特許第6784962号(P6784962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6784962-アルミニウム基合金 図000005
  • 特許6784962-アルミニウム基合金 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784962
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】アルミニウム基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20201109BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20201109BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20201109BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20201109BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   C22C21/10
   C22C21/00 N
   C22F1/053
   C22F1/04 A
   C22F1/00 602
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-10567(P2016-10567)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-128780(P2017-128780A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 博之
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 渉一
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−505500(JP,A)
【文献】 特開2015−063747(JP,A)
【文献】 特表2013−537936(JP,A)
【文献】 特開2002−053925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Zn、AgおよびLiの2種以上と、残部が不可避的不純物およびAlからなり、質量%で、Cuは0%を超え4%以下であり、Znは10%以上20%以下であり、Agは0%を超え10%以下であり、Liは0.05%以上0.5%以下であり、Cu、Zn、AgおよびLiの総量は、14%以上で30%以下であるアルミニウム基合金
【請求項2】
請求項に記載のアルミニウム基合金を、溶体化熱処理及び焼入れした後、時効処理を90〜170℃で120〜240時間行なうことを特徴とするアルミニウム基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な添加元素をアルミニウム母相に固溶させることによって高いヤング率を有するアルミニウム基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や航空機などの軽量化の要請が強まるに伴い、アルミニウム合金の適用が広がってきたが、従来の鉄系材料からアルミニウム材へ材料を置換するに際しては、ヤング率の低下による剛性低下が大きな課題となっている。 このような課題に対処するために、従来、アルミニウムとセラミックスとの複合効果による剛性向上が図られてきた(たとえば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4825776号
【特許文献2】特許第4119357号
【特許文献3】特許第4119348号
【特許文献4】特許第3391636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セラミックスの強化材などを含んだ複合材は、製造工程が複雑なため製造コストが割高になるという課題がある。また、硬質粒子を含むため、機械加工などが困難になるという課題がある。したがって、本発明は、セラミックスなどの硬質粒子を含まずに高剛性とすることができ、製造工程が簡単で機械加工が容易なアルミニウム基合金を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、アルミニウム基合金のヤング率を高めるにあたり、固溶および時効による強化について鋭意研究を重ねた。その結果、Alよりも原子半径が小さい元素によってAlが置換されることで、高剛性化が可能であることを見出した(計算結果による)。すなわち、添加元素により電子密度が向上するとともに原子間距離(格子間距離)が近接化することにより、結合エネルギを上昇させることができ、高剛性化が可能となる。本発明者等が周期律表の第一周期から第五周期までの元素の原子半径を調査した結果、Cu、Zn、Ag、およびLiの原子半径は、Alの原子半径のそれぞれ−10.5%、−6.99%、+1.05%、および+5.70%であった。
【0006】
また、本発明者等は、Alに25at%の添加元素を含有させた場合のアルミニウム基合金のヤング率を、周期律表の第一周期から第五周期までの元素について計算した。計算に用いた理論式は下記数1式であり、式中Eはヤング率、rは結晶格子(面心立方格子)における原子間距離、A、n、mは元素に依存する定数である。そして、下記数式を用いて解析ソフト(CASTEP、スーパーセルモデル)によりヤング率を計算した。なお、解析ソフトの設定は、一般化密度勾配近似、エナジーカットオフを350eV、Kポイントセットを6×6×6とした。
【0007】
【数1】
【0008】
算出した各アルミニウム基合金のヤング率と純アルミニウムのヤング率と比較し、各アルミニウム基合金の添加元素の添加量を1wt%に換算してヤング率の増加率を求めたところ、Cu、Zn、Ag、およびLiのヤング率の増加率は、それぞれ0.65%、0.04%、0.24%、および0.95%であった。
【0009】
さらに、本発明者等は、添加元素がAl中に多く過飽和固溶できれば、時効温度における固溶限との差により中間層(Alと添加元素の金属間化合物、添加元素どうしの金属間化合物など)を析出させることで、さらなる高剛性化を発現できることに思い至り、周期律表の第一周期から第五周期までの元素について調査した。その結果、Cu、Zn、AgおよびLiのAlに対する最大固溶量は、それぞれ2.48wt%、49.1wt%、23.9wt%、および13.9wt%であった。
【0010】
アルミニウム基合金の高剛性化は、前述のヤング率の増加率と最大固溶量との相乗効果と考えられるから、両者の積を計算すると、Cu:1.612、Zn:1.964、Ag:5.736、およびLi:13.205となり、他の元素は全て1未満となった。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、Cu、Zn、AgおよびLiの2種以上と、残部が不可避的不純物およびAlからなり、質量%で、Cuは0%を超え4%以下であり、Znは10%以上20%以下であり、Agは0%を超え10%以下であり、Liは0.05%以上0.5%以下であり、Cu、Zn、AgおよびLiの総量は、14%以上で30%以下であるアルミニウム基合金である。
【0015】
本発明のアルミニウム基合金の製造方法は、上記のアルミニウム基合金を、溶体化熱処理及び焼入れした後、時効処理を90〜170℃で120〜240時間行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミニウム母相に対する添加元素の固溶体および中間相の形成効果によって、ヤング率が飛躍的に向上し剛性を格段に高めたアルミニウム基合金を提供することができる。したがって、本発明によれば、高剛性化により、例えば、ブレーキキャリパ等のように剛性が支配する部品の肉厚低減により、軽量化が可能であり、また、肉厚低減により、コンパクトな形状設計が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ヤング率の測定装置を示す斜視図である。
図2】本発明の実施例におけるアルミニウム基合金の時効時間とヤング率との関係を示すグラフである。
【実施例】
【0018】
1.第1実施例
次に、具体的な実施例により本発明を詳細に説明する。
表1に示す組成を有するアルミニウム基合金から幅10mm、長さ60mm、厚さ1.5mmの矩形状の試料を作製し、520℃で4時間保持して水中に投入する溶体化処理を行った後、110℃で24時間保持する時効処理を行った。次いで、試料のヤング率を複数回測定し、その最大値を表1に併記する。
【0019】
【表1】
【0020】
図1はヤング率の測定装置(日本テクノプラス製JE−RT)を示すものである。この測定装置では、試料TPを2本の吊り線1で保持し、駆動極2で試料TPとの間の空間にコンデンサを構成することで固有振動を発生させ、それを非接触の振動センサ3で検出してヤング率を測定する。この測定方法はJIS Z 2280に準拠 するものである。
【0021】
表1に示すように、実施例1〜5では、純アルミニウムからなる基準材よりもヤング率が高い。特に、Cu、Zn、Ag、Liを含有する実施例5では、極めて高いヤング率を得ることができた。
【0022】
2.第2実施例
90℃で10日間保持する時効処理を行った以外は第1実施例と同じ条件で試料を作製し、ヤング率を測定した。その結果を表2に示す。また、前述の数1を用いて算出したヤング率を表2に併記する。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、数1を用いて計算したヤング率は実測値に極めて近似しており、Cu、Zn、Ag、Liを選定したことの正当性が確認された。
【0025】
3.第3実施例
成分と時効処理条件を図2に示すものとした以外は第1実施例と同じ条件でアルミニウム基合金の試料を作製した。図2に示すとおり、時効温度が170℃の場合には、240時間の時効で77GPa以上のヤング率を得ることが確認された。また、時効温度が110℃の場合には、1500時間の時効で78GPa以上のヤング率を得ることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、高剛性化により、剛性が求められる自動車部品などに利用可能である。
図1
図2