(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態に関して、図面を参照しながら説明する。
(第一の実施の形態)
図1は、本発明の第一の実施の形態にかかる薄膜デバイスの構造を示す断面図である。
図1を参照しながら、本発明の第一の実施形態について説明する。樹脂層13の一方の面にバリア膜(第1無機層)14が、さらにそのバリア膜14の上に薄膜素子15が設けられている。樹脂層13のもう一方の面に緻密化無機バリア膜(第2無機層)12が設けられている。また、緻密化無機バリア膜12の膜密度はバリア膜14の膜密度よりも高い。これは、緻密化無機バリア膜12がバリア膜14よりも高温で形成されているためである。より具体的に述べれば、緻密化無機バリア膜12が樹脂層13の耐熱温度よりも高温で形成されており、バリア膜14が樹脂層13の耐熱温度よりも低温で形成されている。
【0029】
図2A−2Dは本発明の第一の実施の形態にかかる薄膜デバイスの製造方法を示す図である。耐熱性基板10上に剥離層11を形成し、その上に無機バリア膜を形成する。耐熱性基板10は耐熱性が高いので、例えば、350〜450℃程度のプロセスで無機バリア膜を成膜する、あるいは無機バリア膜を成膜後に350〜450℃程度でアニール処理を施すなどの手法により、この無機バリア膜は緻密化され、高いバリア性を有する緻密化無機バリア膜(第2無機層)12となる(
図2A)。あるいはガラスや石英などの耐熱性基板を用いれば、450℃以上の高温プロセスも可能であり、この場合には熱酸化膜に非常に近い緻密化無機バリア膜の形成が可能になる。この緻密化無機バリア膜12の上に樹脂層(樹脂フィルム)13を形成し、その上にバリア膜(第1無機層)14を形成する(
図2B)。このバリア膜14は樹脂層13の耐熱温度(典型的には300℃程度)より低い温度で成膜する必要がある。更に、その上に薄膜素子15を形成し、薄膜素子15の形成が完了した後に何らかの手法で剥離層11から耐熱性基板10を剥離する(
図2C)ことで、樹脂層13の裏面側にバリア性の高い緻密化無機バリア膜12を有するフレキシブル薄膜デバイスを実現する(
図2D)。この時、緻密化無機バリア膜12は樹脂層13の耐熱温度よりも高い温度(350〜450℃程度)で形成されており、バリア膜14よりも膜密度が高くなる。
【0030】
(第二の実施の形態)
図3は本発明の第二の実施の形態にかかる薄膜デバイスを示す図である。ここで、樹脂層13は緻密化無機バリア膜12の上に、塗布またはコーティングにより形成されたものである。この場合、右側の断面拡大図に示すように、樹脂層13/緻密化無機バリア膜12の界面は、耐熱性基板10や剥離層11の表面状態を反映した短周期凹凸(数nm程度の周期)を有する。これに対しバリア膜14/樹脂層13の界面は、塗布、コーティング時における樹脂層13の膜厚ムラに起因する長周期の凹凸(数百nm〜数十μm程度の周期)を有する。これは、樹脂層13/緻密化無機バリア膜12の界面凹凸は樹脂層が固化する際に界面が固定端となることに起因するのに対し、バリア膜14/樹脂層13の界面凹凸は樹脂層の固化時に樹脂層表面が自由端となることに起因するものである。このように第二の実施形態では、樹脂層の上面と下面とで凹凸周期の異なる構造が形成される。
【0031】
(第三の実施の形態)
図4は本発明の第三の実施の形態にかかる薄膜デバイスを示す図である。
図3の場合とは異なり、ここでは樹脂層13はラミネートにより形成された場合である。即ち、予めフィルム状に成形された樹脂層13を緻密化無機バリア膜12の上に貼り合せた構成である。この場合、樹脂層13と緻密化無機バリア膜12の間には接着層16が存在する構成となる。ここで、緻密化無機バリア膜12は、例えば、350〜450°C程度のプロセス温度で成膜する、あるいは成膜後に350〜450°C程度の温度でアニール処理を施すなどの手法により緻密化され、高いバリア性を有する。また本発明では、緻密化無機バリア膜12の接着層16と接する面と反対側の面にも何らかの基材を配置することができる。この場合、この反対側の面と基材との間にも接着剤が存在する構成となる。
【0032】
(第四の実施の形態)
図5は本発明の第四の実施の形態にかかる薄膜デバイスを示す図である。樹脂層13の一方の表面にバリア膜14、薄膜素子15が形成されており、もう一方の表面に緻密化無機バリア膜12が形成されている。また、緻密化無機バリア膜12の表面にゲルマニウムを含む表面層17が形成されている。薄膜素子15としては、薄膜トランジスタ、薄膜ダイオード、薄膜抵抗、薄膜キャパシタ、薄膜電池、あるいはこれらの組み合わせからなる複合素子など、任意のアクティブ素子、パッシブ素子、電気化学素子が可能である。
【0033】
(実施例1)
図6A−6Gは、本発明の第四の実施の形態に関して、第1の実施例の製造方法を示す図である。
図6A−6Gを用いて、本第四の実施の形態に関して、特に薄膜素子15が酸化物半導体薄膜トランジスタの場合の実施例の製造方法について説明する。耐熱性基板10としてガラス基板18上に酸化ゲルマニウム膜19をスパッタ法により成膜する(
図6A)。ゲルマニウムターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスの流量比1:1のガス条件で反応性スパッタ成膜することで酸化ゲルマニウム膜19を膜厚1ミクロン成膜した。基板温度は特に意図的に上げることはしなかった。ゲルマニウムターゲットを用いることで、200nm/分程度の高速成膜が可能となった。酸化ゲルマニウムターゲットを用いたスパッタ法でも酸化ゲルマニウム膜19の成膜は可能であるが、成膜速度が100nm/分以下と遅くなる傾向にある。
【0034】
その後、酸化ゲルマニウム膜19上に緻密化無機バリア膜12として緻密化酸化シリコン膜20をプラズマCVD法(CVD : Chemical Vapor Deposition)にて、基板温度350℃で膜厚200nm成膜した。プラズマCVD法による酸化シリコン膜の成膜に関しては、SiH
4 とN
2 Oの混合ガスを用いる方法、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)とO
2 の混合ガスを用いる方法などが可能である。酸化シリコン膜を基板温度350℃で成膜すると、酸化ゲルマニウム膜19と酸化シリコン膜との界面において、熱による原子の相互拡散が生じ、酸化シリコン膜の表面にゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が形成された(
図6B)。この酸化シリコン表面層21をX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、Si−O結合に起因するピークとGe−O結合に起因するピークが観察され、この表面層はシリコンゲルマニウム酸化膜となっており、ゲルマニウムが酸素と化学的に結合した状態で存在していることが分かった。
【0035】
緻密化無機バリア膜12としての酸化シリコン膜は、プラズマCVD法に限らず、スパッタ法や蒸着法、塗布法など、様々な成膜方法が可能である。これらの成膜法では室温で成膜される場合もあるが、ここで重要なことは、成膜後に350℃以上、望ましくは400℃以上の高温でアニール処理を行うことである。一般に低温で成膜した酸化シリコン膜は、膜密度が小さく、水分などに対するバリア性が低いとともに、膜中に様々な不要な不純物を含んでいる。このような高温のアニール処理を施すことにより、酸化シリコン膜を緻密化してその密度を大きくできるとともに、膜中の不要な不純物を脱離させることができる。また、上記のプラズマCVD成膜の場合と同様、熱による原子の相互拡散により、緻密化酸化シリコン膜20と酸化ゲルマニウム膜19との界面にゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が形成される。このような緻密化のための高温成膜、高温アニールが可能な理由は、ガラス基板18が耐熱性を有しているためである。
【0036】
続いて、緻密化酸化シリコン膜20の上に樹脂層13として30ミクロン膜厚のポリイミド膜22を形成した(
図6C)。ポリイミド膜22の形成法としては、材料溶液を塗布して焼成することでポリイミド膜22とする方法、あるいは、あらかじめ形成されたフィルム状のポリイミド膜22を緻密化酸化シリコン膜20上にラミネートする方法などが可能である。具体的には、ポリイミドのワニスを緻密化酸化シリコン膜20上に塗布、印刷し、その後150℃から250℃程度でアニール処理を行うことで所望のポリイミド膜22を形成することができる。また印刷の場合には、基板上の必要な領域のみにワニスを印刷することで、所望の形状のポリイミド膜22を形成することができる。この場合は、
図3に示したように、ポリイミド膜22/緻密化酸化シリコン膜20の界面は、ガラス基板18や酸化ゲルマニウム膜19の表面状態を反映した短周期凹凸(数nm程度の周期)を有する構造が形成された。これに対し、後述するバリア膜23/ポリイミド膜22の界面は、塗布、印刷時のポリイミド膜22の膜厚ムラに起因する長周期の凹凸(数百nm〜数十μm程度の周期)を有する構造が形成された。ラミネートの場合も同様で、基板上の必要な領域のみにポリイミドフィルムをラミネートすることも可能である。例えば、基板の端辺にポリイミド膜22が存在しないように、基板の端辺以外の領域にポリイミド膜22を形成し、その後、後述のようにバリア膜23を基板全面に成膜することで、基板端面も含めてポリイミド膜22をバリア膜23で完全に封止することができる。このようにすると、その後の薄膜素子15の形成時にポリイミド膜22に起因する不純物が薄膜素子15内に混入することを抑制できるという効果がある。このラミネートの場合は、
図4に示したように、ポリイミド(樹脂層13)と緻密化無機バリア膜12(第2無機層)との間には接着層16が存在する構造が形成される。
【0037】
樹脂層13としては、上記のようにポリイミドでも良いし、ポリイミドを主成分とした樹脂でも可能である。また、ポリイミドに限ることなく、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などを主成分とする100℃以上の耐熱性を有する樹脂も用いることができる。特に可視光に対して透明(400〜700nmの波長の光に対する透過率が80%以上)な樹脂層の場合には耐熱温度が低くなる傾向があるが、本発明ではこのような透明樹脂層の裏面にも高温プロセスで緻密化無機バリア膜12を形成できるメリットがある。
【0038】
引き続き、ポリイミド膜22上に酸化シリコンによるバリア膜23を成膜した(
図6D)。プラズマCVD法を用い、基板温度300℃で成膜した。緻密化酸化シリコン膜20の場合と異なり、酸化シリコンによるバリア膜23は耐熱性の低い有機物であるポリイミド膜22上に形成されるため、低温成膜あるいは低温アニールでなければならない。
【0039】
更に、バリア膜23の上に、薄膜素子15として酸化物半導体薄膜トランジスタを形成した。まずゲート電極24をアルミニウム合金で形成した。その後、プラズマCVD法でゲート絶縁膜25として酸化シリコン膜を基板温度300℃にて300nm成膜した。続いて、In、Ga、Znの化合物酸化物(以下InGaZnOと略す)からなる薄膜をスパッタ法により50nm成膜し、所望の島状形状にパターニングして酸化物半導体膜26を形成した。この島状の酸化物半導体膜26と重なるように、ソース・ドレイン電極27をモリブデンで形成した。更に、その上にパッシベーション膜28として、プラズマCVD法で酸化シリコン膜を200℃で300nm成膜した(
図6E)。本実施例では、24〜28までの層が、
図1の薄膜素子15に該当する。ここで、酸化物半導体膜26としては、In、Ga、Znの化合物酸化物に限らず、InZnO、InGaO、InSiO、InAlOのように少なくともInを含む物酸化物、あるいは、ZnO、ZnSnOのように少なくともZnを含む酸化物でも可能である。
【0040】
上記のように、酸化物半導体薄膜トランジスタを形成後、サンプル全体を70℃の温水29に浸した(
図6F)。このとき、酸化ゲルマニウムの温水に対するエッチングレートが極めて速いため、図中の矢印の方向に高速でエッチングが進み、ガラス基板18を剥離することができた。基板サイズにより温水の温度は任意に設定でき、例えば、一辺数cm程度の小さな基板で高速のエッチングを要しない場合は室温から60℃程度の温水でも良く、また数十cmから100cmを超えるような大きな基板で高速のエッチングを要する場合には、70℃から95℃程度の高温水が適している。また、高速でのエッチング剥離を可能にするという観点では、温水の代わりに0.01%から5%程度の希酸を用いることもできる。希酸としては、希塩酸、希硝酸、希硫酸、希酢酸、希シュウ酸やこれらの任意の混合酸が可能である。温水を用いた場合よりも2〜10倍程度高速でエッチングが進み、生産性が向上するという効果がある。これらの希酸の温度を40℃から80℃程度まで上げてエッチングを行うと、更なる高速エッチングも可能になる。70℃の温水に対する酸化ゲルマニウム膜19のエッチングレートに関しては、室温スパッタ成膜のアズデポ膜(成膜直後で表面処理を行う前の膜)、成膜後に400℃アニールを施した膜のいずれも180nm/秒程度の高速レートを示した。このように、酸化ゲルマニウム膜19は400℃程度の高温プロセスを経た後でも、エッチングレートが高速であり、これは、酸化ゲルマニウム上に高温プロセスで緻密化無機バリア膜を形成した後でも、高速エッチングレートを維持し剥離層として有効であることを示している。
【0041】
以上の工程を経て、
図6Gに示すように、酸化物半導体薄膜トランジスタからなるフレキシブル薄膜デバイスを実現した。薄膜トランジスタの構造に関しては、図示したボトムゲートスタガ型に限らず、ボトムゲートプレーナ型、トップゲートスタガ型、トップゲートプレーナ型など、任意の構造が可能である。ここで重要なことは、緻密化酸化シリコン膜20は350℃の高温で成膜されており、膜密度が高く、外部からの水分等の浸入に対して高いバリア性能を有している点である。今回の350℃成膜の緻密化酸化シリコン膜20の膜密度は、X線反射率分析の結果2.25g/cm
3 であり、更に、
図6Bの状態で成膜後に400℃アニール処理を施すことで2.27g/cm
3 まで密度は向上し、これは熱酸化膜の値に近い。従って、緻密化酸化シリコン膜20の膜密度は、2.25g/cm
3 以上であることが望ましい。酸化シリコン膜の膜密度が2.15g/cm
3 まで低下すると外部の水分に対するバリア性が低くなり実用的ではない。従来技術のように、樹脂基板上に低温、例えば、200℃でバリア膜として酸化シリコン膜を成膜すると、2.10g/cm
3 程度の膜密度しか得られずバリア性能が不十分であったが、本発明では、熱酸化膜に近い高膜密度を有する緻密化酸化シリコン膜20をバリア膜に用いることができ、非常に安定な特性を有するフレキシブル薄膜デバイスを作製することができた。
【0042】
また、本発明のもう一つの重要な点は、高密度の緻密化酸化シリコン膜20の表面にゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が存在している点である。酸化ゲルマニウム上に350℃で緻密化酸化シリコン膜20を成膜した場合、この酸化シリコン表面層21中のゲルマニウム濃度を二次イオン質量分析法(SIMS法)で測定したところ、最大値で1×10
20cm
-3であった。表面層中のゲルマニウム濃度の最大値は、その上に成膜する酸化シリコン膜の成膜温度や成膜後のアニール温度で変化し、300℃で1×10
18cm
-3、400℃で1×10
21cm
-3であった。従って、表面層中のゲルマニウム濃度は、1×10
18cm
-3以上であることが望ましい。また、この表面層の化学結合状態を光電子分光法(XPS)で測定し、Ge3d内殻準位に対するスペクトルを分析した。その結果、金属Geのピーク位置である29.3eVよりも3eV程度高エネルギー側の32〜33eV付近にピークが見られ、表面層にはGe−Oの形態で化学的に結合しているゲルマニウムが少なくとも存在していることが確認された。このようなゲルマニウムを含む表面層の存在は、よりバリア性能を高めるために効果的に作用する。
【0043】
本実施例では、薄膜素子15が酸化物半導体薄膜トランジスタの場合について説明したが、薄膜素子15として、アモルファスシリコンや多結晶シリコン、微結晶シリコン、有機半導体を用いた薄膜トランジスタでも良いし、薄膜ダイオードでも良い。また薄膜トランジスタに限らず、薄膜素子15として、シリコンのPIN接合を用いた薄膜太陽電池やCu−In−S、Cu−In−Se等のカルコパイライト系化合物からなる薄膜太陽電池等でも良い。
【0044】
また、本実施例では緻密化酸化シリコン膜20の表面にゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が存在する構造を説明したが、緻密化酸化シリコン膜20のバリア性が十分高い場合にはこのゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21を除去することができる。フッ素系や塩素系のガスを用いたプラズマエッチング、または酸溶液を用いたウエットエッチングによりゲルマニウムを含む表面層の除去が可能である。このようなゲルマニウムを含む表面層の除去は、以降の実施例、実施の形態にも適用できる。
【0045】
また、本実施例では酸化物半導体薄膜トランジスタを形成後にガラス基板18を剥離する場合を説明したが、酸化物半導体薄膜トランジスタを形成後、その上に続けてディスプレイ素子、電気化学素子などを形成し、ある機能を有する薄膜素子15の状態にした後に剥離することも可能である。このような剥離は、以降の実施例、実施の形態にも適用できる。
【0046】
以上では酸化ゲルマニウム膜19を剥離層11として用いた場合を説明したが、剥離層11として酸化モリブデン膜を用いることも可能である。この場合は、緻密化無機バリア膜の表面にはモリブデンを含む表面層が形成されることになる。
【0047】
(実施例2)
図6A−6Gでは、剥離層11として酸化ゲルマニウムを用い、薄膜素子15の形成後に酸化ゲルマニウム膜19の水溶性を活用してガラス基板18を剥離した。このような水溶性の金属酸化膜を用いる代わりに、剥離層11として水素化アモルファスシリコン膜を用いることができる。この場合、
図6Fの工程で、ガラス基板18の裏側からXeClなどのハロゲン系ガスのエキシマレーザを照射し、水素化アモルファスシリコン膜のアブレーション作用を利用してガラス基板を剥離することができる。この場合は上述のような表面層は形成されないか、あるいはシリコン膜からなる表面層が残存する場合がある。
【0048】
(実施例3)
図7は、本発明の第四の実施の形態に関して、第3の実施例の構造を示す断面図である。
図7を用いて、第3の実施例の製造方法に関して説明する。ここでは、酸化ゲルマニウム膜19上にプラズマCVD法で緻密化窒化シリコン膜30を350℃で成膜した。350℃成膜の緻密化窒化シリコン膜30の膜密度は、X線反射率分析の結果2.70g/cm
3 であり、更に、成膜後に400℃アニール処理を施すことで2.73g/cm
3 まで密度は向上した。従って、緻密化窒化シリコン膜30の膜密度は、2.70g/cm
3 以上であることが望ましい。このとき、酸化ゲルマニウム膜19と緻密化窒化シリコン膜30との界面に、ゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31が形成された。その後、
図6A−6Gと同様な工程を経て、薄膜素子15としてシリコン薄膜トランジスタを形成し、温水中の酸化ゲルマニウム溶解作用を利用してガラス基板18を剥離し、フレキシブルなシリコン薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0049】
ここで、緻密化窒化シリコン膜30の表面にはゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31が存在する。酸化ゲルマニウム上に350℃で窒化シリコン膜を成膜した場合、この窒化シリコン表面層31中のゲルマニウム濃度をSIMS法で測定したところ、最大値で5×10
20cm
-3であった。表面層中のゲルマニウム濃度の最大値は、その上に成膜する窒化シリコン膜の成膜温度や成膜後のアニール温度で変化し、300℃で1×10
18cm
-3、400℃で3×10
21cm
-3であった。従って、表面層中のゲルマニウム濃度は、1×10
18cm
-3以上であることが望ましい。また、この表面層の化学結合状態を光電子分光法(XPS)で測定し、Ge3d内殻準位に対するスペクトルを分析した。その結果、金属Geのピーク位置である29.3eVよりも5eV程度高エネルギー側の34〜35eV付近にピークが見られ、表面層にはGe−Nの形態で化学的に結合しているゲルマニウムが少なくとも存在していることが確認された。このようなゲルマニウムを含む表面層の存在は、よりバリア性能を高めるために効果的に作用する。
【0050】
ここで、シリコン半導体としては、プラズマCVD法で成膜した水素化アモルファスシリコンや、アモルファスシリコンをレーザーアニールまたは熱アニールで結晶化させたポリシリコンを用いることができる。薄膜トランジスタの構造も図示したものに限らず、ボトムゲートプレーナ型、トップゲートスタガ型、トップゲートプレーナ型など、任意の構造が可能である。窒化シリコン表面層31中のゲルマニウム濃度をSIMS法で分析したところ、実施例1の緻密化酸化シリコン膜20の場合と同様な値が得られた。高いバリア性能を有する緻密化窒化シリコン膜30は350℃以上の成膜で可能であり、その時の窒化シリコン表面層31中のゲルマニウム濃度の最大値は1×10
20cm
-3であった。
【0051】
実施例1、2、3の酸化シリコン膜、窒化シリコン膜に限らず、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜、酸化ハフニウム膜でも同様な効果を得ることができる。
【0052】
(実施例4)
図8は、本発明の第四の実施の形態に関して、第4の実施例の構造を示す断面図である。
図8を用いて、第4の実施例の製造方法に関して説明する。酸化ゲルマニウム膜19上にプラズマCVD法で緻密化酸化シリコン膜20を350℃で200nm成膜した。引き続いて、プラズマCVD法で緻密化窒化シリコン膜30を350℃で100nm成膜した。その後、大気中で400℃にて1時間のアニール処理を施した。この400℃アニール処理により、酸化シリコン膜の膜密度は2.27g/cm
3 まで向上した。また、窒化シリコン膜の膜密度も増加した。また、酸化ゲルマニウム膜19と酸化シリコン膜との界面に、ゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が形成された。その後、
図6A−6Gと同様な工程を経て、薄膜素子15として酸化物半導体薄膜トランジスタを形成し、希塩酸中の酸化ゲルマニウム溶解作用を利用してガラス基板18を剥離し、フレキシブルな酸化物半導体薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0053】
本実施例では、バリア膜が酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の2層構造になっており、しかもいずれの膜も400℃アニール工程を経ていることから、バリア性能が極めて高いという効果がある。これらの2層の膜は、ポリイミド膜22のもう一方の面に形成されたバリア膜(酸化シリコン膜)23よりも緻密化され高密度になっている。また、第1無機層であるバリア膜(酸化シリコン膜)23も任意に積層化(例えば、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層化)することが可能である。ここで、樹脂層(ポリイミド膜)22の両面にそれぞれ存在する第1無機層と第2無機層に同じ構成元素からなる無機バリア膜を少なくとも1層用いた場合、第2無機層側に用いた無機バリア膜の方が第1無機層側に用いた無機バリア膜よりも緻密で高密度となる。また、酸化ゲルマニウム膜19を溶解させてガラス基板18から剥離する際に、希塩酸を用いた。温水を用いた場合よりも2〜3倍程度高速でエッチングが進み、生産性が向上するという効果がある。また希塩酸に限らず、希硝酸、希シュウ酸等の希酸を用いることもできる。
【0054】
(実施例5)
図9A−9Dは、本発明の第5の実施例の構造を説明する断面図である。
図9A−9Dを用いて、第5の実施例の製造方法に関して説明する。ここではエッチストップ型の酸化物半導体薄膜トランジスタについて説明する。
図9Aはポリイミド膜22を塗布・コーティングする場合の実施例である。まず、
図6A、6Bに示すプロセスと同様に、ガラス基板18上に酸化ゲルマニウム膜19を形成し、この酸化ゲルマニウム膜19上にプラズマCVD法で緻密化窒化シリコン膜30を350℃で200nm成膜した。その後、この緻密化窒化シリコン膜30の更なる緻密化のために、大気中で450℃にて1時間のアニール処理を施した。この450℃アニール処理を施すことで、緻密化窒化シリコン膜30の密度は2.75g/cm
3 まで向上した。このとき、酸化ゲルマニウム膜19と緻密化窒化シリコン膜30との界面に、ゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31が形成された。この緻密化窒化シリコン膜30の上面にポリイミド材をコーティングし、その後200〜350℃程度でアニールすることにより、膜厚20μmのポリイミド膜22を形成した。その上面にバリア膜23として、200nmの酸化シリコン膜を350℃にてプラズマCVDで成膜した。引き続き、アルミニウム合金を用いてゲート電極24を形成した。更に、ゲート絶縁膜25として、プラズマCVD法にて窒化シリコン膜、酸化シリコン膜の順に積層成膜した。更に、InGaZnO膜をスパッタリング法により成膜し、所望の形状にパターニングして酸化物半導体膜26を形成した。その後、400℃で1時間のアニール処理を行った後、酸化シリコン膜をプラズマCVD法にて250℃で成膜し、所望の形状にパターニングしてエッチストップ膜32とした。引き続き、モリブデン合金、アルミニウム合金の順に積層成膜し、所望の形状にパターニングしてソース・ドレイン電極27を形成した。更に、パッシベーション膜28として、酸化シリコン膜をプラズマCVD法にて250℃で成膜した。薄膜トランジスタ素子形成後、
図6Fと同様に、温水または希酸溶液で酸化ゲルマニウム膜19を溶解することにより、ガラス基板18を剥離した。以上のプロセスにより、
図9Aに示すフレキシブルな酸化物半導体薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0055】
この実施例のように、コーティングによりポリイミド膜22を形成した場合は、ポリイミド膜22/緻密化窒化シリコン膜30の界面は、ガラス基板18や酸化ゲルマニウム膜19の表面状態を反映した短周期凹凸(数nm程度の周期)を有する構造が形成された。これに対し、バリア膜23/ポリイミド膜22の界面は、コーティング時のポリイミド膜22の膜厚ムラに起因する長周期の凹凸(数百nm〜数十μm程度の周期)を有する構造が形成された。このようにポリイミド膜22の上面と下面とでは凹凸周期が異なる構造が形成された。
【0056】
図9Bはポリイミド膜22をラミネートする場合の実施例である。ここでは、緻密化窒化シリコン膜30の上面に、予めフィルム上に成形されたポリイミド膜22をラミネートして膜厚40μmのポリイミド膜22を形成した。その際、緻密化窒化シリコン膜30とポリイミド膜22とを確実に貼り合せるために、緻密化窒化シリコン膜30とポリイミド膜22との間に接着層16を用いた。これ以外のプロセスは前述の9Aの場合と同様である。
【0057】
図9C、9Dはそれぞれ
図9A、9Bにおいてゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31を除去した場合の実施例である。塩酸や硝酸などの希酸溶液を用いることで、ゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31をエッチング除去しても良い。
【0058】
図9A−9Dの実施例は、エッチストップ型酸化物半導体薄膜トランジスタの一構造を示したものであり、この例に限らず、緻密化無機バリア膜として酸化シリコン膜や酸化アルミニウム膜を用いる場合、バリア膜23として窒化シリコン膜や酸化アルミニウム膜を用いる場合、パッシベーション膜28として酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層構造を用いる場合などが可能である。
【0059】
(実施例6)
図10A−10Bは、本発明の第6の実施例の構造を説明する断面図である。
図10A−10Bを用いて、第6の実施例の製造方法に関して説明する。ここではトップゲート型の酸化物半導体薄膜トランジスタについて説明する。
図9Aの場合と同様に、
図10Aでは、ガラス基板18上に酸化モリブデン膜を形成し、この酸化モリブデン膜上にプラズマCVD法で緻密化窒化シリコン膜30を350℃で200nm成膜した。その後、大気中で400℃にて1時間のアニール処理を施した。このとき、酸化モリブデン膜と緻密化窒化シリコン膜30との界面に、モリブデンを含む窒化シリコン表面層31−1が形成された。この緻密化窒化シリコン膜30の上面にポリイミド材をコーティングし、その後200〜300℃程度でアニールすることにより、膜厚20μmのポリイミド膜22を形成した。その上面にバリア膜23として、窒化シリコン膜100nm、酸化シリコン膜100nmの順にプラズマCVDで積層成膜した。ここで説明するトップゲート構造では、このバリア膜の上に酸化物半導体膜26が形成される。この酸化物半導体膜26は、膜中に過剰な水素が導入されると、還元されて抵抗率が著しく低下し、薄膜トランジスタのチャネル半導体層として機能しなくなる。また、プラズマCVD法で成膜した窒化シリコン膜は、酸化シリコン膜に比べて、一般に水やナトリウムに対するバリア性が高く、またより高濃度の水素を膜中に含有するという特徴を有する。従って、上述のようにバリア膜23を、窒化シリコン膜と酸化シリコン膜との積層構造にし、ポリイミド膜22からデバイス側への水分等の侵入を窒化シリコン膜で抑制するとともに、窒化シリコン膜中の高濃度水素のデバイス側への侵入を酸化シリコン膜で抑制することが効果的である。この目的のために、この酸化シリコン膜成膜には、SiH
4 とN
2 Oの混合ガスを原料として用いたプラズマCVDが適している。このようなSiH
4 とN
2 Oの混合ガスから成る酸化シリコン膜では、膜中の窒素濃度が1×10
19〜1×10
21cm
-3となり、膜中の炭素濃度が1×10
19cm
-3以下となる。この積層構造のバリア膜23の上にInGaZnO膜をスパッタリング法により成膜し、所望の形状にパターニングして酸化物半導体膜26を形成した。引き続き、酸化シリコン膜から成るゲート絶縁膜25とアルミニウム合金を成膜し、所望の形状にパターニングしてゲート電極24を形成した。引き続き、層間膜33として酸化シリコン膜をプラズマCVD法により形成した。更に、所望の形状にコンタクトホールを形成後、チタン、アルミニウム合金、チタンの順で3層膜の成膜を行い、所望の形状にパターニングしてソース・ドレイン電極27を形成した。引き続き、パッシベーション膜28として窒化シリコン膜をプラズマCVD法により成膜した。薄膜トランジスタ素子形成後、
図6Fと同様に、温水または希酸溶液で酸化モリブデン膜を溶解することにより、ガラス基板18を剥離した。以上のプロセスにより、
図10Aに示すフレキシブルなトップゲート型酸化物半導体薄膜トランジスタ素子を作製した。酸化モリブデン膜の溶解は、上述の酸化ゲルマニウム膜19の場合とほぼ同等に高速で進行した。
【0060】
酸化モリブデン膜上に350℃で窒化シリコン膜を成膜した場合、上記の窒化シリコン表面層31−1中のモリブデン濃度をSIMS法で測定したところ、最大値で4×10
20cm
-3であった。窒化シリコン表面層31−1中のモリブデン濃度の最大値は、その上に成膜する窒化シリコン膜の成膜温度や成膜後のアニール温度で変化し、300℃で1×10
18cm
-3、400℃で2×10
21cm
-3であった。従って、窒化シリコン表面層31−1中のモリブデン濃度は、1×10
18cm
-3以上であることが望ましい。また、この表面層の化学結合状態を光電子分光法(XPS)で測定し、Mo3d内殻準位に対するスペクトルを分析した。その結果、金属Moのピーク位置よりも3eV程度高エネルギー側にピークが見られ、表面層にはMo−Nの形態で化学的に結合しているモリブデンが少なくとも存在していることが確認された。このようなモリブデンを含む表面層の存在は、よりバリア性能を高めるために効果的に作用する。
【0061】
以上の実施例では酸化モリブデン上に窒化シリコン膜を形成する場合を説明したが、窒化シリコン膜の代わりに酸化シリコン膜を形成することも可能である。この場合でも、酸化シリコン膜を350℃以上、望ましくは400℃以上で高温成膜するか、あるいは酸化シリコン膜成膜後に高温アニール処理を施すことにより、緻密な酸化シリコン膜を酸化モリブデン上に形成することができる。これらの高温プロセスの際に、相互拡散により、酸化モリブデンと酸化シリコン膜との界面にモリブデンを含む酸化シリコン表面層が形成される。この酸化シリコン表面層中のモリブデン濃度は1×10
18cm
-3以上であることが望ましい。また、この表面層の化学結合状態を光電子分光法(XPS)で測定し、Mo3d内殻準位に対するスペクトルを分析した。その結果、金属Moのピーク位置よりも5eV程度高エネルギー側にピークが見られ、表面層にはMo−Oの形態で化学的に結合しているモリブデンが少なくとも存在していることが確認された。このようなモリブデンを含む表面層の存在は、よりバリア性能を高めるために効果的に作用する。
【0062】
図10Aに対して
図10Bは、ポリイミド膜22をラミネートする場合の実施例である。緻密化窒化シリコン膜30とポリイミド膜22とを確実に貼り合せるために、緻密化窒化シリコン膜30とポリイミド膜22との間に接着層16を用いる以外のプロセスは前述の10Aの場合と同様である。また、
図9C、9Dの場合と同様、
図10A、10Bにおいてもモリブデンを含む窒化シリコン表面層31−1を除去しても良い。また、酸化モリブデン膜を用いる場合でも、緻密化無機バリア膜は窒化シリコン膜に限らず、酸化シリコン膜や、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜、酸化ハフニウム膜でも同様な効果を得ることができる。
【0063】
(実施例7)
図11A−11Bは、本発明の第7の実施例の構造を説明する断面図である。
図11A−11Bを用いて、第7の実施例の製造方法に関して説明する。ここではトップゲート型の多結晶シリコン薄膜トランジスタについて説明する。
図6A−6Gと同様にして、ガラス基板18上に酸化ゲルマニウム膜19を1.5μm形成し、この酸化ゲルマニウム膜19上にプラズマCVD法で緻密化窒化シリコン膜30を350℃で200nm成膜した。その後、大気中で400℃にて1時間のアニール処理を施した。このとき、酸化ゲルマニウム膜19と緻密化窒化シリコン膜30との界面に、ゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31が形成された。この緻密化窒化シリコン膜30の上面にポリイミド材をコーティングし、その後250〜350℃程度でアニールすることにより、膜厚30μmのポリイミド膜22を形成した。その上面にバリア膜23として、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜の順にプラズマCVDで積層成膜した。このバリア膜上にCVD法で非晶質シリコン膜を成膜し、その後、この非晶質シリコン膜にXeClガスを用いたエキシマレーザを照射することで、多結晶シリコン膜34へ改質した。このレーザ照射の際に、特許文献3に開示されているように、ポリイミド膜22とバリア膜23との界面から剥離が生じる可能性がある。本実施例においては、この素子形成途中での剥離を防ぐ必要がある。そのためには、例えば、照射レーザエネルギーの大部分が非晶質シリコン膜で吸収されるようにエネルギー強度や非晶質シリコン膜厚を制御する必要がある。あるいは、バリア膜の膜厚を制御して、エキシマレーザの干渉により実効的にポリイミド膜22に到達するレーザエネルギーを低く抑えるなどの手段も有効である。多結晶シリコン膜34へ改質へ改質後、所望の島状形状にパターニングした。引き続き、酸化シリコンから成るゲート絶縁膜25、アルミニウム合金を成膜し、所望の形状にパターニングしてゲート電極24を形成する。その後、イオンドーピングあるいはイオン注入などの技術によりソース・ドレイン領域にリンまたはボロン等の不純物をドーピングし、ドーピング層35を形成する。更に、層間膜33を成膜し所望の位置にコンタクトホールを形成後、チタン、アルミニウム合金、チタンの順で3層膜を成膜し、所望の形状にパターニングしてソース・ドレイン電極27を形成する。その後、パッシベーション膜28として窒化シリコン膜を成膜する。薄膜トランジスタ素子形成後、
図6Fと同様に、温水または希酸溶液で酸化ゲルマニウム膜19を溶解することにより、ガラス基板18を剥離した。以上のプロセスにより、
図11Aに示すフレキシブルなトップゲート型多結晶シリコン薄膜トランジスタ素子を作製した。
図11Bに示すように、剥離後にゲルマニウムを含む窒化シリコン表面層31をエッチング等により除去しても良い。
【0064】
(実施例8)
図12は、本発明の第8の実施例の構造を説明する断面図である。
図12を用いて、第8の実施例に関して説明する。ここでは有機半導体薄膜トランジスタの場合について説明する。ガラス基板18上に酸化ゲルマニウム膜19をスパッタ法により成膜した。ゲルマニウムターゲットを用いて、アルゴンガスと酸素ガスの流量比1:1のガス条件で反応性スパッタ成膜することで、酸化ゲルマニウム膜19を膜厚1ミクロン成膜した。基板温度は特に意図的に上げることはしなかった。その後、酸化ゲルマニウム膜19上に緻密化無機膜として緻密化酸化シリコン膜20をプラズマCVD法にて、基板温度350℃で膜厚200nm成膜した。プラズマCVD法による酸化シリコン膜成膜に関しては、SiH
4 とN
2 Oの混合ガスを用いる方法、TEOSとO
2 の混合ガスを用いる方法などが可能である。酸化シリコン膜を基板温度350℃で成膜すると、酸化ゲルマニウム膜19と酸化シリコン膜との界面において、熱による原子の相互拡散が生じ、酸化シリコン膜の表面にゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21が形成された。この緻密化酸化シリコン膜20の上面にポリイミド材をコーティングし、その後200〜350℃程度でアニールすることにより、膜厚30μmのポリイミド膜22を形成した。その上面にバリア膜23として、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜の順にプラズマCVDで積層成膜した。引き続き、チタン、金の順で積層膜を成膜し、所望の形状にパターニングしてソース・ドレイン電極27を形成した。その後、ペンタセンを蒸着法により成膜し、所望の島状形状にパターニングして有機半導体膜36を形成した。その後、パッシベーション膜28としてアクリル樹脂、窒化シリコン膜の順に積層成膜する。薄膜トランジスタ素子形成後、
図6Fと同様に、温水または希酸溶液で酸化ゲルマニウム膜19を溶解することにより、ガラス基板18を剥離した。以上のプロセスにより、
図12に示すような有機半導体薄膜トランジスタ素子を作製した。
【0065】
有機半導体膜36としては、ペンタセンのような蒸着法で成膜する低分子系の材料に限らず、塗布やコーティング、インクジェット印刷が可能な高分子系の材料でも可能である。
【0066】
(第五の実施の形態)
図13A−13Cは本発明の第五の実施の形態にかかる薄膜デバイスの製造方法を示す図である。
図1〜12ではデバイスの断面構造を示したが、
図13A−13Bはデバイスを上から見た平面構造を示している。
図13Aに示すように、ガラス基板18の所望の部分(この図では4つの長方形部)のみに酸化ゲルマニウム膜19を形成する。メタルマスクなどを用いて必要な部分のみに選択的に酸化ゲルマニウムを成膜しても良いし、あるいは、ガラス基板18全面に酸化ゲルマニウム膜19を成膜し、フォトリソ法でエッチングを行って酸化ゲルマニウム膜19を所望の形状に加工してもよい。その後、酸化ゲルマニウム膜19を覆うように、ガラス基板18全面に緻密化酸化シリコン膜20を400℃で200nm成膜した。更に、緻密化酸化シリコン膜20の上に樹脂層13として70ミクロン膜厚のポリイミド膜22を形成した。ポリイミド膜22の形成法としては、材料溶液を塗布して焼成することでポリイミド膜22とする方法、あるいは、あらかじめ形成されたフィルム状のポリイミド膜22を緻密化酸化シリコン膜20上にラミネートする方法などが可能である。
【0067】
このポリイミド膜22上に、実施例1と同様に、薄膜素子15として酸化物半導体薄膜トランジスタ37を形成した。このとき、酸化物半導体薄膜トランジスタ37は、部分的に形成された酸化ゲルマニウム膜19のパターンの内側に形成した。パターン化した酸化ゲルマニウム膜19上の全面に酸化シリコン膜を成膜するので、薄膜トランジスタ作製中に酸化ゲルマニウムが大気に露出している部分は存在しない。従って、薄膜トランジスタ作製中に酸化ゲルマニウムが溶解することは無い。
【0068】
その後、
図13Bに示すように、酸化ゲルマニウム膜19のパターンの内側の位置に沿って基板を小片に切断した(破線に沿って切断)。このように切断することで、基板の端面に酸化ゲルマニウムを露出させる。その後、
図13Cに示すように、切断した小片を温水に浸すと、露出した端面から酸化ゲルマニウムの溶解が高速で進み、ガラス基板18が剥離され、小片のフレキシブル薄膜トランジスタ素子ができ上がる。このような小片の薄膜トランジスタ素子は、例えば、スマートフォンやタブレット端末のディスプレイのようなある機能を有する単位デバイスとすることができる。
図1〜12で示した実施例も、
図13A−13Cのように小片に分割することで作製可能である。
【0069】
(第六の実施の形態)
図14は本発明の第六の実施の形態にかかる薄膜デバイスの製造方法を示す図である。小片のフレキシブルデバイスを製造する場合には、
図13A−13Cに示したような方法が可能であるが、大面積デバイスの場合には、酸化ゲルマニウム膜19の横方向エッチングに長い時間を必要とする。このような場合、
図14に示すように、薄膜素子15の表面をローラ38に密着させ巻き上げながら、温水を供給する機構39から剥離ポイントの酸化ゲルマニウム膜19に温水を供給する方法が効果的である。
図13A−13Cの場合は、温水の横方向への浸透で酸化ゲルマニウム膜19のエッチングが進行するが、この
図14の場合は剥離界面の酸化ゲルマニウム膜19に積極的に温水を供給することができ、剥離速度を効果的に速くすることが可能である。
【0070】
(第七の実施の形態)
図15は本発明の第七の実施の形態にかかるフレキシブル薄膜デバイスであり、特に酸化物半導体薄膜トランジスタフレキシブル有機ELディスプレイの一画素の断面構成を模式的に示す図である。
図6A−6Gで説明した工程に従ってポリイミド基板上に酸化物半導体薄膜トランジスタアレイを形成する。その後、画素コンタクト領域を介して、ソース又はドレイン電極27と、陽極電極40とが電気的に接続される。画素分離層41を形成後、電子輸送層、正孔輸送層、発光層等から成る有機EL層42が形成される。有機EL層42の上には陰極電極43が形成されている。カラー化を実現するために、各画素の有機EL層42そのものに青・緑・赤の発光機能を持たせてもよいし、各画素の有機EL層42に白色の発光機能を持たせ、別途カラーフィルタ層を形成することで青・緑・赤色を実現しても良い(便宜上、
図15にはカラーフィルタ層は示されていない)。光の取り出しは、ボトムエミッションでもトップエミッションでもよく、それぞれの取り出し方法に応じて、陰極や陽極の材料を使い分ける。最後に有機物あるいは無機物で封止層44を形成する。
【0071】
このように、薄膜トランジスタと有機ELからなる表示部を一体形成した後、これを温水に浸して、酸化ゲルマニウム膜の溶解現象を利用してガラス基板18を剥離することにより、フレキシブル有機ELディスプレイを作製した。
図16に一例として7×7のマトリクス状に薄膜トランジスタ及び有機EL画素表示部を配置したフレキシブル有機ELディスプレイを模式的に示した。樹脂層13の一方の面に緻密化無機バリア膜が形成されており、もう一方の面にバリア膜、薄膜トランジスタ、有機EL画素表示部が形成されている。
【0072】
本発明のフレキシブル有機ELディスプレイでは、ポリイミド膜22の裏面に高温成膜又は処理された高密度の緻密化酸化シリコン膜20が存在し、またゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21も存在する。従って、外部からの不純物の浸入に対するバリア性能が極めて高くなり、信頼性の高いフレキシブル有機ELディスプレイの製造が可能になる。
【0073】
(第八の実施の形態)
図17は本発明の第八の実施の形態にかかるフレキシブル薄膜デバイスであり、特に多結晶シリコン薄膜トランジスタフレキシブル有機ELディスプレイの一画素の断面構成を模式的に示す図である。
図11A−11Bを用いて説明した工程に従ってポリイミド基板上に多結晶シリコン薄膜トランジスタアレイを形成する。その後、画素コンタクト領域を介して、ソース又はドレイン電極27と、陽極電極40とが電気的に接続される。画素分離層41を形成後、電子輸送層、正孔輸送層、発光層等から成る有機EL層42が形成される。有機EL層42の上には陰極電極43が形成されている。カラー化を実現するために、各画素の有機EL層42そのものに青・緑・赤の発光機能を持たせてもよいし、各画素の有機EL層42に白色の発光機能を持たせ、別途カラーフィルタ層を形成することで青・緑・赤色を実現しても良い(便宜上、
図16にはカラーフィルタ層は示されていない)。光の取り出しは、ボトムエミッションでもトップエミッションでもよく、それぞれの取り出し方法に応じて陰極や陽極の材料を使い分ける。最後に有機物あるいは無機物で封止層44を形成する。
【0074】
このように、多結晶シリコン薄膜トランジスタと有機ELからなる表示部を一体形成した後、これを温水に浸して、酸化ゲルマニウム膜19の溶解現象を利用してガラス基板18を剥離することにより、フレキシブル有機ELディスプレイを作製した。
【0075】
本発明のフレキシブル有機ELディスプレイでは、ポリイミド膜22の裏面に高温成膜又は処理された高密度の緻密化酸化シリコン膜20が存在し、またゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21も存在する。従って、外部からの不純物の浸入に対するバリア性能が極めて高くなり、信頼性の高いフレキシブル有機ELディスプレイの製造が可能になる。
【0076】
(第九の実施の形態)
図18は第九の実施形態にかかるフレキシブル液晶ディスプレイの一画素の断面図を模式的に示したものである。コンタクト領域を介して、ソース又はドレイン電極27と、画素電極45とが電気的に接続される。絶縁性基板46上にブラックマトリクス47、カラーフィルタ色素層48、対向電極49が形成されており、酸化物半導体薄膜トランジスタが形成されたもう一方の基板と対峙して液晶50を挟んでいる。実際には、上下の基板の液晶50側の表面には配向膜が形成されているが、ここでは便宜上省略して書いてある。また、上下の基板は、周辺部でシール剤によって貼り合わされ液晶50を封入しているが、このシール剤も便宜上省略して書いてある。
【0077】
このように、薄膜トランジスタとカラーフィルタからなる表示部を一体形成し、シール剤で貼り合わせた後に、これを温水に浸して、酸化ゲルマニウム膜19の溶解現象を利用してガラス基板18を剥離した。これにより軽量な液晶ディスプレイを形成でき、また特にカラーフィルタ側の絶縁性基板46も樹脂基板にすることにより、フレキシブルな液晶ディスプレイを作製することができる。
【0078】
図19に一例として7×7のマトリクス状に薄膜トランジスタを配置したフレキシブル基板、及び、薄膜トランジスタに対応する位置に液晶画素表示部(カラーフィルタ)を配置した樹脂基板を模式的に示した。薄膜トランジスタを配置したフレキシブル基板樹脂層の一方の面に緻密化無機バリア膜が形成されており、もう一方の面にバリア膜、薄膜トランジスタが形成されている。そして、液晶画素表示部(カラーフィルタ)を配置した樹脂基板と貼り合せることで、フレキシブル液晶ディスプレイを作製した。
【0079】
本発明のフレキシブル液晶ディスプレイでは、ポリイミド膜22の裏面に高温成膜又は処理された高密度の緻密化酸化シリコン膜20が存在し、またゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21も存在する。従って、外部からの不純物の浸入に対するバリア性能が極めて高くなり、信頼性の高いフレキシブル液晶ディスプレイの製造が可能になる。
【0080】
以上、本発明の酸化物半導体薄膜トランジスタや多結晶シリコン薄膜トランジスタを用いた液晶ディスプレイ及び有機ELディスプレイを説明したが、これらに限られることない。酸化物半導体薄膜トランジスタ、あるいは酸化物半導体を非晶質シリコンに置き換えた非晶質シリコン薄膜トランジスタ、更には、多結晶シリコン薄膜トランジスタや有機半導体薄膜トランジスタ等のアクティブ素子と有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイの任意の組み合わせが可能である。また、このような各種薄膜トランジスタを電子インクの駆動に用いた電気泳動ディスプレイや、2つの膜間の距離を制御する駆動に用いたMEMSディスプレイ(MEMS : Micro Electro Mechanical Systems)など、様々なディスプレイに活用することができる。
【0081】
(第十の実施の形態)
図20は、本発明の第十の実施形態にかかるフレキシブル薄膜デバイスを示す断面図であり、特に薄膜トランジスタフレキシブル有機ELディスプレイの上面にも緻密化無機バリア膜を有するカバーフィルムを備えた構成を模式的に示す図である。
図6A−6Gで説明した製造方法と同様に、耐熱性基板10としてガラス基板18上に剥離層11として酸化ゲルマニウム膜19を形成し、その上に無機バリア膜として酸化シリコン膜を形成する。ガラス基板18は耐熱性が高いので、例えば、350〜450℃程度のプロセスで酸化シリコン膜を成膜する、あるいは酸化シリコン膜を成膜後に350〜450℃程度でアニール処理を施すなどの手法により、この酸化シリコン膜は緻密化され、高いバリア性を有する緻密化酸化シリコン膜20となる。この緻密化酸化シリコン膜20の上に塗布やコーティングプロセスなどでポリイミド膜22などのカバーフィルムを形成する。その後、前述の実施例のように温水などに浸し酸化ゲルマニウム膜19を溶解させ、ガラス基板18を剥離することで、カバーフィルム/緻密化酸化シリコン膜20/ゲルマニウムを含む酸化シリコン表面層21、からなる積層構造の膜を形成する。
図20に示すように、この積層構造の膜をカバー層51として、
図17で示した薄膜トランジスタフレキシブル有機ELディスプレイの封止層44の上に貼り付ける。即ちこの
図20では、薄膜トランジスタと有機EL素子から成る薄膜素子15の上側にも下側にも緻密化された無機バリア膜を有する樹脂フィルムが存在することなり、更に信頼性が向上する。
【0082】
このような緻密化無機バリア膜を備えたカバーフィルムは、上記の有機ELディスプレイに限ることなく、その他の様々なディスプレイ、センサ−、電池などの薄膜デバイスのカバーフィルムとして用いることが可能である。
【0083】
以上説明した実施の形態、実施例のいずれの場合においても、ポリイミド膜22の形成法としては、材料溶液を塗布して焼成することでポリイミド膜22とする方法、あるいは、あらかじめ形成されたフィルム状のポリイミド膜22を緻密化無機バリア膜上にラミネートする方法などが可能である。具体的には、ポリイミドのワニスを緻密化無機バリア膜上に塗布・印刷し、その後150℃から300℃程度でアニール処理を行うことで所望のポリイミド膜22を形成することができる。また印刷の場合には、基板上の必要な領域のみにワニスを印刷することで所望の形状のポリイミド膜22を形成することができる。このような塗布、印刷の場合は、
図3に示したように、ポリイミド/緻密化無機バリア膜の界面は、耐熱性基板10や剥離層11の表面状態を反映した短周期凹凸(数nm程度の周期)を有する構造が形成された。これに対し酸化シリコンバリア膜/ポリイミドの界面は、塗布、印刷時のポリイミド膜22の膜厚ムラに起因する長周期の凹凸(数百nm〜数十μm程度の周期)を有する構造が形成された。一方、基板上の必要な領域のみに予め成形されたポリイミドフィルムをラミネートすることも可能である。例えば、基板の端辺にポリイミド膜22が存在しないように、基板の端辺以外の領域にポリイミド膜22を形成し、その後、酸化シリコンバリア膜を基板全面に成膜することで、基板端面も含めてポリイミド膜22を酸化シリコンバリア膜で完全に封止することができる。このようにすると、その後の薄膜素子15の形成時にポリイミド膜22に起因する不純物が薄膜素子内に混入することを抑制できるという効果がある。この場合は、
図4に示したように、ポリイミドと緻密化酸化シリコン膜20との間には接着層16が存在する構造が形成される。
【0084】
以上説明した実施の形態、実施例のいずれの場合においても、剥離の際の溶解層として酸化ゲルマニウム膜19、酸化モリブデン膜のいずれも用いることが可能であり、同様な製造方法が適用できる。
【0085】
また、以上説明した実施の形態、実施例のいずれの場合においても、ゲルマニウムやモリブデンを含む表面層を除去することができる。フッ素系や塩素系のガスを用いたプラズマエッチング、または酸溶液を用いたウエットエッチングにより表面層の除去が可能である。
【0086】
更に、以上説明した実施の形態、実施例のいずれの場合においても、緻密化無機バリア膜は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜やこれらの任意の複数の積層構造を用いることができる。また、TFTの半導体活性層としては、酸化物半導体、水素化アモルファスシリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、有機物半導体など、任意の半導体を用いることができる。また、緻密化無機バリア膜における樹脂層が存在する側と反対側の面、あるいはゲルマニウムやモリブデンを含む表面層における緻密化無機バリア膜が存在する側と反対側の面にも何らかの基材を配置することができる。この基材はポリイミドなどの樹脂層を強度的に補強するための構成要素である。この場合、これらの反対側の面と基材の間にも接着剤などが存在する構成となる。更には、樹脂層の両面にそれぞれ存在する第1無機層と第2無機層に同じ構成元素からなる無機バリア膜を少なくとも1層用いた場合、第2無機層側に用いた無機バリア膜の方が第1無機層側に用いた無機バリア膜よりも緻密で高密度となる。