特許第6786310号(P6786310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786310
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】造形装置及び造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/112 20170101AFI20201109BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20201109BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20201109BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20201109BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20201109BHJP
【FI】
   B29C64/112
   B29C64/393
   B33Y30/00
   B33Y10/00
   B33Y50/02
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-169480(P2016-169480)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-34423(P2018-34423A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2018年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】越智 和浩
(72)【発明者】
【氏名】大川 将勝
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−150553(JP,A)
【文献】 特開2015−202689(JP,A)
【文献】 特開2015−150708(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/099559(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0086754(US,A1)
【文献】 特表2003−535712(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/194176(WO,A1)
【文献】 特開2016−087831(JP,A)
【文献】 特開2016−013671(JP,A)
【文献】 特開2016−074146(JP,A)
【文献】 米国特許第6193923(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0273769(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0068378(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体的な造形物を造形する造形装置であって、
造形の材料を吐出する吐出ヘッドと、
予め設定された主走査方向へ前記造形物に対して相対的に移動しつつ前記造形の材料を吐出する主走査動作を前記吐出ヘッドに行わせる主走査駆動部と、
前記造形の材料が積層される方向である積層方向へ前記造形物に対して相対的に前記吐出ヘッドを移動させる積層方向駆動部と、
前記吐出ヘッド、前記主走査駆動部、及び前記積層方向駆動部の動作を制御することにより、前記積層方向へ前記造形の材料を積層して行う造形の動作を実行させる制御部と
を備え、
前記造形の材料で形成される層を複数積層することで積層造形法で前記造形物を造形し、かつ、それぞれの前記層について、複数回の前記主走査動作で形成し、
前記制御部は、前記積層方向と直交する面内の各位置に対し、前記吐出ヘッドに、複数回の前記主走査動作を行わせ、
前記造形の材料を吐出すべき領域に対して一回の前記主走査動作で単位面積あたりに前記吐出ヘッドから吐出する前記造形の材料の量を単位面積吐出量と定義した場合、少なくとも一部の前記層の形成時において、一つの前記層を形成するために行う複数回の前記主走査動作のうち、一部の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量を、他の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量よりも少なくすることを特徴とする造形装置。
【請求項2】
前記層を平坦化する平坦化手段を更に備え、
前記平坦化手段は、少なくとも一部の前記層の形成時において、前記層を形成するために行う複数回の前記主走査動作のうちの少なくとも最後の主走査動作において、前記層を平坦化することを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項3】
少なくとも一部の前記層の形成時において、前記層を形成するために行う複数回の前記主走査動作のうちの最初の前記主走査動作における前記単位面積吐出量を、前記最後の主走査動作における前記単位面積吐出量よりも少なくすることを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項4】
少なくとも一部の前記層の形成時において、それぞれの前記層を形成するために行う複数回の前記主走査動作のうちの前記最後の主走査動作における前記単位面積吐出量について、他のいずれかの回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量よりも多くすることを特徴とする請求項2又は3に記載の造形装置。
【請求項5】
前記それぞれの前記層を形成するために行う前記複数回の主走査動作のうち、前記最後の主走査動作以外の全ての回の前記主走査動作について、前記単位面積吐出量を同じにすることを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項6】
前記それぞれの前記層を形成するために行う前記複数回の主走査動作について、先に行う前記主走査動作における前記単位面積吐出量を、後に行う前記主走査動作における前記単位面積吐出量よりも少なくすることを特徴とする請求項に記載の造形装置。
【請求項7】
立体的な造形物を造形する造形方法であって、
造形の材料を吐出する吐出ヘッドに、
予め設定された主走査方向へ前記造形物に対して相対的に移動しつつ前記造形の材料を吐出する主走査動作と、
前記造形の材料が積層される方向である積層方向へ前記造形物に対して相対的に移動する動作と
を行わせることで、前記積層方向へ前記造形の材料で形成される層を複数積層する積層造形法で造形の動作を実行させ、
かつ、前記積層方向と直交する面内の各位置に対し、前記吐出ヘッドに、複数回の前記主走査動作を行わせ、更に、それぞれの前記層について、複数回の前記主走査動作で形成し、
前記造形の材料を吐出すべき領域に対して一回の前記主走査動作で単位面積あたりに前記吐出ヘッドから吐出する前記造形の材料の量を単位面積吐出量と定義した場合、少なくとも一部の前記層の形成時において、一つの前記層を形成するために行う複数回の前記主走査動作のうち、一部の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量を、他の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量よりも少なくすることを特徴とする造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置及び造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッド等の吐出ヘッドを用いて造形物を造形する造形装置(3Dプリンタ)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような造形装置においては、例えば、造形の材料としてインクを用い、インクジェットヘッドにより形成するインクの層を複数層重ねることにより、積層造形法で造形物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−71282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層造形法で造形物を造形する場合、積層する各層について、高い精度で適切に形成すること必要である。そのため、従来、造形の材料で形成する層について、より高い精度で形成可能な構成が望まれている。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる造形装置及び造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者は、造形の材料で形成する層に関し、状態の整った層を高い精度で適切に形成する方法について、鋭意研究を行った。この場合、状態の整った層とは、例えば、乱れの少ない平面状の層のことである。また、層における乱れとは、例えば、層を構成する造形の材料のドットの状態における乱れのことである。そして、この鋭意研究において、先ず、層の状態が乱れる原因の検討を行った。また、その結果、層を構成する造形の材料のドットの間隔が小さくなると、層の状態に乱れが生じやすいことを見出した。
【0006】
より具体的に、例えば、造形の材料としてインクを用いる場合、造形物の被造形面にインクのドットを並べて形成することにより、インクの層を形成する。また、この場合、液体の状態でインクを吐出して、被造形面への着弾後に、インクを硬化させる。そして、この場合において、インクのドットの間隔が小さいと、ドット間の接触が生じやすくなる。また、ドット間の接触が生じると、液体状態のインクのドットがつながり、インクのドットの連結が生じる場合がある。また、硬化前のインクが意図しない方向に流れる場合もある。そして、このようなドットの連結等が生じると、硬化後のインクの層において、状態の乱れが生じることになる。より具体的には、例えば、インクのドットの連結により、インクの層の表面に意図しない溝状の部分等が発生すること等が考えられる。
【0007】
また、ドットの間隔が小さい場合、隣接するドットの位置のわずかなずれが硬化後の状態に影響しやすくなる。より具体的には、例えば、インクジェットヘッドを用いて造形の材料であるインクの吐出を行う場合、ドットの間隔が小さいと、インクジェットヘッドの吐出特性おけるバラツキ(吐出特性の癖)の影響が生じやくなる。また、ドットの間隔が小さい場合、高密度でインクの吐出を行うため、吐出から着弾までの飛翔中において、近接して飛翔するインク(インク滴)の影響を受けて、飛行曲がりが生じやすくなる場合もある。また、その結果、着弾位置のずれが生じ、硬化後のインクの層において、状態の乱れが生じることも考えられる。
【0008】
ここで、例えば同時に形成するインクのドットの間隔を大きくすれば、ドット間の接触等を生じ難くできる。そのため、この場合、造形の材料の層をより高い精度で形成できると考えられる。しかし、この場合、単位時間に単位面積に対して吐出する造形の材料が少なくなるため、造形に要する時間が大きく増大することになる。また、単位時間に単位面積に対して吐出する造形の材料を単に少なくした場合、例えば層を平坦化する動作に支障が生じるおそれもある。
【0009】
これに対し、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、同時に形成するインクのドットの間隔を一律に大きくするのではなく、単位時間に単位面積に対して吐出する造形の材料の量を造形中のタイミングに合わせて変化させることで、造形中のタイミングによって同時に形成するインクのドットの間隔を変化させることを考えた。また、より具体的に、そのための構成として、造形の材料を吐出する吐出ヘッド(インクジェットヘッド等)に主走査動作(スキャン動作)を行わせる造形装置において、一部の回の主走査動作における単位面積吐出量を、他の回の主走査動作における単位面積吐出量よりも少なくすることを考えた。この場合、単位面積吐出量とは、例えば、造形の材料を吐出すべき領域に対して一回の主走査動作で単位面積あたりに吐出ヘッドから吐出する造形の材料の量のことである。
【0010】
このように構成した場合、例えば、一部の回の主走査動作において単位面積吐出量を少なくすることにより、層の状態に乱れが生じ難い状態で造形の材料を吐出できる。また、これにより、造形物の被造形面の状態を整えることができる。また、この場合、例えば、被造形面の状態が整えられているタイミングで他の回の主走査動作を行うことで、単位面積吐出量を多くした場合にも、層の状態の乱れを生じ難くできる。また、この場合、単位面積吐出量を多くすることにより、造形の速度が大きく低下することを適切に防ぐことができる。また、例えば層の平坦化を行う場合には、例えば平坦化を行う主走査動作時の単位面積吐出量を多くすることで、全ての回の主走査動作で単位面積吐出量を少なくする場合と比べ、より適切に平坦化を行うことが可能になる。そのため、このように構成すれば、例えば、造形の材料の層を高い精度でより適切に形成できる。
【0011】
また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。上記の課題を解決するために、本発明は、立体的な造形物を造形する造形装置であって、造形の材料を吐出する吐出ヘッドと、予め設定された主走査方向へ前記造形物に対して相対的に移動しつつ前記造形の材料を吐出する主走査動作を前記吐出ヘッドに行わせる主走査駆動部と、前記造形の材料が積層される方向である積層方向へ前記造形物に対して相対的に前記吐出ヘッドを移動させる積層方向駆動部と、前記吐出ヘッド、前記主走査駆動部、及び前記積層方向駆動部の動作を制御することにより、前記積層方向へ前記造形の材料を積層して行う造形の動作を実行させる制御部とを備え、前記制御部は、前記積層方向と直交する面内の各位置に対し、前記吐出ヘッドに、複数回の前記主走査動作を行わせ、前記造形の材料を吐出すべき領域に対して一回の前記主走査動作で単位面積あたりに前記吐出ヘッドから吐出する前記造形の材料の量を単位面積吐出量と定義した場合、前記各位置に対して行う複数回の前記主走査動作のうち、一部の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量を、他の回の前記主走査動作における前記単位面積吐出量よりも少なくすることを特徴とする。
【0012】
このように構成した場合、上記のように、例えば、一部の回の主走査動作において単位面積吐出量を少なくすることにより、造形物の被造形面の状態を整えることができる。また、例えば、被造形面の状態が整えられているタイミングで他の回の主走査動作を行うことで、その回の主走査動作時の単位面積吐出量を多くした場合にも、層の状態の乱れを生じ難くできる。そのため、このように構成すれば、例えば、造形の材料の層を高い精度でより適切に形成できる。
【0013】
ここで、この構成において、造形装置は、例えば、積層造形法で造形物を造形する。また、積層造形法において積層するそれぞれの層について、マルチパス方式で形成する。この場合、マルチパス方式で層を形成するとは、例えば、それぞれの層について、複数回の主走査動作で形成することである。また、層を複数回の主走査動作で形成するとは、例えば、一つの層を形成する動作において、造形物の被造形面の各位置に対し、複数回の主走査動作を行うことである。
【0014】
また、この場合、一つの層を形成するために行う複数回の主走査動作のうち、一部の回の主走査動作における単位面積吐出量を、他の回の主走査動作における単位面積吐出量よりも少なくすることが考えられる。このように構成すれば、例えば、それぞれの層について、状態の乱れを抑えて、高い精度でより適切に形成できる。
【0015】
また、造形装置は、造形の材料の層を平坦化する平坦化手段を更に備えることが好ましい。この場合、平坦化手段は、例えば、それぞれの層を形成するために行う複数回の主走査動作のうちの少なくとも最後の主走査動作において、層の平坦化を行う。また、平坦化手段は、例えば、平坦化を行う主走査動作中に吐出された材料の一部をかき取ることにより、層の平坦化を行う。
【0016】
また、この場合、例えば、平坦化を行う主走査動作における単位面積吐出量を他の回の主走査動作時における単位面積吐出量よりも多くすることで、平坦化を行う主走査動作における単位面積吐出量を十分に多くすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、平坦化の動作をより適切に行うことができる。また、この場合、平坦化を行った直後に行う主走査動作では、単位面積吐出量を少なくすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、平坦化されている被造形面に対し、より高い精度で造形の材料を吐出できる。また、これにより、例えば、その後に行う主走査動作の下地となる領域をより高い精度で適切に形成できる。
【0017】
また、より具体的に、この場合、例えば、それぞれの層を形成するために行う複数回の主走査動作のうちの最初の主走査動作における単位面積吐出量を、最後の主走査動作における単位面積吐出量よりも少なくすることが考えられる。また、この場合、最後の主走査動作における単位面積吐出量について、他のいずれの回の主走査動作における単位面積吐出量よりも多くすることが考えられる。また、この場合、最後の主走査動作以外の全ての回の主走査動作について、単位面積吐出量を同じにすることが考えられる。また、例えば、それぞれの層を形成するために行う複数回の主走査動作について、主走査動作毎に単位面積吐出量を異ならせてもよい。この場合、例えば、先に行う主走査動作における単位面積吐出量を、後に行う主走査動作における単位面積吐出よりも少なくすることが考えられる。
【0018】
また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する造形方法等を用いることも考えられる。この場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、例えば、造形物の造形時において、造形の材料の層を高い精度でより適切に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る造形装置10の一例を示す図である。図1(a)は、造形装置10の要部の構成の一例を示す。図1(b)は、ヘッド部12の構成の一例を示す。図1(c)は、造形物50の構成の一例をサポート層52と共に示す。
図2】本例においてマルチパス方式でインクの層を形成する動作について説明をする図である。図2(a)は、各回のパスに対応してインクジェットヘッド102に設定される領域の一例を示す。図2(b)は、マルチパス方式で一つのインクの層を形成する動作を示す。図2(c)は、インクの層を平坦化する様子を示す。
図3】各回のパスで吐出するインクの量の設定について説明をする図である。図3(a)は、各回のパスで吐出するインクの量の設定の一例を示す。図3(b)は、設定Bでの設定値をインクジェットヘッド102における領域202a〜dと対応付けて示す。
図4】小ピッチマルチパス方式の動作の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る造形装置10の一例を示す。図1(a)は、造形装置10の要部の構成の一例を示す。
【0022】
尚、以下に説明をする点を除き、造形装置10は、公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。より具体的に、以下の説明をする点を除き、造形装置10は、例えば、インクジェットヘッドを用いて造形物50の材料となる液滴を吐出することで造形を行う公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。また、造形装置10は、図示した構成以外にも、例えば、造形物50の造形や着色等に必要な各種構成を更に備えてよい。
【0023】
本例において、造形装置10は、積層造形法により造形物50を造形する装置である。この場合、積層造形法とは、例えば、造形の材料で形成される層を複数積層することで造形物50を造形する方法である。造形物50とは、例えば、立体的な三次元構造物のことである。また、本例において、造形装置10は、ヘッド部12、造形台14、主走査駆動部16、副走査駆動部18、積層方向駆動部20、及び制御部30を備える。
【0024】
ヘッド部12は、造形物50の材料となるインクの液滴(インク滴)を吐出する部分であり、所定の条件に応じて硬化するインクを吐出し、硬化させることにより、造形物50を構成する各層を重ねて形成する。また、本例では、インクとして、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化型インクを用いる。この場合、インクとは、例えば、インクジェットヘッドから吐出する液体のことである。インクジェットヘッドとは、例えば、インクジェット方式でインク滴を吐出する吐出ヘッドのことである。
【0025】
また、本例において、ヘッド部12は、少なくとも、複数のインクジェットヘッドと、紫外線光源とを有する。また、ヘッド部12は、造形物50の材料に加え、サポート層52の材料を更に吐出する。この場合、サポート層52とは、例えば、造形中の造形物50の外周を囲むことで造形物50を支持する積層構造物のことである。サポート層52は、造形物50の造形時において、必要に応じて形成され、造形の完了後に除去される。また、ヘッド部12のより具体的な構成については、後に詳しく説明をする。
【0026】
造形台14は、造形中の造形物50を支持する台状部材であり、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドと対向する位置に配設され、造形中の造形物50を上面に載置する。また、本例において、造形台14は、少なくとも上面が積層方向へ移動可能な構成を有しており、積層方向駆動部20に駆動されることにより、造形物50の造形の進行に合わせて、少なくとも上面が移動する。この場合、積層方向とは、例えば、積層造形法において造形の材料が積層される方向のことである。また、より具体的に、本例において、積層方向は、造形装置10において予め設定される主走査方向(図中のY方向)及び副走査方向(図中のX方向)と直交する方向(図中のZ方向)である。
【0027】
主走査駆動部16は、ヘッド部12に主走査動作(Y走査)を行わせる駆動部である。この場合、ヘッド部12に主走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12が有するインクジェットヘッドに主走査動作を行わせることである。また、主走査動作とは、例えば、造形の材料であるインクを主走査方向へ移動しつつ吐出する動作のことである。
【0028】
また、本例において、主走査駆動部16は、主走査方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12の側を移動させることにより、ヘッド部12に主走査動作を行わせる。また、主走査動作におけるヘッド部12の移動は、造形物50に対する相対的な移動であってもよい。そのため、造形装置10の構成の変形例においては、例えば、ヘッド部12の位置を固定して、例えば造形台14を移動させることにより、造形物50の側を移動させてもよい。
【0029】
また、本例の主走査動作時において、主走査駆動部16は、ヘッド部12における紫外線光源の駆動を更に行う。より具体的に、主走査駆動部16は、例えば、主走査動作時に紫外線光源を点灯させることにより、造形物50の被造形面に着弾したインクを硬化させる。造形物50の被造形面とは、例えば、ヘッド部12により次のインクの層が形成される面のことである。
【0030】
副走査駆動部18は、ヘッド部12に副走査動作(X走査)を行わせる駆動部である。この場合、ヘッド部12に副走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12が有するインクジェットヘッドに副走査動作を行わせることである。副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ造形台14に対して相対的に移動する動作のことである。また、より具体的に、副走査動作は、例えば、予め設定された送り量だけ副走査方向へ造形台14に対して相対的に移動する動作である。
【0031】
また、本例において、副走査駆動部18は、主走査動作の合間に、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、副走査駆動部18は、例えば、副走査方向におけるヘッド部12の位置を固定して、造形台14を移動させることにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。また、副走査駆動部18は、副走査方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12を移動させることにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせてもよい。
【0032】
積層方向駆動部20は、積層方向(Z方向)へヘッド部12又は造形台14の少なくとも一方を移動させる駆動部である。この場合、積層方向へヘッド部12を移動させるとは、例えば、ヘッド部12における少なくともインクジェットヘッドを積層方向へ移動させることである。また、積層方向へ造形台14を移動させるとは、例えば、造形台14における少なくとも上面の位置を移動させることである。また、積層方向駆動部20は、積層方向へヘッド部12又は造形台14の少なくとも一方を移動させることにより、Z方向への走査(Z走査)をインクジェットヘッドに行わせ、積層方向において、造形中の造形物50に対するインクジェットヘッドの相対位置を調整する。また、より具体的に、本例において、積層方向駆動部20は、例えば、積層方向におけるヘッド部12の位置を固定して、造形台14を移動させる。また、積層方向駆動部20は、積層方向における造形台14の位置を固定して、ヘッド部12を移動させてもよい。
【0033】
制御部30は、例えば造形装置10のCPUであり、造形装置10の各部を制御することにより、造形装置10に造形物50の造形の動作を実行させる。この場合、造形物50の造形の動作とは、例えば、積層方向へ造形の材料を積層して行う造形の動作のことである。また、この場合、制御部30は、例えば造形しようとする造形物50の形状情報や、カラー画像情報等に基づき、造形装置10の各部を制御する。本例によれば、造形物50を適切に造形できる。
【0034】
続いて、ヘッド部12のより具体的な構成について、説明をする。図1(b)は、ヘッド部12の構成の一例を示す。本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドを有する。それぞれのインクジェットヘッドは、造形台14と対向する面に、所定のノズル列方向へ複数のノズルが並ぶノズル列を有する。また、造形装置10は、ヘッド部12における複数のノズル列から材料を吐出することにより、造形物50を造形する。
【0035】
また、より具体的に、本例において、ノズル列方向は、副走査方向と平行な方向である。また、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッド、複数の紫外線光源104、及び平坦化ローラ106を有する。また、複数のインクジェットヘッドとして、図1(b)に示すように、インクジェットヘッド102s、インクジェットヘッド102mo、インクジェットヘッド102w、インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102k、及びインクジェットヘッド102tを有する。これらの複数のインクジェットヘッドは、例えば、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。
【0036】
インクジェットヘッド102sは、サポート層52の材料を吐出するインクジェットヘッドである。本例において、サポート層52の材料としては、造形物50の材料よりも紫外線による硬化度が弱い紫外線硬化型インクを用いる。これにより、インクジェットヘッド102sは、サポート層52の材料となる紫外線硬化型インクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。サポート層52の材料としては、造形物50の造形後に水で溶解可能な水溶性の材料を用いることが好ましい。また、サポート層52の材料としては、例えば、サポート層用の公知の材料を好適に用いることができる。
【0037】
インクジェットヘッド102moは、造形材インク(Moインク)を吐出するインクジェットヘッドであり、造形材インクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。この場合、造形材インクとは、例えば、造形物50の内部(内部領域)の造形に用いる造形専用のインクである。
【0038】
尚、造形物50の内部については、造形材インクに限らず、他の色のインクを更に用いて形成してもよい。また、例えば、造形材インクを用いずに、他の色のインク(例えば白色のインク等)のみで造形物50の内部を形成することも考えられる。この場合、ヘッド部12において、インクジェットヘッド102moを省略してもよい。
【0039】
インクジェットヘッド102wは、白色(W)のインクを吐出するインクジェットヘッドであり、白色のインクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。また、本例において、白色のインクは、光反射性のインクの一例であり、例えば造形物50において光を反射する性質の領域(光反射領域)を形成する場合に用いられる。この光反射領域は、例えば、造形物50表面に対して減法混色によるカラー表現での着色を行う場合に、造形物50の外部から入射する光を反射する。
【0040】
インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102k(以下、インクジェットヘッド102y〜kという)は、着色された造形物50の造形時に用いる着色用のインクジェットヘッドであり、着色に用いる複数色のインク(加飾インク)のそれぞれのインクを、ノズル列における各ノズルからそれぞれ吐出する。より具体的に、インクジェットヘッド102yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。また、インクジェットヘッド102kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、この場合、YMCKの各色は、カラー表現に用いるプロセスカラーの一例である。また、インクジェットヘッド102tは、クリアインクを吐出するインクジェットヘッドであり、クリアインクを、ノズル列における各ノズルから吐出する。クリアインクとは、例えば、無色の透明色(T)であるクリア色のインクのことである。
【0041】
複数の紫外線光源104は、インクを硬化させるための光源(UV光源)であり、紫外線硬化型インクを硬化させる紫外線を発生する。また、本例において、複数の紫外線光源104のそれぞれは、間にインクジェットヘッドの並びを挟むように、ヘッド部12における主走査方向の一端側及び他端側のそれぞれに配設される。紫外線光源104としては、例えば、UVLED(紫外LED)等を好適に用いることができる。また、紫外線光源104として、メタルハライドランプや水銀ランプ等を用いることも考えられる。
【0042】
平坦化ローラ106は、造形物50の造形中に形成されるインクの層を平坦化する平坦化手段であり、例えば主走査動作時にインクの層の表面と接触して、硬化前のインクの一部を除去することにより、インクの層を平坦化する。この場合、硬化前のインクの一部を除去するとは、例えば、平坦化ローラ106の回転により硬化前のインクの一部をかき取ることである。
【0043】
以上のような構成のヘッド部12を用いることにより、造形物50を構成するインクの層を適切に形成できる。また、複数のインクの層を重ねて形成することにより、造形物50を適切に造形できる。
【0044】
尚、ヘッド部12の具体的な構成については、上記において説明をした構成に限らず、様々に変形することもできる。例えば、ヘッド部12は、着色用のインクジェットヘッドとして、インクジェットヘッド102y〜kに加え、各色の淡色、R(赤)G(緑)B(青)やオレンジ等の色用のインクジェットヘッド等を更に有してもよい。また、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドの並べ方についても、様々に変形可能である。例えば、一部のインクジェットヘッドについて、他のインクジェットヘッドと副走査方向における位置をずらしてもよい。
【0045】
また、図中に示すように、本例において、ヘッド部12は、インクジェットヘッド102s〜tの並びの一方側のみに平坦化ローラ106を有する。この場合、平坦化ローラ106は、例えば、インクジェットヘッド102s〜tよりも平坦化ローラ106が後方側になって移動する主走査動作時のみに、インクの層を平坦化する。また、より具体的に、本例において、主走査駆動部16は、ヘッド部12に、往復の主走査動作を行わせる。この場合、往復の主走査動作を行わせるとは、主走査方向における一方の向きにヘッド部12が移動する往路の主走査動作と、他方の向きへヘッド部12が移動する復路の主走査動作とをヘッド部12に行わせることである。また、この場合、平坦化ローラ106は、往路及び復路の一方の主走査動作時に、インクの層を平坦化する。また、この場合、平坦化ローラ106は、例えば、平坦化を行う主走査動作中に吐出されたインクの一部をかき取ることにより、層の平坦化を行う。また、この場合、積層されるインクの高さに応じて、一部の回の主走査動作時にのみインクの層を平坦化してもよい。
【0046】
続いて、本例において造形物50を造形する動作について、更に詳しく説明をする。図1(c)は、本例において造形装置10が造形する造形物50の構成の一例をサポート層52と共に示す図である。
【0047】
上記においても説明をしたように、本例において、造形装置10は、造形の材料であるインクで形成されるインクの層60を複数層積層することにより、積層造形法で造形物50を造形する。また、この場合、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッド102s〜tを用いて、造形物50及びサポート層52の各領域に対応する部分を含む層60を形成する。
【0048】
尚、図1(c)においては、図示の便宜上、造形物50及びサポート層52を構成する層60の層数を少なくして、造形物50及びサポート層52の構成を模式的に示している。実際の構成において、造形装置10は、例えば、厚さが100μm以下程度の薄い層60を多数重ねて造形物50及びサポート層52を形成する。この場合、層60の厚さとは、積層方向における厚さのことである。また、より具体的に、それぞれの層60の厚さは、例えば10〜100μm程度、好ましくは、20〜50μm程度である。
【0049】
また、この場合、層60とは、造形物50の断面を構成する部分であり、例えば、造形しようとする造形物50の断面形状を示すスライスデータに基づいて形成される。また、この場合、一つの層60は、一つのスライスデータに基づいて形成される。また、それぞれの層60は、互いに異なるスライスデータに基づいて形成される。
【0050】
また、層60の形成時には、主走査方向及び副走査方向と平行な面内(XY面内)に造形の解像度に応じて設定されるインクの吐出位置へヘッド部12における複数のインクジェットヘッド102s〜tからインクを吐出する。また、この場合、層60について、例えば、造形物50の断面における全ての吐出位置へ所定量のインクを吐出することで形成される部分と考えることもできる。全ての吐出位置へ所定量のインクを吐出するとは、例えば、設定された造形の解像度に対応する全ての点の位置へインクを吐出することである。また、この場合、必ずしも全ての吐出位置へインクを吐出しなくても、全ての吐出位置のうちの予め設定された割合の位置へインクを吐出した状態について、層60が形成された状態と考えてもよい。この場合、予め設定された割合とは、例えば、層60を形成する領域を埋めるだけの十分な量のインクを吐出できる割合のことである。
【0051】
また、本例において、造形装置10は、それぞれの層60を、マルチパス方式で形成する。この場合、マルチパス方式で層60を形成するとは、例えば、それぞれの層60について、複数回の主走査動作で形成することである。また、層60を複数回の主走査動作で形成するとは、例えば、一つの層60を形成する動作において、造形物50の被造形面の各位置に対し、複数回の主走査動作を行うことである。この場合、制御部30は、例えば、積層方向と直交する面内の各位置に対し、ヘッド部12に、複数回の主走査動作を行わせる。
【0052】
図2は、本例においてマルチパス方式でインクの層を形成する動作について説明をする図である。図2(a)は、各回のパスに対応してインクジェットヘッド102に設定される領域の一例を示す図である。この場合、各回のパスに対応してインクジェットヘッド102に設定される領域とは、各回のパスでインクを吐出するノズルが並ぶ領域のことである。
【0053】
また、図2(a)においては、パス数を4にした場合(4パスの場合)について、複数の領域202a〜dを示している。複数の領域202a〜dのそれぞれは、1〜4回目のそれぞれのパスに対応する領域である。また、本例において、複数の領域202a〜dのそれぞれは、副走査方向における幅が等しい領域であり、同数のノズルをそれぞれ含む。
【0054】
尚、図2において、インクジェットヘッド102は、ヘッド部12(図1参照)におけるインクジェットヘッド102s〜tを代表して示したインクジェットヘッドである。この場合、インクジェットヘッド102s〜tのそれぞれにおいては、図示したインクジェットヘッド102と同様に、複数の領域202a〜dが設定される。
【0055】
図2(b)は、マルチパス方式で一つのインクの層を形成する動作を示す図であり、矢印402で示した領域に対して行う1〜4回目のパス(1〜4パス目)のそれぞれに対応する主走査動作時について、副走査方向におけるインクジェットヘッド102の位置の例を示す。この場合、矢印402で示した領域とは、例えば、矢印402で示す位置と副走査方向における位置が重なる領域のことである。
【0056】
図中に示すようなマルチパス方式でインクの層を形成する場合、造形装置10における副走査駆動部18(図1参照)は、例えば、副走査動作時の送り量をパス数に応じた幅に設定して、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、送り量について、パス数に応じた幅とは、例えば、インクジェットヘッド102のノズル列長をパス数で除した距離に等しい幅のことである。また、ノズル列長とは、例えば、副走査方向におけるノズル列の長さである。ノズル列長は、副走査方向における実質的なノズル列の長さであってよい。また、より具体的に、図示した場合において、送り量は、ノズル列長の1/4になっている。また、この場合、副走査駆動部18は、各回の主走査動作の合間に、パス幅分の送り量での副走査動作をヘッド部12に行わせる。また、これにより、造形中の造形物50の各位置と対向するインクジェットヘッド102における領域を順次変更する。
【0057】
また、上記においても説明をしたように、本例において、主走査駆動部16(図1参照)は、ヘッド部12に、往復の主走査動作を行わせる。そして、平坦化ローラ106(図1参照)は、往路及び復路の一方の主走査動作時に、インクの層を平坦化する。また、より具体的に、図2(b)に図示した場合においては、1パス目及び3パス目が、往路の主走査動作になる。また、2パス目及び4パス目が、復路の主走査動作になる。そして、平坦化ローラ106は、復路の主走査動作時に、インクの層を平坦化する。
【0058】
但し、実際の造形の動作時において、平坦化ローラ106は、インクの層を構成するインクと接触した場合にのみ、インクの層を平坦化する。また、設計上、積層方向駆動部20(図1参照)により行う積層方向への移動量については、例えば、それぞれのインクの層の形成時に行う最後のパスで吐出したインクのみが平坦化ローラ106と接触するように設定する。
【0059】
また、より具体的に、積層方向駆動部20は、例えば、一つのインクの層が形成される毎に、一つの層の厚さ分だけ、インクジェットヘッドと造形台14(図1参照)との間の距離を大きくする。そのため、それぞれの層の形成時において、初期のパスで吐出したインクは、通常、平坦化ローラ106と接触しない。また、この場合、積層方向への移動量について、パス数分の主走査動作を行った時点では層の厚さが十分に厚くなり、インクと平坦化ローラ106とが接触するようにする。また、これにより、平坦化ローラ106は、それぞれの層を形成するために行う複数回のパス(主走査動作)のうちの少なくとも最後のパスにおいて、層を平坦化する。また、本例においては、一つのインクの層を形成する毎に行う積層方向への移動量について、設計上、最後のパスでのみインクが平坦化ローラ106と接触するように設定する。そのため、例えば図中に示した動作の場合、設計上、4パス目に吐出したインクのみが平坦化ローラ106と接触する。
【0060】
図2(c)は、インクの層を平坦化する様子を示す図であり、各回のパスで近接した位置に吐出されるインクのドット302の重なり方と、平坦化を行う高さ(平坦化ライン)の一例とを模式的に示す。この場合、平坦化ラインとは、例えば、平坦化ローラ106の下端の位置である。また、平坦化ローラ106の下端とは、例えば、平坦化ローラ106において最も造形台14に近い部分のことである。
【0061】
造形物の造形時において、インクジェットヘッドの各ノズルから吐出するインクの量が少ないと、積層に要する時間が増大することになる。また、その結果、造形物の造形速度が大きく低下することになる。そのため、造形物の造形時には、通常、1回の吐出でノズルから吐出するインクの量をある程度以上に大きくする。より具体的には、例えば、積層方向と直交する面内において着弾後に形成されるインクのドット302の直径(ドットゲイン)が造形の解像度に応じた間隔(ドットピッチ)よりも大きくなるように、1回の吐出でノズルから吐出するインクの量を設定することが考えられる。そして、この場合、ドットゲインが大きくなることで、他の回のパスで近接した位置に形成されるドット302との間で、重なり合いが生じることになる。そのため、この場合、各回のパスで形成されるインクのドットは、例えば、図中に示すように、順次重なるように形成される。
【0062】
また、この場合、平坦化ラインの設定は、例えば、形成しようとするインクの層の設計上の厚さに合わせて行うことになる。より具体的に、平坦化後のインクの層の厚さを所定の厚さdにしようとする場合、下の層の形成後、積層方向駆動部20により、インクジェットヘッドと造形台14との間の距離がdだけ大きくなるように、造形台14に対して相対的にヘッド部12を移動させる。また、これにより、ヘッド部12における平坦化ローラ106の下端が通過する高さについて、下の層から距離dだけ離れた位置に設定する。このように構成すれば、例えば図中に示すように、平坦化ラインを適切に設定できる。
【0063】
また、この場合、形成中のインクの層の高さは、各回のパスでインクを吐出する毎に、徐々に高くなる。そして、この場合、平坦化後のインクの層の厚さdについては、設計上、仮に平坦化を行わないとした場合に各回のパスで達するインクの高さを想定して、最後の直前のパスまでに達する想定高さよりも高く、かつ、最後のパスの完了後に達する想定高さよりも低くなるように設定する。このように構成すれば、例えば、設計上、最後のパスで吐出したインクのみを平坦化ローラ106と接触させることができる。そのため、このように構成すれば、少なくとも設計上、インクの層の平坦化を適切に行うことができる。
【0064】
しかし、実際の造形時において、それぞれのインクのドットの位置を局所的に見た場合、インクの層の各位置の高さは、必ずしも設計上の高さに一致しない。そのため、従来の方法で造形を行う場合、例えば最後の直前のパスまでを行った段階で、インクの層の一部において局所的に、インクの層の高さが平坦化ラインに達する場合もある。また、特に、高い解像度で造形を行う場合、高い密度でインクのドットを形成することになるため、このような高さのずれが生じやすくなると考えられる。
【0065】
また、マルチパス方式で造形を行う場合、通常、各回のパスで吐出されたインクのドットについて、主走査動作中に紫外線を照射して、硬化させる。そのため、このような高さのずれが生じた場合、平坦化を行う最後のパスにおいて、硬化済のインクのドットと平坦化ローラ106との意図しない接触が生じることになる。そして、このような接触が生じると、インクの層の平坦化を適切に行えなくなる場合がある。より具体的には、例えば硬化済のインクが削れ、余分な削りカス等が発生する場合がある。また、接触により平坦化ローラ106が振動し、平坦化の動作に影響が生じること等も考えられる。そして、これらの結果、高い精度で適切に平坦化を行うことが困難になる場合がある。
【0066】
これに対し、本例においては、各回のパスで吐出するインクの量の設定を調整することにより、このような問題の発生を抑えている。そこで、以下、本例において各回のパスで吐出するインクの量の設定について、説明をする。
【0067】
図3は、各回のパスで吐出するインクの量の設定について説明をする図である。図3(a)は、各回のパスで吐出するインクの量の設定の一例を示す図であり、従来の構成における設定である設定Aと、本例における設定である設定Bとを比較して示す。図3(b)は、設定Bでの設定値をインクジェットヘッド102における領域202a〜dと対応付けて示す。
【0068】
従来の構成のマルチパス方式で造形を行う場合、通常、各回のパスで吐出するインクの量は、全てのパスで同じに設定する。そのため、例えばパス数を4にする場合において、全てのパスで吐出するインクの量の合計を100%とした場合、各回のパスで吐出するインクの量(吐出率)は、図中に設定Aとして示すように、25%になる。この場合、25%の吐出量は、パス数に応じて設定される最大の吐出量と考えることができる。パス数に応じて設定される最大の吐出量とは、例えば、100%をパス数で除した割合の吐出量のことである。また、この場合、100%のインクの量とは、例えば、積層方向と直交する面内において、造形の解像度に対応する全ての点に所定量(例えば、1ドット分)のインクを吐出した場合のインクの量である。
【0069】
また、この場合、各回のパスが完了した時点でのインクの層の厚さは、完了したパス数にほぼ比例して高くなる。より具体的には、例えば、4回のパスで40μmの厚さ分に相当するインクを吐出する場合、各回のパスでインクを吐出する毎に、インクの層の厚さは、10μmずつ大きくなる。すなわち、この場合、1回のパス分のインクの厚みが10μmになっていると考えることができる。
【0070】
また、この場合、全てのパスが完了した時点でのインクの層の厚さは、平坦化により、40μmよりも小さくなる。より具体的には、例えば、最後のパスにおいて吐出したインクの一部を平坦化ローラにより除去することで、平坦化後のインクの層に厚さについて、35μm程度にすることが考えられる。しかし、この場合、上記においても説明をしたように、硬化済のインクのドットと平坦化ローラ106との接触が生じ、高い精度で適切に平坦化を行うことが困難になる場合がある。
【0071】
これに対し、本例においては、各回のパスで吐出するインクの量を全てのパスで同じに設定するのではなく、図中に設定Bとして示すように、最後のパス以外のパスで吐出するインクの量を最後のパスで吐出するインクの量よりも少なくする。より具体的には、例えば、最後のパスで吐出するインクの量について、設定Aの場合と同じに設定する。この場合、設定Aで吐出するインクの量の合計を上記のように100%と考えると、設計Bの最後のパスで吐出するインクの量も、25%になる。
【0072】
また、この場合、最後以外のパスで吐出するインクの量については、25%よりも少ない量に設定する。例えば、図示した設計Bの場合、最後のパス以外のパスで吐出するインクの量について、20%に設定する。
【0073】
尚、図2を用いて説明をしたようにマルチパス方式の動作を行う場合、ヘッド部12における領域202a〜dから各回の主走査動作で吐出するインクの量を図3(b)に示すことで、各回のパスで吐出するインクの量を上記のように設定できる。また、この場合、例えば、領域202a〜dのそれぞれにおける各ノズルからインクを吐出する位置の比率(デューティ)を調整することにより、領域202a〜dのそれぞれから吐出するインクの量の制御(吐出量制御)を行うことができる。また、上記のようにインクの量を設定した場合、設定Bにおいて全てのパスで吐出するインクの量の合計は、100%未満になる。これは、インクの量について、設定Aで吐出するインクの量の合計を100%とした場合の相対的な量を考えているためである。そのため、インクの層を形成するために十分な量のインクを吐出できれば、合計のインクの量は、100%未満であってもよい。
【0074】
また、設定Bにおいて、最後のパス以外のパスで吐出するインクの量は、20%以外の量であってもよい。この場合、例えば、最後のパスで吐出するインクの量の1/5〜4/5(上記の100%に対して5〜20%になる量)程度にすることが考えられる。また、最後のパス以外のパスにおいて、ドット間の接触等をより適切に防ぐためには、インクの量について、20%よりも少なくすることがより好ましいとも考えられる。この場合、最後のパス以外のパスで吐出するインクの量について、最後のパスで吐出するインクの量の2/5〜3/5(上記の100%に対して10〜15%になる量)程度にすることが好ましい。また、更に具体的に、例えば、最後のパス以外のパスで吐出するインクの量について、最後のパスで吐出するインクの量の2/5程度(上記の100%に対して10%程度になる量)にすること等が考えられる。
【0075】
また、設定A及び設定Bにおいて、25%の吐出量は、インクジェットヘッドの吐出能力において、1回のパスで吐出可能な最大の吐出量(フル吐出量)になっている。すなわち、この場合、1回のパスでの吐出量について、25%よりも大きくすることはできない。そのため、設定Bにおいては、最後のパスにおいて、インクの吐出量をフル吐出量にすることで、できるだけ多くのインクを吐出している。また、最後のパス以外のパスでのインクの吐出量を25%よりも小さくすることで、最後のパス以外のパスでの吐出量を少なくしている。
【0076】
また、設定Bのように各回のパスでのインクの吐出量を設定した場合、各回のパスが完了した時点でのインクの層の厚さは、その回のパスで吐出したインクの量に応じた分だけ変化する。より具体的に、図3(a)に示すように、設定Bにおいて、吐出するインクの量が少ない1〜3回目のパスでは、各回のパスでインクを吐出する毎に、インクの層の厚さは、8μmずつ大きくなる。また、この場合、最後の4回目のパスにおいて、インクの層の厚さは、10μm大きくなる。そのため、この場合、合計で、34μmの厚さ分に相当するインクを吐出することになる。
【0077】
また、この場合も、全てのパスが完了した時点でのインクの層の厚さは、平坦化により、34μmよりも小さくなる。より具体的には、例えば、最後のパスにおいて、吐出したインクの一部を平坦化ローラにより除去することで、平坦化後のインクの層に厚さについて、30μm程度にすることが考えられる。
【0078】
ここで、例えば従来の構成のマルチパス方式で造形を行う場合において、インクの層の一部で高さのずれが生じる現象は、インクのドットを高い密度で形成することで生じていると考えられる。より具体的には、例えば、造形物の被造形面において、同じ回の主走査動作時に形成されるインクのドットの間隔が小さいと、ドット間の接触等が生じやすくなる。また、ドット間の接触等が生じると、硬化後のインクの層において、状態の乱れが生じやすくなる。また、ドットの間隔が小さい場合、隣接するドットの位置のわずかなずれが硬化後の状態に影響しやすくなる。更には、ドットの間隔が小さいと、インクジェットヘッドの吐出特性おけるバラツキ(吐出特性の癖)の影響も生じやくなる。また、この場合、高密度でインクの吐出を行うため、吐出から着弾までの飛翔中において、近接して飛翔するインク(インク滴)の影響を受けて、飛行曲がりが生じやすくなる場合もある。また、その結果、着弾位置のずれが生じ、硬化後のインクの層において、状態の乱れが生じることも考えられる。
【0079】
これに対し、本例においては、上記において説明をした設定Bのように、1〜3回目のパスにおいて、吐出するインクの量を少なくする。このように構成すれば、例えば、1〜3回目のパスにおいて、ドット間の接触等を生じ難くできる。また、これにより、例えば、インクの層において3回目のパスまでに形成する部分をより高い精度で適切に形成できる。また、この場合、インクのドットを離散的に形成することにより、例えば設計上の状態と同じようなマット状の状態で、それぞれのドットをより適切に形成できる。また、ドットを離散的に形成する場合、着弾位置がよりランダムに分散するため、ムラ等を発生し難くできる。また、これにより、平坦化を行う最後のパス以外の各回のパスで形成する部分について、より高い精度でより一様に適切に形成できる。
【0080】
また、この場合、最後のパス以外のパスで形成する部分について、平坦化を行うパスの前に形成する下地の部分と考えることもできる。この場合、例えば、このような下地の部分について、より高い精度でより一様に形成することができるともいえる。また、この場合、このような下地の上に最後のパスでインクを吐出することで、最後のパスで吐出するインクについて、着弾後の広がり方をより均一にすることができる。また、そのような状態で平坦化を行うことにより、インクの層を高い精度でより適切に形成できる。
【0081】
また、この場合、下地の部分について、局所的に高くなる部分等が生じ難い状態を実現することもできる。そのため、このように構成すれば、例えば、硬化済のインクのドットと平坦化ローラ106(図1参照)との接触が生じることを適切に防ぐこともできる。
【0082】
尚、各回のパスでのドット間の接触等を防ぐ観点で考えた場合、例えば最後のパスでもインクの吐出量を減らし、全てのパスで吐出するインクの量を少なくすればよいようにも思われる。しかし、平坦化を行う最後のパスでの吐出量まで少なくした場合、平坦化時にかき取れるインクの量が少なくなり、平坦化の動作を適切に行えなくなるおそれもある。また、平坦化時の平坦化ローラ106の調整について、余裕度(マージン)が少なくなること等も考えられる。また、全てのパスで吐出するインクの量を少なくした場合、全てのパスで吐出するインクの量の合計が大幅に減り、造形に要する時間が大きく増大すること等も考えられる。
【0083】
これに対し、本例においては、平坦化を行う最後のパスでの吐出量をそれ以前のパスよりも多くすることにより、例えば設定Aの場合と同様に、最後のパスで形成する部分の厚みを適切かつ十分に確保することができる。また、これにより、例えば、高い精度で適切に平坦化を行うことが可能になる。また、最後のパスでより多くのインクを吐出することにより、全てのパスで吐出するインクの量の合計が大幅に減ることを防ぐこともできる。そのため、本例によれば、例えば、適切に平坦化を行いつつ、インクの層を高い精度でより適切に形成できる。
【0084】
尚、この場合、平坦化時に除去するインクの量は、例えば設定Aのようにインクを吐出する場合と異ならせてもよい。例えば、平坦化の動作の余裕度を確保できる範囲で、平坦化時に除去するインクの量を少なくしてもよい。より具体的に、図3(a)の設定Bの場合、平坦化時に除去するインクの量に対応する厚みは4μmであり、設定Aの場合の5μmよりも少なくなっている。
【0085】
また、求められる造形の精度や、造形装置10(図1参照)の構成によっては、1〜3回目のパスで吐出するインクの量を設定Bよりも少し多くし、かつ、平坦化時に除去するインクの量をより少なくすることで、平坦化後の厚さを設定Aと同じにすること等も考えられる。この場合、例えば、4回のパスの合計で38μm程度の厚さ分に相当するインクを吐出して、平坦化後の厚さを35μmにすること等が考えられる。このように構成すれば、例えば、造形の速度を低下させることなく、それぞれのインクの層を高い精度で適切に形成できる。
【0086】
続いて、本例の特徴に関する補足説明等を行う。上記のように、本例においては、一つのインクの層を形成するために行う4回のパスのうち、1〜3回目のパスでのインクの吐出量を、4回目のパスよりも少なくする。また、このような特徴について、より一般化して考えた場合、各回のパスで吐出するインクの量の比較について、インクの単位面積吐出量を比較することで考えることもできる。この場合、単位面積吐出量とは、例えば、造形の材料となるインクを吐出すべき領域に対して一回の主走査動作で単位面積あたりに吐出するインクの量のことである。また、単位面積あたりに吐出するインクの量とは、例えば、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドから吐出するインクの量の合計である。
【0087】
また、この場合、本例において行うインクの量の設定について、例えば、造形物の被造形面における各位置に対して行う複数回の主走査動作のうち、一部の回の主走査動作における単位面積吐出量を、他の回の主走査動作における単位面積吐出量よりも少なくする構成と考えることもできる。このように構成した場合、例えば、一部の回の主走査動作において単位面積吐出量を少なくすることにより、ドットの連結等を生じ難くできる。また、ドット間の接触がある程度生じた場合にも、接触の影響を低減できる。そのため、このように構成した場合、例えば、単位面積吐出量を少なくした主走査動作を行うことで、造形物の被造形面の状態を適切に整えることができる。また、被造形面の状態が整えられているタイミングで他の回の主走査動作を行うことで、単位面積吐出量を多くした場合にも、層の状態の乱れを生じ難くできる。そのため、このように構成すれば、例えば、インクの層を高い精度でより適切に形成できる。また、この構成については、全ての主走査動作でインクの吐出量を多くするのではなく、インクの吐出量を少なくした主走査動作を間に含めることで、状態が乱れた部分が積層方向へ連続して重なることを防ぐ構成と考えることもできる。
【0088】
また、この場合、マルチパス方式の動作において、少なくとも一部のインクの層の形成時において、一つのインクの層を形成するために行う複数回のパスのうち、一部の回のパスにおける単位面積吐出量を、他の回のパスにおける単位面積吐出量よりも少なくすることが好ましいといえる。このように構成すれば、例えば、それぞれのインクの層について、状態の乱れを抑えて、高い精度でより適切に形成できる。
【0089】
また、この場合、上記においても説明をしたように、平坦化を行うパスにおける単位面積吐出量を十分に多くすることが好ましい。従って、少なくとも一部のインクの層の形成時において、インクの層を形成するために行う複数回のパスのうちの最後のパスにおける単位面積吐出量について、他の回のパスにおける単位面積吐出量よりも多くすることが好ましいといえる。このように構成すれば、例えば、平坦化の動作をより適切に行うことができる。
【0090】
また、この場合、最後のパスにおける単位面積吐出量について、他のいずれの回のパスにおける単位面積吐出量よりも多くすることが好ましい。また、少なくとも、平坦化を行った直後に行うパスでは、単位面積吐出量を少なくすることが好ましい。従って、少なくとも一部のインクの層の形成時において、インクの層を形成するために行う複数回のパスのうちの最初のパスにおける単位面積吐出量を、最後のパスにおける単位面積吐出量よりも少なくすることが好ましいといえる。このように構成すれば、例えば、平坦化がされた被造形面上に最初に形成するインクのドットについて、高い精度でより適切に形成できる。また、これにより、その後のパスで形成する部分についても、状態の乱れをより生じ難くできる。
【0091】
また、この場合、最後のパス以外の他の回のパスについて、例えば図3(a)において設定Bとして示した場合のように、単位面積吐出量を同じにすることが考えられる。この場合、単位面積吐出量が同じであるとは、例えば、造形の精度等に応じて、実質的に同じであることである。このように構成すれば、例えば、より簡易な制御により、最後以外のパスでのインクの吐出量を適切に設定できる。
【0092】
また、造形装置10の構成の変形例においては、一つのインクの層を形成するために行う複数回のパスについて、パス毎に単位面積吐出量を異ならせてもよい。この場合、例えば、先に行う主走査動作における単位面積吐出量を、後に行う主走査動作における単位面積吐出よりも少なくすることが考えられる。このように構成した場合も、高い精度でインクの層を適切に形成できる。
【0093】
以上のように、本例によれば、例えば、全てのパスで吐出量を多くするのではなく、一部のパスであえて吐出量を少なくすることで、造形物を構成するインクの層として、状態の乱れの少ない安定した層をより適切に形成できる。また、これにより、例えば、硬化済のインクと平坦化ローラとの接触等を防ぐこともできる。
【0094】
尚、上記においても説明をしたように、本例においては、それぞれのインクの層の形成時において、最後のパス以外のパスでフル吐出を行わず、吐出するインクの量を少なくしている。そして、この場合、全てのパスでフル吐出を行う場合と比べ、例えば平坦化時に除去するインクの量が同程度であれば、形成されるインクの層は薄くなる。また、その結果、造形に要する時間もある程度増大することになる。そのため、本例の構成については、例えば、造形速度を低下させる代わりにより高い精度で造形を行う構成と考えることもできる。また、この場合、造形装置10(図1参照)において、造形速度を優先する造形のモードと、造形の精度を優先する造形のモードとを選択可能にしてもよい。この場合、造形速度を優先する造形のモードでは、例えば、全てのパスでフル吐出を行って、造形物を造形する。また、造形の精度を優先する造形のモードでは、それぞれのインクの層の形成時において、例えば、最後のパスのみでフル吐出を行って、造形物を造形する。
【0095】
続いて、マルチパス方式の動作についての変形例を説明する。上記においては、マルチパス方式の動作について、図2等を用いて、主に、インクジェットヘッドのノズル列長をパス数で除した距離を副走査動作での送り量に設定する場合について、説明をした。しかし、マルチパス方式の動作については、上記において説明をした以外の動作を用いてもよい。より具体的には、例えば、パス数分の主走査動作を行う間の副走査動作における送り量を小さなピッチに設定する方式である小ピッチマルチパス方式の動作を用いること等も考えられる。
【0096】
図4は、小ピッチマルチパス方式の動作の一例を示す図であり、パス数を4(4パス)にした場合の動作の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図4において、図1〜3と同じ符号を付した構成は、図1〜3における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0097】
4パスでの小ピッチマルチパス方式の動作を行う場合、図中に示すように、一つのインクの層の形成時において、各位置に対してパス数分である4回の主走査動作(パス)を行う。また、この場合、矢印402で示すように、インクジェットヘッド102の全体に対応する領域に対して同時に、1〜4パス目の主走査動作を行う。また、1〜4パス目の各回の主走査動作の合間において、小さなピッチの送り量での副走査動作を行う。
【0098】
この場合、小さなピッチとは、例えば、インクジェットヘッド102のノズル列長をパス数で除した距離よりも小さな距離である。また、より具体的に、この小さなピッチについては、例えば、インクジェットヘッドのノズル列におけるノズル間隔(ノズルピッチ)の数倍程度以下(例えば、ノズル間隔の10倍以下)にすること等が考えられる。また、この小さなピッチは、例えば、ノズル間隔未満の距離(例えば、ノズル間隔の1/2)であってもよい。また、この小さなピッチについて、ノズルピッチの整数倍(例えば、ノズルピッチの1〜10倍)と、ノズル間隔未満の距離(例えば、ノズル間隔の1/2)とを足した距離に設定すること等も考えられる。
【0099】
また、小ピッチマルチパス方式において、パス数分の主走査動作を行った後には、必要に応じて、より大きな送り量での副走査動作を行う。より具体的には、例えば、造形しようとする造形物の副走査方向における幅がインクジェットヘッドのノズル列長よりも大きい場合に、このような大きな送り量での副走査動作を行うことが考えられる。
【0100】
また、大きな送り量での副走査動作では、例えば、直前にパス数分の主走査動作を行った位置から副走査方向におけるインクジェットヘッド102の位置をノズル列長分だけずらすように、送り量を設定する。この場合、例えば、直前に行ったパス数分の主走査動作における1パス目以降に行った副走査動作での送り量の合計がノズル列長と等しくなるように、大きな送り量を設定することが考えられる。直前に行ったパス数分の主走査動作における1パス目とは、前回の大きな送り量での副走査動作の直後に行った主走査動作のことである。また、大きな送り量の設定については、例えば、造形物に対する副走査方向における相対位置について、前回の1パス目におけるインクジェットヘッドの位置と、次に行う1パス目におけるインクジェットヘッドの位置との差がノズル列長と等しくなるように設定すると考えることもできる。
【0101】
以上のように構成した場合も、例えば、マルチパス方式での造形を適切に行うことができる。また、この場合、各回のパスでのインクの吐出量については、インクジェットヘッドのノズル列の領域毎に設定するのではなく、ノズル列の全体に対して共通に設定することができる。より具体的には、例えば、1〜3パス目において、ノズル列の全体に対してインクの吐出量を小さく設定して、最後の4パス目において、ノズル列の全体に対してインクの吐出量をより大きく設定することが考えられる。このように構成すれば、例えば、小ピッチマルチパス方式の動作において、各回のパスでのインクの吐出量を適切に設定できる。また、この場合、ノズル列の全体に対して共通に吐出量を設定することにより、例えば、ノズルの使用率をより均等にすること等もできる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、例えば、造形装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0103】
10・・・造形装置、12・・・ヘッド部、14・・・造形台、16・・・主走査駆動部、18・・・副走査駆動部、20・・・積層方向駆動部、30・・・制御部、50・・・造形物、52・・・サポート層、60・・・層、102・・・インクジェットヘッド、104・・・紫外線光源、106・・・平坦化ローラ、202・・・領域、302・・・ドット、402・・・矢印
図1
図2
図3
図4