(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
図1は本発明の一実施形態に係る壁材1の斜視図である。
図1を含む各図において、矢印Zは上下方向(鉛直方向)を示し、矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示す。特に、矢印Xは壁材1の厚み方向(法線方向)を示し、矢印Yは壁材1の左右方向(面方向あるいは幅方向)を示す。
【0010】
壁材1はプレキャストコンクリート製であり、その外観は概ね直方体形状をなしている。壁材1の内面1aは室内側の面であり、外面1bは室外側の面である。壁材1の上部にはファスナ4が設けられている。
図1の場合、ファスナ4の一部の構成が図示されている。ファスナ4は壁材1の製造時に壁材1に設けられる。
【0011】
本実施形態の壁材1は左右方向の幅が比較的小さいボーダー状の壁材であり、全体として縦長の外観を有している。壁材1の左右方向の幅が小さいため、配設スペース上、ファスナ4は、壁材1の上部に一つだけ設けらており、後述する本体プレート1の幅は壁材1の幅と同じとなっている。
【0012】
ファスナ4の固着力を向上するためには、ファスナ4の固着部位において壁材1の配筋量を増量することが有効である。配筋量を増量するためにはかぶり厚の確保のため、壁材コンクリートを厚くすることが必要となる場合があるが、壁材1の全域に渡ってその厚さを厚くすると重量増を招く。そこで、本実施形態では、壁材1は、ファスナ4の固着部位を含む上部の領域において、他の領域よりもその厚さを厚くしている。
【0013】
図2〜
図4は本発明の一実施形態に係る連結構造Aを示している。連結構造Aは壁材1と建築躯体3とをファスナ4で連結する構造である。
図2(A)は連結構造Aの外観図であり、
図1の視線d1方向に見た場合(室内側から見た場合)におけるファスナ4周辺の構造を示している。
図3は
図2(A)のI-I線断面図、
図4は
図3のII-II線断面図である。
【0014】
本実施形態の場合、壁材1の上方に壁材2が並べて配置される例を想定している。壁材2は本実施形態の場合、壁材1と同じ構成のものを想定しているが、異なる構成であってもよい。壁材2の構成のうち、壁材1と同じ構成については壁材1と同じ符号を付している。本実施形態の場合、建築躯体3は鉄骨梁34を含む。
【0015】
壁材1の壁材コンクリートには、複数の縦筋11及び横筋12が全体に渡って配筋されている。鉄筋11は、Z方向に延びる縦筋である。鉄筋12は、Y方向に延びる横筋である。各図においては、説明図が煩雑にならないように鉄筋11および12の図示を省略している場合がある。
【0016】
ファスナー4は、本体プレート41と、躯体連結部42と、定着板43と、定着筋44、45とを含む。
【0017】
本体プレート41は板状の鋼材であり、その法線方向がX方向を指向する姿勢で壁材1に固着されている。本体プレート41は、その室内側の面が露出するように壁材1の内面1a側に埋設されている。本実施形態の場合、壁材1の幅が小さいことから、本体プレート41の左右の側面も露出している。
【0018】
本体プレート41の上端部の中央には、上方に開放した溝部411が形成されている。この溝部411には、壁材2に埋設された連結ボルト13が挿通する。連結ボルト13はその頭部側が壁材2の壁材コンクリートに埋設され、そのネジ棒部分が内面1aから室内側に水平に突出している。内面1aには連結ボルト13の周囲において、鋼板1cが固着されている。
【0019】
連結ボルト13のネジ棒部分には、溝部411、調整座金46aの長孔、座金46bの孔が順に挿通され、ナット46cが螺着される。ナット46cを締結することで、壁材2と本体プレート41とが固定される。調整座金46aと座金46bとの間には滑り材を設けることもできる。
【0020】
本体プレート41は、溝部411の下方に左右に離間して形成された一対のネジ孔を備えており、各ネジ孔には押しボルト47が螺着する。押しボルト47の先端を鋼板1cに当接させることで、壁材2の建入れを調節することができる。
【0021】
こうして、本体プレート41には壁材2が連結され、本体プレート41を介して壁材2の自重等の荷重を壁材1と建築躯体3に伝達することができる。
【0022】
次に、本体プレート41は、エア抜き孔413が形成されている。エア抜き孔413の下方には、躯体連結部42が接合されている。
【0023】
躯体連結部42は、本体プレート41から建物躯体3側に突設された金物である。躯体連結部42は、プレート部421と、保持部422とを備える。プレート部421は板状をなし、その端部が本体プレート41に溶接等により固着されることで、水平に突出している。保持部422は本体プレート41の下側に配設されている。
【0024】
プレート部421と本体プレート41との間には、補強リブ48a、48bが溶接等により固着されている。補強リブ48aはプレート部421の上側において左右に離間して二つ設けられ、補強リブ48bはプレート部421の下側において左右に離間して二つ設けられている。
【0025】
保持部422はプレート部421の下面に一体的に形成されており、保持部422とプレート部421とにはこれらをこれらをZ方向に貫通する孔が形成されている。この孔には支持軸31が固着される。
【0026】
鉄骨梁34には、支持部材33を介して調整台32が固定されており、その天板部には、支持軸31が遊挿する開口部32aが形成されている。調整台32上には、支持ボルト31の外径と略同径の孔が形成されており、支持軸31が固着されている。こうして、ファスナー4は壁材1及び2と建築躯体3とを連結し、壁材1及び2の荷重を建築躯体3に伝達することができる。
【0027】
次に、定着板43は、本体プレート41から壁材1側に突設されており、壁材1に埋設される。本実施形態の場合、定着板43は、本体プレート41に溶接等により縦姿勢で固着されている。縦姿勢とは、定着板43が垂直姿勢であることを意味し、換言すると、その法線方向がY方向を指向している姿勢である。本実施形態の場合、定着板43は、本体プレート41から壁材1の外面1b側へ、斜め下方に向かって突出している。本実施形態の場合、定着板43はY方向に離間して二つ設けられているが、一つでもよいし三つ以上であってもよい。
【0028】
定着板43のX方向の埋め込み深さは、壁材1の厚さの1/2以上としており、本実施形態の場合、本体プレート41から壁材1の厚さの1/2を超える位置まで延設されている。線CLは、壁材1の厚さ方向の中央線である。本実施形態の場合、壁材1の厚さとは、ファスナ4の配設部分の壁材コンクリートの厚さの意味である。
【0029】
左右の定着板43の間には、連結部材44が設けられている。連結部材44は、Y方向に延設された部材であって、その一方端部が一方の定着板43に固定され、その他方端部が他方の定着板43に固定されており、左右の定着板43を連結する部材である。連結部材44は、例えば、定着板43に設けた穴に挿通するボルトと、このボルトに締結されるナットから構成することができる。
図4の例では、定着板43の外側にボルト頭部とナットが位置している例を図示している。連結部材44は、また、鋼棒から構成することもでき、この場合、鋼棒の各端部は対応する定着板43に溶接により固定することができる。
【0030】
連結部材44は、例えば、
図7(A)に示すように、定着板43の外側に突出しない構成でもよく、また、
図7(B)に示すように、定着板43の外側に突出した構成でもよい。
図7(B)に示すように定着板43の外側に突出した構成においては、
図4の例と同様に、突出した部分にボルト頭部、ナットが位置してもよく、あるいは、定着板が固定されてもよい。
【0031】
連結部材44は、本実施形態の場合、X方向に離間して二つ設けている。一方の連結部材44は、本体プレート41から壁材1の厚さの1/2を超える位置に配設されており、他方の連結部材44は、、本体プレート41から壁材1の厚さの1/2を超えない位置に配設されている。なお、連結部材44は一つであってもよいし三つ以上であってもよい。
【0032】
定着筋45a及び45bは、Z方向に延設される鉄筋である。本実施形態の場合、定着筋45aは直線状をなし、その上部が溶接などによって定着板43に固着されて定着板43から下方へ延設されている。定着筋44は、定着板43のX方向の端部のうち、壁材1の外面1b側の端部に固着されている。定着筋45aは複数設けられている(ここでは二つ)。定着筋45aは、二つの定着板43の内側の面に固着されているが、外側の面に固着してもよい。
【0033】
本実施形態の場合、定着筋45bはへの字状をなしており、その上部が垂直で、この上部から曲折されて下部が斜めに延びている。定着筋45bの上部は溶接などによって本体プレート41に固着されている。定着筋45bの下部は、本体プレート1から壁材1の外面1b側へ、斜め下方に向かって延設しており、X方向に離間する縦筋11間に到達している。定着筋45bは複数設けられている(ここでは二つ)。定着筋45bは、二つの定着板43の内側に位置している。
【0034】
各定着板43には、挿通部431がそれぞれ形成されている。本実施形態の場合、挿通部431は各定着板43に二つ形成されているが、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。
【0035】
各挿通部431には、補強筋5a、5bが通過している。補強筋5a、5bは、環状をなしており、二つの定着板34を囲むように横姿勢で配筋されて拘束筋(フープ筋)を構成している。横姿勢とは、補強筋5aおよび5bが水平姿勢であることを意味し、換言すると、その中心軸線がZ方向を指向している姿勢である。本実施形態の場合、補強筋5a、5bは、壁材1のコンクリート断面の外形状に合わせて、台形型の輪郭を有している。
【0036】
また、定着板43を通過しないが、補強筋5a、5bと同様に二つの定着板34を囲むように横姿勢で配筋されて拘束筋(フープ筋)を構成する複数の補強筋5cおよび5dが配筋されている。本実施形態の場合、補強筋5a〜5dは、定着板43の他、補強筋6および7や、外面1bに隣接した縦筋11も囲むように配筋されている。
【0037】
本実施形態の場合、挿通部431は貫通孔であり、孔の周囲が閉じているが、貫通孔に代えて切り欠き等であってもよい。
図7(C)はその一例を示しており、上下の挿通部431が半円形状の切欠きとして形成されている。各挿通部431には補強筋5a、5bが複数本挿通している。挿通部431を貫通孔とするよりも切り欠きの方が、加工等において有利な場合がある。なお、貫通孔や、切欠きの形状は円形や半円形に限られず、角形等であってもよい。
【0038】
補強筋6および補強筋7は逆U字型をなしており、定着板34を跨るようにZ方向に折り返されている。
図2(B)は補強筋6の外形の説明図であり、
図2(C)は補強筋7の外形の説明図である。
図2(B)に示すように補強筋6は一つの定着板43を跨るように配筋されており、
図2(C)に示すように補強筋7は二つの定着板43を跨るように配筋されている。補強筋6および補強筋7は、それぞれ、上部の曲折部と、この曲折部の両端部から下方へ直線状に延びる延設部とを有した形状となっている。なお、補強筋6や補強筋7を直線状の延設部のみで構成することも可能である。
【0039】
以上の構成からなる連結構造Aでは、左右の定着板43を連結部材44で連結したことにより、ファスナー4に対して横力(特にX方向)による引き抜き力が作用した場合に、連結部材44を引き抜きに抵抗させることができ、横力に対するファスナー4の引き抜き防止性能を向上することができる。したがって、本実施形態のように、壁材1の幅が小さく、ファスナー4を壁材1の上部に一つだけ設ける構成であっても、必要な耐力を確保し易くなる。
【0040】
ここで、ファスナー4に上向きの力が作用した場合、壁材1の内面1a側に曲げによる引張力が作用し、外面1b側に圧縮力が作用する。
図3でいうと、線CLの右側が引張ゾーンとなり、左側が圧縮ゾーンとなる。本実施形態の場合、定着板43のX方向の埋め込み深さを、壁材1の厚さの1/2以上としたので、引張ゾーンと圧縮ゾーンとを定着板43を横断し、鉛直方向および水平方向の耐力を向上することができる。また、連結部材44のうちの一つが引張ゾーンに、別の一つが圧縮ゾーンに位置しているので、更に鉛直方向および水平方向の耐力を向上することができる。
【0041】
なお、本実施形態のように、幅が小さい壁材1にあっては、鉛直方向と水平方向とに分けて、ファスナを二つ配設することも考えられるが、コストアップや工期の延長を招くところ、本実施形態では、一つのファスナ4で鉛直方向と水平方向との耐力を向上できる。
【0042】
また、定着筋45a及び45bや補強筋6および7を設けたことで、圧縮ゾーンと引張ゾーンとの双方で壁材コンクリートとの応力伝達性を向上し、ファスナー4の定着性能を向上できる。これらの鉄筋は異形鉄筋でもよい。
【0043】
定着板43、定着筋45a及び45bや補強筋6および7は、閉鎖型筋である補強筋5a〜5bにより囲まれるので、これらに作用する曲げを抑えることができ、また、ファスナー4の引き抜きに対しても抵抗させることができる。補強筋5a、5bは更に定着板43を挿通しているのでその定着性も向上できる。
【0044】
本体プレート41、躯体連結部42、定着板43は板材を基調としているので、これらを溶接で接合する場合には、部分溶け込み溶接及び隅肉溶接による組立てとすることで、コストダウンを図りながら溶接の品質を確保し易くなる。
【0045】
なお、上記実施形態では、上下二体の壁材1及び2と建築躯体3とを連結する場合を説明したが、ファスナー4は一体の壁材と建築躯体3との連結に用いることもできる。この場合、例えば、ファスナー4の構成のうち、上側の壁材(上記実施形態では壁材2)を連結する構成は不要である。
【0046】
<第二実施形態>
図5は第二実施形態に係る連結構造の断面図であり、第一実施形態の
図3に相当する断面図である。本実施形態の場合、定着板43の形状が第一実施形態と異なっている。本実施形態の場合、定着板43は、水平にX方向に突出しており、第一実施形態のように斜め下方には突出していない。第一実施形態の定着板43よりも、定着板43が小型化され、その専有スペースが小さくなる。したがって、壁材1の軽量化、他の配筋スペースの確保の点で有利である。
【0047】
<第三実施形態>
補強筋5a〜5dの形態として、種々の形態を採用可能である。
図6(A)、
図6(B)および
図7(E)はその一例を示しており、第一実施形態の
図4に相当する断面図である。
【0048】
図6(A)は、補強筋5aを環状ではなく、フック形状とした例を示している。同図の補強筋5aは、全体としてX方向に延設され、外面1bの端部が縦筋11を囲むようにJ字型に曲折されたフック形状とされている。補強筋5aの直線部分は定着板43に溶接等により固着され、補強筋5aのための挿通部431は不要である。
図6(A)の例によれば、例えば、ファスナー4の引き抜き防止性能を向上しつつ、配筋の簡素化を図れる。なお、同図の例では、二つの補強筋7のうちの一つは補強筋5aの外側に位置しており、残り一つの補強筋7は第一実施形態の構成よりも定着板43に近接しており、また、補強筋6の外側の延設部が第一実施形態の構成よりも定着板43に近接している。補強筋5b〜5dは、第一実施形態のように環状としてもよいし、補強筋5aと同様にフック形状としてもよい。
【0049】
図6(B)は、補強筋5aが環状ではあるが、補強筋6および7を囲まない構成としたものであり、逆に、補強筋6や補強筋7によって補強筋5aを拘束する構成である。補強筋5b〜5dは、第一実施形態のように補強筋6や補強筋7を拘束する構成としてもよいし、補強筋5aと同様に拘束しない構成としてもよい。
【0050】
図7(E)は、補強筋5aを
図7(D)に示すようにコ字型に形成し、連結部材44と補強筋5aとで、実質的に閉鎖型筋を構成した例である。補強筋5aの両端部には、連結部材44に係止する係止部が形成されており、同図の例の場合、J字型のフック形状に形成して、連結部材44に対してその径方向に係止させる構成である。補強筋5aと係止される連結部材44は、本体プレート41に隣接して配置され、定着板43の外側に突出した部分に補強筋5aが係止されている。連結部材44と補強筋5aとで、方形のループが形成され、面内水平力に対して閉鎖形筋と同様の効果を発揮する。
【0051】
なお、補強筋5aの両端部には係止部に設けない構成も採用可能であり、溶接による固着や鋼線による結束等の各種の方法によって、補強筋5aと連結部材44とを連結してもよい。また、ここでは補強筋5aを例に挙げたが、補強筋5b〜5dに適用してもよく、あるいは、新たな補強筋として追加してもよい。