(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786051
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム部材の成形装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/30 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
B29D30/30
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-221239(P2016-221239)
(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公開番号】特開2018-79571(P2018-79571A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】内海 大輔
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−071261(JP,A)
【文献】
特開2014−233932(JP,A)
【文献】
特開2002−172709(JP,A)
【文献】
特開2013−202912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
B65G 15/30−15/58,
21/00−20/22
B65H 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のゴムストリップを、アプリケーターを介して供給することにより、成形ドラム上に螺旋状に巻回して貼り付けてタイヤ用ゴム部材を成形するタイヤ用ゴム部材の成形装置であって、
前記アプリケーターが、
前記ゴムストリップを前記成形ドラムに向けて搬送するアプリケーターベルトと、
前記アプリケーターベルトに対向して配置されて、前記ゴムストリップを前記アプリケーターベルトに押え付ける上押えベルトとを備えており、
前記上押えベルトの外周面に、前記上押えベルトの回転方向に対して垂直な横縞の平滑面が形成されていることを特徴とするタイヤ用ゴム部材の成形装置。
【請求項2】
前記上押えベルトの回転方向における前記横縞の平滑面の長さおよび間隔がそれぞれ一定であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置。
【請求項3】
前記横縞の平滑面の表面粗さRaが、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置。
【請求項4】
前記横縞の平滑面でない部分の表面粗さRaが、0.5〜1.0μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置。
【請求項5】
前記上押えベルトの長さに対して、前記横縞の平滑面が占める割合が、30〜50%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状のゴムストリップを成形ドラムに供給して螺旋状に巻回することにより、タイヤ用ゴム部材を成形するタイヤ用ゴム部材の成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造工程においては、成形ドラムに帯状のゴムストリップを螺旋状に巻回して貼り付けることにより、タイヤ用ゴム部材を成形するストリップワインド方式が広く用いられている。
【0003】
このストリップワインド方式では、アプリケーターを介して帯状のゴムストリップを成形ドラムに向けて供給する際、成形ドラムの軸方向に沿ってアプリケーターを移動させながら供給することにより、成形ドラム上に螺旋状に巻回して貼り付けている。
【0004】
具体的には、アプリケーターは、ゴムストリップを搬送するアプリケーターベルト、および搬送されるゴムストリップをアプリケーターベルトに押える上押えベルトの上下一対のベルトを備えており、この上下一対のベルトでゴムストリップを挟み込んで成形ドラムに向けて送り出している(例えば特許文献1)。
【0005】
このとき、一般的に、この上下一対のベルトには、樹脂や手織り布をベルトに用いた搬送ベルトが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−71261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアプリケーターの場合、ゴムストリップの粘着力が高くなると、ゴムストリップが上押えベルトに密着してアプリケーターから剥がれなくなり、ゴムストリップの巻き込みを生じて、ラインの一時停止を招くため、生産性の低下を招く恐れがある。
【0008】
そこで、このような不具合の発生を防止するために、従来より、上押えベルトとして、ゴムストリップとの密着性が抑制されたベルトを使用したり、ゴムストリップを挟み込む力を小さくしたりして、ゴムストリップの上押えベルトへの密着を防止している。
【0009】
しかし、いずれの上押えベルトを用いた場合でも、ゴムストリップの上押えベルトへの密着は防止できるものの、上押えベルトでゴムストリップが拘束され難くなるため、成形ドラムへの貼り付けに際して、成形ドラム上を横方向に移動するアプリケーターによって横方向の力が掛かると、狙いの位置とは異なる位置にゴムストリップが貼り付けられて、貼り付けピッチが大きくバラつくという問題が発生する恐れがある。
【0010】
そこで、本発明は、ゴムストリップをアプリケーターによって成形ドラムに供給するに際して、ゴムストリップの上押えベルトへの密着を防止すると共に、横方向の力が掛かった場合でも、成形ドラムの狙いの位置に精度高くゴムストリップを供給して、貼り付けピッチのばらつきの程度を小さくすることができるタイヤ用ゴム部材の成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
請求項1に記載の発明は、
帯状のゴムストリップを、アプリケーターを介して供給することにより、成形ドラム上に螺旋状に巻回して貼り付けてタイヤ用ゴム部材を成形するタイヤ用ゴム部材の成形装置であって、
前記アプリケーターが、
前記ゴムストリップを前記成形ドラムに向けて搬送するアプリケーターベルトと、
前記アプリケーターベルトに対向して配置されて、前記ゴムストリップを前記アプリケーターベルトに押え付ける上押えベルトとを備えており、
前記上押えベルトの外周面に、前記上押えベルトの回転方向に対して垂直な横縞の平滑面が形成されていることを特徴とするタイヤ用ゴム部材の成形装置である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、
前記上押えベルトの回転方向における前記横縞の平滑面の長さおよび間隔がそれぞれ一定であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、
前記横縞の平滑面の表面粗さRaが、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、
前記横縞の平滑面でない部分の表面粗さRaが、0.5〜1.0μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、
前記上押えベルトの長さに対して、前記横縞の平滑面が占める割合が、30〜50%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム部材の成形装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゴムストリップをアプリケーターによって成形ドラムに供給するに際して、ゴムストリップの上押えベルトへの密着を防止すると共に、横方向の力が掛かった場合でも、成形ドラムの狙いの位置に精度高くゴムストリップを供給して、貼り付けピッチのばらつきの程度を小さくすることができるタイヤ用ゴム部材の成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置の上押えベルトの外周面に形成された横縞の平滑面の例を説明する平面図である。
【
図3】従来の上押えベルトの外周面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置について具体的に説明する。
【0020】
1.タイヤ用ゴム部材の成形装置の基本的な構成
図1は本実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置を模式的に示す側面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置1は、基本的な構成としては従来のタイヤ用ゴム部材の成形装置と同様であり、アプリケーター10と成形ドラム5とを備えている。なお、アプリケーター10は、成形ドラム5の軸方向に沿って横移動可能である。
【0021】
アプリケーター10は、ゴムストリップGを成形ドラム5に向けて搬送するアプリケーターベルト12と、ゴムストリップGをアプリケーターベルト12に押え付ける上押えベルト14とを備えている。
【0022】
アプリケーターベルト12は、駆動ローラー20と従動ローラー21〜23とテンションローラー24とに掛け渡されている。従動ローラー22と従動ローラー23との間に配置されているベルト支持部材28は、アプリケーターベルト12の内周面に若干離隔して対向するように配置されている。アプリケーターベルト12は、図示しない駆動機構によって駆動ローラー20を回転させることにより、ベルト上に載置されたゴムストリップGを成形ドラム5に向けて搬送する。
【0023】
上押えベルト14は、従動ローラー25〜27に掛け渡されており、アプリケーターベルト12に対向して配置されている。上押えベルト14は、アプリケーターベルト12上を搬送されているゴムストリップGを押え付けることにより、搬送されるゴムストリップGをアプリケーターベルト12上に拘束している。
【0024】
2.本実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置の特徴
前記したように、本実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置は、基本的な構成は従来と同様であるが、上押えベルトの外周面に横縞の平滑面が形成されている点が本発明の特徴である。
【0025】
図2は、本実施の形態に係るタイヤ用ゴム部材の成形装置の上押えベルトの外周面に形成された横縞の平滑面の例を説明する平面図であり、
図3は従来の上押えベルトの外周面を示す平面図である。
【0026】
即ち、本実施の形態においては、
図2(A)〜(C)に示すように、上押えベルト14の外周面に、上押えベルト14(
図1参照)の回転方向に対して垂直な横縞の平滑面33が形成されていることを特徴としている。上押えベルトの回転方向における横縞の平滑面の長さおよび間隔は適宜定めることができる、但し、横縞の平滑面の長さおよび間隔はそれぞれ一定であることが好ましい。
【0027】
なお、
図2(A)〜(C)において、32は上押えベルト14の作製時に形成されたジョイント部であり、表面は平滑に加工されている。そして、上押えベルト14において、横縞の平滑面33およびジョイント部32以外の部分は、粗面34が形成されている。
【0028】
ここで、平滑面の平滑さは、搬送されるゴムストリップを拘束可能に密着させることができる程度の平滑さであり、また、粗面の粗さは、搬送されるゴムストリップの密着を抑制することができる程度の粗さである。
【0029】
図3に示す従来の上押えベルト14は粗面34だけで形成されているため、搬送中のゴムストリップを十分に拘束することができず、ゴムストリップの搬送時に貼り付けピッチのばらつきの程度が大きくなり、成形されたゴム部材においてゴムストリップの大きな段差ができ、その結果、スジ状の内外観不良が発生していた。
【0030】
これに対して、本実施の形態においては、上記したように上押えベルト14の外周面に横縞の平滑面33が形成され、平滑面33と粗面34とが交互に形成されている。これにより、平滑面33では搬送されてきたゴムストリップが十分に拘束されてアプリケーターの先端まで位置ずれを起こすことなく搬送される。一方、粗面34では搬送されてきたゴムストリップの密着が抑制されるため、アプリケーターの先端で発生する上押えベルト14へのゴムストリップの巻き込みを十分に抑制することができる。
【0031】
そして、本実施の形態においては、ゴムストリップを密着させる平滑面が横縞に形成されているため、ゴムストリップの全幅にわたって上押えベルトと密着して、横方向への力に対抗することができる。
【0032】
本実施の形態においては、上記したこれらの効果が相俟って、上押えベルト14からゴムストリップの巻き込みが発生することなく、成形ドラムの狙いの位置に向けて精度高くゴムストリップを供給することができる。この結果、ゴムストリップの成形ドラムへの貼り付け精度を向上させることが可能となり、貼り付けピッチのばらつきの程度を小さくすることができ、貼り付け時におけるゴムストリップの大きな段差の発生を抑制でき、成形されたローカバーにおけるスジ状の内外観不良の発生を抑制することができる。
【0033】
そして、貼り付け精度の向上は、ゴムストリップの成形作業の高速化を図ることができるため、生産性を向上させることができる。
【0034】
なお、本実施の形態において、平滑面33における表面粗さRaは0.2μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.2μmを超えると、上押えベルトでゴムストリップの位置を拘束し難くなる。
【0035】
一方、粗面34における表面粗さRaは0.5〜1.0μmであることが好ましい。表面粗さRaが0.5μm未満の場合はゴムストリップが上押えベルトに巻き込まれ易くなり、表面粗さRaが1.0μmを超える場合は上押えベルトでゴムストリップの位置を拘束し難くなる。
【0036】
上押えベルト14の長さに対して、横縞の平滑面33が占める割合は、30〜50%であることが好ましい。横縞の平滑面33が占める割合が30%未満の場合は、ゴムストリップGと上押えベルト14との密着が弱くなり過ぎて、ゴムストリップの貼り付けの位置のばらつきが大きくなる。一方、横縞の平滑面33が占める割合が50%を超える場合は、ゴムストリップGと上押えベルト14との密着が強くなり過ぎて、ゴムストリップGが上押えベルト14に巻き込まれ易くなる。
【0037】
また、本実施の形態において、上記した上押えベルト14の外周面の加工方法としては、アイロン処理方法が好ましく採用される。具体的なアイロン処理方法としては、上押えベルト14の横縞を設けようとする箇所に、高温の平面プレス処理を施すことにより、プレス処理を施した部分の表面粗さRaを小さくして、上押えベルト14の外周面の表面粗さRaに差をつける方法を挙げることができる。また、予め平滑化された上押えベルト14の粗面34を設けようとする箇所に、ローレット処理を施した高温のロールでプレス処理を施すことにより、プレス処理を施した部分の表面粗さRaを大きくして、上押えベルト14の外周面の表面粗さRaに差をつける方法も採用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0039】
1.実施例1〜5
実施例では、
図1に示す本発明の実施の形態の成形装置において、横縞の平滑面33(表面粗さRa:0.20μm)が
図2の上押えベルト14の長さに対して占める割合が、10%、30%、50%、70%、90%の5種類に変化させた上押えベルト14を用いて、一定速度で成形ドラム5に対して横方向に移動するアプリケーター10を用いて成形ドラム5にゴムストリップGを巻回し、貼り付けた。なお、この時、基準線から成形ドラムへ巻回して貼り付けられたゴムストリップの中心線までの距離(ピッチ)は13.4mmを基準とした。そして、粗面34における表面粗さRaは0.50μmとした。
【0040】
2.比較例
比較例では、
図3に示す従来の上押えベルト14を用いたこと以外は実施例と同じ条件で成形ドラム5にゴムストリップGを巻回し、貼り付けた。
【0041】
3.評価およびその結果
(1)ピッチばらつき
各実施例および比較例において、基準線から成形ドラムへ巻回して貼り付けられたゴムストリップの中心線までの距離(ピッチ)を実測し、基準ピッチに対するばらつきを求め、評価した。
【0042】
(2)貼り付けトラブルの発生の有無
併せて、成形ドラムへの貼り付け時、ゴムストリップが上押えベルトに密着してアプリケーターから剥がせず成形ドラムに貼り付けできない貼り付けトラブルの発生の有無を測定した。
【0043】
(3)結果
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より上押えベルトに横縞の平滑面を形成させることにより(実施例1〜5)、比較例に比べて、ピッチのばらつきが小さくなっており、ゴムストリップの成形ドラムへの貼り付け精度が向上していることが分かる。
【0046】
しかし、実施例4、実施例5では貼り付けトラブルが発生しており、横縞の平滑面が占める割合が大きくなり過ぎると、ピッチのばらつきが小さくなっても、ゴムストリップを成形ドラムへ十分な状態で貼り付けることができなくなることが分かる。
【0047】
また、実施例2および実施例3において、横縞の平滑面の表面粗さRaが0.2μmを超えた場合には、ピッチばらつきが0.8以上になり、表1よりもピッチばらつきが大きくなることが確認された。そして実施例2および実施例3において、横縞の平滑面でない部分の表面粗さRaが0.5未満の場合は貼り付けトラブルが少し発生することが確認された。また横縞の平滑面でない部分の表面粗さRaが1.0μmを上回った場合にはピッチばらつきが0.8以上になり、表1よりもピッチばらつきが大きくなることが確認された。
【0048】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 タイヤ用ゴム部材の成形装置
5 成形ドラム
10 アプリケーター
12 アプリケーターベルト
14 上押えベルト
20 駆動ローラー
21、22、23 (アプリケーターベルトの)従動ローラー
24 テンションローラー
25、26、27 (上押えベルトの)従動ローラー
28 ベルト支持部材
32 ジョイント部
33 (横縞の)平滑面
34 粗面
G ゴムストリップ