特許第6785857号(P6785857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6785857光学レンズの屈折力を判定するように構成された屈折力判定装置および光学レンズの屈折力を判定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6785857
(24)【登録日】2020年10月29日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】光学レンズの屈折力を判定するように構成された屈折力判定装置および光学レンズの屈折力を判定する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20201109BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   A61B3/103ZDM
   G02C13/00
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-526299(P2018-526299)
(86)(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公表番号】特表2018-525196(P2018-525196A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016067842
(87)【国際公開番号】WO2017021239
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年7月25日
(31)【優先権主張番号】15306261.7
(32)【優先日】2015年8月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518040079
【氏名又は名称】エシロール エンテルナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・リュック ペラン
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン パイユ
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−097707(JP,A)
【文献】 特開2007−216049(JP,A)
【文献】 特開平05−176894(JP,A)
【文献】 特開2012−022288(JP,A)
【文献】 特開2011−165099(JP,A)
【文献】 特表2007−514963(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人物の眼の前において配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定する方法であって、少なくとも、
第1注視距離が判定される第1距離判定ステップであって、前記第1注視距離は、前記人物が第1注意レベルによって所与の注視方向において第1視覚刺激を注視した際の前記人物の前記眼と前記第1視覚刺激の間の距離である、ステップと、
− 第2注視距離が判定される第2距離判定ステップであって、前記第2注視距離は、前記人物が第2注意レベルによって前記所与の注視方向において第2視覚刺激を注視した際の前記人物の前記眼と前記第2視覚刺激の間の距離であり、前記第2注意レベルは、前記第1注意レベルと異なっている、ステップと、
− 前記人物に適合された前記屈折力が前記第1及び第2注視距離に基づいて判定される屈折力判定ステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記第1及び第2視覚刺激は、近見視力距離に位置している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2視覚刺激は、文章であり、且つ、前記人物の前記注意レベルは、前記文章の複雑さに基づいて適合されている請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2視覚刺激は、中間見視力距離に位置している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1及び第2視覚刺激は、コンピュータ画面上において表示され、且つ、前記人物の前記注意レベルは、前記コンピュータ上において前記人物によって実行されるタスクの複雑さに基づいて適合されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記所与の注視方向が判定される注視方向判定ステップを更に有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
人物に適合された光学レンズの光屈折関数を判定する方法であって、
− 前記人物の眼科処方を有する人物データが提供される人物データ提供ステップであって、前記眼科処方は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法に従って判定された前記第1及び第2注視距離を有する、ステップと、
− 光屈折関数が少なくとも前記第1及び第2注視距離に基づいて判定される光屈折関数判定ステップと、
を有する方法。
【請求項8】
前記光屈折関数は、前記第1及び第2注視距離の重み付けされた合計に基づいて判定された屈折力を有するゾーンを有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記重み付けされた合計の係数は、少なくとも、第1又は第2注意レベルによって前記活動を実行する前記人物によって日々消費される時間の頻度及び/又は量に基づいて判定される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記光屈折関数は、前記第1注視距離に基づいて判定された屈折力を有する第1ゾーンと、前記第2注視距離に基づいて判定された屈折力を有する第2ゾーンと、を有する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記着用者データ提供ステップにおいて、前記活動を実行する際の前記人物の注視方向の組が提供され、且つ、前記第1及び第2ゾーンは、前記注視方向の組の極端な注視方向に対応している請求項10に記載の方法。
【請求項12】
人物に適合された眼科レンズを製造する方法であって、
− レンズブランクが提供されるレンズブランク提供ステップと、
− 請求項7乃至11のいずれか1項に記載の方法に従って判定された光屈折関数が提供される光屈折関数提供ステップと、
− 前記光学レンズブランクが前記光屈折関数に基づいて加工される加工ステップと、
を有する方法。
【請求項13】
人物の眼の前に配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定するように構成された屈折力判定装置であって、少なくとも、
− 視覚刺激と人物の眼の間の距離を計測するように構成された距離計測モジュールと、
− コンピュータ実行可能命令を保存するように構成されたメモリと、
− 前記コンピュータ実行可能命令を実行するプロセッサと、
を有し、前記コンピュータ実行可能命令は、
− 第1注視距離を判定するステップであって、前記第1注視距離は、前記人物が第1注意レベルによって所与の注視方向において第1視覚刺激を注視した際の前記人物の前記眼と前記第1視覚刺激の間の距離である、ステップと、
− 第2距離を判定するステップであって、前記第2注視距離は、前記人物が第2注意レベルによって前記所与の注視方向において第2視覚刺激を注視した際の前記人物の眼と前記第2視覚刺激の間の距離であり、前記第2注意レベルは、前記第1注意レベルと異なっている、ステップと、
− 前記第1及び第2注視距離に基づいて前記人物に適合された少なくとも1つの屈折力を判定するステップと、
を行うための命令を有する、装置、
【請求項14】
視覚刺激を表示するように構成された表示モジュールを更に有する請求項13に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人物の眼の前に配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定する方法と、人物に適合された光学レンズの光屈折関数を判定する方法と、光学レンズを製造する方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、光学機器の入手を所望する人物は、眼科医の診断を受ける。
【0003】
人物には、正又は負の屈折力矯正が処方されうる。老眼の着用者の場合には、屈折力矯正の値は、近見視力における着用者の眼の調節の難しさに起因し、遠見視力と近見視力において異なっている。従って、処方は、遠見視力の屈折力値と、遠見視力と近見視力の間の屈折力の増分を表す加入度(addition)と、を有する。加入度は、処方された加入度として、正式なものとなる。老眼の着用者に適した眼科レンズは、多焦点レンズであり、最も適したレンズは、累進多焦点レンズである。
【0004】
屈折力は、通常、人物のいくつかの活動の実行を許容するように判定されており、例えば、近距離活動は、読書又は編物であってもよく、中間距離活動は、コンピュータの使用や料理であってもよく、且つ、遠距離活動は、自動車の運転やゴルフのプレーであってもよい。
【0005】
従来、それぞれの距離の活動は、人物がその活動を実行する際にそれを通じて見る光学レンズのゾーンと関連付けられており、従って、光学レンズのすべてのゾーンは、所定の距離と関連付けられている。通常、近見視力ゾーンは、40cmの距離の観察に関連付けられており、中間見視力ゾーンは、1mの距離と関連付けられており、且つ、遠見視力ゾーンは、5mの距離と関連付けられている。
【0006】
従って、人物用の適合済みの屈折力を判定する際には、眼科医は、このような既定の距離において試験を実行している。例えば、近見視力ゾーンの屈折力を判定するには、眼科医は、40cmの距離において視力試験を実行する。
【0007】
このようなやり方は、平均的には、良好な結果を提供するが、自身の近見視力活動の大部分を40cmとは異なる距離において実行する人も存在しうる。従って、近見視力屈折力をすべての人物において40cmで判定することは、不満足な結果をもたらす場合がある。更には、本発明者らは、所与の活動の作業距離は、人物の注意レベルに従って、人物ごとに変化しうることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、眼科眼鏡を着用した際に、人物の全体的な満足感を改善することになる、より個人化された方法に対するニーズが存在している。
【0009】
本発明の目的の1つは、このような方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これを目的として、本発明は、人物の眼の前に配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定する方法を提案し、方法は、少なくとも、
− 第1注視距離が判定される第1距離判定ステップであって、第1注視距離は、人物が第1注意レベルによって所与の注視方向において第1視覚刺激を注視した際の人物の眼と前記第1視覚刺激の間の距離である、ステップと、
− 第2注視距離が判定される第2距離判定ステップであって、第2注視距離は、人物が第2注意レベルによって前記所与の注視方向において第2視覚刺激を注視した際の人物の眼と前記第2視覚刺激の間の距離であり、第2注意レベルは、第1注意レベルと異なっている、ステップと、
− 人物に適合された屈折力が第1及び第2注視距離に基づいて判定される屈折力判定ステップと、
を有する。
【0011】
本発明者は、活動を実行する際の人物の注意レベルに応じて、その活動が実行される距離が変化することを観察した。例えば、哲学的な随筆を読むなどのように、例えば、高い注意レベルを必要とする文章を読む際には、人物は、自身が、例えば、コミックブックを読んでいる際との比較において、文章までの距離を低減する傾向を有しうる。
【0012】
有利には、本発明の方法によれば、人物に適合された眼科レンズの屈折力を判定する際に、このような観察結果を考慮することができる。所与の注視方向において所定の1つの注視距離が課される従来技術による方法とは異なり、本発明による方法によれば、所与の注視方向において複数の異なる注視距離を有することができる。
【0013】
単独で又は組合せにおいて考慮されうる更なる実施形態によれば、
− 第1及び第2視覚刺激は、例えば、50cm未満の距離において実行される、近見視力距離に位置しており、
− 第1及び第2視覚刺激は、文章であり、且つ、人物の注意レベルは、文章の複雑さに基づいて適合されており、且つ/又は、
− 第1及び第2視覚刺激は、例えば、50cmを上回ると共に1mを下回る距離において実行される、中間見視力距離に位置しており、且つ/又は、
− 第1及び第2視覚刺激は、コンピュータ画面上において表示され、且つ、人物の注意レベルは、コンピュータ上において人物によって実行されるタスクの複雑さに基づいて適合されており、且つ/又は、
− 方法は、前記所与の注視方向が判定される注視方向判定ステップを更に有する。
【0014】
また、本発明は、人物に適合された光学レンズの光屈折関数を判定する方法にも関し、方法は、
− 人物の眼科処方を有する人物データが提供される人物データ提供ステップであって、眼科処方は、本発明の方法に従って判定された第1及び第2注視距離を有する、ステップと、
− 光屈折関数が、少なくとも第1及び第2注視距離に基づいて判定される光屈折関数判定ステップと、
を有する。
【0015】
単独で又は組合せにおいて考慮されうる更なる実施形態によれば、
光屈折関数は、第1及び第2注視距離の重み付けされた合計に基づいて判定された屈折力を有するゾーンを有し、且つ/又は、
重み付けされた合計の係数は、少なくとも、第1又は第2注意レベルによって前記活動を実行する人物によって毎日消費される時間の頻度及び/又は量に基づいて判定され、且つ/又は、
光屈折関数は、第1注視距離に基づいて判定された屈折力を有する第1ゾーンと、第2注視距離に基づいて判定された屈折力を有する第2ゾーンと、を有し、且つ/又は、
着用者データ提供ステップにおいて、活動を実行する際の人物の注視方向の組が提供され、且つ、第1及び第2ゾーンは、注視方向の組の極端な注視方向に対応している。
【0016】
本発明は、人物に適合された眼科レンズを製造する方法に更に関し、方法は、
− レンズブランクが提供されるレンズブランク提供ステップと、
− 本発明による方法に従って判定された光屈折関数が提供される光屈折関数提供ステップと、
− 光学レンズブランクが光屈折関数に基づいて加工される加工ステップと、
を有する。
【0017】
また、本発明は、人物の目の前に配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定するように構成された屈折力判定装置にも関し、装置は、少なくとも、
− 視覚刺激と人物の眼の間の距離を計測するように構成された距離計測モジュールと、
− コンピュータ実行可能命令を保存するように構成されたメモリと、
− コンピュータ実行可能命令を実行するプロセッサと、
を有し、コンピュータ実行可能命令は、
− 第1注視距離を判定するステップであって、第1注視距離は、人物が第1注意レベルによって所与の注視方向において第1視覚刺激を注視した際の人物の眼と前記第1視覚刺激の間の距離である、ステップと、
− 第2距離を判定するステップであって、第2注視距離は、人物が第2注意レベルによって前記所与の注視方向において第2視覚刺激を注視した際の人物の眼と前記第2視覚刺激の間の距離であり、第2注意レベルは、第1注意レベルと異なっている、ステップと、
− 第1及び第2注視距離に基づいて、人物に適合された少なくとも1つの屈折力を判定するステップと、
を有する。
【0018】
本発明による装置は、視覚刺激を表示するように構成された表示モジュールを更に有することができる。
【0019】
本発明は、プロセッサからアクセス可能であると共に、プロセッサによって実行された際に、プロセッサが、少なくとも、本発明による方法のデータ収集ステップ及び個人化ステップを実行するようにする、命令の1つ又は複数の保存されたシーケンスを有するコンピュータプログラムプロダクトに更に関する。
【0020】
また、本発明は、その上部において記録されたプログラムを有するコンピュータ可読ストレージ媒体にも関し、この場合に、プログラムは、コンピュータが、少なくとも、本発明の方法のデータ収集ステップ及び個人化ステップを実行するようにする。
【0021】
本発明は、命令の1つ又は複数のシーケンスを保存するように、且つ、少なくとも、本発明による方法のデータ収集ステップ及び個人化ステップを実行するように、適合されたプロセッサを有する装置に更に関する。
【0022】
以下、一例としてのみ、且つ、以下の図面を参照し、本発明の実施形態について説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】TABO表記法においてレンズの乱視軸γを示す。
図2】非球面表面の特徴を判定するべく使用される表記法において円筒軸γAXを示す。
図3】眼及びレンズの光学系を図式的に示す。
図4】眼及びレンズの光学系を図式的に示す。
図5】眼の回転中心からの光線の軌跡を示す。
図6】レンズの視野ゾーンを示す。
図7】本発明による屈折力判定方法の一実施形態のチャートフローの図である。
図8】本発明による光屈折設計提供方法の一実施形態のチャートフローの図である。
図9】本発明による方法の実装例を示す。
図10】本発明による方法の実装例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図中の要素は、簡潔さ及びわかりやすさを目的として示されており、且つ、必ずしも正確な縮尺において描かれてはいない。例えば、図中の要素のうちのいくつかの要素の寸法は、本発明の実施形態に関する理解の改善を支援するべく、その他の要素との関係において誇張されている場合がある。
【0025】
本発明の意味においては、光学関数は、光学レンズを通過する光線に対する光学レンズの効果をそれぞれの注視方向ごとに提供する関数に対応している。
【0026】
光学関数は、光屈折関数、光吸収、偏光能力、コントラスト能力の補強などを有することができる。
【0027】
光屈折関数は、注視方向の関数としての光学レンズの屈折力(平均屈折力や乱視など)に対応している。
【0028】
「光学設計」という用語は、眼科レンズの光屈折関数の定義を許容するパラメータの組を表記するべく、眼科の領域において、当業者の間において周知の、広く使用されている用語であり、それぞれの眼科レンズ設計者は、特に、累進眼科レンズ用の、その独自の設計を有する。一例として、累進眼科レンズ「設計」は、すべての距離において明瞭に見る老視の人の能力を回復するための、但し、更には、中心視力、超中心視力、双眼視力などのすべての生理学的な視覚機能を最適に尊重するための、且つ、望ましくない乱視を極小化するための、累進表面の最適化を結果的にもたらす。例えば、累進レンズ設計は、
− 日々の活動の際にレンズ着用者によって使用される主注視方向(子午線)に沿った屈折力プロファイルと、
− レンズの側部における、即ち、主注視方向から離れたところの、屈折力(平均屈折力や乱視など)の分布と、
を有する。
【0029】
これらの光学特性は、眼科レンズ設計者によって定義及び算出された、且つ、累進レンズによって提供される、「設計」の一部分である。
【0030】
本発明は、累進レンズに限定されるものではないが、図1図6には、累進レンズについて使用される用語が示されている。当業者は、これらの定義を単一視力レンズのケースにおいて適合させることができる。
【0031】
累進レンズは、例えば、但し、限定を伴うことなしに、累進表面、逆進表面、円環状表面、又は非円環状表面などの、少なくとも1つの、但し、好ましくは、2つの、非回転対称の非球面表面を有する。
【0032】
既知のように、最小曲率CURVminは、次式により、非球面表面上の任意の地点において定義され、
【数1】
ここで、Rmaxは、メートルを単位して表現された局所的な最小曲率半径であり、且つ、CURVminは、ジオプトリを単位として表現される。
【0033】
同様に、最大曲率CURVmaxも、次式により、非球面表面上の任意の地点において定義することが可能であり、
【数2】
ここで、Rminは、メートルを単位として表現された局所的な最小曲率半径であり、且つ、CURVmaxは、ジオプトリを単位として表現される。
【0034】
表面が、局所的に球面である際には、局所的な最小曲率半径Rmin及び局所的な最大曲率半径Rmaxは、同一であり、且つ、従って、最小及び最大曲率CURVmin及びCURVmaxも、同一であることに留意されたい。表面が非球面である際には、局所的な最小曲率半径Rminと局所的な最大曲率半径Rmaxは、異なっている。
【0035】
これらの最小及び最大曲率CURVmin及びCURVmaxの式から、SPHmin及びSPHmaxというラベルが付与された最小及び最大球面を検討対象の表面の種類に従って推定することができる。
【0036】
検討対象の表面が物体側表面(前部表面とも呼称される)である際には、式は、以下のとおりであり、
【数3】
ここで、nは、レンズの構成材料の屈折率である。
【0037】
検討対象の表面が眼球側表面(後部表面とも呼称される)である場合には、式は、以下のとおりであり、
【数4】
ここで、nは、レンズの構成材料の屈折率である。
【0038】
また、周知のように、非球面表面上の任意の地点における平均球面SPHmeanは、次式によって定義することができる。
【数5】
従って、平均球面の式は、検討対象の表面に依存しており、表面が物体側表面である場合には、
【数6】
であり、表面が眼球側表面である場合には、
【数7】
である。また、円筒体CYLは、CYL=|SPHmax−SPHmin|という式によって定義される。
【0039】
レンズの任意の非球面の面の特性は、局所的な平均球面及び円筒体によって表現することができる。表面は、円筒体が0.25ジオプトリ超である際には、局所的に非球面であるものと見なすことができる。
【0040】
非球面表面の場合には、局所的な円筒軸γAXを更に定義することができる。図1は、TABO表記法において定義された乱視軸γを示しており、且つ、図2は、非球面表面の特徴を判定するべく定義された表記法において円筒軸γAXを示している。
【0041】
円筒軸γAXは、基準軸との関係において、且つ、選択された回転の意味において、最大曲率CURVmaxの向きの角度である。上述の定義された表記法においては、基準軸は、水平方向であり(この基準軸の角度は、0°である)、且つ、回転の意味は、着用者を見た際に、それぞれの眼ごとに、反時計回りである(0°≦γAX≦180°)。従って、+45°の円筒軸γAXの軸値は、傾いた状態において方向付けされた軸を表しており、この軸は、着用者を見た際に、右上に位置した象限から左下に位置した象限まで延在している。
【0042】
更には、累進多焦点レンズは、レンズを着用する人物の状況を考慮することにより、光学特性によって定義されてもよい。
【0043】
図3及び図4は、眼及びレンズの光学系の図式的な図であって、説明において使用されている定義を示している。更に詳しくは、図3は、この光学系の斜視図を表しており、注視方向を定義するべく使用されるパラメータα及びβを示している。図4は、着用者の頭部の前後軸に対して平行な、且つ、パラメータβが0に等しいケースにおいて眼の回転中心を通過する、垂直方向プレーンにおける図である。
【0044】
眼の回転中心には、Q’というラベルが付与されている。一点鎖線において、図4に示されている軸Q’F’は、眼の回転中心を通過し、且つ、着用者の前面において延在する、水平方向軸―即ち、主注視視野に対応した軸Q’F’―である。この軸は、フィッティングクロスと呼称される地点上においてレンズの非球面表面を切断しており、フィッティングクロスは、眼鏡商によるフレーム内におけるレンズの位置決めを可能にするべく、レンズ上に存在している。レンズの後部表面と軸Q’F’の交差の地点が、地点Oである。Oは、後部表面上に位置した場合には、フィッティングクロスでありうる。中心Q’の、且つ、半径q’の、頂点球面(apex sphere)は、水平方向軸の一地点においてレンズの後部表面に接している。例として、25.5mmという半径q’の値が、通常の値に対応しており、且つ、レンズを着用した際に満足できる結果を提供する。
【0045】
所与の注視方向―図3において実線によって表されているもの―は、Q’を中心とした回転における眼の位置に、且つ、頂点球面の地点Jに、対応しており、角度βは、軸Q’F’と軸Q’F’を有する水平方向プレーン上における直線Q’Jの投影の間において形成された角度であり、この角度は、図3の図上において示されている。角度αは、軸Q’Jと軸Q’F’を有する水平方向プレーン上における直線Q’Jの投影の間に形成された角度であり、この角度は、図3及び図4の図上において示されている。従って、所与の注視視野は、頂点球面の地点Jに、或いは、2値の組(α,B)に、対応している。下向きの注視角度の値が正になるほど、注視が下がり、且つ、この値が負になるほど、注視は、上がる。
【0046】
所与の注視方向において、所与の物体距離において配置された物体空間内の地点Mの像は、最小及び最大距離JS及びJTに対応した2つの地点S及びTの間において形成され、最小及び最大距離JS及びJTは、矢状の、且つ、接した、局所的な焦点距離となろう。無限大における物体空間内の地点の像は、地点F’において形成される。距離Dは、レンズの後部前頭プレーンに対応している。
【0047】
エルゴラマ(ergorama)は、物点の通常の距離をそれぞれの注視方向に関連付ける関数である。通常、主注視方向に沿った遠見視力においては、物点は、無限大に位置している。近見視力においては、鼻側に向かって絶対値において35°のレベルの角度αに、且つ、5°のレベルの角度βに、基本的に対応した注視方向に沿うことにより、物体距離は、30〜50cmのレベルを有する。エルゴラマの可能な定義に関する更なる詳細については、米国特許第6,318,859号明細書を参照されたい。この特許文献は、エルゴラマ、その定義、及びそのモデル化方法について記述している。本発明の方法の場合には、地点は、無限大に位置していてもよく、或いは、そうでなくてもよい。エルゴラマは、着用者の屈折異常又は着用者の加入度の関数であってもよい。
【0048】
これらの要素を使用することにより、それぞれの注視方向において、着用者の屈折力及び乱視を定義することができる。エルゴラマによって付与される物体距離における物点Mは、注視方向(α,β)において考慮される。物体近接性ProxOは、次式のように、頂点球面の地点Mと地点Jの間の距離MJの逆数として、物体空間内の対応する光線上の地点Mについて定義される。
ProxO=1/MJ
【0049】
これにより、エルゴラマの判定のために使用される、頂点球面のすべての地点における、薄いレンズの近似計算における物体近接性の算出が可能となる。実際のレンズの場合には、物体近接性は、対応する光線上における、物点とレンズの前部表面の間の距離の逆数と見なすことができる。
【0050】
同一の注視方向(α,β)の場合には、所与の物体近接性を有する地点Mの像は、それぞれ、(矢状の、且つ、接した、焦点距離となる)最小及び最大焦点距離に対応した、2つの地点S及びTの間において形成される。次式の値ProxIは、地点Mの像近接性と呼称される。
【数8】
【0051】
従って、薄いレンズのケースとの類似性により、屈折力Puiは、次式のように、所与の注視方向において、且つ、所与の物体近接性において、即ち、対応する光線上における物体空間の地点において、像近接性及び物体近接性の合計として、定義することができる。
Pui=ProxO+ProxI
【0052】
同一の表記法により、乱視Astは、すべての注視方向において、且つ、所与の物体近接性において、次式として定義される。
【数9】
【0053】
この定義は、レンズによって生成される光線ビームの非点収差に対応している。この定義は、主注視方向における、古典的な乱視の値を付与していることに留意されたい。通常は、軸と呼称される、乱視角度は、角度γである。角度γは、眼にリンクされたフレーム{Q’,x,y,z}内において計測される。これは、像S又はTが、プレーン{Q’,z,y}内において、方向zとの関係において使用される表記法に依存して形成される、角度に対応している。
【0054】
従って、着用状態における、レンズの屈折力及び非点収差の可能な定義は、B.Bourdoncle et al.,entitled“Ray tracing through progressive ophthalmic lenses”,1990 International Lens Design Conference,D.T.Moore ed.,Proc.Soc.Photo.Opt.Instrum.Eng.という論文において説明されているように、算出することができる。
【0055】
図5は、パラメータα及びβが非ゼロである構成の斜視図を表している。従って、眼の回転の効果は、固定フレーム{x,y,z}と、眼にリンクされたフレーム{x,y,z}と、を示すことにより、示すことができる。フレーム{x,y,z}は、地点Q’においてその原点を有する。軸xは、軸Q’Oであり、且つ、レンズから眼に向かって方向付けられている。y軸は、垂直方向であり、且つ、上向きに方向付けられている。z軸は、フレーム{x,y,z}が、正規直交となり、且つ、直接的となるように、なっている。フレーム{x,y,z}は、眼にリンクされており、且つ、その中心は、地点Q’である。x軸は、注視方向JQ’に対応している。従って、主注視方向の場合には、2つのフレーム{x,y,z}及び{x,y,z}は、同一である。レンズの特性は、いくつかの異なる方法により、且つ、特に、表面において、且つ、光学的に、表現されうることが知られている。従って、表面の特徴判定は、光学的な特徴判定と等価である。ブランクのケースにおいては、表面の特徴判定のみが使用されてもよい。光学的な特徴判定は、レンズが、着用者の処方に従って機械加工済みであることを必要としていることを理解しなければならない。対照的に、眼科レンズのケースにおいては、特徴判定は、表面又は光学的な種類のものであってもよく、これらの特徴判定は、いずれも、2つの異なる視点からの同一物体の記述を可能にする。レンズの特徴判定が、光学的な種類のものである際には、それは、常に、上述のエルゴラマ−眼−レンズ系を参照している。わかりやすさを目的として、説明においては、「レンズ」という用語が使用されているが、それは、「エルゴラマ−眼−レンズ系」であるものと理解しなければならない。
【0056】
光学用語の値は、注視方向において表現することができる。注視方向は、通常、その原点が眼の回転中心であるフレーム内におけるその下向き及び方位角の程度によって付与される。レンズが眼の前面において取り付けられた際には、フィッティングクロスと呼称される地点が、主注視方向において、眼の瞳孔の前面に、或いは、眼の回転中心Q’の前面に、配置される。主注視方向は、着用者がまっすぐ前を見ている状況に対応している。従って、選択されたフレーム内において、フィッティングクロスは、フィッティングクロスが位置決めされているレンズの表面―後部表面又は前部表面―とは無関係において、0°の下向き角α及び0°の方位角βに対応している。
【0057】
図3図5を参照して実施した上述の説明は、中心視力について付与されたものである。周辺視力においては、注視方向が固定されていることから、眼の回転中心の代わりに、瞳孔の中心が検討され、且つ、注視方向の代わりに、周辺光線方向が検討される。周辺視力が検討される際には、角度α及び角度βは、注視方向の代わりに、光線方向に対応している。
【0058】
説明の残りの部分においては、「上部(up)」、「下部(bottom)」、「水平方向(horizontal)」、「垂直方向(vertical)」、「上方(above)」、「下方(below)」のような用語、或いは、相対的な位置を通知するその他の単語が使用されている場合がある。これらの用語は、レンズの着用状態において、理解される必要がある。特に、レンズの「上部(upper)」部分は、負の下向き角α<0°に対応しており、且つ、レンズの「下部(lower)」部分は、正の下向き角α>0°に対応している。同様に、レンズの―或いは、半完成品のレンズブランクの―表面の「上部(upper)」部分は、y軸に沿った正の値に、且つ、好ましくは、フィッティングクロスにおけるy値よりも大きなy軸に沿った値に、対応しており、且つ、レンズの―或いは、半完成品のレンズブランクの―表面の「下部(lower)」部分は、フレーム内のy軸に沿った負の値に、且つ、好ましくは、フィッティングクロスにおけるy値よりも小さなy軸に沿った値に、対応している。
【0059】
着用状態は、例えば、着用時前傾角、角膜からレンズまでの距離、瞳孔−角膜距離、ERCから瞳孔までの距離、ERCからレンズまでの距離、及びラップ角によって定義される、着用者の眼との関係における眼科レンズの位置として理解する必要がある。ERCは、眼の回転中心を表記している。
【0060】
角膜からレンズまでの距離は、角膜とレンズの後部表面の間における(通常は、水平方向であると解釈される)主要位置における眼の視軸に沿った距離であり、例えば、12mmに等しい。
【0061】
瞳孔−角膜距離は、その瞳孔と角膜の間の眼の視軸に沿った距離であり、通常は、2mmに等しい。
【0062】
ERCから瞳孔までの距離は、その眼の回転中心(ERC)と角膜の間における眼の視軸に沿った距離であり、例えば、11.5mmに等しい。
【0063】
ERCからレンズまでの距離は、眼のERCとレンズの後部表面の間における(通常は、水平方向であるものと解釈される)主要位置における眼の視軸に沿った距離であり、例えば、25.5mmに等しい。
【0064】
着用時前傾角は、主要位置における、レンズの後部表面の法線と眼の視軸の間における、(通常は、水平方向であると解釈される)主要位置における、レンズの後部表面と眼の視軸の間の交差点における、垂直方向プレーン内における角度であり、例えば、−8°に等しい。
【0065】
ラップ角は、主要位置における、レンズの後部表面の法線と眼の視軸の間における、(通常は、水平方向であると解釈される)主要位置における、レンズの後部表面と眼の視軸の間の交差点における、水平方向プレーン内における角度であり、例えば、0°に等しい。
【0066】
着用者の状態の一例は、−8°という着用時前傾角、12mmという角膜からレンズまでの距離、2mmという瞳孔−角膜距離、11.5mmというERCから瞳孔までの距離、25.5mmというERCからレンズまでの距離、及び0°というラップ角により、定義されうる。
【0067】
その他の条件が使用されてもよい。着用状態は、所与のレンズについて、光線追跡プログラムから算出されてもよい。
【0068】
先程示したように、注視方向は、通常、着用者の眼の回転中心から定義されている。
【0069】
図6には、レンズを通じて観察される視野ゾーンが概略的に示されている。レンズは、レンズの上部部分内に配置された遠見視力ゾーン26と、レンズの下部部分内に配置された近見視力ゾーン28と、遠見視力ゾーン26と近見視力ゾーン28の間のレンズの下部部分内に位置した中間ゾーン30と、を有する。また、レンズは、3つのゾーンを通過し、且つ、鼻側と側頭側を定義する、主子午線32をも有する。
【0070】
本発明は、人物の眼の前に配置される、且つ、前記人物に適合された、光学レンズの屈折力を判定する方法に関する。
【0071】
図7に示されているように、本発明による方法は、
− 第1距離判定ステップS1と、
− 第2距離判定ステップS2と、
− 屈折力判定ステップS3と、
を有する。
【0072】
第1距離判定ステップS1においては、第1注視距離が判定される。第1注視距離は、人物が第1注意レベルによって所与の注視方向において第1視覚刺激を注視した際の人物の眼と前記第1視覚刺激の間の距離である。
【0073】
人物の眼と視覚刺激の間の距離は、人物の瞳孔と視覚刺激の基準点の間の距離として定義することができる。
【0074】
好ましくは、視覚刺激は、人物の正中面内において位置決めされており、従って、着用者の両眼と視覚刺激の間の距離は、実質的に同一である。
【0075】
視覚刺激は、通常、例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、コンピュータ画面、又はTV画面などの、画面上において印刷又は表示された文章又は画像である。
【0076】
人物の注視方向は、例えば、人物が特定の注視方向のみにおいて見ることを許容する装置を使用することにより、課されてもよい。
【0077】
人物は、特定の注視方向において注視するように単純に要求されてもよい。注視方向は、例えば、眼追跡装置を使用することにより、人物が特定の注視方向において注視していることをチェックするように、判定されてもよい。
【0078】
第1距離判定ステップにおいて、人物は、視覚刺激と自身の眼の間の距離を適合させることができる。従来技術による方法においては、この距離は固定されている。例えば、眼科医が近見視力の屈折力を判定する際には、眼科医は、近見視力に適合された前記屈折力を判定するべく、通常は、40cmである、所与の距離において、視覚刺激を配設する。
【0079】
第1距離は、人物が、第1注意レベルによって第1視覚刺激を注視するべく、前記第1視覚刺激を配置した距離に対応している。
【0080】
距離は、例えば、
− 光学モーション追跡、或いは、
− 超音波測距器、或いは、
− 計測テープ、
− ビデオカメラ及び画像処理(Visioffice(登録商標)など)、或いは、
− 人物を搬送する動作を識別し(カメラ及び画像処理)、且つ、注視されている物体までの距離を計測する、スマートフレームの人物への配備、
を使用することにより、任意の既知のプロセスによって判定することができる。
【0081】
第1距離判定ステップにおいては、人物は、第1注意レベルによって第1視覚刺激を注視するように、要求される。
【0082】
人物の注意レベルは、2つのタスクを同時に実行する人物の能力に基づいて判定することができる。例えば、人物が主タスクを実行しつつ、要求に対して短時間において応答した場合には、主タスクに向かう人物の注意レベルは、小さいものと見なされる。その代わりに、人物が長い応答時間を示す場合には、主タスクに向かう人物の注意レベルは、高いものと見なすことができる。例えば、人物が、システムの要求に応答するのに、3秒超を所要した場合には、注意レベルは高いものと見なされてもよく(Kim及びRieh、2005年)、この時間は、人物及び/又は人物の環境及び/又は活動に基づいてカスタマイズされてもよい。
【0083】
人物の注意レベルは、生理学的なマーカーに基づいて判定されてもよい。例えば、人物の心拍数が考慮されてもよい。タスクに向かう人物の注意レベルは、その人物の現時点の心拍数とその人物の平均心拍数の間の差にリンクされてもよい。例えば、心拍数が、少なくとも、平均で15拍/秒である場合には、その人物の注意レベルは、高いものと見なしてもよく(Dehais他、2012年)、この差のレベルは、人物及び/又は人物の環境及び/又は活動に基づいてカスタマイズされてもよい。
【0084】
人物の注意レベルは、脳マーカーに基づいて判定されてもよい。近赤外線分光法(NIRS:Near InfraRed Spectroscopy)を使用することにより、酸化ヘモグロビン(rSO2)レベルに対する脱酸素化ヘモグロビンレベルの比率は、人物の注意レベルの通知を提供することができる。例えば、酸化ヘモグロビン(rSO2)に対する脱酸素化ヘモグロビンレベルの比率が70%未満である場合には、人物の注意レベルは、高いものと見なしてもよく(Braasch、2010年を参照されたい)、この差のレベルは、人物及び/又は人物の環境及び/又は活動に基づいてカスタマイズされてもよい。
【0085】
人物の注意レベルは、眼トラッカ装置を使用することによって判定されてもよい。
【0086】
通常、眼トラッカ装置は、人物の瞳孔の直径を判定するべく、使用することができる。人物の通常の瞳孔の直径を知ることにより、この直径の変動を判定することができる。直径が増大した場合には、人物の注意レベルは、高いものと見なしてもよい。直径が、その通常のレベルにおいて留まっている場合には、人物の注意レベルは、低いものと見なしてもよい。例えば、1mm超の増大は、高い注意レベルの通知として見なされてもよく(Hossain及びYeasin、2014年)、この増大のレベルは、人物及び/又は人物の環境及び/又は活動に基づいてカスタマイズされてもよい。
【0087】
眼トラッカ装置は、人物の瞬きの頻度を判定するべく、使用されてもよい。瞬きの頻度が低下した場合には、それは、人物の注意レベルが増大したという通知でありうる。例えば、17回の瞬き/分未満の瞬きの頻度は、高い注意レベルの通知として見なされてもよく(Benedetto他、2011年)、この頻度は、人物及び/又は人物の環境及び/又は活動に基づいてカスタマイズされてもよい。
【0088】
眼トラッカ装置は、人物の注視方向を判定するべく、使用されてもよい。例えば、眼追跡装置は、人物が周辺又は焦点眼球運動を有しているかどうかを判定するべく、使用することができる(Follet Le Meur Baccino、2011年)。人物が焦点運動を実行した、即ち、人物が自身の視覚環境の詳細に対して合焦した、場合には、人物の注意レベルは、高いものと見なしてもよい。人物が周辺運動を有している、即ち、人物が環境の1つの所与のエリアにのみ合焦してはおらず、様々なエリアの間において規則的に切り替えている、場合には、その人物の注意レベルは、低いものと見なしてもよい。
【0089】
第2距離判定ステップS2において、第2注視距離が判定されている。
【0090】
第2注視距離は、人物が、前記所与の注視方向において、第2注意レベルによって第2視覚刺激を注視している際の人物の眼と前記第2視覚刺激の間の距離である。
【0091】
第2注意レベルは、第1注意レベルと異なっている。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、第2視覚刺激は、第1視覚刺激と同一であってもよい。注意レベルは、環境パラメータを使用して変更される。
【0093】
例えば、第1距離判定ステップにおいては、人物は、音楽が自身の周りにおいて再生されている際に、文章を判読するように要求され、且つ、第2距離判定ステップにおいては、人物は、同一の文章を静かな環境において判読するように要求される。人物が必要とする注意レベルが、第1及び第2距離判定ステップを実行する際には、異なっている。判読の動作は、黙読であってもよく、或いは、音読であってもよい。
【0094】
更なる一実施形態によれば、第2視覚刺激は、第1視覚刺激と異なっていてもよい。例えば、第1視覚刺激は、句読点を有する文章であってもよく、且つ、第2視覚刺激は、句読点が除去されることにより、文章の判読及び理解が相対的に複雑化し、これにより、その文章を判読する際に人物の相対的に高い注意レベルが必要とされる、文章であってもよい。
【0095】
また、視覚刺激及び環境は、人物に対して適合されてもよい。実際に、異なる人物が、所与の視覚刺激において、同一の注意レベルを必要としていない場合がある。
【0096】
一実施形態によれば、第1及び第2視覚刺激は、例えば、30〜50cmなどの、50cm未満の距離において実行される、近見視力距離に位置している。例えば、第1及び第2視覚刺激は、文章であり、人物の注意レベルは、判読対象の文章の複雑性に基づいて適合されている。
【0097】
本発明の一実施形態によれば、第1及び第2視覚刺激は、例えば、50cmを上回ると共に1mを下回る距離において実行される、中間見視力距離に位置している。例えば、第1及び第2視覚刺激は、コンピュータ画面上において表示され、且つ、人物の注意レベルは、文章のタイプ入力及びビデオの視聴又はビデオゲームの実行などの、コンピュータ上において人物によって実行されるタスクの複雑さに基づいて適合される。
【0098】
屈折力判定ステップにおいては、人物に適合された少なくとも1つの屈折力が、第1及び第2距離に基づいて判定されている。
【0099】
本発明の一実施形態によれば、注視方向と関連した複数の屈折力が判定されてもよい。例えば、第1距離に対応する第1屈折力及び第2距離に対応する第2屈折力が判定されてもよい。
【0100】
本発明の一実施形態によれば、注視方向について、単一の屈折力が判定されている。
【0101】
単一の屈折力は、単一の距離に基づいて判定されてもよい。単一の距離は、例えば、第1及び第2距離の組合せに基づいている。
【0102】
単一の屈折力は、第1及び第2屈折力の組合せに基づいて判定されてもよい。第1及び第2屈折力は、それぞれ、第1及び第2距離に基づいて判定される。
【0103】
通常、単一の距離又は単一の屈折力は、それぞれ、第1及び第2距離並びに第1及び第2屈折力の重み付けされた合計に基づいて判定されてもよい。
【0104】
重み付けされた合計の係数は、少なくとも、第1又は第2注意レベルによって前記活動を実行する人物によって日々消費される時間の頻度及び/又は量に基づいて判定されてもよい。
【0105】
例えば、人物が、高い集中レベルを必要とする近見視力タスクを実行するのに自身の時間の80%を消費していることを通知している場合には、最高の注意レベルを有すると判定された距離又は屈折力の係数が、相応して重み付けされる。
【0106】
単一の屈折力は、人物のぼやけの許容範囲に基づいて、更に判定されてもよい。例えば、人物は、それぞれの刺激ごとに、自身のぼやけの許容範囲を評価するように、求められる。例えば、人物は、「あなたは、TVを見る際に、ぼやけた視力を受け入れることができるか」という質問に対して2という点数を通知してもよく、且つ、「あなたは、契約書を読む際に、ぼやけた視力を受け入れることができるか」という質問に対して4という点数を通知してもよい。「契約書を読む」という活動に関連した屈折力又は距離は、「TVを見る」という活動と関連した屈折力又は距離の重みよりも2倍だけ大きい重みを有することができる。
【0107】
図8に示されているように、本発明は、人物に適合された光学レンズの光屈折関数を判定する方法に更に関する。
【0108】
方法は、
− 人物データ提供ステップS10と、
− 光屈折関数判定ステップS11と、
を有する。
【0109】
人物データ提供ステップS10においては、人物の眼科処方を有する人物データが提供される。人物の眼科処方は、少なくとも、本発明の方法に従って判定された第1及び第2注視距離を有する。
【0110】
或いは、この代わりに、眼科処方は、少なくとも第1及び第2距離に基づいて判定された1つの屈折力を有していてもよく、或いは、少なくとも、それぞれ第1及び第2距離に基づいて判定された第1及び第2屈折力を有することもできる。
【0111】
光屈折関数判定ステップにおいては、光屈折関数が、少なくとも第1及び第2注視距離に基づいて判定される。
【0112】
図9は、本発明の一実施形態に従って判定された眼科レンズの子午線に沿った屈折力を示している。x軸は、ジオプトリを単位として目盛が付与されており、且つ、y軸は、度を単位として、レンズ上における高さを付与している。屈折力プロファイル40は、従来技術による屈折力プロファイルに対応しており、屈折力プロファイル50は、本発明の方法によって得られた屈折力に対応している。
【0113】
この例においては、人物は、自身が、低い注意レベルを必要とする活動の実行に、自身の時間の80%を消費し、且つ、高い注意レベルを必要とする活動の実行に、自身の時間の20%を消費していることを示している。
【0114】
本発明の方法を使用することにより、その人物が、高い注意レベルを必要とする活動を実行している際を視覚刺激と自身の眼の間において約35cmの距離を有する傾向として、且つ、その人物が、低い注意レベルを必要とする活動を実行する際を視覚刺激と自身の眼の間において約48cmの距離を有する傾向として、判定することができる。
【0115】
このような距離及び人物によって消費される時間に基づいて、レンズ設計者は、加入度Add=A0.8+B0.2を有するように、光屈折関数を変更してもよく、この場合に。Aは、48cmにおいて明瞭な視力を提供するための加入度であり、且つ、Bは、35cmにおいて明瞭な視力を提供するための加入度である。
【0116】
有利には、このケースにおいて、加入度は、従来技術の方法に対応する、40cmにおける明瞭な視力を有するのに必要とされる加入度よりも、小さい。従って、これは、相対的に少ない光学収差を有すると共に人物の視覚ニーズに相対的に良好にフィットした光学設計を提供する。
【0117】
図10に示されている、本発明の更なる一実施形態によれば、光学設計は、加入度の変化のみならず、屈折力が眼科レンズの子午線に沿って分布する方式の変化をも有することができる。
【0118】
図10に示されているように、光学設計は、少なくとも、異なる注視距離又は屈折力に対応する安定化された屈折力の第1及び第2ゾーンを有するマルチ安定化ゾーン設計であってもよい。
【0119】
マルチ安定化ゾーン設計を提供するべく、レンズ設計者は、例えば、少なくとも4°の角度範囲にわたって、安定化された屈折力の2つのゾーンを有する既知の最適化法を使用することにより、光学設計を判定してもよく、この場合に、屈折力の変動は、安定化された屈折力の2つのゾーンの間において、0.1ジオプトリ/度以下である。
【0120】
好ましくは、それぞれの安定化された屈折力のゾーンは、本発明の方法が実行される注視方向に対応した角度の両側において、所定の角度において配置されている。
【0121】
2つの安定化された屈折力のゾーンは、度を単位とした等価なサイズを有することができる。
【0122】
図10の例においては、本発明の方法の注視方向は、20°であり、且つ、計測値は、人物が、低い注意レベルの活動の場合には、2.5ジオプトリの加入度を必要としうると共に、高い注意レベルの活動の場合には、2.9ジオプトリの加入度を必要としうることを提供している。
【0123】
屈折力は、2.5ジオプトリの加入度に対応した12°〜18°の第1安定化ゾーンと、2.9ジオプトリの加入度に対応した22°〜28°の第2安定化ゾーンと、を有する。
【0124】
従って、人物は、低い注意レベルを必要とする活動を実行する際には、第1安定化ゾーンを使用してもよく、且つ、高い注意レベルを必要とする活動を実行する際には、第2安定化ゾーンを使用してもよい。
【0125】
図10においては、両方の安定化ゾーンが、同一の角度範囲をカバーしているが、本発明は、このような構成に限定されるものではない。例えば、映画の視聴などの、低い注意レベルを必要とする活動に対応した第1ゾーンは、読書などの、高い注意レベルを必要とする活動に対応した第2ゾーンよりも大きな角度範囲をカバーすることができる。
【0126】
好ましくは、図10に示されているように、第1安定化ゾーンは、0°未満の、好ましくは、10°未満ではない、角度まで延在してはいない。
【0127】
以上の例は、近距離視力についてのものであるが、同様に、中間距離視力にも適用されうる。
【0128】
本発明は、人物に適合された眼科レンズを製造する方法にも関し、方法は、
− レンズブランクが提供されるレンズブランク提供ステップと、
− 本発明の方法に従って判定された光屈折関数が提供される光屈折関数提供ステップと、
− 光学レンズブランクが光屈折関数に基づいて加工される加工ステップと、
を有する。
【0129】
以上、一般的な発明概念の限定を伴うことなし、実施形態の支援により、本発明について説明したが、特に、取り付けられる検知装置は、頭部取付型の装置に限定されるものではない。
【0130】
当業者は、例として付与されるに過ぎないと共に添付の請求項によってのみ決定される本発明の限定を意図してはいない、以上の例示用の実施形態を参照した際に、多くの更なる変更及び変形について想起することになろう。
【0131】
請求項においては、「有する(comprising)」という単語は、その他の要素又はステップを排除するものではなく、且つ、不定冠詞「a」又は「an」も、複数形を排除するものではない。異なる特徴が相互に異なる従属請求項において記述されているという事実は、それのみにより、それらの特徴の組合せが有利に使用されえないことを通知するものではない。請求項におけるすべての参照符号は、本発明の範囲の限定として解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10