特許第6785439号(P6785439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785439
(24)【登録日】2020年10月29日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】生地の縫製方法及び二重環縫いミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 1/10 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   D05B1/10 A
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-136380(P2016-136380)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-225790(P2017-225790A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠治
(72)【発明者】
【氏名】引地 耕一
(72)【発明者】
【氏名】東野 宏平
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212344(JP,A)
【文献】 特開平07−136369(JP,A)
【文献】 特開2009−160263(JP,A)
【文献】 特開2003−144786(JP,A)
【文献】 特開2015−033564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地を、針板の上面に沿って所定の縫製進行方向に送りながら、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置された複数本の針の上下動により前記針板下に複数の針糸ループを形成すると共に、前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能なルーパの進出により前記複数の針糸ループを捉え、その捉えた複数の針糸ループを前記ルーパが保持するルーパ糸によりルーピングすることにより、前記生地に複数針の二重環縫いの縫目を形成する生地の縫製方法であって、
縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記針の並列方向の他側部に配置された糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がるルーパ糸の切断端部分を自由状態とする第1ステップと、
前記自由状態のルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させる第2ステップと、
前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持する第3ステップと、
空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置に誘導すると共に、その誘導された設定位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持させる第4ステップと、
前記第4ステップに続く前記針及びルーパの回転動作のうち、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近に対する保持を解除する第5ステップと、
を有し、
第5ステップ以降は、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで所定の縫製を行う
ことを特徴とする生地の縫製方法。
【請求項2】
前記第5ステップ以降におけるルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで行う所定の縫製のうち、縫い始め部分の生地の送り量は、通常縫製時の生地の送り量よりも小さく設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の生地の縫製方法。
【請求項3】
前記第4ステップにおいて、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分は前記複数本の針のうち、並列方向の両端針間の位置に誘導されると共に、その誘導された位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持される ことを特徴とする請求項1に記載の生地の縫製方法。
【請求項4】
丸物生地の端縁部を生地の裏面側に折り返し重ね合わせられた重ね合わせ生地部分を、針板の上面に沿って所定の縫製進行方向に送りながら、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置された複数本の針の上下動により前記針板下に複数の針糸ループを形成すると共に、前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能なルーパの進出により前記複数の針糸ループを捉え、その捉えた複数の針糸ループを前記ルーパが保持するルーパ糸によりルーピングすることにより、前記丸物生地の重ね合わせ生地部分の全周に二重環縫いの縫目を形成する生地の縫製方法であって、
縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記針の並列方向の他側部に配置された糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がるルーパ糸の切断端部分を自由状態とする第1ステップと、
前記自由状態のルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させる第2ステップと、
前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持する第3ステップと、
空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置に誘導すると共に、その誘導された設定位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持させる第4ステップと、
前記第4ステップに続く前記針及びルーパの回転動作のうち、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近に対する保持を解除する第5ステップと、
を有し、
第5ステップ以降は、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで所定の縫製を行う
ことを特徴とする生地の縫製方法。
【請求項5】
前記第5ステップ以降におけるルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで行う所定の縫製のうち、縫い始め部分の生地の送り量は、通常縫製時の生地の送り量よりも小さく設定されている
ことを特徴とする請求項4に記載の生地の縫製方法。
【請求項6】
前記第4ステップにおいて、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分は前記複数本の針のうち、並列方向の両端針間の位置に誘導されると共に、その誘導された位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持される ことを特徴とする請求項4に記載の生地の縫製方法。
【請求項7】
生地をセットし且つ所定の縫製進行方向への送りを案内する針板と、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置され針糸を保持して上下動する複数本の針と、ルーパ糸を保持して前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能で、進出動作時に前記針が針板下に形成する複数の針糸ループを捉えるルーパと、前記針の並列方向の他側部に配置されて縫製後のルーパ糸および針糸を切断する糸切り装置とを備え、前記ルーパの進出動作により捉えた前記複数の針糸ループを、該ルーパが保持するルーパ糸でルーピングすることにより、前記生地に二重環縫いの縫目を形成するように構成された二重環縫いミシンであって、
縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がり自由状態となったルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させるルーパ糸の切断端部分の移行手段と、
前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持及び保持解除可能なルーパ糸保持手段と、
空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導するルーパ糸誘導部とこの誘導部により設定位置にまで誘導された前記ルーパ糸の中途部分の抜け移動が縫製進行方向を除き阻止される状態に保持するルーパ糸保持溝部とを有するルーパ糸保持部材と、
前記ルーパ糸保持部材にルーパ糸の中途部分が保持された状態で、前記針及びルーパを回転動作させて、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸保持手段による保持を解除するように制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段の制御動作後、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで次の生地に対する所定の縫製を行うように構成されている
ことを特徴とする二重環縫いミシン。
【請求項8】
前記ルーパ糸の切断端部分の移行手段は、エア噴出ノズルであり、このエア噴出ノズルと前記ルーパ糸保持手段との間には、前記エア噴出ノズルから噴出されるエアにより吹き飛ばされるルーパ糸の切断端部分を略縫製進行方向に沿う略水平姿勢に矯正しながら通過させる通路を有するルーパ糸案内部材が設けられている
ことを特徴とする請求項7に記載の二重環縫いミシン。
【請求項9】
前記ルーパ糸保持部材は、前記ルーパ糸誘導部が前記複数本の針のうち、並列方向の両端針間の位置に位置されるように配置されている
ことを特徴とする請求項7に記載の二重環縫いミシン。
【請求項10】
丸物生地の端縁部を生地の裏面側に折り返し重ね合わせられた重ね合わせ生地部分をセットし且つ所定の縫製進行方向への送りを案内する針板と、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置され針糸を保持して上下動する複数本の針と、ルーパ糸を保持して前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能で、進出動作時に前記針が針板下に形成する複数の針糸ループを捉えるルーパと、前記針の並列方向の他側部に配置されて縫製後のルーパ糸および針糸を切断する糸切り装置とを備え、前記ルーパの進出動作により捉えた前記複数の針糸ループを、該ルーパが保持するルーパ糸でルーピングすることにより、前記丸物生地の重ね合わせ生地部分の全周に二重環縫いの縫目を形成するように構成された丸物生地縫製用の二重環縫いミシンであって、
縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がり自由状態となったルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させるルーパ糸の切断端部分の移行手段と、
前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持及び保持解除可能なルーパ糸保持手段と、
空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導するルーパ糸誘導部とこの誘導部により設定位置にまで誘導された前記ルーパ糸の中途部分の抜け移動が縫製進行方向を除き阻止される状態に保持するルーパ糸保持溝部とを有するルーパ糸保持部材と、
前記ルーパ糸保持部材にルーパ糸の中途部分が保持された状態で、前記針及びルーパを回転動作させて、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸保持手段による保持を解除するように制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段の制御動作後、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで次の生地に対する所定の縫製を行うように構成されている
ことを特徴とする丸物生地縫製用の二重環縫いミシン。
【請求項11】
前記ルーパ糸の切断端部分の移行手段は、エア噴出ノズルであり、このエア噴出ノズルと前記ルーパ糸保持手段との間には、前記エア噴出ノズルから噴出されるエアにより吹き飛ばされるルーパ糸の切断端部分を略縫製進行方向に沿う略水平姿勢に矯正しながら通過させる通路を有するルーパ糸案内部材が設けられている
ことを特徴とする請求項10に記載の丸物生地縫製用の二重環縫いミシン。
【請求項12】
前記ルーパ糸保持部材は、前記ルーパ糸誘導部が前記複数本の針のうち、並列方向の両端針間の位置に位置されるように配置されている
ことを特徴とする請求項10に記載の二重環縫いミシン。
【請求項13】
対象とするミシンが、2本針型式の横筒形二重環縫いミシンである請求項又は10に記載の二重環縫いミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば2本針型式の横筒形に代表される二重環縫いミンンを使用して、Tシャツや下着等のように、前後の身頃地が先に縫い合わせられてループ状に加工された丸物生地の端部のほつれ止めのための裾引き縫いなど丸物生地を含む生地の縫製方法及びその縫製に用いられる二重環縫いミシンに関し、特に縫製後に切断されたルーパ糸の端部分の処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2本針型式の二重環縫いミシンによる丸物生地の裾引き縫いを例にとって説明すると、丸物生地の縫製部分(端縁部を生地の裏面側に折り返し重ね合わせられた重ね合わせ生地部分)を、針板の上面に沿って所定の縫製進行方向に送りながら、縫製進行方向に直交する方向に並列配置された複数本の針の上下動により針板下に複数の針糸ループを形成すると共に、複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能なルーパの進出により前記複数の針糸ループを捉え、その捉えた複数の針糸ループをルーパが保持するルーパ糸によりルーピングすることにより、丸物生地の縫製部分(重ね合わせ生地部分)の全周に二重環縫いの縫目を形成する。
【0003】
上記のような二重環縫いの縫目を形成する2本針型式の二重環縫いミシンは、図21(A),(B)に示すように、左右の針糸NTa,NTb(図22参照)を保持して針板2に対して上下に往復運動するように、縫製進行方向Hに直交する方向に並列配置された左右2本の針1a,1bと、ルーパ糸LT(図22参照)を保持して前記針1a,1bの上下往複運動経路に略直交する方向に進退動作可能で、進出動作時に前記針1a,1bが針板2下に形成する針糸ループNTa’,NTb’(図22参照)を捕捉するルーパ3と、前記針板2及びルーパ3に対して近接した左前方への進出位置P1と該進出位置P1よりも右後方の退避位置P2との間に亘って往復駆動移動可能で、所定の縫製動作終了後、つまり、縫い終わり時に前記退避位置P2から前記進出位置P1に移動されて切断作用を行う糸切り装置4と、を備えており、前記針糸ループNTa’,NTb’を前記ルーパ3が保持するルーパ糸LTでルーピングすることにより、縫製生地Wに所定長さの二重環縫い縫目Aを形成する。
【0004】
前記糸切り装置4は、縫製生地Wに所定長さの二重環縫い縫目Aを形成した縫い終わり時において、縫製生地Wの裏面側に突出する針糸部NTa1,NTb1及びルーパ糸部LT1を切断するものであり、該糸切り装置4は、可動メス5と、固定メス6と、前記可動メス5の下部に配置されて切断されたルーパ糸部LT1の端部を前記可動メス5との間に弾性的に挟み保持する板バネ製のルーパ糸挟み部材7と、該ルーパ糸挟み部材7の挟み保持力調整用の糸挟み補助バネ8と、を有している。そして、前記可動メス5、固定メス6、ルーパ糸挟み部材7及び糸挟み補助バネ8からなる糸切り装置4を前記退避位置P2と前記進出位置P1との間に亘って往復駆動移動させると共に、糸切り装置4が前記進出位置P1にまで移動された後は可動メス5のみを針落ち位置の一側寄り外部位置(進出位置)と針落ち位置の他側寄り外部位置との間に亘って往復駆動移動させる往復駆動移動機構9が具備されている。
なお、前記往復駆動移動機構9は、後述する本発明の実施の形態における往復駆動移動機構と同じ構成であるため、対応する構成部材には本発明の実施の形態で説明する往復駆動移動機構と同一の符号を付している。
【0005】
上記のような基本的構成を有する従来の二重環縫いミシンの糸切り装置4は、図21(A),(B)に示すように、可動メス5先端の側縁部に該可動メス5が前記針落ち位置の他側寄り外部位置から一側寄り外部位置に向けて復行駆動移動される時に、前記縫製生地Wの裏面側に突出するルーパ糸部LT1を引掛けて捕捉するルーパ糸捕捉部10が形成されていると共に、該ルーパ糸捕捉部10よりも前記可動メス5の基端寄りの側縁部に該可動メス5が前記針落ち位置の他側寄り外部位置から一側寄り外部位置に向けて復行駆動移動される時に、前記縫製生地Wの裏面側に突出する左右の針糸部NTa1,NTb1を順次引掛けて捕捉する針糸捕捉部11が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
次に、上記した従来の二重環縫いミシンの糸切り装置4による糸切り動作について説明する。
まず、図22(a)に示すように、縫い終わり時に糸切り装置4が針落ち位置の一側寄り外部位置である前記進出位置P1にまで移動された後、図22(b)に示すように、可動メス5のみが前記進出位置P1から針落ち位置の他側寄り外部位置に向けて矢印x方向に往行駆動移動される。この往行駆動移動により、図22(c)に示すように、可動メス5先端側のルーパ糸捕捉部10がルーパ3の先端近くと縫製生地Wの裏面側との間に掛け渡されているルーパ糸部LTを越えた直後に可動メス5の移動方向が反転されて前記ルーパ糸捕捉部10にルーパ糸部LT1が引掛けられ捕捉される。続いて、図22(d)に示すように、可動メス5が前記針落ち位置の他側寄り外部位置から前記進出位置P1に向けて矢印y方向に復行駆動移動され、この復行駆動移動時に針糸捕捉部11に縫製生地Wの裏面側に突出する左右の針糸部NTa1,NTb1が引掛けられて捕捉される。そして、可動メス5が更に矢印y方向に復行駆動移動されることによって、図22(e)に示すように、前記針糸捕捉部11に捕捉された針糸部NTa1、NTb1及びルーパ糸捕捉部10に捕捉されたルーパ糸部LT1が各捕捉部11,10と固定メス6との摺接により切断される。その後、図22(f)に示すように、針1a,1bは針板2の上方へ移動すると共に、ルーパ3に保持されているルーパ糸LT1の切断端部分LT2はその先端部が可動メス5とルーパ糸挟み部材7との間に弾性的に挟み保持されて次の縫製に備えている。そして、次の縫製開始に伴う生地の縫製進行方向Hへの移動に伴い、可動メス5とルーパ糸挟み部材7との間に弾性的に挟み保持されているルーパ糸切断端部分LT2の先端部が可動メス5とルーパ糸挟み部材7との間から自然に引き抜かれる(挟み保持解除される)ことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 実公平6−32072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような構成する従来の二重環縫いミシンにおいては、糸切り装置4による針糸部NTa1、NTb1及びルーパ糸部LT1の切断位置が、針1a,1bの上下往複運動経路内に入らないように針落ち位置から離れた位置であって、右針1bよりも更に右側外部位置となるために、切断後における左右の針糸部NTa1,NTb1及びルーパ糸部LT1の切断端部分LT2は所定長さを持った糸残りとなる。特に、ルーパ糸の切断端部分LT2は、その先端部が針落ち位置から離れて右針1bよりも更に右側外部位置おいて可動メス5とルーパ糸挟み部材7との間に弾性的に挟み保持されるので、次の生地部分の縫製時にルーパ糸切断端部分LT2は縫い始め箇所の二重環縫いの縫目Aの一部を構成することなく、図23に示すように、縫目Aの外側方へ長く髭状にはみ出して、縫製品の見栄え及び品質低下につながるといった仕上り不良を生じる。
【0009】
特に、ルーパ糸が複数の極細フィラメントを束ねたような種類の糸である場合、糸切り装置により切断されたとき、ルーパ糸の切断端部分が複数の極細フィメントにばらけ、そのばらけた複数のフィラメントが縫目の外側でそれぞれ異なる方向に向けてはみ出したり、生地面より立ち上がったりして、見栄えが非常に悪くなり、一層の仕上がり不良を生じやすい。
【0010】
このような仕上がり不良をなくするため、従来では、縫い終わり後に、縫製作業者が例えば手鋏み等を用いて縫製生地Wの縫目からはみ出したルーパ糸の切断端部分を切断処理する手作業が行なわれていた。しかし、この場合は、一つの縫製物の縫い終わりの度に糸切断のため面倒な手作業を要し、その分だけ縫製作業効率の低下を招くだけでなく、縫製作業者に対する作業負担が増加し、また縫製作業者の手の自由度が妨げられて生地の操作性が悪化し、更に、手鋏み等によって縫製生地を傷つけやすいといった問題があった。
【0011】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、縫い終わり時にルーパ糸の切断端部分を、手鋏み等を用いて切断するという縫製作業効率の低下、作業負担の増加、生地の操作性の悪化、生地の傷付けなどを招く面倒な手作業を行わなくても、糸の種類に関係なくルーパ糸切断端部分の残り長さを、見栄えが悪化しない程度に短く抑えることができる生地の縫製方法及び二重環縫いミシンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本第1発明に係る生地の縫製方法は、生地を、針板の上面に沿って所定の縫製進行方向に送りながら、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置された複数本の針の上下動により前記針板下に複数の針糸ループを形成すると共に、前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能なルーパの進出により前記複数の針糸ループを捉え、その捉えた複数の針糸ループを前記ルーパが保持するルーパ糸によりルーピングすることにより、前記生地に複数針の二重環縫いの縫目を形成する生地の縫製方法であって、縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記針の並列方向の他側部に配置された糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がるルーパ糸の切断端部分を自由状態とする第1ステップと、前記自由状態のルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させる第2ステップと、前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持する第3ステップと、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置に誘導すると共に、その誘導された設定位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持させる第4ステップと、前記第4ステップに続く前記針及びルーパの回転動作のうち、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近に対する保持を解除する第5ステップと、を有し、第5ステップ以降は、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで所定の縫製を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本第2発明に係る生地の縫製方法は、丸物生地の端縁部を生地の裏面側に折り返し重ね合わせられた重ね合わせ生地部分を、針板の上面に沿って所定の縫製進行方向に送りながら、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置された複数本の針の上下動により前記針板下に複数の針糸ループを形成すると共に、前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能なルーパの進出により前記複数の針糸ループを捉え、その捉えた複数の針糸ループを前記ルーパが保持するルーパ糸によりルーピングすることにより、前記丸物生地の重ね合わせ生地部分の全周に二重環縫いの縫目を形成する生地の縫製方法であって、縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記針の並列方向の他側部に配置された糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がるルーパ糸の切断端部分を自由状態とする第1ステップと、前記自由状態のルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させる第2ステップと、前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持する第3ステップと、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置に誘導すると共に、その誘導された設定位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持させる第4ステップと、前記第4ステップに続く前記針及びルーパの回転動作のうち、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近に対する保持を解除する第5ステップと、を有し、第5ステップ以降は、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで所定の縫製を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本第3発明に係る二重環縫いミシンは、生地をセットし且つ所定の縫製進行方向への送りを案内する針板と、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置され針糸を保持して上下動する複数本の針と、ルーパ糸を保持して前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能で、進出動作時に前記針が針板下に形成する複数の針糸ループを捉えるルーパと、前記針の並列方向の他側部に配置されて縫製後のルーパ糸および針糸を切断する糸切り装置とを備え、前記ルーパの進出動作により捉えた前記複数の針糸ループを、該ルーパが保持するルーパ糸でルーピングすることにより、前記生地に二重環縫いの縫目を形成するように構成された二重環縫いミシンであって、縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がり自由状態となったルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させるルーパ糸の切断端部分の移行手段と、前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持及び保持解除可能なルーパ糸保持手段と、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導するルーパ糸誘導部とこの誘導部により設定位置にまで誘導された前記ルーパ糸の中途部分の抜け移動が縫製進行方向を除き阻止される状態に保持するルーパ糸保持溝部とを有するルーパ糸保持部材と、前記ルーパ糸保持部材にルーパ糸の中途部分が保持された状態で、前記針及びルーパを回転動作させて、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸保持手段による保持を解除するように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段の制御動作後、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで次の生地に対する所定の縫製を行うように構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本第4発明に係る二重環縫いミシンは、丸物生地の端縁部を生地の裏面側に折り返し重ね合わせられた重ね合わせ生地部分をセットし且つ所定の縫製進行方向への送りを案内する針板と、縫製進行方向に略直交する方向に並列配置され針糸を保持して上下動する複数本の針と、ルーパ糸を保持して前記複数本の針の並列方向の一側部と他側部との間に亘って前記縫製進行方向に略直交する方向に進退動作可能で、進出動作時に前記針が針板下に形成する複数の針糸ループを捉えるルーパと、前記針の並列方向の他側部に配置されて縫製後のルーパ糸および針糸を切断する糸切り装置と、を備え、前記ルーパの進出動作により捉えた前記複数の針糸ループを、該ルーパが保持するルーパ糸でルーピングすることにより、前記丸物生地の重ね合わせ生地部分の全周に二重環縫いの縫目を形成するように構成された丸物生地縫製用の二重環縫いミシンであって、縫製終了後で前記ルーパが略進出端に位置している時、前記糸切り装置により切断されて前記ルーパ先端部の糸孔に繋がり自由状態となったルーパ糸の切断端部分を、前記ルーパの縫製進行方向の下手側に向け略縫製進行方向に沿う姿勢となるように移行させるルーパ糸の切断端部分の移行手段と、前記縫製進行方向の下手側に移行された前記ルーパ糸の切断端部分の先端部付近を保持及び保持解除可能なルーパ糸保持手段と、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針及びルーパを少なくとも半回転動作させることにより、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分を前記複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導するルーパ糸誘導部とこの誘導部により設定位置にまで誘導された前記ルーパ糸の中途部分の抜け移動が縫製進行方向を除き阻止される状態に保持するルーパ糸保持溝部とを有するルーパ糸保持部材と、前記ルーパ糸保持部材にルーパ糸の中途部分が保持された状態で、前記針及びルーパを回転動作させて、前記針が上死点近傍かつ前記ルーパが進出端近傍の位置から、前記針が下死点近傍かつ前記ルーパが退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、前記ルーパ糸保持手段による保持を解除するように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段の制御動作後、前記ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで次の生地に対する所定の縫製を行うように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記のごとき特徴を有する本第1〜第4発明に係る生地の縫製方法及び二重環縫いミシンによれば、所定の縫製動作後(縫い終わり後)に複数本の針の並列方向の他側部(針落ち位置の右側寄り外部位置)で糸切り装置により切断されルーパ先端部の糸孔に繋がり自由状態となったルーパ糸の切断端部分を、ルーパの縫製進行方向の下手側に向けて略縫製進行方向に沿う姿勢に移行させると共に、その移行されたルーパ糸の切断端部分の先端部付近を移行位置に保持させ、次いで空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するための針及びルーパを少なくとも半回転動作させることで、先端部が保持されている前記ルーパ糸の中途部分を複数本の針のうち、並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導し、その誘導位置においてルーパ糸の中途部分を縫製進行方向を除く方向への抜け移動を阻止する状態に保持させ、続く前記針及びルーパの回転動作のうち、針が上死点近傍から下死点近傍の位置に達し、かつ、ルーパが進出端近傍の位置から退入端近傍の位置に達するまでの間の回転動作範囲内の設定動作位置において、ルーパ糸の切断端部分の先端部付近に対する保持を解除し、その後、ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで次の生地に対する所定の縫製を行うといったように、ルーパ糸の切断端部分の先端部付近の保持を次の生地に対する縫製動作前の段階で解除することにより、当該ルーパ糸の切断端部分の長さ、つまり、ルーパ糸の糸残りを可及的に短くすることが可能である。また、そのルーパ糸の切断端部分を前記誘導保持位置から順次縫製進行方向に抜け移動させることにより、ルーパ糸端を所定の縫製動作時に並列方向の両端針が形成する左右の針糸部の近傍部間を結ぶ範囲のうちで最も大きくなる左右の針糸部の外側間を結ぶ範囲内、つまりは、次の縫製動作により形成される縫目の略幅内の位置に留めることが可能となる。
【0017】
以上のように、糸切り装置で切断されたルーパ糸の切断端部分の残り長さを可及的に短くしかつその糸端を縫目の略幅内の位置に留めることができるので、ルーパ糸として切断によって複数の極細フィメントにばらけるような種類のルーパ糸を用いる場合であっても、複数にばらけた極細フィラメントを含めてルーパ糸の切断端部分の先端部が縫目の外側へ大きくはみ出したり、生地面から立ち上がったりして見栄えを悪化し、仕上がり不良を生じることを抑制することができる。従って、縫い終わり後あるいは次の生地の縫い始め前に、縫製作業者が、例えば手鋏み等を用いてルーパ糸の切断端部分を短く切断処理するという面倒で手間のかかる手作業を行なう必要がなくなり、その分だけ縫製作業効率の向上を図ることができるとともに、縫製作業者に対する作業負担を軽減でき、かつ、縫製作業者の手の自由度が増すことから、生地の操作性を良くして縫製仕上りの向上も図ることができ、また、手挟み等によって縫製生地を傷つけることもないため、縫製品の見栄え、品質向上を図ることができるといった効果を奏する。
【0018】
殊に、本第2発明及び第4発明のように、丸物生地を縫製対象として裾引き縫いを行う場合は、縫い始め部分と縫い終わり部分とを少し重ね縫いするが、この際、縫い始め部分の縫目から外側へ髭状にはみ出す前縫製後の所定長さのルーパ糸の切断端部分を並列方向の両端針それぞれの近傍部間を結ぶ範囲内の設定位置にまで誘導し保持して該誘導保持位置から順次縫製進行方向に抜け移動させることにより、該ルーパ糸の切断端部分を短い長さで、かつ、その糸端が縫目の略幅内に留まるように処理することができるので、縫製途中で一旦縫製動作を中断して手鋏み等を用いてルーパ糸の切断端部分を短く切断し、その後、縫製動作を再開して重ね縫いを行うといった面倒かつ手数のかかる作業が必要でなくなり、縫い終わり箇所の重ね縫いを含めて丸物生地全周の裾引き縫いを連続して一気に行うことができ、ルーパ糸処理のための時間ロスもないことから丸物生地の裾引き縫製作業を非常に効率よく行うことができる。
【0019】
第1発明及び本第2発明に係る生地の縫製方法において、前記第5ステップ以降におけるルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで行う所定の縫製のうち、縫い始め部分の生地の送り量は、通常縫製時の生地の送り量よりも小さく設定されていることが好ましい。
この場合は、ルーパ糸の切断端部分を自由状態としたままで所定の縫製を行う際の生地送り量が通常時よりも小さいために、ルーパ糸の切断端部分の先端が並列方向の両端針間で複雑に絡み合った形態の縫目中に位置されることになり、糸残り端が針糸部の左右にはみ出すことを抑制し、見栄えを一層向上することができる。
【0020】
また、第1発明及び本第2発明に係る生地の縫製方法において、前記第4ステップにおいて、前記先端部付近が保持されているルーパ糸の中途部分は前記複数本の針のうち、並列方向の両端針間の位置に誘導されると共に、その誘導された位置から前記ルーパ糸の中途部分の移動が縫製進行方向を除き阻止された状態に保持されることが好ましい。
この場合は、ルーパ糸の中途部分が該ルーパ糸の先端部付近の保持解除に伴い順次縫製進行方向に抜け移動される位置が並列方向の両端針間であるために、短いルーパ糸をその糸端が次の縫製動作により形成される縫目の幅内の位置に確実に留めて縫目の外側方へのはみ出しがほぼ発生することがないように処理することができる。
【0021】
また、本第3発明及び第4発明に係る二重環縫いミシンにおいて、前記ルーパ糸の切断端部分の移行手段は、エア噴出ノズルであり、このエア噴出ノズルと前記ルーパ糸保持手段との間には、前記エア噴出ノズルから噴出されるエアにより吹き飛ばされるルーパ糸の切断端部分を略縫製進行方向に沿う略水平姿勢に矯正しながら通過させる通路を有するルーパ糸案内部材が設けられていることが好ましい。
この場合は、ルーパ糸の切断端部分を前記ノズルから噴出されるエアにより吹き飛ばすため、糸の種類にかかわらず確実にルーパの縫製進行方向の下手側に移行させることができると共に、エア噴出ノズルを固定位置に設置すればよくて可動部が不要であるため、構造が簡単であり、かつ、スペースも小さくて済み、ミシンベッド内部に設置するのに好適である。加えて、エアにより吹き飛ばされるルーパ糸の切断端部分をルーパ糸案内部材の通路に誘導通過させることにより、ふらつきやすいルーパ糸の切断端部分を所定どおり略縫製進行方向に沿う水平姿勢に確実に矯正することができる。
【0022】
また、本第3発明及び第4発明に係る二重環縫いミシンとしては、丸物生地端部の裾引き縫いに適用される2本針型式の横筒形二重環縫いミシンであっても、2本針型式の平ベッド形二重環縫いミシンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る2本針型式の横筒形二重環縫いミシン全体のうち、ミシンベッド部の上面部分を取り除いた状態の斜視図である。
図2】同上2本針型式の横筒形二重環縫いミシンのミシンアーム部を切除した状態の要部の斜視図である。
図3】同上2本針型式の横筒形二重環縫いミシンの糸切り装置が退避位置に後退された状態を示し、(A)は要部の平面図であり、(B)は図3(A)のIII−III線に沿った縦断面図である。
図4】同上糸切り装置が進出位置に進出され、可動メスが最も左方にまで往行駆動移動された状態を示し、(A)は要部の平面図であり、(B)は図4(A)のIV−IV線に沿った縦断面図である。
図5】同上糸切り装置における往復駆動移動機構の構成を説明する分解斜視図である。
図6】二重環縫いの縫目構造の一例を縫製生地裏面から見た図である。
図7】二重環縫いの縫目構造の他の例を縫製生地裏面から見た図である。
図8】二重環縫いの縫目構造の別の例を縫製生地裏面から見た図である。
図9】二重環縫いの縫目構造のもう一つの例を縫製生地裏面から見た図である。
図10】丸物生地の裾引き縫いの状態を示す外観斜視図である。
図11】縫製終了後で糸切りが完了した直後の状態を示す要部の拡大斜視図である。
図12】ルーパ糸切断端部分をルーパの縫製進行方向の下手側に移行させる状態を示す要部の拡大斜視図である。
図13】ルーパの縫製進行方向の下手側に移行されたルーパ糸切断端部分の先端端部付近を挟み保持した状態を示す要部の拡大斜視図である。
図14図13と同じ状態を示し、(A)は縫製進行方向から見た要部の拡大斜視図、(B)は図14(A)のV−V線矢視図である。
図15】ルーパ糸切断端部分の中途部分が左右の針間に誘導される状態を示し、(A)は縫製進行方向から見た要部の拡大斜視図、(B)は図15(A)のVI−VI線矢視図である。
図16】ルーパ糸切断端部分の中途部分が左右の針間に誘導されて保持溝部内に入り込んだ状態を示し、(A)は縫製進行方向から見た要部の拡大斜視図、(B)は図16(A)のVII−VII線矢視図である。
図17】ルーパが針落ち付近にまで進出した状態を示し、(A)縫製進行方向から見た要部の拡大斜視図、(B)は図17(A)のVIII−VIII線矢視図である。
図18図14の状態からミシンが1回転作動してルーパが進出端付近に達した状態を示す要部の斜視図である。
図19図18の状態から更にミシンが1回転作動してルーパが進出端付近に達した状態及びそのときの縫目を示す要部の斜視図である。
図20図19の状態から更にミシンが1回転作動してルーパが進出端付近に達した状態及びそのときの縫目を示す要部の斜視図である。
図21】従来の二重環縫いミシンの糸切り装置全体が進出位置に進出した状態を示し、(A)は要部の平面図、(B)は図21のIX−IX線に沿った縦断面図である。
図22】(a)〜(f)は従来の二重環縫いミシンの糸切り装置の糸切り動作を順番に示す要部の斜視図である。
図23】従来の二重環縫いの縫目構造の例を縫製生地裏面から見た図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。なお、本実施の形態において従来の二重環縫いミシンと同一の構成要素には同一の符号を付して説明する。
図1は本発明に係る2本針型式の横筒形二重環縫いミシン全体のうち、ミシンベッド部の上面部分を取り除いた状態の斜視図、図2は同2本針型式の横筒形二重環縫いミシンのミシンアーム部を切除した状態の要部の斜視図である。
【0025】
上記2本針型式の横筒形二重環縫いミシンMは、ミシン本体20の上部及び下部から左側方に向けてミシンアーム部21とミシンベッド部22とが互いに略平行に延設されている。ミシンアーム部21の内部には、ミシン主軸、縫製進行方向に対して略直交する方向に並列配置された左右2本の針1a,1b(図3図4参照)を上下に往復運動させる針駆動機構、布押え(図示省略)を上下に往復運動させる押え駆動機構やそれら各駆動機構への動力伝達機構等が組み込まれているが、それら駆動機構や動力伝達機構は周知のため、説明を省略する。
【0026】
ミシンベッド部22の上面部には、針落ち位置を形成する針落ち溝部を有する針板2が固定されており、この針板2の下方部のミシンベッド部22内には、ルーパ糸LTを保持して前記針1a,1bの上下往複運動経路に略直交する左右方向に進退動作するルーパ3、糸切り装置4及び該糸切り装置4の固定メス6の刃縁部6eが、図4(A),(B)に示すように、前記針板2及びルーパ3に対して近接する位置で後述するストッパー部材33に後述する当たり部材34が当接する左前方への進出位置P1と、図3(A),(B)に示すように、前記進出位置P1よりも右後方の退避位置P2との間に亘って往復駆動移動させると共に、糸切り装置4が前記進出位置P1に移動された状態において後述する可動メス5のみを針落ち位置の一側(右側)寄り外部位置と他側(左側)寄り外部位置との間に亘ってx−y方向に直線的に往復駆動移動させる往復駆動移動機構9等が組み込まれている。
【0027】
上記構成の2本針型式の二重環縫いミシンMは、前記針1a,1bが針板2下に形成する針糸ループNTa’,NTb’を前記ルーパ3が保持するルーパ糸LTでルーピングすることにより、図6図9に示すように、縫製生地Wに所定長さの二重環縫い縫目Aを形成する。
【0028】
前記糸切り装置4は、該糸切り装置4が前記往復駆動移動機構9を介して前記針板2及びルーパ3に対して近接した前記進出位置P1と該進出位置P1よりも右後方の退避位置P2との間に亘って往復駆動移動可能に構成されている。そして、糸切り装置4は、所定の縫製動作終了後、つまり、縫い終わり時に前記縫製生地Wの裏面側に突出する左右の針糸部NTa1,NTb1及びルーパ糸部LT1を切断する糸切断用の可動メス5と、前記進出位置P1において前記左右の針1a,1bのうち右針1bの上下往複運動経路内に入らない範囲で針落ち位置に最も接近する位置に刃部6eが配置される固定メス6とを有している。また、図21に示す従来の二重環縫いミシンが備えていた板バネ製のルーパ糸挟み部材7及び該ルーパ糸挟み部材7の挟み保持力調整用の糸挟み補助バネ8も備えているが、これらルーパ糸挟み部材7及び糸挟み補助バネ8は、切断後のルーパ糸LT1の切断端部分LT2を挟み保持しない位置に移動させている。そのため、縫製終了後に糸切り装置4により切断されたルーパ糸LT1の切断端部分LT2は、図11に示すように、ルーパ3先端部の糸孔3aに繋がり自由状態となって垂れ下がる。なお、前記ルーパ糸挟み部材7及び糸挟み補助バネ8は、ルーパ糸切断端部分LT2を挟み保持しない位置に移動されるものの、ルーパ糸切断を確実なものとするために、可動メス5を固定メス6に弾性的に加圧する状態は維持できる位置に移動される。
【0029】
前記可動メス5は、左右方向に長い帯状板材から構成され、この長い帯状板材からなる可動メス5の先端寄り側縁部には、従来と同様に、該可動メス5が前記針落ち位置の他側寄り外部位置から一側寄り外部位置に向けて復行駆動移動される時に、前記縫製生地Wの裏面側に突出するルーパ糸部LT1を引掛けて捕捉するルーパ糸捕捉部10が形成されていると共に、該ルーパ糸捕捉部10よりも前記可動メス5の基端寄りの側縁部に該可動メス5が前記針落ち位置の他側寄り外部位置から一側寄り外部位置に向けて復行駆動移動される時に、前記縫製生地Wの裏面側に突出する左右の針糸部NTa1,NTb1を順次引掛けて捕捉する針糸捕捉部11が形成されており、該可動メス5が前記進出位置P1である針落ち位置の一側(右側)寄り外部位置から他側(左側)寄り外部位置に向けて復行駆動移動される時に、前記針糸捕捉部11に捕捉され右左の針糸部NTb1、NTa1及び前記ルーパ糸捕捉部10に捕捉されたルーパ糸部LT1を前記針落ち位置の一側(右側)寄り外部位置よりも他側(右側)寄り位置にまで移動させて前記針糸捕捉部11及びルーパ糸捕捉部10と前記固定刃6の刃縁部6eとの摺接によりそれぞれ切断するように構成されている。
【0030】
前記糸切り装置4を、前記進出位置P1と前記退避位置P2との間に亘って往復駆動移動させると共に、糸切り装置4が前記進出位置P1に移動された状態において前記可動メス5のみを針落ち位置の一側(右側)寄り外部位置と他側(左側)寄り外部位置との間に亘ってx−y方向に直線的に往復駆動移動させる往復駆動移動機構9は、図3(A),(B)、図4(A),(B)及び図5に示すように構成されている。
即ち、前記可動メス5は、その右端部下面を、ネジ23を介して可動メス台24に固定されている。この可動メス台24の長手方向(左右方向)の略中央部にはU字状の切欠部25が形成されていると共に、この切欠部25を挟んだ左右位置には可動メス台24の長手方向に沿って長い左右一対のスリット26a,26bが形成されている。
【0031】
前記固定メス6は、前記可動メス5の上面に配置されており、該固定メス6の右端部下面には、メス台ガイド27が重合配置されており、これら固定メス6及びメス台ガイド27がネジ28を介して固定メス台29の左端部に固定されている。前記可動メス台24は、前記固定メス台29の裏面(下面)に挿通される頭付きボルト48と左右一対のリンク40a,40bの一端部にその上面側から挿入されるツバ付き円柱状ナット31a,31bとにより、前記ツバ付き円柱状ナット31a,31bが前記左右一対のリンク40a,40bの一端部の回動を許容する状態で、かつ、前記可動メス台24における左右一対のスリット26a,26bの長さ範囲内で摺動移動可能な状態に挟持されている。
【0032】
前記左右一対のリンク40a,40bの他端部は、その上面側から挿入されて左右一対のリンク40a,40bの他端部内での回動を許容するツバ付きスリーブ41a,41bを皿ネジ42a,42bを介して装置取付台30にネジ止めされており、これによって、前記可動メス台24及び固定メス台29は、左右一対のリンク40a,40bの揺動運動に伴い、左右方向に往復移動可能な状態で装置取付台30に支持されている。
なお、ツバ付きスリーブ41a,41bのうち、右側のツバ付きスリーブ41bは、右側のリンク40bの両端穴のピッチを変更することで、左側のリンク40aのツバ付きスリーブ41aを支点として糸切り装置4の前記進出位置P1における可動メス5の針落ち部及びルーパ3に対する縫製進行方向での進出移動起点の位置を微調整可能とするべくエキセンカム状に形成されている。
【0033】
前記固定メス台29には、左右一対のリンク40a,40bのうち左側のリンク40aの下方位置において前記装置取付台30にネジ止めされたストッパー部材33に当接する当たり部材34が形成されている。
【0034】
また、前記固定メス台29の長手方向中央部の後部には、前記可動メス台24の左端より少し右寄り位置から後方に突出された突起35に当接離間する係合突起36が形成されており、この係合突起36が前記突起35に当接することにより、可動メス台24が単独でそれ以上右方向へ移動できないように構成されている。更に、前記可動メス台24は、前記装置取付台30にネジ止めされ、かつ、一端部が前記当たり部材34の右端面に弾接されたバネ37を介して前記固定メス台29と共に常に左方向へ弾性付勢されている。
【0035】
前記装置取付台30には、前記固定メス台29が左右方向に摺動自在に嵌入する溝46が形成されており、周囲に配置した複数個のネジ47を介してミシンベッド部22に固定されている。また、装置取付台30には、エアシリンダ(図示省略)のピストン48の先端部に段付きネジ43を介して枢支連結されて、装置取付台30に軸44を中心として矢印a−b方向に駆動揺動可能な駆動レバー45が取り付けられており、この駆動レバー45の先端の先細円形部45aが前記可動メス台24の略中央部に形成のU字状の切欠部25に係合されている。
【0036】
上記のように構成された往復駆動移動機構9によれば、図3(A),(B)に示すように、ピストン48の伸長により駆動レバー45がb方向に駆動揺動されている時、糸切り装置4は前記固定メス台29の当たり部材34がバネ37で左方に弾性付勢されているために、前記可動メス台24が右方に移動して係合突起36と当接した状態となり、さらに前記バネ37の弾性付勢力に抗して右方に移動し、左右一対のリンク40,41の円柱状ナット31a,31bは左右一対のスリット26a,26b内の最も左側に寄った状態に移動し、固定メス台29の当たり部材34の左端面はストッパー部材33から離間している。この状態において、糸切り装置4は、退避位置P2にあり、ルーパ3の移動を妨げないような傾斜姿勢で待機している。
【0037】
次に、図4(A),(B)に示すように、前記ピストン48の収縮により駆動レバー45がa方向に駆動揺動されると、固定メス台29の当たり部材34がバネ37の弾性付勢力と相俟って左方に移動する。これに伴って、前記係合突起36と突起35とが当接したまま糸切り装置4が左右一対のリンク40,41の揺動により前記傾斜姿勢の傾斜角度を減じながら、固定メス台29の当たり部材34の左端面がストッパー部材33に当接するまで左方へ移動する。これによって、糸切り装置4が、進出位置P1にまで移動し、縫い進行方向に対して略直交した姿勢となる。
【0038】
この状態からピストン48が更に収縮して前記駆動レバー45がa方向に駆動揺動されると、固定メス台29を前記進出位置P1に残したまま、前記固定メス台29の前記係合突起36と前記可動メス台24の前記突起35とが離間し、前記可動メス台24が針板2の針落ち位置を通過して左方向(x方向)に移動する。すなわち、可動メス台24に固定された可動メス5のみが針板3とルーパ3との間を左進(往行移動)する。このとき、前記可動メス台24及び固定メス台29は、左右一対のリンク40a,40bの揺動運動に伴い、左右方向に往復移動可能な状態で装置取付台30に支持されているので、可動メス5は左右一対のリンク40,41により直線的に移動されるように制御される。
【0039】
次いで、ピストン48が伸長されることにより、前記駆動レバー45がb方向に駆動揺動され、これに伴って、可動メス5が最も左進した位置より右方向(y方向)に移動して前記進出位置P1で待機中の固定メス6の下部にまで右退(復行移動)する。この状態から更にピストン48が収縮することにより、糸切り装置4は、図3(A),(B)に示す退避位置P2に後退移動される。
【0040】
以上に説明した構成及び装置の他に、本実施の形態の二重環縫いミシンMは、前記ルーパ3の縫製進行方向Hの上手側の位置に配置されるエア噴出ノズル50と、前記ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側で前記エア噴出ノズル50に対向する位置に配置される開閉式糸挟み機構60と、前記ルーパ3の進退動作経路の上方で前記エア噴出ノズル50と前記開閉式糸挟み機構60との間に配置されるルーパ糸案内部材70と、前記ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側で前記開閉式糸挟み機構60よりもルーパ3の退入側寄りの位置に配置されるルーパ糸保持部材80と、前記開閉式糸挟み機構60の開閉動作を制御する制御手段と、を備えている。
【0041】
上記の各構成要素のうち、エア噴出ノズル50、開閉式糸挟み機構60、ルーパ糸案内部材70及びルーパ糸保持部材80は、それぞれミシンベッド部22の内部に収容配置されている。ただし、これら構成要素と既述した往復駆動移動機構9の各構成部との重なり等による複雑化を避けるために、これら各構成要素の図1及び図2への記載は省略する。前記制御手段は、二重環縫いミシン全体の動作を制御するための制御部(図示省略)に組み込まれている。
【0042】
前記エア噴出ノズル50は、縫製終了後で前記ルーパ3が略進出端に位置している時、前記糸切り装置4により切断されて、図11に示すように、前記ルーパ3先端部の糸孔3aに繋がり自由状態となって垂れ下がるルーパ糸部LT1の切断端部分LT2(以下の説明では、ルーパ糸切断端部分LT2と記載する)に向けてエアを噴出することにより、図12に示すように、前記ルーパ糸部切断端部分LT2を前記ルーパ3の上方部を通して該ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側に向けて吹き飛ばし移行させるルーパ糸移行手段として機能する。
【0043】
前記開閉式糸挟み機構60は、固定挟み片61とエアシリンダ(図示省略)を介して前記固定挟み片61に対し遠近移動するスライダ片62とにより開閉自在に構成されており、前記ノズル50から噴出されるエアにより前記ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側に吹き飛ばし移行された前記ルーパ糸切断端部分LT2の先端部付近を、図13に示すように、前記固定挟み片61と前記スライダ片62との閉動作により一時的に挟み保持し、かつ、前記固定挟み片61と前記スライダ片62とが開動作することにより前記ルーパ糸切断端部分LT2の先端部付近の挟み保持を解除するルーパ糸一時挟み保持手段として機能する。
【0044】
なお、ルーパ糸一時挟み保持手段としては、上記した開閉式糸挟み機構60のように、固定挟み片61とスライド片62との開閉動作によりルーパ糸切断端部分LT2を強制的に挟み保持及び挟み保持解除可能に構成されたものに限らず、固定挟み片61とスライド片62とによりルーパ糸切断端部分LT2を、バネ等の弾性力により挟み保持し、該ルーパ糸切断端部分LT2が次の生地の縫い始め部分の縫目に引っ張られたときに、前記バネ等の弾性力に抗して挟み保持位置から抜け出て挟み保持解除されるように構成されたものも含む。
【0045】
前記ルーパ糸案内部材70は、前記ノズル60から噴出されるエアにより前記ルーパ3の上方部を越えて吹き飛ばされる前記ルーパ糸切断端部分TL2を、図12に示すように、略縫製進行方向Hに沿う略水平姿勢に矯正しながら通過させる通路71を有する。このルーパ糸案内部材70における通路71の上面板部72は、前記ルーパ糸切断端部分LT2が通路71内を通過して略縫製方向Hに沿う略水平姿勢に矯正されたか否かを目視確認できるような透明窓に形成されている。また、ルーパ糸案内部材70における通路71の右壁部74には、前記ルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aが前記ルーパ糸保持部材80に向けて誘導される時、前記開閉式糸挟み機構60により挟み保持された先端部の近傍部分を縫製進行方向Hの下手側へスライド案内するルーパ糸スライド溝73が形成されている{図14(B)〜図17(B)参照}。
【0046】
前記ルーパ糸保持部材80は、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するために前記針1a,1b及びルーパ3を半回転動作させることにより、前記開閉式糸挟み機構60に先端部付近が挟み保持されているルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aを、図15(A)及び図16(A)に示すように、前記左右の針1a,1b間の略中央位置にまで誘導するルーパ糸誘導部81と、この誘導部81により前記左右の針1a,1b間の略中央位置にまで誘導された前記ルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aを、図16図19に示すように、縫製進行方向Hを除く他の方向への抜け移動が阻止される状態に保持するルーパ糸保持溝部82と、を有する。
【0047】
より具体的に説明すると、前記ルーパ糸保持部材80は、縫製進行方向Hから見たとき、全体が略横向きV字形状の板状部材からなり、そのV字状の開放部がルーパ糸中途部分LT2aの受入れ案内部83に形成されている。前記ルーパ糸誘導部81は、前記受入れ案内部83の上辺に沿い前記ルーパ3の進出端側が最も高く位置し、前記ルーパ糸保持溝部82の入口に向けて漸次低く位置する傾斜縁から形成されており、前記ルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aをその傾斜縁からなる誘導部81に摺接させる状態で前記左右の針1a,1b間の略中央位置まで誘導して前記ルーパ糸保持溝部82に落し込み保持させるように構成されている。
【0048】
上記したルーパ糸保持部材80は、前記左右の針1a,1bのふらつきを防ぐように、ミシンベッド部22内に設けられている縫製進行方向Hの前後一対の針受け(図示省略)のうち、縫製進行方向Hの前(下手)側の針受けホルダー90に固定されており、かかるルーパ糸保持部材80のルーパ糸保持溝部82にルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aが保持された状態で、前記制御手段を介して針1a,1b及びルーパ3を略一回転動作させる時に、前記開閉式糸挟み機構60による挟み保持を解除し、その後、次の生地部分に対して二重環縫いの縫目Aを形成するように制御動作することにより、前記ルーパ糸切断端部分LT2をその先端(糸端)が次の生地部分の二重環縫いの縫目Aの略幅内の位置に留まる状態に処理されるように構成されている。
【0049】
次に、上記のように構成された本実施の形態に係る2本針型式の横筒形二重環縫いミシンMを用いて、Tシャツの裾部など丸物生地Wの裾引き縫いを行う縫製動作について、図10乃至図20を参照しながら説明する。
【0050】
まず、図10に示すように、丸物生地Wの裾部で、生地端縁部を生地裏面側に折返して重ね合わせた重ね合わせ生地部分を針板2上にセットしたのち、該丸物生地Wの重ね合わせ生地部分を所定の縫製進行方向Hに向けて送り案内するとともに、ミシンMの回転作動を開始する。このミシンMの回転作動に伴う左右の針1a,1bの上昇下降動作、ルーパ3の進退動作、丸物生地Wの送り作用により、図22(a)〜(e)に示すと同様な工程を経て、丸物生地Wの重ね合わせ生地部分の全周に二重環縫いの縫目Aを形成する裾引き縫いが行われる。
【0051】
上記の縫製(裾引き縫い)終了後において、針糸部NTa1、NTb1及びルーパ糸部LT1は糸切り装置4により切断される。このとき、その切断位置が、針1a,1bの上下往複運動経路内に入らないように針落ち位置から離れた位置であって、右針1bよりも更に右側外部位置であるために、切断後における左右の針糸部NTa1,NTb1及びルーパ糸部LT1の切断端部分LT2は所定の糸残り長さとなる。
【0052】
上記切断後、切断された左右の針糸部NTa1,NTb1は縫目Aの幅内で上方部に持ち上げられ、次の生地の縫い始め部分に適宜な糸残り長さで縫目Aを形成する。一方、切断されて所定の長さで残っているルーパ糸切断端部分LT2は、そのままでは縫目Aの外方に髭状に大きくはみ出すことになる。そこで、このルーパ糸切断端部分LT2を短い糸残り長さとして、次の生地の縫い始め部分に形成される二重環縫いの縫目の略幅内の位置に見栄え良く留めるように処理するために以下に説明するようなステップ動作が行われる。
【0053】
第1ステップ:まず、切断されたルーパ糸切断端部分LT2を、従来のように、その先端部が針落ち位置から離れて右針1bよりも更に右側外部位置で可動メス5とルーパ糸挟み部材との間に挟み保持させることなく、図11に示すように、略進出端に位置している前記ルーパ3先端部の糸孔3aに繋がる自由状態として左針1aの位置よりも左方へ離れた位置で垂れ下がらせる。
【0054】
第2ステップ:次に、前記開閉式糸挟み機構60の固定挟み片61とスライダ片62とを開動作させた状態で、前記エア噴出ノズル50から前記ルーパ糸切断端部分LT2に向けてエアを噴出することにより、図12に示すように、前記ルーパ糸切断端部分LT2を前記ルーパ3の上方部を通して該ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側に向けて吹き飛ばし移行させる。このとき、前記ノズル50からの噴出エアにより前記ルーパ3の上方部を越えて吹き飛ばされる前記ルーパ糸切断端部分TL2を前記ルーパ糸案内部材70の通路71に案内し該通路71内を通過させることによって、ルーパ糸切断端部分LT2は、略縫製進行方向Hに沿う略水平姿勢に矯正される。
【0055】
第3ステップ:続いて、前記ノズル50からのエア噴出を停止すると同時に、前記開閉式糸挟み機構60のスライダ片62を固定片61側にスライドさせて両片62,61を閉動作させることにより、図13及び図14に示すように、前記ルーパ糸切断端部分LT2の先端部付近を挟み保持する。
【0056】
第4ステップ:この状態で、空環を形成する又は次の生地に縫目を形成するためにミシンMの作動に伴い前記針1a,1b及びルーパ3を半回転動作させることにより、図15(A)に示すように、先端部付近が前記開閉式糸挟み機構60により挟み保持されているルーパ糸LT1の中途部分LT2aは、ルーパ3の後退移動につれて前記ルーパ糸保持部材80の受入れ案内部83に受け入れられたのち、傾斜縁からなる誘導部81に摺接される状態で前記左右の針1a,1b間の略中央位置に向けて誘導される。これと同時に、前記開閉式糸挟み機構60により挟み保持された先端部の近傍部分は、図15(B)に示すように、ルーパ糸スライド溝73内を縫製進行方向Hの下手側へ向けてスライド案内される。この状態が続くことにより、前記左右の針1a,1b間の略中央位置まで誘導されたルーパ糸中途部分LT2は、図16(A)に示すように、前記ルーパ糸保持溝部82に落し込み保持されると共に、前記開閉式糸挟み機構60により挟み保持された先端部の近傍部分は、図16(B)に示すように、ルーパ糸スライド溝73内の最奥端部(縫製進行方向Hの最下手部)に移動される。
【0057】
第5ステップ:続いて、ミシンMの作動に伴い左右の針1a,1b及びルーパ3を回転動作させ、ルーパ3が針落ち付近(左右の針1a,1bの中間部付近)にまで達すると、図17に示すように、ルーパ3が該ルーパ3先端部の糸孔3aに近いルーパ糸部分を上方へ押し上げながら針1a,1bの後側を進出する。そして、ミシンMの続く作動により左右の針1a,1b及びルーパ3が回転動作してルーパ3が進出端に達する前の進出端近傍の位置から、前記進出端で反転後にほぼ半回転して退入端近傍の位置に達するまでの間の設定動作位置において、図18に示すように、前記開閉式糸挟み機構60のスライダ片62を固定片61から離れる側にスライドさせ両片62,61を開動作させて、前記ルーパ糸切断端部分LT2の先端部付近の挟み保持を解除する。
【0058】
上記第5ステップ以降は、前記左右の針1a,1b及びルーパ3を回転動作させることにより、次の生地に対して二重環縫い縫目Aを形成する所定の縫製を行うが、前記ルーパ糸切断端部分LT2はかかる所定の縫製動作前の段階で挟み保持が解除されるために、ルーパ糸切断端部分LT2は、縫い始めの縫目構成のルーパ糸として使用されていくので、その長さ、つまり、ルーパ糸の糸残りは短くなる。また、前記ルーパ糸切断端部分LT2は、その中途部分LT2aが前記ルーパ糸保持部材80の前記ルーパ糸保持溝部82を抜け移動して自由状態となり、一針目の縫製動作後は、その短いルーパ糸切断端部分LT2の糸端LTeが、例えば図19に示すように、縫い始め箇所の縫目Aの幅内に位置される。
【0059】
その後も次の生地に対する所定の縫製が続けられ、二針目及びそれ以降の縫製動作後においても、前記短いルーパ糸切断端部分LT2はその糸端LTeが、例えば図20に示すように、縫い始め箇所の縫目Aの幅内に位置されたままの状態にある。
【0060】
上記第1ステップ〜第5ステップ及び第5ステップ以降の動作により次の生地に対する縫製が完了した二重環縫いの縫目Aとしては、図6図9に示すような構造形態となる。これら図6図9に示すいずれの構造形態の縫目Aであっても、ルーパ糸切断端部分LT2の長さ、つまり、ルーパ糸の糸残りは短いため、その糸端LTeが縫目Aの左右どちらにも大きくはみ出すことがない。
【0061】
図6図9に示す構造形態の縫目Aを詳細に観察したところ、ルーパ糸切断端部分LT2の糸端LTeが、図7図8に示すように、右又は左の針糸部の外側にはみ出すことはあるものの、そのはみ出し量は極く僅かにとどまっており、ルーパ糸切断端部分LT2が左右の針糸部の外方に向けて大きくはみ出したり、生地面から立ち上がったりすることに伴い視覚的に見栄えが悪化しない程度に仕舞い処理することができる。
【0062】
特に、前記第5ステップ以降において、ルーパ糸切断端部分LT2を自由状態としたままで行う所定の縫製のうち、縫い始めの少なくとも一ないし三針程度の生地Wの送り量を、それ以降の通常縫製時の生地の送り量よりも小さく設定することにより、左右の針糸部のピッチが小さくなり、ルーパ糸切断端部分LT2が次の生地の縫目Aを形成するルーパ糸や針糸で押えられる状態になるため、ルーパ糸の糸端LTeが針糸部の左右にはみ出すことを抑制し、見栄えを一層向上することができる。
【0063】
以上のように、糸切り装置4により切断されたルーパ糸切断端部分LT2の残り長さを可及的に短くしかつその糸端を縫目Aの略幅内の位置に留めることができるので、ルーパ糸として切断によって複数の極細フィメントにばらけるような種類のルーパ糸を用いる場合であっても、複数にばらけた極細フィラメントを含めてルーパ糸切断端部分LT2の先端部(糸端)が縫目Aの外側へ大きくはみ出したり、生地面から立ち上がったりして見栄えを悪化し、仕上がり不良を生じることを抑制することができる。
【0064】
従って、縫い終わり後あるいは次の生地の縫い始め前に、縫製作業者が、例えば手鋏み等を用いてルーパ糸の切断端部分LT2を短く切断処理するという面倒で手間のかかる手作業を行なう必要がなくなり、その分だけ縫製作業効率の向上を図ることができるとともに、縫製作業者に対する作業負担を軽減でき、かつ、縫製作業者の手の自由度が増すことから、生地の操作性も良くなって縫製仕上りの向上も図ることができ、また、手鋏み等によって縫製生地Wを傷つけることもないため、縫製品の見栄え、品質向上を図ることができる
【0065】
特に、本実施の形態のように、丸物生地Wを縫製対象として裾引き縫いを行う場合には、縫い始め部分と縫い終わり部分とを少し重ね縫いするが、この際、縫い始めの1針目に生地Wの裏面に髭状にはみ出すルーパ糸切断端部分LT2を上記第1〜第5ステップ以降の動作により次の生地の縫い始め部分の縫目Aの略幅内の位置に留めることが可能であるため、縫製途中で縫製動作を一旦、中断し鋏等を持って人手で短く切断処理した後に縫製動作を再開し重ね縫いをする必要がない。従って、縫い終わり部分の重ね縫いを含めて丸物生地W全周の裾引き縫いを一気に連続して行うことができ、長く残るルーパ糸切断端部分LT2の処理のための時間ロスをなくして、縫製作業効率の一層の向上を図ることができ、かつ、体裁、見栄えよい仕上がり具合を得ることができる。
【0066】
なお、上記実施の形態においては、ルーパ糸切断端部分LT2を、ルーパ3の縫製進行方向Hの下手側に移行させる移行手段として、構造的に簡単でスペースを採らないエア噴出ノズルを用いたが、これに限らず、ルーパ糸切断端部分LT2を挟持する挟持具を設け、この挟持具をルーパ3の縫製進行方向Hの下手側に移動させることでルーパ糸切断端部分LT2を移行させるようにしてもよい。
【0067】
また、前記開閉式糸挟み機構60の両片62,61を開動作させて、前記ルーパ糸切断端部分LT2の先端部付近の挟み保持を解除する動作位置としては、ルーパ3が進出端に達する前の進出端近傍の位置から、前記進出端で反転後にほぼ半回転して退入端近傍の位置に達するまでの間のどこに設定してもよいが、該動作位置をルーパ3の進出端近傍の位置に設定するほどルーパ糸の糸残りを短くすることが可能である。
【0068】
また、上記実施の形態においては、ルーパ糸保持部材80として、縫製進行方向Hから見たとき、全体が略横向きV字形状の板状部材からなり、そのV字状の開放部がルーパ糸中途部分LT2aの受入れ案内部83に形成されているとともに。誘導部81が前記受入れ案内部83の上辺に沿い前記ルーパ3の進出端側が最も高く位置し、前記ルーパ糸保持溝部82の入口に向けて漸次低く位置する傾斜縁から形成されたもので説明したが、これ以外に、傾斜縁が逆勾配、即ち、前記ルーパ3の進出端側が最も低く位置し、前記ルーパ糸保持溝部82の入口に向けて漸次高く位置する傾斜縁から形成されたものなどルーパ糸切断部分LT2の中途部分LT2aを左右の針間に誘導案内可能な傾斜縁を有するものであれば、どのような形状の板状部材を用いてもよく、また、傾斜縁(誘導部)81及びルーパ糸保持溝部82が線材から形成されたものであってもよい。
【0069】
さらに、上記実施の形態では、2本針型式の横筒形二重環縫いミシンに適用したが、これに限らず、2本針型式の平ベッド形二重環縫いミシンに適用しても、3本針以上の複数本針型式の横筒形あるいは平ベッド形二重環縫いミシンに適用してもよい。ただし、3本以上の複数針型式のミシンの場合は、ルーパ糸切断端部分LT2の中途部分LT2aを複数本針のうち、並列方向両端の針間に誘導し保持することが好ましく、特に、複数本針の並列方向の略中央部位置に誘導し保持することが好ましい。そして、いずれの形式のミシンに適用する場合も上記実施の形態と同様な効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0070】
1a,1b 針
2 針板
3 ルーパ
3a 先端糸孔
4 糸切り装置
50 エア噴出メズル(ルーパ糸切断端部分の移行手段)
60 開閉式糸挟み機構(ルーパ糸保持手段)
70 ルーパ糸案内部材
71 通路
80 ルーパ糸保持部材
81 傾斜縁(ルーパ糸誘導部)
82 ルーパ糸保持溝部
NTa,NTb 針糸
LT ルーパ糸
LT1 突出し切断されるルーパ糸部
LT2 ルーパ糸切断端部分
LT2a ルーパ糸中途部分
LTe ルーパ糸の糸端
M 二重環縫いミシン
W 縫製生地(丸物生地)
A 二重環縫いの縫目
H 縫製進行方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23