特許第6786057号(P6786057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6786057機能性成分徐放性繊維、該繊維を有する繊維構造物及び肌着並びにそれらの再生処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786057
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】機能性成分徐放性繊維、該繊維を有する繊維構造物及び肌着並びにそれらの再生処理方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/54 20060101AFI20201109BHJP
   D06M 13/00 20060101ALI20201109BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20201109BHJP
【FI】
   D01F6/54 A
   D06M13/00
   D06M101:28
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-512053(P2018-512053)
(86)(22)【出願日】2017年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2017015031
(87)【国際公開番号】WO2017179633
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2019年10月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-81080(P2016-81080)
(32)【優先日】2016年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田憲二
(72)【発明者】
【氏名】溝部穣
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−325940(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/027910(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/010590(WO,A1)
【文献】 特開2008−155566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 − 6/96
D01F 9/00 − 9/04
D06M 10/00 − 16/00
D06M 19/00 − 23/18
A61K 8/00 − 9/04
A61K 47/00 − 47/69
A61Q 1/00 − 90/00
B01J 20/00 − 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤度が0.7〜2.0g/gであって、20℃、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が15〜70%である親水性繊維中に機能性成分を含む機能性成分徐放性繊維であって、繊維0.5gを純水25mLに25℃、30分間浸漬したときの機能性成分の溶出率が30〜90%であることを特徴とする機能性成分徐放性繊維
【請求項2】
機能性成分が、植物抽出エキス類、ビタミン類、油脂類、脂肪酸類、血行促進剤、むくみ改善剤、スリム化剤、鎮痛剤、保湿剤のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の機能性成分徐放性繊維
【請求項3】
親水性繊維が、架橋構造とカルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性成分徐放性繊維。
【請求項4】
機能性成分が水溶性又は水分散性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維を有する繊維構造物。
【請求項6】
肌着、靴下、タオル、シーツ、手袋、パジャマ、セーター、タイツ、バスローブの中から選択されたものであることを特徴とする請求項5に記載の繊維構造物。
【請求項7】
使用することにより機能性成分含有量の低下した請求項1〜4のいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維、もしくは、請求項5または6に記載の繊維構造物に機能性成分含有液を付与することを特徴とする機能性成分徐放性繊維の再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性成分徐放性繊維、該繊維を有する繊維構造物及び肌着並びにそれらの再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性成分含有液に繊維構造物を浸漬し、機能性成分を繊維構造物に多量に吸収、保持させて、肌に機能性成分を多量に付与する方法が知られている。例えば、特許文献1では、皮膚を保湿成分や制汗成分などの機能剤で湿潤させるのに好適な皮膚湿潤シートが開示されている。このような湿潤シートは、繊維ウェブに機能剤含有液を多量に吸収させることができるため、パック用のフェイスマスクなどに好適に利用することが出来る。
【0003】
また、特許文献2には、機能性成分を効率よく取り込み、徐放できるようにした横断面がC字型の中空繊維が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には酸性基含有重合体とアミノ酸誘導体とがイオン結合してなるスキンケア性能を有する重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3668184号公報
【特許文献2】特開2009−84716号公報
【特許文献3】特許第4796845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の湿潤シートは機能性成分を多量に保持できるため、シートを肌に付着させるとすぐに機能性成分による効果が得られるが、徐放しているとは言い難い。さらに、このような湿潤シートは、肌着などの繊維製品に利用することは困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載の異形断面の中空糸は、加工や繰り返し使用によって横断面の形状が変形してしまうと機能性成分の取り込みや徐放が効率的に出来なくなるといった問題がある。また、このような異形断面繊維を得るためには、特殊な紡糸ノズル、高度な技術が必要となることからあまり実用的ではない。
【0008】
さらに、引用文献3に記載の重合体は、アミノ酸誘導体を酸性基含有重合体とイオン結合させたものであるが、アミノ酸誘導体は官能基量が多く、イオン結合が強いものであるため、汗などの電解質塩類に対しては、アミノ酸誘導体が溶出するが、純水中ではほとんど溶出しない。このため、汗をかかなければアミノ酸誘導体は溶出されないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたもので、その目的は、適度な水膨潤度、飽和吸湿率を有することで、様々な機能性成分を繊維中心部にまで取り込み、純水中であっても徐放することができ、さらに繰り返し利用においても取り込み、徐放性能を維持できることから肌着などの繊維製品として好適に利用することのできる機能性成分徐放性繊維、該繊維を有する繊維構造物及び肌着並びにそれらの再生処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。
[1]水膨潤度が0.7〜2.0g/gであって、20℃、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が15〜70%である親水性繊維中に機能性成分を含む機能性成分徐放性繊維であって、繊維0.5gを純水25mLに25℃、30分間浸漬したときの機能性成分の溶出率が30〜90%であることを特徴とする機能性成分徐放性繊維
[2]機能性成分が、植物抽出エキス類、ビタミン類、油脂類、脂肪酸類、血行促進剤、むくみ改善剤、スリム化剤、鎮痛剤、保湿剤のいずれかであることを特徴とする[1]に記載の機能性成分徐放性繊維
[3]親水性繊維が、架橋構造とカルボキシル基を有するものであることを特徴とする[1]または[2]に記載の機能性成分徐放性繊維。
]機能性成分が水溶性又は水分散性であることを特徴とする[1]からのいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維を有する繊維構造物。
[6]肌着、靴下、タオル、シーツ、手袋、パジャマ、セーター、タイツ、バスローブの中から選択されたものであることを特徴とする[5]に記載の繊維構造物。
[7]使用することにより機能性成分含有量の低下した[1]〜[4]のいずれかに記載の機能性成分徐放性繊維、もしくは、[5]又は[6]に記載の繊維構造物に機能性成分含有液を付与することを特徴とする機能性成分徐放性繊維の再生処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性成分徐放性繊維は、特殊な紡糸ノズルを用いることなく簡便な方法で製造することができ、適度な水膨潤度と飽和吸湿率を有することから、様々な機能性成分を繊維中心部にまで取り込むことができ、取り込んだ機能性成分を徐放する機能を有する。これにより、例えば直接皮膚に接触すると炎症を起こしやすい機能性成分の肌への付与や、炎症を起こしやすい肌の弱い人が機能性成分を肌に付与する場合であっても、炎症を抑制しつつ、機能性成分による効果を享受することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳述する。本発明の機能性成分徐放性繊維は20℃、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が15〜70%であって、水膨潤度が0.7〜2.0g/gである親水性繊維に機能性成分を含有する水溶液を噴霧する等の方法で、親水性繊維中に機能性成分を含有させたものである。かかる機能性成分徐放性繊維は適度な水膨潤度と飽和吸湿率を有するため、機能性成分を繊維中心部にまで多く取り込むことができ、その結果、繊維表面と繊維中心部での機能性成分の放出時間に差が生まれ、取り込まれた機能性成分が短時間ですべて放出されずに徐放性が発現する。
【0013】
ここで、本発明の徐放性繊維とは、後述する方法で測定した際の機能性成分溶出率が、好ましくは30〜90%、より好ましくは40〜85%であるものである。機能性成分溶出率が30%未満の場合、溶出量が少なすぎるために、十分な機能性成分の効果が得られない場合がある。また、機能性成分溶出率が90%を超える場合には機能性成分が一度に溶出してしまうために徐放による持続的な効果が得られない場合がある。
【0014】
また、念のために付言しておくと、上記の溶出率の範囲はあくまで大量の水に機能性成分徐放性繊維を浸漬した際の溶出率であって、実際の使用環境において溶出する量ではない。すなわち、実際には吸湿することによって繊維中に存在するごく少量の水に、機能性成分が溶解または分散したような状態で放出されて、様々な機能が発現するものと考えられる。しかしながら、そのような少量の水に接触した際の機能性成分の溶出量を安定的に測定することは容易ではないため、本発明では、後述する機能性成分溶出率により評価した。
【0015】
本発明に採用する親水性繊維は、水膨潤度が好ましくは0.7〜2.0g/g、より好ましくは1.0〜1.8g/gの繊維である。水膨潤度を0.7〜2.0g/gとすることで、機能性成分を繊維中心部にまで取り込むことができ、機能性成分含有液の濃度を変えるだけで、繊維への機能性成分含有量を自由に設計し易いという点から望ましい。水膨潤度が0.7g/g未満では、繊維中心部にまで機能性成分を十分に取り込むことが出来ず、機能性成分の徐放性が不十分となる。一方で、水膨潤度が2.0g/gを超える場合には、繊維が膨潤しすぎるために繊維強度が不十分となる場合がある。また、機能性成分付与後の繊維や洗濯後の繊維製品の乾燥に時間がかかるため肌着等の繊維製品として取扱い難くなる。
【0016】
さらに、本発明に採用する親水性繊維は20℃、65%RH条件における飽和吸湿率が15〜70%であることが好ましく、20〜70%であることがより好ましく、25〜60%であることがさらに好ましい。飽和吸湿率が15〜70%の範囲内であれば、吸湿によって繊維が水を有するため、繊維中の機能性成分は水に溶解したような状態で存在できるようになると考えられる。そのため、繊維中での機能性成分の移動が容易になり、繊維が湿潤状態でなくても、繊維中心部にまで取り込まれた機能性成分を効率的に徐放することが可能となる。一方で、飽和吸湿率が15%未満では、繊維中で機能性成分が水に溶解したような状態とはなり難く、所望の機能性成分徐放性が得られない可能性がある。また、飽和吸湿率が70%を超えると、繊維物性が不十分となる可能性があるため、繊維製品として取扱い難くなる場合がある。
【0017】
本発明に採用する、親水性繊維の種類としては、水膨潤度と飽和吸湿率が前記範囲を満たすものであれば特に限定はないが、繊維内に親水性基を含有させたものを好適に利用することができる。ここで、親水性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、アミノ基などを挙げることができる。親水性基を繊維に含有させる方法としては、アクリル繊維を例にすると、アクリル酸やビニルスルホン酸ソーダなどの親水性基を有するモノマーとアクリロニトリルを共重合することで得られた重合体を用いて繊維を製造する方法や、ニトリル基やアミド基など加水分解により親水性基へと変換可能な官能基を有するモノマーを含有させた重合体を用いて繊維を製造し、該繊維を加水分解処理して、親水性基へと変換する方法が挙げられる。
【0018】
また、繊維としてレーヨンを用いた場合は、例えばビスコース中に親水性基を有する化合物を含有させて繊維を製造する方法、繊維表面に上記親水性基を有するモノマーをグラフト重合する方法、加水分解により親水性基へと変換可能な官能基を有するモノマーをグラフト重合した後に加水分解処理を施して親水性基へと変換する方法などが挙げられる。
【0019】
また、本発明に採用する親水性繊維は、架橋構造を有することが望ましい。架橋構造を導入することで、親水性繊維の水膨潤度を抑制することができる。そのため、架橋導入量の調整により、所望の水膨潤度を有する繊維とすることが可能となる。
【0020】
本発明に採用する親水性繊維に架橋構造を導入する方法としては、特に制限はないが、ビニル系重合体で構成される繊維の場合では、該重合体の官能基と多官能化合物を反応させて架橋を導入する方法などを挙げることができる。
【0021】
かかる官能基と多官能化合物の組み合わせとしては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのニトリル基含有単量体と水加ヒドラジンや硫酸ヒドラジンなどのヒドラジン系化合物との組み合わせ、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基含有単量体とエチレングリコールやプロピレングリコールなどの水酸基を複数含有する化合物との組み合わせ、グリシジルメタアクリレートなどのエポキシ基含有単量体とエチレンジアミンやジエチレントリアミンなどのアミノ基を複数含有する化合物との組み合わせなどが例示できる。なお、前記各官能基は、該官能基を有する単量体を共重合することによりビニル系重合体に導入することができる。
【0022】
かかる親水性繊維の具体的な例としては、カルボキシル基またはそのアルカリ金属塩基などの親水性基を含有するモノマーと、カルボキシル基と反応してエステル架橋構造を形成できるヒドロキシル基含有モノマーなどとが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなるポリアクリル酸系架橋体繊維、無水マレイン酸系架橋体繊維、アルギン酸系架橋体繊維またはアクリロニトリル系繊維に架橋剤による架橋構造を導入した後、加水分解してカルボキシル基を導入したアクリレート繊維などを挙げることができる。その中でも、特にアクリレート繊維が、適度な水膨潤度を有するために機能性成分を繊維中心部にまで取り込むことができ、また、適度な飽和吸湿率を有することから、効率的に機能性成分を徐放できるため好適に利用することができる。
【0023】
前述するアクリレート繊維において、繊維重量に対するカルボキシル基の含有量としては、好ましくは0.01〜10mmol/g、より好ましくは1〜10mmol/g、さらに好ましくは3〜8mmol/gであることが望ましい。カルボキシル基の含有量が0.01mmol/g未満では、吸湿性が乏しくなるため、繊維中心部にまで取り込まれた機能性成分の徐放性が不十分となる可能性がある。また、10mmol/gを超える場合には、繊維の加工性が不十分となるため望ましくない。
【0024】
本発明に採用する機能性成分としては、人体に対して有効成分に起因する有利な効果を発現するものであれば特に問題は無いが、化粧料成分または薬効成分などを利用することができる。
【0025】
本発明に採用できる化粧料成分や薬効成分としては、植物抽出エキス類、ビタミン類、油脂類、脂肪酸類、血行促進剤、むくみ改善剤、スリム化剤、鎮痛剤、保湿剤などが挙げられる。
【0026】
上記、植物抽出エキス類としては、例えば、アロエエキス、アスナロエキス、キキョウ根エキス、カモミラエキス、シソエキス、ユーカリエキス、甘草エキス、ユズエキス等を例示することができ、ビタミン類としては、トラネキサム酸、アラントイン、グリチルレチン酸ステアリル、ナイアシンアミド、Lメントール、葉酸類、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE群及びそれらの誘導体等を例示することができる。
【0027】
油脂類としては、ココナッツ油、オリーブ油、ヘーゼルナッツ油、アサイーオイル、月見草油、アマランサスオイル、リンゴ油、アルガンオイル、アマニ油、シソ油、ツバキ油、ホホバ油、ローズヒップオイル、アボカド油、グレープシード油、サザンカ油、サンフラワー油、ヒマワリ油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、杏仁油、ククイナッツ油、キャロット油、スイートアーモンド油などを例示することができ、脂肪酸類としては、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸等を例示することができる。
【0028】
血行促進剤としては、酸性ムコポリサッカライド、カミツレ、セイヨウトチノキ、イチョウ、ハマメリエキス、ニコチン酸誘導体及びアルカロイド化合物を挙げることができ、むくみ改善剤としては、セイヨウトチノキ、フラボン誘導体、ナフタリンスルホン酸誘導体、アントシアニン、ビタミンP、キンセンカ、コンコリット酸、シラノール、テルミナリア、ビスナガ及びマユスなどを例示することができる。
【0029】
スリム化剤としては、アミノフィリン、茶エキス、カフェイン、キサンチン誘導体、イノシット、デキストラン硫酸誘導体、セイヨウトチノキ、エスシン、アントシアニジン、有機ヨウ素化合物、オトギリ草、シモツケ草、スギナ、マンネンロウ、朝鮮人参、セイヨウキヅタ、チオムカーゼ及びヒアルウロニダーゼなどを例示することができ、鎮痛剤としては、インドメタシン、塩化リゾチーム、ジクロフェナック、dl−カンフル、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、トウガラシエキス、ピロキシカム、フェルビナック、サリチル酸メチル及びサリチル酸グリコールを例示することができる。
【0030】
保湿剤としては、スクワラン、ポリオール類、セラミド類を挙げることができる。ここで、繊維内に含有させる機能性成分は一種類である必要はなく、上述するような機能性成分から複数の機能性成分を組み合わせて利用できることは言うまでもない。
【0031】
上述した機能性成分の中でも、水溶性または水分散性のものが、機能性成分を繊維中心部にまで含有させやすいと言う点から望ましい。また、水溶性または水分散性の機能性成分は、繊維表面において水に溶解したような状態で存在し易く、効率的に徐放できるため、好適に利用することができるが、それ以外の油脂類や脂肪酸類等であっても乳化物とすることで繊維表面において水に溶解したような状態で存在させることができるため、徐放効果が得られ、問題なく利用できることは言うまでもない。
【0032】
上述してきた本発明の機能性成分徐放性繊維の製造方法としては、水やアルコールを溶媒として機能性成分を溶解または分散させた機能性成分含有液に上述した親水性繊維を浸漬させる方法や、親水性繊維に該機能性成分含有液を噴霧する方法などを採用することができる。
【0033】
また、機能性成分徐放性繊維に対する機能性成分の付着量としては、機能性成分が十分な機能を発現できる範囲であれば問題は無く、適宜設定すれば良いが、好ましくは機能性成分徐放性繊維重量に対して0.01〜40重量%、より好ましくは0.05〜40重量%であることが望ましい。
【0034】
また、機能性成分含有液で繊維を処理する際の機能性成分含有液の濃度は、所望の含有量となるように適宜設定すればよいが、通常、0.1〜30重量%が好ましい。
【0035】
さらに、機能性成分含有液で繊維を処理する際の処理温度としては特に限定はないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜35℃である。また、機能性成分含有液で繊維を処理した後の乾燥温度としては、特に限定は無いが、好ましくは40〜100℃、より好ましくは40〜80℃である。機能性成分の種類によっては、熱による変質が起こりうるものもあるため、高温での付与や乾燥はあまり望ましくない。
【0036】
また、本発明に用いる機能性成分含有液は、処理する繊維が親水性基としてカルボキシル基やスルホン酸基、リン酸基等の酸性官能基を有する場合には、酸性〜弱アルカリ性の溶液であることが徐放性を得ると言う観点から好ましく、pHが8以下のものであることが望ましい。用いる機能性成分含有液のアルカリ性が強い(pHが8を超える)場合、繊維中の酸性官能基とのイオン結合により取り込まれる機能性成分が多くなりすぎる場合があり、機能性成分が効率的に溶出せず、徐放性が得られにくくなる可能性がある。
【0037】
以下に親水性繊維としてアクリレート繊維を用いた場合の本発明の機能性成分徐放性繊維の製造方法の一例について説明する。なお、本発明において用いうる親水性繊維の種類については、前述した通りアクリレート繊維に限らず、前述した範囲の水膨潤度と飽和吸湿率とを有する繊維であれば利用できることは言うまでもない。
【0038】
アクリレート繊維は、アクリロニトリル系重合体を主成分とするアクリロニトリル系繊維を原料繊維として、架橋、加水分解処理を施すことで得ることができる。
【0039】
かかるアクリロニトリル系重合体としては、その重合組成の40重量%以上をアクリロニトリルとするものであり、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上をアクリロニトリルとするものであることが望ましい。従って、該アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体のほかに、アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体も採用できる。
【0040】
上記する共重合体における他のモノマーとしては、特に限定はないが、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル(なお(メタ)の表記は、該メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す);メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びその塩;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有モノマー及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0041】
該アクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解させた溶液を紡糸原液とし、これを紡糸することでアクリロニトリル系繊維を得ることが出来る。
【0042】
ここで、アクリロニトリル系重合体を溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機系溶媒や硝酸、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液などの無機系溶媒を挙げることができる。
【0043】
上述のようにして得られたアクリロニトリル系繊維を用いてアクリレート繊維を製造する方法としては特に制限はなく、例えば特開2009−167574号公報に開示されている方法、すなわち加水ヒドラジンおよび水酸化ナトリウムを含有する水溶液中でアクリロニトリル系繊維を処理し、架橋・加水分解を同時に行う方法や、国際公開第2013/069659号に開示されている方法、すなわちアクリロニトリル系繊維に加水ヒドラジンを加えて架橋処理を施し、水洗後、更に水酸化ナトリウム水溶液中で加水分解を施す方法を採用することができる。
【0044】
以上のようにして得られたアクリレート繊維を機能性成分含有液に浸漬させたり、機能性成分含有液をアクリレート繊維に噴霧したりすることで、本発明の機能性成分徐放性繊維を得ることができる。
【0045】
本発明の繊維構造物としては、糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、フィラメント、織物、編物、パイル布帛、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状物(球状や塊状のものを含む)等が挙げられる。具体的な形態としては、防護服、上着、肌着、セーター、帽子、マフラー、コート、腹巻き、サポーター、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、ラグ、カーペット、寝具、シートなどを挙げることができる。
【0046】
該繊維構造物の形成にあたっては、本発明の機能性成分徐放性繊維を単独で使用しても良いし、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維や、さらには無機繊維、ガラス繊維などを併用することもできる。なお、繊維構造物中に本発明の機能性成分徐放性繊維が占める割合については、該繊維構造物の用途において求められる機能特性や加工時の機械的特性などを満足するよう適宜選択すれば良い。
【0047】
本発明の機能性成分徐放性繊維は、上述したように適度な水膨潤度を有することから、繊維中心部にまで機能性成分を取り込むことができる。また、適度な飽和吸湿率を有することから、前述したメカニズムにより繊維に取り込まれた機能性成分が徐放され、機能性成分に起因する効果が発現するが、逆に言えば、使用することによって機能性成分徐放性繊維中の機能性成分含有量が低下することになる。機能性成分含有量が低下すれば、当然その効果も低下することになるが、本発明の機能性成分徐放性繊維は、適度な水膨潤度を有するという特徴を生かして再生することが可能である。
【0048】
本発明の機能性成分徐放性繊維の再生方法としては、使用することによって機能性成分含有量が低下した機能性成分徐放性繊維や該繊維を含有する繊維構造物に、機能性成分含有液を付与すれば良い。これにより、再度、機能性成分が繊維中心部にまで取り込まれるため、機能性成分徐放性が発現できるようになる。この再生処理は、肌着などの機能性成分徐放性繊維を含有する繊維構造物の場合であれば、家庭での洗濯時のすすぎ終了後に洗濯槽に機能性成分含有液を直接または柔軟剤に混ぜて添加したり、脱水後または乾燥後に機能性成分含有液をスプレーしたりすることによって実施することが可能であり、大変実用的である。
【実施例】
【0049】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。実施例中の部及び百分率は断りのない限り重量基準で示す。なお、実施例において記述する評価方法は以下の通りである。
【0050】
(1)水膨潤度
試料1g純水中に浸漬し、30分経過後、1200rpmで5分間遠心脱水を行う。このようにして調製した試料の重量(W1とする)を測定する。次に該試料を80℃の真空乾燥機中で恒量になるまで乾燥して重量(W0とする)を測定する。以上の結果より、次式に従って水膨潤度を計算する。
水膨潤度(g/g)=(W1−W0)/W0
【0051】
(2)カルボキシル基量
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.2gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、濾過によって試料繊維と濾液に分離し、引き続き試料繊維を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで水洗する。このときの水洗水と濾液をあわせたものを、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15−0.1×V1)/W1
【0052】
(3)飽和吸湿率
試料を熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(A[g])。次に該試料を20℃、65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する(B[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(B−A)/A×100
【0053】
(4)機能性成分含有量の測定
機能性成分含有液中の機能性成分量(C[mg])を下記の各機能性成分に適した分析方法により算出した後に、親水性繊維(D[g])を前述の機能性成分含有液中に30分間浸漬した。その後、親水性繊維を絞って取り出し、残った機能性成分含有液中の機能性成分量(E[mg])を測定し、下記式より親水性繊維が含有している機能性成分量を算出した。機能性成分量の算出は、例えば、本実施例1で用いたビタミンC誘導体(L-アスコルビン酸―2―リン酸マグネシウム )の場合であれば、高速液体クロマトグラフによる分析により、定量することが可能である。
機能性成分含有量 : F[mg/g] = (C−E)/D
【0054】
(5)純水に浸漬したときの機能性成分溶出率
機能性成分含有繊維(機能性成分含有量:F[mg/g])0.5gを純水25mLに25℃、30分間浸漬して抽出する。その後、サンプルが繊維状や編地の場合には、サンプルを絞って取り出すことにより抽出液を得る。得られた抽出液については、上述したような定量分析方法を用いて溶出量(G[mg])を求め、下記式により、機能性成分溶出率を計算した。
機能性成分溶出率(%) = G/(0.5×F)×100
【0055】
[実施例1]
<アクリレート繊維の作製>
アクリロニトリル90%、酢酸ビニル10%からなるアクリロニトリル系重合体(30℃
ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維を得た。該原料繊維を、15%ヒドラジン水溶液中で110℃×3時間架橋導入処理を行い水洗した。次に、8%硝酸水溶液中で110℃×1時間酸処理を行い水洗した。続いて8%水酸化ナトリウム水溶液中で、90℃×2時間加水分解処理を行った後、pH12に調整し、純水で洗浄し、カルボキシル基量が6.8mmol/gのアクリレート繊維Aを得た。該繊維の水膨潤度及び飽和吸湿率を表1に示す。
<機能性成分の付与>
機能性成分であるビタミンC誘導体と純水を混合し、5%のビタミンC誘導体水溶液(pH:7.2)を作成した。前記、アクリレート繊維Aを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で洗浄し、80℃の熱風乾燥機で乾燥し、機能性成分徐放性繊維Bを得た。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出量の測定結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
<アクリレート繊維の作製>
実施例1において加水分解時の水酸化ナトリウム濃度を1%とすること以外は同様の処理を行い、カルボキシル基量が3.2mmol/gのアクリレート繊維Cを得た。該繊維の水膨潤度及び飽和吸湿率を表1に示す。
<機能性成分の付与>
アクリレート繊維Aの代わりに、上記のアクリレート繊維Cを用いること以外は同様にして、実施例1に記載の機能性成分の付与処理を行い、機能性成分徐放性繊維Dを得た。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出量の測定結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
<アクリレート繊維の作製>
実施例1において加水分解時の水酸化ナトリウム濃度を5%、処理時間を0.5時間とすること以外は同様の処理を行い、カルボキシル基量が5.2mmol/gのアクリレート繊維Eを得た。該繊維の水膨潤度及び飽和吸湿率を表1に示す。
<機能性成分の付与>
アクリレート繊維Aの代わりに、上記のアクリレート繊維Eを用いること以外は同様にして、実施例1に記載の機能性成分の付与処理を行い、機能性成分徐放性繊維Fを得た。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出量の測定結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、アクリレート繊維Aの代わりに、ポリエステル繊維(東レ社製、テトロン)を用いて機能性成分の付与処理を行った。得られた繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出量の測定結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
実施例1において、アクリレート繊維Aの代わりに、通常のレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン社製、コロナ)を用いて、前記、機能性成分の付与処理を行った。得られた繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出量の測定結果を表1に示す。
【0060】
[実施例4]
<機能性成分の付与>
実施例1で作製したアクリレート繊維Aを用い、実施例1に記載の機能性成分の付与処理において、ビタミンC誘導体の代わりに5%ナイアシンアミド水溶液(pH:7.5)を用いること以外は同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Gを得た。機能性成分の含有量及び溶出量は、各処理前後の溶液を、高速液体クロマトグラフを用いて定量分析することにより算出した。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0061】
[実施例5]
<機能性成分の付与>
実施例1で作製したアクリレート繊維Aを用い、実施例1に記載の機能性成分の付与処理において、ビタミンC誘導体の代わりに20%赤シソエキス水溶液を機能性成分含有液として用いること以外は同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Hを得た。機能性成分の含有量及び溶出量は、溶液が有色であることから、各処理前後の溶液の吸光度を測定し、定量分析を行った。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0062】
[実施例6]
<機能性成分の付与>
アクリレート繊維Aの代わりに、実施例2で作製したアクリレート繊維Cを用いること以外は、実施例5と同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Iを得た。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0063】
[実施例7]
<機能性成分の付与>
アクリレート繊維Aの代わりに、実施例3で作製したアクリレート繊維Eを用いること以外は、実施例5と同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Jを得た。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0064】
[実施例8]
<機能性成分含有乳化液の調製>
純水100部、機能性成分としてホホバ油10部、界面活性剤としてスクロースモノラウレート1部をディスパーミキサーにて均一に混合し、機能性成分含有乳化液(pH:6.3)を得た。
<機能性成分の付与>
実施例1で作製したアクリレート繊維Aを用い、実施例1に記載の機能性成分の付与処理において、ビタミンC誘導体の代わりに上記乳化液を用いること以外は同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Kを得た。機能性成分の含有量及び溶出量は、各処理前後の繊維重量を測定することにより算出した。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0065】
[実施例9]
<機能性成分の付与>
実施例1で作製したアクリレート繊維Aを用い、実施例1に記載の機能性成分の付与処理において、ビタミンC誘導体の代わりに10%塩化リゾチーム水溶液を機能性成分含有液として用いること以外は同様に処理を行い、機能性成分徐放性繊維Lを得た。機能性成分の含有量及び溶出量は、各処理前後の溶液を、高速液体クロマトグラフを用いて定量分析することにより算出した。該繊維の機能性成分含有量と機能性成分溶出率の測定結果を表1に示す。
【0066】
実施例1〜9では、特定の水膨潤度及び飽和吸湿率を満足するアクリレート繊維を用いており、機能性成分の種類によらず、機能性成分を多量に含有させることができる。また、含有させた機能性成分が一度に全て放出されることなく適度な機能性成分溶出率を示しており、徐放性があると考えられる。そのため、実施例1〜9に記載のアクリレート繊維は、機能性成分徐放性繊維として好適に利用することができる。
【0067】
一方で、アクリレート繊維の代わりにポリエステルを用いた比較例1の場合には、水膨潤度が低いために機能性成分が繊維内部にほとんど取り込まれなかった。また、レーヨンを用いた比較例2の場合には、ポリエステルの場合よりも多くの機能性成分を含有させることができるが、本願実施例1〜9の繊維と比較すると含有量がはるかに少なく、また、機能性成分溶出率の結果より、その含有量の95.6%の機能性成分が一度に溶出してしまっているため、徐放性を有しているとは言えない。
【0068】
【表1】