(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)核酸含有試料に、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・ドナーと成る第1の蛍光物質で標識された第1のプローブ、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・アクセプターと成る第2の蛍光物質で標識された第2のプローブ、及び前記第1の蛍光物質で標識された第3のプローブを混合し、試料溶液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)において調製された試料溶液中の標的核酸分子を、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブと会合させて前記第1のプローブと前記第2のプローブと前記第3のプローブと前記標的核酸分子とからなる会合体を形成する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射し、前記標的核酸分子を、前記会合体中の前記第2の蛍光物質から放出された蛍光を指標として検出する工程と、
を有し、
前記標的核酸分子中、前記第2のプローブと会合する領域は、前記第1のプローブと会合する領域と前記第3のプローブと会合する領域の間にあり、
前記第1の蛍光物質又は前記第2の蛍光物質が、エキシトン効果を示す蛍光性原子団であり、
前記第1のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下であり、
前記第3のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下である、標的核酸分子の検出方法。
前記核酸含有試料に、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブと会合する第1の標的核酸分子と、前記第1のプローブと前記第3のプローブのどちらか一方のみと前記第2のプローブと結合する第2の標的核酸分子が含まれており、
前記(b)において、前記第1の標的核酸分子と、前記第1のプローブと、前記第2のプローブと、前記第3のプローブとを会合させた第1の会合体と、前記第2の標的核酸分子と、前記第2のプローブと、前記第1のプローブ及び前記第3のプローブのいずれか一方とを会合させた第2の会合体と、を形成し、
前記工程(c)において、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射し、一分子の会合体中の前記第2の蛍光物質から放出された蛍光の輝度を指標として、前記第1の標的核酸分子と前記第2の標的核酸分子とを区別して検出し、前記試料溶液中の前記第1の標的核酸分子と前記第2の標的核酸分子の存在比を算出する、請求項1又は2に記載の標的核酸分子の検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
核酸分子の検出をFRETプローブを用いて行う場合では、通常の単一の蛍光色素で標識されたプローブを用いて検出する場合よりも、検出される蛍光の光量が大幅に小さくなり、標的核酸分子の検出効率が低下する。
【0007】
本発明は、FRETを利用して、標的核酸分子を高感度に検出する方法、及び当該方法に利用するプローブセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、標的核酸分子に、1つのアクセプタープローブを挟む位置に2つのドナープローブが配置されるように会合体を形成させ、1つのアクセプタープローブに対して2つのドナープローブから蛍光共鳴エネルギーを供給させることによって、アクセプタープローブからの蛍光の輝度を増強させられることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る標的核酸分子の検出方法及びプローブセットは下記[1]〜[
5]である。
[1] (a)核酸含有試料に、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・ドナーと成る第1の蛍光物質で標識された第1のプローブ、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・アクセプターと成る第2の蛍光物質で標識された第2のプローブ、及び前記第1の蛍光物質で標識された第3のプローブを混合し、試料溶液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)において調製された試料溶液中の標的核酸分子を、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブと会合させて前記第1のプローブと前記第2のプローブと前記第3のプローブと前記標的核酸分子とからなる会合体を形成する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射し、前記標的核酸分子を、前記会合体中の前記第2の蛍光物質から放出された蛍光を指標として検出する工程と、
を有し、
前記標的核酸分子中、前記第2のプローブと会合する領域は、前記第1のプローブと会合する領域と前記第3のプローブと会合する領域の間にあ
り、
前記第1の蛍光物質又は前記第2の蛍光物質が、エキシトン効果を示す蛍光性原子団であり、
前記第1のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下であり、
前記第3のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下である、標的核酸分子の検出方法。
[
2] 前記第2のプローブの塩基長が5〜17塩基である、前記[1]
の標的核酸分子の検出方法。
[
3] 前記核酸含有試料に、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブと会合する第1の標的核酸分子と、前記第1のプローブと前記第3のプローブのどちらか一方のみと前記第2のプローブと結合する第2の標的核酸分子が含まれており、
前記(b)において、前記第1の標的核酸分子と、前記第1のプローブと、前記第2のプローブと、前記第3のプローブとを会合させた第1の会合体と、前記第2の標的核酸分子と、前記第2のプローブと、前記第1のプローブ及び前記第3のプローブのいずれか一方とを会合させた第2の会合体と、を形成し、
前記工程(c)において、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射し、一分子の会合体中の前記第2の蛍光物質から放出された蛍光の輝度を指標として、前記第1の標的核酸分子と前記第2の標的核酸分子とを区別して検出し、前記試料溶液中の前記第1の標的核酸分子と前記第2の標的核酸分子の存在比を算出する、前記[1]
又は[2]の標的核酸分子の検出方法。
[
4] 標的核酸分子を検出するためのプローブセットであり、
前記標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子が、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・ドナーと成る第1の蛍光物質で標識された第1のプローブと、
前記標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子が、蛍光共鳴エネルギー移動現象に於けるエネルギー・アクセプターと成る第2の蛍光物質で標識された第2のプローブと、
前記標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子が、前記第1の蛍光物質で標識された第3のプローブと、
を備え、
前記第1の蛍光物質又は前記第2の蛍光物質が、エキシトン効果を示す蛍光性原子団であり、
前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブは、前記標的核酸分子と、前記第3のプローブが前記第2のプローブに対して前記第1のプローブとは反対側に配置されている会合体を形成することができ、
前記第1のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下であり、
前記第3のプローブ中の前記第1の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基と、前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質が結合している塩基が会合している前記標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下である、標的核酸分子
前記会合体に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射すると、前記第1のプローブ中の前記第1の蛍光物質と前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質との間、及び前記第3のプローブ中の前記第1の蛍光物質と前記第2のプローブ中の前記第2の蛍光物質との間に、蛍光共鳴エネルギー移動が起こり、前記第2の蛍光物質から放出された蛍光が検出される、プローブセット。
[
5] 前記第2のプローブの塩基長が5〜17塩基である、前記[
4]のプローブセット。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る標的核酸分子の検出方法は、1つのアクセプタープローブに対して2つのドナープローブから蛍光共鳴エネルギーが供給されるため、アクセプタープローブとドナープローブを1つずつ使用する従来のFRETを利用した検出方法に比べて、標的核酸分子とアクセプタープローブとドナープローブとからなる会合体から発される蛍光輝度が大きい。このため、当該検出方法を用いることにより、標的核酸分子の検出効率を高めることができる。
また、本発明に係るプローブセットを用いることにより、当該検出方法を簡便かつ容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る標的核酸分子の検出方法(以後、「本発明に係る検出方法」ということがある。)は、FRETプローブを用いて標的核酸分子を検出する方法であって、FRET現象に於けるエネルギー・ドナーと成る第1の蛍光物質で標識された第1のプローブ、FRET現象に於けるエネルギー・アクセプターと成る第2の蛍光物質で標識された第2のプローブ、及び前記第1の蛍光物質で標識された第3のプローブを用いることを特徴とする。以降、「第1の蛍光物質」を「ドナー蛍光物質」、「第2の蛍光物質」を「アクセプター蛍光物質」ということがある。ドナー蛍光物質で標識された第1のプローブと第3のプローブがいわゆるドナープローブであり、アクセプター蛍光物質で標識された第2のプローブがいわゆるアクセプタープローブである。本発明に係る検出方法では、標的核酸分子1分子に対して、1つのアクセプタープローブと2つのドナープローブを、2つのドナープローブがアクセプタープローブを挟むように配置させて会合させる。従来のFRETプローブを利用した検出方法と本発明に係る検出方法の各プローブと標的核酸分子とが形成する会合体の模式図を
図1に示す。従来の方法では、1分子の標的核酸分子に対して、1つのアクセプタープローブと1つのドナープローブを互いに隣接するように会合させてFRETを起こさせる(左図)。これに対して、本発明に係る標的核酸分子の検出方法では、標的核酸分子に対して、2つのドナープローブ(第1のプローブと第3のプローブ)がアクセプタープローブ(第2のプローブ)を挟むように配置させて会合させるため、2つのドナープローブから1つのアクセプタープローブに対して蛍光共鳴エネルギーが供給される(右図)。理論的には、アクセプターに対して供給される蛍光共鳴エネルギー量が、従来方法の2倍程度になり、アクセプターから放出される蛍光の輝度が増強され、当該会合体の検出感度が向上される。
【0013】
本発明において用いられるドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質は、十分に近接した場合にFRETが生じる物質同士の組み合わせであり、かつ会合体の形成を阻害しないものであればよく、FRETプローブにおいて一般的に用いられている物質の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、PE(フィコエリスリン)をドナー蛍光物質として、Cy5、Cy5.5、Texas Red(登録商標)、Alexa fluor(登録商標) 610、Alexa fluor 647、及びAlexa fluor680をアクセプター蛍光物質として、組み合わせて用いることができる。また、APC(アロフィコシアニン)をドナー蛍光物質として、Cy5.5をアクセプター蛍光物質として、組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明において用いられる第1のプローブ、第2のプローブ、及び第3のプローブとしては、標的核酸分子と会合している状態と会合していない状態で発光輝度が変化するプローブとすることもできる。例えば、標的核酸分子と会合していない状態では発光強度が小さく、標的核酸分子と会合している状態では発光強度が強くなるようなプローブを用いることにより、FRETの蛍光を検出する際のバックグラウンドやノイズを抑えることができ、標的核酸分子の検出感度をより高めることができる。
【0015】
例えば、ドナー蛍光物質又はアクセプター蛍光物質として、エキシトン効果を示す蛍光性原子団を用いることにより、標的核酸分子と会合している状態と会合していない状態で発光輝度が変化するプローブとすることができる。ドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の両方をエキシトン効果を示す蛍光性原子団としてもよく、いずれか一方をエキシトン効果を示す蛍光性原子団としてもよい。いずれか一方とする場合には、より効率的にバックグラウンドやノイズを抑えることができるため、ドナー蛍光物質をエキシトン効果を示す蛍光性原子団とすることが好ましい。
【0016】
エキシトン効果を示す蛍光性原子団としては、チアゾールオレンジとその誘導体、オキサゾールイエローとその誘導体、シアニンとその誘導体、ヘミシアニンとその誘導体、メチルレッドとその誘導体、ほか一般的にシアニン色素、アゾ色素と呼ばれる色素群が挙げられる。シアニン色素としては、Cy5、Cy5.5等が挙げられる。また、DNA等の核酸に結合することによって蛍光強度を変化させる蛍光色素として公知の色素や微視的極性に応じて蛍光強度が変化する蛍光色素、及びこれらから誘導される基も、適宜用いることができる。核酸に結合することによって蛍光強度を変化させる蛍光色素としては、例えば、エチジウムブロミドが挙げられる。微視的極性に応じて蛍光強度が変化する蛍光色素としては、例えば、ピレンカルボキシアミド、プロダンが挙げられる。その他、フルオレセインも用いるエキシトン効果を示す蛍光性原子団として使用することができる。
【0017】
エキシトン効果を示すプローブは、標的核酸分子と会合するための一本鎖核酸分子に、1つのエキシトン効果を示す蛍光性原子団を直接又は適切なリンカーを介して間接的に結合させてもよく、標的核酸分子と会合するための一本鎖核酸分子に、少なくとも2つのエキシトン効果を示す蛍光性原子団を近接した状態で結合させてもよい。2つのエキシトン効果を示す蛍光性原子団を近接した状態で結合させプローブとしては、例えば、標的核酸分子と会合するための一本鎖核酸分子中の一つの塩基に、下記一般式(1)の構造からなる基を結合させたものを挙げることができる(特許文献2参照。)。
【0019】
一般式(1)中、Aは、CR、N、P、PO、B若しくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基又は任意の置換基である。
【0020】
一般式(1)中、B
1、B
2及びB
3は、リンカー(架橋原子又は原子団)であり、主鎖長は任意である。主鎖中にC、N、O、P、B、Si、Sを含んでいてもいなくてもよく、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合、及びチオエステル結合をそれぞれ含んでいてもいなくてもよい。B
1、B
2及びB
3はそれぞれの同一でも異なっていてもよい。一般式(1)の構造からなる基は、B
3(式(1)中のアスタリスク)において、一本鎖核酸分子を構成する塩基中の側鎖に結合する。
【0021】
一般式(1)中、C
1及びC
2は、エキシトン効果を示す蛍光性原子団であり、それぞれ同一でも異なっていてもよい。エキシトン効果を示す蛍光性原子団としては、前記で列挙したものが挙げられる。また、下記一般式(2)又は一般式(3)で表される原子団とすることもできる。
【0024】
一般式(2)及び一般式(3)中、Eは、O、S、Seであり、nは、0又は正の整数である。R
1及びR
2のうち一方は、一般式(1)中のB
1又はB
2に結合する連結基であり、他方は、水素原子又は低級アルキル基である。R
3〜R
12は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、シリル基、ボリル基である。ARは、任意の芳香環であり、あってもなくてもよい。一般式(2)又は(3)中においてR
3が複数存在する場合は、同一でも異なっていてもよく、一般式(2)又は(3)中においてR
4が複数存在する場合は、同一でも異なっていてもよい。
【0025】
一般式(1)中のC
1又はC
2が一般式(2)又は一般式(3)で表される原子団である場合、C
1中のE、AR、n及びR
1〜R
12と、C
2中のE、AR、n及びR
1〜R
12とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0026】
第1のプローブ及び第3のプローブは、それぞれ、標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子を、ドナー蛍光物質で標識させることにより得られる。同様に、第2のプローブは、標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子を、アクセプター蛍光物質で標識させることにより得られる。各プローブは、ドナー蛍光物質又はアクセプター蛍光物質を、標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子に直接結合させてもよく、リンカーを介して間接的に結合させてもよい。当該リンカーとしては、例えば、1〜10塩基長の一本鎖核酸分子が挙げられる。ドナー蛍光物質又はアクセプター蛍光物質と標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子又はリンカーとの結合は、常法により行うことができる。
【0027】
各プローブ中の標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基配列は、標的核酸分子の塩基配列情報に基づいて設計される。設計には、汎用されているプライマー/プローブ設計ソフトウェア等を用いることもできる。
【0028】
第1のプローブ、第2のプローブ、及び第3のプローブは、標的核酸分子と、第3のプローブが第2のプローブに対して第1のプローブとは反対側に配置されるように会合体を形成させる。このため、標的核酸分子中、第2のプローブと会合する領域(
図1中、「R2」)が、第1のプローブと会合する領域(
図1中、「R1」)と第3のプローブと会合する領域(
図1中、「R3」)の間になるように、各プローブの標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基配列を設計する。標的核酸分子中、第2のプローブと会合する領域と第1のプローブと会合する領域は、隣接していてもよく、1〜5塩基離れていてもよい。同様に、標的核酸分子中、第2のプローブと会合する領域と第3のプローブと会合する領域は、隣接していてもよく、1〜5塩基離れていてもよい。
【0029】
標的核酸分子と3種のプローブとの会合体において、第1のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間、及び第3のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間に、FRETが生じる必要がある。このため、標的核酸分子中、第1のプローブと会合する領域と第2のプローブと会合する領域と第3のプローブと会合する領域は、第1のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間の距離がFRETが起こるために充分に短くなるように、かつ第3のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間の距離がFRETが起こるために充分に短くなるように、設計する。例えば、標的核酸分子中の第1のプローブと会合する領域と第2のプローブと会合する領域を、第1のプローブ中のドナー蛍光物質が結合している塩基が会合する標的核酸分子中の塩基と、第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質が結合している塩基が会合する標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下、好ましくは6塩基以下、より好ましくは4塩基以下となるように設計する。同様に、標的核酸分子中の第3のプローブと会合する領域と第2のプローブと会合する領域を、第3のプローブ中のドナー蛍光物質が結合している塩基が会合する標的核酸分子中の塩基と、第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質が結合している塩基が会合する標的核酸分子中の塩基との距離が、8塩基以下、好ましくは6塩基以下、より好ましくは4塩基以下となるように設計する。このため、第2のプローブにおいては、アクセプター蛍光物質が結合している塩基はプローブの中央又はその付近にあることが好ましく、塩基長が5〜17塩基であることが好ましい。
【0030】
各プローブ中の標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基配列は、標的核酸分子の目的の領域に特異的に会合可能な配列であればよい。例えば、第1のプローブ中の標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基配列は、標的核酸分子において設計された第1のプローブと会合する領域と相補的な配列であることが好ましいが、当該領域の塩基配列と相補的な配列に対して1〜5塩基を置換、欠失、又は挿入したミスマッチのある配列であってもよい。同様に、第2のプローブ及び第3のプローブにおいても、標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基配列は、それぞれ、標的核酸分子において設計された第2のプローブと会合する領域及び第3のプローブと会合する領域と相補的な配列であることが好ましいが、当該領域の塩基配列と相補的な配列に対して1〜5塩基を置換、欠失、又は挿入したミスマッチのある配列であってもよい。
【0031】
第1のプローブと第3のプローブにおける標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子の塩基長は、標的核酸分子の目的の領域と特異的に会合できる長さであれば特に限定されるものではなく、一般的なプローブと同様とすることができる。具体的には、例えば、15〜50塩基とすることができ、15〜35塩基とすることが好ましい。
【0032】
標的核酸分子は、DNAやRNA、2'−O−methyl RNAのような天然型ヌクレオチドのみからなるものであってもよく、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に含む人工核酸分子であってもよい。
【0033】
各プローブにおける標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子は、DNAやRNA、2'−O−methyl RNAのような天然型ヌクレオチドのみからなるものであってもよく、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に含む人工核酸分子であってもよい。
【0034】
「人工的ヌクレオチド」とは、人工的に合成されたヌクレオチドであって、天然型ヌクレオチドとは構造が異なるが、天然型ヌクレオチドと同様に機能し得るものを意味する。ここで、「天然型ヌクレオチドと同様に機能し得る」とは、天然型ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合等により核酸分子を形成することができることを意味する。
【0035】
このような人工的ヌクレオチドとしては、例えば、BNA(Bridged nucleic acid)、ENA(2’−O,4’−C−エチレン−架橋化核酸)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、HNA(Hexitol Nucleic Acid)等が挙げられる。BNAは、天然型ヌクレオチドの一部が架橋化された核酸であり、リボース環の2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して結合している架橋された人工的ヌクレオチドであるLNA(Locked nucleic acid)を含む。
【0036】
特に、第2のプローブ中の標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子は比較的塩基長が短いため、標的核酸分子の目的の領域と特異的に会合させるために、LNAやENA等のような人工的に認識能を高めた人工的ヌクレオチドを含むことが好ましい。
【0037】
本発明に係る検出方法は、下記工程(a)〜(c)を有する。
(a)核酸含有試料に、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブを混合し、試料溶液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)において調製された試料溶液中の標的核酸分子を、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブと会合させて前記第1のプローブと前記第2のプローブと前記第3のプローブと前記標的核酸分子とからなる会合体を形成する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射し、前記標的核酸分子を、前記会合体中の前記第2の蛍光物質から放出された蛍光を指標として検出する工程。
【0038】
本発明において標的核酸分子とは、検出の標的である特定の塩基配列(標的塩基配列)を有する核酸分子を意味する。当該標的核酸分子としては、第1のプローブ等の設計が可能な程度に塩基配列情報が明らかになっているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、動物や植物の染色体や、細菌やウィルスの遺伝子に存在する塩基配列を有する核酸分子であってもよく、人工的に設計された塩基配列を有する核酸分子であってもよい。なお、本発明において、標的核酸分子としては、二本鎖核酸であってもよく、一本鎖核酸であってもよい。また、DNAとRNAのいずれであってもよい。該標的核酸分子として、例えば、mRNA、hnRNA、ゲノムDNA、PCR増幅等による合成DNA、RNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNA等がある。
【0039】
また、本発明において核酸含有試料とは、核酸分子を含有する試料であれば、特に限定されるものではない。当該核酸含有試料として、例えば、動物等から採取した生体試料、培養細胞等から調製された試料、核酸合成反応後の反応溶液等が挙げられる。核酸含有試料は、生体試料等そのものであってもよく、生体試料等から抽出・精製した核酸溶液でもよい。
【0040】
まず、工程(a)として、核酸含有試料と3種の前記プローブを混合して試料溶液を調製する。この際、必要に応じて適当な溶媒を添加してもよい。当該溶媒は、ドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質との間のFRETやアクセプター蛍光物質から発される蛍光の検出を阻害しない溶媒であれば、特に限定されるものではなく、当該技術分野において一般的に用いられているバッファーの中から、適宜選択して用いることができる。当該バッファーとして、例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)等のリン酸バッファーやトリスバッファー等がある。
【0041】
その他、各プローブと標的核酸分子以外の核酸分子との非特異的な会合を抑制するために、予め試料溶液中に、界面活性剤、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又は尿素等を添加しておくことも好ましい。これらの化合物は、1種のみを添加してもよく、2種類以上を組み合わせて添加してもよい。これらの化合物を添加しておくことにより、比較的低い温度環境下において、非特異的な会合を起こりにくくすることができる。
【0042】
次いで工程(b)として、前記工程(a)において調製された試料溶液中の標的核酸分子を、前記3種のプローブと会合させて会合体を形成する。標的核酸分子と各プローブを特異的に会合させるために、まず、試料溶液中の核酸分子を全て変性させた後、会合体を形成させる。
【0043】
本発明において、「核酸分子を変性させる」とは、塩基対を解離させることを意味する。本発明においては、ドナー蛍光物質やアクセプター蛍光物質への影響が比較的小さいことから、高温処理による変性(熱変性)又は低塩濃度処理による変性を行うことが好ましい。中でも、操作が簡便であるため、熱変性を行うことが好ましい。変性条件は、標的核酸分子や各プローブの塩基配列や塩基長に依存する。例えば、熱変性は、一般的には、当該試料溶液を、標的核酸分子やプローブがDNAの場合は90〜100℃、RNAの場合は70℃で数秒間から2分間程度、保温することによって変性させることができる。一方、低塩濃度処理による変性は、例えば、精製水等により希釈することによって、当該試料溶液の塩濃度が十分に低くなるように調整することによって行うことができる。
【0044】
熱変性を行った場合には、高温処理後、当該試料溶液の温度を、標的核酸分子と各プローブが会合可能な温度にまで低下させることにより、当該試料溶液中の標的核酸分子と第1のプローブと第2のプローブと第3のプローブとの会合体を形成させることができる。具体的には、各プローブ中の標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子のTm値(二本鎖DNAの50%が一本鎖DNAに解離する温度)±3℃の温度程度まで低下させる。標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子のTm値が各プローブで異なる場合には、最も低温のTm値±3℃の温度程度まで低下させる。一方、低塩濃度処理による変性を行った場合にも、同様に、低塩濃度処理後、塩溶液を添加する等により、当該試料溶液の塩濃度を、標的核酸分子と各プローブが会合可能な濃度にまで上昇させることにより、当該試料溶液中の標的核酸分子と第1のプローブと第2のプローブと第3のプローブとの会合体を形成させることができる。各プローブの標的核酸分子と会合する一本鎖核酸分子のTm値は、汎用されているプライマー/プローブ設計ソフトウェア等を用いることにより算出することができる。
【0045】
工程(b)の後、工程(c)として、試料溶液にドナー蛍光物質の励起波長の光を放射し、アクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光を検出する。当該試料溶液中の標的核酸分子と第1のプローブと第2のプローブと第3のプローブとの会合体にドナー蛍光物質の励起波長の光が照射されると、第1のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間及び第3のプローブ中のドナー蛍光物質と第2のプローブ中のアクセプター蛍光物質との間にFRETが起こるため、当該会合体からは、アクセプター蛍光物質から蛍光が放出される。つまり、ドナー蛍光物質の励起波長の光を放出して検出されるアクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光シグナルを測定することにより、標的核酸分子と第1のプローブと第2のプローブと第3のプローブとの会合体を検出することができる。核酸含有試料に標的核酸分子が含まれていた場合には、ドナー蛍光物質の励起波長の光を放射した場合に、アクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光が検出される。一方で、核酸含有試料に標的核酸分子が含まれていなかった場合には、ドナー蛍光物質の励起波長の光を放射した場合に、アクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光は検出されない。
【0046】
試料溶液中の標的核酸分子を含む会合体から放出されるアクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光シグナルの測定方法は特に限定されるものではなく、試料溶液全体の蛍光強度を測定する方法であってもよく、試料溶液中の蛍光を発する分子を一分子ごとに検出して測定する方法であってもよい。
【0047】
試料溶液の蛍光強度は、蛍光プレートリーダー等の蛍光分光光度計等を用いて常法により測定することができる。試料溶液のアクセプター蛍光物質の蛍光波長の蛍光強度は、当該試料溶液中に含まれている標的核酸分子と3種のプローブとの会合体の量に依存する。このため、例えば、予め検出対象であるアクセプター蛍光物質の量と蛍光強度との関係を示す検量線を作成しておくことにより、試料溶液中の標的核酸分子を含む会合体の量、すなわち、核酸含有試料中の標的核酸分子の量を定量することができる。
【0048】
試料溶液中の一分子ごとに蛍光シグナルを測定する方法としては、走査分子計数法(Scanning single-molecule counting,SSMC)(国際公開第2012/102260号)、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy,FCS)、蛍光強度分布解析法(Fluorecscence Intensity Distribution Analysis,FIDA)、及び蛍光偏光強度分布解析法(FIDA polarization,FIDA−PO)が挙げられる。中でも、1つのドナープローブを用いる従来の方法に比べて標的核酸分子の検出効率をより顕著に高められることから、SSMCにより測定することが好ましい。
【0049】
なお、このような1分子の蛍光シグナルの検出及び解析は、例えば、MF20(オリンパス社製)等の公知の一分子蛍光分析システム等を用いて、常法により行うことができる。
【0050】
また、2つのドナープローブ(第1のプローブと第3のプローブ)と1つのアクセプタープローブ(第2のプローブ)と標的核酸分子とにより形成された会合体は、1つのドナープローブ(第1のプローブ又は第3のプローブ)と1つのアクセプタープローブ(第2のプローブ)と標的核酸分子とにより形成された会合体よりも、FRETによりアクセプターから放出される蛍光の輝度が強い。この輝度の強さの違いを利用して、本発明に係る検出方法では、塩基配列が類似した2種類の標的核酸分子(第1の標的核酸分子と第2の標的核酸分子)を区別して検出することもできる。
【0051】
具体的には、まず、前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブを、第1の標的核酸分子にはこの3種のプローブが全て会合して会合体を形成し得るが、第2の標的核酸分子は、前記第2のプローブと会合するものの、前記第1のプローブと前記第3のプローブはどちらか一方のみとしか会合しないように設計する。前記工程(a)に供される前記核酸含有試料に、第1の標的核酸分子と第2の標的核酸分子が含まれている場合には、前記工程(b)において、工程(a)で調製された試料溶液中で、前記第1の標的核酸分子と、前記第1のプローブと、前記第2のプローブと、前記第3のプローブとを会合させた第1の会合体と、前記第2の標的核酸分子と、前記第2のプローブと、前記第1のプローブ及び前記第3のプローブのいずれか一方とを会合させた第2の会合体が、それぞれ形成される。
【0052】
続いて、工程(c)において、前記試料溶液に、前記第1の蛍光物質の励起波長の光を放射すると、会合体中のアクセプターから放出される蛍光の輝度は、会合体中に1つのドナープローブしか含まれていない第2の会合体よりも、会合体中に2つのドナープローブを含む第1の会合体のほうが強い。そこで、一分子の会合体中のアクセプター(第2の蛍光物質)から放出された蛍光の輝度を指標として、第1の会合体に含まれている第1の標的核酸分子と、第2の会合体に含まれている第2の標的核酸分子を、区別して検出することができる。試料溶液中の一分子ごとに蛍光シグナルを測定した場合、FRETによりアクセプターから放出された蛍光の輝度がより明るい分子が第1の標的核酸分子を含む第1の会合体であり、より暗い分子が第2の標的核酸分子を含む第2の会合体である。アクセプターから放出された蛍光の輝度値を指標として、第1の会合体と第2の会合体を区別して検出した場合には、試料溶液中の第1の標的核酸分子の分子数と第2の標的核酸分子の分子数とから、試料溶液中の第1の標的核酸分子と第2の標的核酸分子の存在比を算出することもできる。
【0053】
本発明に係る検出方法を遺伝子多型の検出に利用することもできる。例えば、 遺伝子多型のうち、変異型を第1の標的核酸分子とし、野生型を第2の標的核酸分子として、前記第1のプローブと前記第2のプローブを、野生型と変異型で塩基配列が共通する領域に会合するように設計し、第3のプローブを変異型である第1の標的核酸分子とは会合するが、野生型である第2の標的核酸分子とは会合しないように設計する。これにより、野生型の標的核酸分子を含む会合体は蛍光輝度の弱い分子として検出され、変異型の標的核酸分子を含む会合体は蛍光輝度の強い分子として検出される。また、得られた検出結果に基づき、核酸含有試料中の変異型の核酸分子と野生型の核酸分子との存在比を求めることもできる。
【0054】
前記第1のプローブ、前記第2のプローブ、及び前記第3のプローブをセットにすることも好ましい。これらの3種のプローブを含むプローブセットにより、本発明に係る検出方法をより容易かつ簡便に実施することができる。当該プローブセットに、本発明に係る検出方法に使用する各種試薬や機器等をキット化することも好ましい。当該キットには、前記プローブの他に、試料溶液を調製するために用いられる各種バッファーや、変性処理や会合体形成に使用される恒温装置付インキュベーター等を含ませることができる。
【実施例】
【0055】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
任意の濃度の標的核酸分子を、2つのドナープローブと1つのアクセプタープローブを用いて検出した。
【0057】
<1> 2つのドナープローブと1つのアクセプタープローブと標的DNAとの会合体の形成
終濃度0〜100mMの標的DNA(5’−AGAGCTACGAGCTGCCTGACGGCCAGGTCATCACCATTGGCAATGAGCGGTTC−3’、配列番号1)、終濃度20nMのドナープローブa(5’−GAACCGCTCATTGCCAATGGTGATG−3’、配列番号2、2番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)、終濃度20nMのドナープローブb(5’−GTCAGGCAGCTCGTAGCTCTTCTCC−3’、配列番号3、2番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)、終濃度20nMのアクセプタープローブa(5’−ACCTGGCC−3’、配列番号4、4番目のTに蛍光物質ATTO633が修飾されたプローブ。4番目のT以外の塩基はENAである。)となるように反応用バッファー(10mM Tris−HCl、400mM NaCl、0.05% Triton X−100)に溶解させ、試料溶液(試料溶液1−1)を調製した。調製された試料溶液1−1を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0058】
<2> 1つのドナープローブと1つのアクセプタープローブと標的DNAとの会合体の形成
ドナープローブbを混合せず、アクセプタープローブとしてアクセプタープローブaに代えてアクセプタープローブb(5’−ACCTGGCCGTCAGGCAGCTCGTAGCTCT−3’、配列番号5、5’末端に蛍光物質ATTO633が修飾されたプローブ。)を用いた以外は、前記<1>と同様にして試料溶液(試料溶液1−2)を調製し、調製された試料溶液1−2を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0059】
<3> SSMCによる試料溶液中の会合体の測定
前記<1>及び<2>で調製した試料溶液中の標的DNAを含む会合体を、SSMCにより測定した。具体的には、各試料溶液に対してそれぞれ、共焦点蛍光顕微鏡の光学系とフォトンカウンティングシステムを備えた一分子蛍光測定装置MF−20(オリンパス株式会社)を用いて測定を行い、時系列光強度データ(フォトンカウントデータ)を取得した。試料溶液を、チアゾールオレンジの励起波長である488nm、300μWのレーザーで励起し、バンドパスフィルターを用いて、ATTO633の蛍光波長である600〜660nmの蛍光を検出した。試料溶液中に於ける光検出領域は、15mm/秒の移動速度にて移動させ、20秒間の測定を行った。また、BIN TIMEを10μ秒とし、測定によって得られた時系列光強度データをスムージング後、微分によりピークの検出を行った。ピークとみなされた領域のうち、ガウス関数に近似でき、強度が0.8以上となるもののピーク強度を抽出した。
【0060】
各試料溶液の蛍光輝度の測定結果を
図2に示す。この結果、どちらの試料溶液においても、ATTO633の蛍光波長の蛍光輝度は、標的DNAの濃度依存的に高くなる傾向が観察された。特に、標的DNAの濃度が30nMで蛍光輝度が飽和しており、全てのプローブが標的DNAと会合体を形成したと考えられた。各試料溶液の蛍光輝度を比較すると、飽和点(標的DNAの濃度が30nMの試料溶液)において、ドナープローブを2つ用いた試料溶液1−1では、ドナープローブを1つ用いた試料溶液1−2に対して、蛍光輝度が2倍程度となっていた。従って、1つのアクセプタープローブに対してドナープローブを2つ配置することにより、蛍光輝度が増加することが示された。
【0061】
また、SSMCにより測定された各試料溶液中の会合体の分子数の測定結果を
図3に示す。SSMCにおける検出分子数は、飽和点(標的DNAの濃度:30nM)において、ドナープローブを2つ用いた試料溶液1−1では、ドナープローブを1つ用いた試料溶液1−2に対して、蛍光輝度が10倍になった。1分子あたりの蛍光強度が増加したことにより、1分子の検出効率が向上したためであると考えられた。
【0062】
[参考例1]
標的核酸分子を、複数のドナープローブをアクセプタープローブに対して同じ側にタンデムに会合させて検出した。
【0063】
標的DNAとして、標的DNA−1(5’−AACTATACAACGGGCTGAA−3’、配列番号6)、標的DNA−2(5’−AACTATACAACGGGCTGAAGGGCTGAA−3’、配列番号7)、標的DNA−3(5’−AACTATACAACGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAA−3’、配列番号8)、標的DNA−4(5’−AACTATACAACGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAA−3’、配列番号9)、標的DNA−5(5’−AACTATACAACGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAAGGGCTGAA−3’、配列番号10)を用いた。標的DNA−1〜標的DNA−5は、それぞれ、ドナープローブが1〜5個、アクセプタープローブに対して同じ方向になるように会合する。
【0064】
終濃度10mMの各標的DNA、終濃度20nMのドナープローブ(5’−TTCAGCCC−3’、配列番号11、5番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)、終濃度20nMのアクセプタープローブ(5’−GTTGTATAGTT−3’、配列番号12、5’末端に蛍光物質ATTO633が修飾されたプローブ。)となるように反応用バッファー(10mM Tris−HCl、400mM NaCl、0.05% Triton X−100)に溶解させ、試料溶液を調製した。標的DNA−1〜標的DNA−5を含有する試料溶液を、それぞれ試料溶液2−1〜試料溶液2−5とした。対照として、標的DNAを添加しない以外は同様にして調製した試料溶液を試料溶液2−0とした。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0065】
その後、各試料溶液中の標的DNAを含む会合体を、実施例1の<3>と同様にしてSSMCにより測定した。各試料溶液の蛍光輝度の測定結果を
図4に、SSMCにより測定された各試料溶液中の会合体の分子数の測定結果を
図5に、それぞれ示す。
図4及び5中、「N」は試料溶液2−0の結果を、「1−repeat」〜「5−repeat」はそれぞれ試料溶液2−1〜試料溶液2−5の結果を示す。この結果、いずれの標的DNAを用いた場合でも、標的DNA無添加(図中、「N」)に比べて蛍光輝度が増加していたが、試料溶液2−1〜試料溶液2−5では蛍光輝度に差はなかった(
図4)。従って、アクセプタープローブの片側にドナープローブを複数配置しても、会合体から放出される蛍光輝度は増加しないことが示された。また、
図5に示すように、検出分子数に関しても同様の挙動が示された。すなわち、実施例1のようにアクセプタープローブの両側にドナープローブを配置しなければ、蛍光輝度増加の効果が得られないことが明らかとなった。
【0066】
[参考例2]
アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、アクセプタープローブとドナープローブと標的核酸分子との会合体におけるFRETの効率に与える影響を調べた。
【0067】
<1> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の1塩基分となる会合体の形成
終濃度20mMの標的DNA−1(5’−TGAGGTAGTAGGTTGTATAGTT−3’、配列番号13)、終濃度20nMのドナープローブ−1(5’−CTACTACCTCA−3’、配列番号14、2番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)、終濃度20nMのアクセプタープローブ−1(5’−AACTATACAAC−3’、配列番号15、3’末端に蛍光物質ATTO633が修飾されたプローブ。)となるように反応用バッファー(10mM Tris−HCl、400mM NaCl、0.05% Triton X−100)に溶解させ、試料溶液(試料溶液3−1)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0068】
<2> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の4塩基分となる会合体の形成
ドナープローブとして、ドナープローブ−1に代えてドナープローブ−2(5’−CTACTACCTCA−3’、配列番号14、5番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)を用いた以外は前記<1>と同様にして、試料溶液(試料溶液3−2)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0069】
<3> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の8塩基分となる会合体の形成
ドナープローブとして、ドナープローブ−1に代えてドナープローブ−3(5’−CTACTACCTCA−3’、配列番号14、9番目のTに、チアゾールオレンジが2つついた蛍光原子団が修飾されたプローブ)を用いた以外は前記<1>と同様にして、試料溶液(試料溶液3−3)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0070】
<4> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の13塩基分となる会合体の形成
標的核酸分子として、標的DNA−1に代えて標的DNA−2(5’−GTTGTATAGTTTGAGGTAGTAG−3’、配列番号16)を用いた以外は前記<3>と同様にして、試料溶液(試料溶液3−4)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0071】
<5> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の17塩基分となる会合体の形成
標的核酸分子として、標的DNA−1に代えて標的DNA−2を用いた以外は前記<2>と同様にして、試料溶液(試料溶液3−5)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0072】
<6> アクセプター蛍光物質とドナー蛍光物質の距離が、標的核酸分子上の20塩基分となる会合体の形成
標的核酸分子として、標的DNA−1に代えて標的DNA−2を用いた以外は前記<1>と同様にして、試料溶液(試料溶液3−6)を調製した。次いで、各試料溶液を、サーマルサイクラーを用いて95℃で10秒間インキュベートした後、25℃まで温度を落とし30分間インキュベートした。
【0073】
<7> SSMCによる試料溶液中の会合体の測定
各試料溶液中の標的DNAを含む会合体を、実施例1の<3>と同様にしてSSMCにより測定した。
【0074】
SSMCにより測定された各試料溶液中の会合体の分子数の測定結果を
図6に示す。図中、「1塩基」、「4塩基」、「8塩基」、「13塩基」、「17塩基」、及び「20塩基」はそれぞれ試料溶液3−1〜試料溶液3−6の結果を示す。
図6に示すように、試料溶液3−2で最大の検出分子数を示し、試料溶液3−3では、試料溶液3−2の検出分子数の10%以上の検出分子数を維持していたが、試料溶液3−4〜試料溶液3−6では検出分子数が明らかに少なかった。これらの結果から、標的DNAにおいて、ドナープローブ中のドナー蛍光物質が結合している塩基が会合する塩基と、アクセプタープローブ中のアクセプター蛍光物質が結合している塩基が会合する塩基との距離(色素間距離)が標的核酸分子の検出効率に影響すること、色素間距離が長いほど標的核酸分子の検出効率は低下すること、色素間距離が短い分には検出分子数の低下は小さく、FRETの制限はないと考えられること、色素間距離は8塩基以下が好ましいこと、がわかった。