特許第6785611号(P6785611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785611
(24)【登録日】2020年10月29日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】生体認証装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/117 20160101AFI20201109BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20201109BHJP
   A61B 5/1171 20160101ALI20201109BHJP
   A61B 5/1172 20160101ALI20201109BHJP
【FI】
   A61B5/117 200
   G06T1/00 400H
   A61B5/1171 100
   A61B5/1172
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-199823(P2016-199823)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-61540(P2018-61540A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】長坂 晃朗
(72)【発明者】
【氏名】神藤 英彦
(72)【発明者】
【氏名】小味 弘典
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−296463(JP,A)
【文献】 特開2003−299625(JP,A)
【文献】 特開2008−073461(JP,A)
【文献】 特開2005−006824(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/001642(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/117
A61B 5/1171
A61B 5/1172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに装着される生体認証装置であって、
前記ユーザの異なる身体部位の脈波を検出する複数の脈波検出部と、
少なくとも前記複数の脈波検出部により検出された各脈波の同一性に基づいてユーザを認証する判定部と、を有し、
前記複数の脈波検出部は、ユーザの腕の脈波を検出する腕脈波検出部と、ユーザの指の脈波を検出する複数の指脈波検出部とを有し、
前記腕脈波検出部は、前記身体部位側の第一面に配置され前記複数の指脈波検出部は、前記第一面とは異なる第二面に配置され
前記第二面には、生体認証情報を検出する生体認証情報検出部をさらに有し、
前記複数の指脈波検出部は、前記生体認証情報検出部を挟んで対向する位置に配置され、同一の指についての脈波をそれぞれ検出し、
前記判定部は、前記脈波及び前記生体認証情報に基づいてユーザを認証する生体認証装置。
【請求項2】
前記複数の指脈波検出部は、前記複数の指脈波検出部の並び方向に交差する方向の幅が前記生体認証情報検出部よりも狭く設定されている、
請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記腕脈波検出部及び前記複数の指脈波検出部が検出した複数の脈波から一対の脈波を選択し、
選択した前記一対の脈波に基づいて、前記一対の脈波毎の信頼度と、前記一対の脈波同士の一致度とを算出し、
算出した前記一対の脈波毎の信頼度と、前記一対の脈波同士の一致度とに基づいて、前記一対の脈波同士の同一度を算出し、
算出した前記一対の脈波同士の同一度を累積し、当該一対の脈波同士の累積同一度を算出し、
算出した前記一対の脈波同士の累積同一度が、所定の閾値を超えた場合、当該一対の脈波が同一のユーザの脈波であると判定する、
請求項1または2に記載の生体認証装置。
【請求項4】
前記第二面は、前記第一面の裏側の面である、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項5】
前記生体認証情報は、指紋情報である、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項6】
前記生体認証情報は、静脈パターン情報である、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項7】
前記腕脈波検出部と、前記指脈波検出部との各々は、別筐体に配置される、
請求項乃至の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項8】
前記腕脈波検出部と、前記指脈波検出部との各々は、同一筐体に配置される、
請求項乃至の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記脈波検出部により検出される脈波に基づくユーザ認証の前に、前記生体認証情報検出部により検出される生体認証情報に基づくユーザ認証を実行する、
請求項1乃至の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記生体認証情報検出部により検出される生体認証情報に基づくユーザ認証の前に、前記脈波検出部により検出される脈波に基づくユーザ認証を実行する、
請求項1乃至の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項11】
認証状態を表示する表示部をさらに有する、
請求項1乃至1の何れか一項に記載の生体認証装置。
【請求項12】
ユーザに装着される生体認証装置による生体認証方法であって、
前記ユーザの腕側の第一面に配置された腕脈波検出部によって前記腕の脈波を検出し、
前記第一面とは異なる第二面に配置された生体認証情報検出部によって生体認証情報を検出すると共に、当該生体認証情報検出部を挟んで対向する位置に配置された複数の指脈波検出部によって同一の指の脈波を検出し、
判定部が、少なくとも前記腕脈波検出部及び前記指脈波検出部により検出された各脈波の同一性と、前記生体認証情報とに基づいてユーザを認証する生体認証装置による生体認証方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体認証装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェアラブル情報端末またはヘルスケア向け端末のように、腕に巻き付けて装着するリストバンド型の情報デバイスが注目を集めている。こうしたリストバンド型デバイスは、ユーザが常時身に着け続ける特性から、脈拍及び体温の健康情報または加速度センサ及びGPSを用いた移動情報のように、ユーザのプライバシーに関わる情報を容易に収集したり、記録したり、管理したりすることができる。
【0003】
さらに、ユーザと一体化して常時稼働している電子デバイスであることから、無線通信のような電子的な手段を用いることで、装着した状態のままで特別な動作を行わなくても、容易に電子チケットの確認または電子マネーの決済が可能になる。そのため、ユーザの権利を証明する、利便性の高いユーザID発信機としての用途も期待されている。
【0004】
一方、こうしたユーザ情報と密接に関わるデバイスには、情報を保護するセキュリティ技術の搭載が不可欠である。上述した用途のうち、前者のプライバシー情報を扱うことについては、ユーザ情報へのアクセスをユーザ以外ができないようにすることが肝要である。後者のID発信についても、ユーザ以外の使用者が発信できないようにするユーザ認識手段をデバイスに装備することが求められている。
【0005】
さらには、電子チケットの大規模な商用サービスでの利用を考えた場合、発券者側にとっても、不正転売でユーザ以外が利用できる状況は望ましくない。そのため、チケットを購入したユーザが装着している否かを、より厳密に保証できることが望まれている。特に、不正転売の場合は、ユーザが不正に加担することも想定する必要がある。
【0006】
特許文献1には、端末が装着された装着者の心拍と、その端末が装着された身体部位の脈拍との同期、及びその遅延量を確認するとともに、指紋によるユーザ認証がなされた場合に、ユーザを認証することを特徴とする認証装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−73461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、心拍と脈拍タイミングの同期及び遅延量を計測するためには、非常に高い精度で心拍及び脈拍をセンシングする必要が有る。従って、ユーザの身体状況またはセンサへの身体部位の置き方によっては、認証失敗の頻度が高くなる可能性がある。さらに、心拍と脈拍のタイミング情報のみの同期に基づいて、ユーザの登録情報と装着者の同一性に基づいてユーザを認証するため、偶然、他人の心拍または脈拍と同期してしまった場合を許容してしまうなど、認証精度が不十分であることが想定される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ユーザに装着される生体認証装置において、高精度な認証を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ユーザに装着される生体認証装置は、ユーザの異なる身体部位の脈波を検出する複数の脈波検出部と、少なくとも複数の脈波検出部により検出された各脈波の同一性に基づいてユーザを認定する判定部と、を有する。複数の脈波検出部は、身体部位側の第一面と、当該第一面とは異なる第二面との各々に配置される。
【発明の効果】
【0011】
ユーザに装着される生体認証装置において、高精度な認証が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係るデバイスの平面図。
図2】実施例1に係るデバイスの説明図。
図3】実施例1に係るサブ筐体の内部構造を示す説明図。
図4】実施例1に係るデバイスの装着状態を示す説明図。
図5】実施例1に係るデバイスのハードウェア構成を示すブロック図。
図6】実施例1に係るデバイスの使用状態を示す説明図。
図7】実施例1に係る指紋センサ及び指脈波センサを示す平面図。
図8】実施例1に係る脳波信号及び解析処理テーブルを示す説明図。
図9】実施例1に係る脳波信号及び解析処理テーブルを示す説明図。
図10】実施例1に係る生体認証処理を示すフローチャート。
図11】実施例1に係る認証処理中の出力部の表示情報を示す説明図。
図12】実施例1に係る指紋登録処理中の出力部の表示情報を示す説明図。
図13】実施例1に係る指紋の判定処理を示す説明図。
図14】実施例1に係る指紋の判定処理を示す説明図。
図15】実施例1に係る指紋の判定処理を示す説明図。
図16】実施例1に係る認証処理中の出力部の表示情報を示す説明図。
図17】実施例1に係る認証条件と付与権限の関係を示す説明図。
図18】実施例1に係る出力部の表示情報を示す平面図。
図19】実施例1に係る出力部の表示情報を示す平面図。
図20】実施例1に係る状態遷移を示す説明図。
図21】実施例2に係るデバイスの平面図。
図22】実施例3に係るデバイスの説明図。
図23】実施例4に係るデバイスの説明図。
図24】実施例5に係るデバイスの平面図。
図25】実施例6に係る指紋センサ及び指脈波センサを示す平面図。
図26】実施例7に係るデバイスを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
幾つかの実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
本実施例では、ヘルスケア用途または入退場管理に用いられるリストバンド型デバイスを例として説明する。本実施例では、「生体認証装置」としてのデバイス1に搭載された「生体認証情報検出部」としての指紋センサ106による指紋認証に加えて、デバイス1を装着した「身体部位」としての腕11と指紋認証に用いる指12との脈波の同一性を判定することで、高精度なユーザ認定を実現するリストバンド型の生体認証装置の例を説明する。
【実施例1】
【0014】
≪構成の説明≫
図1図2は、本実施例におけるリストバンド型デバイス1を示したものであり、図1は本デバイス1を上面から見た外観図、図2は本デバイス1を側面から見た説明図を示す。本デバイス1は、本体100と、ユーザ認証のためのセンサ類を搭載したサブ筐体101と、本体100及びサブ筐体101を腕(例えば手首)11に着脱可能に装着するためのベルト102と、ベルト102を結合し固定するための一対の結合部103a,103bとから構成される。
【0015】
本体100には、「表示部」としての入力部104及び出力部105としてタッチパネル操作が可能なディスプレイが搭載される。本体100は、その内部にマイクロプロセッサやメモリなどの演算部(図5で後述)を有しており、一般的な所謂スマートウォッチで実行可能な情報の表示、操作の受付、及び認証外部機器との通信機能を備える。本体100の「第一面」としての裏面には、「腕脈波検出部」としての腕脈波センサ110aが配置されている。腕脈波センサ110aは、デバイス1が装着された腕11の脈波信号を取得することができる。腕脈波センサ110aは、例えば、発光部としてのLED(light emitting diode)と受光部とから構成される。LEDから発光された光は、ユーザの身体で反射し、受光部に戻る。腕脈波センサ110aは、受光部にて受光された光量の時系列変化に基づいて脈波信号を取得する。
【0016】
サブ筐体101の「第二面」としての表面には、本体100に隣接してベルト102に設けられている。サブ筐体101は、指紋センサ106と、「指脈波検出部」としての二つの指脈波センサ110b,110cとを有する。サブ筐体101と本体100とは、ベルト102を介して電気的に接続されている。
【0017】
指紋センサ106は、「生体認証情報」としての指紋情報を認証する際に提示された指12の指紋特徴量を半導体静電容量方式によって取得する。両指脈波センサ110b,110cは、指12のうちの指紋センサ106に接触する部位よりも指先側と根元側との二箇所の脈波信号を取得する。
【0018】
両指脈波センサ110b,110cは、指紋センサ106を挟んで対向するとともに、指紋センサ106の外部露出面にできるだけ近接した位置に配置される。これによって、両指脈波センサ110b,110cは、指12の脈波を取得できる。この結果、両指脈波センサ110b,110cは、認証時における指12に関する不正を防ぐことができる。
【0019】
図3は、サブ筐体101の例を図2と同じ側面で見た内部構造を示したものである。本図に示すように、指紋センサ106に付随する基板1061が大きい場合、両指脈波センサ110b,110cが物理的に指紋センサ106と近接して配置できないことがある。その場合は、図3に示すように、両指脈波センサ110b,110cをサブ筐体101の底部側(例えばユーザの腕側)に配置する。そして、サブ筐体101の上面に脈波のセンシングに必要な光の成分を導く一対の導光窓111b,111cが設けられている。両導光窓111b,111cは、それらの間隔が両指脈波センサ110b,110cの間隔よりも狭くなる位置に設けられている。従って、両導光窓111b,111cのみが指紋センサ106と近接するように配置される。
【0020】
両導光窓111b,111cは、それぞれ発光成分と反射光成分が混ざらないように、指12への入射光路と指12からの反射光路とが分かれている。これによって、指紋センサ106と両指脈波センサ110b,110cとの物理的な干渉を気にすることなく、指紋センサ106に近接した箇所での脈波を取得することができる。光学的に指紋の特徴を取得する方式の指紋センサ106を用いる場合は、その受光量の時系列変化に基づいて指12の脈波を取得するような構成としても良い。この場合、両指脈波センサ110b,110cを省くことができる。
【0021】
図2に戻る。ベルト102は、本体100及びサブ筐体101内を挿通した状態で環状を成すことが可能である。ベルト102の内部には、電気的配線が配索されている。従って、一周分の電気的配線の導通を確認することによって、結合部103aと結合部103bとの結合状態を検知できる。ベルト102は、本デバイス1がユーザの腕11に装着された際に、図4に示すように、ユーザの腕11を一周するように巻き付けられる。
【0022】
腕脈波センサ110aは、取得した信号を逐次解析することで、本体100に生体が触れているかどうかを区別する生体接触検知の役割も担っている。従って、ベルト102が環状になったことの確認と、腕脈波センサ110aで取得した信号の解析結果とに基づいて、本デバイス1がユーザの手首などに装着された状態であるかどうかを検知することができる。
【0023】
図5は、本デバイス1のハードウェア構成を示すものである。本デバイス1は、例えば、ユーザを認証するためのブロックとしての演算部200と、入力部104と、出力部105と、通信部205と、加速度センサ206と、指紋センサ106と、指紋処理部207と、腕脈波センサ110aと、指脈波センサ110b,110cと、脈波処理部208a〜208cとからなる。演算部200には、入力部104、出力部105、通信部205、加速度センサ206、指紋センサ106、指紋処理部207、腕脈波センサ110a、指脈波センサ110b,110c、及び脈波処理部208a〜208cがインタフェース204(図中、I/F)を介して電気的に接続される。演算部200内では、「判定部」としてのCPU201、メモリ202、秘密記憶領域部203、及びインタフェース204が内部バスによって相互に電気的に接続されている。
【0024】
CPU201は、プログラムを実行する演算装置である。CPU201は、後述するユーザ認証処理も実行する。メモリ202には、CPU201で実行されるプログラム及び実行に必要なデータが格納されている。図5で記載が省略されたフラッシュメモリのような記録媒体と接続されている場合、その記録媒体に恒久的に保持されるデータの書き込みや読み出しが行われても良い。秘密記憶領域部203は、特別な権限がない場合には読み書きできないメモリ、または暗号鍵による特別なアクセスでない場合には読み出されたデータが無意味となるメモリである。秘密記憶領域部203には、ユーザ認証のための指紋パターンデータのような保護優先度の高いデータが格納される。インタフェース204は、演算部200と、その演算部200に繋がれる前述したブロックとの間で、データのやり取りを行う。例えば、演算部200から通信できるようにするために、インタフェース204aが通信部205と接続されている。
【0025】
通信部205は、所謂スマートホンのような親機として設定されたデバイスとのデータの授受だけでなく、直接インターネットに接続して情報を得ても良いし、近距離無線通信を行うデバイスと通信しても良い。通信部205は、外部のセキュリティ管理装置と無線で通信する。例えば、PKI(Public Key Infrastructure)のような外部のデバイス内に秘匿した秘密鍵を使用することによって、本体100がPKIで守られた情報またはサービスにアクセスする正当な権限を有することを証明することができる。そして、認証を受けたユーザは、セキュリティ性の高い部屋への入場処理または信頼性の高い決済取引処理を行うことができる。入退場または決済取引の処理は、本体100がセキュリティ管理装置に近づけられるだけで、本体100に紐づけられた入退場もしくは決済の権限に基づいて成立させても良い。PKIの鍵は、秘密記憶領域部203に格納され、本体100が認証したユーザであっても容易に改変できないようにしても良い。
【0026】
加速度センサ206は、本体100が移動する際の3次元での加速度量を計測する。指紋処理部207は、指紋センサ106で取得した指紋特徴量から認証に必要なパターンの抽出処理を行う。指紋処理部207が、指紋情報の照合処理を実行するようにしても良い。こうすることで、指紋情報の登録パターンを本体100のメモリ202内に展開する必要が無くなり、ユーザの生体情報の保守性が向上する。
【0027】
脈波処理部208a〜208cは、腕脈波センサ110a及び指脈波センサ110b,110cでの各脈波信号取得のため、LEDの光量を適宜調整するとともに、取得した脈波信号をCPU201で演算可能なデジタル信号に変換する。
【0028】
入力部104は、ユーザからの指示を受け付ける。ユーザからの指示は、具体的には、本実施例においてはタッチパネルを用いたタッチ操作を例示するが、他にもボタン押下、音声認識、またはジェスチャによる操作でも良い。出力部105は、本体100からの何らかの情報をユーザに提示するものであり、LED、スピーカ、または振動素子でも良い。
【0029】
図6図7を用いて、実際にユーザが本デバイス1を用いてユーザ認証を行う様子を説明する。図6に示すように、ユーザの腕11に本デバイス1が装着される。前述したように、結合部103aと結合部103bとが結合された状態であり、かつ、腕脈波センサ110aから取得した信号を解析して腕11の脈波信号が得られている場合に、本デバイス1が腕11に装着されているものと判定する。ユーザは、左右の手首のうちのデバイス1を装着している手首とは逆側の手首の指12を用いて指紋認証を行う。
【0030】
図7に示すように、サブ筐体101の表面に露出する指紋センサ106には、図中仮想線で示すように、指先の腹付近が当たるように指12が置かれて、指紋認証が実行される。この際に、指紋センサ106に近接する指脈波センサ110b,110cの各々は、同一の指12の異なる場所において脈波信号をそれぞれ取得する。ユーザ認証を行う際には、腕11の脈波と、この腕11と反対側の腕11の指先二箇所での脈波とが検出される。これら3つの脈波が同期する場合に、腕11の脈波を提供する人物と指先二箇所の脈波を提供する人物とが同一であることを確認する。つまり本実施例では、腕脈波センサ110aによる腕11の脈波の取得と、指脈波センサ110b,110cによる指紋認証する指12の脈波の取得とが同期するのを待ち、各々の脈波信号が同一人物のものであるかどうかを判定する。これによって、ユーザ認証の主たる認証要素となる指紋認証に使われる指12の持ち主が、デバイス1が装着される腕11の持ち主と同一人物であるかどうかを確認することができ、他人に装着された状態での不正認証の発生を防ぐことができる。
【0031】
図6に戻る。本実施例においては、腕11側の脈波を検出する腕脈波センサ110aと、指12側の脈波を検出する指脈波センサ110b,110cとの各々が、別の筐体(本体100とサブ筐体101)に配置されている。これにより、ユーザ認証開始時に指紋認証をする指12をサブ筐体101に置く際の、指12の動きなどに起因する本体100側への物理的な影響が少なく、腕脈波センサ110aに対する外乱を防止できる。腕脈波センサ110aによって先に腕11側の脈波を取得できている場合には、認証開始時に指先二箇所の脈波のみを検出すれば良いため、認証時間を短縮することができる。
【0032】
≪脈波信号の同一性判定処理≫
図8を用いて、脈波信号間の同一性判定の処理について詳細に説明する。ここでは、2つの信号を比較する場合について説明する。実際には、3つの脈波センサ110a〜110c(腕脈波センサ110a及び指脈波センサ110b,110c)の中から、2つを選択する組み合わせ、つまり3通りの組み合わせで同様の判定処理を行う。図8のグラフのように、本デバイス1では、信号1と信号2とが特定のサンプリング周波数で時々刻々とそれぞれ取得される。信号の取得を開始する時点は、認証処理が開始され、ユーザの指12が指紋センサ106に置かれたタイミングとする。
【0033】
図8に例示するように、脈波信号を取得する場合には、信号取得の開始直後の信号波形は不安定であるため、時間が過ぎるにつれて脈波信号特有の脈拍周期を伴った波形が取得される傾向がある。信号取得の序盤において信号が不安定になる原因としては、指脈波センサ110b,110cの上に置かれた直後の指12が静止して落ち着くまでの指12の微小な動き、または脈波処理部208a〜208cが最適なレンジで信号を取得するための感度調整が挙げられる。このような特徴を持った信号に対して、一定期間の信号をバッファした解析フレームを作成し、同じ期間の別の信号同士の解析フレームを用いて各々の信号同士の同一性を判定する。作成する解析フレームの各々は、相互に時間を重ならせても良い。例えば、最初の解析フレームNo.1を信号取得の開始時点である0秒から4秒間とし、次の解析フレームNo.2を2秒から6秒間とし、一定の解析フレーム長と重なる時間において逐次的に入力信号を解析していく。このような逐次的な信号を解析処理することで、前述したように、信号が安定化するタイミングが不明確な状況においては、安定した信号が得られるようになったタイミングまで待ってから作成された解析フレームによって、即時に同一性を判定できるため、高速に判定処理を行うことができる。
【0034】
図8の解析処理テーブル401を用いて、2つの信号の同一性判定処理について、より詳細に説明する。解析処理テーブル401中の「フレームNo.」は、前述したように、逐次的に作成される解析フレームの番号を示す。まず、それぞれの信号の解析フレームの信号サンプルに基づいて、脈波信号としての信号信頼度を算出する。信号信頼度は、例えば、信号サンプルに含まれる周波数のパワー成分の分布を作成し、その分布の尖度から得られる。もし解析フレームの信号が安定した脈波信号であれば、その周波数成分の分布は、脈拍の基本周波数成分が多数を占めると考えられるため、その尖度は高い値になる。解析処理テーブル401に示した各信号信頼度の値は、例えば2つの信号の信号信頼度の平均値である。
【0035】
さらに、解析フレームの信号サンプル同士の波形一致度を計算する。波形一致度の計算には、例えば信号同士の相互相関値を用いる。これによって、仮に信号1と信号2とが同一人物から得られた脈波信号であるならば、波形の形状に高い相関値が含まれていると考えられる。
【0036】
さらに、求めた信号信頼度と波形一致度を掛け合わせることにより、波形同一度を得る。これは解析対象の信号の信号信頼度と波形一致度とを加味した値になる。この値が高い場合には、2つの信号の同一性が高いと判定される。このようにして求めた波形同一度を解析フレームが進む毎に累積していき、累積波形同一度を求める。この値が所定の閾値として、例えば、2を超えた場合に、2つの信号が同一のものであると判定する。このような判定処理を行うことにより、信号信頼度と波形一致度が共に低い値が積算される信号取得序盤の不安定な信号期間に、ノイズ信号による誤判定の発生を防止することができる。しかも、他人同士の信号であるにもかかわらずに、単一の解析フレームのみで偶然にも波形が一致することで起こる誤判定をも防止することができる。この結果、高精度な同一性判定処理を行うことができる。累積波形同一度の閾値を高い値に設定することにより、処理の枠組みを変えることなく、同一性判定の制度をより高めることができる。非常に小さい波形同一度でも長時間累積されることによって発生する誤判定を防ぐため、累積対象とする過去のフレームに制限を設けても良い。さらに、ユーザ認証の途中に、信号信頼度が極端に低い解析フレームが現れた場合は、その認証途中に指12のすげ替えがあったと判断し、累積波形同一度をクリアする処理を行っても良い。
【0037】
図9を用いて、取得された信号の信号信頼度が比較的低い場合に好適な同一性判定処理について詳細に説明する。認証を受けるユーザの身体状況、特に指12や腕11の血流の量によっては、信号信頼度が高い脈波信号が必ずしも得られるとは限らない。図9は、図8と同様に、信号取得開始後の序盤における不安定な期間を経て、後半から比較的信号信頼度が高い脈波信号が取得されている場合の信号波形を示している。比較的信号信頼度が低い信号の場合、図9に示すように、脈拍のピークのような成分は見つかる。しかし、その他のノイズ成分を多く含むような信号が取得される傾向がある。このような信号同士の波形一致度を前述したような方法で求めた場合、同一人物の信号波形であっても、信号信頼度と一致度が共に低い値となるため、同一性の判定精度が低下してしまう。そこで、解析処理テーブル401に基づいた処理とは別に、解析処理テーブル501に基づいた解析処理を並行して実行する。
【0038】
本処理では、まず解析処理テーブル401に基づいた処理と同様に、信号信頼度を算出する。さらに、解析フレームに含まれる信号サンプルの周期のみを算出し、信号間における周期の一致度を計算する。この計算には、信号に含まれるノイズ成分に比較的頑健な周波数解析処理として、例えば、フーリエ変換を用いる。信号に含まれる周波数成分の中で、最も強い周波数が、その信号に含まれる脈拍の周期成分であるとみなされる。
【0039】
このようにして求めた周期一致度と信号信頼度を掛け合わせることによって、周期同一度を計算する。累積波形同一度を求めたときと同様に、累積周期同一度を解析フレーム毎に逐次求めていき、所定の閾値として、例えば、2を超えたならば、それらの信号は同一のものであると判定する。このような解析処理を行うことによって、何らかの理由で信号信頼度が恒常的に低かった場合でも、判定に要する時間があれば、同一性の判定精度を高めることができる。以上で述べた解析処理テーブル401による処理と、解析処理テーブル501による処理との、2種類の累積同一度を並行して計算していき、どちらかの累積同一度が所定の閾値を超えた場合に、同一であると判定する。これにより、信号が良好に取得できている場合は、情報量の多い信号波形の一致度を用いて高速に同一性を判定でき、かつ、状況によって信号信頼度が低い信号のみが得られる場合でも、同一性を判定することができる。
【0040】
解析フレームの長さは、一定の長さに限らず、その長さを解析フレーム毎に変更しても良い。例えば、信号信頼度が一定の値を超える信号が見つかるまでは、最短のフレーム長で逐次的に解析し、信号信頼度が高い信号が継続的に得られるようであれば、それに応じて解析フレーム長を長くしても良い。これによって、信号同士の波形一致度を計算する際の情報量が増すため、同一人物の場合と他人の場合との識別性をより高めることができ、認証精度を高めることができる。
【0041】
前述した脈波信号の信号信頼度が低くなる現象の要因として、腕脈波センサ110a及び指脈波センサ110b,110cと、生体との接触部位内の血流状態が問題になる場合も想定される。これに対して、腕11側の腕脈波センサ110aを2個以上、指12側の指脈波センサ110b,110cを3個以上配置し、認証時にはそれぞれの身体部位毎の複数のセンサの中で信号信頼度が高いセンサを同一性の判定に用いるようにしても良い。これによって、センサ位置に起因して脈波信号の信号信頼度が低い場合に、同一の身体部位を対象とした別の位置のセンサによって取得される信号を選択することにより、信号信頼度が高い信号を用いることができる。
【0042】
また、信号信頼度が低くなる別の要因として、ユーザの行動または身体状況が起因する場合、例えば、歩行中の状態または全速力で運動した直後に、脈波が安定して取得できない場合も想定される。これに対しては、認証時におけるユーザの状況を本デバイス1が推定し、その時点でのユーザの身体状況がどれくらい認証に適しているかを提示するようにしても良い。具体的には、加速度センサ206から取得した情報に基づいて、認証時におけるユーザの状況を推定する。例えば、歩行中であれば静止した状態で認証操作を実施するように促す。或いは、腕脈波センサ110aで常時、装着者の脈拍数を計測し、認証時に脈拍数が極端に高いときは、しばらくの間、運動を控え、脈拍が落ち着いてから認証処理をやり直すように促す。このように、認証時におけるユーザの様々な状況に応じてアドバイスを提示することによって、高精度かつ迅速な認証の実施方法をユーザに提示することができる。
【0043】
≪メイン動作フロー≫
図10は、前述した構成及び判定処理を用いて実現される本リストバンド型デバイス1に特有のユーザ認証処理を示すフローチャートである。まず、タッチパネルが操作され、本デバイス1による認証処理が開始され(S601)、本デバイス1が初期化される(S602)。この初期化の処理の途中、もしくは終了後に、本デバイス1全体においてハードウェアまたはソフトウェアに変更が加わっていないかをセルフチェックする。このセルフチェックでは、例えば、本体100が分解されて不正にソフトウェアの更新がなされていないか、或いはベルト102に流れる電流値が初期のものと変更されていないか、を確認する。変更があると判定された場合は、本デバイス1の起動や認証処理を無効化したり、或いは生体情報の再登録を促す。これにより、制御権限を拡張した後、デバイス1を第三者に引き渡すような不正行為が防止できる。
【0044】
さらに、前述したように、ベルト102を環状にした際の導通を確認し、かつ、腕脈波センサ110aに接している物体が生体かどうかを確認することにより、人間の腕11に装着されているかどうかを判定する(S603)。装着判定がなされなかった場合(S603:No)、本認証処理を終了する(S616)。装着判定がなされた場合(S603:Yes)、サブ筐体101に搭載される両指脈波センサ110b,110c及び指紋センサ106を起動する(S604)。この際に、本体100の腕脈波センサ110aは、既に起動済みであるものとする。各センサ110b,110c,106の起動が終了したら、各センサ110a〜110c,106からのセンシングを開始する(S605)。
【0045】
サブ筐体101に搭載された両指脈波センサ110b,110cから取得される信号に基づいて、サブ筐体101にユーザの指12が正確に置かれているかどうかを判定する(S606)。この判定は、両方のセンサ110b,110cから取得した値の絶対値もしくは振幅が一定の値の範囲内であるかどうかを解析する。もし一定時間、指置きが検知されなかった場合(S606:No)、ディスプレイに指12が置かれていない旨を表示し、より長い時間、指12が置かれなかった場合は、認証処理を終了しても良い。指置きの判定には、指紋センサ106から得られる情報、例えば、静電容量による生体接触の有無または指紋パターン検出の有無から判定をするようにしても良い。これによって、脈波センサ110a〜110cの信号を用いるよりも、高速に判定することができる。
【0046】
指置きの検知がなされた場合(S606:Yes)、本デバイス1を装着している腕11と指紋認証用に提示された指12とが同一人物のものであるとみなし、指紋センサ106によって指紋パターンを取得する(S607)。取得した指紋パターンが予め登録済みの指紋パターンと一致しているかどうかを判定する(S608)。指紋情報が一致している場合(S608:Yes)、図8図9での信号同一性判定処理の説明と同様に、各々の信号において所定の時間分をバッファし、解析フレームを作成する(S609)。各信号の信号信頼度、一致度、同一度を順に計算し(S610〜S612)、累積同一度を計算する。一方、指紋情報が一致しなかった場合(S608:No)、ディスプレイに指紋が一致しない旨を表示し、ユーザに認証のやり直しを求める。
【0047】
解析フレームの作成と解析の度に、累積同一度が所定の閾値を超えたかどうかを判定する(S613)。本フローにおいては、腕脈波センサ110aと指脈波センサ110b、腕脈波センサ110aと指脈波センサ110c、または指脈波センサ110bと指脈波センサ110cの、3通りの組み合わせのうちの全てで、累積同一度を判定する。特に、指脈波センサ110bと指脈波センサ110cとの同一性を確認することは、指紋センサ106を跨いで近接した2箇所での同一性が確認されたことになり、指紋センサ106に提示された指12が確かに1本の生体の指12であるかどうかを判定することができる。これによって、指紋センサ106とは別の指12を脈波センサ106に置く行為、或いは非生体の偽造指が置かれるような不正な認証行為を防止することができる。
【0048】
累積同一度の閾値が所定の値を超えない場合(S613:No)、認証処理の開始から一定時間が経過しているかどうかを判定する(S614)。一定の時間が経過していない場合(S614:No)は、S609の処理に戻り、次の解析フレームの作成のために信号をバッファする。一定の時間が経過した場合(S614:Yes)は、認証処理を終了する(S616)。これによって、長時間に渡る不正な認証行為の繰り返しを防止することができる。累積同一度の閾値が所定の値を超えた場合(S613:Yes)、本認証処理においてユーザ認証を成立させる(S615)。
【0049】
図11は、認証操作中のユーザに対して、図10で説明したユーザ認定処理と連動して出力部105に提示する情報について示したものである。まず、認証を開始する旨と、その下方に認証処理の進捗状況を示す進捗バーとを表示する。その後に「指を置いて下さい」のメッセージ表示と、一つ目の進捗バーとを点滅させて、認証のために指12を置くことをユーザに促す(S606に該当)。指12側の脈波信号の信号信頼度が所定の値を一定の時間上回らない場合は、「指を置き直して下さい」のメッセージを表示する。これによって、ユーザに対して、指12の脈波信号が認証に必要な状態で取得できていない旨を伝え、指12の置き直しを促すことで、ユーザが指12を置いているつもりでも、信号が取得できていない、という状況の発生を防ぐことができる。
【0050】
指置きを検知したら、指紋を認証中である旨を表示し、かつ、進捗バーの一つ目を埋め、次のバーを点滅させる。これによって、ユーザに対して、現在の位置に指12を置き続けることで、認証処理が円滑に進むことを伝えることができる。指紋認証に失敗したら、「指紋が不正です」のメッセージを表示した後、「指を置き直して下さい」のメッセージを表示して、認証のために指12を置くことをユーザに促す(S608に相当)。指紋認証に成功したら、進捗バーの二つ目を埋め、次のバーと、「指を動かさないで下さい」のメッセージ表示とを点滅させる。
【0051】
その後、逐次作成される解析フレーム毎にS613にて累積同一度を判定する。そして、累積同一度の値に応じて進捗バーの表示を進める。例えば、累積同一度による同一性判定の閾値と、現在の累積同一度の値との比率を、進捗バーの進み具合に対応させる。これによって、認証処理が着実に進んでいることをユーザに伝えるとともに、累積同一度の値の増え方と進捗バーの進み方とがリンクすることになるため、認証終了までの大凡の時間をユーザに伝えることができる。
【0052】
S614において一定時間が経過したと判定されたら、「指と腕が同一人物ではありません」のメッセージを表示し、かつ、認証処理を終了する。累積同一度が所定の閾値を上回ったら、認証処理を完了させる。以上のように、認証処理の開始から完了または終了までの過程において、認証処理と連動して情報を提示することにより、認証操作時における待ち時間および失敗の多発に対するユーザの心理的負担を軽減することができる。
【0053】
図12は、本デバイス1において事前にユーザの指紋を登録する際に、出力部105に表示する情報について示したものである。指紋登録処理が開始され、「指を置いて下さい」のメッセージを表示し、登録予定の指紋の指12を置くことをユーザに促す。この際、図10図11で説明した認証時での処理と同様に、提示された指12が不正なものでないかどうかを確認する。具体的には、2個の指脈波センサ110b,110cの信号信頼度に基づいて、生体の指12が提示されているかどうかを判定する。これによって、偽物の指を用いた不正な登録行為を防止することができる。さらに、信号信頼度のみならず、二箇所の指12の脈波の同一性を判定することにより、1本の生体の指12が提示されているかどうかを確かめることができ、この結果、登録時のセキュリティ性をより高めることができる。図11におけるユーザ認証処理と同様に、登録完了までの進捗状況を表示することによって、ユーザの心理的負担を軽減することができる。
【0054】
さらに、登録する指紋パターンは1パターンに限ることはなく、前述した登録処理を何度か繰り返し、登録パターンを増やすことで指紋認証の精度向上を図ることができる。
【0055】
さらに、前述した認証処理と、ユーザに対する情報提示とのうちの一方または両方は、通信部205を介して接続された所謂スマートホンのような外部機器で行っても良い。これによって、本デバイス1には、低計算力のCPU201が搭載され且つディスプレイが無いような場合においても、接続されたスマートホンのような外部機器側の計算資源とディスプレイを用いることで、本実施例による効果を実現することが可能となる。
【0056】
≪偽造指紋に頑健な認証方式≫
図13乃至図16を用いて、図10のフローにおけるユーザ認証の成功に必要な条件を、複数の箇所の指紋パターンの一致とすることにより、精巧な指紋偽造による不正認証にも対処可能な認証方法について説明する。図13は、指紋の事前登録の対象となる複数の範囲901を示したものである。指紋の登録時には、図13に示すように、指紋センサ106の面積分を1つのパターンとし、同じ指12から複数の箇所のパターンを事前に登録する。ユーザ認証時に、指紋の登録パターンと最初に一致した範囲を、図14の符号902とする。
【0057】
そして、図15に示すように、登録パターンの中で既に認証済みの範囲902以外のパターン903のうちの何れかのパターンと、提示された指12の指紋との一致を、指紋が一致するまで連続して判定する。この際、最初の箇所の指紋パターン照合後から次の箇所の指紋パターン照合までの間に、指12が指紋センサ106から離れていないことを確認する。例えば、最初の箇所の指紋パターンの照合時から次の箇所の指紋パターンの照合時までの間に、両指脈波センサ110b,110cのセンサ受光量が大きく変化していないかどうかによって判定する。
【0058】
出力部105には、図16に示すように、最初に指紋認証がなされた指12の位置を、指紋センサ106から離さずに指紋センサ106上を動かすようにガイダンスを表示する。例えば、最初に照合したときの指12の位置が指紋センサ106の奥側に置かれていた場合は、「手前に動かして下さい」と表示する。逆の場合は、「奥に動かして下さい」と表示する。指12が置かれた位置は、2個の指脈波センサ110b,110cの信号の強度比、指紋センサ106の照合パターン、またはこれらの組み合わせから推測する。最終的に1回目の照合時と異なる箇所の指紋パターンとの一致がなされれば、ユーザ認証の成功とする。以上のように、指紋認証時において単一の箇所の指紋パターンのみではなく、複数個所の指紋パターンの一致をユーザ認証の成功の条件とすることにより、例えば、指紋センサ106の面積に応じて作られた精巧な偽造指紋のフィルムを用いた不正な認証行為を防止することができる。
【0059】
上記とは別に、指12と腕11との同一性を判定するまでの間に取得し続けた指12の脈波信号の波形特徴を一つの認証要素とし、この認証要素と指紋認証とを併用した多要素の認証を行うことにより、本デバイス1のセキュリティ性をより高めることもできる。具体的には、指紋登録と同時に両指脈波センサ110b,110cから得られる指12の脈波信号の波形特徴(例えば、加速度脈波の波形特徴)を保存し、ユーザ認証時に、指紋パターンの一致に加え、指12の脈波の波形特徴の一致も判定する。この際、指12の脈波信号の波形特徴の抽出に用いる信号は、S609からS612の処理において、信号信頼度が高く且つ腕11の脈波との一致度が高いもののみを選択する。それらの信号を用いて波形毎に平均化処理を行い、信号波形の特徴を求めることによって、より安定した波形特徴の抽出と、デバイス1の装着者と指12との同一性の担保によるセキュリティ性の確保との両面の効果を期待できる。
【0060】
≪ユーザへの権限移譲の管理方法≫
以上で述べてきた説明では、二箇所の指12の脈波と一箇所の腕11の脈波との同一性と、指紋が一致することとをユーザ認証の成功の条件としてきた。一方で、必ずしも全ての認証条件が成立しなくても、一致した要素の内容または数に応じて、本デバイス1がユーザに付与する権限のレベルを変えるような構成としても良い。
【0061】
具体的には、図17の表1001に示すように、複数の満たすべき認証条件に応じて、ユーザに付与される権限(セキュリティLv.)をそれぞれ定義する。指紋認証のみの条件が満たされた場合は、付与するセキュリティLv.は1とし、基本的な端末の機能を使用可能にする。基本的な端末の機能とは、例えば時刻表示と通知情報の確認、または現在の運動量と脈拍数の確認のような、一般的なリストバンド型デバイス1が有する機能である。
【0062】
指紋の一致に加え、少なくとも一箇所の指12の脈波と、腕11の脈波との同一性が判定された場合は、セキュリティLv.1の権限に加えて、特定の入退場管理地域への入場チケットとして起動する状態になる。
【0063】
さらに、本デバイス1で収集されたユーザの日々の生体情報の蓄積結果もしくはその解析結果のようなプライバシー性の高い情報への閲覧権限、または電子決済端末としての機能の少なくとも一部を所定の場合に解放しても良い。例えば、入場チケットとしての権限付与の場合は飽くまで入場ゲートにおける入場許可、或いは決済端末としての権限付与の場合は少額決算のみまでのように、求められるセキュリティ性が比較的低いものに留める。セキュリティLv.2に加え、二箇所の指12の脈波の同一性の判定までの認証条件が満たされた場合は、Lv.2よりも更に高い権限を付与する。具体的には、ディスプレイには、図18に示す「LV.3」または図19に示す「入場可」のように、ユーザの現在の権限を表示し、ある施設の管理者が駐在する地域への入場権限、或いはより高額な決済権限を与える。このように、ユーザが満たした認証条件に応じて付与する権限を変更することによって、ユーザにとっては常に必要とはなり得ないセキュリティ性の高い機能が不要な場合には、最低限のユーザ認証の条件を満たすだけで、手早く目的を達成することができる。
【0064】
図20に示す状態遷移図のように、付与された権限は、特定の認証条件によって遷移するようにしても良い。基本的には、どのセキュリティレベルの状態においても、端末が非装着状態になった場合は、未認証の状態となる。さらに、高いセキュリティLv.の状態では、ユーザによる入力部104からの操作によって、任意のタイミングでセキュリティLv.を下げられるようにする。さらに、一定時間が経過したときに、セキュリティLv.を段階的に下げるようにしても良い。このように、セキュリティLv.をユーザからの操作もしくは時間経過によって変更することにより、高い権限が必要となる使用目的が達成された後は、必要最低限のレベルで本デバイス1を使用することができる。ここで述べた満たすべき認証条件の組み合わせ、或いはセキュリティLv.の内容および段階は、これに限定するものでは無く、その他の組み合わせを定義しても良い。
【0065】
本実施例によれば、腕11のうちの手首に装着されるリストバンド型デバイス1において、デバイス1が装着された腕11と、指紋を認証する指12とのそれぞれの脈波を取得する複数の脈波センサ110a,110b,110cを備え、時々刻々と取得される脈波信号を一定期間毎に解析し、脈波としての信号信頼度と、それぞれの信号波形同士の一致度とを組み合わせた同一度を計算し、その積算値である累積同一度が一定値を超え、且つデバイス1に事前に登録された指紋情報と、提示された指12の指紋情報とが一致した場合に、本デバイス1がユーザ認証状態となるので、短時間で高精度な認証が可能になる。
【0066】
さらに、本体100のうちの、腕11側の面に腕脈波センサ110aが配置され、腕11側とは異なる面に指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cが配置されるので、本体100のうちの腕11側の面が狭い場合でも、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cを配置するスペースを確保することが可能となる。
【0067】
さらに、本体100のうちの、腕脈波センサ110aが配置された腕11側の面の裏側の面に、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cが配置されるので、腕脈波センサ110aと、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cとを、本体100の表裏に振り分けて配置することができ、これらセンサ110a〜110c,106同士が相互に干渉することを抑制することができる。
【0068】
指12と腕11との脈波同士の同一性を確認(S613)する前に指紋を認証(S608)するので、指紋センサ106の不調、或いは指12の置き方によって、指紋認証がNGとなった際に、脈波の同一判定結果を待つ前にその旨をユーザに提示できるようになる。この結果、無駄な認証待ち時間を低減することができる。
【0069】
本実施例は、上記構成および処理フローに限定をするものではなく、例えば、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cは、サブ筐体101の腕11側の面、及びその裏側の面以外、即ちサブ筐体101の側面に配置されていても良い。
【0070】
さらに、指紋センサ106によって検出される指紋情報の変わりに、指静脈パターン情報を用いたユーザ認証デバイスを搭載する構成としても良い。
【0071】
さらに、指紋センサ106が無く、脈波信号の波形に含まれる個人性(加速度脈波の特徴)を用いてユーザを認証する構成としても良い。これによって、指紋センサ106のセンサコスト低減、及び筐体サイズの小型化が可能となる。
【0072】
さらに、指紋認証と脈波との同一性を並行して判定し、指紋認証がNGであった場合は、即座に認証不可であることを提示し、ユーザに認証のやり直しを求めても良い。
【実施例2】
【0073】
実施例2に係るリストバンド型デバイス2について説明する。本実施例を含む以下の各実施例は実施例1の変形例に相当する。従って、実施例1と相違を中心に述べる。
【0074】
図21は、実施例2に係るリストバンド型デバイス2を上面から見た外観図である。実施例2に係るリストバンド型デバイス2は、サブ筐体101を有しておらず、図21に示すように、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cが、本体100の腕脈波センサ110aの裏側の面のディスプレイに隣接した位置に配置されている。つまり、指紋センサ106と、指脈波センサ110a,110b,110cとの各々が、同一筐体に配置されている。これにより、部品点数を削減することができる。
【実施例3】
【0075】
実施例3に係るリストバンド型デバイス3について説明する。
【0076】
図22は、実施例3に係るリストバンド型デバイス3を側面から見た説明図である。実施例3に係るリストバンド型デバイス3は、ディスプレイを有しておらず、図22に示すように、指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cが、本体100の腕脈波センサ110aの裏側の面に配置されている。この構成の場合、LEDを発光させることで、表示部105として機能させても良い。
【実施例4】
【0077】
実施例4に係るリストバンド型デバイス4について説明する。
【0078】
図23は、実施例4に係るリストバンド型デバイス4を側面から見た説明図である。実施例4に係るリストバンド型デバイス4は、図23に示すように、サブ筐体101がサブ筐体半体101aとサブ筐体半部101bとの二つに分割されており、それぞれが結合部103a,103bの役割を担っている。このとき、それぞれのサブ筐体半部101a,101bには、指脈波センサ110bと指脈波センサ110cとが分かれて搭載されており、指紋センサ106は、それら指脈波センサ110b,110cのうちのどちらかに搭載されているものとする(図23では指脈波センサ110bに搭載)。このような構成によれば、ユーザ認証時に、指脈波センサ110bと指脈波センサ110cとから取得される脈波信号の同一性を判定することにより、サブ筐体半部101aとサブ筐体半部101bとが互いに結合された状態で、且つ正しく指紋が認証されていることを確認することができる。
【実施例5】
【0079】
実施例5に係るリストバンド型デバイス5について説明する。
【0080】
図24は、実施例5に係るリストバンド型デバイス5を上面から見た外観図である。実施例5に係るリストバンド型デバイス5は、指脈波センサ110bが、指紋センサ106の片側に1個だけ配置されている。これにより、指12と腕11との各々の脈波信号の同一性を判定することもできる。前述した実施例における指脈波センサ110b,110cのうちの、指脈波センサ110cのみが指紋センサ106の片側に配置されていても良い。
【実施例6】
【0081】
実施例6に係るリストバンド型デバイスについて説明する。
【0082】
図25は、実施例6に係る指紋センサ106及び指脈波センサ110b,110cを示す平面図である。実施例6に係る指紋センサ106は、図25に示すように、ユーザが指12を指脈派センサ110b,110c上を通過するようにスライドさせたときの指紋パターンに基づいて認証するスライド式の指紋センサである。これによって、指紋センサ106の露出部分の削減およびサブ筐体101の小型化が可能となる。前述した実施例5で例示したように、指脈波センサ110b,110cのうちの何れか1個のみが、指紋センサ106の片側に配置されている場合、指脈波センサ110b,110cのうちの何れか1個を配置する位置は、指12のスライドを開始させる地点でも良いし、スライド後の地点でも良い。従って、指12をスライドさせる前もしくは後に、指12の脈波が取得される。
【実施例7】
【0083】
実施例7に係る生体認証処理について説明する。
【0084】
図26は、ユーザ認証処理を示すフローチャートである。前述した実施例の動作フローの説明では、指12と腕11との脈波同士の同一性が確認(S613)される前に指紋を認証(S608)していた。しかし、実施例7に係る生体認証プログラムは、指12と腕11との脈波同士の同一性が確認された後に指紋を認証する。この際、図26に示すように、指紋が一致している場合(S608:Yes)、本認証処理においてユーザ認証を成立させ(S615)、指紋が一致しなかった場合(S608:No)、認証処理を終了する(S616)。
【符号の説明】
【0085】
1…デバイス、100…本体、101…サブ筐体、105…出力部、106…指紋センサ、110…脈波センサ、201…CPU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26