(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、前記吸光度からランベルト・ベールの法則により前記測定セルの光路長と前記被測定流体のモル吸光係数とを用いて前記被測定流体の濃度を演算するとき、前記圧力センサの出力をさらに用いて前記濃度を演算する、請求項1に記載の濃度測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を説明する前に、濃度被測定流体の吸光度と、被測定流体の濃度および圧力との関係に関して、本願発明者が得た知見について説明する。
【0016】
図1(a)および(b)は、被測定流体の濃度と、測定された(I/I
0)および吸光度との関係を示すグラフである。吸光度Aλは、Aλ=−log
10(I/I
0)で表される。ここで、I
0は測定セルに入射する入射光の強度であり、Iは測定セルを通過した透過光の強度である。I/I
0は一般に透過率と呼ばれる。
【0017】
図1(a)には、被測定流体によって吸収される性質を有する波長280nmおよび310nmの光(紫外光)を用いたときの、被測定流体の濃度の違いによる透過率(I/I
0)の変化を示す。また、
図1(b)は
図1(a)に対応するグラフであり、被測定流体の濃度と吸光度Aλ=−log
10(I/I
0)との関係を示す。
【0018】
この測定において、測定セルの光路長は50mmであり、キャリアガスとして窒素ガスを流しながらセル圧力760Torr一定のもと、窒素ガスに混合させる被測定流体(ここではアセトン)の供給量を段階的に増加させることによって濃度を変化させている。
【0019】
被測定流体の濃度は、例えば、キャリアガスに被測定流体を含ませる装置(例えばバブリング装置)における、被測定流体の装置内分圧/装置内全圧によって求めることができる。また、I/I
0は、被測定流体の濃度が0%、つまり窒素ガスのみが流れているときの光検出器出力を入射光強度I
0とするとともに、各濃度で被測定流体を混合させたときの光検出器出力をIとして求めたものである。
【0020】
図1(a)からわかるように、被測定流体の濃度(vol%)が高いほど、光の吸収が大きくなるために、透過率(I/I
0)が低下する。また、
図1(b)に示すように、被測定流体の濃度と、吸光度Aλ(=−log
10(I/I
0))とは、いずれの波長の光においても、略比例の関係にあることがわかる。このため、透過率(I/I
0)または吸光度Aλを測定することによって、被測定流体の濃度を光学的手法により高精度に検出することができることがわかる。
【0021】
一方、
図2(a)および(b)は、被測定流体の圧力(ガス圧力)と、測定された透過率(I/I
0)および吸光度との関係を示すグラフである。
図2(a)および(b)からわかるように、ガス圧力が1気圧(760Torr)のときの吸光度に対して、一定濃度(ここでは0.97%アセトン/N
2)のガスを供給するように設定されている場合であっても、減圧下では吸光度が減少する。すなわち、ガス圧力に応じて吸光度が異なるものとなり得る。したがって、ガス圧力を計測することによって、圧力変動による吸光度変化または濃度変化を補正した所定圧力での吸光度を求めることができる。これにより圧力による変動を考慮したうえでの被測定流体濃度を求めることができる。また、
図2(b)に示すように、ガス圧力と吸光度とは比例の関係を示す場合があるので、予めこれらの関係が明らかになっている場合には、ガス圧力から吸光度を推定するとともに、得られた吸光度に基づいて被測定流体の濃度を検出することも可能である。若しくは、理想気体の状態方程式PV=nRT(Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは温度)から、モル数nで表示することもできる。
【0022】
このように、被測定流体の圧力を測定し、その測定結果を用いて濃度を演算することが精度よくガス濃度を検出するために好適である。そこで、以下に説明するように、本発明の実施形態では、吸光度によってガス濃度を求める濃度測定装置において、被測定流体のガス圧力をも測定するようにしている。
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図3は、本発明の実施形態1による濃度測定装置100の全体構成を示す模式図である。濃度測定装置100は、被測定流体の流入口4a、流出口4bおよびこれらの間の流路4cを有し、流路4cに接する透光性の窓部3が設けられた測定セル4と、透光性の窓部3を介して測定セル4内に入射させる光を発生させる光源1と、測定セル4内を伝播する光を反射し、反射した光を窓部3を介して測定セル4から出射させるように構成された反射部材5と、反射部材5によって反射され測定セル4から出射した光を検出する測定光検出器7と、測定光検出器7の検出信号に基づいて被測定流体の濃度を演算する演算部8と、光源1からの参照光を検出する参照光検出器9と、温度センサ11とを備えている。なお、反射部材5の前には、窓部(図示せず)が設けられていてもよい。
【0025】
濃度測定装置100はさらに、測定セル4内を流れる被測定流体の圧力を検出するように構成された圧力センサ20を有している。圧力センサ20は、本実施形態では、測定セル4の流出口4bの下流側に配置されているが、これに限られず、測定セル4の上流側に設けられていてもよいし、測定セル4の流路4cの途中に設けられていてもよい。圧力センサ20は、測定セル4内の圧力を測定できる限り、任意の態様を有していてよく、公知の種々の圧力センサを利用することができる。
【0026】
本明細書において、光とは、可視光線のみならず、少なくとも赤外線、紫外線を含み、任意の波長の電磁波を含み得る。また、透光性とは、測定セルに入射させる前記の光に対する内部透過率が濃度測定を行い得る程度に高いことを意味する。
【0027】
測定光検出器7および参照光検出器9を構成する受光素子としては、フォトダイオードが用いることができるが、これに限られず、例えばフォトトランジスタなどを用いてもよい。演算部8は、例えば、回路基板PCB上に設けられたプロセッサやメモリなどを用いて構成されていてよく、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。
【0028】
本実施形態において、光源1は、複数の発光素子12〜15を備えており、発光素子12〜15は、それぞれ異なる波長の光を発光するLEDである。発光素子12〜15のそれぞれには、発振回路を用いて異なる周波数の駆動電流が流される。この場合、周波数解析(例えば、高速フーリエ変換やウェーブレット変換)を行うことによって、測定光検出器7が検出した検出信号から、各波長成分に対応した光の強度を測定することができる。
【0029】
発光素子12〜15が発する複数の波長の光は、WDM(波長分割多重方式)の合波器17、18、19によって合成されて測定セル4に入射される。ここで一例を示すと、発光素子12の光の波長は255nm、発光素子13の光の波長は280nm、発光素子14の光の波長は310nm、発光素子15の光の波長は365nmであり、発光素子12の駆動電流の周波数は216Hz、発光素子13の駆動電流の周波数は192Hz、発光素子14の駆動電流の周波数は168Hz、発光素子15の駆動電流の周波数は144Hzである。このように、本実施形態において、光源1は、複数の波長成分を含む紫外光を出力するように構成されているが、発光素子12〜15としては、LED以外の発光素子、例えばLD(レーザダイオード)を用いることもできる。
【0030】
複数波長の合波紫外光を測定光として用いる濃度測定装置は、例えば、特許文献2(特願2015−161233号)に開示されており、本願発明においても同様の光源や演算部を利用することができる。なお、複数の異なる波長の合波光を光源に用いる代わりに、単一波長の光源を利用することもでき、この場合、合波器や周波数解析回路は省略できる。また、上記には4個の発光素子を用いて合波光を形成する態様を示したが、このうちの任意の1〜3個の発光素子から発せられた光を用いて合成光を形成してもよいし、5つ以上の発光素子を用いてもよいことは言うまでもない。
【0031】
本実施形態の濃度測定装置100において、光源1と測定セル4との間には、導光部材である光ファイバ10aと、ビームスプリッタ10bとを含む光学機器10が設けられている。光源1から発せられた光は、光学機器10によって測定セル4の窓部3に導光される。また、光学機器10は、反射部材5によって反射された光を測定光検出器7に導光する機能も兼ね備えている。ビームスプリッタ10bは、光源1から発せられた光の一部を分岐させて参照光として参照光検出器9に入射させることもできる。参照光検出器9で検出された参照光は、測定光の補正のために用いられ得る。
【0032】
図4は、
図3に示した濃度測定装置100における、測定セル4および圧力センサ20を含む要部の構成例を示す断面図である。
図4に示すように、光ファイバ10aの一端部は、接続部10dによって測定セル4に取り付けられている。測定セル4への接続部10dにはコリメートレンズなどの光学素子が設けられていてよい。
【0033】
ただし、他の態様において、光入射用の光学機器と光検出用の光学機器とが別個に設けられていてもよく、また、反射部材5を設ける代わりに、光検出機構(例えば、
図3に示した測定光検出器7に接続される別の光学機器や、測定光検出器7そのもの)を測定セル4の他端側に配置してもよい。
【0034】
測定セル4において、流入口4aは
反射部材5の近傍に配置され、流出口4bは
窓部3の近傍に配置されている。測定セル4は縦型の構成を有し、流路4cが垂直方向に延びている。濃度測定装置100は、被測定対象のガスが垂直方向の流路4cを流れている状態において、濃度を測定することができる。
【0035】
より具体的に説明すると、本実施形態の測定セル4は、流入口4aおよび流出口4bの外側において、ガス供給ライン接続部40a、40bを有している。濃度測定装置100は、ガス供給ラインに組み込まれたときに、全体として水平方向(接続部40a、40bの配置方向)にガスを流すように構成されている。これに対し、測定セル4の流路4cは、ガス供給ラインにおける全体の流れ方向に直交する方向に延びており、このような構成を、縦型の測定セル4または垂直方向に延びる流路4cと呼んでいる。縦型の測定セル4を用いれば、ガス供給ラインに組み込まれたときに省スペース化を実現できるとともに、メンテナンスがしやすいという利点が得られる。
【0036】
測定セル4には、光入射用および光出射用の窓部(透光性プレート)3が設けられている。窓部3としては、紫外光等の濃度測定に用いる検出光に対して耐性および高透過率を有し、機械的・化学的に安定なサファイアガラスが好適に用いられるが、他の安定な素材、例えば石英ガラスを用いることもできる。測定セル4のボディ(流路形成部)は例えばSUS316L製であってよい。
【0037】
窓部3は、図示する態様では、入射光の進行方向に対して垂直な面上に配置されているが、他の態様において垂直面から僅かに傾くように配置されていてもよい。これによって、窓部3において反射した光が検出光として光学機器10に入射されることが防止されるので測定精度を向上させ得る。
【0038】
以上に説明した測定セル4において、測定セル4内を伝播する光の光路長は、窓部3と反射部材5の表面との距離の2倍によって規定することができる。また、
図2に示したように、反射部材5の前面に間隙を開けて流路の端部をシールする反射側窓部6が設けられている場合に、ガス中を通過する光の光路長(測定セルの光路長と呼ぶことがある)は、窓部3と反射側窓部6との距離の2倍として規定することができる。
【0039】
上記の濃度測定装置100において、測定セル4に入射され、その後、反射部材5によって反射された光のうちの吸収波長成分の光が、測定セル4内の流路4cに存在するガスにより吸収される。吸収の大きさはガスの濃度に依存する。そして、演算部8(
図1参照)は、測定光検出器7からの検出信号を周波数解析することによって、当該吸収波長での吸光度A
λを測定することができ、さらに、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、吸光度A
λからガス濃度Cを算出することができる。
【0040】
A
λ=−log
10(I/I
0)=αLC ・・・(1)
上記の式(1)において、I
0は測定セルに入射する入射光の強度、Iは測定セル内のガス中を通過した光の強度、αはモル吸光係数(m
2/mol)、Lは測定セルの光路長(m)、Cは濃度(mol/m
3)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。
【0041】
なお、上記式における入射光強度I
0については、測定セル4内に吸光性のガスが存在しないとき(例えば、紫外光を吸収しないパージガス(N
2ガスなど)が充満しているときや、真空に引かれているとき)に透過光検出器7によって検出された光の強度を入射光強度I
0と見なしてよい。
【0042】
ここで、測定セル4の光路長Lは、上記のように、窓部3と反射側窓部6との距離の2倍として規定することができるので、光入射窓と光出射窓とを測定セルの両側に備える従来の濃度測定装置に比べて、2倍の光路長を得ることができる。これにより、小型化したにも関わらず、測定精度を向上させることができる。また、濃度測定装置100では、測定セル4の片側に設けた1つの窓部3を介して1つの光学機器10のみを用いて光入射および受光を行うので、部品点数を削減することができる。
【0043】
さらに、濃度測定装置100では、圧力センサ20が設けられており、測定セル4内のガスの圧力を測定することができる。したがって、圧力センサ20からの出力に基づいて、光検出器の出力によって測定された吸光度を所定圧力(例えば、1気圧)のときの吸光度に補正することができる。そして、補正した吸光度に基づいて、ランベルト
・ベールの法則から、被測定流体の濃度を演算により求めることができる。
【0044】
このようにして、演算部8が、測定光光検出器7および圧力センサ20を用いて被測定流体の濃度を演算するので、濃度測定をより精度よく行うことができる。なお、測定セル4を流れるガスの温度を測定する温度センサをさらに設けて、温度による補正をさらに行って濃度検出を行うこともできる。温度センサとしては、例えば、サーミスタを用いることができ、ガスの流路の近傍に配置されるように本体ブロックに設けた有底穴に温度センサが挿入固定されていてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態による濃度測定装置を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、測定に用いられる光としては、紫外領域以外の波長領域の光も利用可能である。
【0046】
また、上記実施形態では、測定セル4が反射部材5を備える反射式の濃度測定装置を説明したが、このような反射式の濃度測定装置としては、例えば、特願2016−149189号(2016年7月29日出願)に種々の態様が記載されており、本発明の実施形態においても同様の構成を採用することができる。
【0047】
さらに、反射式の濃度測定装置に限られず、本発明の実施形態は、特許文献2に示されているような、透過式の濃度測定装置であってもよく、この場合、測定セルの一端から測定光を入射させるとともに、測定セルの他端から出射された透過光を光検出器で検出する。この透過光検出器は、フォトダイオードが測定セルの光出射側窓部の外側に近接して設けられた構成であってもよいし、上記と同様の光学機器を利用して、測定セルから離れたところに設置されたフォトダイオードに光ファイバによって測定光を
導光する構成であってもよい。