特許第6786213号(P6786213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786213
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】アブレーションのスペクトル検出
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20201109BHJP
   A61B 18/14 20060101ALI20201109BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20201109BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   A61B18/12
   A61B18/14
   A61B5/00 Z
   A61B10/00 E
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-255751(P2015-255751)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2016-137239(P2016-137239A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2018年12月28日
(31)【優先権主張番号】14/585,135
(32)【優先日】2014年12月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・トーマス・キース
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
【審査官】 宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−535098(JP,A)
【文献】 特開2014−117618(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0265184(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/123014(WO,A1)
【文献】 特開2008−178668(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0270792(US,A1)
【文献】 特表2014−509547(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0054908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61B 18/14
A61B 5/00
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用装置であって、
生きている被験者の体内に挿入され、複数の様々な波長の光を前記体内の治療部位へと導き、前記治療部位から散乱した光を受け取るよう構成される、侵襲的プローブと、
前記侵襲的プローブに接続された光学モジュールであって、前記光学モジュールによって、前記治療部位での組織のアブレーションの第1段階で、前記複数の様々な波長での前記治療部位からの散乱光強度の第1測定を行い、前記組織のアブレーションの前記第1段階に続く第2段階で、前記複数の様々な波長での前記治療部位からの散乱光強度の第2測定を行う、光学モジュールと、
前記第1測定と前記第2測定との間に生じる、前記複数の様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値を計算し、前記それぞれの測定値を比較することによって、前記アブレーションの進行を評価するよう構成された、プロセッサと、
を含み、
前記複数の様々な波長が、第1波長と、第2波長と、第3波長と、を含み、
前記第1波長が630〜670nmの間であり、前記第2波長が750〜790nmの間であり、前記第3波長が670〜710nmの間であり、
前記プロセッサにより計算された前記異なるそれぞれの測定値が、それぞれ前記第1、第2及び第3波長での前記散乱光強度の前記第1測定と前記第2測定との間の第1比、第2比及び第3比を含み、前記プロセッサが、前記第1比、第2比及び第3比との間の数学的関係を評価することにより前記それぞれの測定値を比較するよう構成され、前記それぞれの測定値を比較することによって前記アブレーションの進行が評価され、
前記数学的関係を評価することが、前記第2比と前記第3比の積を前記第1比で割った値に基づいて、前記治療部位での前記アブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することを含む、装置。
【請求項2】
前記侵襲的プローブがカテーテルを含み、前記カテーテルが、前記被験者の心臓内の心筋組織をアブレーションするよう構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記侵襲的プローブが、前記治療部位へと光を導くよう構成されたエミッタと、前記治療部位から散乱した光を収集するよう構成されたレシーバとを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記エミッタ及び前記レシーバが、少なくとも1本の光ファイバを含み、前記光ファイバが、前記侵襲的プローブの遠位端にあって前記治療部位に近接する光学ポートと、前記侵襲的プローブの近位端に接続された前記光学モジュールとの間で、前記侵襲的プローブ内を通って延在する、請求項3に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許出願第13/716,517号(2012年12月17日出願、米国特許出願公開第2014/0171806号として公開)の継続出願であり、その出願は更に、米国特許出願第12/816,492号(2010年6月16日出願、米国特許出願公開第2011/0313280号として公開)の継続出願である。これらの関連出願の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、非侵襲的医療用装置及び治療方法に関連し、特に身体内の組織のアブレーションの評価に関連する。
【背景技術】
【0003】
心臓内の低侵襲的なアブレーションは、各種不整脈の治療選択肢である。このような治療を実施するために、医師は、典型的には、血管系を介して心臓にカテーテルを挿入し、異常な電気的活動の区域にてカテーテルの遠位端を心筋組織と接触させ、続いて、組織壊死を生じさせるために、遠位端で又は遠位端の近傍で1つ以上の電極に通電する。
【0004】
アブレーション治療をモニタリングするための様々な方法が当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第7,001,383号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)は、心臓内のアブレーション損傷形成のリアルタイムモニタリング及びマッピングについて記載している。本開示の方法には、心臓の、アブレーションを行うよう指定された複数の部位に、局所的治療を適用することが含まれる。それぞれの部位において、各部位でのアブレーションレベルの指標となるパラメータが検出される。この方法には好ましくは、心臓のマップを表示させることと、アブレーション手順中に、それぞれの検出パラメータに応じて、マップ上に各部位でのそれぞれのアブレーションレベルの指標を割り当てることとが含まれる。
【0005】
米国特許出願公開第2014/0171936号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)は、温度センサ及び光ファイバアレイを備えた、灌注された先端を有するカテーテルについて記載している。このカテーテルは、患者の体内の組織の近位に挿入するように構成された遠位端を有し、かつ組織に電気エネルギーを運ぶための導電体を有する内腔を収容する、挿入管を含む。導電性キャップは、挿入管の遠位端に取り付けられ、導電体に電気的に連結される。複数の光ファイバは挿入管内に収容され、各光ファイバは、キャップの外側表面の近位で終端し、かつ電気エネルギーが組織に運ばれている間に組織へ及び組織からの光放射を運ぶように構成される。
【0006】
米国特許第8,147,484号は、アブレーションを実施しながらの組織反射スペクトル特性のリアルタイム光学計測を可能にするシステム及び方法について記述している。この方法は、反射光強度の変化を、水蒸気破裂を防止するための組織中の水蒸気発生の指標として監視するために、組織を照射すること及び組織から光を再捕捉することを伴う。このシステムには、アブレーションを受けている組織から反射される光を収集するよう適合されたカテーテルと、収集した光の成分波長を特定及び分離する検出コンポーネントと、収集した光について測定された光強度データを生成するための定量装置と、測定された光強度データを時間との関連で分析するプロセッサとが含まれる。時間に対する測定反射スペクトル強度(MRSI)が分析され、所定の時間内でMRSIが最初に増加し、次に所定の速度でMRSIが減少したかどうかについて、観察が行われる。MRSIに減少が見られない場合、組織に対するアブレーションエネルギーの送達は継続される。しかしながら、所定の時間内かつ所定の速度でMRSIの減少があった場合、この方法では、スチームポケットの形成が推断され、組織へのアブレーションエネルギー送達が低減又は中止される。
【0007】
参照により本特許出願に組み込まれた文書は、これらの組み込まれた文書内のどのような用語でも、本明細書で明示的又は暗黙的に行われる定義と相反するように定義される場合を除き、本出願の一体部分と見なされるべきであり、本明細書における定義のみが検討されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で下記に述べる本発明の実施形態は、アブレーション処置を受けている組織を評価するのに使用可能な装置及び方法を提供する。
【0009】
よって、本発明の一実施形態により、組織評価のための一方法が提供され、この方法は、生きている被験者の体内のある部位に対して適用される侵襲的プローブを使用して、その部位の組織をアブレーションすることを含む。組織のアブレーションの第1段階で行われる第1測定は、複数の様々な波長でのその部位からの散乱光強度で行われる。組織のアブレーションの第1段階に続く第2段階で行われる第2測定は、その複数の様々な波長でのその部位からの散乱光強度で行われる。アブレーションの進行は、第1測定と第2測定との間に生じる、様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値を計算し、それぞれの測定値を比較することによって評価される。
【0010】
開示の一実施形態において、組織のアブレーションには、被験者の心臓内の心筋組織をアブレーションすることが含まれ、これは典型的に、体内にカテーテルを挿入することと、このカテーテルを介して組織にエネルギーを印加することとによって行われる。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1測定及び第2測定の実施には、プローブ内のエミッタからその部位に向けて光を導くことと、プローブ内のレシーバを使用して、組織から散乱した光を収集することとが含まれる。開示の一実施形態において、このエミッタ及びレシーバは、少なくとも1本の光ファイバを含み、該光ファイバは、プローブの遠位端にあって部位に近接する光学ポートと、プローブの近位端に接続された光学測定モジュールとの間で、プローブ内を通って延在する。
【0012】
開示の実施形態において、複数の様々な波長には、可視光範囲にある第1波長と、赤外光範囲にある第2波長とが含まれる。典型的に、第1波長は600〜700nmの間であり、第2波長は700〜800nmの間である。一実施形態において、第1波長は630〜670nmの間であり、第2波長は750〜790nmの間であり、並びに、複数の様々な波長には、670〜710nmの間の第3波長が含まれる。
【0013】
開示の一実施形態において、異なるそれぞれの測定値を計算することには、第1、第2及び第3波長での散乱光強度の第1測定と第2測定との間の第1比、第2比及び第3比をそれぞれ計算することが含まれ、それぞれの測定値を比較することには、第1比と第2比と第3比との間の数学的関係を評価することが含まれ、これによってアブレーションの進行が評価される。典型的に、数学的関係を評価することには、第2比と第3比の積を第1比で割った値に基づいて、その部位でのアブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することが含まれる。
【0014】
より一般的には、異なるそれぞれの測定値を計算すことには、第1及び第2波長での散乱光強度の第1測定と第2測定との間の少なくとも第1比及び第2比を計算することが含まれ、その進行を評価することには、第1比と第2比との間の比較に基づいて、その部位でのアブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することが含まれる。
【0015】
また、本発明の一実施形態により、医療用装置が提供され、これには侵襲的プローブが含まれ、この侵襲的プローブは、生きている被験者の体内に挿入され、複数の様々な波長の光を体内の治療部位へと導き、その部位から散乱した光を受け取るよう構成される。この侵襲的プローブに光学モジュールが接続されて、これによって、治療部位での組織のアブレーションの第1段階で、複数の様々な波長でその部位からの散乱光強度の第1測定を行い、組織のアブレーションの第1段階に続く第2段階で、複数の様々な波長でその部位からの散乱光強度の第2測定を行う。第1測定と第2測定との間に生じる、様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値を計算し、それぞれの測定値を比較することによって、アブレーションの進行を評価するよう、プロセッサが構成される。
【0016】
本発明は、図面と総合すれば、以下の発明を実施するための形態からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による、心臓内アブレーションのためのシステムの概略的な絵図である。
図2】本発明の一実施形態による、アブレーション手順中に心筋組織に接触しているカテーテルの詳細模式図である。
図3】本発明の一実施形態による、光学的検出機能を備えたカテーテルの遠位先端の端面模式図である。
図4】本発明の一実施形態による、光学的モジュールを概略的に例示するブロック図である。
図5】本発明の一実施形態による、アブレーション部位でのアブレーション手順の連続的段階における、各部位からの散乱光強度の模式的スペクトルプロットである。
図6】本発明の一実施形態による、アブレーション部位でのアブレーション手順の連続的段階における、各部位からの散乱光強度の模式的スペクトルプロットである。
図7】本発明の一実施形態による、アブレーション損傷深さを、複数の損傷にわたる散乱光強度の比と比較した模式的プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
心筋組織のアブレーションにおける課題のひとつは、所与の部位での治療をいつ停止すべきかを知ることである。印加するエネルギーが少なすぎると、結果として得られる損傷の形成が表面のみに留まることがあり、望ましい治療目的が達成されない。また一方、印加するエネルギーが多すぎると、過剰な組織損傷が生じ、穿孔を起こすことさえあり得る。よって、アブレーション手順中の任意の時点で形成されている損傷の寸法(及び特に深さ)を評価すること、並びにこれにより、望ましい損傷寸法が達成されたら手順を終了することが望ましい。
【0019】
発明者らは、この問題に関して、アブレーション中に、心筋組織変化の特定の光学スペクトル特性が変化すること、並びにこれらの特性が損傷寸法の良好な指標になることを見出した。具体的には、発明者らは、アブレーション中に散乱光強度が様々な波長で、特に赤及び近赤外線範囲の選択された波長で、様々な度合で変化することを見出した。様々な波長での相対的散乱の変化の関係は、それぞれの波長で測定されたアブレーション前とアブレーション後の散乱強度の比の指数として表わすことができ、これは損傷深さとの相関性が高い。
【0020】
よって、本明細書で後述される実施形態において、侵襲的プローブが体内のある部位に適用され、ここで組織がアブレーションされる。プローブは、アブレーションプロセスの異なる段階で、多数の様々な波長でこの部位からの散乱光強度の測定を行うのに使用される。プロセッサが、第1測定と第2測定との間に生じる、様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値を計算し、それぞれの測定値を比較することで、アブレーションの進捗度を評価する。そのような測定は、例えば、プロセスの前、プロセス中、及びプロセス完了時に行って比較することができ、各段階で、損傷寸法及び具体的には損傷深さの推定値を提供することができる。
【0021】
後述の実施形態は、カテーテルの形態のプローブを使用して心筋組織のアブレーションを行うことに関連し、これは、組織をアブレーションするためにエネルギー(例えば電気エネルギー)を印加する。カテーテルは1つ以上の光ファイバを含み、カテーテルの遠位端には光学ポートを備えている。この光学ポートを通って、様々な波長の光が組織へと導かれ、また散乱光がここを通って受容され、分光法的比較の目的に用いられる。あるいは、本発明の原理は、心筋組織及びその他のタイプの組織の両方のアブレーションにおいて、当該技術分野で周知の任意の好適なアブレーション技法を用いて、プローブ並びに光学レシーバ及びその他のタイプのトランスミッタを使用して適用され得る。
【0022】
図1は、本発明の実施形態による、心臓アブレーション療法のためのシステム20の概略的な図である。操作者28(例えば、治療的介入専門の心臓医)は、患者26の血管系を通じて患者の心臓24の心室に、カテーテル22を挿入する。例えば、心房細動を処置するため、操作者はカテーテルを左心房に前進させ、アブレーションすることになる心筋組織とカテーテルの遠位端30とを接触させてもよい。
【0023】
カテーテル22はその近位端において、所望の治療を適用及びモニタリングするために、操作者28によって制御されるコンソール32に接続される。この実施形態のコンソール32は、標的組織をアブレーションするために、カテーテル22を経由して遠位端30に電力を供給する、高周波(RF)エネルギー発生装置34を備える。光モジュール40は、遠位先端部30から標的組織に送信するために、典型的にはレーザ、白熱灯、アーク灯、又は発光ダイオード(LED)を含み得る1つ又は2つ以上の光源からの光放射をもたらす。モジュール40は、後述するように、標的組織から戻る、及び遠位端で取得される光放射を受け取り、分析する。これらの結果をもとに、コンソール32は、RFエネルギー発生器34により印加される電力、及びアブレーション手順の他の側面を、自動的に、又は操作者28による入力に応答して、制御することができる。後者の目的のため、コンソール32は典型的に、関連する測定結果をディスプレイ38上に提示する。
【0024】
コンソール32は更に、位置、及び遠位端30の位置、及び遠位端が組織に付与する力などのパラメータなどに関連した信号をカテーテル22から受信してトラッキングすることもできる。コンソール32内の灌注ポンプは典型的に、カテーテル22を介して灌注遠位端30に、食塩水など冷却流体を供給する。システム20は、部分的に、カテーテル22のナビゲーション及び制御を支援する豊富な機能を提供する、Biosense Webster Inc.(Diamond Bar,California)製のCARTOシステムを基にしてよい。ただし、システム20のこれらのオプション機能は、本明細書の範囲外であり、単純化のために図では省略される。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態における、アブレーション手順中の心筋組織40に接触しているカテーテル22の遠位端30を示す詳細模式図である。カテーテル22は、遠位端に導電性キャップ42を有する。典型的に、キャップ42は、例えば金、パラジウム、白金、又はこれらの材料の合金など、アブレーション電極に用いるのに好適な生体適合性金属を含む。カテーテル22内の導電体(図示なし)は、RF発生器34から、カテーテル22を通じてキャップ42へと電気エネルギーを伝達し、これによって、キャップにエネルギー印加して、キャップが接触する心筋組織をアブレーションし、これによって損傷44を形成する。これらの特徴を有するカテーテル及びキャップの更なる詳細は、例えば、上述の米国特許出願公開第2014/0171936号に記述されている。
【0026】
カテーテル22は光ファイバ46、48を含み、これらは光学モジュール36と対応する光学ポート50との間にわたってカテーテルを通って延在し、遠位端30のキャップ42まで中空である。図示の例において、ファイバ46はアブレーション部位に光を放射し、一方でファイバ48は、組織から散乱した光を受取り、これを光学モジュールへと戻す。本明細書及び請求項の文脈において、用語「光」とは、可視光、赤外光、及び/又は紫外放射線を含む、任意の波長帯の光学的放射線を指す。
【0027】
2本のファイバ46、48及び対応するポート50が図2に示されているが、別の方法として、カテーテル22はより少ない数又はより多い数の、光ファイバ、並びにその他の種類のエミッタ及びレシーバを含み得る。例えば、好適なLED及びフォトダイオードなどの小型光源及び検出器をカテーテル先端に埋め込むことによって、光の放射と受信光の検出を行うことができる。加えて、又は別の方法として、カテーテルは、レンズ、及び/又は他のタイプの送信及び収集光学装置を含み得る。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態による、カテーテル22の遠位端30のキャップ42の端面模式図である。この図において、図2のファイバ46及び48と同様に、6本の光ファイバが、カテーテル内を貫通し、キャップ42の様々な場所にあるそれぞれのウィンドウ50を末端としていることが想定される。この配置により、損傷44内の様々な位置をプローブするのに使用できる、ファイバの様々な組み合わせが可能になる。使用可能なプローブ経路には、単一ウィンドウ経路54が挙げられ、この場合、所与のウィンドウ50から放射された光は同じウィンドウに戻り、よって同じファイバがエミッタ及びレシーバとして機能する。ウィンドウ間経路52は、所与のウィンドウからの光が別のウィンドウに戻る構成を画定する。
【0029】
所与の経路52、54又は経路群から受け取る散乱光は、経路又は経路群内の組織の特性に応じて異なる。経路が長くなるほど、より深く組織40を探査する傾向にある。発明者らは、本明細書で後述する測定の目的のために、ウィンドウ50のうち1つを通って組織に光を当て、その散乱放射光を、複数の経路52経由で(例えば他のウィンドウすべてを通って)同時に受け取ることが、有用であることを見出した。このアプローチは、損傷44の領域を良好にカバーし、高い信号/ノイズ比をもたらす。あるいは、他の経路及び経路の組み合わせを使用して、空間分解能を強化することができる。
【0030】
図4は、本発明の実施形態による、コンソール32の光学モジュール36の詳細を概略的に図示する、ブロック図である。1つ又は2つ以上の放射線源68が光学的放射線を放射する。光学スイッチ70は、放射された放射線を受け取り、放射線を組織のアブレーション部位へと送達するための、カテーテル22を貫通する1つ又は2つ以上の光ファイバ46、48、62、64、66、...、を選択するよう設定される。スイッチ70は同様に、アブレーション部位から戻ってきた散乱放射線を、1つ又は2つ以上の光ファイバを経て、1つ又は2つ以上の検出器72へと導く。光学スイッチ70は、望ましい経路に沿って光を導くための、例えば、好適な可動反射体の配置、並びに焦点合わせエレメントを含み得る。代替的に又はこれに加えて、スイッチ70は、光源1つずつだけをファイバに連結することができるようにし、同時に検出器がすべてのファイバからの光を受け取ることを可能にする、チョッパーホイール又はビームスプリッタを含み得る。所望により、スイッチ70は更に、波長解像測定の補助として、光学フィルタ及び/又はその他の波長選択的エレメント若しくは分散性エレメントを含み得る。本明細書に記述される測定スキームを支持する様々な設計の光学モジュール36は、本明細書を読んだ後の当業者には明白であり、そのような設計は、本発明の範囲内と見なされる。
【0031】
いくつかの実施形態において、各光源68は、特定の測定波長で作動する、好適なLED又はレーザダイオードなどの狭帯域光学エミッタを含む。これらの波長を選択するのに考えられる基準は、後述の図に示される。例えば、光源Aは赤色光源を含み得、光源Bは赤外光源を含む。より具体的には、光源Aは典型的に600〜700nmの波長の光を放射し、光源Bは700〜800nmの波長の光を放射する。1つの有利な実施例において、光源Aは630〜670nmの波長の光を放射し、光源Bは750〜790nmの波長の光を放射し、光源Cは670〜710nmの第3波長の光を放射する。損傷寸法を推定する際の、これらの具体的な波長範囲の有用性が、下記で詳しく説明される。
【0032】
代替的に又はこれに加えて、1つ又は2つ以上の光源68は、広帯域光源を含み得、これは典型的に、少なくとも赤外光範囲と可視光範囲の波長範囲にわたる光を放射する。この場合、光学スイッチ70は、格子又はプリズムなどの分散性エレメントを含み得、これは、別の検出器72の中で、アブレーション部位から受け取った散乱光の様々な波長構成要素を分離し、これによって、各検出器が、上述の赤色光範囲及び赤外光範囲といった異なる波長又は波長範囲を受け取ることになる。図5及び6に示す測定結果は、このようにして取得されたものである。
【0033】
図5及び6は、本発明の一実施形態による、アブレーション部位でのアブレーション手順の連続的段階における、各部位からの散乱光強度の模式的スペクトルプロットである。このプロットは、2つの異なるアブレーション手順中の3つの異なる点(実験動物に対して実施された手順で形成された17個の損傷の中から選択された)におけるスペクトル強度を、波長の関数として示している。測定値は、上記に図示及び説明されているものに類似のシステム及びカテーテルを使用して得られた。各事例において、広帯域放射線は、光ファイバのうち1本を通ってアブレーション部位へと送達され、散乱放射光は1本又は2本以上の他のファイバを介して受け取られ、分光法的に測定された。
【0034】
各図それぞれにおいて、アブレーション前スペクトル80、アブレーション手順中にキャプチャされた中間スペクトル82、及びアブレーション後スペクトル84の、3本のスペクトル曲線が示されている。スペクトルは一貫して、図5及び6に示されているように二峰様構造を呈しており、643〜650nmの範囲に赤色帯域エッジピーク86が、また765〜772nmに近赤外線ピーク88が見られた。690〜698nm範囲にある中間帯域エッジ(赤色と赤外線との間の境界)の中間ピーク90と共に、ピーク86及び88の強度が測定された。概して、関心対象のスペクトル帯域全体(約600〜800nm)にわたって、アブレーションプロセス中に強度が減少し、よって、進行中のアブレーションの指標を提供することができる。
【0035】
しかしながら発明者らは、ピーク86及び88での散乱光強度のアブレーション後測定値とアブレーション前測定値との間の比が、アブレーションによって形成された損傷の寸法の、より確かな推定値を提供することを見出した。また、これらの比(概ね、互いに異なっている)の比較は、損傷深さの有用な指標を提供することを見出した。ピーク90でのアブレーション後測定値とアブレーション前測定値との比も評価し、かつ3つのピークでの比の間でも数学的関係を評価すると、この推定値は更に改善される。
【0036】
特に、ピーク88及び90での比の積をピーク86での比で割ると、全体比値Lが得られ、これは、損傷深さに比例して増加することが実験的に見出された。
【0037】
【数1】
この式において、Sは、ピーク86(S)、ピーク88(S)、又はピーク90(S)でのアブレーション前強度であり、一方、Eは、アブレーションの後続段階での対応する強度である(これは、手順の中間段階又は完了であり得る)。換言すれば、より深いアブレーションは、赤色光波長での低下に比較して、赤外線波長と中間波長でのスペクトル強度の低下の方が大きいことによって特徴付けられる。例えば、図5に示す曲線ではL=1.32であり、実際の損傷深さ(心臓の解剖後に測定)は3.12mmであった。一方、図6に示す曲線ではL=2.01であり、測定された損傷深さは5.71mmであった。
【0038】
図7は、本発明の一実施形態による、複数の損傷にわたる、アブレーション損傷深さ(ミリメートル単位)を、比値Lと比較した模式的プロットである。Lと損傷深さとの間の関係は、心臓のどの室であるかによって異なるため、右心房(RA)、右心室(RV)及び左心室(LV)で測定された結果を示すため、別々の記号が使用されている。ただしすべての場合において、損傷深さは、おおよそ線形的に、比値Lで、明確に尺度化されている。
【0039】
これらの原理をシステム20に適用するには、光学モジュール36が、アブレーション部位から散乱した光のスペクトル強度を測定し、プロセッサ74がアブレーション中及びアブレーション後にLを計算する。プロセッサ74は典型的にこの値を、オペレータ28に対する指標として出力する。これに加えて又は代替的に、プロセッサは、アブレーションエネルギーの印加を自律的又は半自律的に制御するよう、この比値を、典型的に他の検出パラメータと連結させて、使用することができる。
【0040】
上記に示した実験結果は、特定の具体的な波長範囲を利用しているが、赤色及び近赤外線波長の他の選択でのスペクトル強度間の相関関係も、同様の効果を得るのに使用され得る。この点において、一対の連続した測定値同士の間の比、又被除数と除数との間の関係は、第1の値を第2の値で割った商、又は第2の値を第1の値で割った商として、同等に表現することができることを理解すべきである。更に、様々なスペクトル強度値を比較するのに、上述の実施形態において比が使用されているが、スペクトル値の比較及び変化の定量的測定値の計算において、他の算術計算(例えば引算)も代わりに適用することができる。
【0041】
したがって、上述の実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上で詳細に示し説明したものに限定されないことが認識されるであろう。むしろ、本発明の範囲には、上で説明した様々な特徴の組み合わせと部分的組み合わせの両方、並びにそれらの変形形態及び修正形態が含まれ、これらは、上述の説明を読めば当業者には想到されるであろうものであり、従来技術では開示されていないものである。
【0042】
〔実施の態様〕
(1) 組織の評価方法であって、
生きている被験者の体内のある部位に対して適用される侵襲的プローブを使用して、該部位の組織をアブレーションすることと、
該組織のアブレーションの第1段階で、複数の様々な波長での該部位からの散乱光強度の第1測定を行うことと、
該組織のアブレーションの該第1段階に続く第2段階で、該複数の様々な波長での該部位からの散乱光強度の第2測定を行うことと、
該第1測定と該第2測定との間に生じる、該様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値(measures)を計算し、該それぞれの測定値を比較することによって、該アブレーションの進行を評価することと、
を含む、方法。
(2) 前記組織をアブレーションすることが、前記被験者の心臓の心筋組織をアブレーションすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記組織をアブレーションすることが、前記体内にカテーテルを挿入することと、該カテーテルを介して前記組織にエネルギーを印加することとを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記第1測定及び第2測定を行うことが、前記プローブ内のエミッタから前記部位に向けて光を導くことと、該プローブ内のレシーバを使用して、前記組織から散乱した光を収集することとを含む、実施態様1記載の方法。
(5) 前記エミッタ及び前記レシーバが、少なくとも1本の光ファイバを含み、該光ファイバが、前記プローブの遠位端にあって前記部位に近接する光学ポートと、該プローブの近位端に接続された光学測定モジュールとの間で、該プローブ内を通って延在する、実施態様4に記載の方法。
【0043】
(6) 前記複数の様々な波長が、可視光範囲にある第1波長と、赤外光範囲にある第2波長とを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記第1波長が600〜700nmの間であり、前記第2波長が700〜800nmの間である、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記第1波長が630〜670nmの間であり、前記第2波長が750〜790nmの間であり、前記複数の様々な波長が、670〜710nmの間の第3波長を含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記異なるそれぞれの測定値を計算することが、前記第1、第2及び第3波長での散乱光強度の前記第1測定と第2測定との間の第1比、第2比及び第3比をそれぞれ計算することを含み、前記それぞれの測定値を比較することが、第1比と第2比と第3比との間の数学的関係を評価することを含み、これによって前記アブレーションの進行が評価される、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記数学的関係を評価することが、前記第2比と前記第3比の積を前記第1比で割った値に基づいて、前記部位での前記アブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することを含む、実施態様9に記載の方法。
【0044】
(11) 前記異なるそれぞれの測定値を計算することが、前記第1及び第2波長での散乱光強度の前記第1測定と第2測定との間の少なくとも第1比及び第2比を計算することを含み、前記進行を評価することが、該第1比と該第2比との間の比較に基づいて、前記部位での前記アブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することを含む、実施態様6に記載の方法。
(12) 医療用装置であって、
生きている被験者の体内に挿入され、複数の様々な波長の光を該体内の治療部位へと導き、その部位から散乱した光を受け取るよう構成される、侵襲的プローブと、
該侵襲的プローブに接続された光学モジュールであって、これによって、該治療部位での組織のアブレーションの第1段階で、該複数の様々な波長での該部位からの散乱光強度の第1測定を行い、該組織のアブレーションの該第1段階に続く第2段階で、該複数の様々な波長での該部位からの散乱光強度の第2測定を行う、光学モジュールと、
該第1測定と該第2測定との間に生じる、該様々な波長での散乱光強度の変化の異なるそれぞれの測定値を計算し、該それぞれの測定値を比較することによって、該アブレーションの進行を評価するよう構成された、プロセッサと、
を含む、装置。
(13) 前記プローブがカテーテルを含み、該カテーテルが、前記被験者の心臓内の心筋組織をアブレーションするよう構成されている、実施態様12に記載の装置。
(14) 前記プローブが、前記部位へと光を導くよう構成されたエミッタと、前記組織から散乱した光を収集するよう構成されたレシーバとを含む、実施態様12に記載の装置。
(15) 前記エミッタ及び前記レシーバが、少なくとも1本の光ファイバを含み、該光ファイバが、前記プローブの遠位端にあって前記部位に近接する光学ポートと、該プローブの近位端に接続された前記光学モジュールとの間で、該プローブ内を通って延在する、実施態様14に記載の装置。
【0045】
(16) 前記複数の様々な波長が、可視光範囲にある第1波長と、赤外光範囲にある第2波長とを含む、実施態様12に記載の装置。
(17) 前記第1波長が600〜700nmの間であり、前記第2波長が700〜800nmの間である、実施態様16に記載の装置。
(18) 前記第1波長が630〜670nmの間であり、前記第2波長が750〜790nmの間であり、前記複数の様々な波長が、670〜710nmの間の第3波長を含む、実施態様17に記載の装置。
(19) 前記プロセッサにより計算された前記異なるそれぞれの測定値が、それぞれ前記第1、第2及び第3波長での散乱光強度の前記第1測定と第2測定との間の第1比、第2比及び第3比を含み、該プロセッサが、第1比と第2比と第3比との間の数学的関係を評価することにより該それぞれの測定値を比較するよう構成され、これによって前記アブレーションの進行が評価される、実施態様18に記載の装置。
(20) 前記数学的関係を評価することが、前記第2比と前記第3比の積を前記第1比で割った値に基づいて、前記部位での前記アブレーションにより形成された損傷の寸法を推定することを含む、実施態様19に記載の装置。
【0046】
(21) 前記プロセッサにより計算された前記異なるそれぞれの測定値が、前記第1及び第2波長での散乱光強度の前記第1測定と第2測定との間の少なくとも第1比及び第2比を含み、該プロセッサが、該第1比と該第2比との間の比較に基づいて、前記部位での前記アブレーションにより形成された損傷の寸法を推定するよう構成されている、実施態様16に記載の装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7