(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両運動制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
実施形態の説明に先立ち、本発明の理解が容易になるよう、以下、
図1〜
図5を用いて、横運動に連係した前後運動制御について概要を述べ、アクチュエータによる応答性の違いに関する影響について述べる。
「横運動に連係した前後運動制御」
(1)G-Vectoring
ハンドル操作による横運動に連係して自動的に加減速することにより、前輪と後輪の間に荷重移動を発生させて車両の操縦性と安定性の向上を図る方法である。具体的な加減速指令値(目標前後加速度Gxc)は、以下数1に示す通り、
【0016】
基本的に横加加速度Gy_dotにゲインCxyを掛け、一次遅れを付与した値を前後加減速指令にするというシンプルな制御則である。
【0017】
なお、Gy:車両横加速度、Gy_dot:車両横加加速度、Cxy:ゲイン、T:一次遅れ時定数、s:ラプラス演算子、Gx_DC:横運動に連係しない加減速度指令とする。
【0018】
これによりエキスパートドライバの横と前後運動の連係制御ストラテジの一部が模擬でき、車両の操縦性・安定性の向上が実現できることが確認されている。
【0019】
この式のGx_DCは横運動に連係していない減速度成分(オフセット)である。前方にコーナーがある場合の予見的な減速、あるいは区間速度指令がある場合に必要となる項である。また、sgn(シグナム)項は、右コーナー、左コーナーの両方に対して上記の動作が得られるように設けた項である。具体的には、操舵開始のターンイン時に減速し、定常旋回になると(横加加速度がゼロとなるので)減速を停止し、操舵戻し開始時のコーナー脱出時に加速する動作が実現できる。
【0020】
このように制御されると、前後加速度と横加速度の合成加速度(Gと表記)が、横軸に車両の前後加速度、縦軸に車両の横加速度をとるダイアグラムで、時間の経過とともに曲線的な遷移をするように方向付けられる(Vectoring)のため、「G-Vectoring制御」と呼ばれている。
【0021】
数1の制御を適用した場合の車両運動に関して、具体的な走行を想定して説明する。
【0022】
図1は、直進路A、過渡区間B、定常旋回区間C、過渡区間D、直進区間Eという、コーナーへの進入、脱出の一般的な走行シーンを想定している。このとき、ドライバによる加減速操作は行わないものとする。
【0023】
また、
図2は、操舵角、横加速度、横加加速度、数1にて計算した加減速指令、そして四輪の制動、駆動力について時刻暦波形として示した図である。後で詳細に説明するが、前外輪と前内輪、後外輪と後内輪は、左右(内外)それぞれ同じ値と成るように制動力・駆動力が配分されている。ここで制駆動力とは各輪の車両前後方向に発生する力の総称で、制動力は車両を減速する向きの力であり、駆動力は車両を加速する向きの力と定義する。まず直進路区間Aから車両がコーナーに進入する。過渡区間B(点1〜点3)では、ドライバが徐々に操舵を切増すに従い、車両の横加速度Gyが増加していく。横加加速度Gy_dotは、点2近辺の横加速度が増加している間、正の値をとることになる(横加速度増加が終了する3の時点ではゼロに戻る)。このとき、数1より、制御車両には横加速度Gyの増加に伴い、減速(Gxcは負)指令が発生する。これに伴い、前外、前内、後外、後内の各輪に略同じ大きさの制動力(マイナス符号)が加わることになる。
【0024】
その後、車両が定常旋回区間C(点3〜点5)に入ると、ドライバは操舵の切増しを止め、操舵角を一定に保つ。このとき、横加加速度Gy_dotは0となるため、加減速指令Gxcは0となる。よって、各輪の制動力・駆動力もゼロとなる。
【0025】
次に、過渡区間D(点5〜7)では、ドライバの操舵の切戻し操作によって車両の横加速度Gyが減少していく。このとき車両の横加加速度Gy_dotは負であり、数1より制御車両には加速指令Gxcが発生する。これに伴い、前外、前内、後外、後内の各輪に略同じ大きさの駆動力(プラス符号)が加わることになる。
【0026】
また直進区間Eでは横加加速度Gyが0となり横加加速度Gy_dotもゼロとなるため加減速制御は行われない。以上のように、操舵開始のターンイン時(点1)からクリッピングポイント(点3)にかけて減速し、定常円旋回中(点3〜点5)には減速を止め、操舵切戻し開始時(点5)からコーナー脱出時(点7)には加速する。このように、車両にG-Vectoring制御を適用すれば、ドライバは旋回のための操舵をするだけで、横運動に連係した加減速運動を実現することが可能となる。
【0027】
また、この運動を前後加速度を横軸、横加速度を縦軸にとり、車両に発生している加速度様態を示す“g-g”ダイアグラムに表すと、滑らかな曲線状(円を描くよう)に遷移する特徴的な運動になる。本発明の加減速指令は、このダイアグラムで、時間の経過とともに曲線的な遷移をするように生成される。この曲線状の遷移は左コーナーについては、
図1に示すように時計回りの遷移となり、右コーナーについては、Gx軸について反転した遷移経路となり、その遷移方向は半時計回りとなる。このように遷移すると前後加速度により車両に発生するピッチング運動と、横加速度により発生するロール運動が好適に連係し、ロールレイト、ピッチレイトのピーク値が低減される。
【0028】
この制御は、
図1に示すとおり、一次遅れ項、左右の運動に対する符号関数を省略して考えると、車両横加加速度にゲイン-Cxyを掛け合わせた値を前後加速度指令にしているので、ゲインを大きくすることにより、同一横加加速度に対して、減速度、あるいは加速度を大きくすることが出来る。
【0029】
図3にG-Vectoring制御により減速度を制御した際の,レーンチェンジに対する効果を示す。
図3は、30m離してパイロンAとパイロンBを置き、パイロンAの左側をすり抜け、パイロンBの右側に移動する、レーンチェンジンジを模擬的に行った時の、操舵角、前後加速度、横加速度、そして車両速度について、従来の横滑り防止装置(Electronic Stability Control: ESC)のみを稼働した状態と、G-Vectoring制御とESCの複合制御を稼働した状態を比較したものである。ESCがステアリングを急激に戻している0.75秒から1秒近辺で、横滑り状態を検知して安定化モーメントを加えている(減速度の発生)のに比べ、G-Vectoring制御とESCの連係制御では、操舵を開始した瞬間から減速度が働き操舵開始から0.5秒で速度が10km/hも低下している。
【0030】
これにより、操舵角も少なくロールレイト、ピッチレイトが大幅に低減され、安全にレーンチェンジができていることがわかる。このようにG-Vectoring制御を適用することで,操舵により障害物回避をする際の回避性能を,大幅に向上できる。
【0031】
ここでG-Vectoring制御による減速制御を実現するにあたり,車両を減速するアクチュエータの応答性が重要となっている。
【0032】
上述の通り,G-Vectoring制御はドライバの操舵操作をトリガとし,横加速度の絶対値が増加するシーンにおいて減速制御を行うよう制御指令値を演算する。ここで上述の式(1)に示したゲインCxyを調整することで,特許文献3に示されたように,障害物回避の際,発生する減速度が大きくなる指令値を演算することも可能となる。
【0033】
しかし,G-Vectoring制御が減速指令値を大きくした場合であっても,減速度を発生させるアクチュエータがそれに対して十分な減速度発生性能を有していない場合,ゲインを変えた効果を得るのは難しく,G-Vectoring制御の適用範囲がアクチュエータの性能により制限されることになる。
【0034】
ここでドライバによる操舵回避操作の開始前,すなわち車両に横運動が発生する前に,発生する横運動(横加加速度)を推定し,G-Vectoring制御による減速制御を行う方法が考えられるが,カーブ路走行の場合と異なり,ドライバがいつどのように回避操舵をするかの予測は難しく,そのような予測に基づく減速制御では,車両に減速度が発生するタイミングがドライバの操舵回避操作に合わない場合がある。その結果,過度の減速を発生させた場合,減速によりドライバの操舵回避操作を阻害し,回避性能を低下させる可能性がある。
【0035】
本発明では,G-Vectoring制御による減速制御によりドライバ操作を阻害することなく,アクチュエータの応答遅れを補償する方法として,操舵回避により発生する横加加速度を推定し,G-Vectoring制御による減速制御が必要と判断された場合,車両に減速度を発生させるアクチュエータの駆動制御を開始する。更にドライバの操舵操作により,車両に横運動が発生する場合,その横運動に応じた減速制御を行う。
【0036】
図4に本発明の概念図を示す。なお本概念図では自車両前方の障害物に対する衝突余裕時間(Time To Collision: TTC)に基づいて横運動を推定する例について示す。
図4に示すように,本発明では前方障害物に対するTTCの減少に伴い,発生する横加速度絶対値が大きくなるよう横加速度予測値G
yprdを演算する。G
yprdの演算方法としては,例えばTTCに予測時間補償時間T
adjを引いた値を回避余裕時間ΔTとし,横加速度がサイン波形となるよう回避動作をすると仮定した場合,最低限回避に必要な横移動量ΔY0に安全マージンY
smを加えたものを回避する際の横移動距離ΔYとすると,G
yprdの時間tに対する変化は以下の式(2)で与えることができる。
【0038】
この予測値G
yprdに基づいて,上述の式(1)および(2)より,G-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmaxは以下の式(3)により演算される。
【0040】
ここで予測時間補償時間T
adjとしてアクチュエータ等の性能から予め設定される値であっても,ドライバ自ら入力する手段を備える場合,前記入力値に応じて設定される値であってもよい。また路面状態(滑りやすさ,凹凸度合等),走行環境(時間帯,気候等),周囲環境(郊外路,市街路,自動車専用路等)等,ドライバ特性(熟練度合,嗜好等)の情報を取得する手段を備える場合,これらの情報に基づいて,予測時間補償時間T
adjを予め設定された値から変更してもよい。例えば路面が滑りやすいほど,予測時間補償時間T
adjを小さな値に変更してもよい。また悪天候や夕方,夜間の走行等,一般的に危険度が高いとされる走行環境では,予測時間補償時間T
adjを小さな値に変更してもよい。またドライバが障害物からより手前で回避操作をする傾向がある場合,予測時間補償時間T
adjを小さな値に変更してもよい。
【0041】
また前記回避に必要な横移動量ΔYは,車両が前記障害物近傍通過時の位置を予測する手段を備える場合,回避対象とする障害物の現在の状態に加え,前記予測位置に基づいて設定されてもよい。また障害物の種類を判別する手段を備える場合,前記障害物の種類に応じて,横移動量ΔYを変更してもよい。例えば前記障害物が歩行者もしくは走行中の自転車,もしくは鹿等の動物であった場合,前記障害物が走行中の車両である場合よりも,回避時の障害物までの距離が大きくなるよう,横移動量ΔYを変更してもよい。
【0042】
またG
xGVCpmaxの作成方法として,前記式(3)を用いず,障害物までの距離もしくは衝突余裕時間および必要な横移動量ΔYから与えられるデータベースを用いてもよい。また上述の予測時間補償時間T
adjおよび横移動量ΔYの変更方法同様,路面状態,走行環境等に応じたデータベースを持ち,本データベースから走行状況に応じたG
xGVCpmaxを作成してもよい。
【0043】
以上により得られたG
xGVCpmaxが介入閾値を
超えた場合,アクチュエータの予備動作を開始する。この予備動作としては,車両に発生する前後加速度変化がドライバの操舵操作に支障を与えない範囲にて,アクチュエータを駆動させることを意味しており,例えば電動モータでピストンを駆動し,発生させた油圧にてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで減速度を発生させるアクチュエータであれば,予備動作として電動モータ(およびポンプ)を駆動することによりブレーキパッドとブレーキディスクの隙間をつめる動作を行う。また電動モータで直接ブレーキパッドのブレーキディスクへの押し付け力を制御可能な電動ブレーキアクチュエータの場合,予備動作として電動モータを駆動することによりブレーキパッドとブレーキディスクの隙間をつめる動作を行う。
【0044】
また本発明は単一のアクチュエータに対してだけではなく,複数のアクチュエータの駆動制御を含んでもよい。例えば走行中トランスミッションのクラッチを切ることで航続距離を伸ばす走行(セーリング走行)の状態にある車両に対し,エンジントルク変化を用いてG-Vectoring制御の減速制御を実現する場合,予備動作としてクラッチを接続し,エンジントルク制御による減速制御が可能な状態とした上で,横運動が開始した際に,G-Vectoring制御による減速指令値を実現するようエンジントルク制御を行ってもよい。またエンジントルクの前後輪への配分を変更可能なアクチュエータを搭載している車両において,エンジントルク変化を用いてG-Vectoring制御の減速制御を実現する場合,予備動作として,前輪のエンジントルク配分を大きくし,エンジントルク制御により,後輪よりも前輪の方が大きな減速力を発生可能な状態とした上で,横運動が開始した際に,G-Vectoring制御による減速指令値を実現するようエンジントルク制御を行ってもよい。また例えば電動モータのトルク制御によりG-Vectoring制御の減速指令値を実現する構成の場合,バッテリーの充電状態により電動モータによる回生制動を使った減速が難しい場合は,予備動作として上述のブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで減速度を発生させるアクチュエータの駆動を開始し,G-Vectoring制御の減速指令値を実現するようアクチュエータを制御してもよい。
【0045】
またドライバの操舵操作に支障を与えない範囲とは,一般のドライバが強い減速を体感しない範囲の変化とし,具体的にはゼロから−1m/s
2程度(減速側を負)の範囲とする。
【0046】
図5に本発明の効果を実車試験にて確かめた結果を示す。また本実車試験にて使用したアクチュエータは電動モータによりピストンを駆動し,発生させた油圧にてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで減速度を発生させるアクチュエータであり,予備動作は上述の通りである。
図5(a)は予備動作無の場合,
図5(b)は予備動作有の場合を示しており,図中点線はアクチュエータの駆動状態(OFF,予備動作,本動作),実線は前後加速度,破線は横加速度を示す。
図5に示すように,(b)予備動作有では,横加速度増加前にアクチュエータ駆動状態が予備動作となる予備動作期間があり,この間前後加速度は(a)予備動作無と比較し,ほとんど違いは見られない。しかし,本動作期間に発生する負の前後加速度(減速度)は,(a)予備動作無と比較し,(b)予備動作有では短時間に増加していることがわかる。結果,(b)予備動作有ではG-Vectoring制御による減速制御の効果をより実現しやすくなっている。
【0047】
以下、
図6〜
図9を用いて、本発明の実施形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。
【0048】
最初に、
図6,7を用いて、本発明の実施形態による車両運動制御装置を搭載した車両および車両運動制御装置の構成について説明する。
【0049】
図7は、本発明の実施形態による車両運動制御装置を搭載した車両の構成図を示したものである。
【0050】
本実施形態の車両運動制御装置1は車両19に搭載されるものであり、車両運動状態情報を取得するセンサ(加速度センサ2,ジャイロセンサ3,車輪速センサ11),ドライバ操作情報を取得するセンサ(操舵角センサ5,ブレーキペダルセンサ17,アクセルペダルセンサ18)および自車両走行軌道上の障害物情報を取得するセンサ(障害物検出センサ6,自車両位置検出センサ9)から得られる情報に基づいて,G-Vectoring制御による減速制御に必要な演算を行い,演算結果に基づいて,車両に発生する減速度を制御可能なアクチュエータ(ブレーキアクチュエータ10,駆動アクチュエータ13)の駆動制御を行う各制御ユニット(ブレーキ制御ユニット10,駆動トルク制御ユニット12)に通信ライン14を通じて送信する。
【0051】
ここで前記車両運動状態情報を取得するセンサとして,車両速度,前後加速度,横加速度,ヨーレイトを取得できるセンサ,もしくは手段であればよく,上記センサ構成に限定するものではない。例えばグローバルポジショニングシステム(GPS)により得られる位置情報を微分することで車両速度を取得してもよい。またカメラのような画像取得センサを用いて車両のヨーレイト,前後加速度,横加速度を取得してもよい。また前記車両運動制御装置1が直接センサの入力を持たなくともよい。例えば別な制御ユニット(例えばブレーキ制御ユニット10)から通信ライン14を通じて必要な情報を取得してもよい。
【0052】
ドライバ操作情報を取得するセンサとして,ドライバによるステアリングホイール4の操作量,図示していないブレーキペダルおよびアクセルペダルの操作量を取得できればよく,上述の車両運動状態情報の取得同様,前記車両運動制御装置1が直接センサの入力を持たなくともよい。例えば別な制御ユニット(例えばブレーキ制御ユニット10)から通信ライン14を通じて必要な情報を取得してもよい。
【0053】
自車両走行路情報を取得するセンサとして,グローバルポジショニングシステム(GPS)を自車両位置検出センサ9として用い,障害物検出センサ6として,カメラのような画像取得センサのような自車両前方の物体情報(自車両との相対位置,相対速度等)を取得できるものを利用できる。ここで自車両走行軌道上の障害物情報を取得手段であればよく,これらセンサに限定するものではない。例えば障害物検出センサ6としてステレオカメラのようにそれ単体で自車両前方の物体情報(自車両との相対位置,相対速度等)および走行路情報を取得できるものであれば,前記自車両位置検出センサ9を別途備える必要はなく,障害物検出センサ6のみでもよい。またこれらセンサの代わりに,車車通信や路車間通信を備え,これら通信に得られる情報により,自車両走行軌道上の障害物情報を取得する方法であってもよい。
【0054】
前記車両に発生する前後加速度を制御可能な加減速アクチュエータは、タイヤ7と路面間に発生する力を制御することで車両に発生する前後加速度を制御可能なアクチュエータであり,例えば、燃焼状態を制御することでタイヤにかかる制駆動トルクを制御し,車両に前後加速度を制御可能な燃焼エンジン、もしくは電流を制御することでタイヤにかかる制駆動トルクを制御し,車両に前後加速度を制御可能な電動モータ、もしくは動力を各車輪に伝達する際の変速比を変えることで前後加速度を制御可能な変速機、もしくは各車輪のブレーキパッドにブレーキディスクを押しつけることで前後加速度を発生させる摩擦ブレーキといった、前後加速度を制御可能な加減速アクチュエータを適用することができる。
【0055】
車両運動制御装置1は、記憶領域、および演算処理能力、および信号の入出力手段を有する演算装置を備えており、前記車両運動状態情報,前記ドライバ操作情報,前記障害物情報により得られた情報から車両に発生させる前後加速度指令値を演算し、前記前後加速度指令値となる前後加速度を発生し得る前記加減速アクチュエータを前後加速度発生手段として、前記加減速アクチュエータの駆動制御器へ前記前後加速度指令値を送る。
【0056】
ここで、送る信号は前後加速度そのものではなく、前記加減速アクチュエータによって前記前後加速度指令値を実現し得る信号であればよい。
【0057】
例えば、前記加減速アクチュエータが燃焼エンジンである場合,前記前後加速度指令値を実現し得る制駆動トルク指令値を駆動トルク制御ユニット12へ送る。また駆動トルク制御ユニット12を介さず,前後加速度指令値を実現する燃焼エンジンの駆動信号を,燃焼エンジンの制御アクチュエータに直接送ってもよい。また油圧によりブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける油圧式摩擦ブレーキを用いる場合、前後加速度指令値を実現する油圧指令値をブレーキ制御ユニット10へ送る。また、ブレーキ制御ユニット10を介さず、前後加速度指令値を実現する油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータの駆動信号を油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータに直接送ってもよい。
【0058】
また、前後加速度指令値を実現する際に、前後加速度指令値に応じて駆動制御を行う前記加減速アクチュエータを変更してもよい。
【0059】
例えば,前記燃焼エンジンと油圧式摩擦ブレーキを前記加減速アクチュエータとして持つ場合,前記前後加速度指令値が前記燃焼エンジンの制駆動トルク制御により実現できる範囲であれば,前記燃焼エンジンを駆動制御し,前記前後加速度指令値が,前記燃焼エンジンの制駆動トルク制御で実現できない範囲の負の値である場合,前記燃焼エンジンと合わせて油圧式摩擦ブレーキを駆動制御する。また前記電動モータと前記燃焼エンジンを前記加減速アクチュエータとして持つ場合,前記前後加速度の時間変化が大きい場合は前記電動モータの駆動制御し,小さい場合は燃焼エンジンを駆動制御するようにしてもよい。また通常時は前記前後加速度指令値を電動モータにより駆動制御し,バッテリーの状態等により電動モータにより前後加速度指令を実現できない場合,他の加減速アクチュエータ(燃焼エンジン,油圧式摩擦ブレーキ等)を駆動制御するようにしてもよい。
【0060】
また通信ライン14として,信号によって異なる通信ラインおよび通信プロトコルを用いてもよい。例えば大容量のデータをやり取りする必要のある自車両走行路情報を取得するセンサとの通信にイーサネット(登録商標)を用い,各アクチュエータとの通信にはController Area Networkを用いる構成であってもよい。
【0061】
図7は、本発明の実施形態による車両運動制御装置1を搭載した車両の構成図を示したものである。
【0062】
車両運動制御装置1は障害物情報取得部1a,車両運動状態取得部1b,車両運動制御演算部1c,制御指令送信部1dからなる。
【0063】
障害物情報取得部1aでは,前記自車両走行軌道上の障害物情報を取得する。ここで障害物情報として,自車両が障害物まで到達する時間および回避に必要な横移動量がわかればよく,例えば,自車両との相対速度,相対位置(進行方向,横方向),自車から見た障害物幅を取得し,演算する方法であっても,これらの値を直接取得する方法であってもよい。
【0064】
車両運動状態取得部1bでは,前記車両運動状態情報から車両の運動状態(走行速度,旋回状態,ドライバ操作量)を取得する。
【0065】
車両運動制御演算部1cでは,前記障害物情報取得部1aおよび車両運動状態取得部1bにより得られた情報に基づいて,前記G-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmax,およびG-Vectoring制御による減速度指令値G
xGVCtgtを演算し,制御指令送信部1dに送る。
【0066】
車両運動制御演算部1dでは,前記車両運動制御演算部1cにより作成されたG-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmax,およびG-Vectoring制御による減速度指令値G
xGVCtgtに基づいて,前記前後加速度を制御可能なアクチュエータ(ブレーキアクチュエータ10,駆動アクチュエータ13)の駆動制御を行う各制御ユニット(ブレーキ制御ユニット10,駆動トルク制御ユニット12)に駆動指令値を送る。
【0067】
図8は、本実施形態の前記車両運動制御装置1における演算フローチャートを示したものである。
【0068】
S000では、障害物情報および車両運動状態を取得する。ここで障害物情報は,
図9に示すように自車両走行軌道上の障害物までの距離ΔX0,相対速度ΔV,障害物との衝突を回避するのに最低限必要な横移動距離ΔY0を取得し,上述の安全マージンY
sfおよび予測時間補償時間T
adjを用いて,横移動距離ΔY,回避余裕時間ΔTはそれぞれ以下の式(4)(5)で与えられる。
【0071】
ここで上述の通り,障害物までの距離ΔX0,相対速度ΔV,障害物との衝突を回避するのに最低限必要な横移動距離ΔY0を取得する代わりに,外部の演算器により作成された横移動距離ΔY,回避余裕時間ΔTを直接取得し,それらの値を用いてもよい。
【0072】
また車両運動状態として,式(1)で示したG-Vectoring制御による前後加速度指令値を演算するのに必要な横加速度Gyおよび横加加速度G
y_dotを取得する。ここで横加速度Gyおよび横加加速度G
y_dotの取得方法として,慣性センサにより直接取得する方法であっても,車両速度V,操舵角δ,ヨーレイトrを取得し,車両モデルを用いて演算することで取得する方法であってもよい。
【0073】
S100では、G-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmax,およびG-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtを演算する。G-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmaxの演算方法として,上述の通り,S000にて取得した横移動距離ΔY,回避余裕時間ΔTと式(2)を用いて演算する方法であっても,横移動距離ΔY,回避余裕時間ΔTとG-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmaxとの関係のデータベースを利用する手段を備える場合,本データベースによりその値を取得してもよい。
【0074】
G-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtの演算方法としては,S000により得られた横加速度Gyおよび横加加速度G
y_dotを用い,上述の式(1)から演算する。ここで横加速度Gyおよび横加加速度G
y_dotに関し,慣性センサにより得られた値と車両モデルにより得られる値を組み合わせて演算する方法であってもよい。
【0075】
S200では,S100により演算されたG-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmax,およびG-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtを用いて,アクチュエータ制御指令値を演算する。上述の通り,本発明では,G-Vectoring制御の減速最大値予測値G
xGVCpmaxが減速度閾値を超えた場合,アクチュエータの予備動作をするようアクチュエータ駆動指令値を作成し,G-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtから,本動作として当該減速度(G
xGVCtgt)を発生するようアクチュエータ駆動指令値を作成する。例えばG-Vectoring制御に用いるアクチュエータが電動モータでピストンを駆動し,発生させた油圧にてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで減速度を発生させるアクチュエータの場合,ブレーキパッドとブレーキディスクの隙間をつめる程度の液圧を発生するようアクチュエータの駆動制御を行う指令値を予備動作でのアクチュエータ駆動指令値とし,G-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtの減速度を発生するブレーキトルクを各車輪に発生するようアクチュエータの駆動制御を行う指令値を本動作でのアクチュエータ駆動指令値とする。ここで当該アクチュエータ側での入力指令値が減速度指令値である場合,予備動作では微小な一定減速度をアクチュエータ駆動指令値とし,本動作ではG-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtをアクチュエータ駆動指令値とする。
【0076】
また複数のアクチュエータを用いて減速制御を実施する構成の場合,S200にて,複数のアクチュエータを駆動制御するようアクチュエータ駆動制御指令値を演算する。例えば上述のように,走行中トランスミッションのクラッチを切ることで航続距離を伸ばす走行(セーリング走行)の状態にある車両に対し,エンジントルク変化を用いてG-Vectoring制御の減速制御を実現する場合,クラッチを接続するようトランスミッションの制御指令値を予備動作でのアクチュエータ駆動指令値とし,エンジントルク制御によりG-Vectoring制御による減速指令値を実現するエンジントルク指令値を本動作でのアクチュエータ駆動指令値とする。
【0077】
また複数のアクチュエータを用いて減速制御を実施可能な構成の場合,アクチュエータの状態に応じて,使用するアクチュエータを変更するようS200にて,アクチュエータを駆動制御するようアクチュエータ駆動制御指令値を演算する。例えば上述のように,電動モータのトルク制御によりG-Vectoring制御の減速指令値を実現する構成の場合,電動モータによる回生制動が可能な条件では,電動モータが回生制動可能な状態にする指令値を,予備動作でのアクチュエータ駆動制御指令値とし,モータトルク制御によりG-Vectoring制御による減速指令値を実現するモータトルク指令値を本動作でのアクチュエータ駆動指令値とする。またバッテリーの充電状態等により電動モータを使った減速が難しい場合は,油圧にてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで減速度を発生させるアクチュエータに対し,ブレーキパッドとブレーキディスクの隙間をつめる程度の液圧を発生するようアクチュエータの駆動制御を行う指令値を予備動作でのアクチュエータ駆動指令値とし,G-Vectoring制御の減速度指令値G
xGVCtgtの減速度を発生するブレーキトルクを各車輪に発生するようアクチュエータの駆動制御を行う指令値を本動作でのアクチュエータ駆動指令値とする。
【0078】
S300では、前記アクチュエータ駆動指令値を,各アクチュエータの駆動制御コントローラに送る。例えば油圧ブレーキアクチュエータにより減速制御を行う場合,ブレーキアクチュエータの駆動制御器にアクチュエータ駆動指令値を送る。また上述のトランスミッションと燃焼エンジンを用いて減速制御を行う場合,予備動作のアクチュエータ駆動指令値をトランスミッションの駆動制御器に送り,本動作のアクチュエータ駆動指令値を燃焼エンジンの駆動制御器に送る。また上述の電動モータもしくは油圧ブレーキアクチュエータにより減速制御を行う場合,電動モータによる回生制動が可能であれば,電動モータにS200にて演算されたアクチュエータ駆動指令値を送り,油圧ブレーキアクチュエータには,油圧ブレーキアクチュエータによる減速制御が行われないアクチュエータ駆動指令値を送る。また回生制動が不可能であれば,油圧ブレーキアクチュエータにS200にて演算されたアクチュエータ駆動指令値を送り,電動モータには,電動モータによる減速制御が行われないアクチュエータ駆動指令値を送る。
【0079】
以上のように、アクチュエータの本動作の指令値に加え,アクチュエータの予備動作を行う指令値をアクチュエータに送り,駆動制御することで,単体での応答性ではG-Vectoring制御を実現困難なアクチュエータ構成であっても,G-Vectoring制御に必要な応答性を実現することができ,ドライバの回避操作時の安定性および回避性能向上を実現できる。