特許第6785328号(P6785328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6785328導管用絶縁被覆構造体、導管ユニット及び導管系形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785328
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】導管用絶縁被覆構造体、導管ユニット及び導管系形成方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/14 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   F16L59/14
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-27883(P2019-27883)
(22)【出願日】2019年2月19日
(65)【公開番号】特開2020-133753(P2020-133753A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591104402
【氏名又は名称】旭産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】前田 康博
(72)【発明者】
【氏名】浅田 秀樹
【審査官】 藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−007489(JP,Y1)
【文献】 登録実用新案第3157319(JP,U)
【文献】 特開2018−004052(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/062237(WO,A1)
【文献】 実開昭58−007993(JP,U)
【文献】 実開昭50−141851(JP,U)
【文献】 特開昭54−057223(JP,A)
【文献】 特開2016−194358(JP,A)
【文献】 特開2017−145971(JP,A)
【文献】 特開2001−304458(JP,A)
【文献】 特開昭56−003395(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3001215(JP,U)
【文献】 特開昭51−038121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/00−59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒を内部に通して導く導管を断熱のために被覆する導管用絶縁被覆構造体であって、
筒状の低弾性絶縁被覆と、低弾性絶縁被覆よりも高弾性の筒状の高弾性絶縁被覆とを、筒の長さ方向に沿って接続した構造を有しており、
低弾性絶縁被覆の端面と高弾性絶縁被覆の端面とを両者が離間しないように連結した連結部材が設けられており、
連結部材は、低弾性絶縁被覆の周面と高弾性絶縁被覆の周面とにまたがって設けられた部材であって、低弾性絶縁被覆及び高弾性絶縁被覆の双方の周面に接合されることで両者を連結した部材であり、
高弾性絶縁被覆は、筒の長さ方向に弾性により伸びることが可能であり、自由状態における肉厚が低弾性絶縁被覆に比べて厚いことを特徴とすることを特徴とする導管用絶縁被覆構造体。
【請求項2】
前記連結部材は、前記低弾性絶縁被覆及び前記高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材であることを特徴とする請求項1記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項3】
前記連結部材は、前記低弾性絶縁被覆の周面及び前記高弾性絶縁被覆の周面に360度に亘って接合された部材であることを特徴とする請求項1又は2記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項4】
前記高弾性絶縁被覆の端部は、前記低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなっていてテーパー状を成していることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項5】
前記連結部材は、前記高弾性絶縁被覆の端部において前記低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなるテーパー状を成すよう当該高弾性絶縁被覆の端部を締め付けていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項6】
前記高弾性絶縁被覆の肉厚は、前記低弾性絶縁被覆の肉厚に対して150%以上であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項7】
前記高弾性絶縁被覆において前記連結部材が接合されている前記長さ方向の幅は、30mm以上であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項8】
前記高弾性絶縁被覆は、内側に位置する第一の高弾性絶縁被覆と外側に位置する第二の高弾性絶縁被覆りより成っており、
第一の高弾性絶縁被覆は前記低弾性絶縁被覆と肉厚が同じであり、
前記連結部材は、前記低弾性絶縁被覆と第一の高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材であり、第一の高弾性絶縁被覆と第二の高弾性絶縁被覆とは別の連結部材で連結されており、
第二の高弾性絶縁部材は、テープ状部材を覆って外見上視認されない長さを有していることを特徴とする請求項1記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項9】
前記低弾性絶縁被覆は、前記高弾性絶縁被覆の両端に連結された一対のものであることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項10】
前記各低弾性絶縁被覆の長さは同一であることを特徴とする請求項9記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項11】
前記高弾性絶縁被覆は肉厚よりも長さが長いものであることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体。
【請求項12】
熱媒を内部に通して導く導管と、請求項1乃至11いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体とを備えた導管ユニットであって、
導管は前記導管用絶縁被覆構造体に挿通されており、
前記高弾性絶縁被覆の長さは、前記低弾性絶縁被覆よりも短いことを特徴とする導管ユニット。
【請求項13】
前記高弾性絶縁被覆の長さは、前記導管の長さの5%以上20%以下であることを特徴とする請求項12記載の導管ユニット。
【請求項14】
熱媒を内部に通して導く導管と当該導管の周面を覆って設けられた断熱のための絶縁被覆とを備えた導管ユニットを相互に接続して導管系を形成する導管系形成方法であって、
請求項1乃至11いずれかに記載の導管用絶縁被覆構造体を間に介在させながら二つの導管ユニットを接続する方法であり、
一方の導管ユニットの導管の端部を前記導管用絶縁被覆構造体に挿通する挿通工程と、
挿通工程の後、一方の導管ユニットの導管と他方の導管ユニットの導管とを接合する管接合工程と、
管接合工程の後、前記導管用絶縁被覆構造体の高弾性絶縁被覆が二つの導管ユニットの各絶縁被覆に対して連結された状態とする連結工程と
を含むことを特徴とする導管系形成方法。
【請求項15】
前記導管ユニットにおける導管の長さに対して、前記導管用絶縁被覆構造体における高弾性絶縁被覆の長さは5%以上20%以下の長さであることを特徴とする請求項14記載の導管系形成方法。
【請求項16】
熱媒を内部に通して導く導管と当該導管の周面を覆って設けられた断熱のための絶縁被覆とを備えた導管ユニットを相互に接続して導管系を形成する導管系形成方法であって、
導管ユニットが備える絶縁被覆よりも高弾性であって導管ユニットが備える絶縁被覆よりも自由状態における肉厚が厚く且つ長さ方向に弾性により伸びることが可能な筒状の中間絶縁被覆を間に介在させながら二つの導管ユニットを接続する方法であり、
一方の導管ユニットの導管の端部を中間絶縁被覆に挿通する挿通工程と、
挿通工程の後、一方の導管ユニットの導管と他方の導管ユニットの導管とを接合する管接合工程と、
管接合工程の後、中間絶縁被覆が二つの導管ユニットの各絶縁被覆に対して連結された状態とする連結工程と
を含むことを特徴とする導管系形成方法。
【請求項17】
前記導管ユニットにおける導管の長さに対して、前記中間絶縁被覆の長さは5%以上20%以下であることを特徴とする請求項16記載の導管系形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、内部に熱媒を通して流通させる導管の熱絶縁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式エアコンに代表されるように、各種空調設備や冷暖房設備においては、冷房や暖房のため、熱媒を輸送する導管系の施工が行われる。各種工場、処理施設等でも、対象物を加熱したり又は冷却したりするために、熱媒を輸送する導管系が形成されている。さらに、冷蔵施設や保温施設等においても、熱媒を輸送するために導管系が形成されている。
【0003】
このような導管系では、強度を考慮し、銅又はアルミ等の金属製の導管が使用される。そして、内部で流通する熱媒の温度変化を防止するため、導管の周囲は絶縁被覆が設けられている。絶縁被覆は、通常、ポリエチレンのような樹脂製である。
【0004】
図9は、従来の導管系形成方法について示した概略図である。
導管系の形成には、図9(1)に示すように、予め絶縁被覆42が施された導管41からから成るユニット(以下、導管ユニットという。)4が使用される。導管ユニット4としては、導管41の長さが4メートルのものが一般的に使用されている。絶縁被覆42も同程度の長さであり、導管41をほぼ全長に亘って覆っている。但し、導管41の長さは絶縁被覆42よりも少し(数cm程度)長くて両端が少し露出している場合もある。
【0005】
導管系を形成する場合、図9(2)に示すように、導管ユニット4のうち導管41同士をまずろう付け等によって接合する。その後、図9(3)に示すように、接合部分を含む導管41の露出部分を、短い長さの絶縁被覆(以下、補助絶縁被覆という。)44で覆う。補助絶縁被覆44は、長さ方向に切り込みがあり、そこを開いて導管41に被せる。補助絶縁被覆44の長さは、導管41の露出部分の長さよりも少し長く、補助絶縁被覆44を被せる際、両側の絶縁被覆42を少し圧縮する。このため、補助絶縁被覆44の両端は、各絶縁被覆42と密着する。
【0006】
その後、図9(4)に示すように、絶縁被覆42,44を連結する。絶縁被覆42,44の連結には、特許文献1に開示されたような専用のテープ43が使用される場合が多い。専用のテープ43は、粘着テープの一種であり、補助絶縁被覆44の両端部と各絶縁被被覆42の端部とにまたがるようにしてテープ43を巻き付けて接合して両者が離れないように連結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5425332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような導管ユニットにおける絶縁被覆は、導管の内部で流通する熱媒の影響で、かなりの低温(例えば0℃)に晒されたり、又は高温(例えば120℃)に晒されたりする。このため、絶縁被覆は熱収縮したり熱膨張したりする。この際に問題なのは、特に熱収縮によって絶縁被覆同士の連結部分が離間してしまうことである。
【0009】
代表的な絶縁被覆であるポリエチレン製絶縁被覆は、安価で且つ高い熱絶縁性を示すため、広く使用されている。しかしながら、熱による寸法変化が大きく、破断や連結部分の分離等が生じ易いという欠点も有する。例えば、空調設備として形成された導管系では、夏季には冷房のために冷媒が流通してかなりの低温となるが、夜間等の運転停止時には周囲温度と同程度まで上昇する。このため、降温と昇温を繰り返すことになり、絶縁被覆も収縮と熱膨張を繰り返すことになる。冬季においても、運転中は暖房のために高温となるが、運転停止時には低温となる。したがって、熱膨張と収縮を繰り返す。このように熱膨張と収縮が繰り返されると、絶縁被覆同士の連結部分が耐えられなくなって分離してしまったり、絶縁被覆自体が破断してしまったりする事故が生じ得る。この種の問題は、大規模なビルや商業施設、工場等における大規模な導管系で特に生じ易い。
【0010】
連結部分の分離や絶縁被覆の破断等の事故が生じると、その部分では導管を覆っていないことになるので、熱絶縁効果が低下する。このため、冷暖房や空調の効率が低下する。また、冷凍や冷蔵の設備においては、冷凍や冷蔵の効率が低下することになる。特に問題なのは、導管の露出部分に結露が生じ、下方に位置する機器に結露が滴下して機器を損傷させたり、シミ等の汚損を生じさせたりすることである。
この出願の発明は、このような問題を解決するために為されたものであり、熱媒流通用の導管における絶縁被覆の分離や破断を防止し、温度変化の激しい使用条件下においても熱絶縁効果が安定して得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この出願の導管用絶縁被覆構造体は、熱媒を内部に通す導管を断熱のために被覆する導管用絶縁被覆構造体であって、筒状の低弾性絶縁被覆と、低弾性絶縁被覆よりも弾性の高い筒状の高弾性絶縁被覆とを、筒の長さ方向に沿って接続した構造を有している。そして、低弾性絶縁被覆の端面と高弾性絶縁被覆の端面とを両者が離間しないように連結した連結部材が設けられており、連結部材は、低弾性絶縁被覆の周面と高弾性絶縁被覆の周面とにまたがって設けられた部材であって、低弾性絶縁被覆及び高弾性絶縁被覆の双方の周面に接合されることで両者を連結した部材である。さらに、この導管用絶縁被覆構造体において、高弾性絶縁被覆は筒の長さ方向に弾性により伸びることが可能であり、自由状態における肉厚が低弾性絶縁被覆に比べて厚くなっている。
また、上記課題を解決するため、連結部材は、低弾性絶縁被覆及び高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材であり得る。
また、上記課題を解決するため、連結部材は、低弾性絶縁被覆の周面及び高弾性絶縁被覆の周面に360度に亘って接合された部材であり得る。
また、上記課題を解決するため、高弾性絶縁被覆の端部は、自由状態において、低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなっていてテーパー状の被覆であり得る。
また、上記課題を解決するため、連結部材は、高弾性絶縁被覆の端部において低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなるテーパー状を成すよう当該高弾性絶縁被覆の端部を締め付け得る。
また、上記課題を解決するため、高弾性絶縁被覆の肉厚は、低弾性絶縁被覆の肉厚に対して150%以上であり得る。
また、上記課題を解決するため、高弾性絶縁被覆において連結部材が接合されている長さ方向の幅は、30mm以上であり得る。
また、上記課題を解決するため、導管用絶縁被覆構造体は、高弾性絶縁被覆が内側に位置する第一の高弾性絶縁被覆と外側に位置する第二の高弾性絶縁被覆とより成っており、第一の高弾性絶縁被覆が低弾性絶縁被覆と肉厚が同じであり、連結部材は記低弾性絶縁被覆と第一の高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材であり、第一の高弾性絶縁被覆と第二の高弾性絶縁被覆とは別の連結部材で連結されており、第二の高弾性絶縁部材は、テープ状部材を覆って外見上視認されない長さを有しているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、低弾性絶縁被覆は、高弾性絶縁被覆の両端に接続された一対のものであり得る。
また、上記課題を解決するため、一対の低弾性絶縁被覆の各長さは同一であり得る。
また、上記課題を解決するため、高弾性絶縁被覆は肉厚よりも長さの長いものであり得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の発明の導管ユニットは、熱媒を内部に通す導管と、上記導管用絶縁被覆構造体とを備えた導管ユニットである。この導管ユニットにおいて、導管は導管用絶縁被覆構造体に挿通されており、高弾性絶縁被覆の長さは低弾性絶縁被覆よりも短い。
また、上記課題を解決するため、導管ユニットおいて、高弾性絶縁被覆の長さは導管の長さの5%以上20%以下であり得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の発明の導管系形成方法は、熱媒を内部に通す導管と当該導管の周面を覆って設けられた絶縁被覆とを備えた導管ユニットを相互に接続して導管系を形成する導管系形成方法である。この方法は、上記導管用絶縁被覆構造体を間に介在させながら二つの導管ユニットを接続する方法であり、一方の導管ユニットの導管の端部を上記導管用絶縁被覆構造体に挿通する挿通工程と、挿通工程の後、一方の導管ユニットの導管と他方の導管ユニットの導管とを接合する管接合工程と、管接合工程の後、導管用絶縁被覆構造体の高弾性絶縁被覆を二つの導管ユニットの各絶縁被覆に対して連結された状態とする連結工程とを含んでいる。
また、上記課題を解決するため、導管系形成方法において、導管ユニットにおける導管の長さに対して高弾性絶縁被覆の長さは5%以上20%以下であり得る。
また、上記課題を解決するため、この出願の別の発明の導管系形成方法は、熱媒を内部に通す導管と当該導管の周面を覆って設けられた絶縁被覆とを備えた導管ユニットを相互に接続して導管系を形成する方法である。この方法において、導管ユニットが備える絶縁被覆よりも高弾性であって導管ユニットが備える絶縁被覆よりも自由状態における肉厚が厚く且つ長さ方向に弾性により伸びることが可能な筒状の中間絶縁被覆を間に介在させながらそれら二つの導管ユニットを接続する方法である。そして、この方法は、一方の導管ユニットの導管の端部を中間絶縁被覆に挿通する挿通工程と、挿通工程の後、一方の導管ユニットの導管と他方の導管ユニットの導管とを接合する管接合工程と、管接合工程の後、中間絶縁被覆を二つの導管ユニットの各絶縁被覆に対して連結された状態とする連結工程とを含む。
また、上記課題を解決するため、上記導管系形成方法において、導管の長さに対して中間絶縁被覆の長さは5%以上20%以下であり得る。
【発明の効果】
【0012】
以下に説明する通り、この出願の導管用絶縁被覆構造体によれば、導管内に熱媒が流通する際、絶縁被覆の熱変形に起因する力を高弾性絶縁被覆が緩和する。このため、絶縁被覆同士が離間してしまったり、絶縁被覆が破断してしまったりする問題が生じない。この際、高弾性絶縁被覆は低弾性絶縁被覆よりも肉厚が厚いので、高弾性絶縁被覆の材料として特に高い熱絶縁性能が要求されることはなく、材料選定の自由度が低下する問題もない。
また、この出願の導管ユニットは、熱媒を内部に通す導管と、上記導管用絶縁被覆構造体を備えたユニットであるので、従来と同様に順次接続して導管系を形成するだけで、上記効果が得られる。このため、特に施工に工夫や熟練が要求されることはなく、上記効果を容易に得ることができる。
また、この出願の導管系形成方法は、上記導管用絶縁被覆構造体を間に介在させながら二つの導管ユニットを接続する方法であるので、従来の一般的な導管ユニットを使用して導管系を形成することができ、その場合にも上記各効果を得ることができる。
また、この出願の別の導管系形成方法は、高弾性であって肉厚が厚い筒状の中間絶縁被覆を間に介在させながらそれら二つの導管ユニットを接続する方法であるので、絶縁被覆同士が離間してしまったり、絶縁被覆が破断してしまったりする問題が発生せず、高弾性絶縁被覆の材料選定の自由度が低下する問題もない。
また、連結部材が、低弾性絶縁被覆及び高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材である場合、十分な連結強度を容易に確保することができる。このため、絶縁被覆同士の離間の可能性がさらに低くなる。
また、連結部材が低弾性絶縁被覆の周面及び高弾性絶縁被覆の周面に360度に亘って接合された部材である場合、連結強度がさらに高くなるので、絶縁被覆離間防止の効果がさらに高くなる。
また、高弾性絶縁被覆の端部が自由状態において低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなっていてテーパー状を成している場合、見栄えが良くなり、また施工や製造も容易である。
また、連結部材が、高弾性絶縁被覆の端部において低弾性絶縁被覆に近づくにつれて外径が細くなるテーパー状を成すよう当該高弾性絶縁被覆の端部を締め付けている場合、見栄えが良くなりまた施工が容易である。その上、高弾性絶縁被覆をテーパー状に成形することが不要になるので、製造コストが安価になる。
また、高弾性絶縁被覆の肉厚が低弾性絶縁被覆の肉厚に対して150%以上であると、通常想定される最も大きな熱収縮が絶縁被覆に生じたとしても高弾性絶縁被覆の肉厚が低弾性絶縁被覆よりも薄くなることはないので、より信頼性の高い導管系の形成が可能となる。
また、高弾性絶縁被覆において連結部材が接合されている長さ方向の幅が30mm以上であると、十分な連結強度を確保される。このため、上記効果がさらに確実に得られる。
また、高弾性絶縁被覆が内側に位置する第一の高弾性絶縁被覆と外側に位置する第二の高弾性絶縁被覆とより成っており、第一の高弾性絶縁被覆は低弾性絶縁被覆と肉厚が同じであり、連結部材は記低弾性絶縁被覆と第一の高弾性絶縁被覆の双方の周面に粘着又は接着により接合されたテープ状部材であり、第一の高弾性絶縁被覆と第二の高弾性絶縁被覆とは別の連結部材で連結されており、第二の高弾性絶縁部材は、テープ状部材を覆って外見上視認されない長さを有していると、製造が容易で、外見上も見栄えの良い絶縁被覆構造体が提供される。
また、低弾性絶縁被覆が高弾性絶縁被覆の両端に接続された一対のものであると、施工の際に高弾性絶縁被覆を低弾性の絶縁被覆に連結する作業が不要になるので、施工がさらに容易になる。
また、一対の低弾性絶縁被覆において長さが同一であると、絶縁被覆構造体の向きを考慮することなく施工ができるので、施工がさらに容易になる。
また、導管ユニットや導管系形成方法において、高弾性絶縁被覆又は中間絶縁被覆の長さが導管の長さの5%以上20%以下であると、高弾性絶縁被覆又は中間絶縁被覆の使用量が無駄に多くなることはなく、コスト上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第一の実施形態の絶縁被覆構造体の正面断面概略図である。
図2】第一の実施形態の絶縁被覆構造体の製造方法について示した斜視概略図である。
図3】第二の実施形態の絶縁被覆構造体の正面断面概略図である。
図4】第二の実施形態の絶縁被覆構造体の斜視概略図である。
図5】実施形態の絶縁被覆構造体の使用方法について示した概略図である。
図6】高弾性絶縁被覆の肉厚について示した概略図である。
図7】この出願の発明の実施形態に係る導管ユニットの概略図である。
図8】第三の実施形態の導管系形成方法について示した概略図である。
図9】従来の導管系形成方法について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、第一の実施形態の絶縁被覆構造体の正面断面概略図である。実施形態の絶縁被覆構造体は、熱媒を内部に通す導管を断熱のために被覆するための構造体である。前述したように、空調用や冷暖房用の設備、冷凍又は冷蔵設備等で施工されて使用されることが想定されている。
この絶縁被覆構造体は、筒状の低弾性絶縁被覆1と、低弾性絶縁被覆1よりも弾性の高い筒状の高弾性絶縁被覆2とを筒の長さ方向に沿って接続した構造を有している。図1に示すように、この実施形態では、高弾性絶縁被覆2は、低弾性絶縁被覆1の両端に接続された一対のものとなっている。
【0015】
第一の実施形態では、高弾性絶縁被覆2は、二層構造となっている。即ち、高弾性絶縁被覆2は、内側に位置する第一の高弾性絶縁被覆21と、外側に位置する第二の高弾性絶縁被覆22とより成っている。各低弾性絶縁被覆1の端面と第一の高弾性被覆21の各端面は、互いに接触している。
導管は通常円筒状であるので、各絶縁被覆1,21,22の内面は円筒状である。各低弾性絶縁被覆1の内径と第一の高弾性絶縁被覆21の内径は等しく、内面は面一となっている。また、各低弾性絶縁被覆1と第一の高弾性絶縁被覆21の肉厚は等しく、したがって外面も面一となっている。このため、図1に示すように、全体としては、高弾性絶縁被覆2は、各低弾性絶縁被覆1よりも肉厚が厚くなっている。
【0016】
各低弾性絶縁被覆1や第一の高弾性絶縁被覆21の内径は、被覆する導管の外径に適合したものとされる。導管の外径よりも各内径を僅かに小さくして各絶縁被覆1,21は弾性によって導管に密着するものとしても良いが、各絶縁被覆1,21は、施工の際にスライドさせるので、あまり密着すると施工がしづらい。したがって、軽く接触する程度とされる場合もある。また、各絶縁被覆1,21の内径は導管の外径よりも少し大きく、少し隙間が形成される場合もあり得る。
材質の一例を示すと、各低弾性絶縁被覆1は発泡ポリエチレン等の発泡ポリオレフィン系樹脂で形成され、高弾性絶縁被覆2は合成ゴムで形成される。
【0017】
このような低弾性断熱被覆1と高弾性絶縁被覆2とは、連結部材3によって連結されている。各連結部材3は、各低弾性絶縁被覆1と高弾性絶縁被覆2とが離間しないようにするものである。この実施形態では、連結部材3としては、粘着力により連結を行う部材(以下、連結テープという。)31と、接着材32とが使用されている。
具体的には、第一の高弾性絶縁部材21は連結テープ31により各低弾性連結部材1に対して連結されており、接着材32によって第二の高弾性絶縁被覆22が第一の高弾性絶縁被覆21に対して連結されている。したがって、第二の高弾性絶縁被覆22は第一の高弾性絶縁被覆21を介して間接的に各低弾性絶縁被覆1に連結されている。
【0018】
各連結テープ31は、各低弾性絶縁被覆1の周面と第一の高弾性絶縁被覆21の周面とにまたがって設けられており、各低弾性絶縁被覆1及び第一の高弾性絶縁被覆21の双方の周面に接合されることで両者を連結している。連結テープ31は、各低弾性絶縁被覆1及び第一の高弾性絶縁被覆21の双方の周面に粘着力により接合している。連結テープ31の接合は360度以上となっており、複数回周回される(複数周巻き付けられる)と強度が高まるので、好適である。
【0019】
このような各連結テープ31としては、例えば旭産業株式会社製のバイツテープ(同社の商標)が使用される。尚、連結テープ31は、接着によって接合されるものであっても良い。
図1に示すように、第二の高弾性絶縁被覆は、第一の高弾性被覆よりも長く、各連結テープ31を覆った状態となっている。このため、各連結テープ31は外見上は視認されない。
【0020】
また、接着材32は、第一の高弾性絶縁被覆21と第二の高弾性絶縁被覆22の間の充填されている。接着材32は、第一の高弾性絶縁被覆21と第二の高弾性絶縁被覆22の間の全域に充填されることが好ましいが、一部であっても良い。接着材32としては、合成ゴム系接着材等、適宜のものを使用することができる。
尚、接着材32は、第一の高弾性絶縁被覆21と第二の高弾性絶縁被覆22とを接着するのが目的なので、各連結テープ31に対しては接着作用がなくても良い。但し、連結テープ31と第二の高弾性絶縁被覆22に対しても接着作用がある接着材を使用して両者を連結すると、さらに連結強度が高まるので好適である。
【0021】
次に、このような第一の実施形態の絶縁被覆構造体の製造方法について、図2を参照して説明する。図2は、第一の実施形態の絶縁被覆構造体の製造方法について示した斜視概略図である。
第一の実施形態の絶縁被覆構造体を製造する場合、まず、図2(1)に示すように、第一の高弾性絶縁被覆21の両側に低弾性絶縁被覆1を当接させる。そして、図2(2)に示すように、両側の界面を覆うようにして周状に連結テープ31を巻き、両者を連結される。
【0022】
次に、図2(2)に示すように、第一の高弾性絶縁被覆21の露出部分に接着材32を塗布する。その上で、第二の高弾性絶縁被覆22を被せ、第一の高弾性絶縁被覆21に対して接着する。この際、第二の高弾性絶縁被覆22は、図2(3)に示すように長さ方向に切り込み221が形成されているので、そこから開いて第二の高弾性絶縁被覆22を第一の高弾性絶縁被覆21に被せる。切り込み221は、別途接着材で接着しておく。
尚、このような製造方法を行う場合、導管と同程度の外径の円管状の部材を治具として用いると好適である。高弾性絶縁被覆21に治具を挿通し、この状態で各低弾性絶縁被覆1の連結や第二の高弾性絶縁被覆22の連結を行うと、作業がし易い。
【0023】
次に、第二の実施形態の絶縁被覆構造体について説明する。
図3は、第二の実施形態の絶縁被覆構造体の正面概略図、図4図3に示す絶縁被覆構造体の斜視概略図である。
第二の実施形態においても、絶縁被覆構造体は、筒状の低弾性絶縁被覆1と、低弾性絶縁被覆1よりも弾性の高い筒状の高弾性絶縁被覆2とを筒の長さ方向に沿って接続した構造を有している。図3に示すように、第二の実施形態では、高弾性絶縁被覆2は二層にはなっておらず、一つの部材で形成されている。同様に、低弾性絶縁被覆1の内径と高弾性絶縁被覆2の内径は等しく、内面は面一となっている。そして、図3に示すように、高弾性絶縁被覆2は、低弾性絶縁被覆1に比べて肉厚の厚いものとなっている。したがって、高弾性絶縁被覆2の外径は低弾性絶縁被覆1の外径より大きい。
【0024】
このような低弾性断熱被覆1と高弾性絶縁被覆2とは、連結部材3によって連結されている。第二の実施形態では、連結部材3は連結テープ31となっている。連結テープ31は、各低弾性絶縁被覆1の周面と高弾性絶縁被覆2の周面とにまたがって設けられており、各低弾性絶縁被覆1及び高弾性絶縁被覆2の双方の周面に接合されることで両者を連結している。
【0025】
また、図3に示すように、高弾性絶縁被覆2の端部は、両端において低弾性絶縁被覆1に近づくにつれて外径が細くなっていてテーパー状を成している。このための構成としては、高弾性絶縁被覆2が最初から両端テーパー状に成形されているか、又は連結テープ31によって連結する際に連結テープ31によって両端部を圧縮することでテーパー状とするかである。
【0026】
連結テープ31で連結する際に圧縮することでテーパー状とする場合、高弾性絶縁被覆2の弾性が連結テープ31を剥がそうとする向きに作用するので、より強い接合力が必要になる。このため、最初から両端テーパー状に成形されている方が好ましい。但し、両端テーパー状に成形する場合には一工程増えるので、高弾性絶縁被覆2の製造コストは多少上昇する。このため、コストの面で連結テープ31で圧縮する方が有利である。
【0027】
いずれにしても、高弾性絶縁被覆2の両端をテーパー状とすることで、絶縁被覆構造体は見栄えが良くなり、また角がなくなるので施工の際の取り扱いも容易である。角があると、施工の際に周囲の部材に引っ掛かり易くなり、特に狭い場所での施工の際に支障が出る場合があり得る。尚、テーパー状とする場合、高弾性絶縁被覆2のテーパー面と低弾性絶縁被覆1の周面との間に段差がないようにすることが好ましい。同様に、見栄えや施工の容易さからである。
【0028】
次に、実施形態の絶縁被覆構造体の使用方法について図5を参照して説明する。
図5は、実施形態の絶縁被覆構造体の使用方法について示した概略図である。一例として、図5では、第二の実施形態の絶縁被覆構造体の使用方法が示されているが、第一の実施形態の絶縁被覆構造体についても同様に使用できる。以下の説明は、この出願の発明の導管系形成方法の第一の実施形態についての説明でもある。実施形態の絶縁被覆構造体10は、既存の規格品の導管ユニット4を使用して導管系を形成する際に好適に使用され得る。図5は、この際の方法を示している。
【0029】
前述したように規格品の導管ユニット4は長さが4mと定められており、これを接続していくことで導管系を構築する。各導管ユニット4は、図5(1)に示すように、規格で定められた長さの導管41と、導管41の周面を覆って設けられた絶縁被覆42とより成っている。絶縁被覆42の長さは、導管41と同じか又は少し短い。
【0030】
このような導管ユニット4を接続して導管系を構築する際、実施形態の絶縁被覆構造体10を各接続部分に介在させる。
具体的には、図5(2)に示すように、一方の導管ユニット4について、絶縁被覆42の端部を少し切断し、導管41の露出部分を広げる。他方の導管ユニット4についても、同様に絶縁被覆42の端部を少し切断しておく。各々切断する長さは、露出する導管41の長さが絶縁被覆構造体10の全長(図3にLで示す)の半分より少し短い長さである。
【0031】
次に、図5(3)に示すように、絶縁被覆構造体10を一方の導管ユニット4に装着する。即ち、図5(4)に示すように、一方の導管ユニット4の絶縁被覆42を少しスライドさせて露出部分を長くし、そこに絶縁被覆構造体10に挿入する。その状態で、他方の導管ユニット4の導管41の端面に対して一方の導管ユニット4の導管41の端面をろう付け又は溶接等により接合する。
【0032】
その後、図5(5)に示すように、絶縁被覆構造対10及び一方の導管ユニット4の絶縁被覆42を他方の導管ユニット4に向けてスライドさせ、他方の導管ユニット4の絶縁被覆42に絶縁被覆構造体10を接触させる。そして、図5(6)に示すように、絶縁被覆構造体10の各低弾性絶縁被覆1と各導管ユニット4の絶縁被覆42とを連結テープ43で連結する。連結テープ43は、複数回周回させて巻き付ける。連結テープ43は、絶縁被覆構造体10におけるものと同じものを使用することができる。
【0033】
このように各導管ユニット4の接続箇所にそれぞれ絶縁被覆構造体10を介在させ、導管系を形成する。このようにすると、前述した絶縁被覆42の熱変形に起因した問題が解消される。即ち、導管ユニット4の絶縁被覆42は、導管41内に冷媒が流通する際、熱収縮し得る。絶縁被覆42の熱収縮は、絶縁被覆42,1同士の接続箇所に影響を及ぼし、絶縁被覆42,1を離間させるように働く。この際、間に設けられた絶縁被覆構造体10の高弾性絶縁被覆2は、高弾性であるため、各絶縁被覆42の熱収縮に応じて弾性により効果的に伸張する。即ち、熱収縮を緩和する。したがって、接続箇所に過剰な引っ張り力が作用することはなく、絶縁被覆42,1が離間してしまうことはなくなる。このため、絶縁被覆で覆われていない箇所が生じてしまって熱絶縁性能が低下してしまう問題や結露が生じる問題は、解消する。
尚、導管41内に冷媒と温媒とが交互に流通する場合、絶縁被覆42は熱収縮と熱膨張とを繰り返すが、この場合にも、高弾性の高弾性絶縁被覆2が熱変形を吸収するよう作用するので、接続箇所の破断等の事故は生じない。
【0034】
さらに、実施形態の絶縁被覆構造体は、高弾性絶縁被覆2の肉厚が低弾性絶縁被覆1よりも厚いので、伸張によって高弾性絶縁被覆2における熱絶縁性が低下してしまう問題が避けられる。即ち、絶縁被覆の熱絶縁性は肉厚に依存する。伸張によって高弾性絶縁被覆2は肉厚が薄くなるから、その分だけ熱絶縁性は低下する。この際、常温における肉厚が低弾性絶縁被覆1と同じであると、冷媒流通時にはそれよりも薄くなるから、低弾性絶縁被覆1よりも熱絶縁性が低下してしまうことになる。これを防止するには、低弾性絶縁被覆1よりも熱絶縁性の高い材料(熱伝導率の低い材料)で形成されたものを採用することが考えられるが、高弾性であって且つ熱絶縁性が十分に高い材料は一般的には存在せず、あっても高価な材料である場合が多い。つまり、高弾性絶縁被覆2の肉厚を低弾性絶縁被覆1よりも厚くしておく構造は、高弾性絶縁被覆2の材料について高弾性を優先して選定することを可能にし、高価な材料の使用によるコスト高を避ける意義がある。
【0035】
高弾性絶縁被覆2の肉厚を低弾性絶縁被覆1よりもどの程度厚くしておくかについては、導管ユニットにおいてどの程度の熱収縮があるかによる。この点について、図6を使用して説明する。図6は、高弾性絶縁被覆2の肉厚について示した概略図である。
図6(A)に示すように、近似的に高弾性絶縁被覆2を円柱状であると仮定し、常温での高弾性絶縁被覆2の長さをL、肉厚をtとし、導管ユニットの絶縁被覆の熱収縮により伸張した際の高弾性絶縁被覆2の長さをL、肉厚をtとする。この場合、以下の式1の関係が成り立つ。
【数1】

つまり、伸張時の肉厚の減少率(t/t)は、伸張率(L/L)の逆数の1/2乗となる。例えば、高弾性絶縁被覆2が5%伸張すると、肉厚は2%程度減少する。
【0036】
一方、導管ユニットにおける絶縁被覆の熱収縮による長さの減少は、多くても5%程度までである。この場合、導管ユニットの長さMとし、熱収縮分がそのまま高弾性絶縁被覆2の伸張長さになるとすると、高弾性絶縁被覆2における伸張長さは最大0.05Mとなる。
常温での高弾性絶縁被覆2の長さは、導管ユニットの長さMに対して適宜選定される。導管ユニットの長さMに対する高弾性絶縁被覆2の長さの比をpとすると、伸張率は、以下の式2で表される。
【数2】

実際には、図6(B)に示すように、中心に導管が存在するので、導管の外径をdとすると、伸縮率は以下の式3に従ったものとなる。しかし、実用的には、式2で伸縮率を考慮しても差し支えない。
【数3】

式2において、pは0.05〜0.1程度の範囲で適宜選定される。pが0.05である場合、高弾性絶縁被覆2は倍の長さに伸張することになり、0.1であれば1.5倍の長さに伸張することになる(50〜100%の伸張率)。pが0.05未満になると、100%を超える伸張率となり、非常に高い弾性が要求されるので、好ましくない。
【0037】
高弾性絶縁被覆2の伸張率(自身の長さに対する伸張率)を100%以下に抑えるということは、pを導管ユニットの絶縁被覆の熱収縮率以上、つまり0.05以上とするということを意味する。熱収縮率以上の長さ比としておけば、100%を超える伸張性が要求されることはない。
【0038】
高弾性絶縁被覆2の伸張率が50〜100%であるということは、L/Lは1.5〜2ということになり、肉厚の減少率(t/t)は1.2〜1.4程度ということになる。伸張時に低弾性絶縁被覆1と同程度の肉厚ということは、逆算すると、常温で低弾性絶縁被覆1よりも20〜40%以上厚くしておけば良いということになる。あらゆる条件を想定し、またマージンを確保すると、高弾性絶縁被覆2の肉厚は低弾性絶縁被覆1に比べて150%以上とすることがより好ましいということになる。
【0039】
別の観点として、連結部材3が接合されている領域の長さも考慮する必要がある。前述したように、連結テープ31は、粘着力により高弾性絶縁被覆2の周面に接合される。この場合、連結テープ31は伸縮性に富んでいない場合が多く、少なくとも高弾性絶縁被覆2のような弾性は有していない。このため、高弾性絶縁被覆2に対する連結テープ31の接合は、高弾性絶縁被覆2の弾性を低下させるように作用する。したがって、連結テープ31による接合領域の長さ(沿面長さ、図3にwで示す)はあまり長くしないようにすることが好ましく、例えば100mm以下とすることが好ましい。
【0040】
但し、連結テープ31による接合領域の長さwが短くなると、領域全体としての接合強度が低下するため、伸張時の高弾性絶縁被覆2の弾性力によっては連結テープ31が剥がれてしまう恐れがある。発明者の実験によると、100%程度まで伸張可能な合成ゴムを使用し、この種の絶縁被覆の連結に通常使用される連結テープ31を使用した場合、接合領域の長さwは30mm以上とすることが好ましい。30mm未満であると、高弾性絶縁被覆2の伸張量によっては連結テープ31の剥がれが生じ得る。これらの点は、低弾性絶縁被覆1についても同様である。
【0041】
また、連結テープ31は高弾性絶縁被覆2を両端部で接合されるから、全体の接合領域の長さは2wとなる。従って、上述した高弾性絶縁被覆2の長さpMは、実効的には2w分だけ差し引いた長さであり、それを前提に肉厚を設定することが望ましい。
より具体的な寸法例を示すと、ポリエチレン製である各低弾性絶縁被覆1の長さは150mm、肉厚は13mmである。この場合、高弾性絶縁被覆2は、独立気泡ニトリル系合成ゴムを基材とした特殊エラストマー製であり、長さは300mm、肉厚は20mmとされる。
【0042】
尚、第一の実施形態の絶縁被覆構造体において、高弾性絶縁被覆2が第一の高弾性絶縁被覆21と第二の高弾性絶縁被覆22より成る二層構造であり、第一の高弾性絶縁被覆21が低弾性絶縁被覆1と同じ肉厚である点は、製造をより容易にする意義がある。即ち、連結テープ31で連結をする際、低弾性絶縁被覆1と第一の高弾性絶縁被覆21との間に段差が形成されないので、両者を連結する作業がし易い。
また、第一の実施形態の絶縁被覆構造体は、前述したように第二の高弾性絶縁被覆22が各連結テープ31を覆って視認されないようにする長さを有しているので、外見状見栄えの良い製品となっている。
【0043】
尚、第一の実施形態の絶縁被覆構造体において、前述したテーパー状の構成を採用することも可能である。この場合は、第二の高弾性絶縁被覆22について両側の端部の周面がテーパー状となっている形状とする。
また、第一の実施形態において、第一の高弾性絶縁被覆21と第二の高弾性絶縁被覆との連結については、接着材32による場合の他、両面テープ等を使用しても良い。但し、接着材32によると、各高弾性絶縁被覆21,22の伸縮性を阻害してしまう問題はないので好適であり、特に合成ゴム系接着材のような伸縮性に富む接着材を使用するとその効果は顕著である。
【0044】
次に、導管ユニットの発明の実施形態について説明する。以下の説明は、第三の実施形態の絶縁被覆構造体についての説明でもある。
図7は、この出願の発明の実施形態に係る導管ユニットの正面断面概略図である。図7に示す導管ユニットは、熱媒を内部に通す導管51と、導管51を被覆した絶縁被覆構造体52とを備えたユニットである。この導管ユニットは、導管系の形成に通常用いられる規格品としての導管ユニットの代替品として提供されるものである。
この種の導管は一般的に4mが定尺とされているので、図7に示す導管ユニットが備える導管51も4mの長さとなっている。導管51は銅製で、外径は25.4mm、肉厚は1mmのものが例えば使用される。
【0045】
絶縁被覆構造体52は、構造としては第一の実施形態のものと同じであるが、各低弾性絶縁被覆1の長さが異なっている。即ち、図7に示すように、各低弾性絶縁被覆1は、高弾性絶縁被覆2よりも長く、高弾性絶縁被覆2が被覆している以外の導管51の周面をほぼ全て覆う長さとなっている。
但し、各低弾性絶縁被覆1は、導管51が両端部で少しだけ露出する長さとなっている。露出長さは、20〜30mm程度である。尚、各低弾性絶縁被覆1の長さは同じであり、従って導管ユニットにおいて高弾性絶縁被覆2は長さ方向の中央に位置する。
【0046】
このような実施形態の導管ユニットについては、導管系の形成方法としては特に従来のものと変わらずに行うことができる。即ち、一方の導管ユニットの導管51と他方の導管ユニットの導管51とをろう付け等によって接合する。そして、接合箇所を含む導管51の露出部分に補助絶縁被覆を挿入し、その後、連結テープで連結する。
【0047】
実施形態の導管ユニットによれば、最初から高弾性絶縁被覆2が間に介在されているので、従来と同様に施工するだけで熱変形キャンセルの効果が得られ、温度変化の激しい条件下で使用された場合でも、絶縁被覆の連結部分の離間や絶縁被覆の破断、連結テープ31の剥がれ等の問題が生じない。このため、常に安定した熱絶縁効果が得られ、結露等の問題も生じない。
【0048】
この際、実施形態の導管ユニットでは、導管51の全長に応じて高弾性絶縁被覆2が適宜の長さで最初から設けられているので、高弾性絶縁被覆2の長さが不足してしまう問題はない。第一の実施形態や第二の実施形態の絶縁被覆構造体では、規格品の導管ユニットを想定して高弾性絶縁被覆2の長さを選定しているが、規格品よりも長い導管ユニットを使用した場合、高弾性絶縁被覆2の長さが不足してしまう。
導管ユニットについては、導管系の全体の長さの調整のために途中で切断して短い長さで使用する場合もある。この場合、高弾性絶縁被覆2は定尺の長さに応じた長さであるので、高弾性絶縁被覆2の伸張が不足してしまうことはない。
【0049】
また、高弾性絶縁被覆2が長さ方向の中央に位置している点は、導管ユニットの接続の向きを考慮することなく施工できるというメリットがある。高弾性絶縁被覆2は、導管ユニットの長さ方向の中央に設けられていなくとも良く、どちらかに寄った位置でも良い。高弾性絶縁被覆2が寄った位置に設けられている場合、導管ユニットを次々に接続していく際、同じ向きで接続していく必要がある。そうしないと、一つの高弾性絶縁被覆2の両側の低弾性絶縁被覆1の長さがバラバラとなり、熱変形を十分に吸収できない可能性があるからである。高弾性絶縁被覆2が長さ方向の中央であれば、どちらの向きでも問題はなく、施工の際の煩わしさがなくなる。この点は、図3及び図4に示す第一の実施形態の絶縁被覆構造体についても同様である。
【0050】
尚、高弾性絶縁被覆2の長さは、前述したように導管の長さを前提にして適宜定められる。導管の長さが熱絶縁をする全体の長さだからである。この場合、前述したように、低弾性絶縁被覆1の熱収縮率は一般的には最大5%で、高弾性絶縁被覆2の伸張率は100%までとすることが実用的には好ましい。そうすると、高弾性絶縁被覆2の長さは導管の長さの5%以上とすることが好ましく、マージンを含んで7%以上とすることがより好ましい。また、高弾性絶縁被覆2をあまり長くすると、コスト上の問題が生じるので、高弾性絶縁被覆2の長さは20%以下とすることが好ましい。
【0051】
次に、第二の実施形態の導管系形成方法について説明する。図8は、第二の実施形態の導管系形成方法について示した概略図である。
第二の実施形態の導管系形成方法は、図8(1)に示すように、従来の導管ユニット4を使用して導管系を形成する方法である。この際、中間絶縁被覆6が使用される。中間絶縁被覆6は、上記第一の実施形態の絶縁被覆構造体における高弾性絶縁被覆2に相当するものである。即ち、中間絶縁被覆6は、導管ユニット4が備える絶縁被覆42よりも高弾性で肉厚が厚いものとなっている。
【0052】
第二の実施形態の導管系形成方法においても、図8(2)に示すように、各導管ユニット4の絶縁被覆42を少し切断し、導管41の露出部分の長さを長くする。切断後の各露出部分の長さは、中間絶縁被覆6の長さの半分より少し長い長さである。
そして、図8(3)に示すように、中間絶縁被覆6を一方の導管ユニット4の導管41の端部を中間絶縁被覆6に挿通する。この際、図8(4)に示すように、一方の導管ユニットの絶縁被覆42を少しスライドさせて導管41の露出部分を長くする。そして、一方の導管ユニット4の導管41と、他方の導管ユニット4の導管41の端部と付き合わせて両者をろう付け等により接合する。
【0053】
接合が終わったら、中間絶縁被覆6と他方導管ユニット4の絶縁被覆42をスライドさせ、図8(5)に示すように、中間絶縁被覆6が他方の導管ユニット4の絶縁被覆42に当接するようにする。その後、図8(6)に示すように、中間絶縁被覆6と各絶縁被覆42との接触箇所に連結テープ61を巻き付け、両者を連結する。このようにして、導管ユニット4を次々に接続していく。
尚、連結テープ61を巻き付ける際、中間絶縁被覆6は肉厚が厚いので、圧縮されてテーパー状となり、各絶縁被覆42との間で段差がない状態とされる。
【0054】
このような第二の実施形態の導管系形成方法においても、中間絶縁被覆6が導管ユニット4の絶縁被覆42の熱収縮を吸収するので、絶縁被覆42,6の連結箇所に過剰な力が加わって絶縁被覆が離間してしまったり、絶縁被覆42が破断してしまったりする事故は発生しない。
また、高弾性での肉厚の中間絶縁被覆6のみを使用するシンプルな方法であるので、第一の実施形態の絶縁被覆構造体に比べると安価なコストで施工できる。
【0055】
但し、高弾性肉厚の中間絶縁被覆6を低弾性薄肉の絶縁被覆42に施工場所で連結する方法であるので、作業者の技能によってバラツキが生じる場合があり得る。例えば、高弾性の中間絶縁被覆6を圧縮しながら連結テープ61を貼り付ける際、貼り付け幅が周方向で均一でなく、強度的に弱い場所ができてしまったりすることがあり得る。一方、第一の実施形態や第二の実施形態の絶縁被覆構造体によれば、低弾性で薄肉の絶縁被覆42同士を連結する従来の工法と同じように施工できるので、作業者に特段の技能は必要がない。低弾性絶縁被覆1と高弾性絶縁被覆2との連結については、製品の製造工程として工場で行われるので、熟練者が行ったり、専用の機械で行ったりすることが可能で、また製品検査も行われ得る。このため、特に問題になることはない。
【0056】
上記各実施形態において、低弾性絶縁被覆1としては、発泡ポリエチレンの他、発泡ポリプロピレン、発泡ウレタン等の発泡樹脂で形成されている場合もあり得る。異なる樹脂の多層構造のものが使用されることもある。
また、高弾性絶縁被覆2としては、ニトリル系合成ゴムの他、イソプロピレン系合成ゴムやエチレンプロピレン系合成ゴム等が使用されることもあり得る。
さらに、導管51は銅製であることが多いが、アルミやステンレス等の他の金属で形成された導管についてもこの発明は実施でき、金属以外の樹脂やセラミックス等で形成された導管についても、この発明は実施できる。
【符号の説明】
【0057】
1 低弾性絶縁被覆
2 高弾性絶縁被覆
41 導管
42 絶縁被覆
31 連結テープ
51 導管
6 中間絶縁被覆
61 連結テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9