(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記p型有機半導体膜と前記n型有機半導体膜とのHOMO準位差が、0.5eV以上1.5eV以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態である半導体装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
<第一実施形態>
[半導体装置の構成]
本発明の第一実施形態に係る半導体装置(有機共鳴トランジスタ)100の構成について、
図1、2を用いて説明する。
【0014】
図1(a)、(b)は、それぞれ、半導体装置100の構成(素子構造)を模式的に示す斜視図、断面図である。半導体装置100は、基板101と、基板の一方の主面101aに形成された絶縁膜102と、絶縁膜102上に形成されたp型有機半導体膜103およびn型有機半導体膜104と、p型有機半導体膜103上に形成された第1電極105と、n型有機半導体膜104上に形成された第2電極106と、を備えている。
【0015】
基板101としては、例えば、リン(P)等の不純物を高濃度(10
18cm
−3程度)でドープした、抵抗率0.02Ω・cm程度のシリコン基板(高ドープSi基板)を用いることができる。基板101は、半導体装置100を動作させた際に、ゲート電極として機能する。
【0016】
絶縁膜102としては、熱酸化によって形成されるSiO
2膜を用いる。絶縁膜102の厚さは、100nm以上400nm以下であることが好ましい。絶縁膜102は、半導体装置100を動作させた際に、ゲート絶縁膜として機能する。
【0017】
p型有機半導体膜103、n型有機半導体膜104の材料としては、一般に有機半導体として機能する分子であって、例えば、ペンタセンおよびその誘導分子、ペリレンおよびその誘導分子、各種フタロシアニン、フラーレン等を用いることができる。p型有機半導体膜103、n型有機半導体膜104は、半導体装置100を動作させた際に、それぞれソース拡散層またはドレイン拡散層として機能する。
【0018】
p型有機半導体膜103とn型有機半導体膜104とは、HOMO準位差が0.5eV以上1.5eV以下であることが好ましい。p型有機半導体膜103およびn型有機半導体膜104の材料は、このような関係を満たすように、組み合わせて選定されることが好ましい。HOMO準位差が0.5eVより小さいと、電流が流れやすくなり、オフ状態が作れなくなる。また、HOMO準位差が1.5eVより大きいと、高いゲート電圧が必要となり、定電圧動作を理想とするデバイスとして不適である。
【0019】
p型有機半導体膜103の材料としては、チオフェン環とベンゼン環とで形成された、異方性の大きな(すなわち細長い形状の)分子を用いることが好ましい。これは、平坦な表面形状を維持しながら一層ずつ薄膜成長させやすいためである。具体的には、下記の化学式(1)で表される6T(α−セキシチオフェン)分子を用いることができる。6T分子は、一層ずつ平坦な表面を維持して成長させることができるため、より好ましい。その他にも、ペンタセン(CAS番号:135−48−8)、C8−BTBT(2,7-Dioctyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiophene)(CAS番号:583050−70−8)、DNTT(Naphtho[2,3-b]naphtha[2′,3′:4,5]thieno[2,3-d]thiophene)(CAS番号:935280−42−5)、5,5'-[ジ(1,1'-ビフェニル)-4-イル]-2,2'-ビチオフェン(CAS番号:175850−28−9)等の分子を用いることもできる。なお、ここでのCAS番号は、Sigma−Aldrich社のカタログ番号を示している。以下においても同様とする。
【0021】
n型有機半導体膜104の材料としては、例えば、下記の化学式(2)で表されるPTCDI−C8、フラーレン(CAS番号:99685−96−8)、フッ素化銅フタロシアニン(CAS番号:14916−87−1)、5,5′′′-Bis(tridecafluorohexyl)-2,2′:5′,2 ′′:5′′,2′′′-quaterthiophene(CAS番号:446043−85−2)、2,2′-Bis[4-(trifluoromethyl)phenyl]-5,5′-bithiazole(CAS番号:869896−76−4)等の分子を用いることができる。これらの分子は、フッ素やイミド基など電気陰性度の大きな置換基が取り付けられており、その結果として、HOMO−LUMO準位が大きくなり、n型の特性を示す。PTCDI−C8分子は、大気中においても安定してn型動作し、かつ、6T薄膜上で平坦な薄膜を形成することができる点で、より好ましい。
【0023】
図2(a)は、6T分子を材料とするp型有機半導体膜103の表面のAFM像である。
図2(b)は、
図2(a)で示した6T分子膜の上に蒸着したPTCDI−C8分子を材料とするn型有機半導体膜104の表面のAFM像である。
【0024】
各AFM像中に、膜の表面のうち凹凸の境界を含む区間で測定したプロファイルを添付している。各プロファイルから分かるように、p型有機半導体膜103の表面、n型有機半導体膜104の表面において、凹部と凸部との高低差は、それぞれ、2.57nm、2.09nmとなっており、いずれも構成分子の長軸の長さ分となっている。これらのAFM像およびプロファイルで示すように、p型有機半導体膜103、n型有機半導体膜104を構成する分子は、それぞれ次の2つの構成を有している。
(i)分子の長軸が基板の表面(主面)に対して、垂直方向に配向している。
(ii)分子層が一層ずつ堆積しつつ成長して、分子層レベルで膜厚を制御できる。
【0025】
このように、一分子層以下の極薄膜PTCDI−C8分子層を6T分子膜上に蒸着した状態で、6T分子層が垂直配向したプロファイルと、PTCDI−C8分子層が垂直配向したプロファイルとを同時に確認することができる。さらに、X線反射率測定により、双方の分子層が垂直配向したまま積層していることを確認することができる。これらの結果から、p型有機半導体膜103とn型有機半導体膜104とは、単一分子層の段差(ステップ)程度の平坦性を有するように接合されていて、双方の膜を構成する分子は、接合界面を通して相互拡散していないことが分かる。
【0026】
蒸着速度と基板温度の成膜条件を最適化することにより、このような膜を形成することができる。例えば6T分子を用いる場合には、3分子層を基板温度60℃、1分子層/時間という成膜条件で、膜を形成することができる。また、例えばPTCDI−C8分子を用いる場合には、12分子層を基板温度60℃、1分子層/時間という成膜条件で、膜を形成することができる。ただし、いずれの膜も電気伝導を示しさえすればよいため、膜厚(分子層数)が制限されることはない。
【0027】
p型有機半導体膜103の一部とn型有機半導体膜104の一部とは重なって接合され、平坦なヘテロ界面Sが形成されている。
図2(c)は、5分子層(ML)からなる6T分子膜、5分子層からなるPTCDI−C8分子膜、2分子層からなるPTCDI−C8分子膜と3分子層(ML)からなる6T分子膜が重なった積層膜の場合について、それぞれの膜のヘテロ界面S近傍の構造(ヘテロ構造)による、X線回折パターンを示すグラフである。横軸は回折角2θを示し、縦軸は強度(Intensity)を示している。
【0028】
回折角2θが2°以下の範囲では、X線反射に起因する干渉パターンが見られ、回折角2θが4°付近に、それぞれの分子膜の(001)面からの回折ピークが重なっている様子が観察されている。これらの結果は、それぞれの分子膜を構成する分子の長軸が、基板の表面(主面)に対して垂直配向していることを証明している。
【0029】
本実施形態では、p型有機半導体膜103とn型有機半導体膜104の重なり部分において、p型有機半導体膜103が下側に配され、n型有機半導体膜104が上側に配されている例を示しているが、2つの膜の上下関係は逆転していてもよい。すなわち、重なり部分において、p型有機半導体膜103が上側に配され、n型有機半導体膜104が下側に配されていてもよい。
【0030】
第1電極105の材料としては、例えばAu、Pt、Pd等の金属を用いることができる。第1電極105は、p型有機半導体膜103上のうち、n型有機半導体膜104と重なっていない部分に形成されている。第1電極105は、半導体装置100を動作させた際に、ソース電極またはドレイン電極として機能する。本実施形態においては、第1電極の仕事関数は、4.2〜5.7eV程度であることが好ましい。なお、第1電極105の仕事関数の好適な範囲は、後述する第二実施形態のように、p型有機半導体膜103と第1電極105との間に電荷注入層を備えている場合には、さらに広くなる。
【0031】
第2電極106の材料としては、例えばAu、Ca、Al等の金属を用いることができる。第2電極106は、n型有機半導体膜104上のうち、p型有機半導体膜103と重なっていない部分に形成されている。第2電極106は、半導体装置100を動作させた際に、ソース電極またはドレイン電極として機能する。本実施形態においては、第2電極の仕事関数は、2.9〜5.2eV程度であることが好ましい。なお、第2電極106の仕事関数の好適な範囲は、後述する第二実施形態の変形例のように、n型有機半導体膜104と第2電極106との間に電荷注入層を備えている場合には、さらに広くなる。
【0032】
図1(c)は、第一実施形態の変形例に係る半導体装置110の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置110は、絶縁膜112とp型有機半導体膜113との間、および、絶縁膜112とn型有機半導体膜114との間に樹脂膜117を備えている。それ以外の構成については、上述した半導体装置100の構成と同様である。
【0033】
樹脂膜117は、絶縁性高分子で構成されるものであって、その材料としてPMMA(アクリル樹脂)を用いることができる。樹脂膜117が備わっていることによって、絶縁膜112上の欠陥の影響が排除され、また、半導体装置110のn型動作(電子電流)が促進される。
【0034】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態に係る半導体装置100は、主に次の工程1〜4を経て製造することができる。
[工程1]
熱酸化処理を行い、基板の一方の主面に酸化膜を形成する。
[工程2]
工程1で形成した酸化膜上に、シャドーマスクを通して一定領域のみに、p型有機半導体膜を分子レベルで1層ずつ形成する。
[工程3]
工程2で形成したp型有機半導体膜と一部重なるように、別のシャドーマスクを通してn型有機半導体膜を分子レベルで1層ずつ形成する。
[工程4]
電極用のシャドーマスクを通して真空蒸着法、スパッタリング法等による成膜処理を行い、工程3を経たp型有機半導体膜上およびn型有機半導体膜上に電極用の金属膜を形成する。
【0035】
[半導体装置の電気特性]
半導体装置100の電気特性(トランジスタ特性)について、
図3を用いて説明する。ここでは、p型有機半導体膜103、n型有機半導体膜104として、それぞれ6T分子膜、PTCDI−C8分子膜を用いており、両者のHOMO準位差は1.12eV程度となっている。
【0036】
図3(a)は、半導体装置100において、ドレイン電圧V
Dを−60Vに固定し、ゲート電圧V
Gを0Vから−60Vまで掃引してp型動作させた場合に、ヘテロ界面Sを通って流れるドレイン電流I
Dをグラフとして示したものである。
【0037】
この場合、ゲート電圧V
Gを−40V印加したあたりで電流I
Dが最大となり、それ以上のゲート電圧V
Gを印加すると電流I
Dが減少する負性抵抗が観測されることになる。これは、ある一定の電圧印加状態(ここではV
G≒−40V)になったときには、正孔が共鳴的に流れるが、他の電圧印加状態になったときには、ほとんど流れないことを示している。
【0038】
図3(b)は、半導体装置100において、ドレイン電圧V
Dを+60Vに固定し、ゲート電圧V
Gを0Vから+60Vまで掃引してn型動作させた場合に、ヘテロ界面Sを通って流れるドレイン電流I
Dをグラフとして示したものである。
【0039】
この場合、ゲート電圧V
Gを+17V印加したあたりで電流I
Dが最大となり、それ以上のゲート電圧V
Gを印加すると電流I
Dが減少する負性抵抗が観測されることになる。これは、ある一定の電圧印加状態(ここではV
G≒+17V)になったときには、電子が共鳴的に流れるが、他の電圧印加状態になったときには、ほとんど流れないことを示している。
【0040】
一例として、
図3(a)に示した電気特性のメカニズムについて、
図4を用いて説明する。
図4は、電気特性のグラフのうち、次の5つの領域(1)〜(5)におけるバンド構造を明示したものである。
【0041】
領域(1):V
G=0V
第1電極105(ソース電極)と第2電極106(ドレイン電極)との間に、ドレイン電圧V
Dを−60V印加した状態で、各分子膜には電界勾配が形成されている。
【0042】
領域(2):V
G=0〜−40V
第1電極105(ソース電極)と第2電極106(ドレイン電極)との間に、負のドレイン電圧V
Dを−60V印加した状態で、負のゲート電圧V
Gを印加することにより、各分子膜に形成される電界勾配が変化する。特にソース電極とゲート電極の電位差は大きくなるので、p型半導体の6T分子膜内の電界勾配が大きくなる。一方でドレイン電極とゲート電極の電位差は小さくなり、n型半導体のPTCDI−C8分子膜内の電界勾配は小さくなる。その結果、両分子膜のHOMO準位差は小さくなり、電流が流れやすくなる。なお、このとき6T分子等で構成されるp型有機半導体膜103には、正孔(hole)が注入され始める。
【0043】
領域(3):V
G≒−40V
ゲート電圧を増加させて、n型有機半導体膜104を構成する分子のHOMO準位(最高占有準位)が、p型有機半導体膜103を構成する分子のHOMO準位に一致したとき、ヘテロ界面Sで共鳴的に電流が流れる。
【0044】
領域(4):V
G<−40V
さらにゲート電圧V
Gを増加させると、HOMO準位間に電位差が生じ、電流パスが遮断されるため、ドレイン電流I
Dは減少する。これが負性抵抗として観測される。
【0045】
領域(5):V
G>0V
正のゲート電圧を印加した場合、各分子膜に形成される電界勾配は逆方向になるため、電流が流れるパスは形成されず、ドレイン電流は検知されない。
【0046】
以上のメカニズムは、有機半導体膜を構成する分子が、離散的な電子準位を有することに起因する。通常の半導体における電子準位は、バンド構造を形成し、価電子帯と伝導帯の双方とも連続的な電子状態を有しており、band−to−band tunnelingといわれるトンネル機構で支配されている。そのため、通常の半導体では、有機半導体の場合と同様の負性抵抗が観測されても、ごくわずかなpeak−to−valley比(PVR)しか得られない。
【0047】
これに対し、有機半導体膜を構成する分子は、不連続で離散的な電子準位を有しているため、その電子準位が、他の有機半導体膜を構成する分子の電子準位と一致したときのみに、分子間に共鳴的な電流が流れる。そして、分子間で、電子準位に電位差(準位差)が生じると、電流が流れなくなり負性抵抗が生じることになる。
【0048】
こうした現象は、orbital−to−orbital transport(分子軌道間電荷輸送)ともいえる機構によるものであり、分子へテロ界面に特有の現象と言える。その結果、正孔によるp型動作時にPVR=1.2×10
2、電子によるn型動作時に至っては、PVR=3.2×10
5という桁違いの大きな値を得ることができる。この現象は、室温でも観測できるものであり、広い分野で実用化できる可能性を秘めている。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体装置100は、ソース側、ドレイン側の拡散層の材料として2種類の有機半導体103、104を用い、それらを接合して形成されるヘテロ界面Sにおいて、共鳴的な電荷輸送を誘起して動作させるものである。
【0050】
有機半導体103、104は離散的なエネルギー準位を有しているため、ヘテロ界面Sにおけるドレイン電流のオンオフは、orbital−to−orbital transport(分子軌道間電荷輸送)ともいえる機構に支配されたものとなる。つまり、双方の有機半導体103、104のHOMO準位またはLUMO準位(電子準位)が一致したときにのみ、共鳴的にドレイン電流が流れるが、双方の電子準位の差が開くと電流が流れなくなり、負性抵抗が生じることになる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る半導体装置100では、ヘテロ界面Sが分子一層レベルで平坦であり、ヘテロ界面S近傍の分子が垂直に配向している。そのため、横方向(基板の主面と平行な方向)には、パイ共役系の重なりが促進され、この方向の電荷移動にとっては優位となる。また、垂直配向していることにより、n型とp型の有機半導体間でパイ共役系の重なりが抑制されており、さらに有機半導体膜を構成する分子にはアルキル鎖が取り付けられているため、これが絶縁膜として機能することにより、ヘテロ界面を通した電荷の移動(縦方向)は共鳴的な電荷輸送のみに制限される。このようにして、縦方向(共鳴的電荷輸送)・横方向(ドリフト電流)の電荷の移動を個別に制御できる素子構成になっている。
【0052】
本実施形態に係る半導体装置100は、室温でも、横方向のドリフト電流を促進させ、縦方向のドリフト電流を抑制することができる。その結果として、縦方向に流れる電流を共鳴的な電流のみに限定することができ、従来の半導体装置に比べて、ヘテロ界面における電荷の移動・分離・再結合の制御性を高め、PVRを著しく向上させることができる。
【0053】
なお、本実施形態に係る半導体装置100は、Si基板をゲート電極としたボトムゲート・トップコンタクト型トランジスタ構造となっているが、上記のメカニズムを引き起こす上では、構造が制限されることはなく、例えば、トップゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ構造などであってもよい。また、トップとボトムの両方を合わせたデュアルゲート型トランジスタでも、同様の素子動作が期待でき、駆動電圧の制御も可能になる。
【0054】
例えば、基板としてはプラスティック製のものを用いてもよく、プラスティック基板上に、ボトムゲートとしての金属電極、ゲート絶縁膜としての絶縁性高分子材料を形成した素子は、フレキシブル素子としても機能する。
【0055】
ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、有機半導体分子膜のいずれも、共鳴的な電流を誘起できるよう各材料の電子準位や仕事関数が条件を満たせば、材料の選択に制限はない。
【0056】
従来の半導体材料で形成するヘテロ界面では、格子定数のミスマッチによる材料選択の制限があったり、界面での欠陥による性能低下があったり、p−n接合界面での空乏層が形成されることによる性能の限界などがあった。これに対し、有機半導体を用いた場合には格子ミスマッチによる材料選択の制限がなく、ダングリングボンドなどの界面欠陥がない、空乏層を形成せずに離散的準位が直接接合している、等の特徴を有している。このため従来のトンネルトランジスタの多くの課題を解決することができる。
【0057】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係る半導体装置(共鳴トランジスタ)200について、
図5、6を用いて説明する。
【0058】
図5は、半導体装置200の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置200は、p型有機半導体膜203と第1電極205との間に電荷注入膜209を備えている。電荷注入膜209のHOMO準位は、第1電極205の仕事関数より大きく、p型有機半導体膜203のHOMO準位より小さい。その他の部分の構成については、第一実施形態の半導体装置100の構成と同様である。
【0059】
一般に、Au等のソース・ドレイン電極と有機半導体とを接合した場合、両者の間にエネルギー的な差異(ショットキーバリア)が存在するため、電極から有機半導体に電荷を注入するための印加電圧を大きくする必要があり、低電圧動作が妨げられる傾向にある。電荷注入膜209は、この問題を軽減するものである。
【0060】
電荷注入膜209のHOMO準位は、第1電極205の仕事関数と、p型有機半導体膜203のHOMO準位との中間の大きさである。第1電極205とp型有機半導体膜203との間に電荷注入膜209が存在することによって、バリアの傾斜が緩やかになり、電荷(正孔)注入を促進することができる。
【0061】
電荷注入膜209の材料としては、例えば、酸化モリブデン(MoO
3)、酸化ゲルマニウム(GeO
2)、酸化タングステン(WO
3)等を用いることができる。電荷注入膜209の厚さは、1nm以上5nm以下であることが好ましい。厚さが1nm未満であると、薄すぎて電荷注入の効果がなく、厚さが5nmを超えると厚すぎて絶縁膜として働いてしまい、電荷注入が阻害される。
【0062】
図6は、電荷注入膜209を備えた半導体装置200の電気特性を示すグラフである。グラフの横軸はゲート電圧V
Gを示し、縦軸はドレイン電流I
Dを示している。半導体装置200のI
DV
G曲線を実線で示している。また、比較用に、電荷注入膜を備えていない半導体装置100のI
DV
G曲線を破線で示している。
【0063】
図6に示すように、電荷注入層を備えている場合(実線)、ドレイン電流I
Dの最大値(ピ−ク電流)を与えるゲート電圧V
Gの大きさ(絶対値)が、電荷注入層を備えていない場合(破線)に比べて小さくなっている。つまり、電荷注入膜209が存在することによって、第1電極205とp型有機半導体膜203との間のバリアの傾斜が緩やかになり、正孔注入が促進される結果として、ゲートへの印加電圧を小さくすることができる。
【0064】
ここでは、第1電極205、電荷注入膜209、p型有機半導体膜203の材料として、それぞれ、Au、MoO
3、6Tを用いている。電荷注入膜209を備えていることによる印加電圧の減少分は、約4V(40V−36V)となっており、約10%の低電圧化が達成できていることになる。第1電極205、電荷注入膜209、p型有機半導体膜203の材料として、他のものを用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0065】
第二実施形態の変形例に係る半導体装置210について、
図7、8を用いて説明する。
図7は、半導体装置210の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置210は、n型有機半導体膜214と第2電極216との間に電荷注入膜218を備えている。電荷注入膜218のHOMO準位は、第2電極216の仕事関数より大きく、n型有機半導体膜214のHOMO準位より小さい。その他の部分の構成については、第一、第二実施形態の半導体装置100、200の構成と同様である。
【0066】
電荷注入膜218の材料としては、例えば、炭酸セシウム(C
sCO
3)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等を用いることができる。電荷注入膜218の厚さは、1nm以上5nm以下であることが好ましい。厚さが1nm未満であると、薄すぎて電荷注入の効果がなく、厚さが5nmを超えると厚すぎて絶縁膜として働いてしまい、電荷注入が阻害される。
【0067】
図8は、電荷注入膜218を備えた半導体装置210の電気特性を示すグラフである。グラフの横軸はゲート電圧V
Gを示し、縦軸はドレイン電流I
Dを示している。半導体装置210のI
DV
G曲線を実線で示している。また、比較用に、電荷注入膜を備えていない半導体装置100のI
DV
G曲線を破線で示している。
【0068】
図8に示すように、電荷注入層を備えている場合(実線)、ドレイン電流I
Dの最大値(ピ−ク電流)を与えるゲート電圧V
Gが、電荷注入層を備えていない場合(破線)に比べて小さくなっている。つまり、電荷注入膜218が存在することによって、第2電極216とn型有機半導体膜214との間のバリアの傾斜が緩やかになり、電子注入が促進される結果として、ゲートへの印加電圧を小さくすることができる。
【0069】
ここでは、第2電極216、電荷注入膜218、n型有機半導体膜214の材料として、それぞれ、Au、C
sCO
3、PTCDI−C8を用いている。電荷注入膜218を備えていることによる印加電圧の減少分は、約6V(18V−12V)となっており、約30%の低電圧化が達成できていることになる。第2電極216、電荷注入膜218、n型有機半導体膜214の材料として、他のものを用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0070】
半導体装置200、210のいずれにおいても、電荷の注入が促進された結果、ピーク電流の著しい増加を達成できている。具体的には、電荷注入層を挿入することにより、n型・p型のいずれの動作時においても、電流密度が、10
−5A/cm
2オーダーから10
−4A/cm
2オーダーに増加している。さらに、PVRについては、p型動作の場合に3.9×10
2、n型動作の場合に6.0×10
5まで向上している。
【0071】
電荷注入膜だけでなく、有機半導体膜・電極の材料についても、電子準位や仕事関数を適宜調整することにより、同様の効果が期待できる。例えば、今回は電極材料としてAuを用いたが、仕事関数の異なる金属材料でも同様の効果が期待できる。例として、正孔を注入する側の電極として仕事関数の大きなPt、Pd等を用いることもできる。同じ理由から電子を注入する電極に仕事関数の小さなCa、Al等を用いることもできる。
【0072】
有機半導体膜を構成する分子材料については、6T、PTCDI−C8以外であっても、電子準位の異なる分子の組み合わせであれば、同様の素子動作が期待できる。特に、両分HOMO準位差(もしくはLUMO準位差)の小さな分子材料の組み合わせであれば、低駆動電圧を実現することができる。
【0073】
ペンタセンおよびその誘導体分子、ペリレンおよびその誘導体分子、各種フタロシアニン、フラーレン等の一般に有機半導体として機能する分子であれば、同様の素子動作が期待できるため、異種分子の組み合わせを最適化することにより、低駆動電圧化はもちろん、高PVR化、高電流密度化、スイッチング動作の高速化なども実現できると考えられる。
【0074】
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態に係る半導体装置(共鳴トランジスタ)300について、
図9、10を用いて説明する。
【0075】
図9は、半導体装置300の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置300は、ゲート絶縁膜として、SiO
2薄膜ではなく、High−k材料からなる絶縁膜(High−k絶縁膜)302を用いている。その他の部分の構成については、第一実施形態の半導体装置100の構成と同様である。
【0076】
High−k材料としては、High−k誘電率が3.9以上25以下のものであることが好ましく、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)等を用いることができる。High−k絶縁膜302の厚さは、5nm以上100nm以下であることが好ましい。High−k絶縁膜302の厚さが5nm未満である場合、リーク電流が増加してしまう。また、High−k絶縁膜302の厚さが100nmを超える場合、薄膜化を目的としたHigh−k絶縁膜を用いる意味がない。
【0077】
図10は、High−k絶縁膜302を備えた半導体装置300の電気特性を示すグラフである。グラフの横軸はゲート電圧V
Gを示し、縦軸はドレイン電流I
Dを示している。半導体装置300のI
DV
G曲線を実線で示している。
【0078】
ここでは、原子層堆積法により、高ドープSi基板上に直接成膜したAl
2O
3薄膜(30nm)をゲート絶縁膜として用いている。
【0079】
図10から、有機半導体膜に対してゲート電圧が効果的に印加されており、その結果p型動作時の駆動電圧が約7Vまで低下し、著しい低電圧化が達成できている。
【0080】
なお、ここでは、原子層堆積法で作製したAl
2O
3薄膜を用いているが、異なる手法で異なる絶縁膜を作製しても同様の効果が期待できる。例えば、スパッタ法で作製したHfO
2膜や、スピンコート法で作製した絶縁性高分子材料PMMA等が候補となり得る。