特許第6786519号(P6786519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6786519接線流濾過モードで作動するナノファイバー限外濾過膜を用いた、試料中の目的の生物学的物質を精製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786519
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】接線流濾過モードで作動するナノファイバー限外濾過膜を用いた、試料中の目的の生物学的物質を精製する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/14 20060101AFI20201109BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20201109BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20201109BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20201109BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20201109BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20201109BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20201109BHJP
【FI】
   B01D61/14 500
   B01D71/56
   B01D63/08
   B01D63/10
   D01D5/04
   D04H1/728
   D04H1/4382
【請求項の数】6
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-554293(P2017-554293)
(86)(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公表番号】特表2018-513008(P2018-513008A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】US2016018146
(87)【国際公開番号】WO2016167871
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】62/148,793
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カタルド,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】コズロフ,ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】クセノプロス,アレックス
(72)【発明者】
【氏名】アキノ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】グァン,クリフトン
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0316988(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/093345(WO,A1)
【文献】 特表2012−520761(JP,A)
【文献】 特表2003−505077(JP,A)
【文献】 特表2000−510701(JP,A)
【文献】 特表2002−521029(JP,A)
【文献】 米国特許第04800016(US,A)
【文献】 米国特許第06733471(US,B1)
【文献】 米国特許第05000854(US,A)
【文献】 特表2005−536347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00 − 71/82
C02F 1/44
D01D 1/00 − 13/02
D04H 1/00 − 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. タンパク質、結合型多糖体ワクチンおよびウイルス様粒子から選択され、かつ、500KDa以上の分子量を有する目的の生物学的物質を含む試料を提供すること;
b. 接線流濾過モード(TFF)で試料を、15nm未満の平均繊維直径を有するナイロンナノファイバーを含む電界紡糸ナイロンナノファイバーマットまたは膜組成物と接触させ、それによって透過液および前記目的の生物学的物質を含む保持液を得ること;および
c. 目的の生物学的物質を含有する保持液を収集すること
を含む、試料中の目的の生物学的物質を精製する方法。
【請求項2】
収集工程は、目的の生物学的物質の濃度を増加させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電界紡糸ナイロンナノファイバーマットまたは膜組成物は、ナイロン−6から作られる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
電界紡糸ナイロンナノファイバーマットまたは膜組成物は、TFFに適したカセットまたはスパイラル型デバイスに組み込まれる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電界紡糸ナイロンナノファイバーマットまたは膜組成物は、ナイロン−6,6から作られる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
電界紡糸ナイロンナノファイバーの平均直径は、6nmから13nmの間である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2015年4月17日に出願された米国仮特許出願第62/148,793号(この出願の全内容は参照により本明細書に援用される)の優先権の利益を主張する。
【0002】
本明細書に開示された実施形態は、接線濾過モードで作動することができるナノファイバー限外濾過組成物およびそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
膜濾過は、生物学的物質のベンチ規模およびプロセススケールの精製の両方に広く使用される分離技術である。濾過に使用される膜には、細孔径に応じて精密濾過膜または限外濾過膜として分類される様々な種類がある。精密濾過膜は、一般に、0.1μmから10μmの間の範囲の細孔径を有する一方、限外濾過膜は0.001から0.1μmの間の範囲の遥かに小さな細孔径を有する。細孔径の違いのために、これらの膜は異なる目的のために使用される。例えば、精密濾過膜は、微粒子の清澄化、滅菌および除去、または細胞採取のために一般に使用され、限外濾過膜は、分別または分子(例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、および他の生物学的物質等)を濃縮するのに一般に使用される。限外濾過膜は、典型的には、孔径ではなく分子量カットオフによって分類される。
【0004】
精密濾過膜および限外濾過膜と共に一般に使用される2つの主な種類の濾過モードがある。濾過モードの1つは、「デッドエンド」濾過とも呼ばれるノーマルフロー濾過(NFF)モードと呼ばれ、これは一般に膜面に垂直な供給流を適用し、流体の100%を膜に通過させようとする。もう1つの濾過モードは接線流濾過(TFF)と呼ばれ、そこでは供給流は膜面に平行であり、一部が膜を通過し(即ち、透過液)、残りは保持され、供給リザーバに戻されて再循環されてもよい(即ち、保持液)。
【0005】
濾過のTFFモードは、TFFが濃縮および不純物除去のために使用される場合、特定の種類の生物学的物質、例えば、500kDaまたは500kDaより大きいサイズを有するものの精製に好ましい。ほとんどのTFF用途は、濃縮および緩衝液交換工程等に有用な限外濾過膜を使用する。特定の生物学的物質(例えば、タンパク質、ワクチンおよびウイルス様粒子)の製造のためにTFFモードで使用される限外濾過膜の一例は、ポリエーテルスルホン(PES)から作られた溶液浸漬キャスト限外濾過膜である。
【0006】
TFFモードで広く使用されているほとんどの限外濾過膜は、微生物による汚染を防ぐために、湿潤状態で、また防腐剤と共に出荷されることが要求される。しかし、湿潤状態での出荷は、膜の乾燥および凍結を防止するために環境条件を制御する必要があるために困難なだけでなく、膜材料に添加される防腐剤は、最終製品、例えば、治療用タンパク質またはワクチンを含有する試料中に防腐剤が残らないようにするために生物学的物質の精製に使用する前に、しばしば除去されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書に開示された実施形態は、例えば、ウイルス様粒子、タンパク質および結合型多糖体ワクチン(一般に約500KDaまたは500kDaを超える分子量を有する生物学的物質)等の生物学的物質の製造における電界紡糸ナノファイバー膜組成物の適用性を実証し、現在使用されている溶液浸漬キャストPES膜に対する代替物および該膜に対する改良を提供する。具体的には、溶液浸漬キャストPES膜とは対照的に、電界紡糸ナノファイバー膜は乾燥状態で出荷することができ、防腐剤の使用も必要としない。
【0008】
本明細書に記載された実施形態で使用される電界紡糸ナノファイバー膜は、接線流濾過(TFF)モードにおいて溶液浸漬キャストPES限外濾過膜と同等またはこれより改良された性能を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
様々な実施形態において、試料中の目的の生物学的物質を精製する方法であって、(a)500KDa以上の分子量を有する目的の生物学的物質を含む試料を提供する工程;(b)接線濾過モードで試料を、15nm未満の平均繊維直径を有するナノファイバーを含む電界紡糸ナノファイバー膜組成物と接触させ、それによって透過液および保持液を得る工程;(c)目的の生物学的物質を含有する保持液を収集し、それによって目的の生物学的物質を精製する工程を含む該方法が提供される。
【0010】
いくつかの実施形態では、目的の生物学的物質は、治療用タンパク質、結合型多糖体ワクチンおよびウイルス様粒子から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、収集工程は、目的の生物学的物質の濃度を増加させることを含む。他の実施形態では、収集工程は透析濾過を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、電界紡糸ナノファイバー組成物は、溶液キャストポリマー膜と比較して、TFFモードでより高い透水性を示す。
【0013】
いくつかの実施形態では、電界紡糸ナノファイバー膜組成物は、溶液キャストポリマー膜と比較して、TFFモードでより高い流束を示す。
【0014】
いくつかの実施形態では、電界紡糸ナノファイバー膜組成物は、ナイロン−6から作られる。
【0015】
いくつかの実施形態では、精製方法は、目的の生物学的物質の少なくとも90%の収率または90%超の収率をもたらす。
【0016】
様々な実施形態では、電界紡糸ナノファイバー膜組成物は、例えば、カセットまたはスパイラル型デバイスのようなTFFに適したデバイスに組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】100,000倍の倍率で電界紡糸ナイロン−6ナノファイバー限外濾過膜(「NF UF」と呼ばれる)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図2】溶液浸漬キャスティングを用いて作製された、100,000倍の倍率でのポリエーテルスルホン限外濾過膜(「PES UF」と呼ばれる)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図3】NF UF膜ファイバーの直径を測定するグラフを示す。NF UFランダムファイバー半径の測定は、図1のものと同様の走査電子顕微鏡(SEM)およびImage Pro Plus v6.0内のカスタムユークリッド距離マップ(EDM)ルーチンを使用して行われる。x軸はナノメートルで表した繊維の半径である。y軸は、x軸上のナノメートルで表した各半径の測定頻度または回数である。
図4】NF UF膜の6つの異なる試料およびPES UF膜の4つの異なる試料についての、LMH/psiで表した平均透水性(y軸)対psiで表した平均流量泡立ち点(x軸)を示すグラフである。6つのNF UF膜試料は、図のキーに示すように、NF UF 1000kDa(R1−1);(R1−2);(R2−1);(R2−2);およびNF UF 1500kDa(R2−3);および(E2−1)である。4つのPES UF膜試料は、図のキーに示すように、PES UF 800kDa;1200kDa;1700kDa;および4800kDaである。単位kDa(キロダルトン)の前の数字は、膜がそのkDa値を上回る分子量を有するデキストランの90%を保持する、UF膜のデキストラン篩分けR90カットオフを示す。透水性の単位は、y軸上の膜の1平方メートル当たりの水のリットル×時間×印加圧力の1平方インチ当たりのポンドである(LMH/psi)。平均流量泡立ち点の単位は、溶媒2−プロパノールに対する平方インチ当たりのポンド(psi)である。
図5】図のキーに示すように、デキストランR90値が800、1200、1700および4800kDaであるPES UF膜の重複試料およびデキストランR90値が1000kDaであるNF UF膜の4つの試料および1500kDaにおける3つの試料についてのデキストラン篩分け曲線を示すグラフである。プロットはlog10対log10であり、x軸は単位ダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量であり、y軸は、膜保持液側の最初の課題溶液の供給物ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に対して膜試料透過液ゲル浸透クロマトグラムを比較して得られた0.001から1のデキストラン篩分けlog10スケールである。
図6】NF UF膜の6つの試料および4つの異なるPES UF膜試料について、log10スケール(y軸)上のキロダルトン(kDa)で表される平均デキストラン篩分けR90対psi(x軸)で表される平均流量泡立ち点を示すグラフである。6つのNF UF膜試料は、図のキーに示すように、NF UF 1000kDa(R1−1);(R1−2);(R2−1);(R2−2);およびNF UF 1500kDa(R2−3);および(E2−1)である。4つのPES UF膜試料は、図のキーに示すように、PES UF 800kDa;1200kDa;1700kDa;および4800kDaである。単位kDa(キロダルトン)の前の数字は、図5の膜デキストラン篩分けR90カットオフを示す。
図7】NF UF膜の6つの試料および4つの異なるPES UF膜試料について、LMH/psi(y軸)で表される平均透水性対log10スケール(x軸)上のキロダルトン(kDa)で表される平均デキストラン篩分けR90を示すグラフである。6つのNF UF膜試料は、図のキーに示すように、NF UF 1000kDa(R1−1);(R1−2);(R2−1);(R2−2);およびNF UF 1500kDa(R2−3);および(E2−1)である。4つのPES UF膜試料は、図のキーに示すように、PES UF 800kDa;1200kDa;1700kDa;および4800kDaである。単位kDa(キロダルトン)の前の数字は、図5の膜デキストラン篩分けR90カットオフを示す。
図8】実施例4からのpH7.0、50mMリン酸緩衝液における供給物A(0.0385%w/w)のゲル浸透クロマトグラムである。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。
図9】実施例4からのpH7.0、50mMリン酸緩衝液における供給物B(0.844%w/w)のゲル浸透クロマトグラムである。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。
図10】実施例5の供給物Aに対するNF UF膜およびPES UF膜の重複試料についての、LMH(y軸)で表される供給物Aの平均流束対psi(x軸)で表される膜間圧(TMP)を示すグラフである。流束の単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Aのリットル×時間(LMH)である。膜間圧(TMP)は、膜を横切るx軸上の圧力の平方インチ当たりのポンド(psi)である。
図11】実施例5の供給物Bに対するNF UF膜およびPES UF膜の重複試料についての、LMH(y軸)で表される供給物Bの平均流束対psi(x軸)で表される膜間圧(TMP)を示すグラフである。流束の単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Bのリットル×時間(LMH)である。膜間圧(TMP)は、膜を横切るx軸上の圧力の平方インチ当たりのポンド(psi)である。
図12】実施例5の供給物Cに対するNF UF膜およびPES UF膜の重複試料についての、LMH(y軸)で表される供給物Cの平均流束対psi(x軸)で表される膜間圧(TMP)を示すグラフである。流束の単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物cのリットル×時間(LMH)である。膜間圧(TMP)は、膜を横切るx軸上の圧力の平方インチ当たりのポンド(psi)である。
図13】各TMPで実施例5から収集した供給物および透過液の供給物A(0.0385%w/w)試料のゲル浸透クロマトグラムを示す。図13では、NF UFの2つの複製物のうちの1つについての供給物A透過およびその供給物のゲル浸透クロマトグラムが示されている。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。
図14】各TMPで実施例5の供給物および透過液収集の供給物A(0.0385%w/w)試料のゲル浸透クロマトグラムを示す。図14は、PES UFの2つの複製物のうちの1つについての供給物A透過およびその供給物のゲル浸透クロマトグラムを示す。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。
図15】実施例5の流束対TMP(psi)実験による供給物Aを使用するNF UFおよびPES UF膜についてのy軸上のD7250、D2000、D110の質量/濃度輸送または平均C/Cを示すグラフである。実施例6は、GPC分析のためにx軸上の各TMP(psi)での供給物試料および透過液試料を収集することによって、実施例5のデキストラン質量/濃度輸送を得る方法を詳述する。
図16】実施例5の流束対TMP(psi)実験による供給物Bを使用するNF UFおよびPES UF膜についてのy軸上のD7250、D2000、D110の質量/濃度輸送または平均C/Cを示すグラフである。図15と同様に、実施例6は、GPC分析のためにx軸上の各TMP(psi)での供給物試料および透過液試料を収集することによって、実施例5のデキストラン質量/濃度輸送を得る方法を詳述する。
図17】実施例5および6からの流束対TMP(psi)実験による供給物Aを用いた、NF UFおよびPES UF膜についてのD110/D2000およびD110/D7250の平均選択率対LMHで表される平均流束を示すグラフである。実施例7は、D110/D2000およびD110/D7250の平均通過選択率対x軸上の平均流束(LMH)を決定するために、y軸上の式[(C/CD110/(C/CD2000またはD7250]から選択率係数を計算する方法を詳述する。
図18】実施例5および6からの流束対TMP(psi)実験による供給物Bを用いた、NF UFおよびPES UF膜についてのD110/D2000およびD110/D7250の平均選択率対LMHで表される平均流束を示すグラフである。実施例7は、D110/D2000およびD110/D7250の平均通過選択率対x軸上の平均流束(LMH)を決定するために、y軸上の式[(C/CD110/(C/CD2000またはD7250]から選択率係数を計算する方法を詳述する。
図19】NF UF膜を用いて、30LMHおよび640RPMでの供給物Aの透析濾過中の供給物、保持液および透過液のゲル浸透クロマトグラムを示す。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。図19は、供給物を最大ピークとして示し、高さが減少するにつれて増加する各ダイアボリュームにおける実線の保持液を示す。透過液は破線で示され、ダイアボリュームを増加させるとピークの低下がもたらされる。
図20】PES UF膜を用いて、30LMHおよび640RPMでの供給物Aの透析濾過中の供給物、保持液および透過液のゲル浸透クロマトグラムを示す。x軸はlog10スケール上のダルトン(Da)で表されるデキストランの分子量である。y軸上の面積は、GPC分子量標準による積分後のミリボルトで表される屈折率検出器応答から換算される。図20は、供給物を最大ピークとして示し、高さが減少するにつれて増加する各ダイアボリュームにおける実線の保持液を示す。透過液は破線で示され、ダイアボリュームを増加させるとピークの低下がもたらされる。
図21】実施例8における透析濾過実験からの供給物Aを使用したNF UFおよびPES UF膜についてのy軸上のD7250、D2000、D110の平均保持液C/C対x軸上のダイアボリューム数を示すグラフである。供給物Aの透析濾過は、640RPMで撹拌しながら30LMHの一定流束におけるものである。
図22】実施例8における透析濾過実験からの供給物Aを使用したNF UFおよびPES UF膜についてのy軸上の平均保持液選択率D7250/D110およびD2000/D110対x軸上のダイアボリューム数を示すグラフである。供給物Aの透析濾過は、640RPMで撹拌しながら30LMHの一定流束におけるものである。平均保持液選択率は、D7250/D110=(C/CD7250/(C/CD110およびD2000/D110=(C/CD2000/(C/CD110として図21の値からのものである。
図23】実施例8の透析濾過実験からの供給物Aを用いた、NF UFおよびPES UF膜についてのy軸上のD7250、D2000、D110の平均保持液C/C対x軸上のダイアボリューム数を示すグラフである。供給物Aの透析濾過は、320RPMで撹拌しながら60LMHの一定流束におけるものである。
図24】実施例8における透析濾過実験からの供給物Aを使用したNF UFおよびPES UF膜についてのy軸上のD7250/D110およびD2000/D110の平均保持液選択率対x軸上のダイアボリューム数を示すグラフである。供給物Aの透析濾過は、320RPMで撹拌しながら60LMHの一定流束におけるものである。平均保持液選択率は、D7250/D110=(C/CD7250/(C/CD110およびD2000/D110=(C/CD2000/(C/CD110として図23の値からのものである。
図25】実施例9における0.5psiの一定のTMPおよび600RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Aの2、4、8倍の限外濾過濃縮の間の、y軸上のLMHで表される平均流束対x軸上の濃縮係数を示すグラフである。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Aのリットル×時間(LMH)である。時間経過にわたる透過液の体積は、流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。
図26】実施例9における0.5psiの一定のTMPおよび600RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Aの2、4、8倍の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上の濃縮係数を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。
図27】実施例9における0.5psiの一定のTMPおよび600RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Aの2、4および8倍(左から右へ)の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上のLMHで表される平均供給物流束を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。実施例4に記載されているように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Aのリットル×時間(LMH)である。
図28】実施例9における5psiの一定のTMPおよび600RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Bの2、4および8倍(左から右へ)の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上のLMHで表される平均供給物流束を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。実施例4に記載されているように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Bのリットル×時間(LMH)である。
図29】実施例9における7psiの一定のTMPおよび600RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Bの2、4および8倍(左から右へ)の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上のLMHで表される平均供給物流束を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。実施例4に記載されているように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Bのリットル×時間(LMH)である。
図30】実施例9における5psiの一定のTMPおよび300RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Cの2および3倍の限外濾過濃縮の間の、y軸上のLMHで表される平均流束対x軸上の濃縮係数を示すグラフである。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Aのリットル×時間(LMH)である。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。
図31】実施例9における5psiの一定のTMPおよび300RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Cの2および3倍(左から右へ)の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上のLMHで表される平均供給物流束を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。実施例4に記載されているように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Cのリットル×時間(LMH)である。
図32】実施例9における7psiの一定のTMPおよび300RPMでのNF UFおよびPES UF膜についての供給物Cの2および3倍(左から右へ)の限外濾過濃縮の間の、y軸上の平均C/Ctheo対x軸上のLMHで表される平均供給物流束を示すグラフである。時間経過にわたる透過液の体積は流束を決定し、濃縮係数の後をたどる。実施例4に記載されているように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。流束単位は、y軸上の膜1平方メートル当たりの供給物Cのリットル×時間(LMH)である。
図33】目的の生物学的物質の精製に有用な、NF UF膜を使用するTFFシステムまたはユニット操作の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に記載された実施形態は、PCT公開番号WO2014093345号に以前に記載されているように、例えば、治療用タンパク質、ウイルス様粒子、および結合型多糖体ワクチンのような目的の生物学的物質の精製のためにTFFモードでの電界紡糸ナノファイバー膜組成物を使用する。本明細書に記載の方法で使用される電界紡糸ナノファイバー膜組成物は、生物学的物質の精製に典型的に使用される溶液浸漬キャスト限外濾過膜に対して、例外的に高い均一性を有し、透磁率の増加およびより高い処理流束を示す。
【0019】
ほとんどの従来のポリマー限外濾過膜は、溶液相反転法によって製造される。この方法は、2つ以上の成分の均質なポリマー溶液を、硬質膜構造を形成する固体のポリマー富化相と膜孔を形成する液体のポリマー不足相とを有する二相系に変換することを含む。(例えば、Membranes and Membrane Processes、1986 Springer US、Drioli、Enrico; Nakagaki、Masayuki、Preparation of Microporous Membranes by Phase Inversion Processes、Strathmann、H.、p115−135参照)。これは、様々なポリマーおよび混合物を用いて達成することができるが、所望の特性を有する膜を生成するのに必要な影響を受けやすい動力学および熱力学的条件のためにしばしば困難である。ポリマーの分子量、濃度、温度、混和性、溶媒および非溶媒の性質ならびに組成、湿度および基質をはじめとする、膜の形成に影響を及ぼすことができる複数の変数が存在し、しばしば複雑な処理および環境制御を必要とする。
【0020】
しかし、電界紡糸ナノファイバー限外濾過膜(例えば、本明細書に記載のNF UF)は、ナイロン−6のようなポリマーを用いるはるかに単純な製造方法を用いて作製することができる。ナノファイバーは、高電圧源を用いてポリマー溶液から簡単に引き出される。電界紡糸は、様々なパラメータに依存し、通常は制御するのがはるかに困難である(伝統的な膜のような)相反転の複雑さおよび敏感な性質に依存しない。
【0021】
本明細書に記載された実施形態は、特定の治療用タンパク質、ウイルス様粒子および結合型多糖体ワクチンおよび他の同様のサイズの生物学的物質等の、少なくとも500KDaの分子量を有する生物学的物質の精製のためにTFFモードで使用された場合、少なくとも部分的には、電界紡糸ナノファイバー膜組成物が、ポリエーテルスルホン(PES)のようなポリマーから製造された溶液浸漬キャスト限外濾過膜と同様にまたはそれより良好に機能するとの驚くべきかつ予測し得ない知見に基づく。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の実施形態で使用される電界紡糸ナノファイバー組成物は、少なくとも90%の生成物収率、または90%を超える生成物収率、または少なくとも95%の生成物収率、または95%を超える生成物収率をもたらす。
【0022】
NF UF膜は、TFFモードで使用される従来の膜(例えば、ポリエーテルスルホン限外濾過膜)よりもTFFモードで使用される場合に、より高い処理流束およびより大きな物質移行に変わるより高い水透過性を示す。これはまた、同じ供給量を処理するために必要とされる処理時間がより速く、膜面積がより小さくなり、ひいてはより低コストになる。本明細書の実施例により示されるように、PES UF膜に対してNF UF膜の場合、約30%の改善が観察される。
【0023】
電界紡糸ナノファイバー膜またはマット組成物は、組成物の「細孔」径が電界紡糸ナノファイバーの繊維直径に線形に比例する高多孔性ポリマー材料であるが、膜またはマットの多孔性は繊維直径とは比較的無関係であり、通常は85から90%の狭い範囲にある。
【0024】
電界紡糸ナノファイバーマットまたは膜形成のランダムな性質は、このような組成物が液体流の任意の臨界濾過には一般に不適切であるという一般的な前提を導いた。比較的大きな粒子(バクテリア等)を通常の濾過を用いて溶液から除去するための電界紡糸された組成物の適用は、近年文献に現れ始めている(例えば、国際PCT公報WO2010/107503;Wangら、「Electrospun nanofibrous membranes for high flux microfiltration」、Journal of Membrane Science、392−393(2012)167−174))。しかし、本明細書に記載されているように、目的の生物学的物質の精製のためにTFFモードでの電界紡糸ナノファイバーマット/膜の使用を記載する公表された報告はない。
【0025】
本明細書で開示される実施形態がより容易に理解され得るように、特定の用語が最初に定義される。さらなる定義は、詳細な説明の全体を通して説明される。
【0026】
I.定義
「接線流濾過」または「TFF」という語句は、生物学的物質、例えば、タンパク質およびワクチンを清澄化、濃縮および精製するのに有用な濾過のモードを指す。濾過の接線流濾過(TFF)モードでは、流体は膜の表面に沿って接線方向に供給される。加えられた圧力は、試料の一部を、膜を通って濾液側に押し込む働きをする(透過液と呼ばれる)。膜孔を通過するには大きすぎる生物学的物質および微粒子は、上流側に保持される(保持液と呼ばれる)。しかし、通常の濾過モードとは対照的に、保持された物質は膜の表面に蓄積しない。代わりに、それらは流体の接線流によって膜の面に沿って一掃される。TFFはまた、「クロスフロー濾過」と呼ばれてもよい。
【0027】
「膜間圧」または「TMP」という語句は、供給物から膜の濾液側への平均印加圧力を指す。TMPは以下のように計算される。即ち、TMP[バール]=[(P+P)/2]−Pfここで、[バール]は100000パスカルに正確に等しい圧力のメートル法であり、パスカルは1平方メートル当たりの1ニュートンと定義される。Pは供給物の印加圧力であり、Pは保持液の圧力であり、Pは濾液の圧力である。
【0028】
「限外濾過」または「UF」という用語は、制御された細孔、半透過性膜を用いて溶解した分子を濃縮または分別する膜濾過技術を指す。細孔よりもはるかに大きい分子は、供給溶液中に保持され、膜を通過する液体の体積に正比例して濃縮される。膜の細孔径に近いサイズを有する分子はより少ない程度で濃縮され、分子の一部は膜を通過して透過液中にある。試料中の自由透過性分子(塩)の濃度は本質的に変化しないままである。限外濾過に適した膜(限外濾過またはUF膜と呼ばれる)は、使用される膜の分子量カットオフ(MWCO)によって定義される。限外濾過はクロスフローまたはデッドエンドモードで適用できる。
【0029】
「透析濾過」という用語は、タンパク質、ペプチド、核酸および他の生体分子を含む溶液から塩または溶媒の濃度を完全に除去、置換または低下させるために限外濾過膜を使用する技術を指す。この処理は、分子サイズに基づいて溶液および懸濁液の成分を分離するために透過性(多孔性)膜フィルターを選択的に利用する。限外濾過膜は、膜の細孔よりも大きい分子を保持するが、100%透過性である塩、溶媒および水等のより小さい分子は膜を自由に通過する。透析濾過の間、緩衝液はリサイクルタンクに導入され、一方、濾液は単位操作から除去される。生成物が保持液中にある処理では、透析濾過は、生成物プールから成分を濾液に洗い流し、それによって緩衝液を交換し、望ましくない種の濃度を低下させる。生成物が濾液中にある場合、透析濾過はそれを膜を通して洗い流して回収容器に入れる。
【0030】
「ダイアボリューム」という用語は、透析濾過工程の間に実施された洗浄の程度の尺度を指す。これは、保持液体積と比較して単位操作に導入された透析濾過緩衝液の体積に基づく。一定体積の透析濾過が行われているとき、保持液体積が一定に保たれ、透析濾過緩衝液は濾液が離れるのと同じ速度で流入する場合、ダイアボリュームは以下のように計算される。即ち、DV=透析濾過中に操作に導入される総緩衝液体積/保持液体積。
【0031】
「濃縮係数」という用語は、生成物が供給流中に濃縮された量を指す。
【0032】
「濃度」という用語は、溶液中もしくは特定の空間容積に含まれる所定の物質の相対量または溶液の単位体積当たりの溶質量を指す。本明細書中で使用される場合、濃度は、溶液体積当たりの目的の生物学的分子または物質の数によって測定される。
【0033】
「ポリマー」という用語は、多数の反復サブユニットから構成された大きな分子または高分子を指す。ポリマーは、ポリスチレンなどの身近な合成プラスチックから、生物学的構造および機能にとって基本的なDNAおよびタンパク質等の天然の生体高分子までさまざまである。天然および合成の両方のポリマーは、一般にモノマーとして知られている多くの小さい分子の重合によって生成される。本明細書に記載の実施形態で使用されるナノファイバー組成物の形成に使用するのに適したポリマーには、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーが含まれる。下記のようなナノファイバー組成物の製造に使用することができる追加の例示的ポリマー。
【0034】
本明細書で使用される「ナイロン」という用語は、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン6,6−6,10、およびそれらのコポリマー、誘導体化合物、ブレンドおよび組み合わせを指す。
【0035】
「ナノファイバー」という用語は、数十ナノメートルから数百ナノメートルまで変化するが、一般には1マイクロメートル未満の直径を有する繊維を指す。
【0036】
本明細書で使用される「ナノファイバー組成物」という用語は、マットまたは膜の形態の複数のナノファイバーの集合体を指し、マットまたは膜の厚さは、マットまたは膜の単一繊維の直径よりも少なくとも約10倍大きい。ナノファイバーは、マットまたは膜内にランダムに配置することができ、または1つ以上の軸に沿って整列させることができる。
【0037】
本明細書で使用する「電界紡糸」という用語は、ポリマー溶液または溶融物から、そのような溶液に電位を印加することによってナノファイバーを製造する静電紡糸方法を指す。静電紡糸方法を実施するのに適した装置をはじめとする、濾過媒体用の電界紡糸ナノファイバーマットまたは膜を作製するための静電紡糸方法は、国際公開番号WO2005/024101号、WO2006/131081号およびWO2008/106903号に詳細に記載されており、これらの各々は、参照により本明細書に援用される。いくつかの実施形態では、ナノファイバー組成物は単一のナノファイバーから製造され、単一のナノファイバーは、工程を通して紡糸ドラムとコレクターとの間に配置された移動収集装置の単一パスによって作られる。ナノファイバーの繊維ウェブは、同じ移動収集装置の上で同時に動く1つ以上の紡糸ドラムによって形成することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、ナイロン溶液からナノファイバーを堆積させることによって、繊維状マット/膜が作製される。ナノファイバーマット/膜は、乾燥基準で、即ち、残留溶媒が蒸発または除去された後に測定して、約5g/mから約15g/mの坪量を有する。
【0039】
「電界紡糸ナノファイバー組成物」または「電界紡糸ナノファイバー膜組成物」という語句は、電界紡糸方法を使用してポリマーから作製された多孔質ナノファイバーマットまたは膜を指す。電界紡糸ナノファイバー組成物は、一般に、約80%から約95%の範囲の多孔率、約1μmから約500μmまたは約50μmから約200μmの範囲の厚み、および約300LMH/psiを超える液体透過性を有する。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、15nm未満の平均直径を有する電界紡糸ナノファイバーが製造される。いくつかの実施形態では、電界紡糸ナノファイバーの平均直径は、6nmから13nmの間である。
【0040】
いくつかの実施形態では、電界紡糸ナノファイバー組成物は、適切なTFF装置または、例えば、Millipore Pellicon(R)3カセット等のカセット、スパイラル型装置もしくは中空ファイバー装置等のモジュールに組み込まれる。NF UF膜は、スパイラル型またはフラットカセット等の装置に組み込むことが容易であり、より大きな生成物回収率、より高い濃縮係数を示し、動作に必要な装置およびエネルギーが少なくてすみ、製造の設置面積がより小さく、ポンピング能力が少なくてすみ、気−液界面が少なく、汚染リスクが低く、製品品質がより良好であることができる。
【0041】
一般に、TFFモードでのナノファイバー組成物の使用により、より高い生成物回収率(90%を超える収率または95%を超える収率)、より高い濃縮係数がもたらされ、動作に必要な装置使用およびエネルギーが少なくてすみ、ポンピング能力が少なくてすみ、製造の設置面積がより小さく、気−液界面が少なく、汚染リスクが潜在的に低く、製品品質がより良好である。
【0042】
スクリーンは、しばしば、スパイラル型および平らな板またはカセットモジュール内の供給物および/または濾液チャネルに挿入され、チャネル内で乱流を増加させ、濃度分極を減少させる。しかし、これは中空糸モジュールによる選択肢ではない。中空糸モジュールでは、供給流が管の内腔(内側)に供給され、濾液が膜を通過してシェル側に移動し、そこで除去される。非常に開いた供給流路のために、中程度のクロスフロー速度でも低いせん断が生じる。このことは高せん断に敏感な生成物には有用であり得るが、一般に、競合する流束を達成するためには、非常に高いポンプ能力が要求されることにより、モジュールの効率が低下する。
【0043】
「流束」および「流速」という用語は、本明細書中で交換可能に使用され、ある体積の流体が、本明細書に記載の電界紡糸ナノファイバー組成物を通過する速度を指す。
【0044】
本明細書において交換可能に使用される「濾液」または「透過液」という用語は、フィルターまたは膜、例えば、本明細書で使用される電界紡糸ナノファイバー組成物を横断する溶液、ならびにフィルターまたは膜を既に横断した溶液を指す。
【0045】
本明細書で使用される「保持液」という用語は、保持され、フィルターまたは膜、例えば本明細書で使用される電界紡糸ナノファイバー組成物を横断しない成分または溶液の部分、およびフィルターまたは膜を横断しなかった成分または溶液の部分を指す。撹拌セルが使用される場合、攪拌セル内のフィルターまたは膜の上流側に残る溶質を有する液体は、保持液と呼ばれる。TFFカセットまたはスパイラル型装置の場合、カセットまたはスパイラル型装置の供給物/保持液チャネルを通って流れ、該装置から供給タンクに戻る液体は、保持液と呼ばれる。
【0046】
本明細書で使用される「撹拌セル」という用語は、ガス圧が攪拌セルに直接印加される場合に、攪拌しながら接線流濾過をシミュレートまたは作成して膜の保持液側にクロスフローを生成する装置を指す。膜の分子量(MW)カットオフを超える溶質は細胞内に保持され、水およびカットオフ未満の溶質は通過して濾液になり、セルの外に出る。
【0047】
本明細書で使用される「有効細孔径」という用語は、視覚的ではなく機能的な方法で評価された多孔質材料の構造特性を記載する。溶液キャスト膜およびナノファイバーマット/膜等の劇的に異なる構造を有する多孔質材料を比較する目的で、顕微鏡法等の視覚的方法は、通常、これらの材料が同じ用途において同様に機能することが予測されるかどうかを予測するには不適切である。しかし、泡立ち点測定、液体−液体ポロメトリー、圧入ポロシメトリー、高分子および/または所与のサイズの粒子の篩分け等の機能的方法により、当業者が異なる材料の特性を比較することが可能になる。従って、機能性試験においてそれらがどのように機能するかに応じて、「より小さい」、「より大きい」または「同様の」有効細孔径を有すると記載され得る、異なる材料間の比較が可能である。
【0048】
本明細書で使用される「デキストラン」という用語は、様々な長さの鎖(3から10,000キロダルトン)から構成される複雑な分枝グルカン(多数のグルコース分子でできた多糖類)を指す。
【0049】
「多糖類」(単数または複数)という用語は、グリコシド結合により一緒に結合した単糖単位の長い鎖から構成されたポリマー炭水化物分子であり、加水分解すると構成成分である単糖またはオリゴ糖を与える。多糖類は、直鎖から高度に分枝した構造までさまざまである。例には、デンプンおよびグリコーゲン等の貯蔵多糖類、ならびにセルロースおよびキチン等の構造的多糖類が含まれる。
【0050】
多糖類は、多くの場合かなり異質であり、反復単位のわずかな修飾を含む。構造に依存して、これらの高分子は、それらの単糖構築ブロックとは異なる特性を有することができる。それらは、非晶質であっても、水に不溶性であってもよい。多糖類中の全ての単糖類が同じ種類である場合、多糖類はホモ多糖類またはホモグリカンと呼ばれるが、複数の種類の単糖類が存在する場合、それらはヘテロ多糖類またはヘテログリカンと呼ばれる。
【0051】
本明細書で使用される「結合型多糖体ワクチン」という用語は、担体タンパク質(好ましくは同じ微生物由来)に抗原(例えば、多糖類または多糖類に基づく生物)を共有結合させることによって作製され、それにより付着した抗原に対する担体の免疫学的特性を与えるワクチンを指す。非結合型多糖体抗原は、ペプチドにのみ結合することができるMHC複合体に負荷することができず、そのため提示B細胞の活性化のためにT細胞に提示されない。結合型多糖体ワクチンの場合、多糖体標的抗原に結合した担体ペプチドは、MHC分子上に提示することができる。担体ペプチドを認識するT細胞は、B細胞を活性化し、B細胞は、最初に結合した多糖体抗原に対する抗体を産生するようになる。効果的な免疫原の作成のためのこの技術は、浸潤性細菌疾患の予防のために細菌多糖類に適用されることが最も多い。この分野で知られている結合型多糖体ワクチンの例はHaemophilus influenzae B(Hib;細菌性髄膜炎および肺炎)[Merck、Sanofi、GSK]、Neissera meningitides(細菌性髄膜炎)、[Wyeth Pharmaceuticals、Inc.、Pfizer Inc.の子会社]が挙げられるが、これには限定されず、Streptococcus pneumonia(細菌性肺炎)には、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13[Prevnar 13、Wyeth Pharmaceuticals、Pfizer Inc.の子会社])が含まれる。黄色ブドウ球菌および緑膿菌に対するバイオ結合型ワクチンも開発中である。
【0052】
「ウイルス様粒子」という用語は、ウイルスに似ているが、ウイルス性遺伝物質を含まないため非感染性である生物学的物質を指す。エンベロープまたはカプシドのようなウイルス構造タンパク質の発現は、ウイルス様粒子(VLP)の自己組織化をもたらし得る。B型肝炎ウイルスに由来し、小さいHBV由来の表面抗原(HBsAg)から構成されるVLPは、40年以上前に患者の血清から特徴付けられた。より最近では、VLPは、パルボウイルス科(例えば、アデノ随伴ウイルス)、レトロウイルス科(例えば、HIV)およびフラビウイルス科(例えば、C型肝炎ウイルス)をはじめとする多種多様なウイルス科の成分から産生されている。VLPは、哺乳動物細胞株、昆虫細胞株、酵母および植物細胞をはじめとする様々な細胞培養系で産生することができる。
【0053】
本明細書で使用される「目的の生物学的物質」という語句は、本明細書に記載の実施形態を使用して精製され得るタンパク質、ウイルス様粒子およびワクチン、特に結合型多糖体ワクチンを指す。目的のこのような生物学的物質は、典型的には、約500,000ダルトンまたは50000ダルトンを超える分子量を有する。
【0054】
II. 例示的なナノファイバーポリマー材料
本明細書に記載の方法で使用されるナノファイバー組成物を製造するために使用することができるポリマーには、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーが含まれる。適切なポリマーの非限定的例としては、ナイロン、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、セルロース、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルブチレン)、それらのコポリマー、誘導体化合物、ブレンドおよび組み合わせが挙げられる。適切なポリアミド縮合ポリマーとしては、ナイロン−6;ナイロン−4,6;ナイロン−6,6;ナイロン6,6−6,10;それらのコポリマー、および他の線状の一般的に脂肪族のナイロン組成物等が挙げられる。
【0055】
III. 繊維状マット/膜を形成するための例示的な方法
様々な実施形態では、本明細書に記載される様々な実施形態において使用されるナノファイバー組成物は、当分野で以前から知られている電界紡糸法を使用して作製される。
【0056】
いくつかの実施形態では、繊維状マット/膜は、ナイロン溶液からナノファイバーを堆積させることによって作製される。ナノファイバーマット/膜は、乾燥基準で測定して(即ち、残留溶媒が蒸発したか、さもなければ除去された後に)約0.1g/mから約10g/mの間の坪量を有する。
【0057】
他の実施形態では、ナイロンは、限定されないが、蟻酸、硫酸、酢酸、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロパノール、および水をはじめとする溶媒の混合物に溶解される。
【0058】
いくつかの実施形態では、ナイロン溶液は、乾燥ナイロンポリマーを1つの群の溶媒に溶解することによって、即ち、原液を最初に調製し、次いで溶液を電界紡糸のために準備するために他の溶媒を加えることによって調製される。
【0059】
いくつかの実施形態では、ナイロンポリマー(即ち、出発溶液)は、部分的に加水分解されたナイロンポリマー(即ち、終了溶液)の平均分子量が出発ナイロンポリマーの平均分子量よりも小さくなるように、溶液調製の過程で部分的に加水分解される。
【0060】
本発明のさらなる実施形態では、ナイロン溶液の導電率は、所与の溶媒中の適切なイオン性化合物を用いて調整される。そのような適切なイオン性化合物の例としては、有機塩および無機塩、酸および塩基が挙げられるが、これらに限定されない。ナイロン溶液の導電率を調整するために使用される好ましい化合物の例は、ギ酸アンモニウムである。
【0061】
本発明の別の実施形態では、周囲湿度が約12℃を超える露点に保たれるように、電気紡糸チャンバ内の環境が制御される。
【0062】
本発明の一実施形態では、様々な多孔質の単一または多層の基材または支持体が、収集し、電界紡糸ナノファイバーマット媒体と組み合わせるための移動または固定収集ベルト上に配置され、複合濾過装置を形成する。
【0063】
IV. TFF濾過モードで膜を使用する方法
本明細書中に記載される様々な実施形態では、電界紡糸ナノファイバー組成物は、約500KDaまたは500kDaを超える分子量を有する目的の生物学的物質(例えば、タンパク質、結合型多糖体ワクチンまたはウイルス様粒子)を精製するためにTFFモードで使用される。
【0064】
TFFモードでの操作の場合、2つの膜表面の間のチャネルを通る供給流の流れを生成するために、一般にポンプが使用される。膜の表面上の流体の各通過の間、印加加された圧力は、流体の一部を、膜を通って濾液流に押し込む。その結果チャネルの中心のバルク条件から膜表面のより濃縮された壁面条件への供給原料濃度の勾配が得られる。また、徐々により多くの流体が濾液側に流れるので、流入口から流出口(濃縮液)への供給チャネルの長さに沿って濃度勾配がある。
【0065】
いくつかの実施形態では、電界紡糸されたナイロン−6ナノファイバー限外濾過膜(NF UF)は、PES UF膜と同様のいくつかの形式の接線流濾過モジュールに組み込むことができる。接線流濾過に使用される最も一般的な形式は、平板カセット(例えば、Pellicon(R)3)またはスパイラル型装置である。NF UFは、膜スクリーン、保持液スクリーンおよび透過液スクリーン、ならびに保持液ポートおよび透過液ポートを有する外側ポリマーフィルムを含む層状構造におけるフラットシート接線流濾過パケットに作製され、次いでオーバーモールドまたは射出成形して保持液ポートおよび透過液ポートを有するフラットカセット装置にすることができる。あるいは、NF UFは、保持液スクリーンおよび透過液スクリーンを有するスパイラル状に巻かれ、縁部で封止されて、保持液および透過液流路を提供し、密閉流路を有する円筒状ホルダー内に置かれて保持液ポートおよび透過液ポートを分離する。ポリマースクリーンは、スパイラル型および平板モジュール内の保持液チャネルおよび/または透過液チャネルに挿入され、チャネル内で乱流を増加させ、濃度分極を減少させる。乱流によって促進されるチャネルはより低いクロスフロー流速でより高い物質移行係数を有し、そのことはより高い流束がより少ないポンプ要件で達成されることを意味する。従って、乱流によって促進される保持液チャネルは、開放流路よりも効率的である。平板モジュール内でつり下げられたスクリーンを使用すると、開放流路および乱流によって促進される流路の両方の利点の幾分かが得られる。
【0066】
NF UF膜を用いた接線流濾過は、より小さい不純物を透過させ、濃度を20mg/mLのワクチン生成物まで増加させるために体積を減少させることにより、結合型多糖体ワクチンのような目的の生物学的物質をより高純度のレベルに濃縮し、精製することができる。また、NF UF膜は、さらなる精製工程または最終処方のために、生物学的物質およびダイアフィルターを保持することができ、または小さな塩またはpH緩衝塩の緩衝液交換を行うことができる。以下の実施例に記載の実験は、本明細書で使用されるモデルデキストランと同じ方法で、結合型多糖体ワクチンまたは目的の生体分子を精製、濃縮、または緩衝液交換するために使用することができる。
【0067】
実施形態は、限定するものとして解釈されるべきではない以下の実施例によってさらに説明される。本出願を通して引用される全ての参考文献、特許および公開された特許出願ならびに図面の内容は、参照により本明細書に援用される。
【実施例】
【0068】
[実施例1:ナノファイバーマット/膜の調製]
電界紡糸ナイロン−6ナノファイバー複合パルボウイルス保持マットを、PCT公開特許出願番号WO2014093345(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたように製造し、NF UF(即ち、ナノファイバーUF膜)と称す。二層複合ベースおよび活性保持層ナノファイバーマットを溶液から平滑なHirose不織基材(廣瀬製紙、日本国高知県土佐市、部品番号#HOP−60HCF)上に電界紡糸させるために、商標Ultramid B24(BASF Corp.、米国ニュージャージ州フローラム・パーク)のナイロン−6を使用する。ベース層は、酢酸:ギ酸混合物(2:1)中の10.3%w/wのナイロン−6から電界紡糸され、平均繊維直径70nmで約25から30ミクロンの厚さである。10nmの平均繊維直径を有する活性保持層はギ酸:水:2,2,2−トリフルオロエタノール(TFE):ギ酸アンモニウム混合物(20.5:20.5:10.3:40:0.7)中の8.0%w/wのナイロン−6の溶液から電界紡糸され、厚さは数ミクロンと推定される。電界紡糸ナノファイバーUF膜を、60Hz、140mmの距離、10°から16°の露点の間の制御された湿度、60kVの電圧、2cm/分のライン速度で3つの回転電極を用いてElmarco(チェコ共和国リベレツ)からのパイロット規模の電界紡糸装置で製造する。
【0069】
[実施例2:ポリエーテルスルホン限外濾過膜の調製]
ポリエーテルスルホン限外濾過膜(PES UF)を、カスタムメンブレンキャスティング装置(EMD Millipore、米国ニューハンプシャー州ジェフリー)を使用してポリオレフィン不織基材上に溶液浸漬キャスティングを用いて特注する。
【0070】
一般に、溶液浸漬法は、2つ以上の成分の均質なポリマー溶液を、硬質膜構造を形成する固体のポリマー富化相と、膜孔を形成する液体のポリマー不足相とを有する2相系に変換することを含む(例えば、Membranes and Membrane Processes、1986 Springer US、Drioli、Enrico;Nakagaki、Masayuki。Preparation of Microporous Membranes by Phase Inversion Processes、Strathmann、H.、p115−135を参照)。
【0071】
[実施例3:膜特性の検討]
2つの膜、NF UFおよびPES UFの特性を、以下に記載される様々な技術を用いて検討する。
【0072】
1. SEM画像および繊維直径
電界紡糸されたナイロン−6ナノファイバー限外濾過膜(NF UF)およびポリエーテルスルホン限外濾過膜(PES UF)の代表的な走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)をそれぞれ図1および2に示す。図1では、試料をディスクから切断し、両面導電性炭素テープでアルミニウムSEMスタブ上に載せる。次いで、それらをCressington 208HR高分解能スパッターコーターを用いて5nmのイリジウムでコーティングする。試料を、5kVでFEI Quanta 200F電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)で画像化する。この画像は、ナイロン−6ナノファイバーが、500ナノメートルのスケールバーに対して約10ナノメートルの程度の直径を有するポリマー繊維のランダムに重ねられた不織マットであることを示す。電界紡糸されたナイロンNF UFの多孔性は、重なり合う繊維間の空間に起因する。
【0073】
図2は、溶液相反転法を使用して作製されたポリエーテルスルホン限外濾過膜(PES UF)の多孔性を示す。試料を膜ディスクから切断し、次いで、両面導電性炭素テープでアルミニウムSEMスタブ上に載せる。次いで、それらをCressington 208HR高分解能スパッターコーターを用いて5nmのイリジウムでコーティングする。試料画像を、5kVでFEI Quanta 200F電界放出走査電子顕微鏡(FESEM)で撮影する。
【0074】
図2のPES UFと電界紡糸されたナイロン−6 NF UFの図1とを比較すると、それらが3次元構造または形態に関してどのように劇的に異なるかが示される。
【0075】
図3に示すように、繊維半径を、Image Pro Plus v6.0内のカスタム開発ユークリッド距離マップ(EDM)ルーチンを利用して測定する。各ナノファイバー層の試料の平均繊維直径を計算し、SEM用の試料調製中に適用された5nmの金属コーティングを差し引くことによって、最終直径を決定する。電界紡糸ナイロン−6ナノファイバー限外濾過膜(NF UF)の平均繊維直径は平均半径の2倍であり、次にSEM用の試料調製物の金属コーティングの5ナノメートルを差し引く。
【0076】
2.平均泡立ち点および透水性
この実験は、NF UFおよびPES UF膜について測定された平均泡立ち点および透水性の測定を記載する。本明細書に示され、図4に示されるように、NF UF膜試料は、ベンチマークのために予め選別されたPES UF膜の4つの異なる試料と同様のまたはより高い平均フロー泡立ち点でより高い透水性を示す。
【0077】
平均流量泡立ち点を、ASTM E1294−89「Standard Test Method for Pore Size Characteristics of Membrane Filters Using Automated Liquid Porosimeter」に従って測定する。特注の毛細管流ポロシメータを使用するASTM F316による自動泡立ち点法は、原理上はPorous Materials、Inc.(米国ニューヨーク州イサカ)の市販の装置に類似している。ポリオレフィン不織基材を有する、直径25mmにダイカットされたナノファイバーUF(NF UF)膜試料を、(3M、米国ミネソタ州セントポール)から市販されているペルフルオロヘキサンFluorinert(商標)FC−72(10ダイン/cm)で湿らせた。各試料をホルダーに入れ、空気の差圧を加え、流体を試料から除去する。湿った流れが乾燥流れの半分(湿潤溶媒のない流れ)に等しい差圧を使用し、供給されたソフトウェアを用いて平均流量細孔径を計算する。
【0078】
ポリエーテルスルホンUF(PES UF)膜の平均流量泡立ち点を、2−プロパノールを用いて測定する。図4に示すように、NF UF膜平均流量泡立ち点を、PES UF試料との比較のために2−プロパノールの表面張力(21.4ダイン/cm)に調整する。図4は、1000kDaのデキストラン篩わけR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6 NF UFの4つの試料が、1200kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜よりも大きな透水性およびより高い平均流量泡立ち点を有することを示す。
【0079】
13.4cmのフィルター面積および3psiで0.5mLのホールドアップ体積を有する50mL攪拌セル(Model 8050、EMD Millipore、マサチューセッツ州ビレリカ)中の直径44.5mmの膜ディスクを用いて、LMH/psiで表される透水性を測定する。ポリオレフィン不織基材を有するダイカットしたNF UF膜を、第2のポリオレフィン不織基材上に乾燥状態で置き、撹拌セルに固定する。PES UF膜をエタノールで湿らせ、水に交換し、第2のポリオレフィン不織布ディスク上の攪拌セルに固定する。試料を水で濡らし、5psiで2×50mLの水を用いてフラッシュして全ての空気を除去する。
【0080】
3. デキストランR90カットオフ
この実験では、図5に示すように、デキストラン排除測定値を使用して、NF UFおよびPES UF膜のデキストランR90カットオフを決定する。NF UF試料は、1000および1500kDaのデキストランR90カットオフを含んでいた。4つの異なるPES UF膜試料は、800、1200、1700および4800kDaのデキストランR90カットオフを有する。図5に示すように、この4つのPES UF膜は、高分子の限外濾過のための業界では一般的であり、NF UF膜試料のものと同様のデキストラン保持曲線を示す。図5は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸されたナイロン−6 NF UF膜の4つの試料が、1200kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜の重複試料に対して、x軸およびy軸の両方でおよび傾きに関して同様のデキストラン篩分け曲線を有することを示す。
【0081】
NF UF膜は、図6に示されるように、デキストランR90および平均流量泡立ち点においてPES UF膜に類似しており、図7に示すように、同様のデキストランR90でより高い透水性を示す。
【0082】
図6は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6NF UF膜試料の4つの試料が、1200kDaのデキストラン篩分けR90カットオッフを有するPES UF膜試料より低いデキストラン篩分けR90カットオフおよびより高い平均流量泡立ち点を有することを示す。電界紡糸ナイロン−6ナノファイバー限外濾過膜(NF UF)は、より高い泡立ち点をおよびより低いデキストラン篩分けR90カットオフを提供する、より小さい平均細孔径を有する。
【0083】
図7は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6 NF UF膜試料の4つの試料が、1200kDaというより高いデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜試料より大きな透水性およびより低いデキストラン篩分けR90を有することを示す。
【0084】
NF UF膜およびPES UF膜のデキストラン分子量篩分け測定を、カスタムデキストラン保持試験を用いて行う。全ての膜試料を攪拌セル内で調製し、実施例3−2に記載のように予めフラッシュする。供給物試料および透過液試料の分析的サイズ排除クロマトグラフィーを用いてMW排除および篩分け曲線を生成し、そこから各膜についてデキストランR90カットオフを決定する。
【0085】
pH7.0の50mMリン酸塩緩衝液中の0.75%w/wデキストランの混合デキストラン供給物を用いてNF UF膜またはPES UF膜にチャレンジする。デキストランはPharmacosmos A/S(Roervangsvej 30、DK−4300、デンマークホルベック)から購入する。使用したデキストランの平均分子量(Mw)は以下の通りである:1,000Da(デキストランT1、5510 0001 4000);3,500Da(デキストランT3.5、5510 0003 4007);10,000Da(デキストランT10、5510 0010 4007);40,000Da(デキストランT40、5510 0040 4007);70,000Da(デキストランT70、5510 0070 4007);500,000Da(デキストランT500、5510 0500 4006);および2,000,000Da(デキストランT2000、5510 2000 4007)。
【0086】
混合されたデキストラン供給物40mLを撹拌セルに注ぐ。標準的なマグネチックスターラーバーをセルに入れ、マグネチックスターラープレート上で320RPMで攪拌するように設定する。蠕動ポンプに取り付けられたPVCチューブ1/16”ID(フィッシャー科学カタログ番号14−190−118)を0.22mL/分の一定流量で液体を吸引するために透過液側に接続する。10LMHの一定の流束の下で、最初の2から3mlを捨て、約1時間再循環させて平衡にし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いるさらなる分析のために透過液試料を収集する。
【0087】
デキストランの分析的サイズ排除クロマトグラフィーを、Phenomenex Shodex OH pak13μmSB−806M HQゲル濾過カラム(品番:SB−806MHQ、カラムサイズ:300×8mm、Phenomenex Inc.、カナダ・トーランス)を使用して、Waters 2695分離モジュールおよびWaters 2414屈折率検出器を用いて実施する。アイソクラチック移動相は、pH7.0の50mMのリン酸カリウムと、10mg/Lアジ化ナトリウムから構成される。カラムを35℃の温度で20分間1.0mL/分の流速で運転する。
【0088】
保持時間から分子量を較正するために使用される分子量デキストラン標準は、Sigma−Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、グルコース、MW=180Da(#158968)、マルトヘプタオース、MW=1,153Da(#284017)およびAmerican Polymer Standards(オハイオ州メンター)デキストラン:Mp=2,800Da(DXT3K)、Mp=6,300Da(DXT7K)、Mp=20,500Da(DXT25K)、Mp=43,000Da(DXT47K)、Mp=85,000Da(DXT97K)、Mp=245,000Da(DXT325K)、Mp=350,000Da(DXT550K)、Mp=1,465,000Da(DXT2100K)、Mp=6,300,000Da(DXT5900K)およびMp=9,110,000Da(DXT8035K)(Mpは平均ピーク分子量)から購入する。
【0089】
[実施例4:カスタム供給物を使用したTFF(UF/DF)膜の適用比較]
以下の表1に要約されるカスタムデキストラン供給物を用いるTFF(UF/DF)モードでの膜比較のために、R90=1000kDaを有するナノファイバーUFおよびR90=1200kDaを有するPES UF膜を選択する。上記の膜は、NF UFおよびPES UFと称され、図4から7に実証される物理的特性を有する。
【0090】
電界紡糸NF UF膜は、接線流濾過(TEF)モードにおいて、溶液浸漬キャストPES UF膜と同等または改善された性能を有する。デキストラン濃度および低分子量除去ための限外濾過モードおよび透析濾過モードは、表1に要約されるように、ナノファイバー膜が収率、選択率および濾過流束に関して限外濾過膜と同様に機能することを示した。
【0091】
【表1】
【0092】
輸送および選択率、透析濾過ならびに限外濾過のために、膜をTFFモードで二重に並べて検査する。表1および残りの実施例は実験比較を要約する。流束対TMP実験での保持液および透過液のサンプリングによって、輸送および選択率を、流束対TMP、物質移行対TMPおよび選択率対流束により、測定する。
【0093】
結合型多糖体ワクチン産業で使用される濃縮工程および分離工程をシミュレートするために、NF UFおよびPES UF TFF(UF/DF)膜評価用に3つのカスタムデキストラン供給物を調製する。
【0094】
使用したデキストランはPharmacosmos A/S(Roervangsvej 30、DK−4300、Holbaek、デンマーク)から市販されており、1,950,000および112,000Daの平均分子量(Mw)を有する110,000Daデキストラン(T110、5510 0110 9006)および2,000,000Dデキストラン(T2000、5510 2000 9007)である。3桁を包含する3つの供給物A、B、およびCは以下のようであり、即ち、表2に示すpH7.0の50mMリン酸塩緩衝液中の0.0385;0.844;および8.44%w/wの総デキストラン質量%である。表2は、各Pharmacosmosのストック番号、質量比、および20℃での粘度を詳述する。
【0095】
【表2】
【0096】
図8に示すように、0.0385%w/wのデキストランを用いる供給物Aのゲル浸透クロマトグラム、および図9に示すように、0.844%および8.44%w/wのデキストランを用いる供給物BおよびCのゲル浸透クロマトグラム(供給物Cは10×供給物Bであるか、または緩衝液で1:10に希釈した場合、図9に示すクロマトグラムをもたらす)に見られるように、3つの供給物は、10,000から10,000,000Daの3桁の範囲の非常に多分散性の分子量分布を有する。
【0097】
以下の比較限外濾過および透析濾過の例のために、3つの分子量7,250,000Da(D7250)、2,000,000Da(D2000)および110,000Da(D110)を選択する。
【0098】
図8のクロマトグラムは、供給物Aが10,000から10,000,000ダルトンの3桁を包含する非常に多分散性の分子量分布を有することを示す。表3における7,250,000Da(D7250)、2,000,000Da(D2000)、および110,000Da(D110)の3つの分子量のパーセンテージは、各MWのピーク面積/総面積から得られる。
【0099】
図9のクロマトグラムは、供給物Bが10,000から10,000,000ダルトンの3桁を包含する非常に多分散性の分子量分布を有することを示す。表3における7,250,000Da(D7250)、2,000,000Da(D2000)、および110,000Da(D110)の3つの分子量のパーセンテージは、各MWのピーク面積/総面積から得られる。表2および表3の供給物Cは、10×供給物Bであるか、または緩衝液で1:10に希釈した場合、図9と同一である。
【0100】
表3は、3つの供給物の各々において7,250,000Da(D7250)、2,000,000Da(D2000)、および110,000Da(D110)のMWを有するデキストランの実際のピーク高さパーセンテージを要約したものである。表3に要約するように、供給物中の7250,000Da(D7250)、2,000,000Da(D2000)、および110,000Da(D110)のピーク高さのパーセンテージおよび0.0385、0.844および8.44%の総デキストラン質量パーセントに基づいて、D7250、D2000 、およびD110の実際のパーセンテージを計算する。
【0101】
【表3】
【0102】
続く実験では、濃度、収率および選択率を、全て、図8および図9によって示されるように、各MWでの実際のピーク高さ対供給物クロマトグラムに基づいて、およびD7250、D2000およびD110の検査下で3つの選択された分子量についての表3のパーセンテージに基づいて計算する。
【0103】
GPC屈折率検出器のスケール上にとどまるために必要に応じて試料を希釈し、希釈に必要な場合調整する。実施例9に詳述するように、限外濾過濃縮実験における各MWの濃度を計算するために、D7250、D2000およびD110の濃度式を作成するために、供給物AおよびBを希釈したものを使用する。
【0104】
[実施例5.供給物流束対TMPの測定]
表2および3に示すカスタムデキストラン供給物A、B、およびCを使用して、平均流束対膜間圧(TMP)曲線を生成する。供給物A、BおよびCのそれぞれについて図10、11および12は、NF UF膜が、同様のデキストランR90カットオフを有するPES UF膜よりもTMPに対して高い平均デキストラン供給物流束を有することを実証している。図10、11、12に示すように、供給物A、B、およびCについての平均流束はLMHで表される3桁を包含し、図12に示すように、NF UFおよびPES UF膜の両方の場合高濃度供給物Cについては物質移行分極がある。
【0105】
図10、11および12に示すように、NF UF膜は、TMPに対してより高い平均デキストラン供給物流束および図7に示すように、より高い水流束の両方を有していた。
【0106】
実験は、実施例3に記載したように撹拌セル内で行う。供給物を320RPMで撹拌し、ハウス空気を用いて加圧する。GPC分析のために、供給物および透過液試料を各圧力で収集する。
【0107】
図10は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6 NF UF膜が、1200kDaのより高いデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜と比較して、同じTMPでより大きい供給物A流束を有することを示す。
【0108】
図11は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6 NF UF膜が、1200kDaのより高いデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜よりもTMPに対して大きい供給物B流束を有することを示す。
【0109】
図12は、1000kDaのデキストラン篩分けR90カットオフを有する電界紡糸ナイロン−6 NF UF膜が、1200kDaのより高いデキストラン篩分けR90カットオフを有するPES UF膜よりもTMPに対して大きい供給物C流束を有することを示す。
【0110】
[実施例6.物質移行対TMPの測定]
デキストラン質量/濃度輸送を、GPC分析のために各圧力で実施例5の供給物および透過液試料を収集することによって測定する。図13および14は、NF UFおよびPES UF膜試料の2つの試料のうちの1つについて、供給物Aのゲル浸透クロマトグラムを示す。D7250、D2000およびD110の輸送を比C/Cによって決定し、ここで、CおよびCは、各圧力における供給物および透過液中の濃度である。
【0111】
図13および14は、いかにして供給物Aの濃度が、流束対TMP実験を通してわずかに上昇するかを示す。
【0112】
図13において、クロマトグラムのオーバーレイは、いかにして、透過液中の供給物Aの濃度が最初はより高く、次いで流束対TMP実験を通して再び増加する前にわずかに減少するかを示し、このことは表面濃度分極平衡を形成できる前に、膜がより多くのD7250、D2000およびD110を最初に通すかを示す。
【0113】
図14において、クロマトグラムのオーバーレイは、いかにして、透過液中の供給物Aの濃度が最初はより高く、次いで流束対TMP実験を通して再び増加する前にわずかに減少するかを示し、このことは表面濃度分極平衡を形成できる前に、膜がより多くのD7250、D2000およびD110を最初に通すかを示す。
【0114】
図15の場合、D7250、D2000およびD110の輸送は、比C/Cであり、CおよびCは、各TMP(psi)における供給物および透過液中の濃度である。図15は、PES UF膜に対して電界紡糸ナイロン−6 NF UFについて、供給物A中のデキストランの平均質量/濃度輸送がTMPに対しより大きいことを示す。
【0115】
図16の場合、D7250、D2000およびD110の輸送は、比C/Cであり、CおよびCは、各TMP(psi)における供給物および透過液中の濃度である。図16は、PES UF膜よりも電界紡糸ナイロン−6 NF UFについて、供給物B中のデキストランの平均質量/濃度輸送がTMPに対しより大きいことを示す。
【0116】
要約すると、観察されるように、(図13に示すように)NF UF膜のデキストランD7250、D2000、およびD110の物質移行または濃度通過は、(図14に示すように)PES UF膜よりも高い。平均C/Cを供給物Aについて計算し、(図15に示されるように)TMPに対してプロットする。表面濃度分極平衡を形成できる前に、(図13、14および15に示すように)NF UFおよびPES UF膜の両方がより多くのD7250、D2000、およびD110を最初に通す。供給物B中のデキストランの平均質量/濃度輸送は、(図16に示すように)PES UF膜と比べてNF UF膜に対する方が大きい。
【0117】
[実施例7.選択率対流束の測定]
D7250、D2000およびD110についての実施例6の物質移行関係C/Cを用いて、上記の流束対TMPのデータから選択率係数対流束を作成する。流束に対してD110/D2000およびD110/D7250の平均通過選択率を決定するために、式[(C/CD110/(C/CD2000またはD7250]を用いて選択率係数を決定する。
【0118】
供給物AおよびBを用いたNF UFおよびPES UF膜についての平均選択率係数対流束をそれぞれ図17および18に示す。観察されたように、PES UF膜は、TMP/Fluxの増加に伴ってNF UF膜よりも高い選択率係数を有するが、供給物AおよびBを用いるとNF UF膜およびPES UF膜の両方で、同様の流束において平均選択率は1に近づく(それぞれ図17および図18に示される)。両方の膜は、低い一定流束において最良の選択率を有する。50mL攪拌セル中の0.5mLのホールドアップ体積により、TMPおよび流束に対する実際のデータのいくらかの希釈化およびシフトが引き起こされる。
【0119】
図17は、電界紡糸ナイロン−6 NF UFおよびPES UF膜が、平均流束(LMH)に対して、供給物Aを用いるD110/D2000およびD110/D7250の同様の選択率を有し、両者が1より大きく、同様の流束で1に近づくことを示す。
【0120】
図18は、電界紡糸ナイロン−6 NF UFおよびPES UF膜が、平均流束(LMH)に対して、供給物Bを用いるD110/D2000およびD110/D7250の同様の選択率を有し、両者が1より大きく、同様の流束で1に近づくことを示す。
【0121】
[実施例8.一定流束における透析濾過の測定]
NF UFおよびPES UF膜を供給物Aを用いて比較するために、2つの定容透析濾過実験を2回行う。上記のようにして、膜試料を含む攪拌セルを調製する。30または60LMH(0.68または1.36mL/分)に相当する適合する流速を有する蠕動ポンプを使用して、透過液から引き出し、保持液に緩衝液を供給する。GPCによる分析のために、保持液および透過液試料を各40mLのダイアボリュームで採取する。30LMHの実験を640RPMで、60LMHの実験を320RPMで撹拌する。
【0122】
図19および図20は、30LMHおよび640RPM実験の実行からのNF UFおよびPES UF膜試料の複製品の1つについて、1から6までの各ダイアボリュームにおける保持液および透過液試料のゲル浸透クロマトグラムを示す。図21および図22に示すように、NF UFおよびPES UF膜の両方は、より高いMWのデキストラン(D7250、D2000)を選択的に保持し、より低いMWのデキストラン(D110)を透過させることにおいて同様に機能する。
【0123】
図19のクロマトグラムのオーバーレイは、いかにして供給物Aの濃度が最初により高く、次いでダイアボリュームの増加に伴い、保持液のMW分布がより高いMWに向かって左にシフトする一方、透過液がより低いMWに向かって右にシフトするかを示す。
【0124】
図20のクロマトグラムのオーバーレイは、いかにして供給物Aの濃度が最初により高く、次いでダイアボリュームの増加に伴い、保持液のMW分布がより高いMWに向かって左にシフトする一方、透過液がより低いMWに向かって右にシフトするかを示す。
【0125】
30LMHおよび640RPM(図21に示される)ならびに60LMHおよび320RPM(図23に示される)での透析濾過について、平均保持液C/C対供給物Aのダイアボリュームを計算する。両方の透析濾過条件下で、NF UFおよびPES UF膜は、D7250、D2000およびD110について、同様の平均保持液収率対ダイアボリュームを有する(図21および23に示す)。
【0126】
図21は、NF UFおよびPES UF膜が、D7250、D2000およびD110について、ダイアボリュームに対して同様の平均保持液収率を有することを示す。
【0127】
図22は、NF UFおよびPES UF膜が、ダイアボリュームに対してD7250、D2000およびD110についての同様の平均保持液選択率を有することを示す。
【0128】
図23は、NF UFおよびPES UF膜が、D7250、D2000およびD110について、ダイアボリュームに対して同様の平均保持液収率を有することを示す。両方の膜は、図21で観察されたよりも、より高い流束およびより低い攪拌で、同様のより低い保持率を有する。
【0129】
図21および23のNF UFおよびPES UF膜の平均保持液選択率を、D7250/D110=(C/CD7250/(C/CD110およびD2000/D110=(C/CD2000/(C/CD110を使用して計算し、(図22および図24に示すように)ダイアボリュームに対してプロットする。
【0130】
図24は、NF UFおよびPES UF膜が、D7250/D110およびD2000/D110に対して同様の平均保持液選択率対ダイアボリュームを有することを示す。両方の膜は、図22で観察されたよりも、より高い流束およびより低い攪拌で、同様のより低い平均保持液選択率を有する。
【0131】
平均D7250/D110およびD2000/D110は、640RPMでの30LMHおよび320RPMでの60LMHの両方で、NF UFおよびPES UF膜の両方について非常に類似している。両方の膜は、より高い流束およびより低い攪拌において、(図23に示されるように)同様の低い保持率および(図24に示されるように)選択率を有する。
【0132】
[実施例9.一定のTMPでの限外濾過]
一定のTMPならびに供給物A、BおよびC(表1に要約する)を使用する撹拌の異なる条件においてNF UFおよびPES UF膜を比較するために、5つの限外濾過濃縮実験を2回実施する。(図25、26、27に示すように)1つの条件の下での供給物A、(図28および29に示すように)2つの条件の下での供給物B、ならびに(図30、31、32に示すように)2つの条件の下での供給物C。
【0133】
5つのUF濃縮の実行は全て、NF UFおよびPES UF膜が同様の平均収率および選択率を提供する一方で、NF UF膜は全ての供給物および条件についてUF濃縮係数より一貫してより高い平均流束を有することを示す。
【0134】
実施例3−2に記載されているように、各条件について膜試料を有する撹拌セルを二重に調製する。流束を決定し、濃縮係数の後をたどるために、経時的な透過液の体積を測定する。上記のように、GPC分析のために各濃縮係数で保持液試料を採取して、D7250、D2000およびD110の収率および選択率を決定する。
【0135】
0.0385および0.844%w/wの総デキストラン質量パーセント(表2に記載)を有する供給物AおよびBを、最初の50mLの体積から2、4および8倍に濃縮する。供給物Aを、一定のTMP=0.5psiおよび600RPMで濃縮する(図25、26、27に示す)。図25は、NF UF膜が、PES UF膜と比較してより高い初期平均供給物流束を有し、2、4および8倍濃縮の実行全体にわたってそれを維持することを示す。図26は、2、4、8倍の限外濾過濃縮の実行中のC/Ctheo対濃縮係数としてD7250、D2000およびD110に対する同様の平均収率および選択率を示す。図27は、NF UFおよびPES UF膜が同様の平均収率および選択率を有する2、4、8倍(左から右)の限外濾過濃縮の間の平均C/Ctheo対平均流束を示す一方、2、4および8倍の濃縮の実行の間にNF UF膜は一貫してより高い平均流束を有することを示す。
【0136】
供給物Bを(図28に示すように)5psiおよび600RPM、ならびに(図29に示すように)7psiおよび600RPMで濃縮する。より低い圧力(図28対29を参照)であるが、(図29に示すように)7psiで予想されるようにわずかに高い平均流束でNF UFおよびPES NF膜の両方でより良好な収率および選択率が観察される。
【0137】
8.44%w/wの総デキストラン質量パーセント(表2に記載)を有する供給物Cを、40mLの初期体積から2倍および3倍に濃縮する。供給物Cを(図30および31に示すように)5psiおよび300RPMならびに(図32に示すように)7psiおよび300RPMで濃縮する。供給物Cの場合、2倍濃縮後、圧力を12psiに上昇させ、NF UFおよびPES UF膜については全ての場合において流束および収率が低下することが観察される。図30は、5psiでNF UFおよびPES UF膜の両方について流束の減少を示す。収率および選択率は、NF UFおよびPES UF膜について同様であるが、NF UF膜は、(図31および32に示すように)2および3倍濃縮の実行中に一貫してより高い平均流束を有する。
【0138】
[実施例10:NF UF膜を用いた生物学的物質の精製のためにTFFシステム]
代表的な例では、500KDaより大きい分子量を有する目的の生物学的物質を精製するために、NF UF膜をTFFモードで使用する。そのような生物学的物質の例には、結合型多糖体ワクチン、他の種類のワクチン、ウイルス様粒子、およびMW>500,000ダルトンを有するタンパク質が含まれるが、これらに限定されない。
【0139】
NF UF膜を使用して目的の生物学的物質を精製するために使用されるTFFシステムの概略図を図33に示す。目的の生物学的物質は、供給物保持タンクまたは容器中に存在する。使用される典型的な装置は、追加の緩衝液タンクまたは容器、供給物ポンプ、供給物バルブ、供給物圧力計、ホルダー付きの平板カセットまたは付属品付きのスパイラル型装置等のNF UF膜を含むTFFモジュール、保持液圧力計、圧力を制御するための保持液バルブ、および透過液容器である。供給物が限外濾過によって濃縮されている場合、保持液を供給タンクに戻し、透析濾過が行われている場合、別の容器が保持液を集め、透析濾過緩衝液容器が供給物ポンプに配管される。
【0140】
本明細書は、本明細書中に引用した参考文献の教示に照らして最も完全に理解され、それらは参照により本明細書に援用される。本明細書の実施形態は、実施形態の例示を提供するものであり、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者(熟練者)は、多くの他の実施形態が本開示に包含されることを容易に認識する。全ての刊行物および参考資料は、その全体が参照により援用される。参照により援用される資料が本明細書と矛盾するか、または食い違う範囲で、本明細書はそのような資料に優先する。本明細書における全ての参考文献の引用は、そのような参考文献が従来技術であることを認めるものではない。
【0141】
他に示されない限り、本明細書(特許請求の範囲を含む)で使用される成分の量、細胞培養、処理条件等を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。別段の支持がない限り、数値パラメータは近似値であり、本明細書に開示された実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る。特に断りのない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連の要素の全てを指すと理解されるべきである。当業者であれば、日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または確認することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【0142】
当業者には明らかであるように、その精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された実施形態の多くの修正および変化を行うことができる。本明細書に記載の特定の実施形態は、単なる例示として提供され、決して限定的であることを意味しない。本明細書および実施例は、例示のみとして考慮され、本開示の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
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