【実施例】
【0083】
以下の実施例は、あくまでも例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)DDS用凝集性分子及びミセルの作製
本実施例においては、標的提示部作製用のタンパク質として下記の通りのGFPを、また、デンドリマーとしてシロールデンドリマーを用いた。
(1)DDS用凝集性分子の作製
本実施例において、ハロゲン基を有するデンドリマーとして、下記の化学式(X)に示す化合物(以下、「ジメチルダンベル(1)6−Br」ということがある。)を使用し、チオール基を有するタンパク質として、GFP(緑色蛍光タンパク質)(配列番号7)を用いた。
【0084】
【化9】
【0085】
ここで使用したGFP(配列表の配列番号7)は、既に発明者らが報告した方法に従って(Biochim. Biophys. Acta 1679 (2004) 222-229; Biochem. Biophys. Res. Commun. 330 (2005) 454-460を参照されたい)、配列番号7に示すGFPのアミノ酸配列のC末端領域の251番目のアミノ酸をシステインに置換するとともに、元々存在していたシステイン(48番目及び70番目)をセリン及びバリンにそれぞれ置換した。
【0086】
まず、20μM濃度のGFP溶液(PBS中)に、最終濃度1mMとなるようにDTTを加え、10分間室温で処理し、GFP表面に存在するシステインの還元を行った。システインを還元した、400〜450μLの20μMのGFP溶液(PBS中)に、最終濃度10倍モル等量になるように、200μMの上記式(VI)に示すシロールデンドリマー溶液(DMSO溶媒)を10μL加えてボルテックスで混合した。
【0087】
混合後、37℃で静置した状態で、終夜インキュベートし、GFPと上記シロールデンドリマーとを結合させ、引き続き、ミセルを形成させた。このときのインキュベート時間は、約16〜18時間であった。得られたミセルを含む溶液中のミセルの粒子の特性を、動的光散乱法(DLS; Dynamic light scattering)により測定した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
また、上記反応液を、25℃にてZETASIZER NANO−S(マルバーン社製)を用いて、レーザー光の波長を532nmとして、粒径を測定した。結果を
図3に示す。
図3(A)はGFPのみでインキュベートし、得られた産物の粒径分布を調べた結果である。
図3(B)は式(VI)のシロールデンドリマーのみでインキュベートし、得られた産物の粒径分布を調べた結果である。
図3(C)はGFPと式(VI)のシロールデンドリマーとを混合してインキュベートし、得られた産物の粒径分布を調べた結果である。横軸は得られた産物の粒径を、縦軸は横軸に示すサイズの産物の全体に占める%を表す。
【0090】
GFPと上記シロールデンドリマーとをインキュベートした場合(上記表1中、「GFP−Silole only」と表示。)には、得られたミセルの粒径はおよそ150nmであった。これに対し、GFPのみをインキュベートした場合に観察された粒径はおよそ4nm、上記シロールデンドリマーのみでインキュベートした場合に観察された粒径はおよそ650nmであった。上記シロールデンドリマーのみでインキュベートした場合に観察された粒径がこのように大きくなったのは、おそらく、シロールデンドリマー同士で凝集し、大きな凝集体が形成されたためと考えられた。
【0091】
次に、得られたミセルの粒子を走査型電子顕微鏡(SEM; Scanning Electron Microscope)で観察したところ、粒子径がおよそ100〜500nmの多数の粒子と、粒子径が500nm程度の少数の粒子とが確認された(
図4参照)。
【0092】
以上の結果から、上述したDDS用凝集性分子を用いて形成されたミセルの粒子径は、およそ100〜500nmであり、およそ100〜200nm程度の粒子径のものが多いことが明らかになった。また、SEMを用いた電顕微鏡写真の像から、球状のミセル構造を形成していることも確認された。
【0093】
(2)蛍光共鳴エネルギー移動の確認
本実施例において使用したシロールデンドリマーは、疎水性のシロールのコア部分が凝集すると発光する(AIE効果を発揮する)性質を有しているため、ミセル構造をとった場合にも発光することが確認されていた。そこで、シロールデンドリマーにGFPを結合させたGFP-シロールデンドリマーからなるミセルを作製した場合に、シロールとGFPとの間において蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:Fluorescence resonance energy transfer)が生じるがどうかを検討した。
【0094】
発光特性の実験は、上記の反応液から、未反応の蛍光タンパク質及びデンドリマー(遊離している分子)を除去した後に行った(
図5参照)。シロールデンドリマーのみでインキュベートした産物は370nmの波長で励起し(白抜きの四角:□)、GFPのみでインキュベートした産物は488nmの波長で励起し(白抜きの三角:△)、GFPおよびシロールデンドリマーを用いてインキュベートした産物(本発明のミセル)は370nmの波長で励起し(黒丸:●)、各々の発光波長の特性を調べた。GFP-シロールデンドリマー複合体からなるミセル(GFPおよび式(X)のシロールデンドリマーでインキュベートして得られた産物)は、シロールからGFPへのFRETによる発光が、510nm付近に観察された。
【0095】
図5に示すように、シロールデンドリマーの発光のピークは480nm付近で観察された。また、GFPとシロールデンドリマーとの結合体の発光では、シャープなピークは認められず、510nm付近でもっとも高い値を示した。これに対し、GFPの発光は、510nm付近にシャープなピークとして観察され、これは上記シロールデンドリマーからGFPへのFRETによるものと考えられた。また、ミセルが崩壊したときに、FRETに起因すると考えられるGFPの発光も消失した。
【0096】
すなわち、AIE効果を有するデンドリマーと、蛍光タンパク質等の会合性のタンパク質とを結合させた分子(GFP-シロールデンドリマー複合体)を作製し、こうした分子を用いてミセルを形成させると、ミセルの状態でもデンドリマーと蛍光タンパク質との間でFRETが生じること、ミセルの崩壊によってFRETも消失した。
以上から、本発明のミセルをDDS用凝集性担体として使用すると、送達された組織・器官を確認できることが示された。また、標的組織・器官に送達されたミセルが崩壊した後であっても、蛍光タンパク質の蛍光を追跡することはでき、これによって、蛍光タンパク質が送達された細胞内の環境等を感知することもできる。
【0097】
(3)GFP−シロールデンドリマー複合体からなるミセルへの薬剤等の内包実験
次に、本発明のミセルを用いて、薬剤等を内包するミセルが作製できるか否かを確認した。本実施例では、モデル薬剤として、DiI(1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethyl indocarbocyanine perchlorate、Promokine PK-CA707-60010, PromoCell GmbH製)、Oil orange SS(東京化成工業(株)製、T0553)、ヤギ抗マウスIgG(abcam社製、ab6708)-Alexa610(Molecular Probes社製、A30050)およびWGA(Wheat Germ Agglutinin:小麦胚芽レクチン、Molecular Probes社製)(WGA-Alexa Fluoro (登録商標) 594 conjugate、W11262)を用いた。
【0098】
システインを還元した20μMのGFPに、最終濃度10倍モル等量になるように、200μMの上記式(X)に示すシロールデンドリマー(DMSO溶媒)を10μL加え、さらに、DiI(最終濃度;1μM、蛍光色素)、Oil orange SS(最終濃度;20μM、蛍光色素)、ヤギ抗マウスIgG-Alexa610(最終濃度;0.1μM)及びWGA(最終濃度;2μM)のいずれかを加えてボルテックスで混合し、37℃で静置して終夜インキュベートした(約16〜18時間)。
【0099】
各モデル薬剤を加えた試料中で、各薬剤を内包するミセルが形成されているか否か、及びミセルが形成されている場合には、それらのミセルの粒子径を、上述した動的光散乱法により測定した。結果を表2に示す。ここで、薬剤モデルとしては、DiI、Oil orange SS、及びヤギ抗マウスIgG-Alexa 610を使用した。
【0100】
図6のA〜Cに、上記のモデル薬剤を用いた場合の粒径の分布を示す。
図6のAはDiIの存在下、
図6のBはOil orange SSの存在下、
図6のCはヤギ抗マウスIgG-Alexa 610の存在下で、各々、ミセルを作製した場合の粒径分布である。横軸は得られたミセルの粒径を、縦軸は各横軸に示すサイズのミセルの全体に占める%を表す。DiIを加えた場合のミセルの粒径はおよそ95nm、Oil orange SSを加えた場合もおよそ95nm、IgG-Alexa610を加えた場合はおよそ180nmであった。
【0101】
【表2】
【0102】
蛍光色素であるDiIを内包するミセルの発光特性を調べた結果を、
図7に示す。
図7のBは、
図7のAの500nm付近のスペクトルを拡大した図である。横軸は波長(nm)を、縦軸は相対的蛍光強度(a. u.)を表す。まず、DiIを内包するミセルを作製し、該ミセルをPBSで3回洗浄した試料、その後、この反応溶液を0.45μmの孔径のフィルターでろ過して遊離色素を除いた試料、及び0.45μmのフィルターに代えて0.22μmのフィルターでろ過して遊離色素を除いた試料をそれぞれ調製し、これらの試料の蛍光を測定した。
【0103】
図7のA及びBに示すように、370nmの波長で励起した場合には、480nm波長付近に肩ピークが確認され、シロールの発光によるものと考えられた。510nm付近のピークはシロールからGFPへのFRETによるものを考えられ、570nm付近のピークはシロールからDiIへのFRETに起因するものと考えられた。以上の結果から、DiIがミセル内に封入されていることが確認された。
【0104】
次に、Alexa594で標識したWGAを内包させたミセルの発光特性を調べた(
図8のA及びB参照)。
図8のAは、Alexa594標識WGAを添加したときの反応液をそのまま測定した結果である。また、
図8のBは、限外濾過スピンカラム(Millipore社製)を用いて、反応液から未反応タンパク質等(Alexa594で標識したWGA、シロールデンドリマー、GFP等その他のミセルに取り込まれなかったもの)を除去した後、測定を行った結果である。
図8中、実線はGFP-シロールデンドリマー複合体とWGAを混合処理して得られた産物の蛍光特性を示し、破線はGFPとWGAを混合処理して得られた産物の蛍光特性を示す。
【0105】
図中、実線は、GFP−シロールデンドリマー複合体からなるミセルにAlexa594標識WGAを内包させたもの、また、破線は、GFPとAlexa594標識WGAを混合したものを内包させたものを、それぞれ測定した結果を示す(励起波長はいずれも370nm)。
【0106】
限外濾過スピンカラム処理を行っていない反応液をそのまま測定した結果を示す
図8のAには、シロールデンドリマーからの蛍光が480nm付近に、GFPからの蛍光が510nm付近に、また、WGAからの蛍光が610nm付近にそれぞれ検出された。これに対し、
図8のBに示されるように、限外濾過スピンカラム処理を行うとフリーのシロールデンドリマー、GFPおよびWGAが除去され(破線)るため、これらからの発光はほとんど検出でされなかった。以上より、作製されたミセルにAlexa594標識WGAが内包されていることが確認できた。
【0107】
(実施例2)標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質の調製
本願発明のミセルとC末端で結合し、かつ、癌細胞の表面に発現する受容体と結合する標的ペプチドとN末端で結合する、標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質を以下のように調製した。
【0108】
(1)インバースPCR
(1−1)ペプチド配列の選定
選定した標的結合部位に組み込んだペプチドのアミノ酸配列を下記表3に記載した。MCF7-1は、下記表3に示す配列を含む、ヒト乳腺癌由来細胞であるMCF7であり(以下、「標的タイプ1型」ということがある。)、MCF-2は、下記表3に示す配列を含むMCF-1の変異体(以下、「標的タイプ2型」ということがある。)である。また、MCF7-1+αスタンドは、下記表3に示すように、上記のMCF7-1にαへリックス構造の短いペプチド(以下、「αスタンド」という。)をつないだ構造を有するMCF7-1の別の変異体である(以下、「タイプ1強化型」ということがある。)。
【0109】
【表3】
【0110】
(1−2)プライマーの作成
表3に示された上記ペプチド配列についてインバースPCRを行なうためのプライマーを下記表4に記載した。これらプライマーは、配列表の配列番号1及び3については上記ペプチド配列のDMとPGTVLPの間から、配列番号2については上記ペプチド配列のVPとTDTDYSGGの間から伸長反応が開始するように設計した。これはインバースPCRが最適に行われることを鑑みている。
【0111】
【表4】
【0112】
(1−3)インバースPCR用テンプレートプラスミドの調製
インバースPCR用テンプレートプラスミドは、以下の論文に記載の方法で調製した。
「Protease-sensitive signaling by chemically engineered intramolecular fluorescent resonance energy transfer mutants of green fluorescent protein. - Miho Suzuki, et al. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Gene Structure and Expression
Volume 1679, Issue 3, 17 September 2004, Pages 222-229」
【0113】
(1−3−1)GFPuv5変異体のプラスミド構築
GFPuv5は、pGFPgcn4から以下のようにして得た。まず、I167T突然変異+フォワードプライマー 5’CATTGAAGATGGCTCCGTTCAA(配列番号18)及びリバースプライマー5’TTGTGGCGAGTTTTGAAGTTAG(配列番号19)を用いたインバースPCRを用いて遺伝子マニピュレーション用の同義の突然変異を生じさせたPCR産物を得て、引き続きこのPCR産物を環化処理して作製された。以上のようにして得られたコンストラクトを、pGFPgcn5と命名した。
【0114】
その後、GFPuv5のcDNAをpET21a(Novagen社製)にクローニングしてタンパクを発現させた。ここで発現したタンパク質を精製し、GFPuv5tagと命名した。そのコード領域を、プライマー5’CTCGACCAT[ATGGCTAGCATGACTGGTGGACAGCAAATGGGT]CGCATGAGTAAAGGAGAAGAACTTTTCA(配列番号20)(GFPuv5シリーズのN末端向きのT7遺伝子の10タンパク質用の最初の11アミノ酸のエピトープタグに接着する、接着するタグは[ ]で示した)、及びGFPuv5シリーズのC末端にHisタグを提供する、5’TGACGTGAATTCATTA[GTGATGGTGATGGTGATG]TTTGTAGAGCTCATCCATGC(配列番号21)(Hisタグを[ ]で示す)を用いて増幅させた。
【0115】
配列番号1〜3に示した塩基配列のDNAをpET21aに挿入し、NdeI及びEcoRIで消化した。このpGFPgcnプラスミドを遺伝子マニュピレーションに使用し、pET21aプラスミドをT7プロモーターの制御下でのタンパク質発現に使用した。GFPuv5の遺伝子及びその突然変異体の遺伝子の塩基配列を、DNAシーケンシングにより確認した(ABI PRISM 3100 Genetic Analyser社製)。実験中に、さらに3つの同義の突然変異が発見された(Ser-30のagtがagcに、His-78のcatがcacに、Gln-183のcaaがcagに、それぞれ変異している)。
【0116】
それらの突然変異は蛍光タンパク質にとっては有害ではないため、これらの突然変異を含んだまま実験を継続した。精製されたGFPuv5tagの蛍光強度は、GFPuv4tagの約1.9倍であった。その後、48位又は70位のいずれかのシステイン残基を、pGFPgcn5を用いたインバースPCRによってランダム化されたアミノ酸で置換した。
【0117】
オリゴヌクレオチドである、5’CTTAAATTTATTNNKACTGGAAAAC(配列番号22)及び5’GGTAAGTTTTCCGTATGTTG(配列番号23)をシステイン48の突然変異に使用し、5’GTGTTCAANNKTTTTCCCGTTATCCG(配列番号24)及び5’CATACGTCAGAGTAGTGACAAG(配列番号25)をシステイン70の突然変異に使用した。大腸菌BL21(DE3)の培養物を、得られたプラスミドで形質転換し、昼光励起の下で、強い蛍光についてスクリーニングを行ない、寒天培地上で選択した。48では、幾つかの強い蛍光を発する変異体が得られた(Ala, Asp, Glu, Gly, Ile, Leu, Asn, Pro, Ser, Thr, Val, 及びTyr置換)。しかし、70位のアミノ酸を置換した突然変異体では、C70Vシステイン変異体のみが適切な蛍光を与えた。
【0118】
強い蛍光強度を有する二重システイン突然変異GFPuv5を作製するために、一重突然変異を有するプラスミドをNcoI及びEcoRIで消化し、それぞれの領域に再度ライゲーションした。選択は一重突然変異体で行った。UV5C0 tag (C48S/C70V) が全ての組換体の中で最も高い蛍光強度を示した。
次に、システインを6位及び229位にそれぞれインバースPCRによって導入した。この導入には、C48S突然変異を有するプラスミドと、以下のプライマーのセットをそれぞれの突然変異に使用した。
【0119】
Glu置換用:5’TGTCTTTTCACTGGAGTTGTCCC(配列番号26)及び5’TTCTCCTTTACTCATTTTTTC(配列番号27)
Ile置換用:5’TGCACACATGGCATGGATGAGCTC(配列番号28)及び5’CCCAGCAGCAGTTACAAACTC(配列番号29)
トリプシン標的配列(Gln-Gly-Arg)からなる3つのプロテアーゼタグは、種々のスペーサー配列を有し(スペーサーなし、Thrスペーサー又はGly-Thrスペーサー)、必要なシステインがHis-231とAsp-234との間で置換されている。このコンストラクトを、puvC48Stagと得られたプラスミド(テンプレート)と、下記表5に示すプライマーとを用いて得た。
【0120】
【表5】
【0121】
(1−3−2)GFPuv5tag突然変異体の精製
全てのプラスミドで大腸菌BL 21(DE3)を形質転換した。アンピシリン(50μg/ml)及びIPTG (0.5mM)を添加したLB培地(38mL)に、定常期の終夜培養した大腸菌(12ml)を播種し、37℃で8時間インキュベートした。2,500 x gで20分間遠心して細胞を集め、10mLのPBSに再懸濁した。細胞のペレットを、50mMトリス及び8M尿素を含む10mLの溶解バッファー(pH 8.0)中で、15分間、室温にて溶解させ、ボルテックスした。1,200 x gで15分間遠心し、上清をPBS中に懸濁したNi2+-NTA 樹脂(Qiagen Co. Ltd.製)と混合した。この樹脂を、PBS及び20mMのイミダゾールで順番に洗浄した後に、結合したGFPuv5tag突然変異体を250mMのイミダゾール溶液で溶出させた。
【0122】
バッファー交換のために、溶出物を10倍希釈したPBSで平衡化したPD-10ゲル電気泳動濾過カラム(Amersham Bioscience Co. Ltd.製)にアプライした。溶出されたGFPuv5tag突然変異体タンパク質を集め、それらの濃度をクマジータンパクアッセイ試薬(Pierce社製)で定量した。精製されたGFPuv5tag突然変異体を、15% SDS-PAGEによって分析した。
インバースPCR用テンプレートプラスミドの塩基配列を配列番号26に示した。
【0123】
(1−4)PCRの条件
下記表6に示す反応液を調製し、下記表7の条件でインバースPCRを行った。
【0124】
【表6】
【0125】
【表7】
【0126】
(1−5)電気泳動による確認
上記PCR反応液の一部をとって、0.8% PAGE、電圧100 V、印圧時間30分間のゲル電気泳動を行い、各サンプル中で増幅されたペプチドを確認した。泳動結果を
図9に示す。
【0127】
(2)非依存的A配列の除去及びPCR産物の精製
下記表8の反応液を調製し、120℃で30分間反応させ、上記PCRによって生じた非依存的A配列を除去した。その後、QIAquick(登録商標) PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を使用して、キットに添付の説明書に従って上記PCR産物を精製した。
【0128】
【表8】
【0129】
(3)ライゲーション反応
引き続き、下記表9に示す反応液を調製し、16℃で3時間以上反応させて、後述する大腸菌DH5αの形質転換用環状プラスミドを作製した。変異体に応じて、25℃、37℃等を使い分けた。
【0130】
【表9】
【0131】
(4)大腸菌DH5αの形質転換
大腸菌DH5αのコンピテントセル(BioDynamics Laboratory社製)10μlを使用直前に氷上で融解させ、コンピテントセル溶液を調製した。このコンピテントセル溶液にライゲーション反応液を1μL加え、氷上で30分間放置した。その後、42℃で30秒間インキュベートした後に、氷上で2分間冷却した。ここに、SOC(東洋紡(株)製)培地を90μL加え、37℃で1時間シェーカー上において反応させた。その後、アンピシリン含有LB選択培地(東洋紡(株)製)に播種し、37℃で一晩静置した。
【0132】
(5)コロニーPCR
上記形質転換で得られたコロニーからコロニーPCRを行い、想定されるインサートを確認した。
(5−1)PCR用反応液溶液の調製
下記表10のコロニーPCR用反応液を調製した。
【0133】
【表10】
【0134】
上記コロニーPCR用反応液をPCR用チューブに入れ、上記アンピシリン含有LB培地で増殖した大腸菌を採取し、これを加えた。PCRは下記の表11に示すプログラムで行った。
【0135】
【表11】
【0136】
(5−2)電気泳動
上記PCR反応液の1.2%アガロースゲルで印加電圧100 V、時間30分間の電気泳動を行い、増幅が確認できたコロニーを、LB液体培地(東洋紡(株)製)が入った培養ボトルに移植し、37℃でインキュベートした。
【0137】
(6)プラスミドの精製
上記LB液体培地で培養した大腸菌中の上記プラスミドを、Wizard Plus SV Minipreps. DNA Purification System(プロメガ(株)製)を用い、製品に添付された説明書に従って精製した。その後、精製したプラスミドの配列をユーロフィンジェノミクス(株)に依頼して解析した。
【0138】
(7)大腸菌BL21(DE3)の形質転換
大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(BioDynamics Laboratory社製)10μLを使用直前に氷上で融解させ、コンピテントセル溶液を調製した。このコンピテントセル溶液に、上記シーケンスにより目的とする配列が入っていることが確認できたプラスミド液1μlを加え、氷上で30分間放置した。
【0139】
その後、42℃で30秒間インキュベート後、氷上で2分間冷却した。ここに、SOC(東洋紡(株)製)培地を90μL加え、37℃で1時間シェーカー上において反応させた。その後、アンピシリン含有LB選択培地に播種し、37℃で一晩静置した。翌日、形質転換されて緑色の蛍光を発しているコロニーを取り、アンピシリン含有LB液体培地1mlが入った培養ボトルに入れ、37℃で一晩静置して前培養を行った。
【0140】
(8)標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質の精製
(8−1)コロニーの培養
50mLチューブにアンピシリン含有LB液体培地4mLを入れ、ここに上記前培養液290μLを加えたものを試料として4本用意し、28℃で4時間シェーカー上で培養した。その後、100mMのIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を43μL加え、28℃で一晩シェーカー上で培養した。
【0141】
(8−2)タンパク質の回収
翌日、上記の4本のチューブの培養液を1本のチューブに集約した。内容物を移した3本のチューブを、それぞれ1mlのPBS(-)バッファー(和光純薬工業(株)製)で洗浄し、この洗浄液もまとめたチューブに加えた。以上のように培養物を集約したチューブを、室温にて、5,000rpm(遠心機名:KUBOTA3740、ローター番号KUBOTA AF2018、久保田商事(株)製)で5分間遠心した。
【0142】
その後、(i)上清を捨て、沈殿したペレットに、PBS(-)バッファーを3ml加えて、(ii)よく攪拌した後、5,000 rpmで5分間遠心した。上記の(i)と(ii)とを2回繰り返した。沈殿したペレットに、B-PER Lysis Buffer(Reagent社製)を4mL加え、蓋を締めて室温にて一晩シェーカーで攪拌した。
【0143】
(8−3)His-tagによる精製
Ni-NTA Agarose(QlAGEN社製)を15mLチューブに2mLとり、(i)1,000rpmで1分間遠心し、(ii)上清を捨てて、1×PBSバッファーを1mL加えてよく攪拌した。上記(i)と(ii)とを3回繰り返し、Ni-NTA樹脂を調製した。
【0144】
上記B-PER Lysis Buffer溶液が入ったチューブを、12,000rpmで10分間、室温にて遠心した後、上清を15mLのファルコンチューブに移した。ここに、よく撹拌した上記Ni-NTA樹脂400μLを加え、回転シェーカーで10分間、室温にて攪拌した。その後、1,000rpmで1分間、室温にて遠心し、上清を捨てた。ここに、(iii)1×PBSバッファーを4mL加えてよく攪拌し、(iv)1,000rpmで1分間、室温にて遠心し、上清を捨てた。(iii)と(iv)とを2回繰り返した。
【0145】
その後、(v)20mMのイミダゾール(和光純薬工業(株)製)を4mL加えてよく攪拌し、(vi)1,000rpmで1分間、室温にて遠心し、上清を捨てた。(v)と(vi)とを2回繰り返した。ここに、250mMのイミダゾールを500μL加え、回転シェーカーで10分間、室温にて攪拌した。その後、1,000rpmで1分間遠心し、緑色蛍光を発している上清を、新しい15mLのファルコンチューブに入れ、次のゲルろ過用タンパク質精製溶液とした。
【0146】
(8−4)ゲルろ過による精製
上記タンパク質精製溶液中のイミダゾールとPBSバッファーとを置換し、精製して目的の標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質を得た。以上の操作では、GEヘルスケア・ジャパン株式会社のNAP5カラムを使用し、製品に添付の説明書に従って精製を行った。
【0147】
(9)標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質の選択
上記精製作業で得られた標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質濃度の吸光度(280nm)、及び発色団濃度(形成能)の吸光度(488nm)を常法に従って計測し、A488/A280の値が1.5を超えたものを、目的の標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質として選択した。結果を表12に示した。
【0148】
【表12】
【0149】
(実施例3)標的ペプチド配列結合シェル(蛍光タンパク質会合駆動型ミセル)の作製
タンパク質としてGFPに代えて、実施例2で調製した標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質を用いて、実施例1と同様にして、標的ペプチド配列が結合したミセル(蛍光タンパク質会合駆動型ミセル)を作成した。
【0150】
(1)発光特性
上記作製した標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質会合駆動型ミセルの発光特性を、実施例1と同様にして測定した(
図10参照)。
図10の凡例中、反応物は、シロールデンドリマーと標的ペプチド配列結合蛍光タンパク質が結合した複合体を、未反応物は、それらが結合していない状態のものを示し、各数値は励起光の波長(nm)を示す。標的ペプチド配列結合ミセルでも、実施例1と同様に、510nm付近に発光のピークが観察された。
【0151】
(2)粒子特性
上記標的ペプチド配列結合リポソーム又はミセルの粒子特性を、実施例1と同様に動的光散乱法により測定した(
図11参照)。
図11中、横軸は得られたミセルの粒径を、縦軸は各横軸に示すサイズのミセルの全体に占める%を表す。その結果、実施例1と同様に、およそ100nm〜200nmの粒子径を有する粒子が確認された。
以上から、標的ペプチド配列を有する蛍光タンパク質結合ミセルも、標的配列を有しないそれと同等のミセルを形成することが示された。さらに、実施例1で得られたミセルも、本実施例で得られたミセルのいずれもが、蛍光タンパク質の会合によって形成される、蛍光タンパク質会合駆動型ミセルであると推定された。
【0152】
(実施例4)DDSミセル・リポソーム(ベジクル)形態判定実験
(1)基本リポソーム又はミセルの作製
リポソーム又はミセルを以下のようにして作製した。まず、GFP含有溶液を、10K アミコンフィルタ(Amicon社製)を用いて、14,000 x gで15分間遠心して濃縮し、1 x PBSを加えて99μLにメスアップした。20μMのGFP含有溶液を使用して、50μM/50μLのミセルを作製するために、137.5μLのGFPを濃縮した。
【0153】
次いで、この溶液に1μLの100 mMのDTTを加え、室温にて10分間インキュベーションした。インキュベートした溶液の全量をNICKカラム(GEヘルスケアジャパン社製)にアプライし、365μLの1 x PBSを加えた。さらに、380μLの1 x PBSを加えて、ほぼ全量を回収した。
【0154】
次いで、回収した溶液中に含まれるGFPに対して、7.78mMのTPS(2,3,4,5−テトラフェニル−1,1−ジメチルシロール)を、モル比で1:10になるように3.53μL加え、37℃にて終夜、溶液中の分子を凝集させた。
次いで、終夜で凝集させた約380μLの溶液全量を100 Kアミコンフィルタに入れ、14,000 x gで10分間遠心して濃縮し、約30μLをカラム上液として取った。ここに100μLの1 x PBSを加えて14,000 x gで10分間遠心して洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返し、洗浄液約300μLを集めた。
【0155】
14,000 x gで10分間の遠心後、カラムを逆さまにして卓上遠心機にてカラムの上液を回収した。空になったカラムに適量の1 x PBSを加え、目的としていた体積の1.2倍となるように1 x PBSでメスアップした。4℃にて1日置いて平衡化し、20倍に希釈して粒度を測定した。また、蛍光測定は島津:RF5300-PCを用いて、励起波長370nm、測定波長488nmとし、80倍希釈のサンプルを測定した(レンジは3 x 5)。
【0156】
また、100 Kアミコンフィルタに入れて14,000 x gで10分間遠心した後の溶液のうち、約350μLをカラム下液とした。上記の洗浄液を合わせて650μLとし、20倍に希釈して、粒度を測定した。また、蛍光測定は、励起波長370nm、測定波長488nmとし、25倍希釈のサンプルを測定した(レンジは3 x 5)。ここで得られた未標的型リポソーム又はミセルを、NSS25及びNSS26と命名した。
【0157】
(2)電子顕微鏡による判定結果
低温低真空走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、カタログ番号 S-3400N)を用いて、リポソーム又はミセルの判別を行ったところ、概ね観察された分子はリポソーム(ベジクル)であった。液体窒素雰囲気下で切片の観察を行なった。
【0158】
この電子顕微鏡では、入射電子ビームの反射電子像をBSE像として、また虹電子像をSE像として得た。また、X線による元素分析も同時に行った。BSE像を
図12(A)〜(C)に示した。低解像度の走査型電子顕微鏡画像では主にベジクル型様分子が多く観察された。その一部に元素分析を行ったところケイ素が検出された分子もあった(
図12参照)。
【0159】
(実施例5)リポソーム(ベジクル)或はミセルの濃度依存的安定性試験
(1)試料ミセル(標的結合部位を有するミセル)の作製
50μM x 50μL分の試料ミセルを、以下のようにして作製した。基本ミセルとして、上記実施例(X1)で作製した未標的型ミセル(NSS25及びNSS26)を、それぞれ16.1μM及び31.6μM使用した。標的認識部位としてMCF7の配列を含む標的型ミセル(配列表の配列番号12及び13)を11.3μM使用した。
【0160】
上記の各リポソーム又はミセルを含むミセル溶液を、それぞれAmicon 10Kフィルタに入れ、14,000 x g で15分間遠心し、上清をそれぞれ回収した。各ミセル溶液を1 x PBSで99μLにメスアップし、1 mMのDTTを1μL加えて10分間室温にて静置した。
ついで、各リポソーム又はミセル溶液をNICKカラムで処理し、得られた各処理液にTPSを3.21μL加え、37℃で終夜置いた。
【0161】
(2)リポソーム(ベジクル)或はミセルの濃度依存性の確認
上記(1)のようにして得た各ミセル溶液を、それぞれ380μLずつAmicon 100Kフィルタに入れ、14,000 x g で10分間遠心した。約350μLがフィルタを抜けて落ちるため、これを下液、フィルタ上に残った約30μLを上液とした。
【0162】
上液をそのまま残し、ここに100μLの 1 x PBSを加えて、14,000 x g で10分間遠心し、フィルタを抜けた約100μLの溶液を回収した。この操作を3回繰り返して、得られた溶液を下液と合わせ、20倍希釈して基本ミセルと同様にDLS(粒度分布)を測定した。
【0163】
上液を含むフィルタを卓上遠心機(久保田商事(株)製)にかけて、2〜3分間遠心して回収した。ついで、空になったフィルタに適量の1 x PBSを加えて10分間静置した。その後、このフィルタを逆さまにして卓上遠心機にかけて2〜3分間遠心し、フィルタ内の溶液を回収し、1 x PBSを加えて60μLにメスアップし、50μM/50μLの原液(1x)とした。
【0164】
この原液を1 x PBSで5倍、10倍、及び50倍希釈し、平衡化するために室温にて1日置いた。その後、基本ミセルの場合と同様にして、粒度測定及び蛍光測定を行った。臨界ミセル濃度以上で作成されたミセルは、1ヶ月後でも安定に存在する可能性があることが示された。
【0165】
(実施例6)DDSミセルの構成タンパク質物性確認試験
(1)タンパク質の精製
上記のミセルの構成タンパク質の物性を確認するために、Ni NTA Super flow(Qiagen社製)を用いて上記構成タンパク質を以下の手順で精製した。
【0166】
(1−1)タンパク質の凝集分子からの溶出
まず、基本ミセル(50μM/50μL)を50μL取って50mLのファルコンチューブ(ファルコン社製)に入れ、20mMのイミダゾールで洗浄し、その後、250mMのイミダゾールを加えた。回転シェーカーで終夜反応させ、ミセルからタンパク質を溶出させた。このファルコンチューブをそのまま遠心機(久保田商事(株)製)にセットして、12,000rpmで10分間遠心し、得られた上清を15mLのファルコンチューブに移した。
【0167】
(1−2)Ni NTA樹脂スラリーの調製
上記のようにファルコンチューブを遠心している間に、Ni NTA樹脂(Ni NTA Super flow中に含まれている)の準備を行なった。まず、Ni NTAアガロースを2.5mL取り、防腐剤を除去した。次いで、Ni NTAアガロースゲルを含むこの溶液を、よく振って均一に混合し、15mLのファルコンチューブに移した。
【0168】
その後、卓上遠心機にて、1,000rpmで1分間遠心してゲルを沈殿させ、上清をピペットで除き、1 x PBSを1mL加えて振り混ぜ、ボルテックスした。この操作を3回繰り返した。3回目の遠心後に上清をピペットで除き、スラリーとした。使用する分以外は、4℃にて保存した。
【0169】
(1−3)各タンパク質の精製
15mLのファルコンチューブ中の上記の構成タンパク質溶液中に、上記スラリーがチューブの内壁につかないように注意しながら、400μLを滴下した。その後、回転シェーカーにセットして最速にメモリを合わせて10分間反応させた。
【0170】
ついで、回転シェーカーからチューブを外し、動物細胞用遠心機(タイテック(株)製)にて1,000prmで1分間遠心し、上清を捨てた。チューブの底に残っているペレットに1 x PBSを4mL加えてボルテックスし、上記遠心機を用いて1,000rpmで1分間遠心した。この操作を2回繰り返した。
【0171】
得られたペレットに20 mMのイミダゾールを4 mL加えてボルテックスし、上記遠心機を用いて1,000 rpmで1分間遠心した。この操作を2回繰り返した。次いで、得られたペレットに250 mMのイミダゾールを500μL加え、回転シェーカーにセットして最速にメモリを合わせて10分間反応させた。ついで、回転シェーカーからチューブを外し、上記動物細胞用遠心機にて1,000 rpmで1分間遠心し、上記の新しい15 mLのファルコンチューブに移した。
【0172】
古いチューブに残ったペレットに250mMのイミダゾールを再度加え、回転シェーカーにセットして最速にメモリを合わせて5分間反応させた。ついで、回転シェーカーからチューブを外し、上記動物細胞用遠心機にて1,000rpmで1分間遠心し、上清をとって先ほどの上清と合わせた。この操作を5回繰り返した。
【0173】
(1−4)ゲル電気泳動
以上のようにして精製した各タンパク質(GFP)についてゲル電気泳動を以下のようにして行った。
まず、5μMの各タンパク質を含む溶液を約10μLずつ準備し、1.5mLの蓋付きチューブに入れた。分子量マーカー(ラダー)として、Precision Protein Standards Prestained Broad Range(BioRad社製)も10μLを取って、同様に1.5mLチューブに入れた。下記表13に示す組成のランニングゲル(12%)及び表14に示す組成のスタッキングゲル(4%)を調製した。
【0174】
【表13】
【0175】
【表14】
【0176】
各精製タンパク質溶液及び分子量マーカーをアプライし、200V、20mAで60分、泳動させ、その後、さらに75分泳動させた。また、以下の表15に示す組成を有する泳動バッファーを使用した。
【0177】
【表15】
【0178】
結果を
図19に示す。ゲル電気泳動結果から、標的タイプ2型(MCF7-2)は、カルボシランデンドリマーで構成される籠状の構造がタイトになっているため、蛍光強度は強いが標的性が低いことが明らかになった。また、タイプ1強化型(MCF7-1+αスタンド)では、上記の籠状の構造が緩く、標的性は高いが蛍光が弱いことが明らかになった。以上から、籠状構造の締まり方と、標的認識部位の構造とが重要であることが示された。
【0179】
(実施例7)DDSリポソーム又はミセルへの薬剤内包実験
内包させる薬剤として、Orange OTを使用した。80μMのGFP含有溶液を使用し、7.78mMのTPSを10.28μL炭化した以外は、上記基本ミセルの作製工程と同じ手順でミセル溶液を調製した。ついで、Orenge OT(8mMのOrange OTのストック溶液)を、GFPに対して、モル比(終濃度)で1:1となるよう1μL加えた。次いで、DiI282(400μMのDiI282のストック溶液)を、GFPに対して、モル比(終濃度)で20:1になるよう加え、37℃にて終夜で取り込ませた。
【0180】
次いで、カラムの上液を、目的としていた体積の1.2倍となるように1xPBSでメスアップした後に、PVDFフィルタ(孔径0.45μm又は0.22μm)に通す点を除いて、基本ミセルの作製と同じ手順で処理して回収し、同じ希釈倍率で、粒度及び蛍光測定を行った。
上液については、基本リポソーム又はミセルの作製と同じ手順で処理し、同じ希釈倍率で、粒度及び蛍光測定を行った。薬剤の内包は疎水性、親水性物質ともに可能と思われるがミセル形成条件の最適化が各々必要であると考えられた。
【0181】
(実施例8)DDSリポソーム又はミセルの細胞取込み実験
(1)実験方法
コンフレントになっているMCS7細胞を、0.25%のtrypsin溶液にて剥がし、細胞懸濁液(1 x 10
9個/mL)を調製した。この細胞懸濁液を、3mLずつ、5枚のコラーゲンコードディッシュ(MatTek社製)又はポリ-d-リジンディッシュ(MatTek社製)に播種した。
【0182】
細胞がウェルの底面に付着した後に、各ウェルから培地をピペットで除き、適当量のDMEM(+)を加えて付着細胞は剥がさないように洗浄する操作を3回繰り返した。
【0183】
3時間及び24時間観察用のコラーゲンコートディッシュの各ウェルに、450μLのDMEM(+)を加えた。次いで、陰性対照のウェルに、1 x PBSを50μL加えた。7.3μLのタイプ1強化型のストック溶液に42.7μLの1 x PBSを加えて50μLとしたサンプル1を、ディッシュ2枚の各ウェルに加えた。また、8.4μLの未標的型のストック溶液に41.6μLの1 x PBSを加えたサンプル2を別の2枚のディッシュに加えた。
【0184】
ポリ-d-リジンディッシュの陰性対照のウェルにも、1 x PBSを50μL加えた。また、24時間観察用の1枚のディッシュに、8.1μLの未標的型(NSS26)のストック溶液に41.9μLの1 x PBSを加えたサンプル2を加えた。直後に写真撮影を行ない、37℃にて5%CO
2の存在下にて、3時間又は24時間の培養を行なった。培養終了後に、1mLのDMEM(+)を加えて細胞を洗浄した。この操作を3回繰り返した。
【0185】
(2)共焦点顕微鏡FV-100(Olympus社製 FV 1000D)による観察結果
DAPIについては405nmのレーザーで励起し、460nmの発光を観察して、デンドリマーの部分を観察した。また、GFP部分は515〜520nmの発光を観察した。観察結果を
図20A〜20Cに示す。3時間の結果(
図20C上段)と24時間の観察結果(
図20C下段)とを比較したところ、24時間でも、標的性を持たせたミセルの方が、標的細胞に正しく取り込まれているように思われた(
図16〜18参照)。
【0186】
(3)解析方法
解析ソフトにはImage Jを用いた。それぞれのエリアの蛍光強度を数値化し、ミセルの蛍光強度と蛍光タンパク質の蛍光強度の比率より、ミセルの崩壊、蛍光タンパク質の残存を確認するに至った。
【0187】
FACSに計測に関して解析用ソフトウェアとしてFlowJoを使用した。解析に当たっては、細胞のみのデータを使用し、自家蛍光している細胞集団を選択した。また、全てのデータから自家蛍光している細胞集団を差し引いた。結果を
図13〜15に示した。図中に示した数字は、自家蛍光を差し引いた残りの細胞数/全測定細胞数である。下記の表16に、自家蛍光の細胞集団を5通り判定しその平均を示した。
【0188】
【表16】
【0189】
以上より、細胞のコンディションが良ければ標的化されること、及び、長時間の細胞へのミセルの接触は未標的ミセルも一般的なエンドサイトーシスにて大量に取り込まれることが示された。ただし、標的化型のミセルの方が非標的化型のものよりも速く取込まれる可能性がある。また、取り込まれたミセルは細胞内で壊れ得ると考えられた。