特許第6786327号(P6786327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786327
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】クラッチユニット
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/14 20060101AFI20201109BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20201109BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   F16D43/14
   F16D41/06 B
   F16D41/06 Z
   F16D41/067
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-186999(P2016-186999)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-53921(P2018-53921A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−7489(JP,A)
【文献】 特開2008−185108(JP,A)
【文献】 特開2004−316887(JP,A)
【文献】 特開2004−316888(JP,A)
【文献】 特開2006−77921(JP,A)
【文献】 特開2003−336664(JP,A)
【文献】 特開2008−164033(JP,A)
【文献】 特開2008−215527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸周りに回転する内方部材と、
前記内方部材と同軸状に配置された外方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との間に設けられて、前記外方部材と前記内方部材とを係合することでトルク伝達を行う係合子と、
前記係合子を保持する円環状の保持器と、
前記係合子が非係合状態となる中立位置に前記保持器を付勢する中立用弾性部材と、
前記中立用弾性部材の付勢力に抗して前記保持器を円周方向一方へ押圧して前記係合子を係合状態にする遠心移動体と、
を備え、
前記遠心移動体は、前記係合子に対して軸方向にオフセットした位置に配置されており、
前記外方部材及び前記内方部材の一方に円筒面が設けられ、
前記外方部材及び前記内方部材のうち前記円筒面が設けられた部材とは異なる部材にカム面が設けられ、
前記係合子は、前記円筒面及び前記カム面に当接することで前記内方部材と前記外方部材とを係合し、
前記保持器は、前記内方部材が所定回転数以下で回転した場合に前記係合子を前記カム面側に押し付け前記円筒面側との接触を抑制する突起を備えるクラッチユニット。
【請求項2】
前記保持器には、その径方向内側から径方向外側に向かうにつれて円周方向他方側へと傾斜する傾斜面が設けられ、
前記遠心移動体は、前記傾斜面に当接して前記保持器を円周方向一方へ押圧する
請求項に記載のクラッチユニット。
【請求項3】
前記保持器と前記内方部材は、径方向内側から径方向外側に向かって互いの距離が狭くなる対向面を有し、
前記遠心移動体は、前記対向面のそれぞれに当接して前記保持器を円周方向一方へ押圧する請求項に記載のクラッチユニット
【請求項4】
回転軸周りに回転する内方部材と、
前記内方部材と同軸状に配置された外方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との間に設けられて、前記外方部材と前記内方部材とを係合することでトルク伝達を行う係合子と、
前記係合子を保持する円環状の保持器と、
前記係合子が非係合状態となる中立位置に前記保持器を付勢する中立用弾性部材と、
前記中立用弾性部材の付勢力に抗して前記保持器を円周方向一方へ押圧して前記係合子を係合状態にする遠心移動体と、
を備え、
前記遠心移動体は、前記係合子に対して軸方向にオフセットした位置に配置されており、
前記保持器と前記内方部材は、径方向内側から径方向外側に向かって互いの距離が狭くなる対向面を有し、
前記遠心移動体は、前記対向面のそれぞれに当接して前記保持器を円周方向一方へ押圧するクラッチユニット。
【請求項5】
前記保持器は、前記係合子を保持するポケット部を有し、
前記傾斜面は、前記ポケット部に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている
請求項に記載のクラッチユニット。
【請求項6】
前記保持器は、前記係合子を保持するポケット部を有し、
前記対向面は、前記ポケット部に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている
請求項3又は4に記載のクラッチユニット。
【請求項7】
回転軸周りに回転する内方部材と、
前記内方部材と同軸状に配置された外方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との間に設けられて、前記外方部材と前記内方部材とを係合することでトルク伝達を行う係合子と、
前記係合子を保持する円環状の保持器と、
前記係合子が非係合状態となる中立位置に前記保持器を付勢する中立用弾性部材と、
前記中立用弾性部材の付勢力に抗して前記保持器を円周方向一方へ押圧して前記係合子を係合状態にする遠心移動体と、
を備え、
前記遠心移動体は、前記係合子に対して軸方向にオフセットした位置に配置されており、
前記内方部材は、前記保持器が円周方向一方へ相対回転した際に所定の相対回転角で前記保持器の回転が規制されるストッパ部を有するクラッチユニット。
【請求項8】
前記保持器は、前記係合子を付勢する係合用弾性部材を備える
請求項1〜7のいずれかに記載のクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッチユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等の輸送機器や各種分野の産業機械等において、回転作動型のクラッチユニットが用いられる場合がある。回転作動型のクラッチユニットでは、内方部材が所定回転数以下の場合に外方部材と係合せず、所定回転数以上の場合に外方部材と係合する。
【0003】
この種の回転作動型のクラッチユニットとして、例えば、特許文献1や特許文献2に、ローラ式ワンウェイクラッチが開示されている。
【0004】
特許文献1及び2のローラ式ワンウェイクラッチは、内周円筒面を有する外方部材と、カム面が形成された内方部材とを備え、その外方部材と内方部材との間に、ローラからなる係合子と、その係合子を付勢する弾性部材と、その弾性部材の付勢力に抗して遠心力によって係合子を係合方向へ押圧する錘体とを備えている。
【0005】
内方部材が所定回転数以上に回転すると、錘体が係合子を係合方向へ押圧し、その押圧により、係合子は内方部材のカム面に押し込まれる。これにより、外方部材と内方部材とが結合して駆動力が伝達される状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−316886号公報
【特許文献2】特開2016−056937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の回転作動型のクラッチユニットでは、内方部材のカム面の近傍に錘体を挿入するためのスペースを設ける必要がある。このため、クラッチユニットに配置できる係合子の数が制限され、トルク容量を確保しにくいという課題があった。
【0008】
そこで、この発明の課題は、係合子の数を増加させて、トルク容量を確保したクラッチユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明は、回転軸周りに回転する内方部材と、前記内方部材と同軸状に配置された外方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に設けられて、前記外方部材と前記内方部材とを係合することでトルク伝達を行う係合子と、前記係合子を保持する円環状の保持器と、前記係合子が非係合状態となる中立位置に前記保持器を付勢する中立用弾性部材と、前記中立用弾性部材の付勢力に抗して前記保持器を円周方向一方へ押圧して前記係合子を係合状態にする遠心移動体と、を備え、前記遠心移動体は、前記係合子に対して軸方向にオフセットした位置に配置されているクラッチユニットを採用した。
【0010】
このとき、前記外方部材及び前記内方部材の一方に円筒面が設けられ、前記外方部材及び前記内方部材のうち前記円筒面が設けられた部材とは異なる部材にカム面が設けられ、前記係合子は、前記円筒面及び前記カム面に当接することで前記内方部材と前記外方部材とを係合し、前記保持器は、前記内方部材が所定回転数以下で回転した場合に前記係合子を前記カム面側に押し付け前記円筒面側との接触を抑制する突起を備える構成を採用することができる。
【0011】
これらの各態様において、前記保持器には、その径方向内側から径方向外側に向かうにつれて円周方向他方側へと傾斜する傾斜面が設けられ、前記遠心移動体は、前記傾斜面に当接して前記保持器を円周方向一方へ押圧する構成を採用することができる。
【0012】
また、これらの各態様において、前記保持器と前記内方部材は、径方向内側から径方向外側に向かって互いの距離が狭くなる対向面を有し、前記遠心移動体は、前記対向面のそれぞれに当接して前記保持器を円周方向一方へ押圧する構成を採用することができる。
【0013】
ここで、前記保持器は、前記係合子を保持するポケット部を有し、前記傾斜面は、前記ポケット部に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている構成を採用することができる。
【0014】
また、前記保持器は、前記係合子を保持するポケット部を有し、前記対向面は、前記ポケット部に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている構成を採用することができる。
【0015】
これらの各態様において、前記内方部材は、前記保持器が円周方向一方へ相対回転した際に所定の相対回転角で前記保持器の回転が規制されるストッパ部を有する構成を採用することができる。
【0016】
また、これらの各態様において、前記保持器は、前記係合子を付勢する係合用弾性部材を備える構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、係合子の挿入数を増加させてトルク容量を確保したクラッチユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
図2】非係合状態を示す図1のII−II断面図
図3】非係合状態を示す図1のIII−III断面図
図4】非係合状態を示す図1のIV−IV断面図
図5】係合状態を示す図1のII−II断面図
図6】係合状態を示す図1のIII−III断面図
図7】係合状態を示す図1のIV−IV断面図
図8】同実施形態の分解斜視図
図9】同実施形態の要部を示す分解斜視図
図10】この発明の他の実施形態を示す縦断面図
図11】非係合状態を示す図10のXI−XI断面図
図12】非係合状態を示す図10のXII−XII断面図
図13】非係合状態を示す図10のXIII−XIII断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。この実施形態では、一方向ローラクラッチを用いたクラッチユニット10について説明する。
【0020】
クラッチユニット10は、図1に示すように、同軸状に配置された外方部材1及び内方部材2と、外方部材1の内径面1aに設けられる円筒面xと、内方部材2の外径面2aに設けられるカム面yと、その外方部材1と内方部材2との間に組み込まれた係合子3とを備えている。
【0021】
この実施形態では、外方部材1は筒状の部材で構成されている。外方部材1は、クラッチユニット10を支持するハウジング(図示せず)に対して、軸受を介してクラッチの軸回りに回転自在となるように支持される。内方部材2は、外方部材1の内周に設けられている。また、内方部材2は、回転軸である軸部材12の一部で構成されている。具体的には、内方部材2は、入力側である軸部材12の一部を全周に亘って径方向外側に突出させることで構成されている(図8及び9参照)。ここでは、内方部材2と軸部材12とが一体の部材として成形されているが、内方部材2と軸部材12とを別部材で構成される場合もある。以下の説明において、軸部材12と平行な方向を「軸方向」、軸部材12を中心とした径方向を単に「径方向」、軸部材12を中心とした周方向を単に「周方向」又は「円周方向」と呼ぶ。
【0022】
軸部材12は、中心軸Cに沿って配置されている。軸部材12の両端は、外方部材1の内部に組込まれた支持軸受11によって、軸回り回転自在に支持されている。また、軸部材12の一端には他の軸部材(図示せず)が接続されて、ハウジングを貫通するとともに外部に延長して引き出され、入力側の機構に接続されている。延長された軸部材は、ハウジングの貫通部に組込まれた軸受を介してクラッチの軸回りに回転自在に支持されている。
【0023】
カム面yは、径方向に向かい合う円筒面xとの間で、周方向の両端がそれぞれ狭小となるくさび形空間を形成する。カム面yは、内方部材2の外径面2aのうちクラッチの軸回りの円周に対する接線方向に一定の長さだけ伸びるフラット面で構成され、そのフラット面が、外径面2aのうち円周方向に沿って等間隔に設けられる。
【0024】
係合子3は、ローラで構成される。係合子3は、円筒面xとカム面yとで形成されるくさび形空間の狭小部に係合して、内方部材2と外方部材1とを係合させる。この係合により、係合子3を通じて、内方部材2と外方部材1との間のトルク伝達が可能となる。なお、係合子3は、ローラに限らず、スプラグであってもよい。
【0025】
係合子3は、環状の保持器20によって、円周方向及び軸方向に保持される。保持器20は、周方向に沿って複数のポケット部22を有する。ポケット部22は、保持器20を径方向に貫通する孔で構成され、一つのポケット部22に一つの係合子3が収容される。
【0026】
図3に示すように、複数のポケット部22には、それぞれ係合子3を係合方向に付勢する係合用弾性部材23を備える。係合用弾性部材23は、係合子3をくさび形空間の狭小部へ押圧する方向へ付勢している。係合用弾性部材23としては、板バネ、皿バネ、コイルバネ等の種々の弾性部材を採用することができる。
【0027】
また、ポケット部22には、係合子3をカム面y側に押し付ける突起25が設けられている。突起25は、クラッチの回転数(すなわち、内方部材2の回転数)が所定回転数以下の場合、係合子3をカム面y側に押し付けることで、円筒面xと係合子3との接触を抑制する役割を果たす。突起25のうち係合子3との当たり面は、径方向に沿って内径側から外径側へ向かうにつれて、係合子3の係合方向とは逆方向、すなわち、クラッチの円周方向他方へ傾斜している。
【0028】
図1及び図4に示すように、保持器20には、係合子3が非係合状態となる中立位置に、保持器20を付勢する中立用弾性部材30が組み込まれている。中立位置は、係合子3が、カム面yの長さ方向中央部に位置し、カム面yには接しているが、円筒面xには接していない、あるいは、円筒面xにわずかに接して互いに摺接しているような状態である。このため、係合子3が中立位置にある状態では、内方部材2と外方部材1とは空転状態である。
【0029】
この実施形態では、中立用弾性部材30としてスイッチばねが採用されている。
【0030】
スイッチばね30は、円環状のリング部32と、一対の押圧片31,31とを有している。リング部32は、内方部材2の軸方向一方の端面に形成されたばね収納凹部7内に組込まれる。一対の押圧片31,31は、リング部32の一部を径方向外側に突出させることで形成されている。一対の押圧片31,31は、内方部材2のばね収納凹部7の周壁の一箇所に形成された切欠部7a(図8参照)を通って、保持器20の円周方向一箇所に設けられた切欠き21に挿入される。
【0031】
一対の押圧片31,31は、切欠部7aの両端部(クラッチの円周方向で対向する切欠部7aの両端の端面)と、切欠き21の両端部(クラッチの円周方向で対向する切欠き21の両端の端面)とをリング部32が拡径する方向に、すなわち、それぞれ相反する方向に押圧する。この押圧により、係合子3が円筒面xとカム面yに係合しない中立位置となるように、保持器20が弾性保持される。
【0032】
保持器20は、その内周面から径方向内側に突出する保持器突部24を備えている。保持器突部24は、その保持器20の内径面よりもさらに内径側(軸部材12側)へ突出する。保持器突部24は、係合子3及びポケット部22が配置されている軸方向範囲よりも軸方向外側に配置されている。即ち、保持器突部24が、係合子3及びポケット部22に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている。この実施形態では、保持器突部24は、保持器20の端面に沿って設けられており、保持器20の端面と保持器突部24の端面とが面一となっている。
【0033】
保持器突部24は、内方部材2に設けられた収容部5(図9参照)に収容されている。収容部5は、係合子3及びポケット部22が配置されている軸方向範囲よりも軸方向外側に配置されている。この実施形態では、収容部5は、内方部材2の端面に臨む凹部(溝部)として設けられているが、内方部材2の外径面から内径側へ向かう孔で構成してもよい。
【0034】
保持器突部24は、その径方向内側から径方向外側に向かうにつれて、円周方向他方に傾斜する傾斜面24aと、保持器20の内周面から径方向内側に向かって略直角に延びる水平面24bとを備えている。水平面24bは、傾斜面24aとは円周方向反対側に形成されている。
【0035】
収容部5内には、遠心移動体6が配置されている。遠心移動体6は、クラッチの回転、すなわち、内方部材2が軸心回りに回転した際にともに軸心回りに回転し、その回転に伴う遠心力により、径方向内側から径方向外側に向かって移動しようとする。
【0036】
この遠心力により、遠心移動体6は、保持器突部24の傾斜面24aと、収容部5のうち径方向に延びる端面5bとの間に挟まれながら、中立用弾性部材30の中立状態への付勢力、すなわち、円周方向他方への付勢力に抗して、保持器20を円周方向一方へ押圧する。この押圧により、保持器20は円周方向一方へ回転するので、係合子3は円筒面xとカム面yに係合して、外方部材1と内方部材2とを係合状態にする。
【0037】
ここで、遠心移動体6は円柱状の部材からなるローラであるので、軸方向に直交する断面が円形である。このような断面円形の遠心移動体6を採用すれば、遠心移動体6は、保持器突部24の傾斜面24aと、収容部5の端面5bのそれぞれに点接触又は線接触となるので、その移動がスムーズである。
【0038】
また、遠心移動体6の径方向外側への移動は、クラッチの回転数、すなわち、内方部材2の軸心回り回転数が、予め設定された所定の回転数を超えた場合に行われるように、遠心移動体6の形状、大きさ、重量、数量、配置場所等の諸元が設定されている。遠心移動体6の諸元を調整することにより、非係合状態から係合状態へと移行する際のクラッチの回転数を増減させることも可能である。
【0039】
保持器突部24(傾斜面24a)及び遠心移動体6は、いずれも、係合子3及びポケット部22が配置されている軸方向範囲の軸方向外側に配置されており、すなわち、係合子3の配置場所と遠心移動体6の配置場所が、軸方向において互いにずれた状態(オフセットした状態)となっている。このため、クラッチユニット10に配置される係合子3及びポケット部22の数を制限する必要がない。したがって、クラッチユニット10において、係合子3の配置数を充分に確保でき、大きなトルク容量を確保することが可能となる。
【0040】
また、従来のクラッチユニットでは、内方部材の回転数が増大するのに伴い、遠心移動体(錘体)による係合子の押圧力も増加する。このため、仮に、想定される回転数を超えるような状態が発生した場合、係合子はカム面に強く押し込まれることになる。この状態で、外方部材が内方部材よりも同方向へ速く回転するような場合(いわゆるオーバーランの状態)、カム面に係合子が押し込まれた状態で空転する。このため、カム面及び係合子に、大きな摩耗が発生する危惧があった。
【0041】
また、係合子と遠心移動体とは一対となっていたため、遠心移動体の重量ばらつきがあると、係合子がカム面に係合するタイミングが、それぞれの係合子間で異なるような事態が発生する。このため、重量のばらつきが極端に大きい場合には、最も重い遠心移動体に対応する係合子が早いタイミングで係合してしまい、他の係合子の噛合いが遅れてしまうという危惧もあった。
【0042】
しかし、本実施形態のクラッチユニット10では、遠心移動体6の作用による保持器20の回転を通じて、すべての係合子3を同時に円周方向一方側へ移動させることがでるので、オーバーランの状態での異常な摩耗や、係合子の噛合い時期のばらつきの発生を回避することができる。
【0043】
内方部材2には、保持器20が中立状態から円周方向一方へ相対回転した際に、所定の相対回転角で保持器20の回転を規制するストッパ部5aが設けられている。ストッパ部5aは、収容部5の端面、具体的には、収容部5のうち保持器突部24の水平面24bと周方向に対向する端面で構成されている。ストッパ部5aに、保持器突部24の水平面24bが当接することにより、ストッパの機能が発揮される。
【0044】
遠心移動体6の径方向外側への移動を、保持器20の円周方向一方への移動に変換する切替機構として、上記の実施形態では、保持器突部24の傾斜面24aと収容部5の端面5bとの間に遠心移動体6を配置する構成としたが、他の構成からなる切替機構を採用することもできる。
【0045】
本実施形態では、保持器突部24が収容部5に入り込んだ状態で、保持器突部24と収容部5にそれぞれ、径方向内側から径方向外側に向かって互いの距離が狭くなる対向面24a,5a(24b,5b)を設け、当該対向面24a,5a(24b,5b)に遠心移動体6を当接させることにより、保持器20を円周方向一方へ押圧する構成とすることができる。遠心移動体6が遠心力により径方向外側へ移動しようとすると、径方向外側に向かうにつれて徐々に狭くなる対向面間を、円周方向に沿って押し広げようとするので、これにより、保持器20は円周方向一方へ回転することができる。
【0046】
この場合も、対向面及び遠心移動体6は、係合子3及びポケット部22が配置されている軸方向範囲に対して、軸方向外側に配置されている。すなわち、遠心移動体6は、係合子3及びポケット部22に対して軸方向にオフセットした位置に配置されている。
【0047】
外方部材1と内方部材2とが非係合状態であるとき、内方部材2が所定回転数以下で回転している場合は、遠心移動体6に作用する遠心力が小さいため、遠心移動体6は、収容部5のうち径方向内側の部分に留まっている。また、保持器20は、中立用弾性部材30により、内方部材2に対してセンタリングされる。また、係合子3は、保持器20ポケット部22内の突起25により、内方部材2のカム面y側に押圧されているので、係合子3は、外方部材1の円筒面xとの間に隙間がある状態となり、係合子3と外方部材2とは非接触状態、あるいは、わずかに接触することがあっても非接触に近い状態で維持されている。
【0048】
外方部材1と内方部材2とが係合状態であるとき、内方部材2の回転数が増加すると、遠心移動体6が収容部5のうち径方向外側の部分に移動し、その遠心移動体6や内方部材2、保持器20に設けられた切替機構の作用により、保持器20が内方部材2に対して円周方向一方へ相対回転を始める。このとき、中立用弾性部材30は、自らの付勢力に抗して回転方向に沿って撓んでいく(一対の押圧片31,31同士が接近する)。そして、内方部材2の回転数が所定回転数を超えると、内方部材2のストッパ部5aに保持器突部24の水平面24bが当接するまで保持器20が内方部材2に対して相対回転し、内方部材2と保持器20は一体回転を開始する。
【0049】
このとき、係合子3は、出力側である外方部材1の内径面1aと、内方部材2の外径面2aに対して、保持器20に設けた係合用弾性部材23の押圧により係合し、その係合により、内方部材2から外方部材1へのトルク伝達が開始される。この状態で、仮に、外方部材1の回転数が内方部材2の回転数を上回ったとしても、係合子3は、係合用弾性部材23による付勢力によってのみカム面yに押圧されているので、係合子3と外方部材1との空転摩耗の発生を抑えることが可能である。
【0050】
そして、内方部材2の回転数が低下すると、遠心移動体6に作用する遠心力が低下するため、中立用弾性部材30の復元力により、保持器20が内方部材2に対して円周方向他方へ相対回転し、係合子3は非係合状態に復帰する。
【0051】
前述の実施形態では、外方部材1の内径面1aに円筒面xを、内方部材2の外径面2aにカム面yを設けた内方部材カムタイプとしているが、内外を逆にして、外方部材1の内径面1aにカム面yを、内方部材2の外径面2aに円筒面xを設けた外方部材カムタイプとすることもできる。
【0052】
図10〜13は、本発明に係るクラッチユニットの他の実施形態である外方部材カムタイプのクラッチユニットを示す。保持器20に設けられる保持器突部24は、保持器20の外径面よりも径方向外側に突出しており(図11参照)、また、カム面yは、円周方向他方側から一方側へ向かって徐々に内径側へ近づく円弧面である等、前述の実施形態とは差異点がある。さらに、中立用弾性部材30として採用されるスイッチばねの押圧片31は、リング部32の両端から内向きに形成されている等の差異点もある。しかし、基本的な機能や発明の効果等は、図1図9に示す実施形態と同様であるため、機能や構成の詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0053】
1 外方部材
1a 内径面
2 内方部材
2a 外径面
3 係合子
5 収容部
6 遠心移動体
10 クラッチユニット
20 保持器
22 ポケット部
23 係合用弾性部材
24a 傾斜面(対向面)
25 突起
30 中立用弾性部材(スイッチばね)
x 円筒面
y カム面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図13