特許第6784845号(P6784845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784845
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】センサIC
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   G01N27/22 Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-532417(P2019-532417)
(86)(22)【出願日】2018年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2018021252
(87)【国際公開番号】WO2019021629
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-144844(P2017-144844)
(32)【優先日】2017年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(72)【発明者】
【氏名】満仲 健
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晶
(72)【発明者】
【氏名】芦田 伸之
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−075539(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/010182(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0109004(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 − 27/10
G01N 27/14 − 27/24
H01L 21/822
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器を構成するインダクタと、
前記インダクタに接続されている、少なくとも1つの電極部と、
前記電極部と隣接して配置されている誘電泳動電極とを備えており、
前記誘電泳動電極は、前記誘電泳動電極と被検査体との間で誘電泳動を発生させ、
前記被検査体が載せられる面である被搭載面と前記インダクタとの距離は、前記被搭載面と前記電極部との距離より大きく、かつ、前記被搭載面と前記誘電泳動電極との距離より大きいことを特徴とするセンサIC。
【請求項2】
前記インダクタの少なくとも一部は、第1メタル層によって形成されており、
前記電極部および前記誘電泳動電極は、前記第1メタル層に対して積層されている第2メタル層によって形成されており、
前記第2メタル層の厚みは、3マイクロメートル以上であることを特徴とする請求項1に記載のセンサIC。
【請求項3】
前記誘電泳動電極は、前記被検査体を捕獲する、または、前記被検査体を放出することを特徴とする請求項1または2に記載のセンサIC。
【請求項4】
前記被搭載面の上面視において、前記誘電泳動電極が露出していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセンサIC。
【請求項5】
前記インダクタ、前記電極部、および前記誘電泳動電極を含むセンシング単位を複数有しており、
複数のセンシング単位が、アレイ状に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセンサIC。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサICに関する。
【背景技術】
【0002】
各家庭または簡易診断所等で利用される、人体の診断機器には、低価格化、小型化、検査時間の短縮化、および操作の簡便化等が要求される。半導体集積回路上に形成されたセンサIC(Integrated Circuit:集積回路)は、これらの要求を満たすことができる。
【0003】
従来技術の一例として、非特許文献1には、半導体集積回路上に形成されたセンサICが開示されている。図14の(a)は、従来技術に係るセンサIC100の上面図の概略図、図14の(b)は、当該概略図のA−B線断面図である。
【0004】
センサIC100は、半導体基板110と、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)および/またはバイポーラトランジスタ等を含むトランジスタ群111と、複数のメタル層からなる配線層112とを備えている。センサIC100においては、複数のメタル層のいずれかで形成されたインダクタ113と、差動端子間に任意に接続された容量114とを用いた共振により、高周波発振器115を形成する。高周波発振器115は例えば、NMOSトランジスタM1およびM2、ならびにPMOSトランジスタM3およびM4をクロスカップル接続した回路を含んでいる。なお、図14の(a)および(b)においては、インダクタ113が複数のメタル層における最上位メタル層で形成されている例を示している。最上位メタル層の上には、適切な厚さの保護膜116が積層されている。インダクタ113を最上位メタル層で形成することによって、インダクタ113および容量114からなるLC共振回路のQ値を向上させることができる。
【0005】
センサIC100は、図15に示すように、センサIC100上に、水分を含む被検査体117が載せられることによって、高周波発振器115の発振周波数が変化する。この高周波発振器115の発振周波数の変化を観察することにより、センサIC100においては、インダクタ113上の水分を含む被検査体117の誘電率の変化を確認することができる。具体的には、水分を含む被検査体117をセンサIC100上に載せると、水の複素誘電率と空気の複素誘電率とが異なることに起因して、高周波発振器115の発振周波数が変化する。そして、センサIC100においては、誘電率の違いを当該発振周波数の違いとして見分けることができる。なお、高周波発振器115の空気中における発振周波数は、例えばおよそ100GHzに設定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takeshi Mitsunaka, Daiki Sato, Nobuyuki Ashida, Akira Saito, Kunihiko Iizuka, Tetsuhito Suzuki, Yuichi Ogawa, and Minoru Fujishima,"CMOS Biosensor IC Focusing on Dielectric Relaxations of Biological Water With 120 and 60GHz Oscillator Arrays", IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol.51, No.11, pp.2534-2544, Nov. 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図16の(a)は、センサIC100上に載せられた溶液118中に細胞(被検査体)119を含める前に評価する場合を図示した上面図の概略図である。図16の(b)は、当該概略図のC−D線断面図である。図17の(a)は、センサIC100上に載せられた溶液118中に細胞119を含めた後に評価する場合を図示した上面図の概略図である。図17の(b)は、当該概略図のC−D線断面図である。
【0008】
まず、図16の(a)および(b)に示すように、溶液118のみを評価し、溶液118の特性を初期状態として記憶する。この時点では、溶液118中に細胞119は存在していないので、高周波発振器115の発振周波数は溶液118のみを評価したときの発振周波数である。次に、溶液118のみを評価した場合に沿って、適切な条件下で溶液118に細胞119を挿入すると、図17の(a)および(b)に示すように、細胞119は重力等によりセンサIC100上に接着する。溶液118の誘電率と細胞119の誘電率とは異なるため、複素誘電率の変化が、高周波発振器115の発振周波数の変化として計測される。
【0009】
ここで、センサIC100においては、細胞119がセンサIC100上に接着する位置に依存して、センシング結果にバラつきが生じる虞があるという問題が発生する。以下、この問題について、図18を参照して詳細に説明する。
【0010】
図18は、センサIC100上面上の2点XおよびYを結ぶ直線Z上における樹脂針121の位置(横軸:移動量で表示)と、高周波発振器115の発振周波数の変化(縦軸)と、の関係を示すグラフである。図18においては、点X、点Y、および直線Zと、センサIC100上面と、当該グラフの横軸と、の対応関係を併せて示している。また、樹脂針121の誘電率εは、6としている。
【0011】
細胞119はインダクタ113に比べて小さい。インダクタ113上の細胞119の接着位置によって、細胞119が持つ誘電率が高周波発振器115の発振周波数に与える影響が変わる。高周波発振器115の計測感度は、図18に示すグラフによれば、誘電体である樹脂針121の位置に依存して、発振周波数の変化の大きさが異なる。
【0012】
具体的には、樹脂針121が電極部122またはその近傍の上に位置する場合、当該発振周波数の変化が極端に大きくなっている。なぜなら、電極部122の上が、最も当該発振周波数の変化が大きい(換言すれば、最も感度が高い)ためである。なお、電極部122は、インダクタ113と、NMOSトランジスタM1およびM2、ならびにPMOSトランジスタM3およびM4と、の接続部分である。また、樹脂針121がインダクタ113の上に位置する場合の当該発振周波数の変化は、総じて、樹脂針121がインダクタ113の上以外に位置する場合の当該発振周波数の変化と比べて若干大きい。なぜなら、インダクタ113の上が、インダクタ113の上以外と比較して当該発振周波数の変化が大きい(換言すれば、感度が高い)ためである。
【0013】
本発明の一態様は、センシング結果にバラつきが生じる虞を低減することを可能とするセンサICを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るセンサICは、発振器を構成するインダクタと、前記インダクタに接続されている、少なくとも1つの電極部と、前記電極部と隣接して配置されている誘電泳動電極とを備えており、前記誘電泳動電極は、前記誘電泳動電極と被検査体との間で誘電泳動を発生させ、前記被検査体が載せられる面である被搭載面と前記インダクタとの距離は、前記被搭載面と前記電極部との距離より大きく、かつ、前記被搭載面と前記誘電泳動電極との距離より大きいことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、センシング結果にバラつきが生じる虞を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本発明の実施の形態1に係るセンサICの上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。
図2】(a)は、本発明の実施の形態1の第1変形例に係るセンサICの上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。
図3】(a)は、本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセンサICの上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。
図4】(a)は、被搭載面に被検査体を含む液体を載せた状態を示す上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図5】(a)は、図4の(a)に示した状態から、被検査体がインダクタ上に位置している状態を示す上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図6】(a)は、図5の(a)に示した状態から、誘電泳動電極により被検査体を電極部上に移動させた状態を示す上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図7】(a)は、図6の(a)に示した状態から、別の被検査体がインダクタ上に位置している状態を示す上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図8】被検査体を含む液体が本発明の実施の形態1に係るセンサIC上に載った場合の構成を示す等価回路である。
図9】(a)および(b)のそれぞれは、インダクタの変形例を示す上面図である。
図10】(a)は、本発明の実施の形態2に係るセンサICの主要部の上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図11】(a)は、本発明の実施の形態2に係るセンサICの主要部において、誘電泳動電極により被検査体を電極部上に移動させた状態を示す上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
図12】本発明の実施の形態3に係るセンサICの概略図である。
図13】本発明の実施の形態1に係るセンサICの被搭載面からの距離と、高周波発振器の発振周波数の変化量との関係を示すグラフである。
図14】(a)は、従来技術に係るセンサICの上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のA−B線断面図である。
図15】従来技術に係るセンサIC上に、水分を含む被検査体が載せられる様子を示す断面図である。
図16】(a)は、従来技術に係るセンサIC上に載せられた溶液中に被検査体を含める前に評価する場合を図示した上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC−D線断面図である。
図17】(a)は、従来技術に係るセンサIC上に載せられた溶液中に被検査体を含めた後に評価する場合を図示した上面図の概略図であり、(b)は、当該概略図のC−D線断面図である。
図18】従来技術に係るセンサIC上面上の2点を結ぶ直線上における誘電体の位置と、高周波発振器の発振周波数の変化と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する場合がある。
【0018】
〔実施の形態1〕
図1の(a)は、本発明の実施の形態1に係るセンサIC1の上面図の概略図、図1の(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。図2の(a)は、本発明の実施の形態1の第1変形例に係るセンサIC2の上面図の概略図、図2の(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。図3の(a)は、本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセンサIC3の上面図の概略図、図3の(b)は、当該概略図のA1−B1線断面図である。
【0019】
センサIC1は、半導体基板10と、CMOSおよび/またはバイポーラトランジスタ等を含むトランジスタ群11と、複数のメタル層からなる配線層12とを備えている。また、センサIC1は、2個の電極部18を備えている。2個の電極部18は、それぞれ、インダクタ15の両端に接続されており、差動端子を構成している。2個の電極部18はいずれも、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、最上位メタル層(第2メタル層)13によって形成されている。
【0020】
また、センサIC1は、インダクタ15と、容量16とを備えている。インダクタ15は、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、最上位メタル層13の1層下である第2位メタル層(第1メタル層)14によって形成されている。最上位メタル層13は、第2位メタル層14に対して積層されている。また、容量16は、2個の電極部18の間に接続されている。そして、センサIC1においては、インダクタ15と、容量16および電極部18等の合成容量と、を用いた共振により、高周波発振器17を形成する。高周波発振器17は例えば、NMOSトランジスタM1およびM2、ならびにPMOSトランジスタM3およびM4をクロスカップル接続した回路を含んでいる。2個の電極部18は、それぞれ、インダクタ15と、NMOSトランジスタM1およびM2、ならびにPMOSトランジスタM3およびM4と、の接続点P1およびP2に形成されている。
【0021】
最上位メタル層13および第2位メタル層14は、インダクタ15および前記合成容量からなる共振回路のQ値を向上させるため、例えば厚みが1マイクロメートル以上であることが好ましいが、この限りではない。
【0022】
特に、最上位メタル層13の厚みは、3マイクロメートル以上であることが好ましい。インダクタ15を形成する第2位メタル層14から、半導体基板10の表面までの距離は、少なくとも最上位メタル層13の厚さ分だけ開いている。そして、最上位メタル層13の厚みが3マイクロメートル以上であることによって、インダクタ15上に誘電率変化の大きい被検査体が位置していても、高周波発振器17の発振周波数の変化への影響を小さくすることができる。
【0023】
また、センサIC1は、最上位メタル層13の上に形成された保護膜20を備えている。保護膜20は、最上位メタル層13がむき出しになることを防いでいる。センサIC1においては、保護膜20の上面20sが、後述する被検査体26が載せられる面である被搭載面となっている。
【0024】
高周波発振器17は、周波数推定部19に接続されている。高周波発振器17の出力は、周波数推定部19に供給される。周波数推定部19は、ある一定時間内に高周波発振器17から入力される信号をカウントし計算することで、高周波発振器17の発振周波数を推定する。
【0025】
さらに、センサIC1は、誘電泳動電極21を備えている。誘電泳動電極21は、電極部18と隣接して配置されている。特に、センサIC1において、誘電泳動電極21は、2個の電極部18に挟まれて配置されている。誘電泳動電極21は、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、最上位メタル層13によって形成されている。誘電泳動電極21には、後述する細胞等の生体物質を捕獲または放出するために必要な信号を与える信号源22が接続されている。信号源22の一端は誘電泳動電極21に接続されており、信号源22の他端は接地されている。
【0026】
保護膜20の上面20sとインダクタ15との距離d1は、保護膜20の上面20sと電極部18との距離d2より大きく、かつ、保護膜20の上面20sと誘電泳動電極21との距離d2より大きい。
【0027】
誘電泳動電極21は単電極である。一方、図2の(a)および(b)に示すセンサIC2のように、誘電泳動電極21は、信号源22より差動信号が与えられる差動電極対である誘電泳動電極23に置換されてもよい。このとき、信号源22の一端は誘電泳動電極23を構成する2個の電極の一方に接続されており、信号源22の他端は誘電泳動電極23を構成する2個の電極の他方に接続されている。誘電泳動電極23は、誘電泳動電極21と同等の機能を有している。
【0028】
また、図3の(a)および(b)に示すセンサIC3のように、トランジスタ等で構成されたスイッチ回路24が誘電泳動電極21に接続されており、第1の信号源25から出力される信号と第2の信号源26から出力される信号との切り替えを行う構成であってもよい。第1の信号源25および第2の信号源26のそれぞれは、信号源22と同じく、後述する細胞等の生体物質を捕獲または放出するために必要な信号を与えるものである。スイッチ回路24の出力端は、誘電泳動電極21に接続されている。スイッチ回路24の一方の入力端は、第1の信号源25の一端に接続されており、スイッチ回路24の他方の入力端は、第2の信号源26の一端に接続されている。第1の信号源25の他端および第2の信号源26の他端はいずれも接地されている。さらに、センサIC2の構成とセンサIC3の構成とを組み合わせ、誘電泳動電極23を構成する2個の電極のそれぞれに、スイッチ回路24、第1の信号源25、および第2の信号源26からなる回路が接続されていてもよい。
【0029】
図4の(a)は、保護膜20の上面(被搭載面)20sに液体27を載せた状態を示す上面図の概略図である。図4の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。図5の(a)は、図4の(a)に示した状態から、液体27に含まれる生体物質(被検査体)28がインダクタ15上に位置している状態を示す上面図の概略図である。図5の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。図6の(a)は、図5の(a)に示した状態から、誘電泳動電極21により生体物質28を電極部18上に移動させた状態を示す上面図の概略図である。図6の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。図7の(a)は、図6の(a)に示した状態から、生体物質28とは別の生体物質29がインダクタ15上に位置している状態を示す上面図の概略図である。図7の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。
【0030】
液体27が被検査体そのものである場合、保護膜20の上面20sに液体27を載せた状態において、電極部18上の液体27の誘電率が変化すると、この誘電率の変化をセンサとなる高周波発振器17の発振周波数の変化として観察することができる。例えば、高周波発振器17の発振周波数を100GHz付近に設定すると、液体27の100GHz付近の誘電率変化を見分けることができる。一方、生体物質28が例えば細胞である場合、液体27はバッファ液等の溶液である。
【0031】
図4の(a)および(b)の時点では、保護膜20の上面20s上に生体物質28が存在しない。センサIC1は、このときの高周波発振器17の発振周波数を初期状態として記憶する。次に、図5の(a)および(b)に示すように、適切な条件下で生体物質28を浮遊させる。生体物質28の物質構成と液体27の物質構成とが異なるので、これらの誘電率は異なる。図5の(a)および(b)においては、生体物質28はインダクタ15上にあるが、インダクタ15は最上位メタル層13によって形成されておらず、保護膜20の上面20sから3マイクロメートル以上離れている。従って、生体物質28の誘電率がインダクタ15に及ぼす影響は小さい。すなわち、図5の(a)および(b)に示す状態では、図4の(a)および(b)に示す状態とほぼ同じく、高周波発振器17の発振周波数は前記初期状態とほぼ同じとなる。
【0032】
センサIC1によれば、インダクタ15が保護膜20の上面20sから十分遠いため、インダクタ15上の被検査体(溶液27または生体物質28)の位置に依存した、高周波発振器17の発振周波数の変化のバラつきを小さくすることができる。
【0033】
図5の(a)および(b)に示す状態で、誘電泳動電極21と生体物質28との間で誘電泳動を発生させるような信号を信号源22から誘電泳動電極21に与えると、誘電泳動電極21は、生体物質28を捕獲する。これにより、図6の(a)および(b)に示すように、生体物質28は、誘電泳動電極21によって引き寄せられる。これにより、誘電泳動電極21に隣接配置された電極部18上の誘電率が変化するため、高周波発振器17の発振周波数は前記初期状態から変化する。このため、生体物質28がセンサIC1上に接着する位置に依存したセンシング結果のバラつきを抑えながら、単一の生体物質28の特性を評価することができる。
【0034】
センサIC1によれば、誘電泳動電極21によって、被検査体(溶液27または生体物質28)を所望の位置に、好ましくは電極部18上に導くことが容易となる。これにより、当該被検査体の位置ズレを抑制し、高周波発振器17の発振周波数の変化のバラつきを小さくすることができる。
【0035】
また、図7の(a)および(b)に示すように、生体物質28が誘電泳動電極21に引き寄せられながら電極部18上にあるときに、生体物質28とは別の生体物質29がインダクタ15上に存在する場合を考える。この場合、生体物質29は電極部18上に位置しないので、生体物質29の存在に起因した高周波発振器17の発振周波数の変化はほとんどない。高周波発振器17の発振周波数の変化量は、インダクタ15上にある被検査体(図5の(a)の生体物質28、および図7の(a)の生体物質29)の位置に依存しにくくなるので、電極部18上にある被検査体(図6の(a)の生体物質28)の特性のみを検査することが可能となる。
【0036】
ここで、センサIC1において、最上位メタル層13の上部に保護膜20を設ける理由について、図8を参照して説明する。図8は、液体27がセンサIC1上に載った場合の構成を示す等価回路である。
【0037】
誘電率実部ε、誘電率虚部εの液体27がセンサIC1上に載った場合の構成は、図8に示す等価回路のように表すことができる。当該等価回路は、インダクタ15(インダクタンスL)、容量16(静電容量C)、液体27の容量成分(静電容量C)、および液体27の抵抗成分(コンダクタンスG)によって構成される。さらに当該等価回路においては、センサIC1に保護膜20が設けられていることによる、センサIC1表面と電極部18との間に存在する容量成分(静電容量C)を考慮する。液体27の容量成分は誘電率実部εによりε×C、液体27の抵抗成分は誘電率虚部εによりε×Cと表すことができる。ここでCは任意の容量とする。高周波発振器17の共振条件は、負荷となるインピーダンス(値はY)の虚数成分が0になる条件であるため、下記数式(1)のように表すことができる。下記数式(1)中、ωは、角周波数である。
【0038】
【数1】
【0039】
前記共振条件を満足するときの高周波発振器17の発振周波数をfresとすると、前記数式(1)より、下記数式(2)のように表すことができる。
【0040】
【数2】
【0041】
前記数式(2)によれば、fresは液体27の誘電率実部εおよび誘電率虚部εの関数となる。センサIC1に保護膜20が設けられていない場合、静電容量Cが∞となるので、前記数式(2)から、下記数式(3)が成り立つ。
【0042】
【数3】
【0043】
前記数式(3)によれば、誘電率虚部εの項が存在しないため、誘電率虚部εの変化を検出することができなくなる。保護膜20は、誘電率虚部εのみが変化する場合に必要となる。
【0044】
センサIC1において、インダクタ15は、配線層12を構成する複数のメタル層のうち1層によって形成された、一巻のインダクタを想定している。一方、インダクタ15は、複数巻のインダクタに置換されてもよい。
【0045】
図9の(a)および(b)のそれぞれは、インダクタ15の変形例を示す上面図である。図9の(a)にはインダクタ15aを、図9の(b)にはインダクタ15bを、それぞれ示している。インダクタ15aにおいては、インダクタの一部が、第3位以下メタル層141によって形成されている。第3位以下メタル層141は、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、第2位メタル層14に対して最上位メタル層13と反対側に位置するメタル層である。インダクタ15aにおいては、第2位メタル層14に形成されたインダクタ部分と重なり合う箇所およびその近傍が、第3位以下メタル層141によって形成されている。
【0046】
また、インダクタ15、15a、および15bのそれぞれは、電極部18との接続部分が最上位メタル層13によって形成されていてもよいし、一切最上位メタル層13によって形成されていなくてもよい。また、インダクタ15bのように、第2位メタル層14に形成されたインダクタ部分と重なり合う箇所およびその近傍が、最上位メタル層13によって形成されていてもよい。
【0047】
さらに、電極部18は、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、最上位メタル層13以外によって形成されていてもよい。その場合、インダクタ15、15a、および15bのそれぞれは、配線層12を構成する複数のメタル層のうち、電極部18に使用したメタル層より下層のメタル層によって形成されていてもよい。
【0048】
〔実施の形態2〕
図10の(a)は、本発明の実施の形態2に係るセンサICの主要部4の上面図の概略図、図10の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。図11の(a)は、主要部4において、誘電泳動電極21により生体物質28を電極部18上に移動させた状態を示す上面図の概略図である。図11の(b)は、当該概略図のC1−D1線断面図である。本発明の実施の形態2に係るセンサICは、センサIC1と、下記の点が異なっている。
【0049】
主要部4において、保護膜20には電極孔30が形成されている。電極孔30は、保護膜20の上面20sに形成された貫通孔である。電極孔30によって、保護膜20の上面20sの上面視において、誘電泳動電極21が露出している。生体物質28は、誘電泳動電極21と直接接触している。
【0050】
生体物質28を引き寄せる誘電泳動信号は、数キロヘルツから数メガヘルツ帯の周波数であり、保護膜20を形成すると図8に示した等価回路の影響(具体的には、静電容量Cの影響)を受け減衰してしまう虞がある。そこで、誘電泳動信号の減衰を防ぐために、電極孔30を形成し、図11の(a)および(b)に示すように、直接引き寄せる生体物質28に接触させる。これにより、振幅が低い誘電泳動信号で、誘電泳動電極21が生体物質28を引き寄せることができるため、センサICの低消費電力化につながる。
【0051】
〔実施の形態3〕
図12は、本発明の実施の形態3に係るセンサIC5の概略図である。
【0052】
センサIC5は、複数のセンサ部(センシング単位)31、およびコントロール部32を備えている。センサ部31は、センサIC1の構成のうち、インダクタ15、電極部18、および誘電泳動電極21を少なくとも含むものである。複数のセンサ部31は、アレイ状に配置されている。複数のセンサ部31は、コントロール部32に接続されている。コントロール部32は、各センサ部31の出力を解析すると共に、被検査体の位置に関する情報を統括的にコントロールする。
【0053】
センサIC5によれば、例えば各センサ部31上にある、図示しない被検査体の位置情報を含めて性質を評価することができる。複数のセンサ部31を検出する方法として、一度に複数のセンサ部31を同時に評価してもよいし、複数のセンサ部31を並列処理で評価しても構わない。高周波発振器17の発振周波数の推定(換言すれば、周波数推定部19の機能)はコントロール部32で行ってもよく、この場合、コントロール部32は、各センサ部31上にある生体物質を評価する。
【0054】
(付記事項)
図13は、センサIC1の保護膜20の上面20sからの距離と、高周波発振器17の発振周波数の変化量との関係を示すグラフである。図13において、横軸は具体的に、保護膜20の上面20sからインダクタ15までの距離を示している。図13において、縦軸は具体的に、インダクタ15上に誘電体が位置する場合の、高周波発振器17の発振周波数の変化量を示している。
【0055】
図13によれば、保護膜20の上面20sからインダクタ15までの距離が3マイクロメートル以上になると、高周波発振器17の発振周波数の変化量がほぼ一定となる。これは換言すれば、インダクタ15が保護膜20の上面20sから3マイクロメートル以上離れていれば、インダクタ15上に誘電率変化の大きい被検査体が位置していても、高周波発振器17の発振周波数の変化への影響は小さいということを意味している。このことを考慮すれば、第2位メタル層14によって形成されたインダクタ15と保護膜20の上面20sとを3マイクロメートル以上離す簡単な手法として、最上位メタル層13の厚みは、3マイクロメートル以上であることが好ましいということが分かる。
【0056】
また、以上の各実施の形態においては、誘電泳動電極21が誘電泳動により被検査体を捕獲する構成であったが、誘電泳動電極21は誘電泳動により被検査体を放出する構成であってもよい。当該被検査体を放出する場合は、センシングした結果、その被検査体は不要と判断した場合、またはさらに詳細な分析が必要と認められた場合に、捕獲機能を後段に用意したのち、他の検査に転送するために放出する等といった実施例が考えられる。誘電泳動電極23についても同様である。
【0057】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るセンサICは、発振器(高周波発振器17)を構成するインダクタと、前記インダクタに接続されている、少なくとも1つの電極部と、前記電極部と隣接して配置されている誘電泳動電極とを備えており、前記誘電泳動電極は、前記誘電泳動電極と被検査体との間で誘電泳動を発生させ、前記被検査体が載せられる面である被搭載面(保護膜20の上面20s)と前記インダクタとの距離は、前記被搭載面と前記電極部との距離より大きく、かつ、前記被搭載面と前記誘電泳動電極との距離より大きい。
【0058】
前記の構成によれば、第1の機能として、インダクタが被搭載面から十分遠いため、インダクタ上の被検査体の位置に依存した、発振器の発振周波数の変化のバラつきを小さくすることができる。
【0059】
また、前記の構成によれば、第2の機能として、誘電泳動電極によって、被検査体を所望の位置に、好ましくは電極部上に導くことが容易となる。これにより、当該被検査体の位置ズレを抑制し、発振器の発振周波数の変化のバラつきを小さくすることができる。
【0060】
従って、前記の構成によれば、第1の機能および第2の機能が相互に作用することにより、センシング結果にバラつきが生じる虞を低減することが可能となる。
【0061】
本発明の態様2に係るセンサICは、前記態様1において、前記インダクタの少なくとも一部は、第1メタル層(第2位メタル層14)によって形成されており、前記電極部および前記誘電泳動電極は、前記第1メタル層に対して積層されている第2メタル層(最上位メタル層13)によって形成されており、前記第2メタル層の厚みは、3マイクロメートル以上である。
【0062】
前記の構成によれば、被搭載面とインダクタとを少なくとも3マイクロメートル離すことができるため、第1の機能を簡単に実現することができる。
【0063】
本発明の態様3に係るセンサICは、前記態様1または2において、前記誘電泳動電極は、前記被検査体を捕獲する、または、前記被検査体を放出する。
【0064】
前記の構成によれば、被検査体を捕獲または放出することによって、被検査体を所望の位置に移動させることができる。
【0065】
本発明の態様4に係るセンサICは、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記被搭載面の上面視において、前記誘電泳動電極が露出している。
【0066】
前記の構成によれば、被検査体と誘電泳動電極とが直接接触する。これにより、振幅が低い誘電泳動信号で、誘電泳動電極が被検査体を引き寄せることができるため、センサICの低消費電力化につながる。
【0067】
本発明の態様5に係るセンサICは、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記インダクタ、前記電極部、および前記誘電泳動電極を含むセンシング単位(センサ部31)を複数有しており、複数のセンシング単位が、アレイ状に配置されている。
【0068】
前記の構成によれば、例えば各センシング単位上にある、被検査体の位置情報を含めて性質を評価することができる。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、2、3、5 センサIC
4 主要部
13 最上位メタル層(第2メタル層)
14 第2位メタル層(第1メタル層)
15 インダクタ
17 高周波発振器(発振器)
18 電極部
20s 保護膜の上面(被搭載面)
21、23 誘電泳動電極
27 液体(被検査体)
28、29 生体物質(被検査体)
31 センサ部(センシング単位)
図1
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