(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るX線CT装置は、寝台上の被写体の周囲を周回するX線源から照射され被写体を透過したX線フォトンを検出する検出器と、検出器によって検出されたX線フォトンを収集し処理することにより、予め定めた複数のエネルギー範囲について、エネルギー範囲毎に計数値を出力するデータ収集部と、データ収集部により出力された計数値に対して、エネルギー範囲毎に定められ、エネルギー範囲の中央値に比例した重みを乗じて加算処理を行うデータ加算部と、データ加算部により加算されたデータを用いで再構成処理を行うことにより画像を生成する画像生成部と、を備えている。
【0013】
以下、より詳細に本発明の実施形態について、図面を参照してより詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態に係るX線CT装置は、フォトンカウンティング方式の検出器を備えたフォトンカウンティングCT装置(PCCT装置)であり、被写体を透過したX線に由来する光子(X線フォトン)を検出器において計数する。個々のX線フォトンは、異なるエネルギーを有しており、検出器では、X線フォトンを予め定めたエネルギー帯毎に弁別して計数する。これにより、当該エネルギー帯毎のX線フォトンの数、すなわちX線強度を得る。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るPCCT装置100は、UI部200と、計測部300と、演算部400と、を備えている。
UI部200は、キーボードやマウス等からなる入力部210と、表示部(モニタ)やプリンタ等の出力部220とを備え、ユーザからの入力を受け付け、演算部400による処理結果をユーザに提示する。表示部として、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)等を適用することができる他、表示部がタッチパネル機能を有し、入力装置210として機能するようにすることもできる。
【0015】
計測部300は、後述する演算部400のCPU401による制御に従って、被写体101にX線を照射し、被写体101を透過したX線フォトンを計測する。計測部300は、X線照射部310、X線検出部320、ガントリ330、制御部340、データ収集部404、及び被写体101を載置する寝台102を備えている。
【0016】
ガントリ330の中央には、被写体101と、被写体101を載置する寝台102とを配置するための円形の開口部331が設けられている。ガントリ330の内部には、後述するX線管311及びX線検出器321を搭載する回転板332と、回転板332を回転させるための駆動機構が配置される。以下の説明において、開口部331の周方向をx方向、径方向をy方向、それらに直交する方向をz方向とする。一般にz方向は、被写体101の体軸方向となる。
【0017】
通常の撮像時は、回転板332が回転し、かつ寝台102がz方向に動くことで被写体101の様々な方向からX線を照射し、被写体101を透過したX線をX線検出器321で検出してデータを取得する。一方、スキャノグラム撮像時は、回転板332は回転せず、寝台102のみをz方向に1回移動させて終了する、もしくはその撮像の後X線の照射方向を変化(例えば90度回転板332を回転)させた後撮像する、を規定回数くりかえし、ある一方向からの照射のデータ取得を角度を変えて複数回行ってデータを得る。
【0018】
回転板332の回転の所要時間は、ユーザがUI部200を介して入力したパラメータに依存する。本実施形態では、例えば、回転の所要時間を1.0s/回とする。計測部300による1回転における撮像回数は、例えば、900回であり、回転板332が0.4度回転する毎に1回の撮像が行われる。なお、各仕様はこれらの値に限定されるものはなく、PCCT装置100の構成に応じて種々変更可能である。
【0019】
X線照射部310は、X線を発生し、発生したX線を被写体101に照射する。X線照射部310は、X線管311と、X線フィルタ312と、ボウタイ(bowtie)フィルタ313と、を備えている。
【0020】
X線管311は、後述する照射制御器341の制御に従って供給される高電圧により、被写体101にX線ビームを照射する。照射されるX線ビームは、ファン角及びコーン角を持って広がる。X線ビームは、後述するガントリ330の回転板332の回転に伴って、被写体101に照射される。
【0021】
X線フィルタ312は、X線管311から照射されたX線のX線量を調節する。すなわち、X線のスペクトルを変化させる。本実施形態のX線フィルタ312は、X線管311から被写体101へ照射されるX線が、予め定めたエネルギー分布となるよう、X線管311から照射されたX線を減衰させる。X線フィルタ312は、被写体101である患者の被ばく量を最適化するために用いられる。このため、必要なエネルギー帯の線量が強くなるよう設計される。
【0022】
ボウタイフィルタ313は、周辺部の被ばく量を抑える。被写体101である人体の断面が楕円形であることを用い、中心付近の線量を強くし、周囲の線量を低くして被ばく量を最適化するために用いられる。
【0023】
X線検出部320は、X線フォトンが入射する毎に、当該X線フォトンのエネルギー値を計測可能な信号を出力する。X線検出部320は、X線検出器321を備えている。
図2に、X線検出器321の一部を例示する。本実施形態のX線検出器321は、複数の検出素子322、カウンティング回路324、及びX線検出器321への入射方向を制限するコリメータ323と、を備えている。
なお、製作を容易にするために平面状の検出器(検出器モジュール)を複数作成し、平面の中心部分が円弧になるように配置して疑似的に円弧状に配列し、X線検出器321としてもよい。
【0024】
各検出素子322に入射したX線は、カウンティング回路324により、1つのX線フォトンが入射する毎に、1パルスの電気信号(アナログ信号)に変換される。変換された電気信号は、データ収集部404に入力される。
【0025】
検出素子322には、入射したX線フォトンを、直接電気信号に変換する、例えば、CdTeテルル化カドミウム(cadmium telluride)系の半導体素子を用いる。なお、検出素子322は、X線を受けて蛍光を発するシンチレータ(Scintillator)及び蛍光を電気に変換するフォトダイオードを用いてもよい。
【0026】
X線検出器321の検出素子322の数(チャンネル数)は、例えば、1000個である。各検出素子の、x方向のサイズは、例えば、1mmである。
また、例えば、X線管311のX線発生点と、X線検出器321のX線入射面との距離は、1000mmである。ガントリ330の開口部331の直径は、700mmである。
なお、ガントリと同様に各仕様はこれらの値に限定されるものはなく、PCCT装置100の構成に応じて種々変更可能である。
【0027】
制御部340は、X線管311からのX線の照射を制御する照射制御器341、回転板332の回転駆動を制御するガントリ制御器342、寝台102の駆動を制御する寝台制御器343、X線検出器321におけるX線検出を制御する検出制御器344を備えている。これら各部は、後述する演算部400の計測制御部420による制御に従って動作する。
【0028】
演算部400は、PCCT装置100の動作全体を制御し、計測部300で取得したデータを収集し、処理することにより撮像を行う。
図1及び
図3に示すように、演算部400は、計測部300に撮像を実行させて得られたデータの各種処理を行う中央処理装置(以下、「CPU」という)401と、処理の際の作業領域となるメモリ402と、予め必要なプログラムや処理に用いるデータ、処理中に生成されるデータ、処理の結果得られるデータ等を記憶したHDD(Hard disk drive)装置403を備えている。なお、演算部400による処理結果は、UI部200の出力装置220にも出力される。
【0029】
CPU401は、
図3に示すように、撮像条件設定部410と、計測制御部420と、データ加算部430と、補正部440と、画像生成部450を含み、CPU401に含まれる各部によって、被写体の位置決め画像を取得し、位置決め画像に基づいてX線照射量を決定する自動露光制御を行う。
【0030】
なお、CPU401に含まれる各部の機能は、CPU401が予めHDD装置403等の記憶装置に格納されたプログラムを読み込んで実行することによりソフトウエアとして実現することができる。また、CPU401に含まれる各部が実行する動作の一部又は全部を、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(field-programmable gate array)等のハードウェアにより実現することもできる。
【0031】
撮像条件設定部410は、ユーザからUI200を介して入力された撮像条件を設定する。例えば、撮像条件設定部410は、撮像条件を受け付ける受付画面を表示装置220に表示させ、受付画面を介してユーザによる撮像条件の入力を受け付け、設定する。
撮像条件には、例えば、X線管311の管電流、管電圧、被写体101の撮像範囲、X線フィルタ312の形状、ボウタイフィルタ313の形状、分解能等が含まれる。なお、撮像条件は、必ずしも毎回ユーザが入力する必要はない。例えば、予め典型的な撮像条件をHDD装置403等に保存しておき、CPU401が読み出して用いてもよい。
【0032】
計測制御部420は、撮像条件設定部410により設定された撮像条件に従って、制御部340を制御し計測を実行する。
以下、計測制御部420の制御に従って行われるCT像撮像方法について具体的に説明する。
計測制御部420は、寝台制御器343に対し、寝台102を回転板332に対して垂直な方向に移動させ、回転板332の撮像位置が指定された撮像位置と一致した時点で移動を停止するように指示する。これにより、被写体101の配置が完了する。
【0033】
計測制御部420は、寝台制御器343への指示と同じタイミングで、ガントリ制御器342に対して駆動モーターを動作させ、回転板332に対して回転を開始するよう指示を行う。
【0034】
この指示により回転板332が回転を開始し回転板332の回転が定速状態になり、かつ被写体101の配置が終了すると、計測制御部420は、照射制御器341に対しX線管311のX線照射タイミングを指示すると共に、検出制御器344に対してX線検出器321の撮像タイミングを指示する。これにより、計測制御部420は、X線の照射及び検出器によるX線フォトンの検出を行い、計測を開始する。計測制御部420が、これらの指示を所定回数繰り返すことで計測部300による撮像範囲全体の計測を行う。なお、公知のヘリカルスキャン(Helical Scan)のように、寝台102を移動させながら撮像を行うよう制御してもよい。
【0035】
次に、スキャノグラムの撮像方法を示す。計測制御部420は、寝台制御器343に対し寝台102を回転板332に対して垂直な方向に移動させ、回転板332の撮像位置が指定された撮像位置と一致した時点で移動を停止するように指示する。これにより、被写体101の配置が完了する。
【0036】
次に、計測制御部420は、寝台制御器343へ移動の指示のみを出し、ガントリ制御器342に対しては何も命令しない。よって、回転板332は回転せずに寝台102のみが移動する。この状態で計測制御部420は、照射制御器341に対しX線管311のX線照射タイミングを指示し、検出制御器344に対しX線検出器321の撮像タイミングを指示する。これにより、計測制御部420は、X線の照射及び検出器によるX線フォトンの検出を行い、計測を開始する。そして、寝台102の移動距離がユーザの指定した距離、もしくは寝台102の移動限界距離に達すると撮像を終了する。
【0037】
この作業を撮像と撮像の間に回転板332の角度を変化させてX線管311、及びX線検出器321の照射−計測方向を変化させて繰り返すことで複数の方向における透過データを取得することができる。このようにして検出器321が検出したX線フォトンに係る透過データは、データ収集部404により収集される。
【0038】
データ収集部404によるデータの収集は、例えば、スキャノグラムの場合以下のように行われる。上述のように、回転板332は静止した状態でX線を照射しながら寝台102を移動させる。その間、例えば0.1ms毎にX線検出器321で検出され、予め定めた複数のエネルギー範囲に弁別されたそれぞれのエネルギー幅のカウント数を得る。
【0039】
ここで、X線照射範囲が広い場合は、X線照射範囲を通過する間に複数データ収集が実施される。その場合は同じ位置のデータに関して平均値を使用することでデータの精度を高める。このような方法で収集したデータを保存、もしくは補正部440や画像生成部450の演算実施後に保存する。
【0040】
なお、必要に応じてX線のz方向の照射範囲を限定してもよい。z方向の照射範囲を限定する方法としては例えばX線管への電圧印加をON/OFFする方法や、X線管の前にX線を減衰、吸収するシャッターを設けシャッターのON/OFFでX線を制御してもよい。また、回転板332を例えば90度回転させるなどをし、別の角度からX線を照射したデータも作成してもよい。
【0041】
このように、データ収集部404は、エネルギー範囲毎に、X線フォトンの数を計数する。計数して得られる結果は、X線フォトンのエネルギー値(単位keV)の分布を示す。従って、データ収集部404は、これにより、X線検出器321で検出したX線のエネルギー分布(スペクトル)を得る。データ収集部404は、得られた結果を、計数情報としてCPU401に出力する。
データ収集部404のエネルギー範囲の詳細については後述する。
【0042】
データ加算部430は、データ収集部404で収集したエネルギー範囲毎のデータについて重みを付けて加算する。データ加算部430の詳細については後述する。
補正部440は、データ収集部404により収集されたデータに対し、所定の補正データに従って補正処理を実施する。ここで行う補正処理は、例えば、リファレンス補正回路のリニアリティ補正、対数変換処理、オフセット処理、感度補正、ビームハードニング補正、水ファントムキャリブレーション、CT値補正などである。
【0043】
補正データとしては、例えば各エネルギー範囲のデータから基準となる物質を弁別する際に必要となる、基準物質の各エネルギー範囲におけるX線減弱係数である。他にも、ファントムのサイズに応じて補正を行うファントムキャリブレーションを実施する場合の各エネルギー範囲における補正データやCT値補正データなども設定したエネルギー範囲ごとに必要となる場合がある。補正データの作成は、たとえばUI部200から補正データ取得命令を実施して、水の入ったアクリル容器等の補正用ファントムを撮像したデータを、補正部440で補正データ作成用のプログラムにより計算することで求める。
【0044】
それらの補正データを予めエネルギー範囲の設定をスキャノグラム等から撮像前に予め設定することで撮像前での演算が可能となり、画像作成時間の短縮が可能となる。なお、これらの補正データは、撮像毎に生成することができる他、被写体101が変わっても変化しないデータである場合には、予め補正データを収集することもできる。
【0045】
画像生成部450は、データ加算部430で加算したデータから、X線CT画像を再構成する。画像は、例えば、X線フォトン数に対し、Log変換を行い、再構成する。再構成には、FeldKamp法、逐次近似法など、各種の公知の手法を用いることができる。
【0046】
データ収集部404は、X線検出器321が検出したX線に由来するフォトン(X線フォトン)を、予め定めた複数のエネルギー範囲についてエネルギー範囲毎に計数し、当該エネルギー範囲毎の計数情報を得る。
【0047】
データ収集部404は、X線検出器321が検出したX線フォトン1つ1つのエネルギー値を取得し、そのエネルギー値に応じてエネルギー範囲毎に設けられたエネルギービン(Bin)の計数結果に加算する。エネルギービンは、エネルギー範囲毎に設定される記憶領域である。なお、エネルギー範囲は、ある最小エネルギーからX線管311の最大エネルギーまでのエネルギー範囲を、所定のエネルギー幅ΔBで区切ったものである。
【0048】
ここで、CT値を精度良く求めるにはエネルギー幅の設定が重要となる。エネルギー範囲が大きいほど誤差が発生する可能性が高くなる。レイトレースシミュレーションにより165cmの5mm厚さのポリエチレン容器に入った水におけるCT値の誤差を求めたところ、エネルギー範囲を1つに設定した場合は最大で約8ほどのCT値のずれが発生したが、エネルギー範囲を5に設定したところ最大でも1以下となり、4に設定すると2以下となった。
【0049】
CT値は2以上ずれなければ臨床上問題ないと考えられているため、エネルギー範囲を4以上で設定すれば問題ないと考えられる。一方、エネルギー範囲を細かく設定しても検出器のエネルギー分解能以上に設定した場合は、エネルギーの弁別の正しさが問題となるため細かくしすぎる必要はない。
【0050】
CdTe半導体検出器を常温で用いた場合は数keVのエネルギー分解能となる。エネルギー分解能は温度に依存することから一義的ではないものの、2keVのエネルギー分解能で、管電圧が120kVである場合、120/2より、エネルギー範囲は60となる。しかし、60以上のエネルギー範囲を使用しても画質の向上は期待できない上に、データの転送量は多くなることからシステムが複雑化する。そのため、本実施形態ではエネルギー範囲を4以上60以下とすることが望ましいと考えられる。また、各エネルギー範囲において、上限値と下限値との差が検出器が検出可能なエネルギー範囲の半値幅より大きいことが望ましい。
【0051】
従って、本実施形態において、データ収集部404はエネルギー幅ΔBを、例えば20keVとし、最小エネルギーを40keV、最大エネルギーを140keVとする。つまり、エネルギー範囲40keV〜140keVを、B1(40〜60keV)、B2(60〜80keV)、B3(80〜100keV)、B4(100〜120keV)、B5(120〜140keV)の5つのエネルギー範囲に区分する。
【0052】
なお、エネルギー幅ΔBはB1〜B5で同じ値でなくてもよいし、一部のエネルギーのデータを重複させるように設定したり、特定のエネルギーのデータを検出しないように設定したりすることも可能である。DASは、検出したX線フォトンのエネルギー値に応じて、該当するエネルギー範囲に対応づけて設けられたエネルギービンの計数結果に加算する。
【0053】
(データ加算部430の詳細)
上述のように、CT値を求める場合において、PCCT装置では、特定のエネルギー幅のカウント数が得られるに留まり、詳細なエネルギー情報を得ることができないことから精度の高いCT値を求めることが困難である。一方、フォトンカウンティング方式ではない検出器を適用したX線CT装置では、エネルギーの大きさに比例したCT値を得ることができる。これは、実質的にX線のエネルギーに応じた重みがかかって加算された値ということができる。そこで、PCCT装置においても、データ加算部430が、データ収集部404から得られた各エネルギー範囲の計数結果に対して、X線の減衰率やエネルギー分布を考慮して適切な重みを乗じることでエネルギーの大きさに応じたCT値を得ることができる。
【0054】
X線の減衰率(単位距離進む間に散乱、吸収されるX線の割合)はKエッジなどの特殊な状況を除いてエネルギーが小さいほど高くなる。また、Kエッジの効果も限定的で総じてみればエネルギーが小さいほど高くなる。そのため、エネルギー方向に均一分布しているX線を照射した場合、被写体透過後は高エネルギー側のX線のほうが多くなる。これは、あるエネルギー範囲を切り取った時に平均エネルギーが被写体透過前に比べて被写体透過後の方が高くなることを意味する。この効果に鑑みて、重みをかけることでより正確なCT値を得ることができる。
【0055】
さらに、X線管から照射されるX線も上記のようなエネルギー方向に均一分布しているわけではない。たとえば120kVの管電圧の場合、X線のエネルギーは60keV前後にピークを持つ分布となる。その分布により、高エネルギー側では被写体透過前の時点でエネルギー範囲の中央値よりも低エネルギー側にシフトし、低エネルギー側では中央値よりも高エネルギー側にシフトしている。これらの効果を含めて重みをかけることでさらに正確になる。
【0056】
フォトンカウンティング方式の検出器では1つの検出器の中で信号がすべて減衰すれば全X線エネルギーが該当検出器の電気信号に変換されるが、一部の信号が別の検出器で減衰したり、あるX線の信号のエネルギーを求めているときにさらにX線が入るなどして別のエネルギー範囲の信号として計測されることが発生する。これらの効果を含めて重みを計算すると上記よりもさらに正確なCT値を得ることができる。
【0057】
データ加算部430により、上記した各特性を踏まえて決定した重みを乗じた加算処理を実施し、これを画像生成部450において再構成等の処理を行うことで、従来型のX線CT装置とほぼ同等の投影データを得ることが可能となる。そして、ここで得た投影データを用いて、従来と同等のデータ処理を実施することで、従来型のX線CT装置と同等のCT値を得ることが可能となる。
【0058】
したがって、データ加算部430は、先ず、重みを計算する。例えば、重みとして、本実施形態では各エネルギー範囲における中央値を使う。具体的には、B1(40〜60keV)の場合には50keVであり、B2(60〜80keV)の場合には70keVとなる。重みは、このように予め設定した重みを適用することができる他、被写体に併せて重みを都度算出してもよい。
【0059】
続いて、このように構成されたX線CT装置における撮像処理について、
図4のフローチャートに従って説明する。
まず、撮像条件設定部410が、UI部200を介して、ユーザから撮像条件を受け付ける(ステップS101)。ここで入力を受け付ける撮像条件には、管電圧、管電流、X線フィルタ312の厚み、形状、ボウタイフィルタ313の形状などがある。
次にスキャノグラムを撮像する(ステップS102)。撮像は、データ収集部404の説明で示したように回転板を回転させずに収集する。
【0060】
次に、データ収集部404は、エネルギー範囲を設定又は変更する(ステップS103)。本実施形態においては上述したB1(40〜60keV)、B2(60〜80keV)、B3(80〜100keV)、B4(100〜120keV)、B5(120〜140keV)の範囲を設定する。
次にこの設定に従って、補正部440及び画像生成部450において使用する補正データの作成を行う(ステップS104)。本実施形態ではエネルギー範囲を5つ設定しているため、これら5つの設定に必要な補正データを作成する。
【0061】
次に、計測制御部420は、ステップS102で設定された撮像条件に従って、撮像を実行し(ステップS105)、データ収集部404は、回転板を回転させたCT撮像の方法に従ってデータを収集する。
【0062】
次に収集したデータを加算する(ステップS106)。それぞれのエネルギー範囲において設定された重みを乗算して加算する。本実施形態ではたとえば各エネルギー範囲の中間値を重みに用いる。なお、加算後のデータのみを保存してもよいし、必要に応じて加算前のデータも残しておいてもよい。
【0063】
その後、補正部440は、データ収集部404が収集したデータを補正する(ステップS107)。ここで、ステップS104において予め作成した補正データを用いて補正することで画像生成時間の短縮が可能となる。補正部440では、そのまま収集したカウントの情報で処理してもよいし、一旦基底物質の距離の情報に変換してから処理を実施してもよい。
【0064】
画像生成部450は、ステップS107において補正されたデータを用いて画像を生成する(ステップS108)ここでも、必要に応じてステップS104で作成した補正データを用いて画像生成を実施する。ステップS108で生成された画像をHDD装置403に保存し、例えば入力装置210のモニタに画像を表示することで撮像のシーケンスが完了する(ステップS109)。その後はユーザが画像を用いて診断し、必要に応じて画像解析を実施する。
【0065】
このように本実施形態によれば、データ加算部430において、各エネルギー範囲のカウント値に対する加算処理の際に重みを乗じ、その後再構成等の処理を行うことで、フォトンカウンティング方式の検出器を用いていない従来型のX線CT装置において得られる投影データと同等の投影データを得ることができる。従って、この投影データに従って所定の処理を行うことにより精度の高い所望のCT値を得ることができる。
【0066】
なお、上述の例では、データ加算部430は、エネルギー範囲の中央値を重みとして使用したが、エネルギー範囲の間であれば別の値を使用することも可能である。例えば、そのエネルギー範囲の最大値を使用したり、最小値を使用したりすることも可能である。また、エネルギー範囲毎に使用する重みの条件を変化させてもよい。
【0067】
例えば、B4(100〜120keV)、B5(120〜140keV)のエネルギー範囲では最小値の100keV、120keVをそれぞれ使用し、B3(80−100keV)では中央値の90keVを使用、そしてB1(40〜60keV)、B2(60〜80keV)ではそれぞれ最大値の60keV、80keVを使ってもよい。
【0068】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態に係るX線CT装置においては、各エネルギー範囲に対して、中央値を重みとして適用していたが、例えば、エネルギー範囲毎に、被写体の透過距離に合わせて重みを最適化させてもよい。
【0069】
本実施形態に係るX線CT装置は、上述した第1の実施形態におけるX線CT装置と同一の構成を有し、演算部400に含まれる各部が行う処理が異なるのみである。従って、本実施形態に係るX線CT装置を構成する各部について、第1の実施形態におけるX線CT装置の各構成と同一の符号を付し、夫々詳細な説明は省略する。
【0070】
以下に説明する本実施形態では、被写体の透過距離に応じてエネルギー範囲毎に設定された重みを変化させる。つまり、本実施形態では、データ加算部430において、予め定めた重み(例えば、各エネルギー範囲における中央値)に対して、被写体の透過距離による変化を考慮した値を加味することで重みを補正し、補正された重みを適用して加算処理を行う。
【0071】
このため、本実施形態に係るX線CT装置は、予めHDD403に重みを補正するための補正係数を保持しており、補正係数に基づいて補正した重みを用いて加算処理を行う。予め定めた重みが、各エネルギー範囲の中央値である場合には、重みを補正するための補正係数として、例えば、エネルギー範囲の中央値に対するずれをHDD403に記憶しておく。
【0072】
HDD403には、例えば、以下の手順で算出された、エネルギー範囲の中央値に対する「ずれ」が補正係数として記憶されている。
被写体101の撮像に先立って、いくつかの水ファントムを準備し撮像する。水ファントムはたとえばアクリルの容器の中に水を満たしたファントムで、ほとんどが水や水と近い密度の物質で構成される人体を模擬する。水ファントムは例えば直径100mm、200mm300mm、400mmの4つの水ファントムを準備する。
【0073】
これらのファントムを撮像する際に、エネルギー範囲は各エネルギー範囲をより細かく設定して撮像する。例えば、B1(40〜60keV)において、40−42keV、42−44keV、…と2keV刻みで設定する。これを本実施形態では4つのファントム、5つのエネルギー範囲において2keV刻みで撮像する。
【0074】
次に、このようにして得られた撮像データに基づいて、各直径の水ファントムにおける各エネルギー範囲の中央値に対するずれを計算する。より具体的には、2keV刻みで設定したエネルギー範囲の夫々の計数値に基づいて、中央値に対するエネルギー範囲のずれを計算する。
【0075】
例えば、40−60keVのエネルギー範囲のファントム透過後のエネルギーに対するずれは、次のように計算する。本実施形態では40−42keV、42−44keV、…と2keV刻みのエネルギー範囲に対して夫々、((40−42keVのカウント数)×41keV+(42−44keVのカウント数)×43keV+...+(58−60keVのカウント数)×59keV)/(40−60keVのカウント数)として平均エネルギーを算出し、その値と中央値とのずれを計算する。
ファントムを透過すると高エネルギー側のX線ほど透過するため、エネルギー分布は通常高エネルギー側にシフトする。
【0076】
ここで、
図5(a)に水の減弱計数を示す。100mmの水を透過した場合、全てのエネルギー範囲での入力X線の量を1とした場合に検出される量は
図5(b)のようになる。このように入力のエネルギースペクトルが、エネルギーによらず一定の場合は高エネルギー側にシフトする。その平均エネルギーを各ファントムについて計算する。
【0077】
例えば
図5(b)に示すようなカウントが得られた場合の平均エネルギーは50.8keVとなり、0.8keVがずれ量となる。なお、本実施形態では実測して補正係数を求める方法を示したが、たとえばモンテカルロシミュレーションを用いたり、理論的な減衰量を用いたりして計算することもできる。
【0078】
以下、本実施形態に係るX線CT装置における撮像処理について、
図6のフローチャートに従って説明する。
【0079】
まず、ステップS201において、撮像条件設定部410が、UI部200を介して、ユーザから撮像条件を受け付け、ステップS202においてスキャノグラムを撮像する。ステップS203で、エネルギー範囲を設定又は変更し、設定されたエネルギー範囲に応じてステップS204で補正データの作成を行う。
【0080】
次のステップS205において、データ加算部430において加算処理を行う際に用いる重みを補正する。すなわち、データ加算部430は、ステップS202において撮像したスキャノグラムから被写体のサイズを算出し、その被写体のサイズに近い撮像データに対する補正係数をHDD430から読み込み、これを用いて重みを補正する。ここで、データ加算部430は、被写体のサイズに近い撮像データに対する補正係数を使用せずに、2つのファントムのデータの値を線形補間してもよいし、数点の補正係数を関数フィッティングすることにより重みを補正してもよい。
【0081】
ここで、データ加算部430において重みを補正する際に、HDD403に記憶された補正係数を算出するときに適用されたエネルギー範囲がスキャノグラムを撮像したエネルギー範囲と変わっている場合には、以下のように補正係数を決定する。
例えば40−50keVの範囲が設定された場合は、2keV刻みで撮像した40−42、42−44、...48−50の5つの撮像データの値からもう一度、対応範囲におけるファントム透過後のエネルギー範囲のずれを算出して補正係数とする。
【0082】
さらに、より被写体のサイズを正確に求めるためには、スキャノグラムのデータを用いずに、重みの補正に先立って本撮像を行い、本撮像によって得られたデータから被写体101のサイズを求めてもよい。
【0083】
なお、本実施形態における説明では、予め定めた重みをエネルギー範囲の中央値としているため、この中央値に対するずれを補正係数としたが、ずれ量に限られず、計算した平均エネルギー補正係数としてもよい。
【0084】
ステップS206では、ステップS202で設定された撮像条件に従って、計測制御部420により撮像を実行し、データ収集部404によってデータを収集する。収集されたデータはデータ加算部430に出力され、ステップS207において、ステップS205において、それぞれのエネルギー範囲において設定され補正された重みを乗算して加算される。
【0085】
その後、補正部440により、データ収集部404により収集されたデータが補正データに従って補正される(ステップS208)。なお、補正部440は、データ収集部404が収集したカウントのそのままの情報で処理してもよいし、一旦基底物質の距離の情報に変換してから処理を実施してもよい。
【0086】
画像生成部450は、ステップS208において補正されたデータを用いて画像を生成し(ステップS209)、生成された画像をHDD装置403に保存し、例えば入力装置210のモニタに画像を表示することで撮像のシーケンスを完了させる(ステップS210)。
【0087】
このように本実施形態によれば、データ加算部430において、各エネルギー範囲のカウント値に対する加算処理の際に重みを乗じ、その後再構成等の処理を行うことで、フォトンカウンティング方式の検出器を用いていない従来型のX線CT装置において得られる投影データと同等の投影データを得ることができる。従って、この投影データに従って所定の処理を行うことにより精度の高い所望のCT値を得ることができる。そして、データ加算部430における加算処理の際に用いる重みを、被写体の大きさに伴うエネルギー範囲のずれに応じて補正することにより、より精度の高いCT値を算出可能である。
【0088】
(第3の実施形態)
上述した第1の実施形態に係るX線CT装置においては、各エネルギー範囲の中央値を重みとして適用していたが、例えば、入射X線のエネルギー分布に合わせて重みを最適化させることもできる。
【0089】
本実施形態に係るX線CT装置は、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態におけるX線CT装置と同一の構成を有し、演算部400に含まれる各部が行う処理が異なるのみである。従って、本実施形態に係るX線CT装置を構成する各部について、第1の実施形態におけるX線CT装置の各構成と同一の符号を付し、夫々詳細な説明は省略する。
【0090】
以下に説明する本実施形態では、入射X線のエネルギー分布に合わせてエネルギー範囲毎に設定された重みを変化させる。つまり、本実施形態では、データ加算部430において、予め定めた重み(例えば、各エネルギー範囲における中央値)に対して、入射X線のエネルギー分布による変化を考慮した値を加味することで重みを補正し、補正された重みを適用して加算処理を行う。
【0091】
このため、本実施形態に係るX線CT装置は、予めHDD403に重みを補正するための補正係数を保持しており、補正係数に基づいて補正した重みを用いて加算処理を行う。予め定めた重みが、各エネルギー範囲の中央値である場合には、重みを補正するための補正係数として、例えば、エネルギー範囲の中央値に対するずれをHDD403に記憶しておく。
【0092】
HDD403には、例えば、以下の手順で算出された、エネルギー範囲の中央値に対する「ずれ」が補正係数として記憶されている。
被写体101の撮像に先立って、ファントムのない状態で撮像を行う。撮像の際に、エネルギー範囲は各エネルギー範囲をより細かく設定して撮像する。例えば、B1(40〜60keV)において、40−42keV、42−44keV、…と2keV刻みで設定し、撮像を行う。そして、得られた撮像データを用いて各エネルギー範囲の中央値のずれを検出器毎に計算する。
【0093】
検出器毎に計算する理由は、主として二つある。1つ目は、X線の物理現象としてよく知られたヒール効果により被写体の体軸方向にエネルギースペクトルの変化があることである。また、2つ目は、X線管回転方向に対して被写体101への被ばくを低減するために、撮像中心は薄く、撮像視野の外側に行くほど厚い金属(たとえばアルミ製)を用い、あまり体を通らない部分に対してX線照射を抑制するフィルタを用いるため、体軸方向、X線管回転方向の双方にX線の分布が変化するからである。
【0094】
補正係数を算出するためにファントムがない状態で撮像を行っていることから、撮像によって得られたデータにより被写体101に入射する前のX線の各エネルギー範囲における中央値とのずれを求めることができる。
【0095】
一般的にX線管のエネルギー分布は、設定管電圧に依存するピークと、X線管のターゲット材質に起因する複数のピーク(材質によってはない場合も存在する)がある(
図7参照)。設定管電圧に依存するピークより高い範囲は、中心から見て低エネルギー側にずれており、逆にピークより低い部分は、中心から見て高エネルギー側にずれている。
また、X線照射を抑制するフィルタによってもエネルギー分布が変化する。例えば、上述した水ファントムをおいた撮像のように、高エネルギー側が透過し、低エネルギー側がより散乱、吸収されるので、エネルギー分布が変化する。
【0096】
従って、上記した設定管電圧に依存するずれ及びフィルタ等によるずれ等の複合的な要因に加え、他のX線管やX線照射部分の構造に伴うX線のエネルギースペクトルの変化に応じた補正係数を求めることができる。なお、本実施形態では、ファントムがない状態で撮像を行うことにより、すなわち、実測により補正係数を求める方法を示したが、たとえばモンテカルロシミュレーションを用いたり、理論的な減衰量を用いたりして、計算により補正係数を算出することもできる。
【0097】
なお、被写体毎に重みを算出しなおす必要がない場合には、エネルギー分布を考慮して得られた補正係数を用いて補正した重みを予め記憶させておき、これをデータ加算部430において、各エネルギー範囲のカウント値に対する加算処理の際に適用することもできる。
【0098】
このように本実施形態によれば、データ加算部430において、各エネルギー範囲のカウント値に対する加算処理の際に重みを乗じ、その後再構成等の処理を行うことで、フォトンカウンティング方式の検出器を用いていない従来型のX線CT装置において得られる投影データと同等の投影データを得ることができる。従って、この投影データに従って所定の処理を行うことにより精度の高い所望のCT値を得ることができる。そして、データ加算部430における加算処理の際に用いる重みを、エネルギー分布に起因するずれに応じて補正することにより、より精度の高いCT値を算出することができる。
【0099】
なお、エネルギー分布に起因するずれを考慮した補正計数に加えて、上述した第2の実施形態における被写体の透過距離に応じた補正係数をHDD403に記憶させておくこともできる。この場合、エネルギー分布を考慮しながら、且つ、被写体の透過距離に合わせて重みを補正することができるので、重みをより最適化し、精度の高いCT値を算出することができる。
【0100】
(第4の実施形態)
上述したように、加算処理時に適用する重みについて、エネルギー分布に起因するずれを考慮したり、被写体の透過距離を考慮する等によって最適化させることができる他、検出器における検出の揺らぎを考慮して最適化させることもできる。
【0101】
検出器での検出の揺らぎとは、例えば、フォトンカウンティング方式の検出器におけるパイルアップなどがある。すなわち、フォトンカウンティング方式の検出器では、X線の入射量が多くなると、パイルアップにより数え落としが発生するため、これを補正することが好ましい。
【0102】
このため、HDD403に予めパイルアップを考慮した補正係数を記憶させておく。補正係数は以下のように算出する。
被写体の撮像前に、ファントムの無い状態で撮像を行う。この撮像時のエネルギー範囲は、上述した第2の実施形態と同様に、各エネルギー範囲をより細かく設定して撮像する。例えば、B1(40〜60keV)において、40−42keV、42−44keV、…と2keV刻みで設定し、管電流を変化させて撮像する。
【0103】
次に、この撮像により得られた撮像データを用いて各エネルギー範囲の中央値のずれを検出器ごとに算出し、算出されたずれを補正係数としてHDD403に記憶しておく。検出器ごとにずれを算出する理由は、検出器特性にばらつきがあることが懸念されるためである。管電流が増大してX線入射量が増えると、カウント数が正比例で増加する。しかし、パイルアップが発生すると、正比例の関係から逸脱する。この正比例からの逸脱に伴い、各エネルギー範囲の信号量が減少する。この分布の変化を計測し、その減少した信号量を補正することでより正確な補正が可能となる。
【0104】
パイルアップによる揺らぎ、すなわち、数え落としを補正する場合は、撮像データから単位時間当たりのカウント数を計算し、その結果を用いて補正を実施する必要がある。このため、重みの補正は、撮像後に行われる。