特許第6786812号(P6786812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786812
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】上向き溶接方法、及び上向き溶接構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/02 20060101AFI20201109BHJP
   B23K 37/06 20060101ALI20201109BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20201109BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20201109BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   B23K9/02 J
   B23K37/06 L
   B23K37/06 R
   B23K37/06 C
   B23K9/02 D
   B23K9/00 501B
   E04B1/24 H
   E04B1/58 508F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-25516(P2016-25516)
(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2017-144440(P2017-144440A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年1月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英郎
(72)【発明者】
【氏名】白井 嘉行
(72)【発明者】
【氏名】鈴井 康正
(72)【発明者】
【氏名】浅井 英克
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−077618(JP,A)
【文献】 特開2005−271066(JP,A)
【文献】 特開2015−042422(JP,A)
【文献】 特開2001−030094(JP,A)
【文献】 米国特許第06161750(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/02
B23K 9/00
B23K 37/06
E04B 1/24
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを、上向き姿勢で溶接する上向き溶接方法であって、
前記横方向の両側から前記間隙に対向するように、溶接金属の垂れ落ちを抑制するための一対の端材を配置する端材配置ステップと、
前記間隙の下方から前記間隙に溶融状態の溶接金属を充填して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接する溶接ステップと、を有し、
前記溶接ステップにおいては、前記溶接金属を前記端材に接触させ、
前記溶接ステップでは、前記間隙に上方から対向するように、裏当金を、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材との両者に跨がって固定して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接することを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項2】
上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを、上向き姿勢で溶接する上向き溶接方法であって、
前記横方向の両側から前記間隙に対向するように、一対の端材を溶接により固定する端材配置ステップと、
前記間隙の下方から前記間隙に溶融状態の溶接金属を充填して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接する溶接ステップと、を有し、
前記溶接ステップにおいては、前記溶接金属を前記端材に接触させることを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の上向き溶接方法であって、
前記一方の鋼材は、前記他方の鋼材よりも前記横方向の外側に突出する部分を有し、
前記突出する部分に対向して、前記他方の鋼材にはエンドタブが固定されており、
前記エンドタブよりも前記横方向の外側に、前記端材が位置していることを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項4】
請求項3に記載の上向き溶接方法であって、
前記端材配置ステップでは、前記端材を前記エンドタブに固定することを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項5】
請求項3に記載の上向き溶接方法であって、
前記エンドタブは、前記端材を一体不可分な状態で有していることを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項6】
請求項1に記載の上向き溶接方法であって、
前記裏当金は、前記端材の配置位置よりも前記横方向の外側に突出しており、
前記端材配置ステップでは、前記裏当金に、前記端材を固定することを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の上向き溶接方法であって、
前記一方の鋼材の下方よりも前記他方の鋼材の下方の方に大きな空間が存在し、
前記間隙の開先形状は、下方が開いたレ型であるとともに、前記一方の鋼材では、鉛直面が前記間隙に対向し、前記他方の鋼材では、鉛直方向から傾斜した傾斜面が前記間隙に対向し、
前記溶接ステップでは、前記他方の鋼材の下方の空間を作業用空間として使用することを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の上向き溶接方法であって、
前記端材配置ステップでは、前記端材を、前記一方の鋼材又は前記他方の鋼材のうちの少なくとも一方に固定することを特徴とする上向き溶接方法。
【請求項9】
上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する上向き溶接構造であって、
前記間隙に前記横方向の両側から対向して配された、溶接金属の垂れ落ちを抑制するための一対の端材と、
前記一対の端材に接触しつつ前記間隙に充填された溶接金属と、
前記間隙に上方から対向するように、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材との両者に跨がって固定された裏当金と、
を有することを特徴とする上向き溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の鋼材と他方の鋼材とを上向き姿勢で溶接する上向き溶接方法、及び上向き溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造柱梁接合の施工現場では、図1に示すように、鋼製の柱10のダイアフラム12dにH形鋼製の梁20の下フランジ20fdを突き合わせて現場溶接することが多い。そして、このときには、図2Aの概略縦断面図に示すように下向き姿勢で溶接(以下、下向き溶接と言う)をするか、或いは、図2Bの概略縦断面図に示すように上向き姿勢で溶接(以下、上向き溶接と言う)をすることになるが、ここで、耐震性の観点からは、図2Aの下向き溶接にて梁20のウエブ20wに必要となるスカラップ20wsを、図2Bの上向き溶接では切り欠き形成せずに済むことから、この上向き溶接の方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−33709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図2Bの上向き溶接では、重力の影響で溶接時に溶融状態の溶接金属が下方に垂れ易い。そのため、図2Aの下向き溶接に比べて少しずつ溶接することで、垂れ落ちに対処しているが、それでも、溶接の始端及び終端となる横方向(図2Bでは、紙面を貫通する方向)の両端では、溶接熱が蓄積し易いことから、それ以外の位置と比べて溶接金属の垂れ落ちが生じ易い。
【0005】
すると、横方向の両端部が部分的に下方に垂れ下がった溶接ビード30dが形成されてしまい、溶接ビード30dの外観の悪化を招いていた。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、上向き溶接において横方向の両端での溶接金属の垂れ落ちを抑制して、溶接ビードの外観の良化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを、上向き姿勢で溶接する上向き溶接方法であって、
前記横方向の両側から前記間隙に対向するように、溶接金属の垂れ落ちを抑制するための一対の端材を配置する端材配置ステップと、
前記間隙の下方から前記間隙に溶融状態の溶接金属を充填して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接する溶接ステップと、を有し、
前記溶接ステップにおいては、前記溶接金属を前記端材に接触させ、
前記溶接ステップでは、前記間隙に上方から対向するように、裏当金を、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材との両者に跨がって固定して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接することを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に示す発明によれば、上記間隙における横方向の両端では、溶融状態の溶接金属は、各端材との接触に基づいて下面に速やかに表面張力を発生することができて、その分だけ、当該両端での溶接金属の垂れ落ちを抑制することができる。よって、溶接金属が固化して形成される溶接ビードの下面の平坦化を図れて、その結果、溶接ビードの外観の良化を図れる。また、上記の間隙から上方に溶接金属が漏出してしまうことを、上記の裏当金で確実に防ぐことができる。
また、請求項2に示す発明は上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを、上向き姿勢で溶接する上向き溶接方法であって、
前記横方向の両側から前記間隙に対向するように、一対の端材を溶接により固定する端材配置ステップと、
前記間隙の下方から前記間隙に溶融状態の溶接金属を充填して、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材とを溶接する溶接ステップと、を有し、
前記溶接ステップにおいては、前記溶接金属を前記端材に接触させることを特徴とする。
【0009】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の上向き溶接方法であって、
前記一方の鋼材は、前記他方の鋼材よりも前記横方向の外側に突出する部分を有し、
前記突出する部分に対向して、前記他方の鋼材にはエンドタブが固定されており、
前記エンドタブよりも前記横方向の外側に、前記端材が位置していることを特徴とする。
【0010】
上記請求項3に示す発明によれば、上記の端材はエンドタブよりも横方向の外側に位置しているので、端材との接触に基づいて、溶融金属は、エンドタブと上記一方の鋼材との間でも、下面に速やかに表面張力を発生することができる。そして、これにより、溶接ビードの下面の平坦化を図れて、その結果、溶接ビードの外観の良化を図れる。
また、エンドタブを有しているので、一方の鋼材と他方の鋼材との間の位置で溶接ビードに溶接欠陥が形成されるのを有効に防ぐことができる。
【0011】
請求項4に示す発明は、請求項3に記載の上向き溶接方法であって、
前記端材配置ステップでは、前記端材を前記エンドタブに固定することを特徴とする。
【0012】
上記請求項4に示す発明によれば、エンドタブに端材を固定するので、端材をエンドタブよりも横方向の外側の位置に正確に配置可能となる。
【0013】
請求項5に示す発明は、請求項3に記載の上向き溶接方法であって、
前記エンドタブは、前記端材を一体不可分な状態で有していることを特徴とする。
【0014】
上記請求項5に示す発明によれば、エンドタブを上記他方の鋼材に固定すると、上記端材も固定された状態になる。よって、エンドタブと端材とが別部材の場合と比べて、固定に係る作業工数の削減を図れる。
【0017】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の上向き溶接方法であって、
前記裏当金は、前記端材の配置位置よりも前記横方向の外側に突出しており、
前記端材配置ステップでは、前記裏当金に、前記端材を固定することを特徴とする。
【0018】
上記請求項6に示す発明によれば、裏当金に端材を固定するので、当該端材をしっかりと固定可能となる。
【0019】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の上向き溶接方法であって、
前記一方の鋼材の下方よりも前記他方の鋼材の下方の方に大きな空間が存在し、
前記間隙の開先形状は、下方が開いたレ型であるとともに、前記一方の鋼材では、鉛直面が前記間隙に対向し、前記他方の鋼材では、鉛直方向から傾斜した傾斜面が前記間隙に対向し、
前記溶接ステップでは、前記他方の鋼材の下方の空間を作業用空間として使用することを特徴とする。
【0020】
上記請求項7に示す発明によれば、他方の鋼材の下方の大きな空間を作業用空間として使用する。よって、溶接作業を良好な作業性で行うことができる。
また、他方の鋼材が上記傾斜面を有している。よって、大きな空間が存在する上記の他方の鋼材の方から、トーチなどの溶接器具を上記傾斜面に基づいて上記の間隙に容易に近付けることができる。
【0021】
請求項8に示す発明は、請求項1乃至7の何れかに記載の上向き溶接方法であって、
前記端材配置ステップでは、前記端材を、前記一方の鋼材又は前記他方の鋼材のうちの少なくとも一方に固定することを特徴とする。
【0022】
上記請求項8に示す発明によれば、一方の鋼材又は他方の鋼材に端材を固定するので、端材を上記間隙に対向するように確実に配置可能となる。
【0023】
請求項9に示す発明は、
上下方向と交差する横方向に延びた間隙を介して、前記上下方向及び前記横方向と交差する前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを接合する上向き溶接構造であって、
前記間隙に前記横方向の両側から対向して配された、溶接金属の垂れ落ちを抑制するための一対の端材と、
前記一対の端材に接触しつつ前記間隙に充填された溶接金属と、
前記間隙に上方から対向するように、前記一方の鋼材と前記他方の鋼材との両者に跨がって固定された裏当金と、
を有することを特徴とする。
【0024】
上記請求項9に示す発明によれば、上記間隙における横方向の両端では、溶融状態の溶接金属は、各端材との接触に基づいて下面に速やかに表面張力を発生することができて、その分だけ、当該両端での溶接金属の垂れ落ちを抑制することができる。よって、溶接金属が固化して形成される溶接ビードの下面の平坦化を図れて、その結果、溶接ビードの外観の良化を図れる。また、上記の間隙から上方に溶接金属が漏出してしまうことを、上記の裏当金で確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上向き溶接において横方向の両端での溶接金属の垂れ落ちを抑制して、溶接ビードの外観の良化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】鋼製の柱10にH形鋼製の梁20を現場溶接する様子を示す概略斜視図である。
図2図2Aは、下向き溶接を説明するための概略縦断面図であり、図2Bは、上向き溶接を説明するための概略縦断面図である。
図3】本実施形態の上向き溶接方法が使用された柱梁接合構造の概略斜視図である。
図4】溶接処理の前段階の柱梁接合構造を斜め下方から見た概略斜視図である。
図5A】溶接処理の前段階の柱梁接合構造を横方向から見た概略側面図である。
図5B図5A中のB−B矢視図である。
図5C図5A中のC−C矢視図である
図5D図5B中のD−D矢視図である。
図5E図5B中のE−E矢視図である。
図6】溶接処理後に存在する溶接ビード30dを、図5A中のB−B矢視で示す概略図である。
図7図7Aは、図4中の右側のエンドタブ40及び端板60の拡大斜視図であり、図7Bは、エンドタブ40と端板60とが一体不可分な状態の部材70の概略斜視図である。
図8】上記部材70が設けられた柱梁接合構造の概略斜視図である。
図9図9A及び図9Bは、それぞれ、エンドタブ40を設けない場合の一例を図5A中のB−B矢視で示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
===本実施形態===
図3は、本実施形態の上向き溶接方法が使用された柱梁接合構造の概略斜視図である。なお、同図3では、エンドタブ40、裏当金50、及び端板60を不図示としている。
【0028】
図3に示すように、柱10は、例えば断面矩形形状の鋼製角パイプ10pを本体とし、また、梁20は、例えば断面H形形状のH形鋼を本体とする。そして、柱10は、上下一対の通しダイアフラム12u,12dを有し、それぞれ対応するダイアフラム12u,12dに梁20の上フランジ20fu及び下フランジ20fdが溶接で接合されている。すなわち、上ダイアフラム12uと上フランジ20fuとは溶接ビード30uを介して接合されており、下ダイアフラム12dと下フランジ20fdとは溶接ビード30dを介して接合されている。また、梁20のウエブ20wは、柱10の外周面10psに一体に溶接されたガセットプレート15に重ね合わされてボルト締結により摩擦接合されている。そして、これらによって、柱10と梁20とは剛接合されている。
【0029】
なお、この例では、上下のダイアフラム12u,12dとして通しダイアフラムを用いているが、何等これに限らない。すなわち、外ダイアフラムを用いても良いし、内ダイアフラムを用いても良い。ちなみに、内ダイアフラムを用いた場合には、梁20の各フランジ20fu,20fdは、それぞれ、柱10の本体をなす鋼製角パイプ10pの外周面10psに溶接ビードを介して接合されることになる。
【0030】
また、この例では、上ダイアフラム12uと上フランジ20fuとの接合については、下向き溶接でなされているが、この下向き溶接は周知である。そのため、詳細には説明しない。
【0031】
一方、下ダイアフラム12d(一方の鋼材に相当)と下フランジ20fd(他方の鋼材に相当)との接合については、上向き溶接でなされている。そして、本実施形態では、この上向き溶接に関して、前述の溶接金属の垂れ落ちの問題を解決するために工夫している。そのため、以下では、この上向き溶接について詳しく説明する。
【0032】
なお、以下では、互いに直交する三方向のことを、上下方向(鉛直方向)、前後方向、及び横方向と言う。前後方向と横方向とは、それぞれ水平方向を向いている。また、横方向のことを、左右方向とも言う。
【0033】
図4は、溶接処理の前段階の柱梁接合構造を斜め下方から見た概略斜視図である。また、図5Aは、溶接処理の前段階の柱梁接合構造を横方向から見た概略側面図であり、図5Bは、図5A中のB−B矢視図であり、図5Cは、図5A中のC−C矢視図である。更に、図5Dは、図5B中のD−D矢視図であり、図5Eは、図5B中のE−E矢視図である。また、図6は、溶接処理後に存在する溶接ビード30dを、図5A中のB−B矢視で示す概略図である。なお、図4では、仮想的に端板60を透視して示している。また、図4の右下には、右側のエンドタブ40と端板60とを拡大して示しているが、この拡大図では、端板60は透視状態ではない。
【0034】
先ず、溶接処理(溶接ステップに相当)の前段階では、図5B及び図5Dに示すように、下ダイアフラム12dと下フランジ20fdとは、横方向に延びた間隙Gwを介して、前後方向に対向して配されている。そして、同図5Dに示すように、この例では、間隙Gwの開先形状は、下方が開いたレ型とされている。すなわち、ダイアフラム12dの方では、鉛直面12dsが間隙Gwに対向し、下フランジ20fdの方では、鉛直方向から傾斜した傾斜面20fdsが間隙Gwに対向している。但し、開先形状は、何等レ型に限らない。例えばI型でも良いし逆V型でも良いし、これら以外でも良い。
【0035】
そして、この間隙Gwに対して上向き姿勢で溶接処理を行う前に、予め、しかるべき位置に、エンドタブ40、裏当金50、及び、本実施形態の工夫たる端板60(端材に相当)をそれぞれ配置して固定する。
【0036】
図5B及び図5Eに示すように、エンドタブ40は、上記の間隙Gwを、横方向に延長するものである。すなわち、この例では、同図5Bに示すように、下ダイアフラム12dの方が、下フランジ20fdよりも横方向の両側に突出しているので、この突出する部分に対向するように、下フランジ20fdの横方向の両側にはそれぞれエンドタブ40,40が設けられる。より詳しくは、下フランジ20fdの左端面及び右端面には、それぞれ、エンドタブ40が点付け溶接等で固定される。また、図5B及び図5Eに示すように、このエンドタブ40の位置でも上記のレ型の開先形状が維持されるように、エンドタブ40のうちで下ダイアフラム12dと対向する面40sは、下フランジ20fdの上記傾斜面20fds(図5D)と略面一となるように同傾斜面20fdsと同じ角度の傾斜面40sとされている。
【0037】
そして、かかるエンドタブ40に基づいて間隙Gwは横方向の両側に延長されているので、溶接の始端及び終端を、横方向において下フランジ20fdよりも外側の位置に移動することができる。よって、下ダイアフラム12dと下フランジ20fdとの間の位置Rw(図6)に溶接ビード30d(図6)の溶接欠陥が生じることを防止可能である。
【0038】
なお、図5Eに示すように、この例では、エンドタブ40を横方向から見た形状が略平行四辺形をなしているが、何等これに限らない。例えば台形でも良い。また、エンドタブ40の横方向の寸法Lw40(図5B)は、例えば0mmよりも大きく25mm以下の範囲から選択される。
【0039】
図5A乃至図5Eに示すように、裏当金50は、溶接時に溶融状態の溶接金属が上記間隙Gwを通って上方へと漏出することを防止するものである。そのため、裏当金50は、上記間隙Gwに対して上方から対向するように下ダイアフラム12dと下フランジ20fdとの両者に跨がって溶接等で固定される。また、図5B及び図5Cに示すように、かかる裏当金50は、エンドタブ40よりも横方向の両側に突出するような長さに形成されている。そして、これにより、エンドタブ40の位置でも溶接金属の上方への漏出を防止可能である。
【0040】
図5A乃至5Cに示すように、端板60,60は、横方向の両側から上記間隙Gwに対向するように両側にそれぞれ設けられる(端材配置ステップに相当)。詳しくは、端板60は、上記間隙Gwを横方向から漏れなく覆うことが可能な大きさを上下方向及び前後方向に有した板材であり、図5Aに示すように、この例では、横方向から見た形状が矩形形状の鋼板である。そして、図5Bに示すように、エンドタブ40の横方向の端面に横方向の外側から当接した状態で同端面に点付け溶接等で固定されている。そして、前述のように、これら各端板60は、それぞれ、横方向の両端で顕著になる溶接金属の垂れ落ちを防ぐ機能を奏するが、これについては後述する。
【0041】
そして、これらエンドタブ40、裏当金50、及び端板60をそれぞれ配置して固定したら、間隙Gwに対して上向き姿勢で溶接処理を行う。すなわち、間隙Gwの下方から当該間隙Gwに溶融状態の溶接金属を充填する。
【0042】
詳しくは、溶接材料としてのワイヤ(不図示)及びトーチ(不図示)を横方向に沿って1回又は複数回往復移動させる。そして、この往復移動中にトーチで、ワイヤ、下ダイアフラム12d、及び下フランジ20fdを溶融して溶融状態の溶接金属を生成しながら上記の間隙Gwに当該溶接金属を充填する。
【0043】
但し、図5Bに示す横方向の左端PL及び右端PRでは、トーチ及びワイヤの移動が停止することから溶接熱が蓄積し易く、その結果、溶接金属の垂れ落ちが生じ易くなる。しかし、この点につき、本実施形態では、当該左端PL及び右端PRには上記の端板60,60がそれぞれ配置されていて、当該端板60に溶接金属が接触することにより、同金属の下面には速やかに大きな表面張力が生じる。そして、これにより、溶接金属の垂れ落ちが抑制される。その結果、かかる溶接金属が冷却固化して上記間隙Gwに溶接ビード30d(図6)が形成された際には、同ビード30dの下面が、左端PL及び右端PRで下方に大きく突出するような状態にはならない。つまり、溶接ビード30dの下面の平坦化を図れて、その結果、良好な外観の溶接ビード30dを形成可能となる。
【0044】
ちなみに、上述の例では、図5Bに示すように、端板60を主にエンドタブ40に点付け溶接等で固定していたが、何等これに限らない。すなわち、エンドタブ40に加えて又はエンドタブ40の代わりに、下ダイアフラム12d及び裏当金50のうちの少なくとも一方に端板60を点付け溶接等で固定しても良い。但し、エンドタブ40に端板60を固定した方が、エンドタブ40よりも横方向の外側の位置に端板60を正確に配置可能となるので好ましい。
【0045】
また、この例では、図5B及び図5Cに示すように、裏当金50は、端板60の配置位置よりも横方向の外側に突出している。そのため、エンドタブ40に加えて裏当金50にも端板60を点付け溶接等で固定しているが、このようにすれば、端板60をよりしっかりと固定することができる。
【0046】
更に、この例では、下ダイアフラム12dが柱10側の部材であり、下フランジ20fdが梁20側の部材であることから、図5Dに示すように、下ダイアフラム12dの下方よりも下フランジ20fdの下方の方に大きな空間SPが存在している。そして、上記間隙Gwの開先形状は、下方が開いたレ型であるとともに、下ダイアフラム12dでは、鉛直面12dsが上記間隙Gwに対向し、下フランジ20fdでは、鉛直方向から傾斜した傾斜面20fdsが上記間隙Gwに対向している。
【0047】
よって、上向き姿勢で溶接処理をする際に、下フランジ20fdの下方の上記大きな空間SPを作業用空間として使用することができる。また、その場合に、下フランジ20fdの上記傾斜面20fdsの傾斜に基づいて、トーチ及びワイヤを上記間隙Gwに容易に近付けることができる。
【0048】
ところで、図7Aに、図4中の右側のエンドタブ40及び端板60の拡大斜視図を示すが、上述の実施形態では、同図7Aに示すように、エンドタブ40と端板60とは別部材であった。しかし、何等これに限らない。すなわち、エンドタブ40と端板60とが一体不可分な一部材であっても良い。例えば、鋼製ブロック状部材から部材を削り出すことによって、当該部材として、エンドタブ40と端板60とが一体不可分な部材を形成しても良い。図7Bは、この部材70の一例を示す概略斜視図である。すなわち、同図7Bに示すように、同部材70は、エンドタブ40に相当するエンドタブ相当部70aと、端板60に相当する端板相当部70bと、を一体不可分に有している。そして、このような部材70によれば、図8の概略斜視図に示すように、エンドタブ相当部70aを梁20の下フランジ20fdに点付け溶接等で固定すれば、端板相当部70bも固定された状態になる。よって、図7Aのようなエンドタブ40と端板60とが別部材の場合と比べて、固定に係る作業工数の削減を図れる。
【0049】
また、上述の実施形態では、図5Bに示すようにエンドタブ40を設けていたが、エンドタブ40は無くても良い。図9A及び図9Bは、このエンドタブ40を設けない場合の一例の概略図であり、両図とも、図5Bと同じく、図5A中のB−B矢視で示している。
【0050】
そして、これら図9A及び図9Bに示すように、当該エンドタブ40を設けない場合についても、当然ながら、横方向の両側から上記間隙Gwに対向するように端板60,60を配置することになるが、その際には、図9Aのように下フランジ20fdの横方向の各端面との間に横方向の隙間Swをあけながら端板60を配置して固定しても良いし、図9Bのように隙間Swが無くして、つまり上記端面に端板60を当接させながら固定しても良い。
【0051】
ちなみに、前者のように隙間Swを設けた場合には、図5Bのエンドタブ40を設けた場合と同様に、溶接の始端及び終端を、横方向において下フランジ20fdよりも外側の位置に移動することができる。よって、下ダイアフラム12dと下フランジ20fdとの間の位置Rw(図9A)に、溶接ビード30dの溶接欠陥が生じることを防止可能となる。
【0052】
なお、上記の隙間Swの横方向の大きさは、例えば1mm〜5mmから選択される。また、この隙間Swを設ける場合には、端板60は、下ダイアフラム12d及び裏当金50のうちの少なくとも一方に点付け溶接等で固定されることになる。
【0053】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0054】
上述の実施形態では、一方の鋼材として柱10の下ダイアフラム12dを例示し、他方の鋼材として梁20の下フランジ20fdを例示したが、何等これに限らない。すなわち、横方向に延びた間隙Gwを介して前後方向に対向する一方の鋼材と他方の鋼材とを上向き姿勢で溶接する場合には、上述の上向き溶接方法を適用可能である。例えば、前後方向に並ぶ一対のH形鋼製の梁の下フランジ同士を上向き姿勢で溶接する場合に、上述の上向き溶接方法を適用しても良い。
【0055】
上述の実施形態では、端材として端板60を例示したが、何等これに限らない。すなわち、端材が、板状でなくブロック状でもよい。
【0056】
上述の実施形態では、柱10を角パイプ10pで形成していたが、何等これに限らない。例えば丸パイプで形成しても良いし、H形鋼で形成しても良い。
【符号の説明】
【0057】
10 柱、10p 角パイプ、10ps 外周面、
12u 上ダイアフラム、
12d 下ダイアフラム(一方の鋼材)、12ds 鉛直面、
15 ガセットプレート、
20 梁、20fu 上フランジ、
20fd 下フランジ(他方の鋼材)、20fds 傾斜面
20w ウエブ、20ws スカラップ、
30u 溶接ビード、30d 溶接ビード、
40 エンドタブ、40s 傾斜面、
50 裏当金、
60 端板(端材)、
70 部材、70a エンドタブ相当部、70b 端板相当部、
Gw 間隙、PL 左端、PR 右端、Rw 位置、SP 空間、Sw 隙間、
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9