【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0034】
<供試微生物>
実施例および比較例において使用した微生物を以下に示す。
酵母:ロドトルラ(Rhodotorula mucilaginosa)
細菌:メチロバクテリウム(Methylobacterium mesophilicum)
カビ:クラドスポリウム(Cladosporium cladosporioides)
【0035】
<浸透除菌効果の試験方法>
(培地の作製)
・実施例1〜10および比較例5において使用した培地
直径66mm、高さ34mmのプラスチックカップ(KP−60M、鴻池プラスチック(株)製)本体の底に、直径1cmの開口部を形成し、ポリエチレンフィルムで開口部を封止した。カップ本体の蓋に、空気抜き用の孔を針で開けた。汚濁面培地(ジャガイモデンプン 1.2g/L、グルコース 6.0g/L、寒天15.0g/L)を作製し、オートクレーブ滅菌した。オートクレーブ滅菌後の培地2mLをプラスチックカップに注ぎ、固化させて汚濁面モデルとした。汚濁面モデルの厚みは、約0.3mmであった。
・実施例11〜13において使用した培地
オートクレーブ滅菌後の培地に、皮脂やタンパク質等による汚濁を想定するための以下のモデル物質を、所定の濃度(後述する表6参照)となるよう添加した点以外は、実施例1〜10および比較例5において使用した培地と同様に培地を作製した。
(モデル物質)
オレイン酸/ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(汚濁面モデル中のオレイン酸濃度:0.1質量%)
トリオレイン/DMSO溶液(汚濁面モデル中のトリオレイン濃度:0.1質量%)
BSA(牛血清アルブミン)/生理食塩水溶液(汚濁面モデル中のBSA濃度:0.15質量%)
【0036】
<試験菌液の作製>
(ロドトルラおよびメチロバクテリウムの場合)
ロドトルラおよびメチロバクテリウムのそれぞれについて、PDB培地(Difco
TM Potato Dextrose Broth、ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて30℃で充分に振とう培養した。培養後の菌液を生理食塩水で100倍に希釈し、試験菌液とした。
(クラドスポリウムの場合)
クラドスポリウムを、PDA斜面培地(Difco
TM Potato Dextrose Agar、ベクトン・ディッキンソン社製)にて25℃で充分に前培養した。生理食塩水を10mL加え、滅菌ループにて胞子をかきとった後に菌液をろ過した後に、生理食塩水で100倍に希釈し、試験菌液とした。
【0037】
<検体処理の方法>
図1は、検体処理方法を説明するための模式図である。まず、プラスチックカップ1からポリエチレンフィルム(図示せず)を剥がし、汚濁面モデル2の裏面を開口部3から露出させた。
図1に示されるように、開口部3から露出した汚濁面モデル2に対して試験菌液4を4μL接種した。次いで、接種された試験菌液4と対向する位置において、汚濁面モデル2の表面に、それぞれの実施例または比較例(ただし比較例2を除く)の殺菌処理剤5を30μL滴下し、蓋(図示せず)をした。なお、比較例2において、IPMPの結晶は、汚濁面モデル2の表面に載置した。25℃、RH90%以上の環境下で1週間培養し、形成されたコロニーの様子を目視で観察した。以下の評価基準にしたがって、殺菌処理効果を評価した。なお、以下の評価基準において、○または×の評価が示される場合のコロニーの状態を表1に例示した。
(評価基準)
○:微生物の生育が抑制され、コロニーが形成されなかった。
×:微生物の生育が抑制されず、コロニーが形成された。
【0038】
【表1】
【0039】
それぞれの実施例および比較例における殺菌処理剤の調製方法を以下に示す。
【0040】
(実施例1)
実施例1の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0041】
(実施例2)
実施例2の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が1.67w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0042】
(実施例3)
実施例3の殺菌処理剤は、チモールの配合量が0.3w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0043】
(比較例1)
比較例1の殺菌処理剤は、フェノール系殺菌剤を配合せず、無水エタノールそのものを用いた。
【0044】
(比較例2)
比較例2の殺菌処理剤は、アルコールを配合せず、IPMPの結晶(500μg)そのものを用いた。
【0045】
(比較例3)
比較例3の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%となるようペンタンで希釈することにより調製した。
【0046】
実施例1〜3および比較例1〜3の殺菌処理剤を用いて上記検体処理を行った結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示されるように、フェノール系殺菌剤とアルコールとを含み、接触角が10〜65°である実施例1〜3の殺菌処理剤は、いずれの微生物に対しても優れた殺菌効果を示した。一方、アルコールのみを含む比較例1の殺菌処理剤、IPMPのみを含む比較例2の殺菌処理剤、および、アルコールに代えて炭化水素を使用した比較例3の殺菌処理剤は、いずれの微生物に対しても殺菌効果を発揮せず、硬質表面における汚れに浸透する効果が確認できなかった。
【0049】
(実施例4)
実施例4の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.05w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0050】
(実施例5)
実施例5の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.1w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0051】
(実施例6)
実施例6の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が1.0w/v%となるよう無水タノールで希釈することにより調製した。
【0052】
実施例1、4〜6殺菌処理剤を用いて上記検体処理を行った結果を表2に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示されるように、実施例1および4〜6の殺菌処理剤は、いずれの微生物に対しても優れた殺菌効果を示した。特に、実施例4のような殺菌成分が微量である場合であっても、アルコールとの併用によって充分に殺菌効果が増強されることが分かった。
【0055】
(比較例4)
比較例4の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、無水エタノールの濃度が10%となるよう水で希釈することにより調製した。
【0056】
(実施例7)
実施例7の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、無水エタノールの濃度が20%となるよう水で希釈することにより調製した。
【0057】
(実施例8)
実施例8の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、無水エタノールの濃度が30%となるよう水で希釈することにより調製した。
【0058】
(実施例9)
実施例9の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、無水エタノールの濃度が50%となるよう水で希釈することにより調製した。
【0059】
(実施例10)
実施例10の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、POE硬化ヒマシ油(40E.O.)が1.0w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0060】
(比較例5)
比較例5の殺菌処理剤は、IPMPの配合量が0.3w/v%、POEソルビタンモノオレエート(20E.O.)が1.0w/v%となるよう無水エタノールで希釈することにより調製した。
【0061】
比較例4〜5、実施例1、7〜10の殺菌処理剤を用いてロドトルラに対して上記検体処理を行うとともに、以下の測定方法にしたがって接触角を測定した。結果を表4に示す。
【0062】
(接触角の測定方法)
接触角は、25℃、RH55%±5%の条件下でアルミ片(寸法:3cm×3cm)に対してそれぞれの殺菌処理剤を滴下し、アルミ片に対する接触角を、接触角計(CA−X型(画像処理式) 協和界面科学(株)製)を用いて測定した。
【0063】
【表4】
【0064】
表4に示されるように、IPMPとアルコールとを含み、接触角が10〜65°である実施例1および7〜10の殺菌処理剤は、ロドトルラに対して優れた殺菌効果を示した。一方、接触角が65°を超えた比較例4の殺菌処理剤、および、接触角が10°未満であった比較例5の殺菌処理剤は、ロドトルラに対して殺菌効果を発揮せず、硬質表面における汚れに浸透する効果が確認できなかった。
【0065】
次いで、ロドトルラに対する殺菌処理効果が確認できた実施例1、7〜9の殺菌処理剤を用いて、メチロバクテリウム、クラドスポリウムに対する殺菌処理効果をさらに確認した。結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5に示されるように、IPMPとアルコールとを含み、接触角が10〜65°である実施例1および7〜9の殺菌処理剤は、メチロバクテリウムおよびクラドスポリウムに対しても、優れた殺菌効果を示した。
【0068】
次に、実施例1で調製した殺菌処理剤について、各種モデル物質が添加された汚濁面を設けた培地を用いて殺菌評価を行った。
【0069】
(実施例11)
モデル物質としてオレイン酸が添加された汚濁面を設けた培地を用いて、実施例1の殺菌処理剤の殺菌評価を行った。結果を表6に示す。
【0070】
(実施例12)
モデル物質としてトリオレインが添加された汚濁面を設けた培地を用いて、実施例1の殺菌処理剤の殺菌評価を行った。結果を表6に示す。
【0071】
(実施例13)
モデル物質としてBSAが添加された汚濁面を設けた培地を用いて、実施例1の殺菌処理剤の殺菌評価を行った。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
表6に示されるように、実施例11〜13より、本発明の殺菌処理剤は脂肪酸やタンパク質が多量に存在する条件下においても、硬質表面における汚れに殺菌処理剤が浸透し、優れた殺菌効果を示した。