特許第6786083号(P6786083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786083
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20201109BHJP
   C03B 19/12 20060101ALI20201109BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20201109BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20201109BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20201109BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   B05D5/00 H
   C03B19/12 A
   B32B9/00 A
   B05D1/36 Z
   B05D5/06 104Z
   B05D7/24 302Y
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-3383(P2017-3383)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-111072(P2018-111072A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300092459
【氏名又は名称】サンワ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】塚田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅信
(72)【発明者】
【氏名】赤石 慎一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄司
(72)【発明者】
【氏名】西野 正和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−66849(JP,A)
【文献】 特開2015−66850(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/155830(WO,A1)
【文献】 特開2015−24637(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038648(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/149085(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/094531(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 5/00
B05D 1/36
B05D 5/06
B05D 7/24
B32B 9/00
C03B 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる表面を有する基材の表面上に、シリカ原料として少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を塗布して、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層を形成する工程(1)と、
上記工程(1)で得られた上記微細凹凸層の表面上に、反応基を有するポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤を塗布して、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層を形成する工程(2)と、
上記工程(2)で得られた上記改質層の表面上に、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油を塗布して、潤滑油層を形成する工程(3)と、を含む
ことを特徴とする防汚塗膜の製造方法。
【請求項2】
上記工程(1)において、上記微細凹凸層形成剤を塗布した後に、シリカ転化促進処理をして、上記微細凹凸層を形成することを特徴とする請求項1に記載の防汚塗膜の製造方法。
【請求項3】
上記工程(2)において、上記改質層形成剤を塗布した後に、改質促進処理をして、上記改質層を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚塗膜の製造方法。
【請求項4】
上記シリカ転化促進処理が、加湿及び加温の少なくとも1つを実施した環境下で塗布された上記微細凹凸層形成剤を保持することであることを特徴とする請求項2に記載の防汚塗膜の製造方法。
【請求項5】
上記改質促進処理が、加湿及び加温の少なくとも1つを実施した環境下で塗布された上記改質層形成剤を保持することであることを特徴とする請求項3に記載の防汚塗膜の製造方法。
【請求項6】
樹脂からなる表面を有する基材上に配置された防汚塗膜であって、
上記基材の表面上に配置され、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層と、
上記微細凹凸層の表面上に配置され、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層と、
上記改質層の表面上に配置され、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油層と、を備えた
ことを特徴とする防汚塗膜。
【請求項7】
上記微細凹凸層は、該微細凹凸層の厚み方向において上記ポリシラザンの含有割合が異なり、かつ、上記基材の表面側において上記ポリシラザンの含有割合が高いものであることを特徴とする請求項6に記載の防汚塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜に関する。さらに詳細には、本発明は、樹脂からなる表面を有する基材上に配置された防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、優れた撥水性、滑水性(水滴滑落性)を備えた高耐久性の撥水性物品及びそれを適用した建築用窓ガラス及び車両用窓ガラスが提案されている。この撥水性物品は、基材上に、実質的に無機材料からなる空隙構造を有する空隙層を形成した後、該空隙層の空隙部に、撥水材料を含浸させたものである。そして、前記基材と、前記空隙構造を有する空隙層との間に、下地層を有する。また、下地層は、空隙層の構成材料と同様の無機化合物、例えば、二酸化珪素(SiO)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(InO)、酸化スズ(SnO)、酸化タンタル(Ta)、ジルコニア(ZrO)等のセラミック材料から構成されることが、高い透過性を得られる観点から好ましいことが記載されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/120505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された撥水性物品の製造方法は、基材として樹脂からなる表面を有するものを用い、優れた防汚性や耐久性を有する防汚塗膜を比較的短時間で形成しようとする場合に適用することができないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性を有し、比較的短時間で形成し得る防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、樹脂からなる表面を有する基材の表面上に、シリカ原料として少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を塗布して、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層を形成し、次いで、所定の改質層形成剤を塗布し、しかる後、所定の潤滑油を塗布することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性を有し、比較的短時間で形成し得る防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る防汚塗膜の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、工程(1)で用いる樹脂からなる表面を有する基材の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、工程(1)における微細凹凸層を有する基材を模式的に示す断面図である。
図4図4は、工程(2)における微細凹凸層及び改質層を有する基材を模式的に示す断面図である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態に係る防汚塗膜を有する基材を模式的に示す断面図である。
図6図6は、実施例2におけるフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る防汚塗膜の製造方法及び防汚塗膜について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る防汚塗膜の製造方法について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る防汚塗膜の製造方法を示すフロー図である。図1に示すように、本実施形態の防汚塗膜の製造方法は、下記の工程(1)〜工程(3)を含む。なお、図1中において、例えば「工程(1)」を「S1」と略記する(以下同様。)。
【0011】
工程(1)は、樹脂からなる表面を有する基材の表面上に、シリカ原料として少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を塗布して、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層を形成する工程である。なお、ポリシラザンを基材の表面上に塗布するだけで、後述する潤滑油層を構成する潤滑油が含浸されてある程度保持され易い所望の微細凹凸層を形成することができる。
【0012】
ここで、微細凹凸層にシリカが含まれていることは、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による1100cm−1におけるSi−Oのピークが観察されることから確認できる。
【0013】
また、微細凹凸層にポリシラザン、特にパーヒドロポリシラザンが含まれていることは、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)によるSi−Nのピークと2200cm−1におけるSi−Hのピークが観察されることから確認できる。
【0014】
工程(2)は、工程(1)で得られた微細凹凸層の表面上に、反応基を有するポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤を塗布して、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層を形成する工程である。
【0015】
ここで、改質層に含まれるポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルは、反応基が微細凹凸層の表面と反応して、ポリシロキサンやパーフルオロポリエーテル鎖が微細凹凸層に付加した形態となっていることが好適である。
【0016】
工程(3)は、工程(2)で得られた改質層の表面上に、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油を塗布して、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油層を形成する工程である。
【0017】
上述のような工程(1)〜工程(3)を経ることにより、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性を有し、比較的短時間で形成し得る防汚塗膜の製造方法を提供することができる。また、加熱処理することなく防汚塗膜を形成することができるという副次的な利点もある。
【0018】
ここで、各工程についてさらに詳細に説明する。
【0019】
<工程(1)>
図2は、工程(1)で用いる樹脂からなる表面を有する基材の一例を模式的に示す断面図である。図2に示す基材20は、樹脂成分を含む塗料を用いて形成した塗膜21を鋼板23上に有するものである。また、図3は、工程(1)における微細凹凸層を有する基材を模式的に示す断面図である。なお、上記説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。図3に示すように、基材20の表面上に微細凹凸層11が形成されている。なお、図示しないが、微細凹凸層は、上述したように、シリカ及びポリシラザンを含んでいる。
【0020】
工程(1)で用いる樹脂からなる表面を有する基材としては、例えば、樹脂自体からなる基材や、樹脂成分を含む塗料を用いて形成した塗膜を樹脂本体上に有するものに限定されるものではない。すなわち、上述したように、樹脂成分を含む塗料を用いて形成した塗膜を金属本体上やセラミックス本体上に有するものを基材として適用することもできる。
【0021】
また、工程(1)で用いるシリカ原料である少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤は、シリカ原料であるポリシラザンを含むものであれば、特に限定されるものではない。ポリシラザンは、下記の化学式(1)で表される構造を基本ユニットとする無機ポリマーである。そして、これらの中には、一般的に、有機官能基を有するオルガノポリシラザンと呼ばれるものや、水素のみを有するパーヒドロポリシラザン(PHPS)と呼ばれるものが含まれる。これらは1種を単独で又は複数種を混合して用いてもよい。シリカ原料であるポリシラザンとしては、これらの中でも、パーヒドロポリシラザン(PHPS)を用いることが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、X、Xは、同一でも異なってもよく、水素(H)及び有機官能基(R)からなる群より選ばれた少なくとも1種を示す。)
【0024】
なお、上記有機官能基(R)としては、例えば、メチル基などのアルキル基を挙げることができる。
【0025】
また、微細凹凸層形成剤には、ポリシラザンを分散させる溶媒や反応を促進させる触媒が含まれていてもよい。溶媒としては、例えば、キシレン、ミネラルスピリットなどを挙げることができる。
【0026】
さらに、樹脂からなる表面を有する基材の表面上に、シリカ原料として少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を塗布して、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層を形成する際の塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラ塗り、スピンコート、スプレー塗布、ロールコート、フローコート、ディップコートなど従来公知の方法を採用することができる。もちろん、コットンなどを用いた手塗りを採用することもできる。
【0027】
また、特に限定されるものではないが、本実施形態の防汚塗膜の製造方法においては、工程(1)において、微細凹凸層形成剤を塗布した後に、シリカ転化促進処理をして、微細凹凸層を形成することが好ましい。
【0028】
ここで、シリカ転化促進処理は、ポリシラザンのシリカへの転化を促進し得る処理であれば、特に限定されるものではない。シリカ転化を促進させることにより、後述する工程(2)における改質層形成剤との反応が進み易い表面状態を形成することができる。これにより、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、より優れた防汚性や耐久性を有する防汚塗膜をより短時間で形成することができる。
【0029】
また、シリカ転化促進処理の好適例として、加湿及び加温の少なくとも1つを実施した環境下で塗布された微細凹凸層形成剤を保持することを挙げることができる。
【0030】
なお、通常、相対湿度が40%RH程度、温度が15〜35℃(常温)、好ましくは20〜30℃程度の環境下で塗布された微細凹凸層形成剤を保持する。また、本発明の防汚塗膜の製造方法には、上述したシリカ転化促進処理をしない場合が含まれることは言うまでもない。
【0031】
そして、加湿に際しては、特に限定されるものではないが、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できるという観点から、相対湿度を50%RH以上とすることが好ましく、相対湿度を60%RH以上とすることがより好ましく、相対湿度を70%RH以上とすることがさらに好ましい。なお、相対湿度を100%RHとしてもよいが、面方向において偏ったシリカ転化を回避し、面方向に均一なシリカ転化を実現するという観点から、相対湿度を90%RH以下とすることが好ましく、相対湿度を80%RH以下とすることがより好ましい。
【0032】
また、加温に際しては、樹脂の軟化点や融点よりも低い温度であれば特に限定されるものではないが、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できるという観点から、温度を40℃以上とすることが好ましい。また、樹脂の軟化点や融点が高く、100℃以上での加熱が可能である場合には、100℃以上での30分間程度の加熱でも効果がある。
【0033】
さらに、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合において、加湿をする場合には、常温であっても、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できる。しかしながら、常温で、加湿をする場合には、1時間以上保持することがより好ましい。また、加湿及び加温をすることにより、微細凹凸層形成剤の反応が促進され、シリカ転化をより促進することができる。
【0034】
上述のように、微細凹凸層形成剤の反応が促進され、微細凹凸層形成剤を塗布した後のシリカ転化時間を短縮することができる。また、このように形成した防汚塗膜は、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性を実現し得る。なお、工程時間の短縮により、低コスト化を実現できるという副次的な利点もある。
【0035】
<工程(2)>
図4は、工程(2)における微細凹凸層及び改質層を有する基材を模式的に示す断面図である。なお、上記説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。図4に示すように、基材20の表面上に微細凹凸層11及び改質層13が形成されている。なお、図示しないが、微細凹凸層は、上述したように、シリカ及びポリシラザンを含んでいる。また、改質層は、上述したように、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含んでいる。なお、改質層は、ポリシロキサン及びパーフルオロポリエーテルの双方を含んでいてもよい。
【0036】
工程(2)で用いる反応基を有するポリシロキサンやパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤は、反応基を有するポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含むものであれば、特に限定されるものではない。反応基としては、例えば、加水分解性反応基であることが好ましい。加水分解性反応基としては、例えば、アルコキシ基、エステル基などの酸化物と結合が可能な基を好適例として挙げることができる。なお、改質層形成剤には、反応基を有するポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを分散させる溶媒が含まれていてもよい。反応基を有するポリシロキサンを含む改質層形成剤における溶媒としては、例えば、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。また、反応基を有するパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤における溶媒としては、例えば、フッ素系溶剤を挙げることができる。
【0037】
また、微細凹凸層の表面上に、反応基を有するポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤を塗布して、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含む改質層を形成する際の塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラ塗り、スピンコート、スプレー塗布、ロールコート、フローコート、ディップコートなど従来公知の方法を採用することができる。もちろん、コットンなどを用いた手塗りを採用することもできる。
【0038】
さらに、特に限定されるものではないが、本実施形態の防汚塗膜の製造方法においては、工程(2)において、改質層形成剤を塗布した後に、改質促進処理をして、改質層を形成することが好ましい。
【0039】
ここで、改質促進処理は、例えば、反応基を有するポリシロキサンやパーフルオロポリエーテルにおける反応基とシリカとの反応、すなわち改質を促進し得る処理であれば、特に限定されるものではない。改質を促進させることにより、後述する工程(3)におけるシリコーンオイルやフッ素オイルを保持し易い表面状態を形成することができる。これにより、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、より優れた防汚性や耐久性を有する防汚塗膜をより短時間で形成することができる。
【0040】
また、改質促進処理の好適例として、加湿及び加温の少なくとも1つを実施した環境下で塗布された改質層形成剤を保持することを挙げることができる。
【0041】
なお、通常、相対湿度が40%RH程度、温度が15〜35℃(常温)、好ましくは20〜30℃程度の環境下で塗布された改質層形成剤を保持する。また、本発明の防汚塗膜の製造方法には、上述した改質促進処理をしない場合が含まれることは言うまでもない。
【0042】
そして、加湿に際しては、特に限定されるものではないが、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できるという観点から、相対湿度を50%RH以上とすることが好ましく、相対湿度を60%RH以上とすることがより好ましく、相対湿度を70%RH以上とすることがさらに好ましい。なお、相対湿度を100%RHとしてもよいが、面方向において偏った改質を回避し、面方向に均一な改質を実現するという観点から、相対湿度を90%RH以下とすることが好ましく、相対湿度を80%RH以下とすることがより好ましい。
【0043】
また、加温に際しては、樹脂の軟化点や融点よりも低い温度であれば特に限定されるものではないが、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できるという観点から、温度を40℃以上とすることが好ましい。また、樹脂の軟化点や融点が高く、100℃以上での加熱が可能である場合には、100℃以上での30分間程度の加熱でも効果がある。
【0044】
さらに、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合において、加湿をする場合には、常温であっても、優れた防汚性や耐久性の実現や、工程時間の短縮効果が確認できる。しかしながら、常温で、加湿をする場合には、1時間以上保持することがより好ましい。また、加湿及び加温をすることにより、改質層形成剤の反応が促進され、改質をより促進することができる。
【0045】
上述のように、改質層形成剤の反応が促進され、改質層形成剤を塗布した後の改質時間を短縮することができる。また、このように形成した防汚塗膜は、基材として樹脂からなる表面を有するものを用いる場合に、優れた防汚性や耐久性を実現し得る。なお、工程時間の短縮により、低コスト化を実現できるという副次的な利点もある。
【0046】
<工程(3)>
上記工程(3)で用いるシリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油は、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油層を形成し得るものであれば、特に限定されるものではない。潤滑油はシリコーンオイル自体やフッ素オイル自体でもよい。例えば含浸されて潤滑油層を形成するという観点からは、潤滑油は、表面エネルギーが低く、不揮発性であるものが好適である。具体的には、ジメチルシリコーンオイルや変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル、フルオロポリエーテルオイルやパーフルオロポリエーテルオイルなどのフッ素オイルを好適例として挙げることができる。なお、改質層がポリシロキサンを含む場合には、シリコーンオイルを適用することが好ましく、改質層がパーフルオロポリエーテルを含む場合には、フッ素オイルを適用することが好ましいが、これに限定されるものではない。また、シリコーンオイル及びフッ素オイルの双方を適宜用いてもよい。
【0047】
また、改質層の表面上に、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油を塗布して、シリコーンオイル又はフッ素オイルを含む潤滑油層を形成する際の塗布方法としては、上述したような従来公知の方法を適用することも可能であるが、例えば、改質層の表面上にシリコーンオイル又はフッ素オイルを滴下し、コットンなどを用いて手塗りにより含浸させることが好適である。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る防汚塗膜について詳細に説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係る防汚塗膜を有する基材を模式的に示す断面図である。なお、上記説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
また、図5は、工程(3)における微細凹凸層、改質層及び潤滑油層を備えた防汚塗膜を有する基材を模式的に示す断面図とも言える。つまり、本発明の防汚塗膜の製造方法は、本発明の防汚塗膜を製造する方法の好適形態である。しかしながら、本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗膜の製造方法により得られるものに限定されるものではない。
【0050】
図5に示すように、本実施形態の防汚塗膜10は、樹脂からなる表面を有する基材20上に配置されたものである。そして、防汚塗膜10は、基材20の表面上に配置された微細凹凸層11と、微細凹凸層11の表面上に配置された改質層13と、改質層13の表面上に配置された潤滑油層15とを備える。
【0051】
ここで、図示しないが、微細凹凸層は、詳しくは上述したシリカ及びポリシラザンを含んでいる。なお、微細凹凸層にシリカが含まれていることは、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による1100cm−1におけるSi−Oのピークが観察されることから確認できる。また、微細凹凸層にポリシラザン、特にパーヒドロポリシラザンが含まれていることは、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)によるSi−Nのピークと2200cm−1におけるSi−Hのピークが観察されることから確認できる。
【0052】
また、図示しないが、改質層は、詳しくは上述したポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルを含んでいる。改質層に含まれるポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテルは、反応基が微細凹凸層の表面と反応して、ポリシロキサン又はパーフルオロポリエーテル鎖が微細凹凸層に付加した形態となって含まれていることが好適である。
【0053】
さらに、潤滑油層は、詳しくは上述したシリコーンオイル又はフッ素オイルを含んでいる。
【0054】
このような構成とすることにより、優れた防汚性や耐久性を有するものとなる。また、このような防汚塗膜は、比較的短時間で形成することができる。
【0055】
また、本実施形態の防汚塗膜においては、特に限定されるものではないが、微細凹凸層が、微細凹凸層の厚み方向においてポリシラザンの含有割合が異なり、かつ、基材の表面側においてポリシラザンの含有割合が高いものであることが好ましい。
【0056】
ここで、微細凹凸層におけるシリカとポリシラザン(特に、パーヒドロポリシラザンである。)との含有割合はフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による1100cm−1におけるSi−Oのピーク高さと2200cm−1におけるSi−Hのピーク高さとの比から算出することができる。
【0057】
このような構成とすることにより、基材の表面側に存在するポリシラザンにより、基材と微細凹凸層との密着性が向上する。その結果、基材と改質層や潤滑油層との密着性が向上することとなる。これにより、優れた防汚性を有し、より優れた耐久性を有するものとなる。また、このような防汚塗膜も、比較的短時間で形成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
樹脂からなる表面を有する基材の一例である塗装板として、リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、カチオン電着塗料を電着塗装し、さらに、カラーベース塗料を塗装し、さらに、クリヤー塗料(ウレタン系樹脂を主成分とする。)を塗装して得られたものを用いた。また、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による評価に用いる試料を作成するため、アルミニウム基板を用意した。
【0060】
まず、シリカ原料として少なくとも1種のポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤(サンワ化学株式会社製、トレスマイルANP140−1(触媒を含む。))を、これを含浸させた布で塗装板及びアルミニウム基板に塗布し、乾燥させて、微細凹凸層を形成した。なお、アルミニウム基板上に形成した微細凹凸層は、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による評価に供した。
【0061】
次いで、反応基を有するパーフルオロポリエーテルを含む改質層形成剤(3M社製、NOVEC7100、濃度0.1%、溶剤:フッ素系溶剤)を、フローコートで塗装板上に形成した微細凹凸層に塗布し、さらに、45℃、相対湿度70%RHの環境下で1時間保持して、改質層を形成した。
【0062】
しかる後、フッ素オイル(デュポン社製、KRYTOX(登録商標)103)0.25mLを、改質層に滴下後、表面を布(ベンコットン)でなじませ、5分間放置して、含浸させ、その後、布で虹ムラがなくなる程度にオイルを拭き取り、本例の防汚塗膜を得た。仕様の一部を表1に示す。
【0063】
(実施例2〜実施例6及び比較例1)
表1に示すように、微細凹凸層形成剤を代えたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、各例の防汚塗膜を得た。
【0064】
【表1】
【0065】
[性能評価]
(フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による評価)
上記各例のフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)評価用試料(アルミニウム基板上に形成した微細凹凸層)を用いて、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)評価を行った。具体的には、フーリエ変換型赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT/IR−4200typeA)を用い、使用ピークをSiH(2200cm−1)、SiO(1100cm−1)として、微細凹凸層形成剤塗布直後と3日経過後におけるSiO/SiHについて、バックグラウンドを除去したピーク高さの比を求めた。得られた結果を表1に併記する。
【0066】
なお、図6は、実施例2におけるフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)のスペクトルである。図中のYは塗布直後を示し、Zは3日経過後を示す。
【0067】
(防汚性・耐久性評価)
上記各例の防汚塗膜を用いて、転落角測定を行った。具体的には、DSA100(Kruss社製)を用い、純水20μLにおける初期転落角及び耐熱後転落角を測定した。得られた結果を表1に併記する。なお、初期転落角とは、防汚塗膜形成直後における転落角である。また、耐熱後転落角とは、防汚塗膜形成後、90℃で4時間耐久させた後における転落角である。
【0068】
表1おけるSiO/SiHの塗布直後と3日経過後との結果から、ポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を用いた本発明の範囲に含まれる実施例1〜実施例6における微細凹凸層の形成においては、シリカ及びポリシラザンを含む微細凹凸層が比較的短時間で形成できることが分かる。つまり、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例6の防汚塗膜は比較的短時間で形成できることが分かる。
【0069】
また、表1における初期転落角と耐熱後転落角との結果から、本発明の範囲に含まれる実施例1〜実施例6の防汚塗膜は、本発明外の比較例1の防汚塗膜とを比較すると、初期転落角が同程度に小さく、耐熱後転落角が著しく小さいことが分かる。また、本発明の範囲に含まれる実施例1〜実施例6の防汚塗膜においては、初期転落角と耐熱後転落角とが同程度であることが分かる。これらの結果から、本発明の範囲に含まれる実施例1〜実施例6の防汚塗膜は、優れた防汚性と耐久性を有することが分かる。
【0070】
また、このように、優れた防汚性と耐久性とを有するのは、上述したようにポリシラザンを含む微細凹凸層形成剤を塗布して微細凹凸層を形成して、基材の表面側においてポリシラザンの含有割合が高くなったためとも考えられる。
【0071】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 防汚塗膜
11 微細凹凸層
13 改質層
15 潤滑油層
20 基材
21 塗膜
23 鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6