【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月17日に電気通信回線を通じて以下の掲載アドレスに発明を公開 掲載アドレス:「http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jbm.a.35474/full」
【文献】
第13回日本再生医療学会総会 プログラム・抄録,2014年,Vol.13 suppl,p.202, O-12-2
【文献】
第13回日本再生医療学会総会 プログラム・抄録,2014年,Vol.13 suppl,p.200, O-11-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記陰イオン性界面活性剤(A)が、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩及び(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン性界面活性剤である請求項1に記載の脱細胞化処理液。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、動物由来組織(D)の脱細胞化処理に用いる脱細胞化処理液であって、炭素数が8〜24であるアルキル基と前記アルキル基に結合したオキシアルキレン基とを有する陰イオン性界面活性剤(A)を含むことを特徴とする脱細胞化処理液である。
【0009】
動物由来組織(D)としては、特に限定されないが、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、カンガルー、サル及びヒト等の哺乳類動物から得られた上皮組織、結合組織、神経組織及び筋組織からなる群から選ばれる少なくとも2種の組織からなる混合組織であることが好ましい。
混合組織としては、心臓、腎臓、肺、肝臓、脳、腸、子宮、大網及び小口径血管等が挙げられ、これらの全体を用いても、その一部を用いても良い。
【0010】
本発明の脱細胞化処理液は、炭素数が8〜24であるアルキル基と前記アルキル基に結合したオキシアルキレン基とを有する陰イオン性界面活性剤(A)を含むことを特徴とする。
一般的な脱細胞化処理液にはSDSが含まれている。脱細胞化処理の際には、動物由来組織(D)は脱細胞化処理液で洗浄されることになるが、SDSは分子量が小さいので、動物由来組織(D)への浸透力が非常に高い。そのため、脱細胞化処理中に、動物由来組織(D)に多量のSDSが浸透しやすくなる。多量のSDSが動物由来組織(D)に浸透すると、組織の細胞間に浸透圧の差が生じやすくなる。その結果、細胞が損傷しやすくなる。更に、SDSは強力な界面活性剤であるので、動物由来組織(D)に存在する細胞を損傷させやすい。そのため、動物由来組織(D)の表面に存在するタンパク質や多糖等が減少しやすくなる。動物由来組織(D)の表面に存在するタンパク質や多糖等が減少すると、得られる脱細胞化組織の生体適合性が低くなる。
しかし、本発明の脱細胞化処理液では、炭素数が8〜24であるアルキル基とアルキル基に結合したオキシアルキレン基とを有する陰イオン性界面活性剤(A)が含まれている。
陰イオン性界面活性剤(A)は、オキシアルキレン基を有しているので、SDSと比較して分子量が大きい。そのため、動物由来組織(D)を本発明の脱細胞化処理液で洗浄すると、陰イオン性界面活性剤(A)の組織への浸透量は少なくなり、細胞が損傷しにくくなる。その結果、動物由来組織(D)の表面に存在するタンパク質や多糖等が減少しにくくなり、得られる脱細胞化組織の生体適合性が高くなる。
【0011】
陰イオン性界面活性剤(A)が有する炭素数が8〜24であるアルキル基としては、炭素数が8〜24である直鎖アルキル基及び炭素数が8〜24である分岐アルキル基が挙げられる。
炭素数が8〜24である直鎖アルキル基としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、n−ヘンエイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基及びn−テトラコシル基等が挙げられる。
炭素数が8〜24である分岐アルキル基としては、分岐の位置はいずれの位置でもよく、分岐の数に特に制限はない。このような炭素数が8〜24である分岐アルキル基としては、イソオクチル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソエイコシル基、イソドコシル基、イソテトラコシル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルヘプチル基、2−ブチルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、3,7,11−トリメチルドデシル基及び炭素数が3又は4であるオレフィン(プロピレン及びブテン等)のオリゴマー由来の合成アルコール(炭素数が8〜24)から水酸基を除いた残基等が挙げられる。
なかでも炭素数が8〜24である直鎖アルキル基が好ましく、更に好ましくはn−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基及びn−テトラデシル基である。
アルキル基の炭素数が8未満では、細胞除去力が低いため充分な脱細胞が行えない。
また、アルキル基の炭素数が24を超えると細胞除去力が劣り、好ましくない。
【0012】
陰イオン性界面活性剤(A)が有するオキシアルキレン基としては、炭素数が2〜4であるオキシアルキレン基が挙げられ、炭素数が2〜4であるオキシアルキレン基としてはオキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基等が挙げられる。
【0013】
陰イオン性界面活性剤(A)が有するオキシアルキレン基の平均付加モル数(以下、nと略記する)は、1〜100が好ましく、更に好ましくは1〜20、特に好ましくは1〜10である。nが100を超えると、細胞除去力が劣るために脱細胞化処理が不充分となる。nが1未満では使用性が良くない。
nが2以上である場合、陰イオン性界面活性剤(A)が有するオキシアルキレン基は、1種類のオキシアルキレン基から構成されていてもよく、2種以上のオキシアルキレン基から構成されていてもよい。2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、結合様式はブロック、ランダム及びこれらの混合のいずれでもよい。
【0014】
陰イオン性界面活性剤(A)が有するオキシアルキレン基は、オキシエチレン基であることが好ましく、nが1〜10であるポリオキシエチレン基であることが更に好ましい。
【0015】
本発明における陰イオン性界面活性剤(A)としては、炭素数が8〜24であるアルキル基を有する(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(A1)、炭素数が8〜24であるアルキル基を有する(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)、炭素数が8〜24であるアルキル基を有する(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩(A3)、炭素数が8〜24であるアルキル基を有する(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(A4)及びこれらの混合物等が挙げられる。
なお、本明細書において(ポリ)オキシアルキレンは、ポリオキシアルキレン及び/又はオキシアルキレンを意味する。
【0016】
また、陰イオン性界面活性剤(A)は、アルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等であってもよい。陰イオン性界面活性剤(A)がアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤(A)がアミン塩である場合、アミンとしては1級アミン(メチルアミン、エチルアミン及びブチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン及びグアニジン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジブチルアミン等のジアルキルアミン並びにジエタノールアミン等)塩、3級アミン{トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン及びトリブチルアミン等)、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等}及び第4級アンモニウム(テトラアルキルアンモニウム等)等が挙げられる。
【0017】
(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(A1)としては、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられ、アルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等であることが好ましく、アミンとしてはトリエタノールアミン等であることが好ましい。(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸としては、ポリオキシエチレン(n=12)ノニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレン(n=15)ラウリルエーテル硫酸、ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸、ポリオキシエチレン(n=2.5)オレイルエーテル硫酸及びポリオキシエチレン(n=2.5)ドデシルエーテル硫酸等が挙げられる。
なかでも(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(A1)としては、ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム又はポリオキシエチレン(n=2.5)オレイルエーテル硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0018】
これらの(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(A1)は、炭素数が8〜24である直鎖又は分岐状である1級飽和アルコール又は2級飽和アルコールに、前記アルコール1分子当たり平均1〜100モルのアルキレンオキサイドを公知の方法で付加し、これを更に特開平9−137188号公報等に記載の公知の方法を用いて硫酸化することで得ることができる。
【0019】
(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)としては、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられ、アルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等であることが好ましく、アミンとしてはトリエタノールアミン等であることが好ましい。(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)としては、ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレン(n=3)トリデシルエーテル酢酸塩等が挙げられる。
なかでも(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)としては、ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム又はポリオキシエチレン(n=3)トリデシルエーテル酢酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
これらの(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)は、炭素数が8〜24である直鎖又は分岐状である1級飽和アルコール又は2級飽和アルコールに、前記アルコール1分子当たり平均1〜100モルのアルキレンオキサイドを公知の方法で付加し、これを更に国際公開第2011/081063号等に記載の公知の方法を用いて、末端をカルボン酸置換させる方法等で得ることができる。
【0021】
(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩(A3)としては、(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられ、アルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等であることが好ましく、アミンとしてはトリエタノールアミン等であることが好ましい。(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩(A3)としては、ポリオキシエチレン(n=1)スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレン(n=2)アルキル(12〜14)スルホコハク酸二ナトリウム又はポリオキシエチレン(n=2.5)−ジ−ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウムが好ましい。
【0022】
これらの(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩(A3)は、炭素数が8〜24である直鎖又は分岐状である1級飽和アルコール又は2級飽和アルコールに、前記アルコール1分子当たり平均1〜100モルのアルキレンオキサイドを公知の方法で付加し、これを更に特開2002−11949号公報等に記載の公知の方法を用いて、製造することができる。
【0023】
(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(A4)としては、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられ、アルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等であることが好ましく、アミンとしてはトリエタノールアミン等であることが好ましい。(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(A4)としては、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)エーテルリン酸エステル二ナトリウム又はポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル二ナトリウムが好ましい。
【0024】
これらの(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(A4)は、炭素数が8〜24である直鎖又は分岐状である1級飽和アルコール又は2級飽和アルコールに、前記アルコール1分子当たり平均1〜100モルのアルキレンオキサイドを公知の方法で付加し、これを更に特開平7−194959号公報等に記載の公知の方法を用いて、リン酸化することで得ることができる。
【0025】
なかでも陰イオン性界面活性剤(A)としては、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(A1)、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩(A2)及び(ポリ)オキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩(A3)が好ましい。
【0026】
陰イオン性界面活性剤(A)としては、1種の陰イオン性界面活性剤が用いられていてもよく、2種以上の陰イオン性界面活性剤が用いられていてもよい。
【0027】
本発明の脱細胞化処理液は、前記の陰イオン性界面活性剤(A)を含んでなり、更に水を含むことが好ましい。
水としては、イオン交換水、蒸留水、水道水及び工業用水等が挙げられる。
【0028】
脱細胞化処理液に含まれる陰イオン性界面活性剤(A)の含有量は、細胞除去力及び組織の損傷等の観点から、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて0.01重量%〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.1重量%〜5重量%である。
【0029】
脱細胞化処理液に含まれる水の重量割合は、細胞除去力及び組織の損傷等の観点から、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて90重量%〜99.99重量%が好ましく、更に好ましくは95重量%〜99.9重量%である。
【0030】
本発明の脱細胞化処理液には、更に本発明の効果を損なわない範囲で、通常の脱細胞化処理液に使用されるその他の成分を配合することができる。
その他の成分としては、前記の陰イオン性界面活性剤(A)以外の陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、緩衝剤、キレート剤、防腐剤、殺菌剤及び酸化防止剤(以下、これらを他の添加剤とも略記する)が挙げられる。
本発明の脱細胞化処理液には、これらの他の成分が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0031】
陰イオン性界面活性剤(A)以外の陰イオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びα−オレフィンスルホン酸ナトリウム等)、リン酸エステル塩[ラウリルリン酸ナトリウム及び(ポリ)オキシエチレン(n=1〜100)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等]、脂肪酸塩(ラウリン酸ナトリウム及びラウリン酸トリエタノールアミン等)、炭素数が10〜18であるカルボン酸とアミノカルボン酸系アミノ酸との縮合物[アシルザルコシン塩(オレイルザルコシンナトリウム、ラウリルザルコシンナトリウム、パルミチルザルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸ザルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸ザルコシントリエタノールアミン及び「新界面活性剤」堀口博著(昭和50年、三共出版発行)p402−p404に記載のもの等)、アシルグルタミン酸塩(オレイルグルタミン酸ナトリウム、ラウリルグルタミン酸ナトリウム、パルミチルグルタミン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸グルタミン酸トリエタノールアミン及びヤシ油脂肪酸グルタミン酸ナトリウム等)、アシルアラニン塩(ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム等)等]、炭素数が10〜18であるカルボン酸とアミノスルホン酸系アミノ酸との縮合物[アシルメチルタウリン塩(ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム等)等]及び炭素数が10〜18であるカルボン酸とイセチオン酸との縮合物[アシルイセチオン酸塩(ヤシ油脂肪酸イセチオン酸ナトリウム等)等]等が挙げられる。
【0032】
本発明の脱細胞化処理液が、陰イオン性界面活性剤(A)以外の陰イオン性界面活性剤を含む場合、その含有量は、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて4.9重量%以下であることが好ましい。
【0033】
両性界面活性剤としては、ベタイン型界面活性剤(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン及びデシルジヒドロキシプロピルアミノ酢酸ベタイン等)、イミダゾリン型界面活性剤(2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等)、アミノ酸塩型界面活性剤(オクチルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ヤシ油アルキルアミノプロピオン酸ナトリウム、ミリスチルアミノプロピオン酸ナトリウム、パルミチルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノ酢酸ナトリウム及びラウリルアミノ酪酸ナトリウム等)、2−[N,N−ジ(アルキルベンジル)−N−メチルアンモニウム]−エチルサルフェート、N−ステアリルタウリンナトリウム及びN−ラウリルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0034】
本発明の脱細胞化処理液が、両性界面活性剤を含む場合、その含有量は、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて4.9重量%以下であることが好ましい。
【0035】
非イオン性界面活性剤としては、脂肪族アルコールのオキシアルキレン付加物(ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)、(ポリ)オキシアルキレンと高級脂肪酸とのエステル[モノステアリン酸ポリエチレングリコール(平均付加モル数=20)及びジステアリン酸ポリエチレングリコール(平均付加モル数=30)等]、多価アルコールと脂肪酸とのエステル(モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸エチレングリコール及びモノラウリン酸ソルビタン等)、多価アルコールのポリオキシアルキレン付加物と高級脂肪酸とのエステル[モノラウリン酸ポリオキシエチレン(平均付加モル数=10)ソルビタン及びポリオキシエチレン(平均付加モル数=50)ジオレイン酸メチルグルコシド等]、脂肪酸アルカノールアミド(1:1型ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド及び1:1型ラウリン酸ジエタノールアミド等)、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(TritonX−100等)、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル(ポリオキシエチレンラウリルアミン等)及びアルキルジアルキルアミンオキサイド[ラウリルジメチルアミンオキサイド等]等が挙げられる。
【0036】
本発明の脱細胞化処理液が、非イオン性界面活性剤を含む場合、その含有量は、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて4.9重量%以下であることが好ましい。
【0037】
陽イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型界面活性剤(塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム及びエチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等)、アミン塩型界面活性剤(ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩及びオレイルアミン乳酸塩等)等が挙げられる。
【0038】
本発明の脱細胞化処理液が、陽イオン性界面活性剤を含む場合、その含有量は、脱細胞化処理液の合計重量に基づいて4.9重量%以下であることが好ましい。
【0039】
緩衝剤としては、溶液内のpHを一定に保つ緩衝作用のあるものであれば特に限定されないが、ホウ酸、リン酸、酢酸、Tris、HEPES、硫酸、塩酸、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、蟻酸、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等が挙げられる。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸ナトリウム等が挙げられ、防腐剤、殺菌剤、及び酸化防止剤としては、「香粧品科学」田村健夫著社団法人日本毛髪科学協会1976年発行のp185〜p196に記載の防腐剤と殺菌剤、p199〜p203に記載の酸化防止剤などが挙げられる。
【0040】
本発明の脱細胞化処理液が、緩衝剤及びキレート剤を含む場合、その含有量は、用いる動物由来組織(D)の種類、並びに、必要により用いる他の添加剤の種類及び含有量に応じて調整することができるが、脱細胞化処理液の合計重量に基づいてそれぞれ4.9重量%以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の脱細胞化処理液は、陰イオン性界面活性剤(A)、水及び必要により用いるその他の成分を均一に混合することで得ることができる。また、陰イオン性界面活性剤(A)、水及び必要により用いるその他の成分の混合順序に制限はない。
陰イオン性界面活性剤(A)、水及び必要により用いるその他の成分を均一に混合する方法としては、公知の混合装置(転倒型撹拌混合機及び回転式撹拌羽根付きの混合容器等)等を用いる方法等が挙げられ、均一に混合する温度は通常30〜50℃であることが好ましく、より好ましくは35〜40℃である。
【0042】
本発明の脱細胞化処理液は、動物由来組織(D)を脱細胞化した脱細胞化組織を製造するために使用することができる。
つまり、本発明の脱細胞化処理液は、以下の本発明の脱細胞化組織の製造方法に用いることができる。
【0043】
本発明の脱細胞化組織の製造方法は、
動物由来組織(D)を、緩衝溶液を用いて洗浄する第一洗浄工程と、
第一洗浄工程後の動物由来組織(D)を、凍結し、その後融解する凍結融解工程と、
凍結融解工程後の動物由来組織(D)を、脱細胞化処理液を用いて洗浄する脱細胞化工程と、
脱細胞化工程後の動物由来組織(D)を、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて洗浄する第二洗浄工程とを含むことを特徴とする。
【0044】
(1)第一洗浄工程
まず、動物由来組織(D)を、緩衝溶液を用いて洗浄する。
動物由来組織(D)を、緩衝溶液を用いて洗浄するとは、動物由来組織(D)が有する血管とチューブをつなぎ、緩衝溶液を動物由来組織(D)に還流させることを意味する。なお、緩衝溶液の還流は、公知のチュービングポンプで行うことができる。
第一洗浄工程で用いる緩衝溶液は、緩衝剤を水に溶解したものであり、溶液内のpHを一定に保つ緩衝作用のあるものであれば特に限定されないが、好ましくはリン酸緩衝溶液であり、緩衝溶液はヘパリン等の抗凝固薬を含んでいることが更に好ましい。
なお、緩衝溶液のpHは4.0〜9.0であることが好ましい。
【0045】
(2)凍結融解工程
次に、第一洗浄工程後の動物由来組織(D)を凍結させ、その後融解させる。
凍結融解工程における凍結及び融解の条件は、以下の条件であることが好ましい。
動物由来組織(D)を凍結させる条件は、−10〜−80℃、2〜24時間であることが好ましい。
動物由来組織(D)の凍結は、公知の低温フリーザーを用いることで行うことができる。
凍結された動物由来組織(D)を融解させる条件は、18〜27℃、4〜12時間であることが好ましい。動物由来組織(D)の融解は、公知の恒温槽を用いることで行うことができる。
凍結融解工程において、動物由来組織(D)の凍結及び融解は少なくとも1回以上行われ、連続して3回行うことが好ましい。
【0046】
(3)脱細胞化工程
次に、凍結融解工程後の動物由来組織(D)を、脱細胞化処理液を用いて洗浄する。
動物由来組織(D)を、脱細胞化処理液を用いて洗浄するとは、動物由来組織(D)が有する血管とチューブをつなぎ、脱細胞化処理液を動物由来組織(D)に還流させることを意味する。なお、脱細胞化処理液の還流は、公知のチュービングポンプで行うことができる。
本工程を経ることで、動物由来組織(D)から細胞を取り除くことができる。
本工程で用いる脱細胞化処理液は、上記本発明の脱細胞化処理液である。
動物由来組織(D)を、脱細胞化処理液を用いて洗浄する温度は、室温を上回る温度であることが好ましく、30〜50℃であることがより好ましい。
動物由来組織(D)を、脱細胞化処理液を用いて洗浄する時間は、6〜48時間であることが好ましく、9〜12時間であることがより好ましい。
【0047】
(4)第二洗浄工程
次に、脱細胞化工程後の動物由来組織(D)をヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて洗浄する。
動物由来組織(D)をヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて洗浄するとは、動物由来組織(D)が有する血管とチューブをつなぎ、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液を動物由来組織(D)に還流させることを意味する。なお、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液の還流は、公知のチュービングポンプで行うことができる。
本工程を経ることで、動物由来組織(D)に残留する核酸物質を分解することができる。特に、石灰化している部分の動物由来組織(D)には、核酸物質が残留しやすい。しかし、本工程により石灰化している部分の動物由来組織(D)からも充分に核酸物質を除去することができる。動物由来組織(D)から核酸物質を除去することにより、生体適合性を向上させることができる。
本工程に用いるヌクレアーゼ酵素は、リボヌクレアーゼ等が挙げられ、デオキシリボヌクレアーゼ(以下、DNaseと略記する)であることが好ましい。
ヌクレアーゼ酵素を含む溶液としては、リン酸緩衝溶液に500U/mlのDNaseを含む溶液であることが好ましい。
動物由来組織(D)を、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて洗浄する温度は、30〜50℃であることが好ましく、30〜40℃であることがより好ましい。
動物由来組織(D)を、ヌクレアーゼ酵素を含む溶液を用いて洗浄する時間は、12〜48時間であることが好ましく、16〜24時間であることがより好ましい。
【0048】
以上の工程を経て、脱細胞化組織の製造をすることができる。
【0049】
本発明の脱細胞化組織の製造方法において、製造された脱細胞化組織の脱細胞化の程度については以下の方法により脱細胞化組織中の残存ゲノムDNA(gDNA)量を測定することで確認することができる。
【0050】
<脱細胞化組織中の残存gDNA量の測定>
脱細胞化組織を、脱細胞化組織の重量変化がなくなるまで60℃で加熱乾燥処理を行う。加温乾燥処理後の脱細胞化組織からQIAamp DNA Mini Kit(Qiagen GmbH社製)を使用してDNAを抽出し、Quant−iT PicoGreen DNA assay kit(Life Technologies社製)を用いて、gDNA量の測定を行い、脱細胞化組織の乾燥重量1mgに含まれるgDNA量を算出する。
【0051】
本発明の製造方法によって製造された脱細胞化組織の残存gDNA量は、生体適合性の観点から、50ng/mg以下であることが好ましく、全く含まないことがより好ましい。
【0052】
本発明の脱細胞化組織の製造方法では、脱細胞化処理前の動物由来組織(D)に含まれるグリコサミノグリカンの含有量に対する脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量が、50%以上であることが好ましく、100%に近いことがより好ましい。
グリコサミノグリカンは細胞外マトリクスの構成成分の1つであり、組織表面の損傷があると含有量が低下することが知られている。つまり、動物由来組織(D)を脱細胞化処理する際に、組織表面が損傷すると、脱細胞化処理後の動物由来組織(D)(脱細胞化組織)中のグリコサミノグリカンの含有量は低下する。つまり、脱細胞化処理前の動物由来組織(D)中のグリコサミノグリカンの含有量と、脱細胞化処理後の動物由来組織(D)(脱細胞化組織)中のグリコサミノグリカンの含有量を比較することで、脱細胞化処理後の動物由来組織(D)(脱細胞化組織)の組織表面の損傷の程度を知ることができる。
脱細胞化処理前の動物由来組織(D)に含まれるグリコサミノグリカンの含有量に対する脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量が50%以上であると、組織表面の損傷が充分に抑えられており、脱細胞化組織の生体適合性が高くなる。
【0053】
次に、本発明の脱細胞化組織の製造方法で得られる脱細胞化組織について説明する。
本発明の脱細胞化組織の製造方法により、脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量を脱細胞化組織の乾燥重量に対して0.1%以上にすることができる。また、得られる脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量は脱細胞化組織の乾燥重量に対して0.2〜1.0%であることが好ましい。
脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量が脱細胞化組織の乾燥重量に対して0.1%以上であると、組織表面の損傷が充分に抑えられており、脱細胞化組織の生体適合性が高くなる。
【0054】
動物由来組織(D)又は脱細胞化組織中のグリコサミノグリカンの測定は、以下の方法により行うことができる。
脱細胞化組織(D)又は脱細胞化組織をパパイン抽出溶液(125μg/mlパパイン、5mM L−システイン塩酸塩、0.05M EDTA(pH6.0)を含む0.1M酢酸ナトリウム溶液)に浸漬し、65℃で3時間処理する。その後、10,000×gで10分間遠心分離し、上清を新しいエッペンチューブに移す。その後、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit(バイオカラー社製)を用いることにより、グリコサミノグリカンの定量を行うことができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
[脱細胞化処理されたラット心臓の作製]
10〜12週齢のウィスターラットの腹腔内に、ソムノペンチル(共立製薬社製)を50ml/kgになるように投与し、麻酔を行った。その後、胸骨正中切開を行い、ヘパリン溶液(1000IU/ml)をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略記する)で10倍希釈した溶液1mlを下大静脈から注射した。心臓を摘出し、チュービングポンプ(アスワン社製、TP−10SA)とつながっているチューブ(外径2mm)を大動脈に挿管し、上記ヘパリンを含むPBSを15分間還流した。50ml遠心管チューブに、PBSを40ml加え、その中にラット心臓を入れ、−80℃で6時間凍結させた。その後、室温に放置し、完全に溶解させた。同様の凍結融解の操作を合計で3回行った。融解した心臓の大動脈につながっているチューブを、チュービングポンプにセットし、PBSを5分間還流した。その後、37℃で加温したポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを0.1重量%の濃度で水に溶解した脱細胞化処理液を、37℃で12時間還流した後、脱イオン水で15分間還流した。更に、1% TritonX−100で30分間還流した後、再度脱イオン水で15分間還流した。その後500U/mlのDNase溶液で24時間還流し、実施例1に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0057】
<実施例2>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの濃度を1.0重量%に変更すること以外は実施例1と同様にして実施例2に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0058】
<実施例3>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの濃度を5.0重量%に変更すること以外は実施例1と同様にして実施例3に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0059】
<実施例4>
ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムをポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウムに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例4に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0060】
<実施例5>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウムの濃度を1.0重量%に変更すること以外は実施例4と同様にして実施例5に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0061】
<実施例6>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウムの濃度を5.0重量%に変更すること以外は実施例4と同様にして実施例6に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0062】
<実施例7>
ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムをポリオキシエチレン(n=2.5)−ジ−ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウムに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例7に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0063】
<実施例8>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)−ジ−ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウムの濃度を1.0重量%に変更すること以外は実施例7と同様にして実施例8に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0064】
<実施例9>
脱細胞化処理液に含まれるポリオキシエチレン(n=2.5)−ジ−ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウムの濃度を5.0重量%に変更すること以外は実施例7と同様にして実施例9に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0065】
<実施例10>
[脱細胞化処理されたラット腎臓の製造]
ラット心臓をラット腎臓に変更したこと以外は実施例2と同様にして実施例10に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0066】
<実施例11>
[脱細胞化処理されたラット小口径血管の製造]
ラット心臓をラット小口径血管に変更したこと以外は実施例2と同様にして実施例11に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0067】
<比較例1>
[SDSを用いて脱細胞化処理されたラット心臓の製造]
ポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムをドデシル硫酸ナトリウムに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例1に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0068】
<比較例2>
脱細胞化処理液に含まれるドデシル硫酸ナトリウムの濃度を1.0重量%に変更すること以外は比較例1と同様にして比較例2に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0069】
<比較例3>
脱細胞化処理液に含まれるドデシル硫酸ナトリウムの濃度を5.0重量%に変更すること以外は比較例1と同様にして比較例3に係る脱細胞化組織の製造を行った。
【0070】
<脱細胞化組織の評価>
実施例1〜11及び比較例1〜3に係る脱細胞化組織について、上記方法で脱細胞化組織中の残存gDNA量を測定し、以下の方法で脱細胞化組織の組織表面の損傷、脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの定量、脱細胞化組織への血小板付着能及び脱細胞化組織の体内留置による炎症試験を行った。
【0071】
<脱細胞化組織の組織表面の評価>
実施例1〜11及び比較例1〜3に係る脱細胞化組織をそれぞれ2%PFA、及び2%グルタルアルデヒドを含む0.1Mカコジル酸緩衝溶液(pH7.4)に4℃で一晩浸漬し、その後1%タンニン酸を含む0.1Mカコジル酸緩衝溶液(pH7.4)に4℃で2時間浸漬した。その後、0.1Mカコジル酸緩衝溶液に脱細胞化組織を30分間浸漬し、溶液を取替え、計4回洗浄を行った。後固定処理として、2%四酸化オスミウムを含む0.1Mカコジル酸緩衝溶液に脱細胞化組織を浸漬し、4℃で3時間処理した。その後0.1Mカコジル酸緩衝溶液から脱細胞化組織を取り出し、50、70、90及び100%エタノールに濃度の低い方から順次それぞれ10分間浸漬することで脱水処理し、その後tert−ブチルアルコールに2時間浸漬してエタノールを置換した後、冷凍庫で凍結させた。凍結した脱細胞化組織を凍結乾燥機内に運び、真空状態で24時間凍結乾燥した。乾燥した脱細胞化組織をオスミウムプラズマコーター(NL−OPC80NS、日本レーザー&エレクトロニクス研究所)を用いてオスミウムコートし、SEM(JSM−6340F、日本レーザー&エレクトロニクス研究所)を用いて5.0kVの加速電圧で脱細胞化組織の表面構造を観察し、表面の状態を次の基準で評価して結果を表1に記載した。
(評価基準)
◎:やや構造が壊れているが、構造を維持している
○:部分的に構造が壊れている
×:全体的に構造が壊れている
【0072】
<脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの定量>
脱細胞化処理を行っていないラット心臓組織、実施例1〜9及び比較例1〜3に係る脱細胞化組織をそれぞれパパイン抽出溶液(125μg/mlパパイン、5mM L−システイン塩酸塩、0.05M EDTAを含む0.1M酢酸ナトリウム溶液(pH6.0))に浸漬し、65℃で3時間処理した。10,000×gで10分間遠心分離し、上清を新しいエッペンチューブに移した。その後、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit(バイオカラー社製)を用いて、グリコサミノグリカンの定量を行った。それぞれの脱細胞化組織について、脱細胞化処理を行っていないラット心臓組織に含まれるグリコサミノグリカン(N−G)の含有量に対する脱細胞化組織のグリコサミノグリカン(D−G)の含有量の割合を算出し、結果を表1に記載した。
グリコサミノグリカンは細胞外マトリクスの構成成分の1つであり、組織表面の損傷があると含有量が低下することが知られている。すなわち、脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量が、脱細胞化処理を行っていない組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量に近いほど、この値は100に近くなる。また、この値が100に近いほど組織表面の損傷が少ないことを意味する。
実施例10及び実施例11についても、実施例1〜9と同様にグリコサミノグリカンの定量を行い、それぞれ脱細胞化処理を行っていないラット腎臓組織及びラット小口径血管に含まれるグリコサミノグリカン(N−G)の含有量に対する脱細胞化組織のグリコサミノグリカン(D−G)の含有量の割合を算出し、結果を表1に記載した。
更に前記の方法で定量した実施例1〜11及び比較例1〜3で製造した脱細胞化組織に含まれるグリコサミノグリカンの含有量と製造した脱細胞化組織の乾燥重量とから脱細胞化組織の乾燥重量に対するグリコサミノグリカンの含有量の割合を計算し、表1に記載した。
【0073】
<脱細胞化組織への血小板付着能>
ラットから血液を採取し、3.8重量%クエン酸ナトリウム溶液を10分の1量添加し、200×gで15分間、遠心分離した。上清を別の遠心管チューブに移し、血小板を多く含む血漿(以下、PRPと略記する)を採取した。実施例1〜11及び比較例1〜3に係る脱細胞化組織をそれぞれキムタオル上で充分に水分を吸収させた後、50mg秤量し、それぞれ1.5ml遠心チューブに移し、PRPを0.5ml加え、37℃で30分間反応させた。その後、脱細胞化組織を取り出し、PBSで2回洗浄し、TritonX−100の1%水溶液を1ml加え、37℃で30分間反応させた。その後、LDH cytotoxicity detection kit(MK401、タカラバイオ社製)を用いて、乳酸脱水素酵素(LDH)の活性を測定した。これらの結果を表1に示す。
移植時に、脱細胞化組織に血小板が付着すると、凝血塊が形成され、血流を低下させる血栓症を引き起こす原因となる場合があることが知られている。移植用の生体組織は、脱細胞化組織に比べて血小板付着能が低く、血栓症の発生リスクが低い。LDHの活性はその値が低いほど血小板付着能が低いことを意味する。なお、表1中の血小板付着能は、比較例3に係る脱細胞化組織を用いて上記方法により測定した、LDHの活性の値を100%とした場合の相対的なLDHの活性の値である。
【0074】
<脱細胞化組織の体内留置による炎症試験>
10〜12週齢のウィスターラットの腹腔内に、ソムノペンチル(共立製薬社製)を50ml/kgになるように投与し、麻酔を行った。その後、ラットを開腹し、腹膜を広げ、実施例1〜11及び比較例1〜3に係る脱細胞化組織をそれぞれ腹膜上に置き、腹膜で包んだ。この状態で閉腹し、二週間後に、ラットを麻酔処理し、脱細胞化組織を採取し、CD68抗体を用いてマクロファージを染色した。その後、採取した組織の切断面を顕微鏡を用いて目視観察し、次の基準で評価した。結果を表1に示す。なお、目視観察において、褐色に染まった領域が観察された場合には、その領域で炎症反応が起こっていることを示唆する。
(評価基準)
○:組織の切断面の面積の5%以上、15%未満で炎症反応が起こっている
△:組織の切断面の面積の15%以上、30%未満で炎症反応が起こっている
×:組織の切断面の面積の30%以上で炎症反応が起こっている
これらの結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1中、A1はポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを、A2はポリオキシエチレン(n=2.5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウムを、A3はポリオキシエチレン(n=2.5)−ジ−ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウムを、SDSはドデシル硫酸ナトリウムを表す。
【0077】
表1の結果より、陰イオン性界面活性剤(A)を含む本発明の脱細胞化処理液を用いて脱細胞化処理を行った脱細胞化組織は、脱細胞化処理による損傷が少ないことが判明した。