れる空気によって発生する。つまり、フロントガラスの前面に沿って流れる空気は、フロントピラーの後縁で剥離した直後に車体中心側に回り込む縦渦となり、フロントピラーの側方を流れる空気と衝突することで風切音を発生させる。
【0006】
風切音の大きさは、フロントピラーから後方に流れる空気の量との間に正の相関を有する。前述したカウルパネルを備えた自動車では、フロントピラーの下部で空気の流量が大きくなるため、風切音が大きくなる。すなわち、フロントフードの前面に沿って流れる空気は、その一部がカウルパネルの樋空間に吹き込んだ後、後方に向けて湾曲した樋空間を幅方向に流れる。樋空間の幅方向両端に流れた空気は、フロントフェンダの幅方向内側面に衝突して上方に向きを変えてフロントフェンダを乗り越え、フロントガラスの前面に沿って幅方向に流通してフロントピラーの下部に流れ込む空気の流れと合流する。その結果、フロントピラーの下部の後縁で剥離する空気の流量が増大し、上述の縦渦が大きくなって風切音が大きくなる。
【0007】
本発明の目的とするところは、フロントピラーの近傍の空気の流れに対するカウルパネルの樋空間を流通した空気の流れの合流を抑制し、風切音の低減を図ることのできる車両の風切音低減構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、メインボディの上方に設けられたフロントガラスと、前記メインボディから後方に向かって上方に立ち上がるように設けられフロントガラスの側縁を支持するフロントピラーと、前記フロントガラスの下方に設けられ樋空間を構成するカウルと、を備えた車両であって、略半円筒の部材であり、内面を幅方向内側に向けた姿勢で、前記樋空間の端部の幅方向外側に設けられており、幅方向両端に流通した空気を、前記フロントピラーの後方における前記メインボディの側面の上方を構成する部材の外面に案内する空気流ガイド部を備えている。
【0009】
これにより、カウルの樋空間を幅方向に流通した空気が、空気流ガイド部によってフロントピラーの後方におけるメインボディの側面の上方を構成する部材の外面に案内されることから、カウルの樋空間を幅方向に流通した空気がフロントピラーの後方に生じた縦渦に衝突する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カウルの樋空間を幅方向に流通した空気を、フロントピラーの後方に生じた縦渦に衝突させることによって、縦渦の運動エネルギーを低減させることが可能となり、風切音を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す自動車の全体斜視図である。
図2図1中A部の拡大平面図である。
図3図1中A部の拡大側面図である。
図4図2中のB−B拡大断面図である。
図5図2中のC−C拡大断面図である。
図6】実施形態の作用を示す要部平面図である。
図7】実施形態の作用を示す要部側面図である。
図8】本発明の他の実施形態を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図7は本発明の一実施形態を示すものである。
【0013】
本発明の風切音低減構造を備えた車両としての自動車1は、セダン型乗用車であり、図1に示すように、フロントフェンダ2、フロントフード3、フロントドア4、リヤドア5、リヤフェンダ6等を外殻とするメインボディ10を有している。メインボディ10からはフロントピラー11、センタピラー12およびリヤピラー13が上方に延設され、各ピラー11〜13の上端にルーフ14が支持されている。
【0014】
フロントピラー11やルーフ14には、車室の上部前面を画成するフロントガラス15の外縁が支持されている。フロントガラス15は全体が後傾した曲面形状を有しており、フロントピラー11はフロントガラス15の側端の傾斜に対応して後傾している。なお、フロントドア4およびリヤドア5にはそれぞれサイドガラス16,17が昇降自在に保持され、フロントドア4の上部にはドアミラー18が取り付けられている。なお、ドアミラー18は、フロントドア4の上端前部に設けられた三角パネル(ドアミラーガジェット)19に締結されている。
【0015】
フロントガラス15の下縁前方には、車幅方向に沿って樹脂射出成形品のカウルパネル20が装着されている。カウルパネル20は、雨中走行時にフロントフード3やフロントガラス15から流れてきた雨水を排出すべく、図4に示すように、円弧断面形状の樋溝21を有している。樋溝21は、フロントガラス15の下端の湾曲に沿うように中央から左右に向かうに連れて後方に向かうかたちで湾曲しており、フロントフード3の後方への延長線Lとの間に略半円断面の樋空間22を画成している。
【0016】
カウルパネル20には、図2に示すように、車室に外気を導入するための外気導入孔23が複数形成されるとともに、フロントフード3の下面に密着するラバーシール24が前端に装着されている。カウルパネル20の側端には、図5に示すように、カウルパネル20から樋空間22の幅方向外側に位置するメインボディ10に向かって立ち上がる立ち上がり部25が設けられている。尚、カウルパネル20は、バルクヘッドに取り付けられた図示しないワイパ機構(ワイパモータやワイパーアーム)等を覆っている。
【0017】
フロントフェンダ2の上面には、図2図3及び図5に示すように、樋空間22の端部の幅方向外側に位置する部位に樹脂射出成型品の空気流ガイド部31が設けられている。空気流ガイド部31は、半円筒断面を有する部材であり、半円筒の内面を幅方向内側に向けた姿勢で、樋空間22の端部の幅方向外側を前後方向に延設されている。また、空気流ガイド部31は、前端部から後端部に向かって半円筒の内径寸法が大きくなるように形成されている。
【0018】
以上のように構成された自動車1において、前進走行を行うと、フロントフード3の上部を流れてきた空気の大部分は、フロントガラス15からルーフ14やフロントピラー11を経由して後方に流れ、一部がカウルパネル20の樋空間22に流入する。
【0019】
フロントガラス15の前面に沿って幅方向に流通してフロントピラー11の後縁に流れた空気は、図6及び図7中に矢印で示すように、フロントピラー11の後縁で剥離した直後に車体中心側に回り込む縦渦となり、フロントピラー11の側方を流通する空気と衝突することで風切音を発生させる。
【0020】
一方、樋空間22に流入した空気は、図6に示すように、両端側が後方に向くように湾曲した樋溝21に沿って樋空間22内を幅方向の端部に向かって流通した後、図5に示すように、立ち上がり部25に沿ってフロントフェンダ2の上面まで流通する。フロントフェンダ2の上面まで流通した空気は、図5に示すように、空気流ガイド部31の半円筒の内面に沿って下部から上方に流通し、フロントピラー11の後側に生じる縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとなり、図6及び図7に示すように、フロントピラー11の後側における三角パネル19及びサイドガラス16に向かって流通する。
【0021】
その結果、カウルパネル20に流入した空気は、縦渦の回転方向と反対の回転方向の空気の流れとなって、フロントピラー11の後側に生じる縦渦に対して衝突するため、縦渦の運動エネルギーが減少して風切音が効果的に低減される。
【0022】
このように、本実施形態の風切音低減構造によれば、樋空間22の幅方向両端に流通した空気を、フロントピラー11の後側におけるメインボディ10の側面の上方を構成する部材の外面に案内する空気流ガイド部31を備えている。
【0023】
これにより、カウルパネル20の樋空間22を幅方向に流通した空気を、フロントピラー11の後方に生じた縦渦に衝突させることによって、縦渦の運動エネルギーを低減させることが可能となり、風切音を低減することが可能となる。
【0024】
また、空気流ガイド部31は、フロントピラー11の後縁で空気の流れが剥離して生じた空気の縦渦に対して、縦渦の回転方向と異なる方向から空気の流れを衝突させる。
【0025】
これにより、空気流ガイド部31で案内された空気によって縦渦の運動エネルギーを確実に低減させることが可能となり、風切音を低減する効果を高めることが可能となる。
【0026】
また、空気流ガイド部31は、樋空間22の幅方向両端の外側に位置するメインボディ10の上面から上方に延びるように設けられ、樋空間22の幅方向両端に流通した後にメインボディ10の上面に沿って幅方向外側に向かって流通する空気を、縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとする。
【0027】
これにより、フロントピラー11の後方に生じた縦渦に対して、縦渦の回転方向と反対の回転方向に流れる空気を衝突させることで、縦渦の運動エネルギーをより確実に低減させることが可能となり、風切音を低減する効果をより高めることが可能となる。
【0028】
図8は、本発明の他の実施形態を示すものである。尚、前記実施形態と同様の構成部分には、同一の符号を付して示す。
【0029】
フロントフェンダ2には、図8に示すように、前後に長い長円形の開口としての空気流排出孔32が形成されている。空気流排出孔32は、側方視で樋空間22と略同位置、すなわち、前後方向でフロントピラー11の基部の直前、上下方向でメインボディ10に対するフロントピラー11の立ち上がり開始部より下方に位置している。
【0030】
カウルパネル20の側端には、樋空間22とフロントフェンダ2の空気流排出孔32とを連通させるべく、樹脂射出成形品で筒状の空気流排出路としての空気流排出ダクト41が設置されている。
【0031】
本実施形態の空気流ガイド部42は、空気流排出ダクト41のフロントフェンダ2の側面側に設けられている。
【0032】
以上のように構成された自動車1では、前進走行を行うと、樋空間22に流入した空気は、両端側が後方に向くように湾曲した樋溝21に沿って樋空間22内を幅方向の端部に向かって流通し、空気流排出ダクト41に導入された後、空気流排出ダクト41内を通過して空気流排出孔32から排出される。空気流排出孔32から排出される空気の一部は、空気流排出ダクト41の外端41b側に配置された空気流ガイド部42の半円筒の内面に沿って下部から上方に流通し、図8に示すように、フロントピラー11の後側に生じる縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとなり、フロントピラー11の後側における三角パネル19及びサイドガラス16に向かって流通する。
【0033】
その結果、カウルパネル20に流入した空気は、縦渦の回転方向と反対の回転方向の空気の流れとなって、フロントピラー11の後側に生じる縦渦に対して衝突するため、縦渦の運動エネルギーが減少して風切音が効果的に低減される。
【0034】
このように、本実施形態の風切音低減構造によれば、前記実施形態と同様に、カウルパネル20の樋空間22を幅方向に流通した空気を、フロントピラー11の後方に生じた縦渦に衝突させることによって、縦渦の運動エネルギーを低減させることが可能となり、風切音を低減することが可能となる。
【0035】
また、カウルパネル20の側端には、樋空間22に連続するとともに、メインボディ10の側面に空気流排出孔32を有する空気流排出ダクト41が設けられ、空気流ガイド部42は、前記空気流排出ダクト41におけるメインボディ10の側面側に設けられ、空気流排出ダクト41を流通した空気を縦渦の回転方向と反対の回転方向の流れとする。
【0036】
これにより、フロントピラー11の後方に生じた縦渦に対して、縦渦の回転方向と反対の回転方向に流れる空気を衝突させることで、縦渦の運動エネルギーをより確実に低減させることが可能となり、風切音を低減する効果をより高めることが可能となる。
【0037】
尚、本発明は前記実施形態に限られるものではなく、種々に変更実施可能である。例えば、前記実施形態は、本発明をセダン型乗用車に適用したものであるが、ワンボックス型自動車やミニバン型(いわゆる、1.5ボックス型)自動車、コンバーチブル型自動車等にも当然に適用可能である。また、前記実施形態では空気流ガイド部として、半円筒断面を有する部材からなるものを採用したが、縦渦の回転方向と反対の回転方向の空気の流れを形成できるものであればよく、例えば平面板を複数組み合わせた空気流ガイド部を採用してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では空気流ガイド部からフロントピラーの下部に向けて斜め上方に空気流すようにしたが、フロントピラーの下端から真上に向けて空気流を導出するようにしてもよく、この場合にも縦渦を乱すことによって風切音を低減させることができる。また、カウルパネルは、鋼板等のプレス成型品であってもよいし、逆三角断面の樋空間を画成するV字断面形状の樋溝を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…自動車、2…フロントフェンダ、3…フロントフード、10…メインボディ、11…フロントピラー、15…フロントガラス、20…カウルパネル、21…樋溝、22…樋空間、31…空気流ガイド部、41…空気流排出ダクト、42…空気流ガイド部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8