(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786787
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】水処理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/30 20060101AFI20201109BHJP
C02F 1/24 20060101ALI20201109BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
C02F3/30 A
C02F1/24 C
A01K63/04 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-205545(P2015-205545)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-77511(P2017-77511A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 高志
(72)【発明者】
【氏名】門田 克行
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−060872(JP,A)
【文献】
特開2004−249252(JP,A)
【文献】
特開平08−290194(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0084022(US,A1)
【文献】
特開2002−223667(JP,A)
【文献】
特開2005−046684(JP,A)
【文献】
特開2003−103297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/30
A01K 63/04
C02F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の飼育に使用される水貯留部に対する水の循環経路に配設され、導入される水中のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を微生物に吸収させて濃縮する、浸漬膜を備えた濃縮部と、
当該微生物と水とを泡沫分離によって分離する分離部と、
を一体に有する処理水槽を備え、
前記水貯留部内の溶存酸素量を調節するブロワをさらに備えたことを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
生物の飼育に使用される水貯留部に対する水の循環経路に配設され、導入される水中のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を、浸漬膜に濃縮された微生物に吸収させて濃縮する濃縮工程と、
当該微生物と水とを泡沫分離によって分離する分離工程と、
を同時に実施し、
前記水貯留部内の溶存酸素量をブロワによって調節する調節工程を含むことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムおよび方法に関し、詳しくは生物の飼育に使用される水貯留部、例えば魚介類の陸上養殖を行うための水槽に貯留される水を、循環させつつ浄化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚介類等を陸上養殖する際、養殖水槽という閉鎖環境では、排泄物に含まれているアンモニア態窒素の残留ないしは濃度の増大が問題となる。そこで、特許文献1には、養殖水槽に対して水の循環系を構成するとともに、循環の過程で硝化菌を利用した生物処理(好気処理)を行うことでアンモニア態窒素の除去を行う技術が開示されている。一方、特許文献2には、好気処理の後にさらに硝酸態窒素の脱窒を行うことが開示されている。硝酸態窒素は、毒性は低いものの、その濃度が高くなると飼育している魚介類等に弊害をもたらすので、特許文献2に開示された技術は有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−295939号公報
【特許文献2】特開2015−61513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示されているように、好気処理と脱窒処理という2段階の順次の処理を要するため、水槽などの水貯留部を含む循環系の大型化および維持費用の増大をもたらすものとなっていた。
【0005】
よって本発明は、水槽などの水貯留部を含む循環系の大型化および維持費用の増大を抑制し得る水処理システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明水処理システムは、
生物の飼育に使用される水貯留部に対する水の循環経路に配設され、導入される水中のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を
、浸漬膜に濃縮された微生物に吸収させて濃縮す
る濃縮部と、当該微生物と水とを泡沫分離によって分離する分離部と、を一体に有する処理水槽を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明水処理方法は、
生物の飼育に使用される水貯留部に対する水の循環経路に配設され、導入される水中のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を、浸漬膜に濃縮された微生物に吸収させて濃縮する濃縮工程と、当該微生物と水とを泡沫分離によって分離する分離工程と、を同時に実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濃縮部に繁殖している好気性菌および嫌気性菌を含む微生物にアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を取り込ませ、それらを濃縮した状態で効率よく分離することができるため、循環系の大型化および維持費用の増大を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を適用した水処理システムの一実施形態を模式的に示すブロック図である。
【
図2】本発明を適用した水処理システムの他の実施形態を模式的に示すブロック図である。
【
図3】本発明を適用した水処理システムの別の実施形態を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下に述べる実施の態様に限定されるものではない。
【0011】
なお、本発明の適用対象となる水貯留部には、陸上養殖用の水槽(養殖水槽)や生簀のほか、水族館・動物園の展示水槽や人工池、あるいは家庭で金魚や熱帯魚などの観賞用に使用される小型水槽などが含まれる。また、飼育対象となる生物には、魚類、貝類、甲殻類、鯨類等の海洋常在種、藻類など、海中にいることが常態である海棲生物だけでなく、海辺に棲息する生物、すなわちアシカ、オットセイ、ラッコ、ホッキョクグマ等の海獣類、あるいはペンギン、カメなども含まれ得る。
【0012】
(水処理システムの概要)
図1に示す水処理システムの一実施形態は、例えば魚類の養殖用の水槽に適用されるものであり、水貯留部すなわち水槽1から、浸漬膜処理と泡沫分離とを行う処理水槽3を経て、水槽1に還流する循環経路CMを含んでいる。
【0013】
処理水槽3には、濃縮部としての浸漬膜5および分離部としての泡沫分離部7が配設されている。浸漬膜5のろ材には、MF(精密ろ過)膜やUF(限外ろ過)膜を用いることができるほか、NF(ナノフィルタ)膜などを使用することも可能であり、適宜これらを併用してもよい。この浸漬膜5は、後述するブロワ9からの空気の導入に伴って発生する気泡により常時洗浄される。泡沫分離部7は、微細気泡の気液界面に吸着・濃縮された物質(微生物を含む)を、気泡とともに処理水槽3の上部の好ましい部位に誘導しつつ浮上させる。
【0014】
処理水槽3の底部および泡沫分離部7は膜処理部11に接続され、ポンプP2の駆動に伴って、処理水槽3の底部に沈殿したヘドロ状の汚濁物質および泡沫分離部7の上部に形成された安定泡沫が膜処理部11に導入される。膜処理部11は汚水から汚泥を分離し、その結果生じた処理水は、破線の矢印で示すように、還流経路CRを介して水槽1に還流する。膜処理部11で用いられるろ材についても適宜のものを使用することができ、孔径が小さい膜と空隙率が大きいろ材とを併用したものであってもよい。
【0015】
本実施形態では、ブロワ9は処理水槽3のほか水槽1に接続される。これによりブロワ9に伴って水槽1のエアレーションが行われ、溶存酸素量を調節することができる。必要に応じてブロワ9は1台ではなく複数台設置しても構わない。さらに本実施形態では、ブロワ9はオゾン発生器13を介して泡沫分離部7にも接続される。この構成は必須ではないが、泡沫分離部7にオゾンが導入されることで安定泡沫が形成されやすくなり、泡沫分離部7におけるスケール,スカム,スライムの効率的な除去や殺菌を行うことが可能となる。
【0016】
ポンプP1の駆動に伴って水槽1から処理水槽3に導入された水は、循環系内で繁殖している微生物によって生物処理される。より具体的に述べると、浸漬膜5によって、アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌を含む好気性菌類や、硝酸態窒素の脱窒を行う嫌気性菌類が濃縮されており、導入された水に含まれるアンモニア態窒素はアンモニア酸化菌に捉えられ、亜硝酸態窒素は亜硝酸酸化菌によって捉えられ、硝酸態窒素は嫌気性菌類
によって捉えられる。従って、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素を取り込んだ微生物類が浸漬膜5の部位に濃縮される一方、浸漬膜5からの透過水は水槽1に還流する。
【0017】
浸漬膜5は、性能維持のために、ブロワ9からの空気の導入に伴って発生する気泡により常時洗浄される。当該洗浄に伴って、膜表面に形成された生物膜は剥離され、泡沫分離部7によって微細気泡の気液界面に吸着され、安定泡沫として処理水槽3の上部の好ましい部位に誘導される。
【0018】
このように、本実施形態においては、好気(硝化)処理と嫌気(脱窒)処理という2段階の順次の処理を採用するのではなく、処理水槽3に配置した浸漬膜5によって繁殖した窒素化合物を取り込んだ菌類を濃縮し、泡沫分離部7で効率的に系外排出できる。
【0019】
浸漬膜5の洗浄はブロワ9によって常時バブリングすることで行われるが、処理水槽3内に薬品を適宜投入して行う薬品洗浄を組み合わせることもできる。薬品洗浄のタイミングは、浸漬膜5の性能低下/回復に基づいて決定することができ、そのためには、例えば浸漬膜5の膜間差圧を検出するセンサを含むものとすることができる。また、浸漬膜5の性能低下の傾向や、薬品洗浄による性能回復の傾向が統計的または実験的に予測可能なものであれば、時間管理に基づいて薬品洗浄の開始/終了の時点を指示するものであってもよい。
【0020】
(その他)
本発明は、以上説明した実施形態および随所に述べた変形例に限られることなく、種々の変更、置換、構成要素の削除、別の構成要素の追加などが可能である。
【0021】
図2は、
図1に示した水処理システムの変形例に係る実施形態であり、水槽1に対して脱窒槽15を含んだ循環経路を追加したものである。上述のように、処理水槽3においても硝酸態窒素は嫌気性菌類によって脱窒されるが、それだけでは脱窒処理が不十分となる場合に
図2の実施形態は有効である。なお、脱窒槽15は処理水槽3から水槽1への処理水の還流路に設けてもよい。いずれにしても、窒素化合物除去は処理水槽3でも行われるため、脱窒槽15はこれを単独で設けるよりも小型のもので足りる。
【0022】
また、
図3に示すように、水槽1の底部に処理水槽23を接続して循環経路を構成する一方、泡沫分離部27を水槽1に直接配置することも可能である。この実施形態では、水槽1の底部から流出する汚水は、処理水槽23を経て水槽1に還流し、さらに泡沫分離部7によって再度処理水槽23に戻されるように循環することで浄化される。処理水槽23は、
図1の実施形態の処理水槽3と同様に好気性菌類と嫌気性菌類とが混在するように構成されていてもよいし、それらが各別に存在するように区画に分けられたものであってもよい。
【0023】
また、ポンプは水の円滑な移送が必要な適宜の位置に配設されればよい。さらに、流路の遮断が必要であれば、適宜の位置にバルブを配置してもよい。加えて、水処理方法は、
図2および
図3に示したような制御系および制御手順を用いて自動的に各部をオン/オフするものとするほか、少なくとも一部を手動にてオン/オフするものであってもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 水槽
3、23 処理水槽
5 浸漬膜
7、27 泡沫分離部
9 ブロワ
11 膜処理部
13 オゾン発生器
P1、P2 ポンプ
CM 循環経路
CR 還流経路