(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
<1>実施形態に係る雌端子は、
導体を有する通信ケーブルの端部に設けられる雌端子であって、
雄端子が挿入される筒状部と、
前記導体に電気的に接続される接続部と、を備え、
前記筒状部は、前記筒状部に挿入された前記雄端子の外周面を押圧する板バネ部を備え、
前記板バネ部の外部は、前記筒状部の外周に露出している。
【0015】
実施形態の雌端子は、板バネ部の外部が筒状体の外周に露出するシンプルな構成を備える。実施形態の雌端子の作製では、従来の雌端子のように板バネ部を形成した後、板バネ部を覆うように筒状部を形成する必要がない。従って、実施形態の雌端子は、生産性に優れる。
【0016】
<2>実施形態に係る雌端子の一形態として、
前記通信ケーブルの外周を把持するバレルとして、前記導体に繋がるワイヤバレルのみを備える形態が挙げられる。
【0017】
従来の雌端子は、ワイヤバレルに加えて、通信ケーブルのシースを把持するインシュレーションバレルを備える。これに対して、上記実施形態の雌端子は、ワイヤバレルのみを備える。従って、実施形態の雌端子は、小型・軽量であり、生産性に優れる。
【0018】
ここで、雌端子がインシュレーションバレルを備えない場合、コネクタ付通信ケーブルは、通信ケーブルの端部から雌端子が外れることを防止する構成を備えることが好ましい。そのような構成として、例えばコネクタ部材に設けられるクランプ部が挙げられる。クランプ部については、実施形態において詳しく説明する。
【0019】
<3>実施形態に係る雌端子の一形態として、
前記筒状部は、前記通信ケーブルの端部に設けられるコネクタ部材に係合する係合爪を備える形態が挙げられる。
【0020】
雌端子は、樹脂などの絶縁体によって構成されるコネクタ部材に収納される。そのコネクタ部材に対して雌端子が固定される必要がある。雌端子に係合爪が形成されており、その係合爪に対応する係合凹部がコネクタ部材に形成されていれば、雌端子とコネクタ部材とが強固に固定される。
【0021】
また、係合凹部に比べて複雑な形状の係合爪が第一端子の側に設けられることで、コネクタ部材の構成が簡素になる。従って、雌端子に係合爪が形成されることで、コネクタ部材が小型化できる。
【0022】
<4>実施形態に係る雌端子の一形態として、
ステンレス鋼によって構成される形態が挙げられる。
【0023】
実施形態の雌端子は、従来の雌端子のように板バネ部の外周を覆う保護部を備えない。従って、実施形態の雌端子は強度に優れることが好ましい。ステンレス鋼は、雌端子の強度を確保しつつ、導電性に優れる点で好ましい。雌端子に好適なステンレス鋼は、後述する実施形態に列挙する。
【0024】
<5>上記<4>に記載の実施形態に係る雌端子の一形態として、
各部の厚みが0.05mm以上0.15mm以下である形態が挙げられる。
【0025】
ステンレス鋼によって構成される雌端子は、雌端子の各部の厚みが0.05mm以上0.15mm以下であっても十分な強度を備える。実施形態の雌端子の各部の厚みが0.15mm以下であれば、雌端子を小型化できる。特に、実施形態の雌端子は、板バネ部の外周を覆う保護部を備えない。従って、雌端子の各部の厚みが0.15mm以下であれば、従来の雌端子に比べて、実施形態の雌端子をかなり小型化できる。
【0026】
<6>実施形態に係るコネクタモジュールは、
実施形態に係る雌端子と、
前記雌端子を収納するコネクタ部
材と、を備える。
【0027】
上記コネクタモジュールは生産性に優れる。コネクタモジュールに備わる雌端子が生産性に優れるからである。
【0028】
<7>実施形態に係るコネクタ付通信ケーブルは、
実施形態に係るコネクタモジュールと、
前記雌端子に電気的に接続される導体を有する通信ケーブルと、を備える。
【0029】
上記コネクタ付通信ケーブルは生産性に優れる。コネクタ付通信ケーブルに備わるコネクタモジュールが生産性に優れるからである。
【0030】
<8>実施形態に係るコネクタアセンブリは、
実施形態に係るコネクタ付通信ケーブルと、
複数の第二端子を有するインナハウジングを備える信号ケーブルと、
前記コネクタ部材と前記インナハウジングとを収納するアウタハウジングと、を備える。
【0031】
上記コネクタアセンブリは生産性に優れる。コネクタアセンブリに備わるコネクタ付通信ケーブルが生産性に優れるからである。
【0032】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態に係る雌端子、コネクタモジュール、コネクタ付通信ケーブル、及びコネクタアセンブリの具体例を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
<実施形態>
≪コネクタ付通信ケーブル、及びコネクタモジュール≫
本例では、
図1から
図14に基づいて、自動車における有線の高速通信に用いられるコネクタ付通信ケーブル1を説明する。ここで、
図1,4では、コネクタ付通信ケーブル1に加えて、車載装置の回路基板(図示せず)から延びるアース端子10が図示されている。
図3では、後述する雌端子6のワイヤバレル62が開いた状態で図示されているが、実際にはワイヤバレル62は閉じた状態になっている。
図4,5では、通信ケーブル2の遮蔽層23は断面図としていない。
図1から
図5の上下方向は、自動車における上下と必ずしも一致しない。
【0034】
図1に示される実施形態のコネクタ付通信ケーブル1は、100Mbps以上の通信に用いられる通信ケーブル2と、通信ケーブル2の端部に設けられるコネクタモジュール3とを備える。このコネクタ付通信ケーブル1は更に、コネクタモジュール3の根元に導電ゴム部材7と止水栓30を備える。本例のコネクタ付通信ケーブル1は、通信ケーブル2の片端にコネクタモジュール3が設けられたピグテール(pigtale)ケーブルである。本例とは異なり、コネクタ付通信ケーブル1は、通信ケーブル2の両端にコネクタモジュール3を備えるジャンパ(jumper)ケーブルであっても良い。
【0035】
コネクタモジュール3は、
図1,2,4,5に示されるように、コネクタ部材5と、コネクタ部材5の外周を覆う筒状のシールド部材4とを備える。コネクタ部材5は、
図3に示されるように、その内部に雌端子6を備える。本例のコネクタ付通信ケーブル1及びコネクタモジュール3の特徴の一つとして、雌端子6の構成が挙げられる。以下、本例のコネクタ付通信ケーブル1の各構成を詳細に説明する。まず、通信ケーブル2の構成を簡単に説明し、次いで雌端子6の構成を説明する。その後、コネクタ部材5などのコネクタモジュール3の構成を順次説明する。なお、シールド部材4は必須ではない。
【0036】
≪通信ケーブル≫
図1から
図5に示される通信ケーブル2は、100Mbps以上の通信速度を確保できるものであれば特に限定されない。通信ケーブル2の通信速度は、1Gbps以上であることが好ましい。本例の通信ケーブル2は、イーサネット(登録商標)規格を満たすツイストペアケーブルである。ツイストペアケーブルは、ノイズの影響を受け難い差動通信に好適である。
【0037】
通信ケーブル2(ツイストペアケーブル)は、
図3に示されるように、撚り合わされた二本の電線2A,2Bを備える。電線2A,2Bは、導体20とその外周を覆う導体絶縁層21とを備える。撚り合わされた二本の電線2A,2Bは、介在絶縁層22によって一つにまとめられている。通信ケーブル2は更に、介在絶縁層22の外周に設けられる遮蔽層23と、遮蔽層23の外周を覆うシース24とを備える。遮蔽層23は、電磁波を遮蔽するための構成であって、例えばアルミニウム合金などの編組線によって構成される。一方、シース24は、ポリ塩化ビニル又はポリエチレンなどの絶縁性樹脂によって構成されている。
【0038】
通信ケーブル2の端部は段剥ぎされている。通信ケーブル2の最も先端側では電線2A,2Bが介在絶縁層22から露出され、その電線2A,2Bの先端では導体20が導体絶縁層21から露出されている。また、通信ケーブル2の端部において遮蔽層23はシース24から露出されている。シース24から露出する遮蔽層23の一部は、
図4,5の断面図に示されるように、シールド部材4の後端部(通信ケーブル2側の端部)から露出している。
【0039】
≪雌端子≫
通信ケーブル2の導体20(
図3)に接続される雌端子6の説明にあたっては、主に
図6,7を参照する。
【0040】
雌端子6は、板材をプレス成形することで作製される。雌端子6は、筒状部6Aと、接続部6Bとを備える。筒状部6Aは、図示しない雄端子が挿入される端子孔6hを備える。雌端子6と雄端子との機械的な接触によって、雌端子6と雄端子とが電気的に接続される。
【0041】
筒状部6Aは、端子孔6hに挿入された雄端子の外周面を押圧する板バネ部60を備える。この板バネ部60の外部は、筒状部6Aの外周に露出している。板バネ部60は、
図7に示されるように、筒状部6Aの一部によって構成されている。具体的には、角筒状の筒状部6Aの下面(
図7において紙面手前側を向く面)の一部が、板バネ部60を構成している。板バネ部60における端子孔6h側の端部と、板バネ部60における接続部6B側の端部とが、筒状部6Aに繋がっている。一方、板バネ部60を挟む筒状部6Aの二つの角部は打ち抜かれている。筒状部6Aの軸方向(雄端子が挿抜される方向)における板バネ部60の中央は、筒状部6Aの内方に湾曲している。このような板バネ部60は、プレス成形によって容易に作製される。例えば、雌端子6の元となる板材のうち、筒状部6Aの角部となる部分の一部を打ち抜いて、プレス成形によって筒状部6Aを作製するだけで、板バネ部60が形成される。
【0042】
筒状部6Aにおける板バネ部60と反対側の面は、筒状部6Aの内部に向って凹む押圧部61を備える。押圧部61は、筒状部6Aに収納された雄端子を板バネ部60側に押圧する。その結果、雄端子と板バネ部60との接触が確実に確保される。本例の押圧部61も、筒状部6Aの外周に露出している。押圧部61の外部を覆う物がないため、筒状部6Aをプレス成形する際に、押圧部61を同時に形成できる。
【0043】
接続部6Bは、導体20(
図3)に電気的に接続される箇所である。この接続部6Bにはワイヤバレル62が設けられている。ワイヤバレル62は、導体20を把持する部材である。ここで、本例の雌端子6は、通信ケーブル2の外周を把持するバレルとして、ワイヤバレル62のみを備える。従来の端子は、通信ケーブル2のシース24を把持するインシュレーションバレルを備えるが、本例の雌端子6はインシュレーションバレルを備えない。
【0044】
雌端子6は、コネクタ部材5(
図8)の係合凹部56に係合する係合爪63を備える。係合爪63は、雌端子6を構成する板材の一部に切込みを入れて、切込みが入った部分を屈曲させることで構成されている。そのため、係合爪63は、板バネのようになっている。係合爪63の先端は、ワイヤバレル62側に向いている。雌端子6は、後述するコネクタ部材5(
図8)の挿入孔5hに挿入される。より具体的には、
図8に示されるコネクタ部材5の台座部50B側(紙面右側)から挿入孔5hに挿入される。挿入孔5h(
図8)への雌端子6の挿入時、係合爪63は筒状部6Aの内部側に向って変形する。係合爪63は、係合凹部56(
図8)に対応する位置で、自身の弾性によって元の形に戻る。係合爪63は、係合凹部56に引っ掛かり、雌端子6はコネクタ部材5にしっかりと固定される。
【0045】
雌端子6の各部の厚みは、0.15mm以下であることが好ましい。雌端子6の各部の厚みが0.15mm以下であれば、雌端子6を小型化し易い。また、雌端子6の各部の厚みは、0.05mm以上であることが好ましい。当該厚みが0.05mm以上であれば、雌端子6の強度が確保される。より好ましい雌端子6の各部の厚みは、0.075mm以上0.13mm以下である。さらに好ましい雌端子6の各部の厚みは、0.080mm以上0.10mm以下である。ここでいう厚みには、第一端子6を構成する板材が折り曲げられてなるエッジの厚みは含まない。
【0046】
雌端子6は、導電性に優れる材料で構成される。ここで、雌端子6は、従来の雌端子のように板バネ部60の外周を覆う保護部を備えない。従って、本例の雌端子6は、強度に優れる材料で構成されることが好ましい。導電性に優れ、かつ強度に優れる材料としてステンレス鋼が挙げられる。本例の雌端子6に好適なステンレス鋼としては、例えば欧州規格で1.4372、1.4373、1.4310、1.4318、1.4305、1.4307、1.4306、1.4311、1.4303、1.4401、1.4436、1.4404、1.4432、1.4435、1.4406、1.4429、1.4571、1.4438、1.4434、1.4439、1.4539、1.4541、1.4550、1.4587、1.4381、1.4462、1.4507、1.4002などが挙げられる。これらの中でも、導電性、強度の観点から、例えば、1.4310、1.4318が好ましい。雌端子6の表面は、導電性に優れる材質でメッキされていることが好ましい。例えば、メッキの材質として錫(Sn)又は銀(Ag)などが挙げられる。
【0047】
上記構成を備える雌端子6は、非常にシンプルな構成を備える。特に、雌端子6は、板バネ部60及び押圧部61の外部を覆う構成を備えないため、筒状部6Aのプレス成形時に、同時に板バネ部60及び押圧部61が作製可能である。従って、本例の雌端子6は、従来の雌端子よりも容易に作製可能である。
【0048】
≪コネクタ部材≫
コネクタモジュール3を構成する本例のコネクタ部材5は、
図2,3に示されるように、ハウジング50とカバー51とを備える。ハウジング50とカバー51は共に、ポリエチレンなどの絶縁性樹脂によって構成されている。
【0049】
・ハウジング
図8,9に示されるハウジング50は、
図6,7に示される雌端子6の先端が挿入されるコネクタ筒部50Aと、雌端子6と導体20との接続箇所を下支えする台座部50Bとを備える。台座部50Bの紙面上方側は開口している。
【0050】
コネクタ筒部50Aは、雌端子6(
図3)が挿入される一対の挿入孔5hを備える。コネクタ筒部50Aには、その外周面から挿入孔5hに連通する係合凹部56(係合孔)が設けられている。係合凹部56は、挿入孔5hの内周面に形成される凹みであっても良い。この係合凹部56には、雌端子6の係合爪63(
図6)が係合される。
【0051】
台座部50Bには、ハウジング側係合部50Eと貫通孔57とが設けられている。ハウジング側係合部50Eは、ハウジング50とカバー51との連結に使用される。本例のハウジング側係合部50Eは、台座部50Bを貫通する係合孔によって構成されている。一方、貫通孔57は、
図3に示される雌端子6と導体20との接続箇所に対応する位置に設けられている。貫通孔57は、雌端子6と導体20とを接続する作業を容易にするために設けられている。この貫通孔57は、ハウジング側係合部50Eを兼ねている。本例とは異なり、ハウジング側係合部50Eは、係合爪であっても構わない。
【0052】
・カバー
図10,11に示されるカバー51は、
図8に示されるハウジング50における台座部50Bの開口部を覆う部材である。カバー51には複数のカバー側係合部51Eが設けられている。本例のカバー側係合部51Eは、係合孔からなるハウジング側係合部50Eに嵌まり込む係合爪である。係合爪と係合孔との係合によって、カバー51がハウジング50に強固に固定される。ここで、ハウジング側係合部50Eが係合爪で構成される場合、カバー側係合部51Eは係合孔とすると良い。
【0053】
図11に示されるように、カバー51は、その内周面から突出する仕切り部58を備える。この仕切り部58は、
図3に示される並列された一対の接続箇所(導体20とワイヤバレル62との接続箇所)の間に介在される。仕切り部58によって、並列される接続箇所の間の絶縁が確保される。
【0054】
・コネクタ部材に通信ケーブルを固定する構成
本例のコネクタ部材5は、
図4,5に示されるように、その内部にクランプ部53,54を備える。クランプ部53,54は、通信ケーブル2の周方向に離隔した位置に一対設けられている。クランプ部53は、
図8に示されるように、ハウジング50の台座部50Bの内周面に設けられている。より具体的には、クランプ部53は、台座部50Bの底部における遮蔽層23(
図4,5)に対応する位置に設けられている。本例のクランプ部53は、ハウジング50の幅方向に長い幅広の爪状部材である。クランプ部53は、コネクタ筒部50Aの側に向うに従って突出量が大きくなっている。従って、クランプ部53を側方から見た形状は、概略直角三角形となっている。
【0055】
一方、クランプ部54は、
図11に示されるように、カバー51の内周面に設けられている。より具体的には、クランプ部54は、カバー51の本体部(カバー側係合部51Eを除く部分)におけるクランプ部53(
図8)に対向する位置にある。本例のクランプ部54は、クランプ部53とほぼ同じ幅の爪状部材である。クランプ部54は、仕切り部58の側に向うに従って突出量が大きくなった後、突出量が小さくなっている。クランプ部54における仕切り部58側の面の傾斜角度は、その反対側の面(通信ケーブル2側の面)の傾斜角度よりも大きくなっている。従って、クランプ部54を側方から見た形状は、概略不等辺三角形となっている。
【0056】
クランプ部53,54は、
図12に示されるように、通信ケーブル2の遮蔽層23の外周から介在絶縁層22に食い込んでいる。本例では、介在絶縁層22に予め、クランプ部53,54を受け入れる切欠き部25が設けられている。本例とは異なり、ハウジング50とカバー51との係合時にクランプ部53,54が介在絶縁層22の外周を押圧して介在絶縁層22に食い込む構成であっても良い。いずれにせよ、クランプ部53,54によって、通信ケーブル2の端部にコネクタ部材5が確りと固定される。クランプ部53,54によって遮蔽層23が変形しても、コネクタ付通信ケーブル1の遮蔽性能は低下しない。本例のコネクタ付通信ケーブル1では、後述するシールド部材4によってコネクタ部材5の外周が覆われているからである。
【0057】
ここで、従来のコネクタ付通信ケーブルでは、金属製のかしめリングによって、通信ケーブルとコネクタ部材とを係合させている(例えば、特開2017−126408号公報などを参照)。より具体的には、通信ケーブルのシースの外周にかしめリングが取り付けられている。かしめリングの一部は、リングの径方向の外方に張り出している。この張り出した部分が、コネクタ部材に形成される切欠き溝に嵌め込まれることで、通信ケーブルとコネクタ部材とが係合されている。しかし、かしめリングを用いた構成では、コネクタ部材の長さが長くなり易い。コネクタ部材の長さが、シースを掴むかしめリングを内包できる長さでなければならないからである。例えば、本実施形態に係るコネクタ部材5に対してかしめリングを設ける場合、コネクタ部材5の長さは23mm程度となる。
【0058】
従来のかしめリングを用いたコネクタ部材と比較して、本例のコネクタ部材5は短い。本例のコネクタ部材5では、クランプ部53,54が、通信ケーブル2におけるシース24が剥がされた部分を把持しているからである。クランプ部53,54によって通信ケーブル2を把持する構成では、コネクタ部材5の長さを22mm以下にできる。コネクタ部材5が短くなれば、コネクタ部材5を覆うシールド部材4も短くできるので、コネクタモジュール3が相当程度、軽量化される。より好ましいコネクタ部材5の長さは20mm以下である。コネクタ部材5の長さの下限値は10mm程度である。
【0059】
・アース端子とシールド部材との接触を補助する構成
コネクタ部材5は、
図8に示されるように、挿入孔5hの側方に第二ガイド部55を備える。第二ガイド部55は、
図2のシールド部材4を開口部40側から正面視したときに、アース端子10の延伸方向に沿った位置に設けられる。この第二ガイド部55は、コネクタ部材5の先端側(紙面左側)に向うに従って紙面下側に傾斜する傾斜面を備える。従って、
図4に示されるように、シールド部材4の内部に挿入されたアース端子10は、第二ガイド部55の斜面に沿ってシールド部材4側(紙面上側)に湾曲される。湾曲したアース端子10における長さ方向の中間部は、シールド部材4の開口部40側に設けられる張出部44に接触する。湾曲されたアース端子10は真っ直ぐに戻ろうとするので、アース端子10の中間部は張出部44に強く押し付けられる。そのため、自動車の振動に伴いコネクタモジュール3が振動しても、シールド部材4とアース端子10との電気的な接続が確保され易い。
【0060】
・コネクタ部材をシールド部材に固定する
コネクタ部材5は、
図5に示されるように、シールド部材4の内部に固定される。この固定には、コネクタ側係合部52が用いられる。コネクタ側係合部52が、シールド部材4のシールド側係合部42に係合することで、シールド部材4の内部にコネクタ部材5がしっかりと固定される。本例のシールド部材4は、後述するように鋳造体によって構成される一体物である。
【0061】
本例のコネクタ側係合部52は、
図9に示されるように、ハウジング50の外周面に設けられる。より具体的には、コネクタ側係合部52は、コネクタ筒部50Aに設けられる弾性突起520と、台座部50Bに設けられる段差部521とで構成されている。弾性突起520は、コネクタ筒部50Aの外周面に設けられるアーチ状部59の後端部(台座部50B側の端部)に片持ち状に支持される。弾性突起520におけるコネクタ部材5の先端側(紙面左側)の面は傾斜面となっている。また、弾性突起520におけるコネクタ部材5の根元側(紙面右側)の面は、垂直面となっている。一方、段差部521は、台座部50Bが局所的に厚くなることで形成されている。段差部521におけるコネクタ部材5の先端側の面は垂直面となっている。
【0062】
コネクタ部材5は、シールド部材4における根元側(収納部47側)から挿入される(
図5参照)。コネクタ部材5がシールド部材4に挿入されていくと、弾性突起520が、シールド側係合部42に接触し、紙面上側に変形する。コネクタ部材5が更にシールド部材4に挿入されると、コネクタ部材5の段差部521がシールド側係合部42に当て止めされ、シールド部材4に対するコネクタ部材5の挿入が完了する。このとき、弾性突起520は、シールド側係合部42を乗り越えて元の形状に戻る。その結果、シールド側係合部42が、弾性突起520と段差部521とで挟まれた状態(
図5に示される状態)になる。弾性突起520と段差部521が当て止めとなるので、コネクタ部材5はシールド部材4から抜けなくなる。
【0063】
≪シールド部材≫
・全体構成
シールド部材4は、主に
図13,14を参照して説明する。シールド部材4は、雌端子6(
図3)及び導体20(
図3)から放射される電磁波、及びシールド部材4の外部からの電磁波を遮蔽する部材である。シールド部材4は、その内部にコネクタ部材5全体を収納できる長さを有する。シールド部材4は、
図1のアース端子10に接触することで接地されている。従って、電磁波によってシールド部材4に生じた誘導電流は接地に逃がされる。また、シールド部材4は、通信ケーブル2の遮蔽層23(
図3)にも電気的に接続されている(詳細については後述する)。従って、遮蔽層23に生じた誘導電流は、シールド部材4を介して接地に逃がされる。
【0064】
本例のシールド部材4は、並列された二つの筒状体4Aが連結部4Bによって一つに連結された構成を備える。二つの筒状体4Aはいずれも連続する周壁を有し、その内外に貫通する孔を有していない。両筒状体4Aと連結部4Bとは一体に成形されてなる。
図1では、片方の筒状体4Aにコネクタ部材5が収納されているが、実際は各筒状体4Aに一つずつコネクタ部材5が挿入される。つまり、本例のシールド部材4は、二本の通信ケーブル2を一つにまとめる機能と、二本の通信ケーブル2の端部における電磁波をまとめて遮蔽する機能を有する。本例とは異なり、シールド部材4は、一つの筒状体4A、あるいは三つ以上の筒状体4Aで構成されていても良い。
【0065】
図13,14のシールド部材4は、合金の溶湯を金型に充填することで作製される鋳造体である。より具体的には、本例のシールド部材4は、金型内に溶湯を圧入するダイキャスト(die−cast)材である。
【0066】
シールド部材4の材質は、電気伝導率が高い合金であれば特に限定されない。但し、シールド部材4の材質は、亜鉛合金であることが好ましい。亜鉛合金は、合金を構成する元素のうち、最も多く含まれる元素が亜鉛(Zn)である合金のことである。例えば亜鉛合金としては、亜鉛の他に、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含む合金などが挙げられる。亜鉛合金は、電気伝導率及び強度に優れるため、シールド部材4の材質として好適である。また、亜鉛合金の溶湯は、その粘度が低いため、金型の狭い隙間に行き渡り易い。従って、亜鉛合金を用いることで、薄肉のシールド部材4を寸法精度良く作製できる。亜鉛合金は安価であるという点でもシールド部材4の材質として好適である。
【0067】
・主要な効果
鋳造体からなるシールド部材4は、その周面に開口する孔を有さないように作製できる。シールド部材4の周面の孔は電磁波の通り道となるため、当該孔はシールド部材4の遮蔽性能を低下させる。本例のシールド部材4は、その周面に電磁波の通り道となる孔を有さない。従って、本例のシールド部材4を備える本例のコネクタモジュール3は電磁波の遮蔽性能に優れる。遮蔽性能に優れる本例のコネクタ付通信ケーブル1は、100Mbps以上の高速通信に好適である。
【0068】
鋳造体からなるシールド部材4は、コネクタ部材5に対して容易に組み付け可能である。鋳造体からなるシールド部材4は、分割構造とする必要がないからである。そのため、本例のシールド部材4を備えるコネクタモジュール3、及びコネクタ付通信ケーブル1は、生産性に優れる。
【0069】
鋳造体からなるシールド部材4は、コネクタ部材5に対して精度良く取り付け可能である。鋳造体からなるシールド部材4をコネクタ部材5に取り付ける場合、シールド部材4の鋳造時の製造公差のみを考慮すれば良いからである。本例とは異なり、二つのプレス成形体を組み合わせてなる従来のシールド部材をコネクタ部材に取り付ける場合、プレス成形時の部材の加工公差と、二部材を組み合わせる際の組付け公差の両方を考慮する必要がある。従って、従来のシールド部材は、コネクタ部材に対して精度良く取り付けることが難しい。
【0070】
・その他の構成
筒状のシールド部材4の内部(筒状体4Aの内部)には、コネクタ部材5の外周に係合するシールド側係合部42を備える(
図4,5参照)。本例のシールド側係合部42は、シールド部材4の内周面から突出する係合凸部である。このシールド側係合部42は、コネクタ部材5の外周に形成されるコネクタ側係合部52と係合する。本例とは異なり、シールド側係合部42は、係合凹部であっても良い。
【0071】
シールド部材4における雄端子が挿入される開口部40には、第一ガイド部41が設けられている。第一ガイド部41は、筒状体4Aの軸方向の内方側から開口部40に向ってシールド部材4の厚みが徐々に薄くなることで構成される。この第一ガイド部41は、開口部40におけるアース端子10(
図1)に対応する位置に設けられ、アース端子10を筒状体4Aの内部に導く。開口部40に第一ガイド部41があることで、車載装置の回路基板上に設けられる既存のアース端子10をそのままシールド部材4の接地に利用できる。そのため、コネクタモジュール3に備わるシールド部材4の接地にあたり、回路基板の側に特別な設計変更は要求されない。
【0072】
開口部40における第一ガイド部41の近傍には張出部44が設けられている。張出部44は、シールド部材4の筒状体4Aの内周面が突出することで構成される。
図4に示されるように、張出部44は、筒状体4Aの内周面のうち、後述されるコネクタ部材5の第二ガイド部55に対向する面に設けられている。張出部44は、第二ガイド部55によって湾曲されたアース端子10の外周面に接触する。つまり、張出部44は、シールド部材4とアース端子10との電気的な接点となる。
【0073】
鋳造体からなるシールド部材4の厚さは、プレス体からなるシールド部材に比べて厚くなり易い。シールド部材4の作製時における金型への溶湯の充填性を考慮する必要があるからである。シールド部材4が厚いと、シールド部材4のサイズと質量が大きくなる恐れがある。これらの点に鑑み、シールド部材4の厚みの最小値(第一ガイド部41の傾斜面の位置を除く)は、0.25mm以上1.0mm以下であることが好ましい。第一ガイド部41の傾斜面とシールド部材4の外周面との最小距離は0.25mm未満であり得る。シールド部材4の厚みの最小値が0.25mm以上であれば、シールド部材4を作製時における溶湯の充填性が悪化し難い。しかも、シールド部材4の強度が十分に確保される。一方、シールド部材4の厚みの最小値が1.0mm以下であれば、シールド部材4の大型化・重量化が抑制される。より好ましい厚みの最小値は、0.3mm以上0.9mm以下である。ここで、既に述べたように、本例の雌端子6は、従来の雌端子に比べて小型であり、その雌端子6が収納されるコネクタ部材5も小型である。従って、鋳造体からなるシールド部材4が大型化し易いとは言うものの、小型のコネクタ部材5が収納される本例のシールド部材4が、従来に比べて極端に大きいわけではない。
【0074】
シールド部材4は、局所的に厚くなった厚肉部43を備えることが好ましい。本例では、
図13に示されるシールド部材4の一面側、及び
図14に示されるシールド部材4の他面側に厚肉部43が形成されている。シールド部材4に厚肉部43が設けられることで、シールド部材4の作製時における溶湯の充填性が向上する。また、厚肉部43によってシールド部材4の強度が向上する。
【0075】
≪導電ゴム部材≫
本例のコネクタ付通信ケーブル1は、
図4,5に示されるように、通信ケーブル2の端部においてシース24から露出する遮蔽層23の外周に配置される筒状の導電ゴム部材7を備える。導電ゴム部材7は、天然ゴム又は合成ゴムなどの各種ゴム原料に、導電性カーボンブラック又は金属粉末を配合してなる。この導電ゴム部材7は、シールド部材4における収納部47の内周面に接触している。つまり、導電ゴム部材7によって、誘導電流が流れる遮蔽層23と、接地されるシールド部材4とが電気的に接続される。従って、導電ゴム部材7によって、遮蔽層23を流れる誘導電流を接地に逃がすことができる。
【0076】
導電ゴム部材7は、弾性を有するため、遮蔽層23の外周に配置し易い。導電ゴム部材7を拡径させて通信ケーブル2に嵌め込むだけで、遮蔽層23の外周に導電ゴム部材7を配置できるからである。従って、導電ゴム部材7が用いられたコネクタ付通信ケーブル1は、生産性に優れる。また、導電ゴム部材7は、弾性を有するため、遮蔽層23の外周に密着し易い。従って、導電ゴム部材7が用いられたコネクタ付通信ケーブル1では、遮蔽層23とシールド部材4との電気的な接続が確実に確保される。
【0077】
導電ゴム部材7は、シールド部材4の後端部(通信ケーブル2側の端部)に設けられる収納部47に圧入されている。導電ゴム部材7は、収納部47を内部から押圧し、収納部47に密着する。従って、遮蔽層23が確実に接地される。また、収納部47に圧入された導電ゴム部材7は、シールド部材4の内部に環境水が浸入することを抑制する止水栓として機能する。
【0078】
本例の導電ゴム部材7は、遮蔽層23の全てを覆っているわけではない。遮蔽層23のうち、導電ゴム部材7で覆われていない部分は、止水栓30の内部に配置されている。本例とは異なり、この導電ゴム部材7が、通信ケーブル2の軸方向におけるシース24の外周に及ぶ長さを有していても良い。例えば、導電ゴム部材7と、後述する止水栓30とが一体化されている形態が挙げられる。その場合、コネクタ付通信ケーブル1を構成する部品の数が少なくなるので、コネクタ付通信ケーブル1の生産性が向上する。
【0079】
≪止水栓≫
図4,5に示される止水栓30は、遮蔽層23が環境水(空気中の水分を含む)にさらされることを抑制する筒状の部材である。止水栓30は、導電ゴム部材7の近傍、より具体的には導電ゴム部材7の後端部(通信ケーブル2側の端部)に接する位置に設けられる。この止水栓30は、通信ケーブル2が挿通されるケーブル孔30hを備える。ケーブル孔30hは、細径部h1と、細径部h1よりも径が大きい太径部h2とを備える。細径部h1はコネクタ部材5側に配置され、太径部h2は通信ケーブル2側に配置される。細径部h1の内周面は遮蔽層23に密着しており、太径部h2の内周面はシース24に密着している。細径部h1と太径部h2との段差には、シース24の端面が引っ掛かっている。つまり、本例の止水栓30は、通信ケーブル2に直接組付けられる構造となっている。このような構造を有する止水栓30であれば、別途止水栓30を所望の位置に固定するホルダを必要としない。従って、コスト及び組立効率を含めたコネクタ付通信ケーブル1の生産性が向上する。
【0080】
止水栓30におけるコネクタ部材5側の先端は、導電ゴム部材7を押圧している。止水栓30の先端面は、導電ゴム部材7の後端面に密着している。従って、止水栓30と導電ゴム部材7との境界から遮蔽層23に環境水が浸入することが効果的に抑制される。
【0081】
<変形例1>
実施形態1とはクランプ部53,54の構成が異なるコネクタ部材5を備えるコネクタ付通信ケーブル1を
図15から
図17に基づいて説明する。
図15は、コネクタ部材5のハウジング50を内周側から見た斜視図、
図16は、カバー51を内周側から見た斜視図である。
【0082】
図15に示されるように、本例のハウジング50は、その台座部50Bの内周面にクランプ部を備えない。一方、
図16に示すように、本例のカバー51は、その内周面に一対のクランプ部53,54を備える。クランプ部53,54は、カバー51の幅方向に離隔した位置に設けられている。より具体的には、カバー51の後端側にある一対のカバー側係合部51Eのうち、一方のカバー側係合部51Eの内周面にクランプ部53が設けられ、他方のカバー側係合部51Eの内周面にクランプ部54が設けられている。クランプ部53,54は、仕切り部58の反対側に凸となる湾曲板状の部材である。そのため、クランプ部53,54の先端は、クランプ部53,54の根元よりも仕切り部58側(
図3の第一端子6側)に配置されている。また、クランプ部53,54の根元から先端に向うに従って、クランプ部53,54の厚みが薄くなっている。クランプ部53,54は共に、カバー51における本体部にも一体に繋がっている。従って、クランプ部53,54は、カバー側係合部51Eの補強部材としても機能する。
【0083】
図17に示されるように、本例のコネクタ部材5を用いたコネクタ付通信ケーブル1では、カバー51に設けられるクランプ部53,54が、通信ケーブル2を外周から挟み込む。その際、クランプ部53,54は、介在絶縁層22に設けられる切欠き部25に食い込む。この構成によっても、通信ケーブル2の端部にしっかりとコネクタ部材5を固定できる。
【0084】
<実施形態2>
実施形態1のコネクタ付通信ケーブル1を備えるコネクタアセンブリ9を
図18に基づいて説明する。
【0085】
図18は、コネクタアセンブリ9を端子6,80が露出する側から見た概略正面図である。本例のコネクタアセンブリ9は、実施形態1のコネクタ付通信ケーブル1と、信号ケーブル8と、アウタハウジング90とを備える。
【0086】
信号ケーブル8は、電気的な信号を伝送するケーブルであって、その端部にインナハウジング81を備える。インナハウジング81は、複数の第二端子80を備える。本例の第二端子80は雌端子である。一方、アウタハウジング90は、コネクタ付通信ケーブル1のコネクタモジュール3と、信号ケーブル8のインナハウジング81とを一括して収納する部材である。
【0087】
コネクタ付通信ケーブル1を備えるコネクタアセンブリ9は、自動車における通信環境の構築を容易にする。このコネクタアセンブリ9を、車載装置の回路基板上に設けられる雄型のコネクタアセンブリ(図示せず)に接続すれば、信号ケーブルの伝送ルートと通信ケーブルの伝送ルートとが同時に構築される。
【0088】
雌端子6と第二端子80の合計数(極数)は20以上200以下であることが好ましい。極数が20以上であれば、一度のコネクタアセンブリ9の接続によって多くの伝送ルートを構築できる。極数が200以下であれば、本例の雌型のコネクタアセンブリ9を、雄型のコネクタアセンブリに接続する際の接続抵抗が高くなり過ぎない。
【0089】
第二端子80のピッチは0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。第二端子80のピッチが上記範囲であれば、コネクタアセンブリ9が小型化し易い。コネクタアセンブリ9を小型化できれば、回路基板上に設けられる雄型のコネクタアセンブリに対応した大きさのコネクタアセンブリ9を作製し易い。