特許第6785110号(P6785110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧 ▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

特許6785110リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池
<>
  • 特許6785110-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池 図000002
  • 特許6785110-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池 図000003
  • 特許6785110-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池 図000004
  • 特許6785110-リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785110
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20201109BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20201109BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01M4/13
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-190988(P2016-190988)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-55967(P2018-55967A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098028
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小池 政法
(72)【発明者】
【氏名】大倉 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】大澤 康彦
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/161180(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/161181(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034758(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/031690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とからなる2層構造のリチウムイオン電池用集電体であって、
前記第1面が第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層を有し、前記第2面が白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層を有し、
前記第1の導電性樹脂層が脂肪族ポリオレフィンと前記第1の導電性フィラーとを含有する第1の導電性樹脂組成物からなり、
前記第2の導電性樹脂層が脂肪族ポリオレフィン又は架橋エポキシ樹脂と前記第2の導電性フィラーとを含有する第2の導電性樹脂組成物からなり、
前記第1面は第1極活物質層と接しており、前記第2面は第2極活物質層層と接している
リチウムイオン電池用集電体。
【請求項2】
前記第1の導電性樹脂層を有する第1の導電性樹脂フィルムと、前記第2の導電性樹脂層を有する第2の導電性樹脂フィルムとの積層体である請求項1に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項3】
前記第1の導電性フィラーがアセチレンブラックであり、前記第2の導電性フィラーがニッケルからなる請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項4】
前記第2の導電性樹脂層に含まれる前記第2の導電性フィラーの重量割合が、前記第2の導電性樹脂層の合計重量に基づいて60〜80質量%である請求項1〜のいずれかに記載のリチウムイオン電池用集電体。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載のリチウムイオン電池用集電体の前記第1面に積層された前記第1極活物質層と、前記第2面に積層された前記第2極活物質層とを有する双極型電極を有するリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層とを有するリチウムイオン電池用集電体及びそれを用いたリチウムイオン電池関する。
【背景技術】
【0002】
出力密度とエネルギー密度が高いリチウムイオン(二次)電池として、近年、双極型電池が開発されている。双極型リチウムイオン電池は、一枚の集電体の一方の面に正極活物質層を、もう一方の面に負極活物質層を設けた正負極一体型の電極を、セパレータを介して複数積層した構造を有している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1等に記載の双極型リチウムイオン電池に用いる集電体としては、軽量化等の観点から樹脂に導電性フィラーを分散させた導電性高分子フィルムを用いることが、集電体の正極活物質層側の面では、正極活物質とリチウムイオンの平衡電位環境に対し安定であることが求められ、集電体の負極活物質層側の面では、負極活物質とリチウムイオンの平衡電位環境に対し安定であることが求められる。そこで、負極電位に耐久性を有する高分子材料と導電性粒子とを含有する導電性材料からなる層と、正極電位に耐久性を有する高分子材料と導電性粒子とを含有する導電性材料からなる層を有する複層導電性フィルムが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−95400号公報
【特許文献2】国際公開第2012/161180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の複層導電性フィルムは異なる導電性材料からなる層を正負極集電体として積層しているため、その界面での抵抗を十分に下げることが難しく、電池の使用中に界面での抵抗が上昇して長期の耐久性が得られない場合があるという課題があった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、優れた長期の信頼性を有する双極型電池を得ることが可能なリチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池提供を、その目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1面と第2面とからなる2層構造のリチウムイオン電池用集電体であって、第1面が第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層を有し、前記第2面が白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層を有し、第1の導電性樹脂層が脂肪族ポリオレフィンと前記第1の導電性フィラーとを含有する第1の導電性樹脂組成物からなり、第2の導電性樹脂層が脂肪族ポリオレフィン又は架橋エポキシ樹脂と前記第2の導電性フィラーとを含有する第2の導電性樹脂組成物からなり、第1面は第1極活物質層と接しており、第2面は第2極活物質層層と接しているリチウムイオン電池用集電体により、上述の課題の少なくとも一つを解決している。
【0008】
ここで、リチウムイオン電池用集電体を、第1の導電性樹脂層を有する第1の導電性樹脂フィルムと、第2の導電性樹脂層を有する第2の導電性樹脂フィルムとの積層体とすることが好ましい。また、第1の導電性フィラーをアセチレンブラックとし、第2の導電性フィラーをニッケルからなる導電性フィラーとすることが好ましいさらに、第2の導電性樹脂層に含まれる第2の導電性フィラーの重量割合が、第2の導電性樹脂層の合計重量に基づいて60〜80質量%であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の第1面に積層された第1極活物質層と、第2面に積層された第2極活物質層とを有する双極型電極を有するリチウムイオン電池により、上述の課題の少なくとも一つを解決している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウム二次単電池を複数層積層してなる電池モジュールに好ましく適用可能なリチウムイオン電池用集電体及びリチウムイオン電池提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態であるリチウムイオン電池用集電体を用いたリチウムイオン電池の製造方法を示す図である。
図2】一実施形態のリチウムイオン電池用集電体を用いたリチウムイオン電池を示す断面図である。
図3】一実施形態のリチウムイオン電池用集電体を示す断面図である。
図4】一実施形態のリチウムイオン電池用集電体の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(一実施形態)
図1図4を参照して、本発明の一実施形態であるリチウムイオン電池用集電体、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用集電体の製造方法について説明する。
【0014】
まず、図2、3を参照して、本実施形態のリチウムイオン電池用集電体が適用されたリチウムイオン電池について説明する。図2は、一実施形態のリチウムイオン電池用集電体を用いたリチウムイオン電池を示す断面図、図3は一実施形態のリチウムイオン電池用集電体を示す断面図である。
【0015】
図2において、本実施形態のリチウムイオン電池用集電体が適用されたリチウムイオン電池Lは、リチウムイオン電池Lの外殻をなす、外装容器20(以下、単に容器20と称する)内に外形略平板状の積層発電部21が収納されて構成されている。ここで、積層発電部21は、単電池を複数層積層して構成された電池モジュールを構成する。
【0016】
積層発電部21は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の一実施形態であり、略平板状の樹脂集電体である集電体2の間に、正極電極活物質と電解液とを含む略平板状の正極(第1極)活物質層である正極電極組成物層5と、同様に負極電極活物質と電解液とを含む略平板状の負極(第2極)活物質層である負極電極組成物層6とが、同様に略平板状のセパレータ4を介して積層されて構成され、全体として略平板状に形成されている。但し、積層発電部21の図中最上層には正極集電体7が配置され、図中最下層には負極集電体8が配置されている。
【0017】
集電体2は、図3に詳細を示すように、図3において集電体2の一方の面(第1面)に第1の導電性樹脂層である正極集電層7を有し、その上面(第2面)に第2の導電性樹脂層である負極集電層8が設けられて構成され、図2に記載の積層発電部21においては、正極電極組成物層5が接する面(第1面)に正極集電層7が位置し、同時に負極電極組成物層6が接する面(第2面)に負極集電層8が位置するように集電体2が配置されている。
【0018】
集電体2は、積層発電部21の端部に形成されたシール部材9により所定間隔をもって対向するように位置決めされている。また、セパレータ4の端部がこのシール部材9内に埋め込まれることで、このセパレータ4が支持されるとともに、セパレータ4と集電体2との位置関係が定められている。
【0019】
集電体2とセパレータ4との間の間隔はリチウムイオン電池Lの容量に応じて調整され、これら集電体2及びセパレータ4の位置関係は必要な間隔が得られるように定められている。
【0020】
本実施形態のリチウムイオン電池Lを構成する容器20は、上容器20a及び下容器20bに分割されて構成されている。上容器20a及び下容器20bは略同一の形状に形成されており、上面が開口した上容器本体20c及び下容器本体20dと、これら上容器本体20c及び下容器本体20dの図1において左右の端部から側方に突出する一対の上容器縁部20e及び下容器縁部20fとを備える。
【0021】
そして、上容器20a及び下容器20bが相対向して配置されることで形成される内部空間に積層発電部21が収納され、この内部空間が減圧された状態で、上容器縁部20e及び下容器縁部20fが図略のシール部材により封止されることで、本実施形態のリチウムイオン電池Lが構成されている。
【0022】
上容器20a及び下容器20bと積層発電部21との間には集電部材10、11がそれぞれ介在されており、この集電部材10、11の一部10a、11aは上容器縁部20e及び下容器縁部20fを通って、図2に示すようにリチウムイオン電池Lの外方にまで延出し、集電端子とされている。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン電池Lに用いる正極電極活物質は正極活物質粒子を含んでなり、正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(Ni−Mn−Co)O及びLiMn24並びにこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV25)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。正極活物質粒子としては、容量及び出力特性等の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、好ましく用いられる。
【0024】
また、本実施形態のリチウムイオン電池Lに用いる負極電極活物質は負極活物質粒子からなり、負極活物質粒子としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、高分子化合物焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭素繊維、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリキノリン等)、スズ、シリコン、及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)並びにリチウムと遷移金属との複合酸化物(例えばLi4Ti512等)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン電池Lに用いる正極活物質粒子及び負極活物質粒子は、耐久性等の観点から、表面の少なくとも一部が被覆用樹脂を含む被覆剤で被覆されてなる被覆活物質粒子であることが好ましい。活物質粒子の周囲が被覆剤で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨脹を抑制することができ、耐久性が向上し好ましい。なお、正極活物質粒子及び負極活物質粒子の表面に被覆剤が付着している状態は、走査型電子顕微鏡(SEMともいう)等を用いて得られた被覆活物質粒子の拡大観察画像を観察することで確認することができる。
【0026】
被覆用樹脂としては、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂及びポリカーボネート等を用いることができ。これらの中では電解液に対する吸液性が高く電気特性がさらに良好になる等の観点から、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂が好ましく、ビニル樹脂がさらに好ましく、これらは国際公開第2015/5117号に記載の被覆用樹脂を用いることができる。
【0027】
被覆層は、更に導電助剤を含んでいてもよく、導電助剤としては、導電性を有する材料から選択される。
【0028】
導電性を有する材料としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、導電性カーボン[グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ケッチェンブラック(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブ等)、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、ハードカーボン及びフラーレン等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0029】
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、金、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、更に好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤とは、粒子系セラミック材料や樹脂材料等の非導電性材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をメッキ等でコーティングしたものでもよい。
【0030】
導電助剤の形状に特に制限はなく、球状、不定形状、繊維状、単一粒子状、凝集体及びこれらの組み合わせ等の形状を有するものを用いることができ、なかでも、導電性等の観点から、一次粒子径が5〜50nmの微粒子の凝集体であることが好ましい。導電助剤の形状は、走査型電子顕微鏡(SEMともいう)等を用いて得られた導電助剤の拡大観察画像を観察し視野にある粒子を計測することで得ることができる。
【0031】
導電助剤としては、導電性繊維を用いることも可能である。導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。
【0032】
被覆活物質粒子は、例えば、活物質粒子を万能混合機に入れて30〜500rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂及び必要により用いる導電助剤を含む樹脂溶液を1〜90分かけて滴下混合し、更に必要により用いる導電助剤を混合し、撹拌したまま50〜200℃に昇温し、0.007〜0.04MPaまで減圧した後に10〜150分保持することにより得ることができる。被覆活物質粒子が得られたことは、走査型電子顕微鏡(SEMともいう)等を用いて得られた被覆活物質粒子の拡大観察画像を観察することで確認することができる。
【0033】
本実施形態のリチウムイオン電池Lに用いる正極電極組成物層5及び負極電極組成物層6に含まれる電解液としては、公知のリチウムイオン電池に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0034】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22及びLiC(CF3SO23等の有機酸のリチウム塩等が挙げられ、これらの電解質は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPF6である。
【0035】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0036】
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、より好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、更に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。特に好ましいのはプロピレンカーボネート(PC)、又はエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0038】
本発明において正極電極組成物層5及び負極電極組成物層6は、イオン抵抗を低減できる等の観点から、それぞれ前記の被覆活物質粒子と繊維状導電性物質を含むことが好ましい。繊維状導電性物質としては、前記の導電性繊維と同じものを用いることができ、なかでも炭素繊維が好ましい。
【0039】
セパレータ4としては、公知のリチウムイオン電池に用いられるセパレータを用いることができ、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂及びポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレン等)製の多孔性フィルム、多孔性フィルムの多層フィルム(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体等)、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布からなる微多孔質フィルム並びにそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用セパレータ等を用いることができる。
【0040】
図3において、本発明のリチウムイオン電池用集電体である集電体2の一方の面(第1面)を構成する正極集電層7は、第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層であり、集電体2の他の面(第2面)を構成する負極集電層8は白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層である。
【0041】
第1及び第2の導電性樹脂層はそれぞれ高分子材料と第1の導電性フィラー又は第2の導電性フィラーとからなり、高分子材料としては導電性を有する高分子材料であっても、導電性を有さない高分子材料であってもよい。
【0042】
導電性を有する高分子材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、及びポリオキサジアゾール等が挙げられる。
【0043】
導電性を有さない高分子材料としては、脂肪族ポリオレフィン[ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリイソブチレン、ポリブタジエン及びポリメチルペンテン(PMP)並びにこれらの共重合体等]、脂環式ポリオレフィン[ポリシクロオレフィン(PCO)等]、ポリエステル樹脂[ポリエチレンテレフタレート(PET)等]、ポリエーテルニトリル(PEN)、合成ゴム[スチレンブタジエンゴム(SBR)等]、アクリル樹脂[ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)等]、架橋又は非架橋エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0044】
なかでも界面抵抗等の観点から、脂肪族ポリオレフィン及び架橋エポキシ樹脂が好ましく、更に第1の導電性樹脂層としては脂肪族ポリオレフィンを用いることが好ましく、第2の導電性樹脂層としては脂肪族ポリオレフィン又は架橋エポキシ樹脂を用いることが好ましく、特に第2の導電性樹脂層としては架橋エポキシ樹脂を用いることが好ましい。すなわち、前記第1の導電性樹脂層は脂肪族ポリオレフィンと前記第1の導電性フィラーとを含有する第1の導電性樹脂組成物からなり、前記第2の導電性樹脂層が脂肪族ポリオレフィン又は架橋エポキシ樹脂と前記第2の導電性フィラーとを含有する第2の導電性樹脂組成物からなることが好ましい。
【0045】
脂肪族ポリオレフィンは電位窓が非常に広く正極電位、負極電位のいずれに対しても安定であり、また軽量であるため、電池の高出力密度化が可能となる点で好ましく、エポキシ樹脂は使用する電解液に対する耐久に優れる点で好ましく、更に活物質層との界面抵抗が低くなる点でも好ましい。なお、エポキシ樹脂を用いた場合に界面抵抗が低くなる理由については明らかではないが、硬化反応時に生じる応力によって導電性フィラーが特定の方向に配向するためと考えられる。
【0046】
脂肪族ポリオレフィンとしては、ポリエチレン及び/又はポリプロピレン並びにこれらに極性官能基を導入した変性ポリオレフィンとを含むことが好ましい。変性ポリオレフィンを含むと極性官能基が導電性フィラーと相互作用することにより、導電性樹脂層中に導電性フィラーを分散させる分散剤として機能し好ましい。なお、変性ポリオレフィンを含む場合、変性ポリオレフィンの含有量は、高分子材料と導電性フィラーとの合計質量に対して1〜25質量%が好ましく使用できる。
【0047】
変性ポリオレフィンとして好ましいものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入したものが挙げられ、極性官能基としては、カルボキシル基、1,3−ジオキソ−2−オキサプロピレン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基及びイミド基等が挙げられる。
【0048】
ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入した変性ポリオレフィン樹脂は、樹脂用分散剤及び相溶化剤等として市販されており、三洋化成株式会社製ユーメックスシリーズ及び三井化学株式会社製アドマーシリーズ等として入手可能である。
【0049】
第1及び第2の導電性樹脂層が、第1の導電性フィラー又は第2の導電性フィラーと脂肪族ポリオレフィンとからなる導電性樹脂組成物からなる場合、導電性樹脂組成物中の脂肪族ポリオレフィンの含有量は、集電体としての機能を損なわない範囲で、集電体の形状、厚み、軽量化、耐久性及び耐溶剤性等を付与し得るものであれば特に制限されず、導電性フィラーの種類にもよっても調整することができるが、これらの観点から脂肪族ポリオレフィンの含有割合は、脂肪族ポリオレフィンと導電性フィラーとの合計質量に対して、好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは15〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%の範囲である。
【0050】
第2の導電性樹脂層が、第2の導電性フィラーと架橋エポキシ樹脂とからなる導電性樹脂組成物からなる場合、架橋エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の前駆体であるグリシジル基含有化合物(グリシジル基を有するオリゴマー又はグリシジル基を有する高分子化合物)の反応物であって3次元架橋した樹脂を意味し、第2の導電性樹脂層は第2の導電性フィラーとグリシジル基含有化合物とを含んでなる樹脂組成物を加熱硬化反応することで得ることができる。架橋エポキシ樹脂は、薄膜とした場合であっても電解液に対する耐久性に優れ、耐久性が更に良好となり好ましい。
【0051】
架橋エポキシ樹脂を形成するグリシジル基含有化合物としては特に制限されるものではなく、公知の各種グリシジル基含有化合物を用いることができる。グリシジル基含有化合物としては、例えば、常温(通常15〜25度)で液状のグリシジル基含有化合物(以下、液状エポキシ樹脂と記載する)及び/又は結晶性多官能グリシジル基含有化合物(以下、結晶性多官能エポキシ樹脂と記載する)等が挙げられる。
【0052】
液状エポキシ樹脂は市場から入手能であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「jER828EL」及び「YL980」等]、ビスフェノールF型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「jER806H」及び「YL983U」等]、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「RXE21」等]、グリシジルエステル型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「871」及び「191P」等]、グリシジルアミン型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「604」及び「630LSD」等]、ナフタレン型エポキシ樹脂[DIC(株)製「HP4032」及び「HP4032D]等]、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂[ダイセル化学工業(株)製「PB−3600」等]、脂環式エポキシ樹脂[ダイセル化学工業(株)製セロキサイド「2021P」、「2081」及び「3000」等]及びシクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂[東都化成(株)製「ZX−1658」等]等が市場から入手できる。
【0053】
結晶性多官能エポキシ樹脂は市場から入手能であり、ビフェニル型エポキシ樹脂リッチ体[日本化薬(株)製「NC3100」等]、ビフェニル型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「YX4000H」及び「YL6121」等]、アントラセン骨格含有型エポキシ樹脂[三菱化学(株)製「YX8800」等]、ハイドロキノン型エポキシ樹脂[新日鐵住金化学(株)製「YDC−1312」等]、ビスフェノール型エポキシ樹脂[新日鐵住金化学(株)製「YSLV−80XY」等]、チオエーテル型エポキシ樹脂[新日鐵住金化学(株)製「YSLV−120TE」等]ならびにスチレン及び/又はアルキル(メタ)アクリレートとグリシジルメタクリレートとの共重合体[日油(株)製「マープルーフG−0105SA」、「マープルーフG−0130SP」、「マープルーフG−0150M」、「マープルーフG−0250SP」、「マープルーフG−1005S」、「マープルーフG−1005SA」、「マープルーフG−1010S」、「マープルーフG−2050M」、「マープルーフG−01100」及び「マープルーフG−017581」等]等が挙げられる。なかでも、誘電正接を低くするという観点から、スチレン及び/又はアルキル(メタ)アクリレートとグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いるのが好ましい。
【0054】
グリシジル基含有化合物としては、エポキシ当量が80〜600のグリシジル基含有化合物を用いることが好ましい。この範囲のエポキシ当量を有するグリシジル基含有化合物を3次元架橋した架橋エポキシ樹脂は、非電解液浸透性が更に良好となるため、充放電サイクル特性が更に良好となり好ましい。
【0055】
架橋エポキシ樹脂が、液状エポキシ樹脂及び/又は結晶性多官能エポキシ樹脂を反応して硬化(以下、単に反応という)させてなるものである場合、第2の導電性樹脂層は、グリシジル基含有化合物(液状エポキシ樹脂及び/又は結晶性多官能エポキシ樹脂)を含む樹脂組成物に第2の導電性フィラーを混合し、更に加熱して硬化反応を行うことによって架橋エポキシ樹脂を含んでなる導電性樹脂層を得ることができる。第2の導電性フィラーとグリシジル基含有化合物とを含んでなる樹脂組成物に含まれる液状エポキシ樹脂及び結晶性多官能エポキシ樹脂の合計含有量は特に制限されるものではないが、樹脂組成物中の不揮発分100質量%に対し、10〜99質量%が好ましく、20〜95質量%がより好ましい。
【0056】
架橋エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂及び/又は結晶性多官能エポキシ樹脂を反応させてなるものを用いる場合には、非電解液浸透性等の観点から、第2の導電性フィラーとグリシジル基含有化合物とを含んでなる樹脂組成物中に硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては特に制限されるものではなく、従来公知の各種硬化剤を適宜用いることができる。例えば、熱カチオン重合開始剤[三新化学工業(株)製「サンエイドSI−60」等、(株)ADEKA製「アデカオプトマーCP−66」等]並びに光カチオン重合開始剤[三新化学工業(株)製「サンエイドSI−80」、「サンエイドSI−100」、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」、「サンエイドSI−100L」及び「サンエイドSI−150L」等、サンアプロ(株)製「CPI−100P」、「CPI−110P」及び「CPI−101A」等、(株)ADEKA製「アデカオプトマーSP−150」、「アデカオプトマーSP−152」、「アデカオプトマーSP−170」及び「アデカオプトマーSP−172」等、日本曹達(株)製「CI−2064」、「CI−2639」、「CI−2624」及び「CI−2481」等]などが挙げられる。
【0057】
第2の導電性フィラーとグリシジル基含有化合物とを含んでなる樹脂組成物中に硬化剤を含む場合、液状エポキシ樹脂及び結晶性多官能エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤との混合は、樹脂組成物を反応する直前に行うことが好ましい。樹脂組成物Aの反応直前に混合を行うと、薄膜層と樹脂集電体との密着性が良好となり好ましい。
【0058】
第2の導電性樹脂層が、第2の導電性フィラーと架橋エポキシ樹脂とからなる導電性樹脂層である場合、第2の導電性樹脂層中の架橋エポキシ樹脂の含有量は、集電体としての機能を損なわない範囲で、形状・厚み、軽量化、耐久性及び耐溶剤性等を付与し得るものであれば特に制限されず、第2の導電性フィラーの種類にもよっても調整することができるが、これらの観点から架橋エポキシ樹脂の含有割合は、架橋エポキシ樹脂と第2の導電性フィラーとの合計質量に対して、好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは15〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%の範囲である。
【0059】
集電体2の第1面を構成する第1の導電性樹脂層である正極集電層7は第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含み、導電性カーボンとしてはアセチレンブラック、カーボンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、ハードカーボン、グラファイト及びフラーレン等が挙げられる。
なかでも、界面抵抗等の観点からアセチレンブラックが好ましい。
【0060】
第1の導電性フィラーの形状は、特に制限はなく、粒子状、粉末状、繊維状、板状及び塊状などの公知の形状を適宜選択することができる。例えば、広範囲に亘って導電性を付与したい場合は、粒子状の導電性フィラーを使用し、特定方向(例えば、厚さ方向や厚さ方向に垂直な面内方向など)への導電性をより向上させたい場合は、繊維状等の形状に一定の方向性を有するような導電性フィラーを使用する等適宜調整することができる。
【0061】
第1の導電性フィラーの平均粒子径(一次粒子の平均粒子径;主に粒子状、粉末状、塊状の場合)は、特に限定されるものではないが、0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μm程度であることが好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電性フィラーの粒子(粉末、塊状物等)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0062】
第1の導電性フィラーが繊維状である場合、その平均繊維長は特に制限されるものではないが、0.1〜100μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される繊維の繊維長の平均値として算出される値を採用するものとする。また、導電性フィラーが繊維状である場合の、その平均直径もまた特に制限されるものではないが、0.01〜1μmであることが好ましい。
【0063】
第1の導電性樹脂層中の第1の導電性フィラーの含有量は、集電機能を有効に発揮し、樹脂マトリックス機能を損なわない範囲であれば特に制限はない。これらの観点から第1の導電性フィラーの含有割合は、第1の導電性樹脂層の合計重量に対して、好ましくは5〜90質量%であり、より好ましくは10〜88質量%である。
【0064】
集電体2の第2面を構成する第2の導電性樹脂層である負極集電層8は白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含み、耐久性等の観点から、なかでもニッケルからなる導電性フィラーが好ましい。
【0065】
第2の導電性フィラーの形状は、特に制限はなく、粒子状、粉末状、繊維状、板状及び塊状などの公知の形状を適宜選択することができるが、電気特性等の観点から粒子状であることが好ましく、第2の導電性フィラーの平均粒子径は、0.01〜10μm、より好ましくは0.1〜8μm程度であることが好ましい。
【0066】
第2の導電性樹脂層中の第2の導電性フィラーの含有量は、集電機能を有効に発揮し、樹脂マトリックス機能を損なわない範囲であれば特に制限はないが、集電機能等の観点から第2の導電性フィラーの含有割合は、第2の導電性樹脂層の合計重量に対して、好ましくは10〜95質量%であり、より好ましくは60〜80質量%である。
【0067】
第2の導電性フィラーの含有量が少ない場合、導電性樹脂層の抵抗が高くなり、その結果電池としての内部抵抗も高くなってしまう。また多い場合は、導電性樹脂層の柔軟性が低くなり、応力(外部から加わる力や、内部での活物質の体積変化など)による変形に耐えられず集電体が破損する恐れがある。
【0068】
本発明のリチウムイオン電池用集電体2を構成する第1の導電性樹脂層である正極集電層7及び第2の導電性樹脂層である負極集電層8は、それぞれ押出機等の公知の混合機を用いて高分子材料と導電性フィラーと必要に応じて用いる添加剤とを混合して得られた混合物を公知の成型方法[射出成形、圧縮成形、カレンダ成形、スラッシュ成形、回転成形、押出成形、ブロー成形及びフィルム成形(キャスト法、テンター法、インフレーション法等)等]で成形し、得られた第1及び第2の導電性樹脂層を積層することで得ることができ、例えば特開2012−150905号公報及び国際公開番号WO2015/005116号等に記載の樹脂集電体と同様の方法で得ることができる。
【0069】
上記の方法で得られた本発明のリチウムイオン電池用集電体2は、10〜800μmの厚さを有することが好ましい。この範囲であると、集電体の強度等が良好となり好ましい。
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、第1の導電性樹脂層である正極集電層7と第2の導電性樹脂層である負極集電層8とをそれぞれ作製してからそれを積層して作製してもよく、後述する共押出成型工程により導電性樹脂層の作製と積層とを同時に行ってもよい。なかでも界面抵抗等の観点から、後述する共押出成型工程により作製することが好ましい。
【0071】
シール部材9を構成する材料としては、集電体2との接着性を有し、電解液に対して耐久性のある材料であれば特に限定されないが、高分子材料、特に熱硬化性樹脂が好ましい。具体的には、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフッ化ビニデン樹脂等が挙げられ、耐久性が高く取り扱いが容易であることからエポキシ系樹脂が好ましい。
【0072】
容器20を構成する材料は、容器20内に積層発電部21を収納しうる材料であれば、任意の材料が好適に適用可能である。但し、積層発電部21からの発熱を速やかに拡散して放熱することを考慮すると、金属等の熱伝導率が高い材料であることが好ましい。但し、積層発電部21と容器20とが直接接触することにより短絡が生じる可能性があるため、容器20の内面に絶縁物層等を形成することが好ましい。
【0073】
次に、以上の構成を有するリチウムイオン電池Lの製造方法について、図1及び図4を参照して説明する。
【0074】
まず、図4を参照して、集電体2を製造する好ましい方法である本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、第1面が第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層からなり、第2面が白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層からなるリチウムイオン電池用集電体の製造方法であって、第1の導電性フィラーを含む導電性樹脂組成物及び第2の導電性フィラーを含む導電性樹脂組成物を共押出しして積層する工程を有するリチウムイオン電池用集電体の製造方法である。すなわち、本実施形態の集電体2は、共押出成型工程により略単一の成膜工程で正極集電層7、負極集電層8が図3に示す状態で一体化されて製造される。
【0075】
まず、正極集電層7を構成する導電性フィラー及び高分子材料を含む導電性樹脂組成物、及び負極集電層8を構成する導電性フィラー及び高分子材料(またはその前駆体)を含む導電性樹脂組成物がそれぞれタンク30、31に格納され、これらタンクから、混合物が押出機32に供給される。押出機32は、フィルム状の一対のスリット(図略)が近接して形成されたダイス33のスリットのそれぞれにこの混合物を加熱した状態で押し出して供給する。押出機32から押し出された2種類の導電性樹脂組成物はダイス33のスリットからそれぞれ外部にフィルム状に形成されて押し出されてフィルム状の正極集電層7及び負極集電層8が形成され、これら正極集電層7及び負極集電層8が形成された直後前に、ローラ34により巻き取られることで、正極集電層7及び負極集電層8が一体化したシート状の集電体シート35として本発明のリチウムイオン電池用集電体が製造される。この集電体シート35は一旦ロール状に巻き取られて収納される。
【0076】
次に、図1を参照して、この本発明のリチウムイオン電池用集電体の一実施形態である集電体2を用いた、本実施形態のリチウムイオン電池Lの製造方法について説明する。
【0077】
まず、ロール状に巻回された帯状(長尺のシート状)の集電体シート35を、図1において負極集電層8が上面に位置するように、図示しない支持部材上で所定の搬送方向(図1では左方から右方への水平方向)に搬送して連続供給し、この連続供給される集電体シート35上に所定の間隔をおいて矩形状の空間を画定し、枠体下層部36aを繰り返し形成する。
【0078】
枠体下層部36a(及び後述する枠体上層部36b)はシール部材9を構成するものであり、これら枠体下層部36a及び枠体上層部36bを形成する手法は、周知のものから適宜選択されればよく、図1に示す例では、シール部材9を形成する材質を溶融したものをノズル37により集電体シート35上に滴下して枠体下層部36a(及び枠体上層部36b)を形成している。他に、インクジェット装置により集電体シート35上の所定位置に枠体下層部36a(及び枠体上層部36b)を形成してもよい。
【0079】
次に、枠体下層部36a及び集電体シート35によって画定される矩形状の空間に、負極電極組成物層6を構成する、負極電極活物質と電解液とが混合されてなるものの一方をノズル38により滴下して、少なくとも枠体下層部36aの高さまで充填することで、この枠体下層部36a及び集電体シート35によって画定される矩形状の空間に負極電極組成物層6を充填、形成する。さらにこの充填後、図略の振動付与手段により集電体シート35に振動、衝撃を与えることで、負極電極活物質を均一に分散させてもよい。なお、図示例では最初に負極電極組成物層6を形成しているが、最初に正極電極組成物層5を形成してもよいことは言うまでもない。
【0080】
次に、予め所定の大きさ、より詳細には、枠体下層部36a及び集電体シート35によって画定される空間に充填、形成された負極電極組成物層6の図中上面を覆う大きさに切断されたセパレータ4を、この負極電極組成物層6の図中上面に配置する。セパレータ4を負極電極組成物層6の上に配置する手法は周知のものから適宜選択されればよく、図示例では、真空チャック39によりセパレータ4を保持した後、この真空チャック39を負極電極組成物層6の上方に配置し、さらに、セパレータ4が負極電極組成物層6の上面に到達するまでこの真空チャック39を降下させた後、真空チャック39による保持を解除する手法がとられている。
【0081】
次いで、枠体下層部36a上に枠体上層部36bを繰り返し形成する。枠体上層部36bの形成手法は、枠体下層部36aの形成手法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0082】
次に、枠体上層部36b及び集電体シート35によって画定される矩形状の空間に、正極電極組成物層5を構成する、正極電極活物質と電解液とが混合されてなるものの一方をノズル40により滴下して、少なくとも枠体上層部36bの高さまで充填することで、この枠体上層部36b及び集電体シート35によって画定される矩形状の空間に負極電極組成物層6を充填、形成する。
【0083】
次に、カッター41等の切断手段を用いて、セパレータ4が埋設されている箇所を除けて枠体上層部36b、枠体下層部36a及び集電体シート35を切断し、上面に集電体2が配置されていない単電池ユニット42を形成する。
【0084】
一方、負極集電体8はロール状に巻回された帯状(長尺のシート状)の負極集電体シートを元にしても同様に単電池ユニット42′を形成する。
【0085】
そして、この単電池ユニット42、42′を、単電池ユニット42′を最下層として、正極電極組成物層5の図中上面を隣接する集電体2で覆うようにこれら単電池ユニット42を積層し、さらに、最上層に位置する単電池ユニット42の正極電極組成物層5の図中上面を覆う大きさに予め切断された正極集電体7を、真空チャック43等を用いてこの正極電極組成物層5の図中上面に配置する。これにより、図2に示すような、本実施形態の積層発電部21が形成される。
【0086】
この後、容器20内に積層発電部21が収納されて、本実施形態のリチウムイオン電池Lが製造される。
【0087】
以上の構成を有する集電体2は、リチウム二次単電池1を複数層積層してなる積層発電部21に用いられて好適な集電体である。集電体2は、その第1面に第1極活物質層が積層され、第2面に第2極活物質層が積層された電極を構成する。この構成を有する電極は、一枚の集電体の両面に正負極電極活物質を有することから双極型電極といい、正極と負極との間の界面抵抗を低減することができるので、積層発電部21に好適に用いることができる。これにより、本実施形態によれば、リチウム二次単電池を複数層積層してなる積層発電部に適用可能なリチウムイオン電池用集電体、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用集電体の製造方法を提供することができる。
【0088】
また、本実施形態の集電体2は共押出法による成膜工程により形成されているので、集電体を簡易な工程で製造することが可能である。
【0089】
なお、上述の一実施形態では、積層発電部21の最上層及び最下層にそれぞれ正極集電体7及び負極集電体8を配置したが、最上層及び最下層にも集電体2を配置してもいいことは言うまでもない。
【実施例】
【0090】
以下実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。以下の記載において「部」は重量部を示す。
【0091】
<製造例1:第1の導電性樹脂負フィルムの作製>
二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)75質量%、アセチレンブラックデンカブラック(登録商標)HS−100、電気化学工業株式会社製、(一次粒子の平均粒子径:36nm)20質量%、および分散剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス(登録商標)1001」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)5質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練し導電性樹脂層用材料1−1を得た。得られた導電性樹脂層用材料1−1を、熱プレス機により圧延することで、厚さ60μmの第1の導電性樹脂層からなる樹脂フィルム1−1を得た。
【0092】
<製造例2:第2の導電性樹脂フィルムの作製>
二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)30質量%、ニッケル粉(ヴァーレ社製Type123)70質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練し導電性樹脂層用材料2−1を得た。得られた導電性樹脂層用材料2−1を、熱プレス機により圧延することで、厚さ70μmの第1の導電性樹脂層からなる樹脂フィルム2−1を得た。
【0093】
<実施例1>
製造例1で作製した樹脂フィルム1−1、および製造例2で作製した樹脂フィルム2−1を重ね、熱プレス機により圧延しながら120℃に加熱融着することで、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層の2層を有する厚さ120μmの本発明のリチウムイオン電池用集電体を得た。
【0094】
<実施例2>
製造例1で作製した導電性樹脂層用材料1−1、および製造例2で作製した導電性樹脂層用材料2−1を用い、2種2層の共押出機により第1の導電性樹脂層(共押出後の厚み=30μm)と第2の導電性樹脂層(共押出後の厚み=50μm)とを積層することで、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層の2層を有する厚さ80μmの本発明のリチウムイオン電池用集電体を得た。
【0095】
<製造例3:被覆用樹脂溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにN,N−ジメチルホルムアミド407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びN,N−ジメチルホルムアミド116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)4.7部をN,N−ジメチルホルムアミド58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにN,N−ジメチルホルムアミドを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である樹脂溶液を得た。
【0096】
<製造例4:被覆正極活物質の作製>
LiCoO粉末1578gを万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例3で作製した樹脂溶液(樹脂固形分濃度30重量%)146gを60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック[電気化学工業(株)製]44gを3回に分けて混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持した。上記操作により被覆正極活物質1666gを得た。
【0097】
<製造例5:被覆負極活物質の作製>
黒鉛粉末[日本黒鉛工業(株)製]1578gを万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例3で作製した樹脂溶液(樹脂固形分濃度30重量%)292gを60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック[電気化学工業(株)製]88gを3回に分けて混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持した。上記操作により被覆負極活物質1754gを得た。
【0098】
<実施例3>
以下の方法で評価用リチウムイオン電池の作製と充放電サイクル特性の評価を行った。
【0099】
<リチウムイオン電池の作製>
製造例4で作製した被覆正極活物質90部、アセチレンブラック[デンカ(株)製]5部及びポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN−メチル−2−ピロリドン30部を混合して正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを実施例1および2で作製したリチウムイオン電池用集電体の第1の導電性樹脂層上にそれぞれ塗布した後、更に減圧下で80℃に加熱してリチウムイオン電池用集電体上に正極活物質層(厚さ:30μm)を形成した。
【0100】
続いて、製造例5で作製した被覆負極活物質90部、アセチレンブラック[デンカ(株)製]5部及びポリフッ化ビニリデン5部を混合し、更にN−メチル−2−ピロリドン30部を混合して負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを上記で作製したリチウムイオン電池用集電体の第2の導電性樹脂層上にそれぞれ塗布した後、更に減圧下で80℃に加熱してリチウムイオン電池用集電体上に負極活物質層(厚さ:40μm)を形成した。なお、図2における上下端では、活物質層を片側のみ形成した。次いで、正極被覆活物質層および負極被覆活物質層にセパレータ(厚さ25μmのポリプロピレン製)を積層した。得られた積層体を直径15mmの円盤状に打ち抜き電極とした。
【0101】
この電極を図2の様な構成として評価用コインセル容器に収納し、更に電解液を注入した後に封止して評価用リチウムイオン電池(V1)を作製した。なお、電解液として、1M LiPFをエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1)に溶解した溶液を準備した。
【0102】
<リチウムイオン電池の充放電サイクル特性の評価>
充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]を用いて、評価用リチウムイオン電池(V1)を0.05Cの電流で電圧4.3Vまで充電し、10分間の休止後、0.05Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電し、この充放電を繰り返した。この時の初回充電時の電池容量と200サイクル目充電時の電池容量を測定し、下記式から充放電サイクル特性を算出した。得られた充放電サイクル特性の値は90%であった。
充放電サイクル特性(%)=(200サイクル目充電時の電池容量/初回充電時の電池容量)×100
なお、充放電サイクル特性の値が大きい程、充放電サイクル特性が良好であり、優れた長期の信頼性を有することを示す。
【0103】
本発明のリチウムイオン電池用集電体を用いた電池は、充放電サイクル特性に優れ、優れた長期の信頼性を有していた。これは、両側で異なる導電性層を有する本発明のリチウムイオン電池用集電体は活物質層との接着強度に優れるため、200サイクルの充放電試験中における抵抗値の上昇が抑えられたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のリチウムイオン電池用集電体は、優れた耐久性を有するため、それを用いた電池はサイクル特性及び耐久性に優れ、特に携帯電話等の可搬装置及び電気自動車等に用いられるリチウムイオン電池用集電体として有用である。
【符号の説明】
【0105】
L 双極型リチウムイオン電池
2 集電体
4 セパレータ
5 正極電極組成物層
6 負極電極組成物層
7 正極集電層
8 負極集電層
9 シール部
20 外装容器
21 積層発電部
図1
図2
図3
図4