(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して、本発明による高分子型ゲルとその製造方法、およびこれを含む物品について詳細に説明する。以下に示される図面は、当業者に本発明の思想を十分に伝達するために例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に示される図面に限定されず、他の形態に具体化してもよく、以下に示される図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して図示され得る。また、明細書の全体にわたり同じ参照番号は同じ構成要素を指す。
【0021】
この際、使用される技術用語および科学用語において他の定義がない限り、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有しており、下記の説明および添付の図面で本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0022】
本発明は、一酸化窒素との感応によって架橋構造が効果的に解離され得る高分子型ゲルとその製造方法、およびこれを含む物品に関し、一酸化窒素と反応して生体内外の一酸化窒素を除去することができ、一酸化窒素との感応によって解離される架橋点を含むことで、高分子型ゲルの内部に担持された薬物を効果的に放出することができる高分子型ゲルとその製造方法、およびこれを含む物品を提供する。
【0023】
詳細には、本発明の一例による高分子型ゲルは、
図1に図示されているように、一酸化窒素に感応して解離される架橋点を含んでもよい。このように、前記高分子型ゲルは、一酸化窒素に感応可能であることから身体内外の無駄な一酸化窒素を除去するだけでなく、一酸化窒素が存在する環境で高分子型ゲルの高分子主鎖と架橋構造を形成している架橋点が一酸化窒素との感応によって解離されることで、高分子型ゲルの内部に担持された薬物を放出することができるという利点がある。
【0024】
より詳細には、本発明の一例において、前記架橋点は、一酸化窒素と感応して解離され得る化学構造を有するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、架橋点は、o‐フェニレンジアミンに由来してもよい。o‐フェニレンジアミンに由来する架橋点は、一酸化窒素との反応によって、
図1に図示されているように、アミド置換のベンゾトリアゾール中間体(amide‐substituted benzotriazole intermediate)残基を形成することができ、この中間体残基が加水分解されてベンゾトリアゾール残基とカルボン酸残基とにそれぞれ分解され得る。
【0025】
具体的な一例示として、前記架橋点は、下記化学式1を満たしてもよい。
【0026】
[化学式1]
【化3】
(前記化学式1中、*は結合部位であり、aは0〜3の実数である。)
【0027】
化学式1を満たす架橋点を含むことで、高分子型ゲルが一酸化窒素に効果的に感応することができ、一酸化窒素に感応した後、架橋構造が容易に解離され得る。
【0028】
かかる架橋点は、下記化学式2を満たす架橋剤であるo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体から形成されてもよい。
【0029】
[化学式2]
【化4】
(前記化学式2中、Lは、‐NHCO‐、‐RO‐、‐ORO‐または‐RO(C=O)‐であり、ここで、Rは、直接結合、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキレン基、炭素数6〜30のアリレン基、炭素数5〜30のシクロアルキレン基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基で置換された炭素数6〜30のアリレン基、または炭素数6〜30のアリール基で置換された炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキレン基であり、X
1およびX
2は、互いに独立して、‐CH=CH
2または‐C(CH
3)=CH
2であり、aは、0〜3の実数である。)
【0030】
より好ましくは、o‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体は、下記化学式3を満たしてもよい。これを満たすことで、一酸化窒素に感応し、加水分解によって解離され得る架橋剤を容易に合成することができ、高分子型ゲルの製造も容易になり得る。さらに、一酸化窒素に対する選択度および感度に優れることができる。
【0031】
[化学式3]
【化5】
(前記化学式3中、X
11およびX
22は、互いに独立して、‐CH=CH
2または‐C(CH
3)=CH
2である。)
【0032】
さらに具体的な一例示として、
図1に図示されているように、
図1のaにおいて、下記化学式4で表される化合物である単量体と架橋剤を含んで重合することができる。これにより、
図1のbにおいてo‐フェニレンジアミンに由来する架橋点を含み、下記化学式5で表される高分子型ゲルを製造することができる。
【0035】
前記化学式5で表される高分子型ゲルの架橋点は、一酸化窒素との反応により、
図1のcにおいて化学式6で表されているように、アミド置換のベンゾトリアゾール中間体(amide‐substituted benzotriazole intermediate)残基を形成することができる。前記中間体残基が加水分解されて、
図1のdにおいて、化学式7で表されているように、ベンゾトリアゾール残基とカルボン酸残基とにそれぞれ分解され得る。
【0038】
ここで、前記化学式5〜7中、a、b、cおよびdは、単量体のモル数に応じて定められる。
【0039】
一方、本発明の一例による高分子型ゲルは、好ましくは、ヒドロゲルであってもよい。ヒドロゲルは、含水ゲルとも称するが、親水性高分子が共有または非共有結合で架橋されて作製された三次元網状構造体を意味する。かかるヒドロゲルは、水溶液内で溶解されないが多量の水を吸収し膨潤する性質を有しており、一般的に多量の水分を含有していることから液体と固体の中間性質を有することを特徴とする。
【0040】
すなわち、本発明の一例によるヒドロゲルは、高分子主鎖と、高分子主鎖に架橋結合した架橋点とを含んでもよい。
【0041】
本発明の一例において、高分子主鎖は、当業界において通常使用されるものであれば特に限定されず使用可能であり、具体的には、例えば、ヒドロゲルの高分子主鎖は、単官能性親水性単量体に由来してもよい。この際、単官能性親水性単量体は、親水性アクリル系単量体であってもよく、具体的な一例示として、親水性アクリル系単量体は、ヒドロキシ基が1〜3個置換された炭素数1〜15のヒドロキシアルキルメタクリレート、ヒドロキシ基が1〜3個置換された炭素数1〜15のヒドロキシアルキルアクリレート、アクリルアミド(acrylamide)、ビニルピロリドン(vinyl pyrrolidone)、グリセロールメタクリレート(glycerol methacrylate)、アクリル酸およびメタクリル酸などから選択される一つまたは二つ以上であってもよい。より具体的には、例えば、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(2‐hydroxyethyl methacrylate、HEMA)、アクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド(N,N‐dimethyl acrylamide、DMA)、N‐ビニルピロリドン(N‐vinyl pyrrolidone、NVP)、グリセロールモノメタクリレート(glycerol monomethacrylate、GMMA)およびメタクリル酸(methacrylic acid、MAA)などから選択される一つまたは二つ以上であってもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0042】
かかるヒドロゲルは、一酸化窒素との反応によって架橋点が解離され得、すべての架橋点が解離された時に、架橋構造が完全に切断されて高分子型ゲルがゾル形態に転換され得、これにより内部に薬物が担持されたヒドロゲルの場合、薬物がとりわけ迅速に放出され得るという利点がある。
【0043】
一方、本発明の一例によるヒドロゲルは、二つ以上の官能基を含む多官能性架橋剤に由来する第2の架橋点をさらに含むことができる。この第2の架橋点も高分子主鎖に架橋結合してもよく、第2の架橋点は、一酸化窒素に感応しない化学構造を有してもよい。この様態によるヒドロゲルは、高濃度の一酸化窒素と反応しても所定以上の架橋結合が残存することで、膨潤時にもヒドロゲルの形態を維持することができ、一酸化窒素との反応によってヒドロゲルが膨潤してメッシュサイズが増加することができる。また、これにより内部に薬物が担持されたヒドロゲルの場合、一酸化窒素に感応して薬物が容易に放出され得る。
【0044】
かかる第2の架橋点は、二つ以上の官能基を含む多官能性架橋剤に由来してもよく、この際、二つ以上の官能基を含む多官能性架橋剤は、通常使用されるものであれば特に限定されず使用可能である。具体的には、二つ以上の官能基を含む多官能性架橋剤は、二つ以上のアクリル基、メタクリル基またはビニル基を含むものであればいずれも使用可能であり、非限定的な一例示として、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジアクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジメタクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールジアクリレート、ペンタエリトリトールジメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールジメタクリレート、ジペンタエリトリトールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリトリトールヘキサメタクリレートなどから選択されるいずれか一つまたは二つ以上であってもよく、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0045】
本発明の一例において、ヒドロゲルのサイズおよび形態はあまり制限されず、単官能性親水性単量体とo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体の比率などを調節することで目的とするサイズに調節することができ、形態も目的に応じて容易に変更することができる。
【0046】
具体的な一例として、本発明の一例によるヒドロゲルは、数nm〜数十cmの粒径を有してもよく、粒子、カプセルまたはパッチの形態などを有してもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
以下、上述の高分子型ゲル、具体的な一例示としてヒドロゲルを製造する方法について説明する。
【0048】
詳細には、本発明の一例によるヒドロゲルの製造方法は、a)単官能性親水性単量体とo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体との混合物を重合するステップと、b)前記重合により形成されたヒドロゲルを分離するステップとを含むことができる。
【0049】
これにより、一酸化窒素に感応して解離される架橋点を含むヒドロゲルを製造することができる。製造されたヒドロゲルは、一酸化窒素に感応可能であることから身体内外の無駄な一酸化窒素を除去するだけでなく、一酸化窒素が存在する環境でヒドロゲルの高分子主鎖と架橋構造を形成している架橋点が一酸化窒素との感応によって解離されることで、ヒドロゲルの内部に担持された薬物を放出することができるという利点がある。
【0050】
先ず、a)単官能性親水性単量体とo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体との混合物を重合するステップを行うことができる。
【0051】
本発明の一例において、前記o‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体は、下記化学式2を満たしてもよい。
【0053】
(前記化学式2中、Lは、‐NHCO‐、‐RO‐、‐ORO‐または‐RO(C=O)‐であり、ここで、Rは、直接結合、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキレン基、炭素数6〜30のアリレン基、炭素数5〜30のシクロアルキレン基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基で置換された炭素数6〜30のアリレン基、または炭素数6〜30のアリール基で置換された炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキレン基であり、X
1およびX
2は、互いに独立して、‐CH=CH
2または‐C(CH
3)=CH
2であり、aは、0〜3の実数である。)
【0054】
好ましい一例示として、o‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体は、下記化学式3を満たしてもよい。これを満たすことで、一酸化窒素に感応し、加水分解によって解離され得る架橋剤を容易に合成することができ、高分子型ゲルの製造も容易になり得る。さらに、一酸化窒素に対する選択度および感度に優れることができる。
【0056】
(前記化学式3中、X
11およびX
22は、互いに独立して、‐CH=CH
2または‐C(CH
3)=CH
2である。)
【0057】
本発明の一例による単官能性親水性単量体は、上述のとおり同一であってもよく、単官能性親水性単量体は、親水性アクリル系単量体であってもよい。具体的な一例示として、親水性アクリル系単量体は、ヒドロキシ基が1〜3個置換された炭素数1〜15のヒドロキシアルキルメタクリレート、ヒドロキシ基が1〜3個置換された炭素数1〜15のヒドロキシアルキルアクリレート、アクリルアミド(acrylamide)、ビニルピロリドン(vinyl pyrrolidone)、グリセロールメタクリレート(glycerol methacrylate)、アクリル酸およびメタクリル酸などから選択される一つまたは二つ以上であってもよい。より具体的には、例えば、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート(2‐hydroxyethyl methacrylate、HEMA)、アクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド(N,N‐dimethyl acrylamide、DMA)、N‐ビニルピロリドン(N‐vinyl pyrrolidone、NVP)、グリセロールモノメタクリレート(glycerol monomethacrylate、GMMA)およびメタクリル酸(methacrylic acid、MAA)などから選択される一つまたは二つ以上であってもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0058】
a)ステップにおいて、前記単官能性親水性単量体とo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体との混合比率は、製造しようとするヒドロゲルのサイズ、物性などに応じて変更して調節することができる。非限定的な一例示として、単官能性親水性単量体:o‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体は、1000:0.289〜2.89のモル比で混合されてもよく、好ましくは、1000:0.482〜0.964のモル比で混合されてもよい。かかる範囲である場合、ヒドロゲルが効果的に形成可能であり、一酸化窒素に感応した後、効果的に膨潤し、薬物放出の時に迅速に薬物を放出することができる。
【0059】
一方、本発明の一例において、前記a)ステップの混合物は、多官能性架橋剤をさらに含んでもよい。この際、多官能性架橋剤は、高分子主鎖と架橋結合して架橋構造は形成するが、一酸化窒素とは感応しなくてもよく、一酸化窒素に感応しないことから、ヒドロゲルが高濃度の一酸化窒素と反応しても所定以上の機械的強度と形態を維持するようにすることができる。
【0060】
かかる多官能性架橋剤は、通常使用可能なものであれば特に限定されず使用可能である。具体的には、二つ以上の官能基を含む多官能性架橋剤は、二つ以上のアクリル基、メタクリル基またはビニル基を含むものであればいずれも使用可能であり、非限定的な一例示として、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジアクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジメタクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールジアクリレート、ペンタエリトリトールジメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールジメタクリレート、ジペンタエリトリトールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリトリトールヘキサメタクリレートなどから選択されるいずれか一つまたは二つ以上であってもよく、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0061】
多官能性架橋剤の添加量は、目的とするヒドロゲルの物性に応じてそれぞれ調節可能であり、一例として、多官能性架橋剤は、単官能性親水性単量体1モルに対して、0.0001〜0.1モル倍に添加され得、より好ましくは、0.005〜0.03モル倍に添加され得る。かかる範囲である場合、ヒドロゲルに機械的強度を付与するとともに、一酸化窒素との感応感度を損なわないことができる。また、薬物伝達の際、ヒドロゲルの内部に担持された薬物が放出されることを妨害しないことができる。
【0062】
また、a)ステップの混合物はまた架橋反応のために開始剤および触媒をさらに含むことができることは言うまでもなく、開始剤および触媒は、当業界において通常使用されるものであれば限定されずいずれも使用可能であることを当業者であれば知ることができる。
【0063】
一方、本発明の一例において、前記a)ステップの重合は、水相で行われ得る。すなわち、単官能性親水性単量体とo‐フェニレンジアミン残基を含む複数の官能基を含む単量体との混合物を水に溶解した後、重合反応を行うことができ、これにより、内部に水を含むヒドロゲルを製造することができる。
【0064】
以降、重合反応が完了すると、b)前記重合により形成されたヒドロゲルを分離するステップを行うことができる。分離方法は、ヒドロゲルを損傷することなく分離することができる方法であれば特に限定されず使用可能である。
【0065】
一方、本発明は、前記高分子型ゲルを含む医薬伝達システムを提供することができ、上述の高分子型ゲルに薬物を担持した後、一酸化窒素との反応によって高分子型ゲルの内部に担持された薬物を放出することができる。後述のとおり、薬物が担持された高分子型ゲルは、ゲルの形成時に薬物を混合して高分子型ゲルを形成することで製造することができ、薬物が担持された高分子型ゲルが一酸化窒素と反応して架橋点が解離されることで架橋構造が分解されて高分子型ゲルの内部に担持されていた薬物が放出され得る。
【0066】
また、本発明は、o‐フェニレンジアミン残基を網状構造の架橋点として含むことで網状構造のメッシュサイズを調節する方法を提供する。上述のとおり、本発明の一例による高分子型ゲルは、一酸化窒素との反応によって架橋点が解離され得、これにより架橋構造が切断されて網状構造のメッシュサイズが増加することができる。かかるメッシュサイズは、網状構造の架橋点の比率に応じて調節可能であり、または一酸化窒素によって架橋構造が切断されることから選択的に調節可能である。すなわち、一酸化窒素によって一部の架橋点が解離されることで、メッシュサイズが選択的に調節可能であり、これは、一酸化窒素の濃度などに応じて調節可能である。
【0067】
さらに、本発明は、上述の高分子型ゲルを用いて、排気ガス内の窒素酸化物を検出する方法を提供する。本発明による高分子型ゲルは、窒素酸化物、特に一酸化窒素との反応によって架橋構造が崩壊し、その機械的物性が低下することがあり、ヒドロゲルの形態、膨潤率、弾性係数、損失係数などの変化により、一酸化窒素の存在可否および濃度を検出することができる。
【0068】
一具体例として、膨潤率により排気ガス内の窒素酸化物を検出することができ、高分子型ゲルは、水分を高分子型ゲルの乾燥重量に対して450重量%以上含むものであってもよい。好ましくは1,000重量%以上、さらに好ましくは1,400重量%以上の水分を含むことが、高分子型ゲルを効果的に膨潤させる上で好ましい。この際、水分の上限は、特に限定されないが、4,650重量%以下であってもよい。この際、前記水分の量は、[(水分吸収後の高分子型ゲルの重量−高分子型ゲルの乾燥重量)/高分子型ゲルの乾燥重量]×100の式により算出され得る。
【0069】
また、本発明は、上述の高分子型ゲルを含むコンタクトレンズを提供する。かかるコンタクトレンズは、血管新生(Angiogenesis)抑制用であってもよく、血管新生疾病を有する患者は、眼球から一酸化窒素が排出されてその疾病が悪化し得る。そのため、本発明による高分子型ゲルを含むコンタクトレンズを使用したときに、高分子型ゲルに一酸化窒素が捕集し、血管新生疾病を抑制できるという利点がある。
【0070】
以下、実施例により、本発明による高分子型ゲルとその製造方法、およびこれを含む物品についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための一つの参照であって、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な形態に具現され得る。また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。また、明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形態は、文脈で特別な指示がない限り、複数形態も含むことを意図し得る。また、明細書において特に記載していない添加物の単位は重量%であってもよい。
【0071】
[製造例1]架橋剤(NOCCL)の合成
【化12】
【0072】
化合物1:25℃で、4‐ニトロ‐o‐フェニレンジアミン(1g、6.53mmol)とグアニジン塩酸(15mol%)をエタノール20mlに溶解させた反応溶液にジ‐t‐ブチルジカーボネート(2.85mg、13.06mmol)を滴下(dropping)した後、35〜40℃を維持し、40時間激しく撹拌した。反応完了後、反応溶液内の有機溶媒を減圧蒸発させ、エチルアセテートで3回抽出して乾燥した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物1を取得した(収率:74重量%、1.22g)。前記スキーム(scheme)中、Bocは、‐COO‐t‐C
4H
9である。
【0073】
化合物2:窒素雰囲気下で、化合物1(0.6g)の溶液(無水テトラヒドロフラン(dry THF)の中、10ml)に10重量%のパラジウムがロードされた炭素触媒(10wt%Pd/C、60mg)を添加した後、窒素の代わりに水素雰囲気(40psi)に転換し、25℃で36時間撹拌した。反応完了後、セライト(登録商標)545 AW(Celite(登録商標)545 AW)を使用してPd/Cをろ過除去し、ろ液を乾燥し、追加の精製なく化合物2を取得した(収率:96重量%、423mg)。
【0074】
化合物3:25℃で、化合物2(400mg、1.79mmol)とトリエチルアミン(723.16mg、7.16mmol)を無水THFに溶解させた反応溶液にアクリロイルクロリド(648.05mg、7.16mmol)を滴下した後、25℃で24時間激しく撹拌した。反応完了後、反応溶液内の有機溶媒を減圧蒸発させ、エチルアセテートで3回抽出して乾燥した後、アルミナクロマトグラフィーで精製し、化合物3を取得した(収率:64重量%、379mg)。
【0075】
化合物4(NOCCL):氷浴(ice bath)下で、化合物3(200mg、0.60mmol)の溶液(無水THFの中3ml)に4M HClジオキサン溶液3mlを添加した後、25℃で24時間激しく撹拌した。反応完了後、反応溶液内の有機溶媒を減圧蒸発させ、エチルアセテートで3回抽出して乾燥した後、アルミナクロマトグラフィーで精製し、化合物4を取得した(収率:21重量%、29.11mg)。
【0076】
[実施例1]一酸化窒素感応のヒドロゲル(NORゲル)の合成
【化13】
【0077】
化合物4(NOCCL、10mg、43.3mmol)を10体積%エタノール水溶液100μlに溶かした後、水を追加して化合物4の濃度が0.0625w/v%になるように希釈してから、この0.0625w/v%濃度の化合物4のエタノール水溶液10μlを1.25mlマイクロテストチューブ(e‐tube)で40w/v%アクリルアミド水溶液10μlと混合した。次に、8w/v%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液1μlと4w/v%テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)水溶液1μlをe‐tubeに添加して均一なゲル化のために渦流(vortex)処理し、NORゲルを合成した。ここで、w/v%は、重量/体積%を意味する。
【0078】
[実施例2]NORゲルナノ粒子の合成
濃度が0.016w/v%である化合物4(NOCCL)のエタノール水溶液10μlおよび20w/v%アクリルアミド水溶液10μlを使用した以外は、すべての過程を実施例1と同様にし、ナノサイズのNORゲルナノ粒子を製造した。その粒度分布および走査型電子顕微鏡画像を
図9に図示した。
【0079】
[比較例1]対照群ヒドロゲル(CTLゲル)の合成
【化14】
【0080】
化合物4(NOCCL)の代わりにN,N´‐メチレンビスアクリルアミド(40.38mmol)を使用した以外は、すべての過程を実施例1と同様にした。
【0081】
[物性の評価]
1)ガス状の一酸化窒素に対する感応の実験
また、実施例1(NORゲル)および比較例1(CTLゲル)を一酸化窒素またはアルゴンガスに直接露出し、一酸化窒素反応性を評価した。
【0082】
装置を取り付けるために市販のプラスチックボックス(横10cm×縦13cm×高さ5cm)に、
図2に図示したように、ガスの出入りを許容する直径0.4cmの穴を開けた。その後、実施例1および比較例1のゲルをコルク板を使用してボックスの内部の壁に固定し、一酸化窒素またはアルゴンガスを10分間注入した後、ヒドロゲルの形態をモニタリングした。必要な場合、釣り針(長さ2.7mm)を使用して重力によるヒドロゲルの延伸率を測定した。
【0083】
結果、一酸化窒素の注入後、実施例1のゲルは、一酸化窒素と反応して4分以内にゲルが下に垂れ始め、延伸程度は、一酸化窒素の注入時間に伴い
図2に図示されているように徐々に増加した。この結果から、ヒドロゲル内のNOCCLが一酸化窒素ガスとの反応によって解離し、ヒドロゲルの機械的性質が低下することが分かった。一方、比較例1のヒドロゲルは、形状が変化しなかったものの色は淡黄色に変化しており、これは、一酸化窒素ガスがヒドロゲル内の酸素と反応してNO
2に転換したためであり、このNO
2は、比較例1のヒドロゲルの内部に捕捉された。一方、アルゴンガスの注入時には、実施例1および比較例1のヒドロゲルの形態がいずれも変化しなかった。
【0084】
かかるガス注入の実験により、実施例1のNORゲルが、ガス状の一酸化窒素に対しても迅速な反応性、高い感度および選択性を有することを確認することができた。
【0085】
2)水に溶解された一酸化窒素に対する感応実験
先ず、一酸化窒素溶液は既存に報告された方法にしたがって準備した。詳細には、40mlバイアルに蒸留水10mlを入れて窒素ガスで30分間バブリングした後、一酸化窒素装置に移した。一酸化窒素溶液をアルゴンガスで洗浄して酸素を除去した後、1.36atmの圧力で窒素ガスを30分間循環させた。飽和一酸化窒素溶液は、20℃で1.88mMの濃度を有するものと確認され、すべての一酸化窒素溶液は、実験の直前に新鮮にして準備した。
【0086】
次に、実施例1および比較例1のヒドロゲルの初期重量を測定した後、ゲル膨潤テストのために、ヒドロゲルを1.25mle‐チューブ内の50μlの水でインキュベートした。次に、このヒドロゲルを水または一酸化窒素溶液(1.57μM、15.7μM、157μM、1570μM)500μlで2時間、4時間、12時間、24時間、48時間インキュベートした後、重量を測定した。
【0087】
膨潤率(S)は、水分吸収によるヒドロゲルの重量増加程度で定義され得、下記の式により算出された。
【0090】
(ここで、M
iは、乾燥したヒドロゲルの初期重量であり、M
fは、一酸化窒素溶液での膨潤実験後のヒドロゲルの重量であり、Sは、一酸化窒素溶液での膨潤率であり、S
0は、0℃の水で膨潤実験を行い、前記式と同様の方式にしたがって算出された水での膨潤率である。)
【0091】
結果、実施例1のゲルが一酸化窒素に露出しなかった時、すなわち、水にインキュベートした時に、実施例1のゲルは徐々に膨張し、約24時間まで膨張した後、それ以上膨張しなかった。これは、一般的なヒドロゲルの挙動でヒドロゲルは水を吸収し膨張して飽和状態になる。一方、一酸化窒素溶液にインキュベートした実施例1のゲルは、漸次膨潤し、重合体ネットワークは、架橋点であるNOCCLの切断によって解離された。そのため、多量の水がヒドロゲルネットワークに吸収されて飽和されるまで膨張し続けた。最も高い一酸化窒素濃度(1570μM)での実施例1のゲルの膨潤率は、一酸化窒素に露出していないゲルの膨潤率よりも1.5倍高く、膨張の程度は、
図3のaに図示されているように、一酸化窒素の濃度に大きく依存するものと観察された。
【0092】
一方、
図3のbに図示されているように、切断不可能な架橋剤を使用した比較例1のゲルは、一酸化窒素の濃度に関係なく一酸化窒素に露出していないゲルの膨潤率とそれほど差がなかった。
【0093】
3)ヒドロゲルの形態の測定
走査型電子顕微鏡(SEM、JSM 7410 F、JEOL社製)を使用して一酸化窒素溶液(1570μM)と反応させた前後に実施例1の形態を観察した。25℃で24時間一酸化窒素溶液と反応させた後、ゲルを−80℃で一晩中凍結乾燥し、断面を切り出し、白金(Pt)でコーティングした後、SEM画像を測定した。
【0094】
結果、
図4のcに図示されているように、実施例1のゲルは、一酸化窒素と反応する前に架橋された高分子ネットワーク構造を有する滑らかな表面を示した。しかし、一酸化窒素と反応した後、実施例1のゲルは、内部に微細なサイズの気孔が生成され(
図4のd)、これは、一酸化窒素が架橋点を解離させたためであると判断される。そのため、この気孔により水が迅速にゲルの中に入り、ゲルの内部の薬物ペイロードが迅速に放出され得ると予想される。
【0095】
4)レオロジー特性の評価
一酸化窒素の影響を定量的に分析するために、レオロジーパラメータ、弾性係数(G´)および損失係数(G´´)を分析し、ヒドロゲルの粘弾性挙動を研究した。試験は、固定された温度、変形率および可変周波数の条件下で行われた。
【0096】
詳細には、実施例1および比較例1のレオロジー特性は、レオメータ(Malvern Kinexus+、イギリス)を使用して評価した。ゲルを一酸化窒素溶液または水にインキュベートした後、0.1〜10Hzの周波数範囲で0.5%複合せん断変形を加えた時のゲルのレオロジー特性を分析した。また、G´とG´´を測定し、適用された周波数の関数としてレオロジー特性を評価した。
【0097】
一般的に、G´が刺激と関係がない場合、ヒドロゲルは、反応のない物質と見なされ、G´が刺激に依存する場合、ヒドロゲルは、刺激‐反応性と見なされる。また、G´がG´´よりも大きい場合、ヒドロゲルは、ゼル状構造として高度に構造化されたものと見なされ、G´がG´´と類似している場合、ヒドロゲルのネットワーク構造は崩壊し、流体と同様の構造を有する。
【0098】
実施例1の場合、
図5に図示されているように、一酸化窒素の濃度が増加するにつれてG´の値が徐々に減少してNORゲルの機械的強度が減少し、構造が崩壊することが分かった。また、
図6に図示されているように、実施例1の場合、一酸化窒素と反応する前にG´はG´´よりもはるかに大きかったが、一酸化窒素の濃度が増加するにつれてG´とG´´の値が互いに類似することが分かった。一方、
図5に図示されているように、比較例1の場合、G´の値が比較的高く、高濃縮の一酸化窒素溶液でインキュベートした場合にもG´値がほとんど変化しなかったため、ヒドロゲル構造が安定して維持されることが分かった。
【0099】
5)薬物放出の実験
NORゲルを一酸化窒素反応性薬物伝達プラットフォームとして適用することができるか調査するために、放出実験のためのモデルタンパク質としてFITC(fluorescein isothiocyanate)で標識されたBSA(bovine serum albumin)を使用した。詳細には、BSA(100μl、2mg/ml、in 4w/v%NaHCO
3水溶液)をFITC(10μl、1mg/ml、in H
2O)と混合して一晩中撹拌した。この溶液を水に対して、透析膜(MWCO3.5k)で透析を行い、未反応のFITCを除去した後、−80℃で凍結乾燥し、FITCで標識されたBSA(BSA‐FITC)を製造した。
【0100】
1.25mlのe‐チューブで40w/v%のアクリルアミド水溶液10μl、0.0625重量%の化合物4のエタノール水溶液10μlおよびBSA‐FITC(10mg/ml)水溶液5μlを混合し、この混合液に5w/v%APS水溶液1μlおよび10w/v%TEMED水溶液1μlを添加した。次いで、均一なゲル化のために渦流処理し、BSA‐FITCを含むヒドロゲルを製造した。このBSA‐FITCを含むヒドロゲルを1mlの水で3回洗浄した後、放出プロファイルを時間関数(ex/em485/510nm)で評価した。ヒドロゲルの水力学的サイズは、Zetasizer(Nano S90、Malvern社製、イギリス)で測定し、ヒドロゲルのサイズと形態は、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM‐1011、JEOL社製、東京、日本)で測定した。さらに、サンプルは、0.5w/v%のウラニルアセテート水溶液で染色し、分析する前に400メッシュの銅(Cu)グリッド上にロードした。
【0101】
また、BSA‐FITCを含むヒドロゲルの対照群として化合物4の代わりに、N,N´‐メチレンビスアクリルアミドを架橋剤として使用した以外は、前記と同様の方法で対照ヒドロゲルを製造した。
【0102】
前記製造されたそれぞれのヒドロゲルを水または一酸化窒素溶液(18.6μM)でゆっくり撹拌しながら撹拌時間に伴うBSA放出程度を観察した。
【0103】
結果、
図7に図示されているように、BSA‐FITCを含むヒドロゲルは、一酸化窒素溶液で処理した時に、水で処理したものよりもBSAが早く放出された。一方、対照ヒドロゲルは、一酸化窒素溶液で処理した時と水で処理した時に、BSA放出速度がほぼ同様に測定された。
【0104】
6)一酸化窒素生成培養細胞でのヒドロゲルの膨潤
体外で培養された細胞から分泌された一酸化窒素と反応することによるヒドロゲルの膨潤挙動を分析した。このために、RAW 264.7細胞およびNIH/3T3細胞を使用し、RAW 264.7細胞は、糖脂質(LPS、lipopolysaccharides)によって刺激される時に一酸化窒素を生成するラットマクロファージの1タイプであり、LPS処理をしなかったときには、約14μMの一酸化窒素が生成されるが、LPS処理をしたときには、約38μMの一酸化窒素が生成される。また、NIH/3T3細胞は、線維芽細胞であり、LPSに刺激されても一酸化窒素を生成しない細胞である。
【0105】
詳細には、RAW 264.7細胞およびNIH/3T3細胞をそれぞれ10%ウシ胎児血清(FBS、fetal bovine serum)を含有するDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)で培養した。細胞を400,000細胞/ウェルの密度で6‐ウェルプレートに接種し、24時間培養した。培地を交換した後、各ウェルに10μlのLPS(0.01mg/ml)を添加し、30分間培養した。ヒドロゲルをウェルに慎重に添加し、24時間培養した。ヒドロゲルの重量を測定し、相対膨潤比を算出した。細胞から分泌された一酸化窒素の濃度をグリース(griess)分析法で測定した。
【0106】
結果、
図8に図示されているように、実施例1のゲルをLPS処理していない細胞とともに培養した場合、実施例1のゲルはほとんど膨潤せず、LPS処理したRAW 264.7細胞とともに培養した場合、ヒドロゲルが大きく膨潤した。一方、比較例1のゲルは、LPS処理と関係なく膨潤程度が類似していた。NIH/3T3細胞を使用して同一の実験を行った時、実施例1および比較例1のゲルのいずれも膨潤程度が類似していた。
【0107】
以上、本発明の好ましい実施例を説明しているが、本発明は、様々な変化と変更および均等物を使用することができ、前記実施例を適宜変形し、同様に応用することができることが明確である。したがって、前記記載内容は、下記の特許請求の範囲の限界により定められる本発明の範囲を限定するものではない。