【実施例】
【0062】
以下実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、本発明の第一の態様における実施例を示す。
【0063】
[実施例1〜6、比較例1〜3]皮膚貼付用粘着シートの調製
表1に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分については、下記の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物
(a)KRAYTON D1111(表1中、「D111」と略記);クレイトン・ポリマーズ社製、SIS/SI比(重量比)=85/15、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.2Pa・s
(b)KRAYTON D1119(表1中、「D119」と略記);クレイトン・ポリマーズ社製、SIS/SI比(重量比)=34/66、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=0.34Pa・s
(c)Quintac3520(表1中、「QTC3520」と略記);日本ゼオン株式会社製、SIS/SI比(重量比)=22/78、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.1Pa・s
(d)JSR SIS5505(表1中、「5505」と略記);JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=50/50、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.05Pa・s
(2)ポリイソブチレン
(a)低分子量ポリイソブチレン:Oppanol B10SFN(表1中、「B10SFN」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=40,000
(b)中分子量ポリイソブチレン:Oppanol B50SF(表1中、「B50SF」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=400,000
(3)不揮発性炭化水素油:流動パラフィン
(a)KAYDOL;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=67mm
2/s
(b)Hydrobrite HV;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=247mm
2/s
【0064】
まず、ポリイソブチレンを、熱可塑性エラストマー、ポリイソブチレン及び流動パラフィンの合計量100重量部に対し70重量部のトルエンに溶解した。前記溶液に、さらに、熱可塑性エラストマーを溶解した後、流動パラフィンを加えて混合撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
上記塗液を、乾燥後の粘着剤層の厚さが約400μmとなるように、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に塗布した。100℃のオーブンにて40分間乾燥した後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の皮膚貼付用粘着シートを得た。
【0065】
【表1】
【0066】
[比較例4]シリコーン系皮膚貼付用粘着シートの調製
国際公開第2007/064407号の[実施例]に記載の方法に準じて、乾燥後の組成が、下記組成となるように塗液を調製し、乾燥後の単位面積当たりの重量が90g/m
2となるように、テフロン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に塗布し、乾燥した。
該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の皮膚貼付用粘着シートを得た。
<塗液組成>
シリコーン系粘着剤(「Bio−PSA
Q7−4301」、ダウコーニング社製) 98.9(重量%)
シリコーン油 1.0
ビタミンE 0.1
【0067】
[試験例1]粘着物性試験
(1)試料の調製
実施例1〜6および比較例1〜4の皮膚貼付用粘着シートを、それぞれ25mm×100mmに裁断し、試料とした。
(2)対ステンレス(SUS)剥離強度
日本工業規格(JIS) Z0237:2009に準拠し、各試料をステンレス(SUS304)板に貼付し、IMADA社製電動計測スタンドMX2−500N、およびデジタルフォースゲージZP−50Nにて、180°方向に300mm/minの速度で剥離した際の応力を測定した。
(3)対ヒト剥離強度
JIS Z0237:2009に準拠し、各試料を健常ボランティア前腕内側に貼付し、IMADA社製電動計測スタンドMX2−500N、およびデジタルフォースゲージZP−50Nにて、90°方向に300mm/minの速度で剥離した際の応力を測定した。
また、試料を剥離した際の痛みについて、次の基準で評価した。
<評価基準>
0:ほとんど痛さを感じない。
1:僅かに痛さを感じる。
2:かなり痛く感じる。
【0068】
[試験例2]皮膚一次刺激性試験
実施例1〜6および比較例1〜4の皮膚貼付用粘着シートを、それぞれ2.5cm角に裁断して、試料とした。
貼付開始日の3日前にkbs:JW雌性家兎(17週齢)の背部被毛を電気バリカンで毛刈りし、各試料を皮膚に貼付した(それぞれn=3)。貼付場所を覆うように油紙を載せ、胸部から腹部全体にかけてアンダーラップテープ(ニチバン株式会社製)を覆うように巻き付け、さらに家兎用ジャケット(「BJ03」、バイオリサーチセンター株式会社製)を装着させた。24時間固定後、試料を除去し、除去後1時間目、24時間目、48時間目、および72時間目にJ.Pharmacol.Exp.Ther.82,377−390(1944)に記載の方法に基づき、皮膚刺激反応の程度を評価した。
【0069】
すなわち、試料除去後、上記各時間経過後において、紅斑および痂皮形成ならびに浮腫形成について下記評価基準に従って評価し、点数化した。各評価点の平均値を求め一次評価値を算出し、前記各時間経過後の平均評価値について各家兎の平均値を求めて、一次刺激性指数P.I.I.(Primary Irritation Index)とした。P.I.I.値は最低0、最高8となり、表2に示す4つの皮膚一次刺激反応のカテゴリーに区分される。
【0070】
<皮膚刺激反応の評価基準>
[紅斑および痂皮の形成]
紅斑を認めない;0点
非常に軽度な(かろうじて識別できる程度の)紅斑を認める;1点
明確な紅斑を認める;2点
中等度ないし高度の紅斑を認める;3点
高度の紅斑から紅斑の採点を妨げる程度の痂皮の形成を認める;4点
[浮腫の形成]
浮腫を認めない;0点
非常に軽度な(かろうじて識別できる程度の)浮腫を認める;1点
軽度の浮腫を認める(はっきりした膨隆による明確な縁が識別できる);2点
中等度の浮腫(約1mmの膨隆)を認める;3点
高度の浮腫(1mm以上の膨隆と曝露範囲を超えた広がり)を認める;4点
【0071】
【表2】
【0072】
上記試験の結果を表3にまとめて示した。
なお、比較例2、3の皮膚貼付用粘着シートでは、粘着剤層が安定に維持されず、上記試験を行うことができなかった。
【0073】
【表3】
【0074】
表3より、不揮発性炭化水素油の含有量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して113重量部である本発明の実施例6では、粘着性は低いものの、糊残りや皮膚刺激は認められなかった。本発明の実施例1〜5の各粘着シートは、粘着物性において、比較例4のシリコーン系粘着シートに比べて、ステンレスに対する剥離強度は低いものの、ヒトに対する剥離強度においては同等レベル以上の適度な粘着性を示すことが明らかとなった。一方で、比較例4のシリコーン系粘着シートと比較して、皮膚刺激性が低いことが認められた。また、特に動粘度の高い流動パラフィンや、ジブロック共重合体の含有量の高い熱可塑性エラストマーを用いた皮膚貼付用粘着シート(実施例1〜5)において、高い粘着性が認められた。
【0075】
[実施例7〜11]皮膚貼付用粘着シートの調製
表4に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分は、次の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物):「JSR SIS5505」(表1中、「5505」と略記、JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=50/50、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.05Pa・s)
(2)中分子量ポリイソブチレン:「Oppanol B50SF」(表1中、「B50SF」と略記、BASF社製、粘度平均分子量=400,000)
(3)不揮発性炭化水素油(流動パラフィン):「Hydrobrite HV」(フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=247mm
2/s)
【0076】
まず、中分子量ポリイソブチレンを、熱可塑性エラストマー、ポリイソブチレン及び不揮発性炭化水素油の合計量100重量部に対し、表4に記載された量のヘプタンもしくはヘキサンに溶解した。前記溶液に、表4に記載された量の酢酸プロピルもしくは酢酸エチルを加え、さらに、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物を溶解した後、流動パラフィンを加えて混合撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
上記塗液をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に、乾燥後の粘着剤層が約400μmとなるように塗布した。表4に記載された条件で乾燥後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の皮膚貼付用粘着シートを得た。
【0077】
【表4】
【0078】
[試験例3]粘着物性、皮膚刺激性及び粘着剤層の状態の評価
上記試験例1及び2と同様に粘着物性及び皮膚一次刺激性を評価した結果を表5に示した。また、粘着剤層における気泡の発生の状況及びポリイソブチレンの分散状態についても観察し、観察結果を表5に併せて示した。
なお、粘着剤層の形成用塗液の調製時に、溶媒としてトルエンを用いて調製した実施例3の皮膚貼付用粘着シート、及び市販のリバスチグミンを含有する貼付製剤についても、同様に評価した。
【0079】
【表5】
【0080】
表5に示されるように、粘着剤層形成用塗液の調製に使用する溶媒によって、粘着剤層における気泡の発生状況が異なり、特にヘキサン/酢酸エチル混合溶媒を使用した場合、気泡が多く発生した。また、ヘプタン/酢酸プロピル混合溶媒またはヘキサン/酢酸エチル混合溶媒を使用した場合、溶媒の混合比により、粘着剤層におけるポリイソブチレンの分散状態が異なり、炭化水素系溶媒と酢酸エステル系溶媒の比率が同程度の場合、トルエンを溶媒として用いた場合と同様に、ポリイソブチレンは微細に分散し、その結果、糊残りが少なく良好な粘着性を示すことが明らかとなった。なお、酢酸エステルの混合比率が溶媒の全量に対し50重量%を超える場合、ポリイソブチレンが析出し、粘着剤層形成用塗液は得られなかった。
【0081】
[実施例12〜16、比較例5〜7]リバスチグミンを含有する経皮吸収製剤の調製
表6に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分は下記の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物
(a)KRAYTON D1111(表1中、「D111」と略記);クレイトン社製、SIS/SI比(重量比)=85/15、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.2Pa・s
(b)KRAYTON D1119(表1中、「D119」と略記);クレイトン社製、SIS/SI比(重量比)=34/66、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=0.34Pa・s
(c)JSR SIS5505(表1中、「5505」と略記);JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=50/50、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.05Pa・s
(2)ポリイソブチレン
(a)低分子量ポリイソブチレン:Oppanol B10SFN(表1中、「B10SFN」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=40,000
(b)中分子量ポリイソブチレン:Oppanol B50SF(表1中、「B50SF」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=400,000
(3)不揮発性炭化水素油:流動パラフィン
(a)KAYDOL;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=67mm
2/s
(b)Hydrobrite HV;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=247mm
2/s
【0082】
まず、ポリイソブチレンを、熱可塑性エラストマー、ポリイソブチレン、流動パラフィン及びリバスチグミンの合計量100重量部に対し70重量部のトルエンに溶解した。前記溶液に、さらに、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物を溶解した後、流動パラフィンおよびリバスチグミンを加えて混合撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
上記塗液をシリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に、乾燥後の粘着剤層中のリバスチグミン含有量が1.8mg/cm
2となるように塗布した。100℃のオーブンにて40分間乾燥後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の経皮吸収製剤を得た。
【0083】
【表6】
【0084】
[試験例4]粘着物性及び皮膚刺激性の評価
上記試験例1、2と同様に、粘着物性及び皮膚刺激性を評価した。なお、比較例6および7に関しては、表6に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取し上記方法でシートを調製したが、粘着剤層が安定に維持されず、評価を行うことができなかった。
【0085】
[試験例5]in vitro皮膚透過性試験
国際公開第2006/093139号に記載された方法に準じて、Wister系雄性ラット(5週齢)の腹部抽出皮膚を縦型フランツ拡散セルに装着した。実施例12〜16の各経皮吸収製剤および市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤(「イクセロンパッチ」、ノバルティスファーマ株式会社製)を、それぞれ面積1.0cm
2の円形に打ち抜いて試料とし、拡散セルのラット皮膚上に貼付した(n=3〜6)。レセプター側溶液には10体積%エタノール生理食塩水を用いて、経時的にレセプター溶液中のリバスチグミン含有量を、下記条件下に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
<HPLC測定条件>
HPLCシステム:高速液体クロマトグラフ(LC2010C)(株式会社島津製作所製)
カラム:ODS、4.6mmφ×15cm、5μm
カラム温度:25℃、
移動相:緩衝液/メタノール=50/50(容積比)、
(緩衝液;5.0mM 1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1体積%リン酸)
検出波長:220nm、
流量:0.8mL/min.
上記定量結果から、試料貼付後24時間にラット皮膚を透過したリバスチグミン量を求め、実施例12〜16の経皮吸収製剤と、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミンの皮膚透過量を比較し、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミン皮膚透過量を100とした場合の相対量にて示した。
【0086】
試験例4、5の評価結果を表7に併せて示した。
【0087】
【表7】
【0088】
表7より、本発明の実施例12〜16の各経皮吸収製剤は、市販の経皮吸収製剤と比較して同等以上の経皮吸収性を示し、かつヒトに対し、同等レベルの粘着性を示しながら、糊残り及び剥離時の痛みが抑制され、皮膚刺激性も低いことが認められた。
【0089】
[実施例17〜19]リバスチグミンを含有する経皮吸収製剤の調製
表8に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分は下記の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物):「JSR SIS5505」(表1中、「5505」と略記、JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=50/50、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.05Pa・s)
(2)中分子量ポリイソブチレン:「Oppanol B50SF」(表1中、「B50SF」と略記、BASF社製、粘度平均分子量=400,000)
(3)不揮発性炭化水素油(流動パラフィン):「Hydrobrite HV」(フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=247mm
2/s)
【0090】
まず、ポリイソブチレンを、熱可塑性エラストマー、ポリイソブチレン及び不揮発性炭化水素油の合計量100重量部に対し、表8に記載した溶媒(実施例18及び19についてはヘプタン又はヘキサン)に溶解した。前記溶液に、さらに(実施例18及び19については酢酸プロピル又は酢酸エチルを加えた後)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物を溶解した後、流動パラフィンおよびリバスチグミンを加えて混合、撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
【0091】
上記塗液を、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に、乾燥後の粘着剤層中のリバスチグミン含有量が1.8mg/cm
2となるように塗布した。100℃のオーブンにて35分間乾燥後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の経皮吸収製剤を得た。
【0092】
【表8】
【0093】
[試験例6]
上記試験例1と同様に粘着物性を評価した。なお、比較のため、市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤(「イクセロンパッチ」、ノバルティスファーマ株式会社製)につても、同様に評価した。
【0094】
[試験例7]in vitro皮膚透過性試験(ヒト摘出皮膚使用)
国際公開第2006/093139号に記載された方法に準じて、ヒト検体摘出皮膚を縦型フランツ拡散セルに装着した。実施例17〜19の各経皮吸収製剤および市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤(「イクセロンパッチ」、ノバルティスファーマ株式会社製)をそれぞれ面積1.0cm
2の円形に打ち抜いて試料とし、拡散セルのヒト皮膚上に貼付した(それぞれn=6)。レセプター側溶液には10体積%エタノール生理食塩水を用いて、経時的にレセプター溶液中のリバスチグミン含有量を、試験例5と同様にHPLCにより定量した。
上記定量結果から、試料貼付後24時間にヒト皮膚を透過したリバスチグミン量を求め、実施例17〜19の経皮吸収製剤と、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミンの皮膚透過量を比較し、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミン皮膚透過量を100とした場合の相対量にて示した。
【0095】
上記試験例6、7の評価結果を表9に併せて示した。
【0096】
【表9】
【0097】
表9に示されるように、本発明の実施例17〜19の各経皮吸収製剤は、ヒトに対しては、市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤と同程度の粘着性を示しながら、糊残りは認められず、剥離の際の痛みも認められなかった。また、ヒト皮膚透過性においても、市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤と比較して、同等以上の皮膚透過性が認められた。
【0098】
続いて、本発明の第二の態様における実施例を示す。
【0099】
[実施例20〜31、比較例8〜11]皮膚貼付用粘着シートの調製
表10に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分については、下記の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物
(a)KRAYTON D1111(表1中、「D111」と略記);クレイトン・ポリマーズ社製、SIS/SI比(重量比)=85/15、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.2Pa・s
(b)KRAYTON D1119(表1中、「D119」と略記);クレイトン・ポリマーズ社製、SIS/SI比(重量比)=34/66、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=0.34Pa・s
(c)Quintac3520(表1中、「QTC3520」と略記);日本ゼオン株式会社製、SIS/SI比(重量比)=22/78、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.1Pa・s
(d)JSR SIS5505(表1中、「5505」と略記);JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=50/50、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.05Pa・s
(e)JSR SIS5229(表1中、「5229」と略記);JSR株式会社製、SIS/SI比(重量比)=80/20、25重量%トルエン溶液の25℃における溶液粘度=1.5Pa・s
(2)ポリイソブチレン
(a)低分子量ポリイソブチレン:Oppanol B10SFN(表1中、「B10SFN」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=40,000
(b)低分子量ポリイソブチレン:Oppanol B15SFN(表1中、「B15SFN」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=85,000
(c)高分子量ポリイソブチレン:Oppanol B80(表1中、「B80」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=800,000
(d)高分子量ポリイソブチレン:Oppanol B100(表1中、「B100」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=1,110,000
(e)高分子量ポリイソブチレン:Oppanol B150(表1中、「B150」と略記);BASF社製、粘度平均分子量=2,600,000
(3)不揮発性炭化水素油:流動パラフィン
(a)KAYDOL;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=67mm
2/s
(b)Hydrobrite HV;フジケム ソネボーン社製、40℃における動粘度=247mm
2/s
【0100】
まず、ポリイソブチレンを、ポリイソブチレン、熱可塑性エラストマーおよび流動パラフィンの合計量100重量部に対し70重量部のトルエンに溶解した。前記溶液に、さらに、熱可塑性エラストマーを溶解した後、流動パラフィンを加えて混合撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
上記塗液を、乾燥後の粘着剤層の厚さが約400μmとなるように、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に塗布した。100℃のオーブンにて40分間乾燥した後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の皮膚貼付用粘着シートを得た。
【0101】
【表10】
【0102】
[比較例12]シリコーン系皮膚貼付用粘着シートの調製
国際公開第2007/064407号の[実施例]に記載の方法に準じて、乾燥後の組成が下記組成となるように塗液を調製し、乾燥後の単位面積当たりの重量が90g/m
2となるように、テフロン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に塗付して、乾燥した。
該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の皮膚貼付用粘着シートを得た。
<塗液組成>
シリコーン系粘着剤(「Bio−PSA
Q7−4301」、ダウコーニング社製) 98.9(重量%)
シリコーン油 1.0
ビタミンE 0.1
【0103】
[試験例8]粘着物性試験
(1)試料の調製
実施例20〜31および比較例8〜12の皮膚貼付用粘着シートを、それぞれ25mm×100mmに裁断し、試料とした。
(2)対ステンレス(SUS)剥離強度
JIS Z0237:2009に準拠し、各試料をステンレス(SUS304)板に貼付し、IMADA社製電動計測スタンドMX2−500N、およびデジタルフォースゲージZP−50Nにて、180°方向に300mm/minの速度で剥離した際の応力を測定した。
(3)対ヒト剥離強度
JIS Z0237:2009に準拠し、各試料を健常ボランティア前腕内側に貼付し、IMADA社製電動計測スタンドMX2−500N、およびデジタルフォースゲージZP−50Nにて、90°方向に300mm/minの速度で剥離した際の応力を測定した。
また、試料を剥離した際の痛みについて、次の基準で評価した。
<評価基準>
0:ほとんど痛さを感じない。
1:僅かに痛さを感じる。
2:かなり痛く感じる。
【0104】
[試験例9]皮膚一次刺激性試験
実施例20〜31および比較例8〜12の皮膚貼付用粘着シートを、それぞれ2.5cm角に裁断して、試料とした。
貼付開始日の3日前にkbs:JW雌性家兎(17週齢)の背部被毛を電気バリカンで毛刈りし、各試料を皮膚に貼付した(それぞれn=3)。貼付場所を覆うように油紙を載せ、胸部から腹部全体にかけてアンダーラップテープ(ニチバン株式会社製)を覆うように巻き付け、さらに家兎用ジャケット(「BJ03」、バイオリサーチセンター株式会社製)を装着させた。24時間固定後、試料を除去し、除去後1時間目、24時間目、48時間目、および72時間目にJ.Pharmacol.Exp.Ther.82,377−390(1944)に記載の方法に基づき、皮膚刺激反応の程度を評価した。
【0105】
すなわち、試料除去後、上記各時間経過後において、紅斑および痂皮形成ならびに浮腫形成について下記評価基準に従って評価し、点数化した。各評価点の平均値を求め一次評価値を算出し、前記各時間経過後の平均評価値について各家兎の平均値を求めて、一次刺激性指数P.I.I.(Primary Irritation Index)とした。P.I.I.値は最低0、最高8となり、上記表2に示す4つの皮膚一次刺激反応のカテゴリーに区分される。
【0106】
<皮膚刺激反応の評価基準>
[紅斑および痂皮の形成]
紅斑を認めない;0点
非常に軽度な(かろうじて識別できる程度の)紅斑を認める;1点
明確な紅斑を認める;2点
中等度ないし高度の紅斑を認める;3点
高度の紅斑から紅斑の採点を妨げる程度の痂皮の形成を認める;4点
[浮腫の形成]
浮腫を認めない;0点
非常に軽度な(かろうじて識別できる程度の)浮腫を認める;1点
軽度の浮腫を認める(はっきりした膨隆による明確な縁が識別できる);2点
中等度の浮腫(約1mmの膨隆)を認める;3点
高度の浮腫(1mm以上の膨隆と曝露範囲を超えた広がり)を認める;4点
【0107】
上記試験の結果を表11にまとめて示した。
なお、比較例10、11の皮膚貼付用粘着シートでは、粘着剤層が安定に維持されず、上記試験を行うことができなかった。
【0108】
【表11】
【0109】
表11より、本発明の実施例20〜31の各粘着シートは、粘着物性において、比較例12のシリコーン系粘着シートに比べて、ステンレスに対する剥離強度は低いものの、ヒトに対する剥離強度においてはほぼ同等またはそれ以上の適度な粘着性を示すことが明らかとなった。一方で、比較例12のシリコーン系粘着シートと比較して、皮膚刺激性が低いことが認められた。また、動粘度の高い流動パラフィンや、ジブロック共重合体の含有量の高い熱可塑性エラストマーを用いた皮膚貼付用粘着シート(実施例22〜31)において、粘着性が向上する傾向が認められた。ただし、熱可塑性エラストマーに対するポリイソブチレン含有量や、熱可塑性エラストマーに対する不揮発性炭化水素油含有量が高くなると、剥離時に糊残りが生じる傾向が見られた。
ポリイソブチレンを含有しない比較例8の粘着シート、および不揮発性炭化水素油の含有量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して120重量部以下である比較例9の粘着シートでは、ヒトに対して十分な粘着性が得られなかった、また、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、500重量部を超えるポリイソブチレンを含有する比較例10の粘着シート、および、800重量部を超える不揮発性炭化水素油を含有する比較例11の粘着シートでは、上述したように、粘着剤層を維持することが困難であった。
【0110】
[実施例32〜37、比較例13〜16]リバスチグミンを含有する経皮吸収製剤の調製
表12に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取した。粘着剤層の構成成分は下記の通りである。
(1)熱可塑性エラストマー
上記(a)〜(e)のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物を用いた。
(2)ポリイソブチレン
上記(a)、(b)の低分子量ポリイソブチレン、および(c)、(d)の高分子量ポリイソブチレンを用いた。
(3)不揮発性炭化水素油
上記(a)、(b)の流動パラフィンを用いた。
【0111】
まず、ポリイソブチレンを、ポリイソブチレン、熱可塑性エラストマー、流動パラフィンおよびリバスチグミンの合計量100重量部に対し70重量部のトルエンに溶解した。前記溶液に、さらに、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)/スチレン−イソプレンブロック共重合体(SI)混合物を溶解した後、流動パラフィンおよびリバスチグミンを加えて混合撹拌し、粘着剤層形成用の塗液を調製した。
次いで、上記塗液を、乾燥後の粘着剤層中のリバスチグミン含有量が1.8mg/cm
2となるように、シリコーン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(剥離ライナー)に塗布した。100℃のオーブンにて40分間乾燥した後、該粘着剤層の表面にPET製フィルム(支持体)をラミネートし、15cm×30cmの大きさに裁断して、目的の経皮吸収製剤を得た。
【0112】
【表12】
【0113】
[試験例10]粘着物性及び皮膚刺激性の評価
実施例32〜37および比較例13〜16の経皮吸収製剤について、上記試験例8と同様に粘着物性を評価し、実施例32〜37の経皮吸収製剤について、上記試験例9と同様に皮膚刺激性を評価した。また、市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤(ノバルティスファーマ製「イクセロンパッチ」)についても、同様に粘着物性および皮膚刺激性を評価した。
なお、比較例15および16に関しては、表12に示す処方に従って、粘着剤層を構成する各成分を秤取し上記方法でシートを調製したが、粘着剤層が安定に維持されず、上記評価を行うことができなかった。
【0114】
[試験例11]in vitro皮膚透過性試験
国際公開第2006/093139号に記載された方法に準じて、Wister系雄性ラット(5週齢)の腹部抽出皮膚を縦型フランツ拡散セルに装着した。実施例32〜37の各経皮吸収製剤、および上記市販のリバスチグミン含有経皮吸収製剤をそれぞれ面積1.0cm
2の円形に打ち抜いて試料とし、拡散セルのラット皮膚上に貼付した(n=3〜6)。レセプター側溶液には10体積%エタノール生理食塩水を用いて、経時的にレセプター溶液中のリバスチグミン含有量を、下記条件下に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
<HPLC測定条件>
HPLCシステム:高速液体クロマトグラフ(LC2010C)(株式会社島津製作所製)
カラム:ODS、4.6mmφ×15cm、5μm
カラム温度:25℃、
移動相:緩衝液/メタノール=50/50(容積比)、
(緩衝液;5.0mM 1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1体積%リン酸)
検出波長:220nm、
流量:0.8mL/min.
上記定量結果から、試料貼付後24時間にラット皮膚を透過したリバスチグミン量を求め、実施例32〜37の経皮吸収製剤と、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミンの皮膚透過量を比較し、市販の経皮吸収製剤のリバスチグミン皮膚透過量を100とした場合の相対量にて示した。
【0115】
試験例10、11の結果を表13に併せて示した。
【0116】
【表13】
【0117】
表13より、本発明の実施例32〜37の各経皮吸収製剤は、市販の経皮吸収製剤と比較して同等以上の経皮吸収性を示し、かつヒトに対し、同等レベルの粘着特性を示しながら、糊残り及び剥離時の痛みが抑制され、皮膚刺激性も低いことが認められた。