(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785711
(24)【登録日】2020年10月29日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】光学部材の評価装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
G01M11/02 N
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-83699(P2017-83699)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2018-179906(P2018-179906A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年6月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立開発研究法人情報通信研究機構「革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】若山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】多賀 秀徳
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−138015(JP,A)
【文献】
特開2006−267107(JP,A)
【文献】
特開2015−225085(JP,A)
【文献】
特開2017−049167(JP,A)
【文献】
特開2017−036967(JP,A)
【文献】
特開昭63−234130(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0098361(US,A1)
【文献】
韓国登録特許第10−0725211(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00−11/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定帯域より広い連続した周波数成分を有する光を連続して射出する光源と、
前記光源が射出した光に基づき測定対象の光学部材に少なくとも1つの伝搬モードの光を伝搬させる出力手段と、
前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形の振動の周期に基づき前記光学部材における伝搬モード間のクロストーク、或いは、伝搬モード間の伝搬遅延差を評価する評価手段と、
を備えていることを特徴とする評価装置。
【請求項2】
前記出力手段は、前記光学部材に複数の伝搬モードの光を伝搬させ、
前記評価手段は、前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形の振動の周期に基づき前記伝搬遅延差を評価することを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記評価手段は、前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形をフーリエ逆変換することで、前記振動の周期を判定することを特徴とする請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記出力手段は、前記光学部材に1つの伝搬モードの光を伝搬させ、
前記評価手段は、前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形の振動の周期に基づき前記1つの伝搬モードから他の伝搬モードへのクロストークを評価することを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形をフーリエ逆変換することで、前記振動の周期を判定することを特徴とする請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記評価手段は、前記振動の周期に基づき前記1つの伝搬モードからクロストークにより生じる他の伝搬モードを判定することを特徴とする請求項5に記載の評価装置。
【請求項7】
前記評価手段は、前記振動の振幅にさらに基づき前記1つの伝搬モードから他の伝搬モードへのクロストークを評価することを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項8】
前記評価手段は、前記光学部材を伝搬した光の周波数領域における波形をフーリエ逆変換した波形のピークの高さに基づき、前記1つの伝搬モードから他の伝搬モードへのクロストークの強さを評価することを特徴とする請求項7に記載の評価装置。
【請求項9】
前記光学部材を伝搬した光のうち、所定の伝搬モードで伝搬した光を選択して前記評価手段に出力する選択手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項10】
前記光学部材を伝搬した伝搬モードの光に遅延を与えて前記評価手段に出力する遅延手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材の評価装置に関し、特に、伝搬モード間の伝搬遅延差や、伝搬モード間のクロストークの評価を行う評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信における伝送容量の拡大のため、モード多重光通信システムが提案されている。モード多重光通信システムの送信側においては、複数の光信号を異なる伝搬モードの光信号に変換して1本の光ファイバに入射し、受信側においては各伝搬モードの光信号を分離して取り出す。しかしながら、光ファイバにおける伝搬速度は伝搬モードによって異なり、伝搬モード間で伝搬遅延差が生じる。
【0003】
特許文献1は、伝搬モード間の伝搬遅延差を測定する方法を開示している。特許文献1によると、時間と共に周波数が線形的に変化する光を、測定対象のマルチモード光ファイバと、基準とするシングルモード光ファイバのそれぞれで伝搬させる。そして、マルチモード光ファイバを伝搬した光とシングルモード光ファイバを伝搬した光を干渉させてビート信号を生成し、このビート信号の周波数成分を時間領域に変換して伝搬遅延差を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−267107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、光源が射出する光の周波数を時間と共に変化させ、さらに、測定対象の光学部材であるマルチモード光ファイバに加えてシングルモード光ファイバが必要であり、測定構成が複雑となる。また、光源が射出する光の周波数を時間と共に線形的に変化させるため測定時間が増大する。
【0006】
本発明は、簡易な構成で光学部材の評価を行える評価装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、評価装置は、
所定帯域より広い連続した周波数成分を有する光を
連続して射出する光源と、前記光源が射出した光に基づき測定対象の光学部材に少なくとも1つの伝搬モードの光を伝搬させる出力手段と、前記光学部材を伝搬した光の
周波数領域における波形の振動の周期に基づき前記光学部材における伝搬モード間のクロストーク、或いは、伝搬モード間の伝搬遅延差を評価する評価手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、簡易な構成で光学部材の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】光源が射出する光の周波数成分の例を示す図。
【
図4】光学部材を伝搬した光の周波数成分の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0011】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による評価装置の構成図である。光源1は、広帯域光源であり、例えば、
図3に示す様な、所定帯域以上の連続した周波数成分を含む光を射出する。前記所定帯域は、後述するビートの周期を判定するのに必要な帯域とする。モード励起部2は、光源1が射出した光を複数の伝搬モードの光に変換して評価対象である光学部材3に入射させる。モード励振部2は、例えば、伝搬遅延差を測定したい2つ以上の伝搬モードの光を生成する。また、例えば、モード励起部2として、所謂、バットジョイント(Butt−joint)を使用することもできる。光学部材3は、例えば、マルチモード光ファイバ、モード分離器、モード多重器等、伝搬モードにより異なる特性を示す光学部材であり得る。モード励起部2において励振された各伝搬モードの光は、光学部材3内を伝搬して光スペクトラムアナライザ4に出力される。なお、光学部材3内の伝搬遅延は、伝搬モードに依存する。光スペクトラムアナライザ4は、複数の伝搬モードそれぞれの光の干渉光(ビート光)を検出する。
【0012】
例えば、モード励起部2において第1伝搬モードと第2伝搬モードが励振された場合、光スペクトラムアナライザ4が検出する干渉光は、
図4に示す様に、周期的にそのレベルが振動(ビート)する波形となる。ここで、レベルの落ち込む周波数、つまり、レベルが極小となる周波数は、第1伝搬モードと第2伝搬モードの伝搬遅延差により振幅を互いに弱めあう波長に対応する周波数、つまり、位相が互いに逆となる周波数である。同様に、レベルが極大となる周波数は、第1伝搬モードと第2伝搬モードで位相が同じとなる波長に対応する周波数である。したがって、ビートの周期により、第1伝搬モードと第2伝搬モードの伝搬遅延差を評価することができる。
【0013】
なお、モード励起部2において伝搬遅延の異なる2つの伝搬モードが励振されると、光スペクトラムアナライザ4が検出する干渉光には、
図4に示す様に1つの周期の振動のみが生じるため、振動の周期を容易に判定できる。しかしながら、モード励起部2において伝搬遅延の異なる3つ以上の伝搬モードが励振されると、光スペクトラムアナライザ4が検出する干渉光の周波数成分には3つ以上の周期のビート(振動)が生じる。より具体的には、モード励起部2においてn個の伝搬モードが励振されると、
nC
2の周期の振動が生じ得る。したがって、干渉光の周波数成分に生じる振動の周期を判定し難くなる。
【0014】
したがって、例えば、光スペクトラムアナライザ4が出力する干渉光の周波数成分の波形を示す情報を、例えば、コンピュータである処理部5に出力する。そして、処理部5は、入力される干渉光の周波数成分の波形を示す情報に対してフーリエ逆変換(IDFT)を行う。周波数軸上での周期的な振動は、時間軸上では、当該振動に対応する時間の線スペクトルとなる。したがって、干渉光の周波数成分の波形に対してフーリエ逆変換を行うことで、モード励起部2が励振した複数の伝搬モードのうちの2つの伝搬モードの各組み合わせの伝搬遅延差にピークを有する波形が得られ、これにより、2つの伝搬モードの各組み合わせそれぞれの伝搬遅延差を判定できる。なお、フーリエ逆変換後の各ピークが、どの伝搬モードの組み合わせの伝搬遅延差に対応するかは、光学部材3の設計値から推定/判定できる。
【0015】
以上、本実施形態では、光源1が射出する光を変化させる必要がなく、かつ、参照光を伝搬するためのシングルモード光ファイバを必要とせず、簡易な構成で伝搬遅延差を測定することができる。
【0016】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。光スペクトラムアナライザ4の分解能を高くすると測定に要する時間が長くなる。一方、伝搬モードの数が多いときに光スペクトラムアナライザ4の分解能を低くすると、2つの伝搬モードの組み合わせ毎のビート周期の判別ができなくなる。
【0017】
したがって、本実施形態では、
図2に示す様に、光学部材3を伝搬した各伝搬モードの光を光スペクトラムアナライザ4に出力する前に、まず、モード選択部6に入力させる。モード選択部6は、評価者が選択した伝搬モードの光のみを合波部7に出力し、合波部7は、入力された各伝搬モードの光を合波して出力する。このように、光学部材3が出力する伝搬モードのうち、モード選択部6で選択した伝搬モードのみを光スペクトラムアナライザ4に出力することで、分解能を不要に高くすることなくビート周期の測定を行うことができ、よって、測定に要する時間を短くできる。なお、被測定物である光学部材3で生じる伝搬モード間のクロストークが無視できる場合、モード選択部6及び合波部7をモード励振部2と光学部材3との間に配置することができる。
【0018】
また、2つの伝搬モードの伝搬遅延差が大きい場合、光スペクトラムアナライザ4の分解能の制限からビートを測定できないことがあり得る。したがって、モード選択部6と合波部7との間において、光に遅延を与える遅延部を設ける構成とすることもできる。遅延部は、例えば、モード選択部6が出力する各伝搬モードの光を合波部7に導く光ファイバであって、その長さを切り替えることができる光ファイバで構成することができる。これにより、遅延部は、モード選択部6が出力する各伝搬モードの光のうち、少なくとも1つの伝搬モードの光に、他の伝搬モードの光とは異なる遅延を与えることができる。例えば、各伝搬モードの光を合波部7に導く各光ファイバの長さを、最初は、同じ最小値(初期値)としておく。そして、伝搬遅延差が大きい2つの伝搬モードが存在する様な状況においては、伝搬遅延の小さい伝搬モードの光を合波部7に導く光ファイバの長さを初期値より長くする。光に与える遅延量は、光ファイバの初期値と、調整後の長さとの差により計算することができる。なお、光ファイバではなく、空間を伝搬させることで光に遅延を与えるものであっても良い。伝搬モード間の伝搬遅延差が大きい場合、いずれかの光に遅延部で遅延を与え、伝搬遅延差を小さくすることで、伝搬遅延差を測定することができる。当然ではあるが、この場合、光スペクトラムアナライザ4により観測された伝搬遅延差と、遅延部で与えた遅延量とに基づき、2つの伝搬モードの伝搬遅延差が計算される。
【0019】
<第三実施形態>
第一実施形態及び第二実施形態では、伝搬遅延差の測定について説明を行った。しかしながら、
図1及び
図2の評価装置により伝搬モード間のクロストークを評価することもできる。ただし、伝搬モード間のクロストークを評価する場合、モード励振部2は、1つの伝搬モード(以下、第1伝搬モード)の光を励振して光学部材3に出力する。
【0020】
光学部材3においてクロストークが生じないものとすると、光学部材3が出力する光の周波数成分は、
図3に示す通りであり、よって、光学部材3が出力する光の周波数波形をフーリエ逆変換すると、直流成分(時間0)にピークを有する時間波形が得られる。一方、光学部材3で、第1伝搬モードの光から、他の1つの伝搬モード(以下、第2伝搬モード)へのクロストークが生じると、光学部材3が出力する光の周波数波形は、
図4に示す様に、ビートによる振動を有するものとなり、フーリエ逆変換すると、直流成分と、ビートの周期にピークを有する時間波形が得られる。ここで、クロストークが強くなる程、フーリエ逆変換後のビートの周期に対応するピークが強くなる。言い換えると、クロストークが強くなる程、周波数波形の振動の振幅が大きくなる。
【0021】
したがって、フーリエ逆変換後のピークの位置(ビート周期)により、第1伝搬モードからどの伝搬モードへのクロストークが生じているかを判定できる。なお、第1伝搬モードから複数の第2伝搬モードへのクロストークが生じると、フーリエ逆変換後の時間波形において生じるピークの数もそれに応じて増加する。しかしながら、例えば、第一実施形態及び第二実施形態で述べたように、評価対象の光学部材3において、第1伝搬モードと他の伝搬モードとの伝搬遅延差を予め測定しておくことで、第1伝搬モードからクロストークにより生成される伝搬モードが何であるかを、フーリエ逆変換後のピークの位置(ビート周期)に基づき判定できる。或いは、光学部材3の設計値に基づき、第1伝搬モードからクロストークにより生成される伝搬モードが何であるかをフーリエ逆変換後のピークの位置に基づき推定(判定)できる。さらに、フーリエ逆変換後のピークの高さは、クロストークの強さを表すことになる。
【0022】
以上、本発明の評価装置により光学部材の伝搬遅延差とクロストークを評価することができる。
【符号の説明】
【0023】
1:光源、2:モード励振部、4:光スペクトラムアナライザ、5:処理部