特許第6786232号(P6786232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6786232-ビールテイスト飲料およびその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786232
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20201109BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20201109BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20201109BHJP
【FI】
   C12C5/02
   C12G3/06
   !A23L2/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-54414(P2016-54414)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-163930(P2017-163930A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年8月24日
【審判番号】不服2019-16610(P2019-16610/J1)
【審判請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】村 上 敦 司
(72)【発明者】
【氏名】小 林 諒 子
(72)【発明者】
【氏名】蒲 生 徹
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 天野 宏樹
【審判官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 Storm the Bastille,Brewer’s Friend,2015.03.28,[検索日2019.06.07],<URL: https://www.brewersfriend.com/homebrew/recipe/view/229368/storm−the−bastille>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C1/00-13/10
C12G1/00-3/08
A23L2/00-2/84
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなり、該ホップがネルソンソーヴィン種ホップおよびヘルスブルッカー種ホップを含む、ビールテイスト飲料の製造方法であって、該ビールテイスト飲料が、
β−ユーデスモールおよびホップ成分Aを含んでなり、
該ホップ成分Aが該飲料に対して0.5〜14.8%含有し、
該飲料中に含まれるβ−ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であり、かつ
該ホップ成分Aが、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し16〜18分後の出現時間差を有するピークに対応する成分であり、該リテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料に付与される香りは飲料製品のキャラクター形成に多大な影響を与えることが知られている。香気特徴を表現する言葉として、フローラル、スパイシー、シトラス、フルーティー、ホッピー、スパイシー、マスカット等が一般的に用いられている。
【0003】
ホップの使用方法によってホップ香気の強弱を制御することができる。通常ホップは、煮沸中の麦汁に添加するが、よりホップ香気を強調するために、煮沸終了直前、あるいはワーループールタンク静置中に添加し、できるだけ熱を加えないことで実現できる。以上の仕込み工程中でのホップ使用は、「ケトルホッピング」とも言われている。
【0004】
さらにホップ香気を強調した場合は、「ドライホッピング」と言われる発酵中の低温の若ビールにホップを添加する方法もある。このドライホッピングしたビールは、ホップの香味を極端に強調できる一方で、ケトルホッピングしたビールに比べ香味は、刺激感が強くかつ粗い官能評価上の印象を与える。
【0005】
これまでに、「ドライホッピング」によるホップ香気の強調、ならびに荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵麦芽飲料の製法が知られているが(例えば、特許文献1〜3参照)、個別のホップ品種のホップ香気の改良については未だ希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−132272号公報
【特許文献2】特開2013−132274号公報
【特許文献3】特開2013−132275号公報
【発明の概要】
【0007】
ネルソンソーヴィン(Nelson Sauvin)種ホップは白ワイン様の特徴的な香気を有するホップの品種であるが、その生産量は少なく希少であるため十分量を調達することが難しい。そのため、今回、ネルソンソーヴィン種ホップの使用量が少量でもその特徴的な香気を強調させる方法を検証した。その結果、ヘルスブルッカー(Hersbrucker)種ホップに、ネルソンソーヴィン種ホップを少量混合することによって、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香気が強調されたより好ましいホップ香気になることを見出した。従って、本発明は、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、ビールテイスト飲料中の特定成分の含有量を所定の範囲に制御することにより、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)β−ユーデスモールおよびホップ成分Aを含んでなるビールテイスト飲料であって、
該ホップ成分Aが該飲料に対して0.5%以上含有し、
該飲料中に含まれるβ−ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であり、
該ホップ成分Aが、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し16〜18分後の出現時間差を有するピークに対応する成分であり、該リテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる、ビールテイスト飲料。
(2)ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)の分析条件が下記である、(1)に記載のビールテイスト飲料:
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、0.3分−3℃/分→240℃、20分間
キャリアガス:He、10psi定圧送気
トランスファーライン温度:240℃
MSイオンソース温度:230℃
MSQポール温度:150℃
フロント注入口温度:200℃
モニタリングイオン:以下の定量イオンに加え、ホップ成分Aについては113m/zおよび96m/zを成分同定イオンとして加える、
定量イオン:
・ボルネオール:m/z=110
・β−ユーデスモール:m/z=149
・リナロール:m/z=93
・ホップ成分A:m/z=95。
(3)ホップ成分Aが、ネルソンソーヴィン種ホップ由来の成分である、(1)または(2)に記載のビールテイスト飲料。
(4)β−ユーデスモールが、ヘルスブルッカー種ホップ由来の成分である、(1)〜(3)のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
(5)麦芽飲料である、(1)〜(4)のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
(6)発酵飲料である、(1)〜(5)のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
(7)少なくともホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなる、(1)〜(6)のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
(8)ホップが、ネルソンソーヴィン種ホップおよびヘルスブルッカー種ホップを含む、(7)に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【0010】
本発明によれば、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はホップ成分Aのスペクトルパターンを表す。図1中、横軸はイオンフラグメントを表し、縦軸は検出強度(アバンダンス:エレクトロン強度)を表す。モニタリングイオンは40m/zから400m/zの範囲を検出した。
【発明の具体的説明】
【0012】
ビールテイスト飲料
本発明のビールテイスト飲料は、β−ユーデスモールおよびホップ成分Aを含んでなるビールテイスト飲料であって、該ホップ成分Aが該飲料に対して0.5%以上含有し、該飲料中に含まれるβ−ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であり、該ホップ成分Aが、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し16〜18分後の出現時間差を有するピークに対応する成分であり、該リテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる、ビールテイスト飲料である。
【0013】
本発明において「ビールテイスト飲料」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、完全無アルコール麦芽飲料等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。
【0014】
本発明による飲料は発酵飲料の形態で提供することができる。本発明において「発酵飲料」とは酵母により発酵させた飲料を意味する。
【0015】
本発明による飲料はアルコールを含有したアルコール含有飲料の形態で提供することができる。本発明において「アルコール含有飲料」は、酵母により発酵させて得られた発酵飲料とアルコールが添加された飲料を含む意味で用いられる。
【0016】
本発明による飲料は麦芽飲料の形態で提供することができる。本発明において「麦芽飲料」とは、麦および/または麦芽から得られた麦汁を主体とする飲料を意味し、炭酸ガス等により清涼感が付与された麦芽清涼飲料も含まれるものとする。麦芽飲料としては、アルコール含量が0重量% である完全無アルコール麦芽飲料のような非発酵麦芽飲料や、アルコールを含有するアルコール含有麦芽飲料が挙げられる。このアルコール含有麦芽飲料としては、発酵して得られた発酵麦芽飲料とアルコールが添加された麦芽飲料が挙げられる。麦芽飲料としては、また、発酵して得られた発酵麦芽飲料からアルコール、その他の低沸点成分や低分子成分を除去して得られた非アルコール発酵麦芽飲料が挙げられる。
【0017】
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明による飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料の形態で提供することができる。なお、本発明による飲料には、発酵麦芽飲料等の発酵飲料と非発酵飲料とを混合して得られた飲料も含まれる。
【0018】
本発明による飲料はビールテイスト飲料である限り特に麦芽飲料に限定されるものではなく、麦や麦芽を使用しない非麦飲料の形態で提供することもできる。本発明において「非麦飲料」は炭酸ガス等により清涼感が付与された清涼飲料も含まれるものとする。非麦飲料としては、アルコール含量が0重量%である完全無アルコール飲料のような非発酵飲料や、アルコールを含有するアルコール含有飲料が挙げられる。このアルコール含有非麦飲料としては、発酵して得られた発酵飲料とアルコールが添加された飲料が挙げられる。非麦飲料としては、また、発酵して得られた発酵飲料からアルコール、その他の低沸点成分や低分子成分を除去して得られた非アルコール発酵飲料が挙げられる。
【0019】
本発明の一つの好ましい態様によれば、ビールテイスト飲料は、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料であり、より好ましい態様では、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香気が強調されたビールテイスト飲料であり、さらに好ましい態様では、ヘルスブルッカー種ホップのスパイシーなハーバル香の中でネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香気が強調されたビールテイスト飲料である。ここで、白ワイン様の香気とは、白ブドウ(マスカット、例えばブドウ品種であるソーヴィニヨンブラン)を想起させるようなフルーティーな香気を意味する。また、スパイシーなハーバル香とはヒノキ様のウッディーな香気に香辛料を連想させるスパイシーな香気を伴った香気である。
【0020】
本発明のビールテイスト飲料に含まれるホップ成分Aは、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し16〜18(+16〜+18)分後、好ましくは16〜17分後の出現時間差を有するピークに対応する成分であり、該リテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる成分である。ホップ成分Aのガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)による測定は、以下の分析条件により測定することができる。
<GC/MS分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、0.3分−3℃/分→240℃、20分間
キャリアガス:He、10psi定圧送気
トランスファーライン温度:240℃
MSイオンソース温度:230℃
MSQポール温度:150℃
フロント注入口温度:200℃
モニタリングイオン:以下の定量イオンに加え、ホップ成分Aについては113m/zおよび96m/zを成分同定イオンとして加える、
定量イオン:
・ボルネオール:m/z=110
・β−ユーデスモール:m/z=149
・リナロール:m/z=93
・ホップ成分A:m/z=95。
β―ユーデスモールとリナロールの濃度は、基本的にppbを単位として算出する。
ビールテイスト飲料中のホップ成分Aの濃度は、添加した内部標準物質ボルネオールのイオン110m/zに対する定量イオン(95m/z)の高さのレスポンス比率(%)を求め、この比率に基づいて飲料中のホップ成分Aの濃度を定量することができる。
【0021】
ホップ成分Aは、上記の条件で特定される成分であれば特に限定されるものではないが、好ましくはネルソンソーヴィン種ホップ(例えば、NZhops社製)に含まれる成分であり、ネルソンソーヴィン種ホップを用いて抽出することができる。
【0022】
ホップ成分Aは、本発明のビールテイスト飲料に対して、0.5%含有していれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜14.8%含有しており、0.5〜5.8%含有していることがより好ましく、0.5〜3.0%含有していることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のビールテイスト飲料において、β−ユーデスモール/ホップ成分Aの比が60以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは55以下であり、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは45以下である。
【0024】
本発明の飲料の好ましい態様によれば、本発明のビールテイスト飲料に含まれるホップ成分Aはネルソンソーヴィン種ホップ由来の成分であることが好ましい。本発明のビールテイスト飲料に含まれるβ−ユーデスモールはヘルスブルッカー種ホップ由来の成分であることが好ましい。
【0025】
飲料の製造
本発明のビールテイスト飲料は、特定の条件により特定されるホップ成分Aと、β−ユーデスモールとを所定の含有量(比)となるように添加することにより製造することができる。例えば、酵母による発酵工程を経ずに得られる飲料は、上記2種の香気成分の所定量を添加することにより本発明による飲料とすることができる。
【0026】
これらの香気成分の取得源は特に限定されるものではなく、市販のもの、合成して得られたもの、あるいは天然物から単離・精製されたものいずれを用いてもよい。例えば、β−ユーデスモールの市販品としては、β−オイデスモール標準品(和光純薬工業株式会社製)が挙げられ、これを用いても良い。ホップ成分Aとしてはネルソンソーヴィン種ホップ由来の成分であることが好ましい。本発明のビールテイスト飲料に含まれるβ−ユーデスモールは、ヘルスブルッカー種ホップ由来の成分であることが好ましいが、ヘルスブルッカー種ホップを用いずに、上記市販品を用いても、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されたビールテイスト飲料を製造することができる。
【0027】
本発明のビールテイスト飲料は、また、少なくともホップが添加された発酵前液を発酵させることにより製造することができる。
【0028】
本発明のビールテイスト飲料が発酵麦芽飲料である場合には、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、麦芽、ホップ等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明による発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0029】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。ホップは、麦汁を煮沸した後、あるいは麦汁を煮沸中に添加することができる。
【0030】
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の飲料の製造において、発酵前液の煮沸前、発酵前液の煮沸中、発酵前液の煮沸後、あるいは発酵前液の煮沸および静置後にホップを添加することができる。本発明のビールテイスト飲料をネルソンソーヴィン種ホップおよびヘルスブルッカー種ホップを用いて製造する場合、本発明のビールテイスト飲料の製造において、この2種のホップは同時もしくは別々に添加してもよい。2種のホップを別々に添加する方法として、例えば、ヘルスブルッカー種ホップを発酵前液の煮沸中に添加し、ネルソンソーヴィン種ホップを発酵前液の煮沸および静置後に添加してもよい。
【0031】
本発明の飲料の製造に使用するホップとしては、ホップ成分Aおよびβ−ユーデスモールの少なくとも1種を含んでなるものが挙げられる。ホップ成分Aを含むホップとしてはネルソンソーヴィン種ホップが好ましく、β−ユーデスモールを含むホップとしてはヘルスブルッカー種ホップが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、ネルソンソーヴィン種ホップおよびヘルスブルッカー種ホップを含んでなるホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなるビールテイスト飲料の製造方法が提供される。本発明の好ましい態様によれば、ネルソンソーヴィン種ホップおよびヘルスブルッカー種ホップが添加された発酵前液を発酵させることを含んでなるビールテイスト飲料の製造方法が提供される。
【0033】
本発明の飲料においてネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調されるようにするために、ホップの添加条件は例えば以下のように設定することができる。
【0034】
・麦汁の煮沸および静置後にホップ(好ましくは、ヘルスブルッカー種ホップおよびネルソンソーヴィン種ホップを同時に)を加える。
【0035】
本発明のビールテイスト飲料が発酵麦芽飲料である場合の製造方法では、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。
【0036】
本発明の飲料が麦や麦芽を使用しないビールテイスト発酵飲料である場合には、発酵麦芽飲料の製造手順に準じて、少なくとも水およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。発酵前液には、水、ホップの他に炭素源(例えば、液糖などの糖類)、窒素源(例えば、タンパク質分解物や酵母エキスなどのアミノ酸供給源)を添加することができ、必要に応じて、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。得られたビールテイスト発酵飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール・ビールテイスト発酵飲料とすることもできる。
【0037】
本発明の別の態様によれば、2種の香気成分、すなわち、ホップ成分Aおよびβ−ユーデスモールが飲料中で所定の含有量となるように調整することによる、ネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な香気が強調された香気に飲料を調整する方法が提供される。
【実施例】
【0038】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0039】
異なる香気特徴を持ったホップ品種をブレンドした試験品の評価(1)
下記試験例1では、スパイシーでハーバルな香気を持つヘルスブルッカー種ホップ(産国:ドイツ)(Hopsteiner社)と白ブドウのようなフルーティーな香気(白ワイン様の香気)を有するネルソンソーヴィン(産国:ニュージーランド)(NZhops社)を用いて試験品を作成した。ホップの配合量は、表1の通りである。
具体的には、淡色麦芽(淡色麦芽:フランス、スフレ社)と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製し、煮沸した。煮沸後の麦汁を、90℃で60分間静置させた。静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ホップ(ヘルスブルッカー種ホップおよびネルソンソーヴィン種ホップ)を加えた。冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行った。その後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈して、試験品(試験番号1〜7)を作成した。
【0040】
下記試験例2では、ネルソンソーヴィン種ホップを単独で用いた以外は試験例1と同様に試験品(試験番号8〜12)を作成した。ネルソンソーヴィン種ホップの配合量は、表2の通りである。
【0041】
下記試験例1および2の試験品(試験番号1〜12)の官能評価は表3の通り4段階で行い、5名の訓練されたパネルにより行われた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
試験例1
試験番号4〜7は、ヘルスブルッカー種ホップ(ヘルスブルッカー)を2.85g/Lから2.95g/L、ネルソンソーヴィン種ホップ(ネルソンソーヴィン)を0.15g/Lから0.05g/Lをブレンドしたものであり、ヘルスブルッカー種ホップのスパイシーなハーバル香の中でネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香りが強調されより好ましい香気を有した。
【0046】
試験番号3は、ヘルスブルッカー種ホップを2.97g/L、ネルソンソーヴィンを0.03g/Lをブレンドしたものであり、ヘルスブルッカー種ホップ単独の時とは違い白ワイン様の香りが加わり、好ましい香気を有した。
【0047】
試験番号2は、ヘルスブルッカー種ホップを2.98g/L、ネルソンソーヴィン種ホップを0.02g/Lをブレンドしたものであるが、ヘルスブルッカー種ホップの単独使用とは異なりネルソンソーヴィン種ホップの香りがほのかに感じられ、やや好ましい香気を有した。
【0048】
試験番号1は、ヘルスブルッカー種ホップを2.99g/L、ネルソンソーヴィン種ホップを0.01g/Lブレンドしたものであるが、ヘルスブルッカー種ホップを単独で使用した時のような単調なハーバル香でネルソンソーヴィン種ホップの香りが感じられず好ましくない香気を有した。
【0049】
試験例2
試験例2においては、試験番号8〜12はネルソンソーヴィン種ホップを0.01g/Lから0.15g/Lになるよう調整したサンプルであるが、ネルソンソーヴィン種ホップの白ワイン様の香気はほのかにしか感じられず、好ましい香気は得られなかった。特に試験例2の試験番号11および12ではネルソンソーヴィン種ホップの香りがほとんど感じられないのに対し、ネルソンソーヴィン種ホップの配合量がより少ない試験例1の試験番号4および5ではその特徴的な香りが感じられるという興味深い結果になった。
【0050】
試験例1および2の結果から、単調なハーバル香を持ったヘルスブルッカー種ホップに異なる香気特徴を持ったネルソンソーヴィン種ホップを加えると、その量が僅かでもネルソンソーヴィン種ホップの香りが強調され、より好ましい香気を生み出すことが出来ると分かった。
【0051】
試醸品の成分分析
上記表1の試験品(試験番号1〜7)を分析し、好ましい香気を得るための指標成分の探索を行った。その結果、ネルソンソーヴィン種ホップはヘルスブルッカー種ホップにはない新規の成分(ホップ成分A)を含むことが分かった。ホップ成分Aはその特徴として、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)により測定した場合に、内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し17分後の出現時間差を有しており、そのピークはオクタン酸(CAS番号:124−07−2)とデカン酸(CAS番号:334−48−5)の間に存在することが分かった。また、そのリテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなった。図1にホップ成分Aに関するスペクトルデータを示した。ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)の分析条件は下記の通りである。
カラム:キャピラリーカラム(商品名:HP−INNOWAX)(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、0.3分−3℃/分→240℃、20分間
キャリアガス:He、10psi定圧送気
トランスファーライン温度:240℃
MSイオンソース温度:230℃
MSQポール温度:150℃
フロント注入口温度:200℃
モニタリングイオン:以下の定量イオンに加え、ホップ成分Aについては113m/zおよび96m/zを成分同定イオンとして加える、
定量イオン:
・ボルネオール:m/z=110
・β−ユーデスモール:m/z=149
・リナロール:m/z=93
・ホップ成分A:m/z=95。
β−ユーデスモールとリナロールの濃度は、ppbを単位として算出した。飲料中のホップ成分Aの濃度は、添加した内部標準物質ボルネオールのイオン110m/zに対する定量イオン(95m/z)のレスポンス比率(%)を求め、この比率に基づいて飲料中のホップ成分Aの濃度を定量した。
【0052】
ホップ香気の全体の強度としてリナロール(Linalool)を指標とし、またヘルスブルッカー種ホップ特有の指標としてβ−ユーデスモール(β-Eudesmol)を選択し分析を行った。その結果を下記表4に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
試験番号1〜7でネルソンソーヴィン種ホップの配合が増えるにつれて、ホップ成分Aの成分値は0.82%から1.84%に増加した。またホップ成分Aに対するリナロールの比率は150.62から65.57へ減少し、β-ユーデスモールの比率は61.34から26.17へ減少した。
【0055】
試験番号13〜16は、使用するホップの配合量のみを変えて、試験番号1〜7の試験品と同様に作成し、同様に官能評価と成分分析を行った。試験番号13〜16の試験品の官能評価は表3の通り4段階で行い、5名の訓練されたパネルにより行った。
【0056】
試験番号13はヘルスブルッカー種ホップ単独の時とは違い白ワイン様の香りが加わり、好ましい香気を有した。ホップ成分Aの成分値は0.48%で、ホップ成分Aに対するリナロールの比率は127.55、β-ユーデスモールの比率は51.79であった。
【0057】
試験番号14はヘルスブルッカー種ホップのスパイシーなハーバル香の中でネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香りが強調されより好ましい香気を有した。ホップ成分Aの成分値は0.52%で、ホップ成分Aに対するリナロールの比率は118.42、β-ユーデスモールの比率は48.02であった。
【0058】
試験番号15および16もネルソンソーヴィン種ホップに特徴的な白ワイン様の香りが強調されより好ましい香気を有した。ネルソンソーヴィン種ホップの添加量が増えるにつれ、ホップ成分Aの成分値は2.08%から2.52%へ増加し、一方ホップ成分Aに対するリナロールの比率は118.42から97.36へ減少し、β-ユーデスモールの比率は48.02から39.31へ減少した。
【0059】
以上の結果から、官能評価の結果との整合性を確認したところ、官能上、好ましい範囲はホップ香気成分Aに対するβ−ユーデスモールの比率が60以下、かつ飲料中のホップ成分Aの濃度が0.5%以上であることが判明した。
【0060】
異なる香気特徴を持ったホップ品種をブレンドした試験品の評価(2)
他の品種での官能評価、成分値を把握するため、ハラタウトラディション種ホップ(産国:ドイツ)(Hopsteiner社)を用いて試験品を、上記と同様に作成して、官能評価および分析を行った。ホップの配合量および結果は下記表5の通りである。
具体的には、淡色麦芽(淡色麦芽:フランス、スフレ社)と水の混合物を、インフュージョン糖化法によって糖化し、糖度を15度に調整した仕込麦汁を調製した。麦汁を電気ヒーターで加温して煮沸した。この際、60分間で蒸発率が10%となるように、煮沸強度を一定にコントロールした。煮沸後の麦汁を、90℃ で60分間静置させた。静置後の麦汁を濾紙で濾過し、濾過後の麦汁を氷水で約12℃まで冷却した後、ハラタウトラディション種ホップおよびネルソンソーヴィン種ホップを加えた。冷却後の麦汁にビール酵母を添加し、1週間の主発酵及び14日間の後発酵を行なった。その後、糖度が12度になるように炭酸水で希釈して、試験品(試験番号17〜23)を製造した。
【0061】
【表5】
【0062】
ハラタウトラディション種ホップはフローラル様の香りの強い品種である。ヘルスブルッカー種ホップと違いハラタウトラディション種ホップを用いた試験品ではネルソンソーヴィン種ホップの配合比率が増えてもフローラル様の香気が強く、単調な香りとなり好ましい香気は得られなかった。このことから、ネルソンソーヴィン種ホップを少量用いて、その特徴的な香気を強調させるためにはヘルスブルッカー種ホップとの組み合わせが最適であり、その原因としてヘルスブルッカー種ホップに含まれるβ−ユーデスモールが重要な役割を有していることが明らかとなった。
【0063】
以上から、希少なホップの使用量を減らしながらその香気の特徴を強調させるためには、ホップ成分Aに対するβ−ユーデスモールの比率(β−ユーデスモール/ホップ成分A)が60以下(好ましくは55以下、より好ましくは50以下)の範囲であり、かつホップ成分Aの濃度が0.5%以上となるようなビールテイスト飲料であることが必要であることが分かった。
【0064】
なお、前記のホップ成分Aとは上記分析条件にてガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定した場合において、下記の条件で特定できる。
・内部標準物質ボルネオールのリテンションタイムに対し17分後の出現時間差を有するピークに対応する。
・そのリテンションタイムで検出される96m/z、113m/z、および95m/zのレスポンス(高さ)が96m/z>113m/z>95m/zとなる。
図1