(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状の固定子と、長さ方向に延びる回転軸線周りに回転自在に該固定子内に配置され該固定子との間にエアギャップを形成する回転子とを有し、前記回転子には、長さ方向が前記回転軸線に平行になるように希土類永久磁石が配置されており、前記希土類磁石は、前記長さ方向に延びる第1の表面と、該第1の表面から厚み方向に間隔をもった位置にあり該長さ方向に延びる第2の表面と、該長さ方向両端部の端面とを有し、該両端部の端面の少なくとも一方が、前記固定子の対応する長さ方向端面より長さ方向外向きに突出するように配置された構成を有する回転電機であって、
前記希土類永久磁石は、希土類物質を含む磁石材料粒子が焼結成形されたものであり、前記両端部の少なくとも一方の端面は、該第1の表面の長さ方向端部から長さ方向外向きに傾斜することにより該第1の表面の長さが前記第2の表面より短くなる長さ方向断面形状をもつ所定の立体形状となる第1の傾斜面とされており、
前記希土類永久磁石は、少なくとも、長さ方向の中央領域と、前記少なくとも一方の端面から所定の長さ方向寸法の範囲にわたる第1の端部領域とに区画され、
前記中央領域においては、該中央領域に含まれる前記磁石材料粒子は、その磁化軸が、前記長さ方向に延びる前記第1の表面に対して実質的に直角な方向に配向されたパラレル配向となっており、
前記第1の端部領域に含まれる前記磁石材料粒子は、磁化軸が、前記少なくとも一方の端面に隣接する位置では前記端面を形成する前記第1の傾斜面の傾斜角に沿うように前記第1の表面に対して傾斜して前記第1の表面に指向され、前記中央領域に隣接する位置では前記第1の表面に対して実質的に直角な方向となるように、該第1の表面に指向され、前記少なくとも一方の端面と前記中央領域との間では前記端面から前記中央領域に向けて漸次変化する傾斜角で前記第1の表面に指向されるように集束する配向とされた
ことを特徴とする回転電機。
請求項1に記載された回転電機であって、前記希土類永久磁石は、前記長さ方向両端部の他方が、前記固定子の対応する長さ方向端面より長さ方向外向きに突出するように配置されており、前記他方の端面が、該第1の表面の長さ方向端部から長さ方向外向きに傾斜することにより該第1の表面の長さが前記第2の表面より短くなる長さ方向断面形状をもつ所定の立体形状となる第2の傾斜面とされており、前記他方の端面から所定の長さ方向寸法の範囲にわたる第2の端部領域が区画され、前記第2の端部領域に含まれる前記磁石材料粒子は、磁化軸が、前記他方の端面に隣接する位置では前記他方の端面を形成する前記第2の傾斜面の傾斜角に沿うように前記第1の表面に対して傾斜して前記第1の表面に指向され、前記他方の端面と前記中央領域との間では前記他方の端面から前記中央領域に向けて漸次変化する傾斜角で前記第1の表面に指向されるように集束する配向とされたことを特徴とする回転電機。
請求項1又は請求項2に記載した回転電機であって、前記第1の表面に直交する線に対する前記第1の傾斜面の傾斜角θ1は、5°から45°の範囲であることを特徴とする回転電機。
請求項2に記載した回転電機であって、前記第1の表面に直交する線に対する前記第2の傾斜面の傾斜角θ2は、5°から45°の範囲であることを特徴とする回転電機。
請求項1又は請求項2に記載した回転電機であって、前記第1の表面に直交する線に対する前記第1の傾斜面の傾斜角θ1は、5°から15°の範囲であることを特徴とする回転電機。
請求項2に記載した回転電機であって、前記第1の表面に直交する線に対する前記第2の傾斜面の傾斜角θ2は、5°から15°の範囲であることを特徴とする回転電機。
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載した回転電機であって、前記第1の端部領域が、前記固定子の対応する長さ方向端面より長さ方向外向きに突出するように配置されたことを特徴とする回転電機。
請求項2、請求項4又は請求項6に記載した回転電機であって、前記第2の端部領域が、前記固定子の対応する長さ方向端面より長さ方向外向きに突出するように配置されたことを特徴とする回転電機。
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載した回転電機であって、前記第2の表面の長さ方向寸法を2Lとし、前記第2の表面に沿った前記第1の端部領域の長さ方向寸法をaとしたとき、0.1≦a/L≦0.6の条件を充足するように前記第1の端部領域が区画されたことを特徴とする回転電機。
請求項2、請求項4、請求項6又は請求項8に記載した回転電機であって、前記第2の表面の長さ方向寸法を2Lとし、前記第2の表面に沿った前記第2の端部領域の長さ方向寸法をaとしたとき、0.1≦a/L≦0.6の条件を充足するように前記第2の端部領が区画されたことを特徴とする回転電機。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図について説明する。
図1に、本発明の一実施形態による希土類永久磁石を組み込んだ回転電機の一例を示す。本実施例においては、回転電機は電動モータ1として形成されている。
図1を参照すると、電動モータ1は、環状の固定子2と、該固定子2内に回転自在に配置された回転子3とを有する。固定子2の内周面には、多数の磁極21が、周方向等間隔に、かつ、半径方向内方に突出するように形成されている。磁極21の各々には、コイル(図示せず)が巻かれている。回転子3には、その外周面に近接した位置に、軸方向に延びる複数の磁石挿入用スロット31が、周方向等間隔に形成されている。各スロット31には、本発明の一実施形態による希土類永久磁石32が挿入される。回転子3の中心部には軸方向に延びる出力軸取付け用軸孔33が形成され、該軸孔33に電動モータ1の出力軸(図示せず)が固定的に取り付けられる。
【0021】
図2は、
図1に示す電動モータ1の断面図である。
図2を参照すると、本実施形態による電動モータ1においては、固定子2の軸方向長さLSは、回転子3の軸方向長さLRより小さく、回転子3は、軸方向両端部3aが固定子2の軸方向両端部2aより軸方向外向きに突出している。回転子3の磁石挿入用スロット31内に挿入される希土類永久磁石32は、その軸方向長さが該回転子3の上述した軸方向長さLRより短いが、固定子2の軸方向長さLSより長く、該磁石32の軸方向両端部の端面32a、32bは、該固定子2の軸方向端部2aよりも軸方向外方に位置する。このように、回転子3に配置される永久磁石32の軸方向端部32aを固定子2の端部2aよりも軸方向外向きに延び出た構成とすることにより、該回転子3の磁束がその軸方向端部から外に漏れ出る軸方向磁束漏れを抑制できることが知られている。本実施例では、電動モータ1は、永久磁石32が、回転子3に軸方向に形成した磁石挿入用スロット31内に挿入された磁石埋め込み型として構成されているが、永久磁石32が回転子3の周面に貼り付けられた構成を有する磁石周面配置型の電動モータでも同様である。
【0022】
本発明は、このような永久磁石配置とは別に、或いは、このような永久磁石配置に加えて、永久磁石の形状と該永久磁石の磁化軸の配向を規定することにより、磁束の軸漏れを抑制するものである。以下においては、磁石埋め込み型の電動モータについて本発明の実施形態を説明するが、本発明は、磁石周面配置型の電動モータにも適用できる。さらに、本発明は、電動モータに限らず、発電機にも適用でき、本明細書では、電動モータと発電機の両方を含む意味で、「回転電機」という用語を用いる。
【0023】
本実施形態において使用される希土類永久磁石32は、磁石材料の微細粒子が一体に焼結成形された焼結磁石であり、
図3に示すように、互いに平行な第1の表面32cと第2の表面32d、及び前述した両端部の端面32a、32bを有する。この希土類永久磁石32において、該端面32aは、第1の表面32cに直角な線4に対し角度θ1だけ傾斜した傾斜面として形成されている。同様に、端面32bは、第1の表面32cに直角な線4に対し角度θ2だけ傾斜した傾斜面として形成されている。角度θ2は角度θ1と同じであってもよい。端面32a、32bの傾斜角θ1、θ2は、5°〜45°、好ましくは5°〜35°、より好ましくは5°〜15°である。その結果、希土類永久磁石32は、第1の表面32cが第2の表面32dより短い台形の長さ方向断面を有する形状に形成されている。
【0024】
例えばNd−Fe−B系磁石のような希土類永久磁石は、所定の組成を有する磁石材料の粒子を所定形状に焼結し、該磁石材料粒子を着磁することによって形成される。磁石材料粒子は磁化容易軸を有し、それぞれの磁石材料粒子は、外部磁界を印加することにより磁化容易軸の方向に磁化軸を有する状態で磁化される。本発明は、上述のように磁石形状を規定するだけでなく、該磁石を構成する磁石材料粒子の磁化軸の配向をも所定の方向とする。詳細に述べると、
図3に示すように、希土類永久磁石32は、第2の表面32dの端面32a側の端部から距離a1だけ離れた点から該第2の表面32dに対し直角に延びる仮想線5によって区画される第1の端部領域7と、該第2の表面32dの端面32b側の端部から距離a2だけ離れた点から該第2の表面32dに対し直角に延びる仮想線6によって区画される第2の端部領域8、及びこれら端部領域7、8の間に区画される中央領域9とを有する。
【0025】
図3には、上記した端部領域7、8及び中央領域9における磁石材料粒子の磁化軸の配向が示されている。中央領域9では、磁化軸は、矢印9aで示すように、第2の表面32dに対し実質的に直角な方向で、第1の表面32cの方向に指向するパラレル配向となっている。これに対し、端部領域7では、傾斜面である端面32aに隣接する部位における磁化軸の方向は、
図3に矢印7aで示すように、端面32aの傾斜にほぼ沿って、該端面32aの傾斜角θ1だけ傾斜して、第2の表面32dから第1の表面32cに指向する傾斜配向となる。そして、中央領域9に隣接する部位では、矢印7bに示すように、第2の表面32dに対し実質的に直角な方向で、第1の表面32cの方向に指向する。さらに、端面32aに隣接する部位から中央領域9に隣接する部位に至る中間の部位では、傾斜角θが、角θ1から0まで漸次減少するように変化する配向とされる。同様に、端部領域8では、傾斜面である端面32bに隣接する部位における磁化軸の方向は、
図3に矢印8aで示すように、端面32bの傾斜にほぼ沿って、該端面32bの傾斜角θ2だけ傾斜して、第2の表面32dから第1の表面32cに指向する傾斜配向となる。また、中央領域9に隣接する部位では、矢印8bに示すように、第2の表面32dに対し実質的に直角な方向で、第1の表面32cの方向に指向する。さらに、端面32bに隣接する部位から中央領域9に隣接する部位に至る中間の部位では、傾斜角θが、角θ2から0まで漸次減少するように変化する配向とされる。
【0026】
上述の構成を有する磁石において、磁石量が同一という条件のもとでは、第2の表面32dの軸方向長さを「2L」とすると、端部領域7又は8の軸方向長さa1又はa2とLとの比k=〔(a1又はa2)/L〕の範囲を、0.1〜0.6とすることにより、回転子磁束の軸方向漏れを低減させることができる。比kの値が大きくなるほど、端部領域7、8における磁化軸の傾斜配向による軸方向磁束漏れ抑制の効果が低くなり、0.6以上では、軸方向磁束漏れ抑制の効果の変化はほぼ横ばいとなる。比kが0.1より小さい範囲では、磁石制作上、磁化軸の配向制御が困難になる。
【0027】
〔計算モデルの設定〕
図1〜
図3の構成を有する希土類永久磁石において、下記の条件を設定して、軸方向磁束漏れ計算のための計算モデルとした。
部材 軸方向寸法(mm) 材料
固定子 50 JFEスチール社製鋼板
品番 50JN1300
回転子 60 JFEスチール社製鋼板
品番 50JN1300
磁石 長さ 56 TDK社製ネオジム磁石
厚み 6.68 品番 NEOREC38SH
【0028】
磁石の長さは、各端部の端面が軸方向の表面に対して直角である場合の寸法であり、上記寸法の場合には、各々の端部は、固定子の軸方向端部から3mmずつ突出する。これを比較例1とする。本発明の実施形態に対応する磁石、すなわち端部に傾斜面が形成された磁石については、比較例1と同じ磁石量で傾斜角θが異なるモデルを2つ作成し、それぞれ計算モデル1及び2とした。計算モデル1は、
図3に端部領域7の距離a1として示される軸方向長さaを4mmとし、第1の表面32c側の端部領域7の軸方向長さbを2mmとした磁石の例である。これに対し、計算モデル2は、軸方向長さaを3.5mmとし、軸方向長さbを2.5mmとした例である。計算モデル1及び2のいずれにおいても、磁石の端部領域7の部分が固定子の対応する軸方向端面2aから軸方向外向きに突出するものとした。さらに、本発明の計算モデルとの対比のために、比較例2及び3を作成した。比較例2は、端部領域7が、長さ2.395mmの直線部分と、その端部に形成される曲率半径6.68mmの円弧状部分とからなる磁石形状を有するものである。これに対し、比較例3は、端部領域7が、長さ2.616mmの直線部分と、その端部に形成される曲率半径10.02mmの円弧状部分とからなる磁石形状を有するものである。その他に、磁石端部が固定子の対応する端面と同一平面に位置する磁石モデルを作成し、比較例4とした。本発明の実施形態における計算モデル1及び2と、比較例1〜4の磁石端部の構成を
図4に示す。
【0029】
なお、固定子の各磁極に巻かれるコイルは銅線で、巻き数は11、抵抗値は0.0643とした。上記した条件設定に基づき、電磁界解析ソフトウエアJMAG((株)JSOL製)を用いて電動モータの平均トルクと回転子漏れ磁束を求めた。
【0030】
計算においては、軸方向に、計算モデルの軸方向長さの1.1倍の空気領域が存在するものと仮定した。すなわち、回転子の軸方向両端部には、該回転子の外側に3mmの空気領域があり、固定子の軸方向両端部には、該固定子の外側に2.5mmの空気領域があるものと仮定した。計算上の駆動条件として、振幅212、1Aで、実効値が150Aの3相交流を、進角β=45°となる条件で、1000rpmの回転数に相当する電流周波数の電流を通電した場合を想定した。計算は、一方の端部についてのみ行った。
【0031】
計算結果を
図5(a)(b)に示す。
図5(a)は、電動モータの平均トルクを示す図表であり、平均トルクは、比較例4が最も低く、比較例1が最も高い。比較例1は、磁石端部が固定子端面より突出する配置とすることにより、比較例4に比べて約2.9%ほど高い平均トルクを示す。比較例2及び3は、比較例1と比べて平均トルクは僅かに低くなるが、その低下は、それぞれ約0.4%及び0.2%に過ぎない。
図5(b)は、回転子からの軸方向漏れ磁束を示す図表であり、比較例1〜3は、比較例4に比べて漏れ磁束が約44%低くなることが示されている。これは、磁石端部を固定子端面から突出させることによる効果である。さらに、本発明の計算モデル1及び2では、比較例1〜3に比し、漏れ磁束が、それぞれ約65.5%及び29.7%低くなることが示されている。これは、磁石端面を傾斜させることの効果であり、計算モデル1及び2の対比から、端面の傾斜角が大きいほど、漏れ磁束の減少が顕著になることが推測される。
【0032】
そこで、発明者らは、電磁界解析ソフトウエアJMAG((株)JSOL製)を用いて磁束漏れ逓減率と磁石端面の傾斜角θとの関係を検討した。
【0033】
図6は、比較例1と対比した場合の磁束漏れ逓減率を示す図表である。
図6に示されるように、磁石端面傾斜角θが5°を越えると磁束漏れ逓減率が増加し始め、傾斜角が約25°付近で逓減率は約100%となり、磁束漏れのない状態になる。傾斜角θがさらに増加すると、漏れ磁束の方向が逆転する。そして、傾斜角θが45°付近になると、漏れ磁束は、比較例1とほぼ同等になる。この検討結果から分かるように、磁石端面の傾斜角θは、5°〜45°の範囲が好ましく、より好ましくは、10°〜35°、さらに好ましくは、15°〜30°の範囲が推奨される。
【0034】
図7は、回転子磁束漏れの状況を示す概略図であり、
図7(a)は、比較例4における磁束漏れを、
図7(b)は比較例1における磁束漏れを、
図7(c)は本発明における磁束漏れを、それぞれ示す。
図7(a)に示すように、比較例4の配置では、回転子3からの磁束は、端面付近においては該端面に平行に固定子2に向かって流れ、一部が軸方向外向きに漏れ出る。そこで、
図7(b)に示す比較例1のように、磁石32の端部を固定子2の端面2aよりも軸方向外向きに突出させると、端部付近では回転子から固定子に向かう磁束は、軸方向内向きに流れる傾向となり、外向きに漏れ出る磁束も軸方向内向きになり、漏れ磁束が減少する。さらに、
図7(c)に示す本発明によれば、磁石端部の磁化軸が軸方向内向きに配向しているので、回転子3から固定子2に向かう端面付近の磁束は、軸方向内向きになる傾向が一層強くなり、軸方向外向きの磁束も、一層強く内側に向けられるようになる。
【0035】
発明者らは、さらに、磁石32の端部領域aと第2の表面32dの半分の長さLとの比a/Lと磁束漏れ低減率との関係、及び、比a/Lと電動モータのトルクとの関係を検討した。結果を
図8に示す。
図8において、曲線Iは、比較例1との対比における比a/Lと磁束漏れ低減率との関係を示すもので、比a/Lが0.1〜0.6の範囲では、磁束漏れ低減の効果が顕著に表れる。しかし、比a/Lが0.6より大きい範囲では、磁束漏れ低減効果は横ばいとなる。これに対して、トルク低下率は、
図8に曲線IIで示すように、比a/Lが0.1から増加するのに伴って、漸次増大する。したがって、比a/Lを、磁束漏れ低減効果がさほど期待できない範囲である0.6以上にすることは、トルク低下率の増大傾向からみて好ましくない。したがって、比a/Lの値は、0.1〜0.6とすることが好ましい。比a/Lのより好ましい範囲は、0.1〜0.4である。
【0036】
[希土類永久磁石形成用焼結体の製造方法]
次に、
図3に示す実施形態による希土類磁石形成用焼結体32の製造方法について
図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態に係る永久磁石形成用焼結体1の製造工程を示す概略図である。
【0037】
先ず、所定分率のNd−Fe−B系合金からなる磁石材料のインゴットを、公知の鋳造法により製造する。代表的には、ネオジム磁石に使用されるNd−Fe−B系合金は、Ndが30wt%、電解鉄であることが好ましいFeが67wt%、Bが1.0wt%の割合で含まれる組成を有する。次いで、このインゴットを、スタンプミル又はクラッシャー等の公知の手段を使用して200μm程度の大きさに粗粉砕する。代替的には、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法によりフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石材料粒子115が得られる(
図9(a)参照)。
【0038】
次いで、粗粉砕磁石材料粒子115を、ビーズミル116による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル116による湿式法を用いた微粉砕では、溶媒中で粗粉砕磁石粒子115を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕し、溶媒中に磁石材料粒子を分散させる(
図9(b)参照)。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粒子を真空乾燥などの手段によって乾燥させて、乾燥した磁石粒子を取り出す(図示せず)。ここで、粉砕に用いる溶媒の種類には特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等の有機溶媒、又は、液化アルゴン等の無機溶媒を使用することができる。この場合において、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒を用いることが好ましい。
【0039】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いる微粉砕においては、粗粉砕した磁石材料粒子115を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、例えば0.7μm〜5.0μmといった所定範囲の平均粒径を有する微粒子とする。ここで、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0040】
次に、ビーズミル116等で微粉砕された磁石材料粒子を所望形状に成形する。この磁石材料粒子の成形のために、上述のように微粉砕された磁石材料粒子115とバインダーとを混合した混合物を準備する。バインダーとしては、樹脂材料を用いることが好ましく、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、かつ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のように磁石粒子とバインダーとの混合物を、例えば台形形状のような所望形状に成形する際に生じた混合物の残余物を再利用できるようにするために、かつ、混合物を加熱して軟化した状態で磁場配向を行うことができるようにするために、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、以下の一般式(1)に示されるモノマーから形成される1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが好適に用いられる。
【化1】
(但し、R
1及びR
2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
【0041】
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、イソブチレンとスチレンの共重合体であるスチレン‐イソブチレン‐スチレン共重合体、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレンとエチレン、ブタジエンの共重合体であるスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレンとエチレン、プロピレンの共重合体であるスチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、エチレンとプロピレンの共重合体であるエチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン、プロピレンとともにジエンモノマーを共重合させたEPDM、エチレンの重合体であるポリエチレン、プロピレンの重合体であるポリプロピレン、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子、窒素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本発明の目的を達成することが可能である。
【0042】
なお、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は流動開始温度が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂中に磁石材料粒子を分散させるために、分散剤を適量添加する事が望ましい。分散剤としては、アルコール、カルボン酸、ケトン、エーテル、エステル、アミン、イミン、イミド、アミド、シアン、リン系官能基、スルホン酸、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有する化合物、液状飽和炭化水素化合物のうち、少なくともひとつを添加することが望ましい。複数を混合して用いても良い。そして、後述するように、磁石材料粒子とバインダーとの混合物に対して磁場を印加して該磁石材料を磁場配向するにあたっては、混合物を加熱してバインダー成分が軟化した状態で磁場配向処理を行う。
【0044】
磁石材料粒子に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、焼結後の希土類永久磁石形成用焼結体内に残存する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石形成用焼結体内に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とすることができる。また、焼結後に磁石形成用焼結体内に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とすることができる。
【0045】
バインダーの添加量は、スラリー又は加熱溶融したコンパウンドを成形する場合に、成形の結果として得られる成形体の厚み精度が向上するように、磁石材料粒子間の空隙を適切に充填できる量とする。例えば、磁石材料粒子とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
【0046】
以下の実施例では、混合物を一旦製品形状以外に成形した状態で磁場を印加して磁場磁石材料粒子の配向を行い、その後に焼結処理を行うことによって、例えば
図3に示す台形形状のような、所望の製品形状とする。特に、以下の実施例では、磁石材料粒子とバインダーとからなる混合物すなわちコンパウンド117を、シート形状のグリーン成形体(以下、「グリーンシート」という)に一旦成形した後に、配向処理のための成形体形状とする。混合物を特にシート形状に成形する場合には、例えば磁石材料粒子とバインダーとの混合物であるコンパウンド117を加熱した後にシート形状に成形するホットメルト塗工によるか、又は、磁石材料粒子とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形を採用することができる。
【0047】
以下においては、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明するが、本発明は、そのような特定の成形法に限定されるものではない。例えば、コンパウンドからグリーンシートを形成せずに、コンパウンドを成形用型に入れ、室温から100℃に加熱しながら、1〜10MPaの圧力で加圧することにより成形を行ってもよい。
【0048】
既に述べたように、ビーズミル116等で微粉砕された磁石材料粒子にバインダーを混合することにより、磁石材料粒子とバインダーとからなる粘土状の混合物すなわちコンパウンド117を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂、分散剤の混合物を用いることができる。例えば、樹脂としては、構造中に酸素原子を含まず、かつ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、一方、分散剤としては、アルコール、カルボン酸、ケトン、エーテル、エステル、アミン、イミン、イミド、アミド、シアン、リン系官能基、スルホン酸、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有する化合物のうち、少なくともひとつを添加することが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド117における磁石材料粒子とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、さらに好ましくは3wt%〜20wt%となるようにする。
【0049】
ここで分散剤の添加量は磁石材料粒子の粒子径に応じて決定することが好ましく、磁石材料粒子の粒子径が小さい程、添加量を多くすることが推奨される。具体的な添加量としては、磁石材料粒子100重量部に対して0.1重量部〜10重量部、より好ましくは0.3重量部〜8重量部とする。添加量が少ない場合には分散効果が小さく、配向性が低下する恐れがある。また、添加量が多い場合は、磁石材料粒子を汚染する恐れがある。磁石材料粒子に添加された分散剤は、磁石材料粒子の表面に付着し、磁石材料粒子を分散させ粘土状混合物を与えるとともに、後述の磁場配向処理において、磁石材料粒子の回動を補助するように作用する。その結果、磁場を印加した際に配向が容易に行われ、磁石粒子の磁化容易軸方向をほぼ同一方向に揃えること、すなわち、配向度を高くすることが可能になる。特に、磁石材料粒子にバインダーを混合する場合には、粒子表面にバインダーが存在するようになるため、磁場配向処理時の摩擦力が高くなり、そのために粒子の配向性が低下する恐れがあり、分散剤を添加することの効果がより高まる。
【0050】
磁石材料粒子とバインダーとの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気のもとで行うことが好ましい。磁石材料粒子とバインダーとの混合は、例えば磁石材料粒子とバインダーをそれぞれ攪拌機に投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。この場合において、混練性を促進する為に加熱攪拌を行っても良い。さらに、磁石材料粒子とバインダーの混合も、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粒子を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた溶媒から磁石粒子を取り出すことなくバインダーを溶媒中に添加して混練し、その後に溶媒を揮発させ、コンパウンド117を得るようにしても良い。
【0051】
続いて、コンパウンド117をシート状に成形することにより、前述したグリーンシートを作成する。ホットメルト塗工を採用する場合には、コンパウンド117を加熱することにより該コンパウンド117を溶融し、流動性を有する状態にした後、支持基材118上に塗工する。その後、放熱によりコンパウンド117を凝固させて、支持基材118上に長尺シート状のグリーンシート119を形成する。この場合、コンパウンド117を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、通常は50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの流動開始温度よりも高い温度とする必要がある。なお、スラリー塗工を用いる場合には、多量の溶媒中に磁石材料粒子とバインダー、及び、任意ではあるが、配向を助長する添加剤を分散させ、スラリーを支持基材118上に塗工する。その後、乾燥して溶媒を揮発させることにより、支持基材118上に長尺シート状のグリーンシート119を形成する。
【0052】
ここで、溶融したコンパウンド117の塗工方式は、スロットダイ方式又はカレンダーロール方式等の、層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。特に、高い厚み精度を実現する為には、特に層厚制御性に優れた、すなわち、基材の表面に高精度の厚さの層を塗工できる方式であるダイ方式やコンマ塗工方式を用いることが望ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流動性を有する状態にしたコンパウンド117をギアポンプにより圧送してダイに注入し、ダイから吐出することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本のロールのニップ間隙に、コンパウンド117を制御した量で送り込み、ロールを回転させながら、支持基材118上に、ロールの熱で溶融したコンパウンド117を塗工する。支持基材118としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。さらに、消泡剤を用いるか、加熱真空脱泡を行うことによって、塗工され展開されたコンパウンド117の層中に気泡が残らないよう、充分に脱泡処理することが好ましい。或いは、支持基材118上に塗工するのではなく、押出成型や射出成形によって溶融したコンパウンド117をシート状に成型しながら支持基材118上に押し出すことによって、支持基材118上にグリーンシート119を成形することもできる。
【0053】
図9に示す実施形態では、スロットダイ120を用いてコンパウンド117の塗工を行うようにしている。このスロットダイ方式によるグリーンシート119の形成工程では、塗工後のグリーンシート119のシート厚みを実測し、その実測値に基づいたフィードバック制御により、スロットダイ120と支持基材118との間のニップ間隙を調節することが望ましい。この場合において、スロットダイ120に供給する流動性コンパウンド117の量の変動を極力低下させ、例えば±0.1%以下の変動に抑え、さらに塗工速度の変動も極力低下させ、例えば±0.1%以下の変動に抑えることが望ましい。このような制御によって、グリーンシート119の厚み精度を向上させることが可能である。なお、形成されるグリーンシート119の厚み精度は、例えば1mmといった設計値に対して、±10%以内、より好ましくは±3%以内、さらに好ましくは±1%以内とすることが好ましい。カレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいてフィードバック制御することで、支持基材118に転写されるコンパウンド117の膜厚を制御することが可能である。
【0054】
グリーンシート119の厚みは、0.05mm〜20mmの範囲に設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、必要な磁石厚みを達成するために、多層積層しなければならなくなるので、生産性が低下することになる。
【0055】
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材118上に形成されたグリーンシート119から所望の磁石寸法に対応する寸法に切り出された加工用シート片123を作成する。本実施形態においては、加工用シート片123は、
図10(a)に示すように、最終製品となる希土類永久磁石32における中央領域9に対応する長さ方向長さの直線状領域9aと、該直線状領域9aの両端に連続する円弧状領域7b、8bを有する断面形状である。この加工用シート片123は、図の紙面に直角な方向の幅寸法を有し、断面の寸法及び幅寸法は、後述する焼結工程における寸法の縮小を見込んで、焼結工程後に所定の磁石寸法が得られるように定める。
【0056】
図10(a)に示す加工用シート片123には、直線状領域9aの表面に直角になる方向に平行磁場121が印加される。この磁場印加により、加工用シート片123に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸が、
図10(a)に矢印122で示すように、磁場の方向に、すなわち厚み方向に平行に配向される。具体的に述べると、加工用シート片123は、該加工用シート片123に対応する形状のキャビティを有する磁場印加用型内に収容され(図示せず)、加熱することにより加工用シート片123に含まれるバインダーを軟化させる。詳細には、加工用シート片123内に含まれるバインダーの粘度が1〜1500Pa・s、より好ましくは1〜500Pa・sとなるまで加工用シート片123を加熱し、バインダーを軟化させる。それによって、磁石材料粒子はバインダー内で回動できるようになり、その磁化容易軸を平行磁場121に沿った方向に配向させることができる。
【0057】
ここで、加工用シート片123を加熱するための温度及び時間は、用いるバインダーの種類及び量によって異なるが、例えば40〜250℃で0.1〜60分とする。いずれにしても、加工用シート片123内のバインダーを軟化させるためには、加熱温度は、用いられるバインダーのガラス転移点又は流動開始温度以上の温度とする必要がある。加工用シート片123を加熱するための手段としては、例えばホットプレートによる加熱、又はシリコーンオイルのような熱媒体を熱源に用いる方式がある。磁場印加における磁場の強さは、5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とすることができる。その結果、加工用シート片123に含まれる磁石材料結晶の磁化容易軸が、
図10(a)に示すように、平行磁場121に沿った方向に、平行に配向される。この磁場印加工程では、複数個の加工用シート片123に対して同時に磁場を印加する構成とすることもできる。このためには、複数個のキャビティを有する型を使用するか、或いは、複数個の型を並べて、同時に平行磁場121を印加すればよい。加工用シート片123に磁場を印加する工程は、加熱工程と同時に行っても良いし、加熱工程を行った後であって加工用シート片123のバインダーが凝固する前に行っても良い。
【0058】
次に、
図10(a)に示す磁場印加工程により磁石材料粒子の磁化容易軸が矢印122で示すように平行配向された加工用シート片123を、磁場印加用型から取り出し、
図10(b)に示す細長い長さ方向寸法の台形キャビティ124を有する最終成形用型内に移して、焼結処理用シート片125に成形する。この成形により、加工用シート片123は、両端の円弧状領域7b、8bが、中央の直線状領域9aに対して直線状に連続する形状になり、同時に、両端部には、傾斜面125a、125bが形成される。この成形工程により形成される焼結処理用シート片125においては、中央の直線状領域9aに含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸は、厚み方向に平行に配向されたパラレル配向状態に維持されるが、両端の領域7b、8bにおいては、
図10(a)に示される上向きに凸の形状が中央の直線状領域に連続する直線形状に変形される結果、
図10(b)に示すように、磁化容易軸は、端面125a、125bに隣接する部位では該端面にほぼ沿った傾斜配向となり、中央領域9aに隣接する部位では、該中央領域9aにおけるパラレル配向のほぼ沿った配向となる。そして、端面125a、125bに隣接する部位から中央領域9aに隣接する部位までの中間領域では、端面近傍の傾斜配向から傾斜角が漸次減少する配向になる。
【0059】
このようにして磁石材料粒子の磁化容易軸が配向された配向後の焼結処理用シート片125を、大気圧、或いは、大気圧より高い圧力又は低い圧力(例えば、1.0Pa又は1.0MPa)に調節した非酸化性雰囲気において、バインダー分解温度で数時間〜数十時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。この処理では、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気を用いることが推奨される。水素雰囲気のもとで仮焼処理を行う場合には、仮焼中の水素の供給量は、例えば5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダーに含まれる有機化合物を、解重合反応、その他の反応によりモノマーに分解し、飛散させて除去することが可能となる。すなわち、焼結処理用シート片125に残存する炭素の量を低減させる処理である脱カーボン処理が行われることとなる。また、仮焼処理は、焼結処理用シート片125内に残存する炭素の量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うことが望ましい。それによって、その後の焼結処理で焼結処理用シート片125の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度及び保磁力の低下を抑制することが可能になる。なお、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力とする場合には、圧力は15MPa以下とすることが望ましい。ここで、加圧条件は、大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば、特に残存炭素量軽減の効果が期待できる。
【0060】
バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定することができる。バインダー分解温度はバインダーの種類により異なるが、200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃、例えば450℃とすればよい。
【0061】
上述の仮焼処理においては、一般的な希土類磁石の焼結処理と比較して、昇温速度を小さくすることが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下、例えば1.5℃/minとすることにより、好ましい結果を得ることができる。従って、仮焼処理を行う場合には、
図11に示すように2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間〜数十時間保持することにより仮焼処理を行う。このように、仮焼処理において昇温速度を小さくすることによって、焼結処理用シート片125内の炭素が急激に除去されることがなく、段階的に除去されるようになるので、十分なレベルまで残量炭素を減少させて、焼結後の永久磁石形成用焼結体の密度を上昇させることが可能となる。すなわち、残留炭素量を減少させることにより、永久磁石中の空隙を減少させることができる。上述のように、昇温速度を2℃/min程度とすれば、焼結後の永久磁石形成用焼結体の密度を98%以上(7.40g/cm3以上)とすることができ、着磁後の磁石において高い磁石特性を達成することが期待できる。
【0062】
続いて、仮焼処理によって仮焼された焼結処理用シート片125を焼結する焼結処理が行われる。焼結処理としては、真空中での無加圧焼結法を採用することもできるが、本実施形態では、焼結処理用シート片125を
図10の紙面に直角な方向に一軸加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結法を採用することが好ましい。この方法では、
図10(b)に符号「124」で示すものと同じ形状のキャビティを有する焼結用型(図示せず)内に焼結処理用シート片125を装填し、型を閉じて、
図10の紙面に直角な方向に加圧しながら焼結を行う。詳細に述べると、焼結処理用シート片125から形成される希土類永久磁石を、
図1に示す磁石挿入用スロット31に収容したときに回転子3の回転軸方向と直交する方向となる方向に、焼結処理用シート片125を加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結が用いられる。この加圧焼結技術としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等、公知の技術のいずれを採用してもよい。特に、一軸方向に加圧可能であって、通電焼結により焼結が遂行されるホットプレス焼結を用いることが好ましい。なお、ホットプレス焼結で焼結を行う場合には、加圧圧力を、例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で900℃〜1000℃、例えば940℃まで、3℃/分〜30℃/分、例えば10℃/分の昇温速度で温度上昇させ、その後、加圧方向の10秒当たりの変化率が0になるまで保持することが好ましい。この保持時間は、通常は5分程度である。次いで冷却し、再び300℃〜1000℃に昇温して2時間、その温度に保持する熱処理を行う。このような焼結処理の結果、焼結処理用シート片125から、本発明の一実施形態である希土類永久磁石形成用焼結体が製造される。このように、焼結処理用シート片125を
図10の紙面に直交する方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結法によれば、焼結処理用シート片125内の磁石材料粒子に与えられた磁化容易軸の配向が変化する恐れはない。
【0063】
この希土類永久磁石形成用焼結体は、
図1に示す回転子3の磁石挿入用スロット31内に、未着磁の状態で挿入される。その後、このスロット31内に挿入された希土類永久磁石形成用焼結体に対して、その中に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸すなわちC軸に沿って着磁を行う。具体的に述べると、回転子3の複数のスロット31に挿入された複数の希土類永久磁石形成用焼結体に対して、回転子3の周方向に沿って、N極とS極とが交互に配置されるように着磁を行う。その結果、希土類永久磁石形成用焼結体に着磁された希土類永久磁石32を製造することが可能となる。尚、希土類永久磁石形成用焼結体の着磁には、例えば着磁コイル、着磁ヨーク、コンデンサー式着磁電源装置等の公知の手段のいずれを用いてもよい。また、希土類永久磁石形成用焼結体は、スロット31に挿入する前に着磁を行って、希土類永久磁石とし、この着磁された磁石をスロット31に挿入するようにしてもよい。
【0064】
その後で、回転子3に対して固定子2及び回転軸(図示せず)等のモータ構成部材を組み付けることにより、所望の電動モータ、例えばIPMモータが製造される。
【0065】
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る希土類永久磁石形成用焼結体の製造方法においては、磁石材料を磁石材料の微細粒子に粉砕し、粉砕された磁石材料粒子とバインダーとを混合することにより、コンパウンド117を生成する。そして、生成したコンパウンド117をシート状に成形してグリーンシート119を作製する。その後で、成形したグリーンシート119所定寸法のシート片を切り出し、所望形状に成形して加工用シート片123を形成し、この加工用シート片123に対して厚み方向に平行磁場を印加することにより、磁石材料粒子の磁化容易軸を平行磁場のもとで配向させ、配向処理後の加工用シート片123を所定の形状に変形させることによって製品形状に成形して焼結処理用シート片125とする。その後、非加圧状態で、又は
図10の紙面に直角な方向の1軸加圧状態で焼結することにより希土類永久磁石形成用焼結体を製造する。このようにして得られた永久磁石形成用焼結体に着磁することによって製造される希土類永久磁石32においては、端部領域における磁石材料粒子の磁化軸が、傾斜面である端面に隣接する部位では該端面の傾斜にほぼ沿った方向に配向し、中央領域に隣接する部位では該中央領域のパラレル配向にほぼ沿った方向に配向する。そして、中間の部位では、端部の傾斜配向から中央領域に近接する部位のパラレル配向まで、傾斜角が漸次減少する配向となる。その結果、回転子の軸方向磁束漏れが大幅に減少することになる。
【実施例】
【0066】
〔実施例1〕
以下の手順で、
図3に示す形状の希土類焼結磁石を作成した。
<粗粉砕>
ストリップキャスティング法により得られた、合金組成A(Nd:23.00wt%、Pr:6.75wt%、B:1.00wt%、Ga:0.10wt%、Nb:0.2wt%、Co:2.0wt%、Cu:0.10wt%、Al:微量、残部Fe、その他不可避不純物を含む)の合金に、室温において水素を吸蔵させ、0.85MPaのもとで1日保持した。その後、液化Arで冷却しながら、0.2MPaのもとで1日保持することにより、水素解砕を行って、合金粗粉を得た。
【0067】
<微粉砕>
水素解砕された合金粗粉100重量部に対して、Zrビーズ(2φ)1.5kgを混合し、タンク容量0.8Lのボールミル(製品名:アトライタ 0.8L、日本コークス工業社製)に投入し、回転数500rpmで2時間粉砕した。粉砕時の粉砕助剤として、ベンゼンを10重量部添加し、また、溶媒として液化Arを用いた。
【0068】
<混練>
粉砕後の合金粒子100重量部に対して、1−オクタデシン6.7重量部、及びポリイソブチレン(PIB)B150のトルエン溶液(7重量%)を57重量部加え、ミキサー(装置名:TX−0.5、井上製作所製)により、70℃の減圧加熱撹拌条件下でトルエンを除去した後、さらに、2時間の混練を行ない、粘土状の複合材料を作製した。
【0069】
<磁場配向>
該混練工程で作成した複合材料を
図12(a)に示す形状と同一のキャビティを有するステンレス鋼(SUS)製の型に収めて、第1の成形体を形成した後、超伝導ソレノイドコイル(装置名:JMTD−12T100、JASTEC製)により、外部から平行磁場を印加することにより配向処理を行った。この配向処理は、12Tの外部磁場を印加しながら、80℃で10分間行い、最短の辺方向である台形の厚み方向に対して、平行となるように外部磁場を印加した。この配向処理の温度に保持したまま、ソレノイドコイルから複合材料を取り出し、その後、逆磁場を掛けることにより、脱磁処理を施した。逆磁場の印加は、-0.2Tから+0.18T、さらに−0.16Tへと強度を変化させながら、ゼロ磁場へと漸減させることにより行った。
【0070】
<変形工程>
配向処理の後、配向処理用の型から成形した複合材料の成形加工用シートを取り出し、
図12(a)に示す、端部円弧形状よりは浅い端部円弧形状のキャビティを有するステンレス鋼(SUS)製の中間成形用型(
図12(b))に入れ替え、60℃に加温しながら加圧して、変形処理を行った。さらに、成形した該成形加工用シートを取り出し、
図12(c)に示す形状のキャビティを有するステンレス鋼(SUS)製の最終成形型に入れ替え、60℃に加温しながら、加圧して、変形を行った。変形後は、SUS型から複合材料のシートを取り出し、
図12(c)と同一形状のキャビティを有するグラファイト型に挿入した。グラファイト型のキャビティの幅方向寸法、すなわち、
図12(c)の紙面に直交する方向の寸法は、成型した台形形状コンパウンドの幅方向寸法よりも20mm程度大きいものであり、複合材料は、キャビティの中央部に位置するように挿入した。グラファイト型には離型材として、BN(窒化ホウ素)粉末を予め塗布した。
【0071】
<脱オイル工程>
グラファイト型に挿入されたコンパウンドに対して、真空雰囲気下で、脱オイル処理を行った。排気ポンプとしては、ロータリーポンプを使用し、室温から100℃まで0.9℃/minの昇温速度で昇温し、100℃の温度に40h保持した。この工程によって、配向潤滑剤、可塑剤のようなオイル成分を揮発により、除去することができた。
【0072】
<仮焼(脱炭素)工程>
変形後の成形加工用シートに対して、0.8Mpaの水素加圧雰囲気のもとで、脱炭素処理を行った。この処理においては、室温から400℃まで6.3℃/minの昇温速度で昇温し、400℃の温度に2時間保持した。この処理における水素流量は2〜3L/minであった。
【0073】
<焼結>
脱炭素工程の後、グラファイト型に
図12(c)と同一の断面形状を有するグラファイト製の押し型を挿入し、該押し型に加圧力を加えることにより、真空雰囲気下での加圧焼結を行った。加圧方向は、磁化容易軸の配向方向に対して垂直の方向、すなわち、複合材料シートの幅方向に平行な方向であった。焼結に際しては、初期荷重として50kgfの加圧力を加えながら、700℃まで22.7℃/minの昇温速度で昇温し、その後に、最終焼結温度である950℃まで、50kgfの加圧下で、8.3℃/minの昇温速度で昇温し、950℃の温度に5min保持した。
【0074】
<焼鈍>
焼結工程により得られた焼結体を、室温から500℃まで、0.5時間かけて昇温した後、500℃で1時間保持し、その後急冷することにより焼鈍を行って、希土類磁石形成用焼結体を得た。
【0075】
<配向軸角度の測定>
得られた焼結体における磁化容易軸の配向軸角度は、焼結体の表面に対し、SiCペーパーによる研磨、バフによる研磨、及び、ミリングにより表面処理を施した後、EBSD検出器(装置名:AZtecHKL EBSD NordlysNano Integrated 、Oxford Instruments製)を備えたSEM(装置名:JSM‐7001F、日本電子製)により測定した。この測定には、代替的に、EDAX社製のEBSD検出器(Hikari High Speed EBSD Detector)を備えた走査電子顕微鏡(ZEISS社製SUPRA40VP)を使用することもできる。なお、EBSDの分析は、35μmの視野角で、0.2μmピッチで行った。分析精度を向上させるために、少なくとも30個の焼結粒子が入る領域に対して分析を行った。
【0076】
実施例1においては、焼結体である台形磁石を幅方向の中央で切断し、その断面である長さ方向断面において行った。測定個所を
図13に示す。測定は、当該断面の厚み方向の中央に沿って、長さ方向中央から左に12mmの位置(a)、長さ方向中央から左に10mmの位置(b)、長さ方向中央から左に8mmの位置(c)、長さ方向中央から左に6mmの位置(d)、長さ方向中央から左に4mmの位置(e)、長さ方向中央から左に2mmの位置(f)、長さ方向中央の位置(g)、長さ方向中央から右に2mmの位置(h)、長さ方向中央から右に4mmの位置(i)、長さ方向中央から右に6mmの位置(j)、長さ方向中央から右に8mmの位置(k)、長さ方向中央から右に10mmの位置(l)、長さ方向中央から右に12mmの位置(m)の合計12か所で行った。
【0077】
各測定位置において、磁化容易軸すなわち結晶C軸(001)が最も高頻度で向いている方向をその位置における配向軸角度とした。
図14に示すように、台形底面に、A2軸と、これに直交するA3軸方向とからなる直交座標を設定し、この直交座標を含む面を基準面とし、厚み方向に、該A2軸及びA3軸に直交するA1軸を設定して、A1軸からA3軸方向への配向軸のずれ角αと、A1軸からA2軸方向への配向軸のずれ角θ+βとを求めた。
【0078】
A1軸及びA2軸を含む平面では、いずれの分析位置においても、磁化容易軸の所定の配向方向は、該A1軸及びA2軸を含む平面内に位置する。したがって、傾斜角αは、磁化容易軸の所定の配向方向からの変位量、すなわち「ずれ角」となる。また、角βに関連して用いられる角θは、任意の分析位置における、設計した磁化容易軸の配向方向とA1軸との間の角度であり、したがって、角βは、この分析位置における配向軸の所定配向方向に対する変位量、すなわち「ずれ角」である。得られた実施例1の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
中央領域(測定箇所e,f,g,h,i)においては、該中央領域に含まれる磁石材料粒子は、その磁化容易軸が、幅方向に延びる焼結体部分の一表面に対して実質的に直角な方向に配向されており、第1及び第2の端部領域の一方又は両方において、該領域に含まれる磁石材料粒子は、磁化容易軸が該一表面に指向される磁石材料粒子の密度が、中央領域におけるよりも高くなるように集束する方向に配向されている(測定箇所a,b,c,d,j,k,l,m)。
【0081】
配向軸角度の設計値であるθからの「ずれ角」であるβは、どの測定位置においても小さく、設計通りの配向軸角度となっていることが分かる(
図15)。
また、傾斜角θ
1、θ
2は20°であり、長さ方向両端面に隣接する位置では端面の傾斜角に沿うように該第1の表面に対して磁化容易軸が傾斜していた。
また、希土類永久磁石形成用焼結体の端面を研磨することで、端面に隣接する位置における磁化容易化軸の傾斜角を端面の傾斜角と実質的に同じにすることもできる。