【実施例1】
【0014】
エステル油入り電気機器の一例として、実施例1ではエステル油入り変圧器を対象に説明する。
【0015】
図1にエステル油入り変圧器の構成を示す模式図を示す。このエステル油入り変圧器の構成はタンク1と、タンク1の内部に配置された鉄心2と、鉄心2に装着された内側巻線3と外側巻線4と、絶縁筒5とが夫々備えられている。
【0016】
タンク1の内部には、これらの鉄心2と内側巻線3及び外側巻線4とを絶縁し冷却するための絶縁冷却媒体のエステル油6と、このエステル油6の上方に存在する窒素ガス7とが収容されている。
【0017】
タンク1の外部には、タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のエステル油6を冷却するための冷却器8が設置され、このタンク1と冷却器8とはその上部と下部とに夫々配設された上部の冷却配管9a、下部の冷却配管9bを通じて接続されている。
【0018】
タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のエステル油6は、下記の(1)式、(2)式、或いは(3)式等の化学構造式で示される、エステル結合を有する化合物である。これらは単独で用いても混合してもよい。また、酸化防止剤、加水分解抑制剤等の添加剤を加えることも可能である。
【0019】
【化1】
【0020】
【化2】
【0021】
【化3】
(1)式は植物油の一般的な化学構造式であり、グリセリンと脂肪酸とがエステル結合した化合物である。(2)式は合成エステル油の代表的な化学構造式であり、多価のアルコールと脂肪酸とがエステル結合した化合物である。一例として多価のアルコールがペンタエリスリトールの場合を記載したが、多価のアルコールとしてはトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等も用いられる。また、(3)式は一価のアルコールと脂肪酸とがエステル結合した化合物である。
【0022】
タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のエステル油6は上部の冷却配管9aを通ってタンク1の内部から冷却器8の内部へ矢印で示すように流れ、冷却器8で冷やされた後に、下部の冷却配管9bを通って冷却器8から再びタンク1の内部に送り込まれて、タンク1の内部に備えられた鉄心2、内側巻線3、外側巻線4を冷却して、鉄心2、内側巻線3、外側巻線4から発生するジュール熱を奪うように機能している。
【0023】
鉄心2はその上部と下部に夫々取り付けられた上部の締付金具10a、下部の締付金具10bによって締め付けられて保持されている。
【0024】
内側巻線3と外側巻線4の上部には第一の絶縁物11、第二の絶縁物12が夫々設置され、内側巻線3と外側巻線4の下部にも第一の絶縁物13、第二の絶縁物14が夫々設置されている。また、鉄心2の中心側には鉄心2を冷却する冷却用の油導入部15が形成されている。
【0025】
実施例1のエステル油入り変圧器では、絶縁・冷却媒体のエステル油6の熱劣化により生成する低分子量で低沸点のアルデヒド化合物を、エステル油6を加熱することによってエステル油6の液面上の気相部分に蒸発、気化させてガス成分として分析するために、次の構成からなる分解物分析装置を設けている。
【0026】
即ち、タンク1の下部に配設されてタンク1の内部のエステル油6を採取する配管16aと、この配管16aに接続して設置されて採取したエステル油6を加熱してガス成分を採取するためのガス成分採取容器17と、ガス成分採取容器17に接続して設置されてエステル油6から採取したガス成分をガス成分採取容器17から導くガス配管18と、このガス配管18に接続して設置されて導かれたエステル油6から採取したガス成分を分析するガス分析装置19とからこの分解物分析装置を構成している。
【0027】
また、採取したエステル油6中のアルデヒド化合物を蒸発、気化させるために、ガス成分採取容器17の外側にはエステル油6を加熱するヒータ20が設けられている。このガス成分採取容器17では、ヒータ20によって内部のエステル油6を加熱して熱劣化により生成した低分子量で低沸点のアルデヒド化合物を蒸発、気化させる加熱温度は約80度〜150度、好ましくは約100度〜130度に設定されている。
【0028】
図2にエステル油の加熱温度とアルデヒド化合物のイオン強度との関係を示す特性図を示す。
図2は、劣化の指標としてアルデヒド化合物を分析するため、エステル油の温度を高くした場合の3量体、4量体、5量体の各成分の蒸発・気化挙動を調べた結果である。観察は発生ガス分析法(EGA−MS:Evolved Gas Analysis − Mass Spectrometry)により行った。
【0029】
測定感度を上げるため、試料はエステル油の熱劣化品ではなく、エステル油にアルデヒド化合物としてヘキサナールを添加したものを用いた。試料をセルに入れた後He雰囲気で安定させて、昇温速度10度/minで50度から試料を昇温加熱し、200度まで連続的に発生したガスを質量分析装置(mass spectrometer)に導入した。
【0030】
ヘキサナールに対応する特徴イオンとして、M/Z値が100のものを選択して、各イオン強度と、その全イオン流(Total Ion Current)を測定した。50〜200度までHe雰囲気下でエステル油を加熱し、M/Z値100を一点鎖線で表示した結果を
図2に示す。
【0031】
ヘキサナールは、80〜90度程度で蒸発・気化が始まり、150度程度で全てのアルデヒド化合物が放出された。従って、加熱温度は80度〜150度程度とすることができる。また、100度〜130度に加熱することにより観察時間を短縮でき、効率よく測定を行うことが可能である。
【0032】
図1に示したエステル油入り変圧器のガス成分採取容器17では、ヒータ20によってガス成分採取容器17の内部に収容した所定量のエステル油6を加熱することにより、エステル油6の熱劣化で生成した低分子量で低沸点のアルデヒド化合物をガス成分採取容器17の内部のエステル油面上の気相部分に蒸発、気化させてガス成分を形成させる。
【0033】
所定量のエステル油を採取する手段としては、例えば、バルブ21aを一定時間開けることでほぼ一定量のエステル油を採取し、採取したエステル油の重量を測定する手段を設けておくことが挙げられる。
【0034】
加熱によってガス成分採取容器17の内部の気相部分に蒸発、気化した、エステル油6の熱劣化で生成したアルデヒド化合物のガス成分はガス配管18を通じてガス分析装置19に送られ、このガス分析装置19によって熱劣化で生成した低分子量で低沸点のアルデヒド化合物のガス成分をエステル油入り変圧器の稼動中にオンラインで分析、定量する。
【0035】
ガス成分採取容器から、ガス分析装置にアルデヒド化合物を取り出す手段としては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを流すことが挙げられる。また、ガス成分採取容器17の内部にヒータで加熱できるようにした吸着剤を設置し、気相部分に蒸発、気化したアルデヒド化合物のガス成分をいったん吸着させた後、吸着剤を加熱して気化したアルデヒド化合物のガス成分を不活性ガスによってガス分析装置に導入することでも、効率良くアルデヒド化合物を取り出すことが可能である。
【0036】
また、予めアルデヒド化合物とエステル油の引火点、粘度等の劣化状態の特性を関連付けておくことにより、ガス分析装置より得られる結果に基づく劣化の診断が可能である。例えば、ガス分析結果より得られた分析値や、算出されるアルデヒド化合物の量が所定値以上になった場合に、エステル油が劣化したと判定する。その診断を行う判定装置は、例えば、ガス分析装置の測定結果を信号線により監視装置や記憶部に送信し、ガス分析結果より得られたアルデヒド化合物の量を監視する構成とすることができる。
【0037】
図3に監視装置のモニター画面の模式図を示す。
図3には運転時間に対してガス分析装置より得られるアルデヒド化合物量をプロットしたものと、エステル油の劣化を判定するために予め適宜設定されたアルデヒド化合物量の所定値(破線)とが示されている。エステル油の劣化が進行していない時には、アルデヒド化合物量が破線で示す値以下であり、モニター画面を確認することで容易にエステル油の劣化を判定することができる。
【0038】
エステル油が劣化していると判定された場合、機器の運転停止や、日常の点検項目において機器の異常の有無を確認したり、エステル油を採取してさらに状態を詳細に分析する。また、劣化の度合いに応じて、定期点検時等機器を停止した際に、エステル油の一部、または全部を交換することで変圧器の故障を未然に防ぐことが可能となる。
【0039】
また、劣化が診断された際に、エステル油の劣化を周知する手段を設けることにより、管理を容易にすることが可能である。例えば、アルデヒド化合物量が予め設定した所定値を超えた場合、エステル油が劣化したと判断しアラームを発する警報装置等を備えてもよい。
【0040】
電気機器のエステル油の劣化の確認の頻度は、週に一度、月に一度等である。従って上記劣化の判定を所定期間ごとに開始する制御装置を設けることができる。制御装置は、ポンプを所定の周期で作動させてタンク内のエステル油をガス成分採取容器に取りこむとともに、エステル油の加熱を開始し、かつガス分析装置を作動させる。
【0041】
まず、バルブを開放し、タンクと接続された採取配管からエステル油を採取し、バルブを閉めた後にヒータを作動して、ガス成分採取容器に一定量採取されたエステル油を加熱し、アルデヒド化合物を採取する。アルデヒド化合物量を分析後、ヒータを停止し、分析装置等に残留する成分を浄化する。エステル油は分解物が少ないものとなっているため、系外に排出せず、タンク内に戻してもよい。また、測定されるエステル油の量は少量(例:50ml)であるため、廃棄することにしてもよい。
【0042】
また、一台のガス分析装置、判定装置により、複数台の変圧器等の電気機器を監視することも可能である。上述の通り劣化の確認の頻度は、週に一度や月に一度等であるため、一の分析装置に対し、数台の電気機器と、配管の切替装置を有する、電気機器システムとしてもよい。複数台の電気機器より、それぞれのエステル油を採取し、各電気機器のエステル油の劣化の状態を把握することができる。
【0043】
一度の判定に使用するエステル油は、例えば1〜5ml程度でよい。エステル油が多いと得られるガスの定量が容易であり、少ないとエステル油の加熱が容易となる。判定後の成分採取容器に残留したエステル油は引火点を下げる低分子量の化合物を有していないので、タンクに戻して再利用することができる。その際、エステル油をタンクに戻す戻り配管と、その配管中にエステル油を環流させるポンプを設けることが好ましい。ポンプは、上述の制御装置により併せて制御させることができる。なお、劣化を判定した後のエステル油は、廃棄し、必要に応じて補充する構成としてもよい。
【0044】
上記した構成のエステル油入り変圧器によれば、変圧器の運転中にタンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のエステル油6の熱劣化によって生成してエステル油6中に溶解しているアルデヒド化合物を、エステル油6を加熱することによってエステル油6の液面上の気相部分に蒸発、気化させてガスとして分析するようにしたことから、エステル油6の熱劣化によって生成するアルデヒド化合物はオンラインで効率良く、簡便に定量できるので、エステル油入り変圧器の予防保全を容易に図ることができる。
【0045】
なお、実施例1のエステル油6には鉱油入り変圧器で用いられている帯電防止剤等の添加剤を加えるようにしても良い。
【0046】
本実施例によれば、エステル油入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用されているエステル油の熱劣化により生成する低分子量で低沸点のアルデヒド化合物を、オンラインで効率良く簡便に定量できるようにしてエステル油を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易に可能にしたエステル油入り電気機器、エステル油入り変圧器、及びエステル油入り電気機器に使用されているエステル油中のアルデヒド化合物の測定方法が実現できる。
【実施例4】
【0054】
次に、ガス分析装置を備えたエステル油入り電気機器の運転パターンの一例について説明する。ガス分析装置による診断は、週に一度や月に一度などの設定された頻度や、または常時繰り返して行うことができる。以下、周期ごとに行う制御装置を用いた診断の例を説明する。ガス分析装置の運転は、主として測定準備、測定、清掃、定常状態の4段階に分けられる。
【0055】
【表1】
なお、上記の表1の各段階に必要な時間は、配管の構成、エステル油の検査の頻度や、エステル油の使用期間等により適宜調整することができる。また、一定期間経過ごとに測定を行う場合には、複数台の電気機器と一台の分析装置を配管で接続することにより、配管の流路を切り替えて各電気機器の監視を行うことも可能である。
【0056】
測定準備段階では、ポンプ、バルブを開放し、タンクと接続された採取配管や、エステル油を採取するガス成分採取容器中のエステル油を循環させる。測定段階では、ポンプ、バルブを閉め、ヒータを作動して、ガス成分採取容器に一定量採取されたエステル油を加熱し、アルデヒド化合物を採取する。清掃段階では、ヒータを停止し、分析装置等に残留する成分や、エステル油を浄化・除去する。診断後のエステル油はアルデヒド化合物等が除去され、分解物が少ないものとなっているため、系外に排出せず、タンク内に戻してもよい。また、測定されるエステル油の量は少量(1〜50ml程度)であるため、廃棄することにしてもよい。
【0057】
測定時に検知された情報に基づき、管理者にエステル油の劣化を知らせる手段や、エステル油入り電気機器の運転を停止する手段の制御を行い、効率よく機器の異常を防止し、予防保全を図ることが可能となる。
【0058】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。